映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ルームメイト

2013年11月29日 | 邦画(13年)
 『ルームメイト』を渋谷TOEIで見ました。

(1)北川景子深田恭子との競演の映画というので映画館に行ってきました。

 映画の冒頭では、雨の中、まず萩尾春海北川景子)と工藤謙介高良健吾)が救急車に急ぎ搬送される場面が描かれ、ついで、大きなシャンデリアのあるバーの暗闇を懐中電灯で照らしながら警察の男たちが進んでいくと、床にナイフが落ちていて大量の血痕があり、その先のソファーの上では男が惨殺されて横たわっています。
 「なんだこれは、酷えな」と男たちが言っていると、ドアの向こう側で赤いドレスを着た人物が通り過ぎます。「女だ!探せ!」との声。
 他方で、床に落ちているノートブックを刑事(螢雪次朗)が拾って目を通します。

 そして、場面はそれより3カ月前の病院へ。
 どうやら春海は、交通事故に遭ってこの病院に運ばれ、ようやく意識を取り戻したようです。尋ねられると「萩尾春海、23歳」と答え、記憶は回復しながらもどうしてベッドに横たわっているのか覚えていません。
 そこへ工藤ともう一人の男が現れ、事故のことを謝罪します。工藤が運転する車に春海は轢かれたとの話で、もう一人は保険会社の長谷川尾上寛之)。



 2人が帰ったあと、看護婦の西村麗子深田恭子)が現れ、「保険会社に言いくるめられてしまうよ」などと言い、そうこうするうちに2人は親密になります。

 しばらくして春海は退院しますが、派遣社員として勤めていた会社を解雇され今後のことを不安に思っていたところ、麗子が現れ、「私も病院を辞めることになった」、「2人でルームシェアすれば、家賃が半分になる」などと言うので、春海が暮らしていたやや古ぼけたマンションで一緒に生活をすることになります。



 こんな春海が、どうして映画の冒頭のような事態を迎えることになるのでしょうか、その現場にいない麗子はどうしたのでしょうか、………?

 本作は、かなり複雑に書かれている推理小説を原案としながら、それを実に手際よくまとめて2時間弱のホラー・サスペンス映画に仕立てあげているだけでなく、今が旬の女優、北川景子と深田恭子とが力一杯競演しているのですから、見応え充分といったところです(注1)。

(2)ここからはネタバレになってしまいます。本作を未見の方は、以下を読むことなく、急ぎ映画館に行かれることをお勧めいたします〔本作の原案とされている推理小説(注2)についても同様ですので、未読の方はまずは同書をお読みください〕。

 さて、本作の原案のミステリーは、かなり複雑に書かれています。
 ごくごくかいつまんで申し上げれば次のようです。

 不動産屋で偶然知り合った大学生1年生の春海と麗子は、ルームシェアをすることになるのですが、麗子が多重人格(解離性同一性障害)でした(注3)。
 麗子は、自分を多重人格にした殺人事件を引き起こした男を殺すよう“共犯者”に依頼します(注4)。
 “共犯者”は、麗子を愛していたために、依頼通り男を殺したところ、麗子に「愛していない」と言われ、怒って麗子を殺してしまいます。
 この事件を、春海は先輩の工藤謙介(注5)と2人で追跡します。
 ところが、事件の真相を追っていくと、春海自身が多重人格者であり、彼女のもう一つの人格である兄(既に病死)が“共犯者”として麗子を殺したことがわかってきます(注6)。

 この推理小説では、多重人格者が2人も登場しますし、複数の男がかなりの役割を持って活躍します(注7)。
 それを本作では、小説の春海と麗子という2人の多重人格者を1人だけに絞り込み、なおかつ工藤謙介も副次的な扱いとして、また昔のことはともかく(注8)、最近時点で殺されるのも男女1人ずつにしています(注9)。
 やや難点も見られる小説を原案としながら(注10)、全体をかなりスッキリした筋立てにしていると思います。

