映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

マイ・インターン

2015年11月10日 | 洋画(15年)
 『マイ・インターン』をTOHOシネマズ新宿で見ました。

(1)一度はパスしようかと思っていたところ、評判がかなり良さそうなので遅ればせながら映画館にいくことにしました。

 本作(注1)の冒頭では、ブルックリンにある公園の樹の下で太極拳をしているグループが映し出されます。その中には本作の主人公・ベンロバート・デ・ニーロ)が混じっていて、他の人と同じように体を動かしています。
 ナレーションでベンが、「愛と仕事、それが全てだ、とフロイトは言っている。私は退職したし、妻は死んでしまった。いくばくかの時間が私の手元に残された」と言っています。
 更に、家でカメラに向かって、ベンは、「妻は3年半前に死んだ。そして退職。最初のうちは、その状況を楽しんだ。世界旅行もした。でも、家に戻ってくると、虚しさを感じてしまう。ゴルフ、映画、読書などなど、なんでもやった。それに葬式に参列することも。最近した旅行といえば、サンディエゴにいる息子夫婦を訪ねたことだ」などとしゃべります。



 次の場面は、スーパーで食料品を買い込んでいるベン。
 スーパーに設けられている掲示板に、ある会社の「シニア・インターンシップ・プログラム」のチラシがあるのを見つけます。
 チラシでは、履歴がわかるビデオをユーチューブにアップすることが求められています。

 知り合いのパティリンダ・ラビン)の「ラザニア、二人で食べない」という誘いを断って家に戻ったベン。夜中に飛び起きて、自己紹介のビデオを自分で撮影します。
 その中で彼は、「音楽家は、自分の中の音楽が消えてしまった時に初めて音楽をやめる、と本で読んだことがあります。まだ私の中には音楽があります」などと話します。

 今度は、ジュールズアン・ハサウェイ)の経営するファッション通販サイト「アバウト・ザ・フィット(ATF)」の様子が映し出されます。
 ジュールズは、1年半前に25人ほどで会社を立ち上げましたが、大成功して、今では220人の従業員を抱える規模となっています。



 どうやら、ベンは、この会社のインターンになるようです。ですが、70歳のベンが、こうした先端的な企業で上手く働くことができるのでしょうか、………?

 本作では、70歳の退職者が、時代の先端をいく職場で新しいポストを得て蘇る様子が物語られるところ、それを演じるロバート・デ・ニーロは、相手役の会社社長に扮するアン・ハサウェイともども、とても魅力的に描かれています。ただ、現代のお伽話であり、全体として全て丸く収まってしまうとはいえ、もう少し目覚ましい出来事があってもいいのではないかとも思いました(注2)。

(2)本作の邦題が「マイ・インターン」とされているのは(原題も『The Intern』)、映画の中で、ジュールズの会社ATFが募集していた「シニア・インターン・プログラム」(注3)にベンが応募して、シニア・インターンとして採用されることから来ているのでしょう(注4)。
 ただ、そのプログラムで採用されたベンらは、“インターン”らしいことをしているようにはあまり思えないところです。
 一般に“インターン”というのは、以前の医者に関する「インターン制度」が典型なのでしょうが、業務に正式に就く前の見習い研修生のようなものではないでしょうか?
 ですが、ベンは、ATFに今後正式に採用されることを見越してインターンに選ばれたようには見えない感じがします。
 ベンは、以前電話帳を作成する会社に勤務していた高齢者というわけですから、時代の最先端を行く企業であるATFの業務にはとても付いていけそうもありません。そんなベンを正式採用するとしたら、インターン期間中に会社の業務を身につけることができるような教育プログラムがあってしかるべきです。
 でも、この「シニア・インターン・プログラム」を担当する者は、いとも簡単に彼をジュールズの直接の配属にして、あとは放ったらかしにするだけです(注5)。
 これでは、“インターン”とされていても、ベンは単に、ジュールズの世話係、それも無給のアルバイト(注6)にすぎないのではないでしょうか(注7)?

