孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  変異種で孤立化 FTA交渉不調で渋滞する大動脈英仏海峡も停止 最悪の年末・年明けか

2020-12-21 23:19:39 | 欧州情勢

(変異株の出現で封鎖された英仏海峡【12月21日 YAHOO!ニュース】)

 

【欧州各国、イギリスからの渡航を相次ぎ禁止】

12月18日ブログ“イギリス かつての福祉大国 コロナ禍で食べ物に困る子供たち、ユニセフ支援も 日本のこども食堂は”でも触れた新型コロナの変異種がイギリスで拡散している件の波紋が広がっています。

 

新型コロナそのものに関してもわからないことだらけの状況では、変異種については、いまだわかっていることが少ないと言うべきでしょうが、感染が急拡大しるイギリスのジョンソン首相は「変異種の感染力は、古い種よりも最大で70%高い可能性がある」と語っています。

 

****新型コロナ変異種とは? 感染力は「最大70%高い可能性」とジョンソン首相。イギリスで急増****

イギリス・ロンドンなどを中心に、感染者が急増している新型コロナウイルスの変異種。イギリス政府は感染拡大を受けて、ロンドンや周辺地域に外出制限を導入すると発表した。変異種はどんな特徴があるのか?

 

感染力、最大で1.7倍か

Voice of America(VOA)によると、変異種の名称は「VUI-202012/01」。イングランド南部のケント州で12月13日に最初に確認された。変異種の感染者は急速に増え、入院患者数も急増している。 

 

イギリスではすでに、新型コロナウイルスのワクチン接種が高齢者や医療従事者などを中心に始まっている。

 

 ロイター通信によると、イギリスのボリス・ジョンソン首相は、19日の記者会見で変異種について「致死率が高いことや、重症化しやすいことを示す証拠はない。ワクチンが、変異種に対して効果が低いことを示す証拠も今のところない」と説明した。 さらに、ジョンソン首相は「かなり不確かではある」と前置きした上で、「変異種の感染力は、古い種よりも最大で70%高い可能性がある」と述べた。

 

一方で、ジョンソン首相は「まだ分からないことがたくさんある」ことも強調している。

 

感染拡大でロックダウンに

NBCによると、イギリス政府の最高医療責任者であるクリス・ホイッティ氏は19日の声明で、世界保健機関(WHO)に対して変異種について報告したことを公表した。 WHOは公式Twitterで、「私たちは新型コロナウイルスの変異種に関して、イギリスと緊密に連絡を取り合っています。イギリス政府は、分析内容や研究に関する情報と結果を今後も共有し続けます。この変異種の特徴や影響について、新たな情報が入り次第、加盟国や一般の方々に向けて情報を提供します」と呼びかけている。

 

変異種の感染が急速に拡大していることを受け、イギリス政府はロンドンとイングランド南東部に20日から外出制限などの厳しい規制をかけることを発表。事実上の都市封鎖(ロックダウン)となる。【12月20日 HUFFPOST】

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「現在のところ、この変異株が重病につながると示すものはなく、ワクチンに反応しない可能性は極めて低い」と(ハンコック保健相)【12月15日 朝日】というのは、前回ブログで紹介したところで、ワクチン有効性に関しては、「たぶん、大丈夫じゃないか・・・」という感じで、確たる情報はまだ出ていません。

 

変異種はオランダ、イタリアなどの欧州、さらには南アフリカなどでも確認されています。

 

この「感染力1.7倍」という情報がどこまで信ぴょう性があるのか・・・ジョンソン首相としては、感染拡大の状況と合わせて事態の深刻さをアピール、クリスマス期間の規制緩和の取りやめを含んだ国民に不人気の再度のロックダウンの正当性を主張したい狙いだったのでしょうが、結果的にイギリスの状況への各国の不安感をあおる形にもなっています。

 

各国はイギリスからの渡航を相次いで禁止する措置に。

結果、イギリスは孤立化する状況にも。

 

****欧州各国、イギリスからの渡航を相次ぎ禁止 新型ウイルスの変異種を懸念****

イギリスでより感染力が高い「制御不能」な新型コロナウイルスの変異種によるものとみられる感染が拡大していることを受け、欧州各国がイギリスからの渡航を禁止し始めている。