 ただ、本作では、原案のミステリーにはない人物、絵理が登場します。
 一見すると、彼女を巡る話は余計なエピソードのように思えるところ、そうすることで本作の謎はかなり深まることにもなりますから(注11)、それほどの問題はないでしょう。

 とはいえ、絵理の境遇は春海とかなり類似しています(注12)。
 この重なり合いの構造は、春海が3カ月という間を置いて病院のベッドに横たわるというところにも見受けられます。
 これは、人格の重なり合いがシチュエーションの重なり合いとも連動しているようにも思え、全体としてなかなか良く練られた作品という印象を持ちました。

(3)渡まち子氏は、「ルームシェアした女性が恐ろしい素顔を持つことを知るサスペンス・スリラー「ルームメイト」。美女二人の競演が華やか」として55点をつけています。
 前田有一氏は「二人の人気女優を全面にだしたプロモーションからお手軽なお気軽2時間サスペンスだと思っているミステリファンがいたら、ぜひそのなめた態度のままご鑑賞いただきたい。きっと、満足していただけるはずである」として75点をつけています。
 相木悟氏も、「なかなかに拾い物の一作であったのは確か。何より原作読者も存分に楽しめる娯楽作に仕上げたサービス精神は、大いに賞賛したい」と述べています。



(注1)最近では、北川景子は 『謎解きはディナーのあとで』で、深田恭子は『夜明けの街で』や『ステキな金縛り』で、それぞれ見ています。

(注2)今邑彩著『ルームメイト』(中公文庫)。

(注3)ホスト人格の青柳麻美、春海のルームメイトの麗子、銀座のバー・アリアドネに勤めているマリとカオリ(P.210)、人妻(ある男と内縁関係)の平田由紀、それに子供のサミー(6歳で成長が止まっているとのこと。麻美は幼いころ米国ミネソタ州に住んでいました)。

(注4)原案のミステリーでは、サミーが隣家の青年ボブに性的いたずらをされ、そのことを知ったサミーの両親をボブは殺してしまいます。それを知ったサミーは精神的な打撃を受け、多重う人格になります。そして、そのボブが、来日して英会話スクールの校長となっているのを知ったマリが、“共犯者”をそそのかして殺させます。

(注5)原案の推理小説では、工藤謙介は、「学部は違うが、春海が所属している写真部の部長」(P.66)。

(注6)原案のミステリーの「モノローグ4」(文庫版にする際、著者が掲載をためらったラスト)によれば、春海にはもう一人工藤謙介の別人格が生まれていたようです。

(注7)原案の小説では、工藤謙介は、春海と一緒に、京都や綾部まで麗子のことで調査に行ったりしますし、また工藤謙介の従兄弟でフリーライターの武原英治も本件の調査に乗り出します。

(注8)原案の推理小説で青柳麻美の幼い時分に起こったことは、本作では春海に起こります。すなわち、春海は、中学生の時に母親の愛人にレイプされ、そのことが世間に知られて愛人が自殺したことを母親になじられたために、マリという人格になって母親を殺してしまいます。

(注9)原案のミステリーでは、麗子のみならず、英会話スクールの校長とかフリーライターの武原英治も殺されます。

(注10)原案の小説においては、青柳麻美は42歳であり18歳の娘麗子もいることになっていますが、いくら若作りだといえ18歳の春海に、娘と同年齢と見なされるにはかなり無理があり、また、春海の別人格である兄・健介は、マリとベッド・インしますが(小説の冒頭の「モノローグ1」)、精神はともかく体まで男性になるわけではないでしょうから、マリにおかしいと疑われるのではないでしょうか?

(注11)例えば、このエントリの(1)の最初のほうで書いた「赤いドレスを着た人物」とは、いったい誰でしょう?

(注12)本作の絵理は中学生で、市長選での候補者となる山崎田口トモロヲ)に暴行されたことから、別人格の「マリ」を作り出し、山を殺害しようとします。



★★★★☆



象のロケット:ルームメイト