巣窟日誌

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『銀色の恋人』 The Silver Metal Lover

2005-10-28 21:38:33 | 映画・小説etc.
2週間前、知り合いの1人がわたしからタニス・リーの『銀色の恋人』(ハヤカワ文庫・絶版)を借りていった。この知り合いが借りていった理由は、「末次由紀の『Silver』に似ていると聞いたので、検証のため」

末次氏については、名前のみ知っていた。以前に別のタニス・リーファンが『銀色の恋人』をパクった作品がある」と怒っており、そのときにすでに発売されていた単行本を読んだからだ。

『銀色の恋人』 ("The Silver Metal Lover (1981))"は、ロボットと人間の少女の悲恋物語。人間とロボットの悲恋物語はありきたりな設定で感傷的なストーリーだが、それを名作にしたのは、ひとえに当時最高に脂が載っていたであろうリーの筆致による。この作品に最近"Metallic Love"という続編が出たことは、以前の記事にも書いたとおりだ。

『銀色の恋人』のストーリーは、あまりにも少女漫画的だ。実際にリーがこの作品を発表した後に、海の向こうではこの小説にもとづく少女向けコミック版も出版されている。そして、日本版がハヤカワ文庫から発売された後、かつて漫画家志望でSFマニアであったわたしの回りでも、仲間の何人かがこの作品に影響を受けすぎた漫画や小説を書いたものだ。

ところで、末次氏の『Silver』だが、確かに「影響を受けた」以上の影響に似ていると思う。それだけでは盗作とはいえないが、パクリの印象を決定的にしてしまったのは、ロボットの名前を「銀」にしてしまったことだろう。

『銀色の恋人』に限らず、タニス・リーは少女の目を通した1人称のストーリーを書かせたらうまい。『アザー・エデン』(ハヤカワ文庫、絶版) ("Other Edens") に収録されていたリーの短編「雨にうたれて」(Crying in the Rain) を読んだときは、「こんな作品がすでに存在しているなら、わたしは間違っても物書きにはなれないだろう」と思ったものだ。

Silver_1ところで知り合いは当分本を返してくれないらしい。メールには「はまり込んだ」とあった。いいよ、いいよ、しばらく貸しておくよ。実は、わたしは『銀色の恋人』を2冊持っているのだから。(こっちは保存版なので、他人には貸さないよ。)

さて、ここまで書いたのだから、『銀色の恋人』をキーワードとしてこの記事にたどり着いた人のために、シルヴァーはどのようにハンサムだったかを、本の表紙で検証しておこう。

まずは、日本版の川原由美子氏の表紙なら、は多分日本人のほとんどは受け入れると思う。残念ながら絶版で入手するのは難しいのだが、少女漫画を好きな人なら、機会があれば一度読んでみてほしいと思う。

次に西洋版。(ここより画像つき)

右の画像の1番上は最近入手可能な英語のペーパーバック版で、続編 "Metallic Love" と同じイラストレーターの手によるものだろう。これは日本人の美的感覚からいくと、ぎりぎりの許容範囲。だけど胸毛には評価が分かれるに違いない。胸毛が描かれているのは、原作に胸毛の記述があるからだと思われる。

2番目は、どこにでもいそうな赤毛のニイチャンではないか。「変なおクスリのせいで顔色が悪い」だけの。

3番目は、ああ、オバサンみたいな髪型が変だ。あなた、永遠に歌でも歌っていなさい。

そして、4番目が、Trina Robbinsによるコミック版だ。ああ、これはいけない。絶対にいけない。しかし、西洋ではやはり美形の条件が「ほお骨」だと再認識した。

はい、コミック版のシルヴァーだけをアップ。ほお骨を確認してほしい。↓
Silver_2