 それに、邦題の「マイ・インターン」ですが、いったい誰にとっての「マイ」なのでしょうか?
 インターンになるのがベンなのですから、“ベンの”ということではないでしょう。
 としたら、“ジュールズの”ということになるのでしょうが、でも、この映画がW主役だとしても、中心になるのはあくまでもベンであって(注8)、冒頭も、ベンの語りから始まっているのですから、そうだとしたら、なんだか座りがとても悪い気がします(注9)。

 でも、それらはどうでもいいことでしょう。
 本作は、ジュールズが会社のフロアを自転車で移動する場面が描かれるなど(注10)、現実世界ではありえないようなファンタジーの世界を描いた現代お伽話なのでしょうから(注11)。

 そう思ってみると、ベンが70歳にもかかわらず、パティに誘われたり、すぐにATFの専属マッサージ師・フィオナレネ・ルッソ)と親密になったりするなど、ありえないほど魅力的に描かれていても、またジュールズに扮するアン・ハサウェイが相変わらずの美貌で、その上に「セリーヌ、サンローラン、ヴァレンティノ、エルメス、そしてパリのデザイナー、セドリック・シャルリエの作品をたくさん使った」ものを身に付けてアチコチ飛び回っていても(注12)、何であっても許してしまいます(注13)。

 ただ、せっかくのファンタジーなのですから、もう少し目を引くような出来事が描かれていてもいいのかなとは思いましたが(注14)。

(3)渡まち子氏は、「ナンシー・マイヤーズ監督らしい女性応援ムービーだが、恋愛要素より友情を全面に出したことでさわやかな作品に仕上がった」として65点をつけています。
 渡辺祥子氏は、「見た目がお洒落(しゃれ)な変形版ビジネス書?愉快で役に立ちそうなのがなにより」として★4つ(「見逃せない」)をつけています。
 読売新聞の恩田泰子氏は、「高齢化時代の生きがい探し、女性の社会進出などの同時代的トピックを盛り込み、新しい役割分担を迫られる老若男女を描いているが、人間関係の中身は結構古風。働く女の葛藤のドラマも薄味だ」と述べています。



(注1)監督・脚本は、『恋愛適齢期』や『ホリディ』(この拙エントリの「注4」を参照)、『恋するベーカリー』のナンシー・マイヤーズ

(注2)出演者の内、最近では、ロバート・デ・ニーロは『アメリカン・ハッスル』、アン・ハサウェイは『ブルックリンの恋人たち』で、それぞれ見ました。

(注3)会社の役員であるキャメロンアンドリュー・ラネルズ)の発案によっているようです。ただ彼は、ジュールズに事前に了解を取り付けたと言いますが、彼女の方では、聞いていないと反論します。

(注4)本作の公式サイトの「プロダクション・ノート」においてナンシー・マイヤーズ監督は、「年配の男性が創業間もない会社でインターン(見習い社員)になるというアイデアを思いついた」と述べています。

(注5)元々、こんな若い会社に、高齢者の教育係が務まる社員がいるとはとても思えませんし。

(注6)この記事を参照。

(注7)ゴミが山積みになった机をベンが早朝出勤して片付けると、気にしながらも社員に片付けを言い出せなかったジュールズが酷く喜ぶシーンがあります。ただ、それくらいでいいのなら、ベンは、有り体に言えば、昔の小学校によくいたとされる“小使いさん”(それも無給の)的な存在のようにも見えてきます。

(注8)例えば、女性限定試写イベントについてのこうした記事があるように、日本ではアン・ハサウェイが演じるジュールズにもっぱら焦点が集められている感じがしますが。

(注9)それに、ベンはあくまでもATFという会社のインターンであって、ジュールズが個人的に契約している者ではないはずです。

(注10)ローラースケートに乗って会社の中で書類を配るアルバイトといったことなら分からないではありませんが。



(注11)この拙エントリの(1)でも「現代のお伽話」と申し上げました。
 ただ、ファンタジーにしては、ベンが運転する車の中でジュールズが大イビキをかいてしまうというとんでもないシーンが描かれていましたが〔元々、イビキは治療によって治るとされていますし、あんな大イビキなら、夫のマットはスグにも逃げ出してしまうのではないでしょうか?〕!

(注12)上記「注4」で触れた「プロダクション・ノート」において、衣裳担当のジャクリーン・デメテリオが述べています。

(注13)さらに言えば、ベンが、70歳以上であるにもかかわらず自動車運転の「高齢者講習」を受けているようには見えないとしても(!?)。

(注14)映画の中で起きる出来事といえば、ジュールズの夫・マット(専業主夫:アンダーズ・ホーム)の浮気ぐらいで、これも最後はジュールズが許してしまうのです。
 ただ、この点も、ラストを次のように解釈すればいいのかもしれませんが。
 ラストでは、本作の冒頭のシーンと同じように、ベンは太極拳をしています。そこに、ジュールズがやってきて「いい知らせが」と言います。
 これは、休暇をとって太極拳をしているベンのところに、「CEOの招聘を止める」とジュールズが言いに来ただけのことかもしれません。
 ですが、ベンが太極拳をしていたのは、インターンの期間が終了して元の生活に戻ったことを意味し、ジュールズはベンに「会社のCEOに就任してほしい」と言いに来たのだ、と解釈できないでしょうか?



★★★☆☆☆



象のロケット:マイ・インターン