 

アイルランド、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、ベルギーはそれぞれ、イギリスとの全ての航空便を停止している。これらの措置は短期的なもので、内容は国によって異なる。フランスの措置は英仏間の貨物輸送に影響を与えている。

 

欧州理事会は21日により協調的な対応について協議する予定。(中略)

 

保健当局幹部らは、変異種による死亡率が従来種より高かったり、ワクチンへの反応が異なっていたりする証拠はないとした。一方で、従来種よりも感染の可能性が最大70%高いとしている。

 

マット・ハンコック保健相は、変異種が「制御不能」になっており、「我々はこれを制御しなければならない」と述べた。そして、「率直に言って、ひどい1年にとって、信じられないほど困難な終わり」になったとした。(後略)

【12月21日 BBC】

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【『時間切れ』が迫る自由貿易協定(FTA)交渉 決裂に備え備蓄輸入も増加 渋滞するドーバー海峡】

この状況下でイギリス国民が欧州などへ旅行ができない・・・というのは致し方ないところですが、問題は物流。

 

新型コロナ変異種の話がなくても、イギリス・EUの通商交渉は難航し、年末の時間切れが迫っており(本来的な話をすれば、国内の準備手続きを考慮したら、すでに時間切れでしょうが)、関税などの措置による混乱が予想されています。

 

****英EU交渉決裂への懸念 備蓄、買い占め、渋滞…すでに影響****

英国と欧州連合(EU)による自由貿易協定(FTA)交渉の決裂が現実味を帯び始め、年明けからの物流に支障が出ることへの懸念が強まっている。

 

英EU間で離脱前の関係が維持される「移行期間」が残り約2週間となる中、英国内では食料品の買い占めといった混乱が発生。英EU双方は交渉決裂の影響を抑制する対策を準備しているが、どこまで緩和できるかは不透明だ。

 

「交渉の『時間切れ』が迫っている。市民の生活はパニックに陥る寸前だ」ロンドン市内のスーパーの男性店員(38)は14日、不安げに話した。

 

交渉で合意できなかった場合、年明けから英EU間で関税が復活する。英仏国境などに設置される税関で煩雑な通関手続きが必要になり、国境の検問では大規模な渋滞が予想される。英政府はフランスからの物流量が最大で80%減少すると試算しており、EUからの輸入に依存する食料品や医薬品が英国内で不足しそうだ。英BBC放送によると、食料品の価格は品不足や関税の影響で約5%上がる可能性がある。

 

米製薬大手ファイザーなどが開発し、英国で8日に投与が始まった新型コロナウイルスのワクチンも、主に製造拠点のベルギーから英仏間のドーバー海峡経由で輸送されている。40代の看護師の女性は「接種のスケジュールに影響が出ないか心配だ」と話した。

 

英国の小売業者は交渉決裂に備え、食料品などを備蓄するために輸入を急いでいる。このためドーバー海峡のユーロトンネルでは12月初旬頃から、貨物車の渋滞が発生。さらに、ロンドン郊外で食料品を大量に買い占める市民が増え始め、英スーパー最大手のテスコはパスタなどに「1人3個まで」と表示を掲げた。

 

EUは交渉決裂の際の混乱を避けるため、年明けから6カ月間、従来通りの陸・空路の旅客・貨物輸送を保証する緊急措置案を発表した。

 

しかし、措置案には、英EUの漁船が来年末まで互いの水域で操業できることも明記。英メディアによると、英海域を自国で管理したい英政府は漁船に関する項目を拒否する方針とみられている。

 

EUの措置は「英国が同様の措置をとる」ことが条件のため、英政府が一部の内容を拒絶すれば、実現しない可能性がある。

 

混乱への対応をめぐっては、英政府も来年1月から、仏カレー港と英ドーバー港の間でトラックを搭載できるフェリーを増便するほか、EUからワクチンや医薬品を運ぶため軍用機を投入する方針だ。ただ、代替輸送が実施されても、ドーバー海峡経由の大量の物流量をカバーしきれる保証はない。【12月15日 産経】

