かつて大学で国際ビジネスコミュニケーション論を教えていたときは、毎年1回は学生に企業のウェブサイトの作りの文化差というものを考えてもらう回を儲けたものである。
当時の日本の企業のウェブサイトのコンテンツといえば、会社概要のパンフレットを忠実になぞったようなものに、ニュースリリースがくっついているだけといったものが多かった。上場企業であればそれなりにIR情報を載せてあったが、それでも通り一遍。
大企業で海外取引もある会社の多くは英文サイトを作っていたが、文化差を語る以前に、その一部は最悪だった。英語の質はさておき、その中身はまさに「パンフレットの英訳をそのまま掲載しました」という作りが多く、サイトを通して発表されるプレスリリースも日本語サイトに比べ遅れがち かつ 情報量が少なかった。日本語が分からない外国人は、このようなサイトの英文サイトにまずアクセスする。その後日本語サイトにアクセスして、英語には訳されていないもっと多くの情報があることを、英語が読めないながらも感じる。「もっと情報があるのに、日本語でしか書かれていないので、その情報が得られない」というフラストレーションを、たっぷり味わうことになるのである。こんなことはその企業にとっては、間違いなくマイナスになったはずだ。
おまけに、まったく別のウェブ制作会社が作ったのか、日本語サイトと英語サイトとデザインの統一がとれていないものが結構あって、一見「まるで別会社」というものまで存在した。
最近はさすがにそういうひどいものはほとんど見受けられないが、それでも日本企業のサイトの作りと、主に欧米系の企業(「欧米」とひとくくりにするのも乱暴だが)のサイトの作りには、依然として大きな違いがある。その違いのいくつかをピックアップしてみたい。
■ トップのプロフィール写真
企業の取締役や役員の情報に関するページは、作りの差が如実に表れる個所である。
たとえば、英語圏の某国の上場企業のサイトの役員に関するページにアクセスしたとする。役員の一覧のページから、社外取締役のX氏の項目を見ると、彼については以下のような説明がなされる。
このようなプロフィールとともに、X氏の「この1枚!」ともいうべきベストショットの顔写真が掲載される。その写真は、歯を見せているかいないかに関わらず、大抵は微笑みを浮かべたものであり、本人を一番良く見せるアングルで撮影されたものだ。真正面がベストショットの人間は結構少ないので、大体は左か右からのものである。中にはベストショットを求めるあまり、やり過ぎて実際の本人とのギャップが激しい「ネット詐欺」のような写真も、ときにはある。(かなり若い時の写真を使った そして/または フォトレタッチソフトで修正を入れた に違いない。)
一方、日本の企業のサイトに目を向けると、日本を代表する世界的企業であっても、日本語と英語のサイトの両方において、役員名一覧で済ませているものが多い。
多くのサイトでは、役員たちのプロフィールを知ることはできない。できたとしても「YY年MM月 XX部 部長」などといった、日本語の既成の履歴書の職歴欄に書かれるような情報のみだったりする。そのため、その人物の専門性分野や「実際にどのような実績を上げてきたか」は、それだけでは分からない。
写真は、全く掲載していない場合が多い。掲載してある場合も、正面からのムッツリ写真(硬派というよりは不景気顔)であったりする。「写真や写真写りといった外見にこだわるなんて愚の骨頂」とでも、主張しているかのようでもある。実は、この写真の有無と質が、わたしのフラストレーションが溜まるところだ。
そう、もちろん「『写真写り』や『顔』で仕事をするのではない」。が、彼らは企業の顔なのだ。だから顔が見えなければならない。そして顔を見せる以上、「ベストショット」を載せてほしいと、わたしは思う。
別に、無理やりつくった笑顔の写真をウェブに載せておけというのではない。たとえば、その写真をそのまま国政選挙の立候補者としてポスターにできるようなクオリティの写真 ― そんなものをアップしておいてほしいのだ。然るべき立場の人は40を過ぎてもいなくても、男であっても女であっても自分の顔に責任をもつものだし。
というところで、日本を代表する世界的企業である、パナソニックのサイトをのぞいてみた。パナソニックのサイトは典型的な日本企業のサイトの作りで、役員ページでは日本語のサイトも英文サイトとも、名前の列挙のみだ。
が、そこは世界に名だたるパナソニック。日本語のサイトには、大坪社長についてのみ、履歴書的職歴のほかにプロフィール欄がある。英文サイトのほうには、プロフィール欄の代わりに社長からのメッセージがあるのだが、なんとそこに、日本語サイトにはない(仮にあったとしても役員情報からはみつけられない)大坪社長の写真がある。そして何とこの写真は、歯をみせての笑顔といい、アングルといい、完全にグローバルサイト向けのものである! (日本企業のサイトのフォーマットを固持しつつ、少々の修正を加えた例であろう。)
