映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

美女と野獣(2017)

2017年05月22日 | 洋画(17年)
 『美女と野獣』(2017年)をTOHOシネマズ渋谷で見ました。

(1)評判が大層高いので、映画館に足を運びました。

 本作(注1)の冒頭は、舞踏会のシーン。
 ナレーションが「昔、フランスの美しい城に若くてハンサムな王子が住んでいた。望むものはすべて手にした薄情な王子は、美しい物だけを城に集めた」。
 城の大広間では、大勢の美女が踊っていて、その中に王子(ダン・スティーヴンス)が入っていきます。
 オペラ歌手のマダム・ド・ガルドローブ(オードラ・マクドナルド)が、「王子の心をつかむチャンスを見逃すな」などと歌います。
 そこに、扉が開けられて、「招かざる客」の老婆(ハティ・モラハン)が現れます。
 老婆は一輪のバラを王子に差し出し、嵐を避けるために泊まる部屋を与えてくれるよう求めます。
 ですが、王子は冷たく突き放し、そのバラを捨ててしまいます。
 老婆は、「外見に騙されるな。美は内面にあるのだ」として、美しい魔女に変身します。
 王子は謝ろうとしますが、すでに手遅れ。王子の心には愛情がありませんから。
 老婆は、王子を醜い獣に変え、城とそこに住んでいる者全員に呪いをかけてしまいます。

 城の外に出ようとしなかった王子たちのことは、世間から忘れられます。
 愛し愛されることを王子が学べば、呪いは解かれるとされます。
 ただし、そこに残されたバラの花びらが全て散ってしまう前に。
 ですが、獣の姿となった王子は、年が経つにつれ諦めました。

 ここで、タイトルが流れます。

 次の場面は、フランスの田舎の村。
 朝日が差してきて、主人公のベルエマ・ワトソン)が家から出てきて歌います。
 「いつものように、パン屋がおいしいパンを作る」「変わらぬ朝、いつもの朝」…。
 教会の鐘が鳴り、皆が「ボンジュール」と言い交わしたりします。



 「どこへ?」と村人に訊かれたベルは、「本を返しに。ヴェローナの2人の恋人たち(two lovers in fair Verona)の物語(注2)」と答え、村の人達は「彼女は変わってる(she is a funny girl)。いつもひとりぼっち」「頭は雲の中」などと歌います。

 これが本作の始めの方ですが、さあ、これからどんな物語が綴られるのでしょうか、………?

 本作は、ディズニーのミュージカル・アニメーション『美女と野獣』(1991年)を実写化したもの。実は、それを見ていないものの、フランス映画の『美女と野獣』(2014年)を見たことがあります。それと比べると、本作はミュージカル仕立てのためでしょう、随分と単純化して作られている感じがします。でも、そのため、余計なものが削り落とされて、ゆっくりと本筋を追うことが出来ます。特に、本作においては、書物が重要な役割を果たしているのに興味を惹かれました。

(2)『美女と野獣』(2014年)と本作とでは、同じタイトルながら、依拠する原作に違いがあるようで(注3)、内容的に異なる部分がかなりあります。
 例えば、同作では、王子が野獣に変えられるプロセスが、随分と詳しく語られていますが(注4)、本作におけるそれは、上記(1)で見るように、随分とアッサリとしています。
 また、本作では、野獣に対立する人物としてガストンルーク・エヴァンス)が登場するところ、同作には、ガストンのように、ベルに首ったけで男前の男などは登場せず(注5)、野獣に対立する男としては、ならず者のペルデュカスとか、ベルの2人の兄(ジャン=バチストマキシム)が登場して、色々の騒ぎを引き起こします。

 本作が、簡素な筋立てになったのは、専ら、ミュージカルであることによるのでしょうが、逆にそうすることで、ベルと野獣とのラブストーリーがより一層前面に出てきて、見る者にとっても大層わかりやすい作品になっていると思います。



 また、本作では、同作と違って、書物に重要な役割が与えられていることに、クマネズミはいたく興味を持ちました。
 本作においては、ベルが野獣に心を開くきっかけとなったのが、野獣の城に設けられている立派な図書室に連れて行ってもらったことであり、そこに収められている書籍を読みこなしている野獣の知性が、本好きのベルにとって大層好ましく思われるのです(注6)。

 ちなみに、最近見た映画の中でも、本のことはしばしば言及されています。
 例えば、『夜は短し歩けよ乙女』では、「下鴨納涼古本まつり」が描かれて色々の書物が触れられますし、『はじまりへの旅』では、随分と程度の高い本を読みこなしている子供たちが登場します。また、『未来よ こんにちは』でも、高校の哲学の授業で、哲学の原書が使われている様子が描かれています。さらには、『お嬢さん』では、春本ばかりが大量に揃っている大きな書庫が映し出されたりします。
 本が好きなクマネズミには、このように映画の中で本が様々に取り扱われているのを見ると、映画の流れに関係するしないにかかわらず、興奮を覚えてしまいます。あるいは、クマネズミも、本作の中でベルが言われているように、“変わって(funny)”いるのかもしれませんが。