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****英EUのFTA交渉を再開へ 関税発生見込みドーバー海峡で大渋滞**** 

英国と欧州連合(EU)は21日、自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉を行う。FTAを批准するEU欧州議会は「20日深夜まで」の妥結を求めてきたが、英EUは同日までの協議で主要課題をめぐる立場の隔たりを埋められず、交渉の継続を決めていた。

 

年末の期限まで残り1週間余りとなる中、交渉決裂の危機が迫っている。合意したとしても、議会承認を経ずにFTAを暫定的に発効させる可能性がある。

 

FTA交渉では「EUの漁船による英周辺海域での漁業権」や「企業の公正な競争環境の確保」の主要課題で協議が難航している。

 

特に、漁業権をめぐっては英EU間に「大きな相違」(EUのフォンデアライエン欧州委員長)があり、協議が進んでいない。

 

英国は現在、EUとの経済関係などが維持される離脱の「移行期間」にあるが、同期間は年末に終了する。移行期間中にFTAを発効させなければ、英EU間の貿易に関税が発生し、欧州経済が混乱する。

 

すでに英仏間を結ぶドーバー海峡では、来年1月からの関税発生を見込み、年末までに食料品などを運ぶため英国に向かおうとするトラックの渋滞が発生している。

 

FTAの発効には、英EU双方の議会で批准する必要がある。だが、欧州議会は「20日深夜まで」に妥結できた場合に限り、年内に承認する方針を示していた。欧州議会外務委員会のマカリスター委員長は20日夜、合意が得られなかったことを受け、自身のツイッターで「欧州議会は年内に合意を批准する立場ではなくなる」と明言した。

 

英EUは交渉で合意した場合、混乱を避けるため、FTAを暫定的に発効させ、欧州議会の承認を後回しにする選択肢について協議するとみられる。【12月21日 産経】

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【変異種騒動で渋滞の大動脈ドーバーも停止】

関税賦課による混乱を見越して「トラックの渋滞が発生している」というイギリスにとっての大動脈・ドーバー海峡が新型コロナ変異種で「閉鎖」に。

 

****英ドーバー港、フェリーターミナル閉鎖 英仏間の物流に影響必至*****

英国と欧州大陸を結ぶフェリーなどが発着する英ドーバー港は20日夜、フェリーターミナルを閉鎖した。

 

英国で新型コロナウイルス変異種の感染が拡大し、フランス政府が21日午前0時から、英国からの入国を48時間停止すると発表したことを受けた措置。クリスマス直前の繁忙期を迎える中、貨物輸送業者をはじめとする物流への影響は必至だ。

 

英BBCによると、ドーバーと仏カレー間はクリスマスなどのピーク時には1日当たり約1万台のトラックがフェリーなどで行き来する。

 

特に今年は新型コロナの感染拡大による物流の混乱や、今月末に迫る英国の欧州連合(EU)離脱の移行期間終了を前にした企業の在庫積み増しの影響で、英仏両サイドで大渋滞が問題化。新型コロナ変異種の感染拡大で、混乱に拍車がかかることになった。

 

英政府の報道官は20日、「(ドーバー港のある)ケント州で重大な混乱が予想される。州への移動は控えてほしい」との声明を発表。英政府は21日に緊急会合を開き、対応策を検討する。

 

現時点で、フランスから英国向けの物流に規制はかかっていないが、英食品飲料連盟(FDF)は「大陸のトラック運転手が(英国に)取り残されると恐れれば、英国への移動は控えるだろう。英国のクリスマス時の生鮮食品の供給に混乱が生じる可能性がある」と懸念を示している。【12月21日 毎日】

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“海底トンネルで英仏などをつなぐ高速鉄道「ユーロスター」は21〜22日、ロンドン発パリ行きの便を停止する。貨物列車も仏行きは運行を取りやめる。”【12月21日 読売】

 

「現時点で、フランスから英国向けの物流に規制はかかっていない」とのことですが、イギリスに渡ったら当分帰ってこれないかも・・・ということでは、誰もイギリスに行かないでしょう。