当時の日本の企業のウェブサイトのコンテンツといえば、会社概要のパンフレットを忠実になぞったようなものに、ニュースリリースがくっついているだけといったものが多かった。上場企業であればそれなりにIR情報を載せてあったが、それでも通り一遍。
大企業で海外取引もある会社の多くは英文サイトを作っていたが、文化差を語る以前に、その一部は最悪だった。英語の質はさておき、その中身はまさに「パンフレットの英訳をそのまま掲載しました」という作りが多く、サイトを通して発表されるプレスリリースも日本語サイトに比べ遅れがち かつ 情報量が少なかった。日本語が分からない外国人は、このようなサイトの英文サイトにまずアクセスする。その後日本語サイトにアクセスして、英語には訳されていないもっと多くの情報があることを、英語が読めないながらも感じる。「もっと情報があるのに、日本語でしか書かれていないので、その情報が得られない」というフラストレーションを、たっぷり味わうことになるのである。こんなことはその企業にとっては、間違いなくマイナスになったはずだ。
おまけに、まったく別のウェブ制作会社が作ったのか、日本語サイトと英語サイトとデザインの統一がとれていないものが結構あって、一見「まるで別会社」というものまで存在した。
最近はさすがにそういうひどいものはほとんど見受けられないが、それでも日本企業のサイトの作りと、主に欧米系の企業(「欧米」とひとくくりにするのも乱暴だが)のサイトの作りには、依然として大きな違いがある。その違いのいくつかをピックアップしてみたい。
■ トップのプロフィール写真
企業の取締役や役員の情報に関するページは、作りの差が如実に表れる個所である。
たとえば、英語圏の某国の上場企業のサイトの役員に関するページにアクセスしたとする。役員の一覧のページから、社外取締役のX氏の項目を見ると、彼については以下のような説明がなされる。
Xは国内外の建設業界において30年に以上の経験を有している。この中にはロンドンのA社・オーストラリアのB社における副社長としての経験 および YYYY年からYYYY年までの [オリンピック開催地名] ・オリンピック組織委員会のCOOとしての経験が含まれる。
現在は、自らが設立したC社の会長であり…[中略] …。これら様々な経験により、Xは当社に重要な専門的知識をもたらしている。
このようなプロフィールとともに、X氏の「この1枚!」ともいうべきベストショットの顔写真が掲載される。その写真は、歯を見せているかいないかに関わらず、大抵は微笑みを浮かべたものであり、本人を一番良く見せるアングルで撮影されたものだ。真正面がベストショットの人間は結構少ないので、大体は左か右からのものである。中にはベストショットを求めるあまり、やり過ぎて実際の本人とのギャップが激しい「ネット詐欺」のような写真も、ときにはある。(かなり若い時の写真を使った そして/または フォトレタッチソフトで修正を入れた に違いない。)
一方、日本の企業のサイトに目を向けると、日本を代表する世界的企業であっても、日本語と英語のサイトの両方において、役員名一覧で済ませているものが多い。
多くのサイトでは、役員たちのプロフィールを知ることはできない。できたとしても「YY年MM月 XX部 部長」などといった、日本語の既成の履歴書の職歴欄に書かれるような情報のみだったりする。そのため、その人物の専門性分野や「実際にどのような実績を上げてきたか」は、それだけでは分からない。
写真は、全く掲載していない場合が多い。掲載してある場合も、正面からのムッツリ写真(硬派というよりは不景気顔)であったりする。「写真や写真写りといった外見にこだわるなんて愚の骨頂」とでも、主張しているかのようでもある。実は、この写真の有無と質が、わたしのフラストレーションが溜まるところだ。
そう、もちろん「『写真写り』や『顔』で仕事をするのではない」。が、彼らは企業の顔なのだ。だから顔が見えなければならない。そして顔を見せる以上、「ベストショット」を載せてほしいと、わたしは思う。
別に、無理やりつくった笑顔の写真をウェブに載せておけというのではない。たとえば、その写真をそのまま国政選挙の立候補者としてポスターにできるようなクオリティの写真 ― そんなものをアップしておいてほしいのだ。然るべき立場の人は40を過ぎてもいなくても、男であっても女であっても自分の顔に責任をもつものだし。
というところで、日本を代表する世界的企業である、パナソニックのサイトをのぞいてみた。パナソニックのサイトは典型的な日本企業のサイトの作りで、役員ページでは日本語のサイトも英文サイトとも、名前の列挙のみだ。
が、そこは世界に名だたるパナソニック。日本語のサイトには、大坪社長についてのみ、履歴書的職歴のほかにプロフィール欄がある。英文サイトのほうには、プロフィール欄の代わりに社長からのメッセージがあるのだが、なんとそこに、日本語サイトにはない(仮にあったとしても役員情報からはみつけられない)大坪社長の写真がある。そして何とこの写真は、歯をみせての笑顔といい、アングルといい、完全にグローバルサイト向けのものである! (日本企業のサイトのフォーマットを固持しつつ、少々の修正を加えた例であろう。)