 いずれにせよ、本作はミュージカルなので、あまり細かいことに拘泥しても意味はなく、歌と踊りなどを愉しめばそれで十分なのでしょう。
 ただ、本作がアニメーション(1991年)を完全実写化したものとされていながらも、城の給仕頭・ルミエール(燭台に変えられています:ユアン・マクレガー)料理人・ポット夫人(ティーポットに変えられています:エマ・トンプソン)などが、CGによっているのでしょう、アニメーションと変わらない描き方をされているところは、やや首を傾げたくなりましたが。

 とはいえ、『コロニア』ではあまりパットしなかったエマ・ワトソンながらも、本作では、水を得た魚のようにみずみずしい演技を繰り広げていて、次作が大いに期待されます。



(3)渡まち子氏は、「アニメ版に忠実すぎる実写化という点は、賛否が分かれるかもしれないが、完成度が極めて高いエンタテインメントを見る幸福感に素直に酔いしれたい」として80点を付けています。
 前田有一氏は、「つくづくこのストーリーは、好景気で能天気な時代にこそ合うおとぎ話だなと痛感する。アニメ版は91年に作られ、日本でもバブルの残り香があった頃だからまだよかった。しかしこの2017年に、アニメ以上に生々しい実写版を日本人はどう受け取るか。なかなか興味深いことだ」などとして60点を与えています。
 渡辺祥子氏は、「最近話題の『ラ・ラ・ランド』とは違う種類の陶酔と高揚感を与えてくれる。少し古風な造りだけれどここにあるのは心なごむ幸せだ」として★4つ(「見逃せない」)を付けています。



(注1)監督はビル・コンドン
 脚本は、ステファン・チボスキーとエヴァン・スピリオトプロス

 出演者の内、最近では、エマ・ワトソンは『コロニア』、ユアン・マクレガーは『T2 トレインスポッティング』、エマ・トンプソンは『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』、ググ・バサ=ローは『ニュートン・ナイト  自由の旗をかかげた男』(同作では、ググ・ンバータ=ローと表記)で、それぞれ見ています。

(注2)シェイクスピアの『ロメオとジュリエット』のことでしょう。

(注3)1756年に出版されたボーモン夫人の物語と、1740年にヴィルヌーヴ夫人によって書かれた物語とがあるようです〔『美女と野獣』(2014年)に関する拙エントリの(2)をご覧ください〕。

(注4)城の王子は、禁じられていた黄金の牝鹿を弓で射殺してしまいますが、その牝鹿は、許嫁であった王女(実は森の精)の変身した姿であったことがわかります。王女の父親の森の神は、娘を殺されたことを怒って、王子らに呪いをかけるのです。

(注5)本作では、ガストンは、登場すると、従者のル・フウジョシュ・ギャッド)に、「私の未来の妻のベルは、この村で最も美しい少女だ」と言うのです。



 他方で、ベルの方は、私があんながさつな男の妻になるなんて想像できる?絶対お断り」などと呟くのです(ここらあたりは、ベルが野獣の知性に触れて心が開かれるようになることの伏線でしょう)。

 なお、ガストンの従者のル・フウも、勿論『美女と野獣』(2014年)に登場しませんが、ゲイのキャラクターとして登場するために、問題視する国もあるようです(といっても、ガストンとル・フウが一緒に踊る短いシーンにすぎないようですが←この記事)。

(注6)その際、沢山の本に驚いたベルが「素晴らしい!」と言うと、野獣は「君にあげるよ」と応じ、さらにベルが野獣に、「これらの本を皆読んだの?」と尋ねると、野獣は「全部じゃない。特にギリシア語のやつは(in Greek)」と答えます。それに対し、ベルが笑って「ジョークだったの?ジョークを言うのね?」と応じると、野獣はニヤニヤ笑って「まあね(maybe)」と答えます(「greek:ちんぷんかんぷん」←この記事)。

 なお、その前では、ベルがシェイクスピアの『ロメオとジュリエット(Romeo and Juliet)』の中の言葉を口にすると、野獣がその後を続けるので、ベルは驚きます。そして、ベルが「この劇が好きなの」と言うと、野獣はベルを図書室に案内するのです。

 図書室のシーンの後、ベルは、野獣にWilliam Sharpの詩「A Crystal Forest」を読んだりします(その詩の最後に、ベルは「私を見て、目覚めさせて、私はここにいる」と読みます。よくわかりませんが、どうもこの部分は映画用に作られたもののようです←この記事)。

 また、庭で野獣が読書しているのに気付いたベルが、「何を読んでるの?」と尋ねると、野獣が「何も」と隠すので、ベルは「『グィネヴィアとランスロット(Guinevere and Lancelot)』ね」と言います。すると、野獣は、「実際は、『アサー王と円卓の騎士(King Arthur and the Knights of the Round Table)』だ」と訂正したりします。

 さらに、野獣は、美しい魔法の本をベルに見せます。その本には地図が掲載されているのですが、行きたい場所を心の中に思うと、そこに行くことができるのです(それで、ベルは幼い頃に過ごしたパリを心の中に思ってみて、母親がなぜ亡くなったかを知るのです)。



★★★☆☆☆



象のロケット:美女と野獣