映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

団地

2016年06月21日 | 邦画(16年)
 『団地』を新宿シネマカリテで見ました。

(1)阪本順治監督の作品ということで映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭では、浜村淳の朝のラジオ放送が流れている中で、主人公のヒナ子藤山直美)が、団地3階の部屋のガラス戸を開け、ハタキをかけたり掃除機を動かしたりしています。
 次いで、ヒナ子がベランダに出て下を見ると、前庭では少年(小笠原弘晃)が棒を握りしめて立っています。
 また、老婆が押していたシルバーカーから植木鉢がこぼれ落ちてしまいますが、通りかかった日傘をさしている青年(真城斎藤工)が、「花に怪我がなくてよかったですね」と言いながら、こぼれた土をかき集めて元に戻してやります。

 これを見ていたヒナ子は、部屋の中に入って夫の清治岸部一徳)に、「あんた、真城さんや」と言い、再びベランダに出て下にいる真城に「真城さん!」と声をかけると、真城は「五分刈りです」と答えるので、ヒナ子は「ご無沙汰です」と注意します。
 さらに真城が、「そちら802号室ですよね?」と尋ねるので、ヒナ子が「302号室や。ここが8階には見えないでしょ」と答えると、真城は「802の8とは8階のことなんですね」と感心した素振りを見せます。

 ヒナ子らの部屋に入ってきた真城に、清治が「長い間贔屓にしてもらったのに、突然廃業してしまい、すいませんね」と謝ると(注2)、真城は「いつもの薬を送ってもらえませんか?全てこちらで手配しますから」と要請し、清治の返事を待たずに「ありがとうございます」と言い、さらに「どうして廃業したんですか?」と言ったところで床に倒れてしまいます。
 慌てて清治が漢方薬を処方し、それをヒナ子が真城に飲ませると、真城はすぐに起き上がります。清治が「そんなにすぐに効くのかな」と訝しがると、真城は「効果きしめんです」と言い、それをヒナ子が「効果てきめん」と注意します。

 真城が帰った後、清治は、今真城に使った生薬を補充するために、食卓が置かれている床の下に設けられている収納庫の扉を開け、中に入り込みます。そこには、沢山の漢方の生薬が置かれているのです。

 こんなヒナ子と清治ですが、団地の他の住人との関係、それに真城との関係はこの先どうなるのでしょうか、………?

 本作は、息子を亡くして漢方薬の店をたたんで団地に引っ越してきた夫婦を巡るお話。団地らしいエピソードがいろいろコミカルに描かれているところ、後半で大きく転調します。クマネズミは面白い展開の仕方だなと思いますが、これをどう捉えるのかで本作の評価は全く違ってくることでしょう。

(2)本作は、最近見た是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』と同じように団地を取り上げています。
 ただ、同作が写実を旨としているのに対し、本作は途中からSF調になり、見ている方はあっけにとられてしまいます(注3)。何しろ、宇宙人がヒナ子らの部屋に現れるのですから!
 でも、もしかしたら、むしろ是枝作品の方が観念的な作品であり、本作のほうがリアルなものといえるかもしれないな(注4)とも思いました。

 もう少し申し上げれば、『海よりもまだ深く』の母親・淑子樹木希林)は、長い間の団地住まいを脱出して一戸建ての家に住むことが夢。他方、本作のヒナ子らは団地に引っ越してきてまだ半年で、何か馴染めないものを周囲に感じて(注5)、これまた早いところ脱出したいと思っている様子です(注6)。
 ただ、『海よりもまだ深く』では団地脱出は単なる淑子の夢で終わっているのに対して、本作ではSF調に転化するとはいえ実現に向かって関係者が動き出すのです。
 一見すると、『海よりもまだ深く』のように、何事も起こらずに単調な同じ生活がこれからも継続するとする方が現実的のように思えます。しかしながら、それはそういうものでしかないと現実を観念的に捉えるからそうなるのではないか、とも思われます。
 むしろ、宇宙人が現れて脱出を支援してくれるのだと考える方がリアルなのかもしれません。少なくとも、映画の上ではそうではないでしょうか(注7)?
 特に、団地の各部屋には、あのように狭い空間にシステムキッチンとかユニットバスやトイレなどがきちんと設けられて、まるで宇宙船の中のような具合になっているのですし、おまけに上階の部屋なら窓から下の情景を見ることができるのですから、いつそのまま宇宙空間に打ち出されてもおかしくないように思えます(注8)。

 ツマラナイことを申し上げましたが、実際のところは、すべてヒナ子か清治の夢(あるいは妄想)の中の話とすれば済むのかもしれません(注9)。
 でも、それをリアルな話として理解しようとしてもまた一興ではと思ったところです(注10)。

(3)渡まち子氏は、「先読み不能の展開と、時空を超えた不思議なハッピーエンド。ウン、阪本順治監督ってやっぱり“おもろい”人だ」として70点をつけています。
 宇田川幸洋氏は、「終盤は、SFに転調する。くわしくはかかないが、そこからが長く、ウェットで、そこまでのコメディーのいい風味をすべて帳消しにするまで、なくもがなの世界観(異世界観?)のリクツをならべる。オチで遊びすぎて、元も子もなくなった」として★3つ(「見応えあり」)をつけています。
 山根貞男氏は、「団地生活を面白おかしく描く喜劇。そうには違いないが、中身は単純な喜劇ではない方向へと向かう」などと述べています。
 ただし、この映画評は映画のあらすじを述べているだけで、批評になっていないように思います。



(注1)監督・脚本は阪本順治(『人類資金』、『大鹿村騒動記』、『行きずりの街』など)。

 なお、出演者の内、最近では、岸部一徳は『FOUJITA』、石橋蓮司は『グラスホッパー』、大楠道代は『I’M FLASH!』、斎藤工は『高台家の人々』、濱田マリは『娚の一生』、竹内都子は『ハラがコレなんで』で、それぞれ見たことがあります。

 なお、主演の藤山直美については、この拙エントリの(2)で触れたことがあります。
 加えて6月19日に、上海国際映画祭で藤山直美は本作で最優秀女優賞を受賞しました。

(注2)ヒナ子と清治は、商店街で漢方薬局「山下漢方」を営んでいましたが、息子の事故をきっかけに、半年ほど前に団地に引っ越してきたのです。

(注3)予告編を見て、団地自治会の皆が集会所で楽しそうにフォークダンスを踊っている場面がラストになるのかなと思っていましたが、さにあらず。その光景は、団地の自治会会長選挙に立候補した清治の妄想(会長に当選したら3ヶ月に一回そうした集いをしようと、清治は考えています)にすぎないのです!

(注4)というのは言い過ぎで、『海よりもまだ深く』は写実的でありながらも観念的なところも伺えるのに対し、本作は観念的な作品ながらもリアルな面も見えてくる、といったところでしょうか。

(注5)団地自治会長の行徳石橋蓮司)の妻・君子大楠道代〕は、ヒナ子に、「新しく来た人についていろいろ噂をする人がいるけど、気にしない方がいい」と言いますが、ヒナ子らはひどい噂を立てられてしまいます。特に清治は、キノコなどを観察しようと毎朝裏手の林の中に入り込んでしまい、団地の住民との接触が殆どなかったことから、団地の奥様族(竹内都子濱田マリ原田麻由滝裕可里)の間で、清治はヒナ子に殺されているという噂が立ってしまうのですから(実際に、警官がヒナ子らの部屋に来ましたし、ヒナ子はTVニュースの取材を受けたりもします)。



(注6)漢方薬局の廃業は、どうやらヒナ子の主導で行われたようで、ヒナ子もそれを気にしていて、清治に「恨んでる?あたしが廃業させたんだから」、「まだ未練があるでしょう?収納庫に生薬をいっぱい保管しているし」などと言ったりします。



 このように、ヒナ子の家では終始ヒナ子がリードしており、清治の方は、団地の自治会会長選挙に落選すると、床下に設けられている大きな収納庫に逃げ込んでしまうほどヤワな感じなのです。

(注7)『海よりもまだ深く』が描く世界では、年金暮らしの淑子では無理であり、長男の良多阿部寛)に期待がかかるものの、堅実な生活をするという姿勢に乏しい彼は妻・響子真木よう子)に愛想を尽かされるほどです。他方、本作では、期待の長男の事故死がきっかけで団地暮らしが始まるわけながらも、長男の代理人的な存在の真城が脱出を手助けします。
 どちらが映画の物語として面白いかといえば、後者の方ではないでしょうか?
 とは言え、ツマラナイありきたりな日常的な事柄を淡々と描いているにすぎないように見える作品も、気がつかない事柄を気付かせてくれたりして面白く見ることができる場合もありますから、簡単に言い切れないのも事実です。

(注8)本作では、ヒナ子らの部屋がそのまま宇宙に飛び出すのではなく、団地の上空に出現した巨大な宇宙船にヒナ子らが乗り込むことになります。ただ、その宇宙船の中は、従来ののSF物で描き出されるような光景とは全く違って、普通の地球上の自然の風景なのです。要すれば、地上と宇宙船内とがそのまま接続してしまっています。まるで、団地の部屋が宇宙船内と同じように見えるのと同じように。

(注9)ありうるとしたら、清治が収納庫に隠れている時(上記「注6」で触れたように)に見た夢なのでしょう。上記「注3」にも書きましたように、清治には妄想癖があるようですから〔『高台家の人々』の木絵綾瀬はるか)のように!〕。

(注10)ラストでは、ヒナ子と清治とが夕食(清治が「スキヤキやったね」と言います)の用意をしているところに長男・直哉中山卓也)が当たり前のように「ただいま」と帰ってきます。
 これは、ヒナ子と清治を過去に戻す際に(置き忘れてきた「へその緒」を取りに戻ろうとします)、真城が操作を誤って、それまでとは違うパラレルワールドに「時空を戻した」ためなのかもしれません。なにせ、この3人は団地で一緒に暮らしたことはなかったのですから。それとも、真城の好意で(5000人分の漢方薬を作ってくれたことに対するお礼として)、直哉が一緒にいる世界にしてあげたのでしょうか(でも、どうやって?)?



★★★☆☆☆