 

そうなると物流が途絶え、市民生活に必要な生鮮食料品、その他食料・飲料、さらにはコロナ対策ワクチンの不足などの心配も出てきます。

 

“シャップス英運輸相は21日、国内メディアに対し、大陸欧州への貿易の大動脈が止められたことは驚きとし、再開に全力を挙げていると述べた。”【12月21日 ロイター】とのことですが、「驚き」では済まされない状況です。

 

本来ならこういうときこそ近隣国との関係が命綱にもなりますが、EUを離脱してEUとの絆を切ってしまったことが裏目に出ている感も。

 

もともと、EUとの交渉決裂の混乱については、「どうせ、経済は新型コロナで混乱しているのだから、この際多少その混乱が膨らんでも、国民に対しては全部コロナのせいにすればいい」といった都合のいい「思惑」がジョンソン首相およびその周辺にはあったのでは・・・と指摘もありましたが、「感染急拡大」「新型コロナ変異種」という想定外の事態深刻化にジョンソン首相は直面しています。

 

“英紙デーリー・ミラーは1面でジョンソン首相の写真とともに「欧州の病人」との見出しを掲載した。”【12月21日 ロイター】

 

“マット・ハンコック保健相は、・・・・「率直に言って、ひどい1年にとって、信じられないほど困難な終わり」になった”【前出 BBC】という嘆きはわかりますが、自由貿易協定(FTA)交渉がとん挫すれば、来年の年明けは「さらに困難な始まり」にもなりかねません。

 

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アフガニスタン  アフガン政府との交渉が進まないなかで、相次ぐテロ行為

2020-12-20 22:38:52 | アフガン・パキスタン

(殺害されたジャーナリストであり、活動家でもあったマララ・マイワンドさん【12月11日 BBC】)

 

【タリバンが設置する学校とは?】

今日、気になったニュース。

 

****タリバンとユニセフ、「学校」設置で合意 支配地域に4000校 将来の政権参加狙い****

アフガニスタンの旧支配勢力タリバンと国連児童基金(ユニセフ)は、タリバンが支配したり影響力を持ったりしている地域で、4000の非公式の学校を設けることで合意した。英紙デーリー・テレグラフ(電子版)が17日報じた。

 

タリバンとアフガン政府の和平協議が進む中、タリバンには国際社会と協働する姿勢を示すことで、将来政権に参加する場合に重要な役割を担えるとアピールする狙いがあるとみられる。

 

デーリー・テレグラフ紙によると、民家などで運営される非公式の学校が、ヘルマンド▽カンダハル▽ウルズガン▽ファルヤブ――の各州に設けられ、小学校3年までの教育が行われるという。既にこの地域には680の同様の学校があり、今後、大幅に増設していく方針だ。

 

ユニセフの担当者は同紙に対し、今年2月にタリバン側から学校設立を持ちかけてきたと明らかにしたうえで、「我々にとって大きな進展であり、とても興奮した」と語った。

 

ユニセフによると、アフガンでは推定で370万人に上る子供が学校に通っていない。今回の合意で、女子を含む12万人以上の子供の就学が期待されている。タリバン政権(1996〜2001年)下では女子の教育が制限され、タリバンは国際社会から批判を浴びた経緯がある。

 

タリバンは9月からアフガン政府と和平協議を行っている。だが協議の進め方を巡る対立が長引き、恒久的な停戦や今後の政治体制の在り方などの本格的な議論まで進めていない。

 

この間もタリバンは政府への攻撃を強化し、譲歩を引き出そうとしている。協議を仲介する米国や、タリバンに影響力を持つパキスタンは、タリバンに暴力行為の抑制や停戦に応じるよう求めている。【12月20日 毎日】

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上記記事だけでは、「学校」なるものの詳細はわかりません。

 

タリバンがつくるものでしょうか? それにユニセフが何等か関与するのか?

 

女子教育の話も出ているので、男女ともに学べる学校でしょうか?

 

教育内容はイスラムの教えに偏ったものではなく、普通の学校でしょうか?

 

わからないことは多々ありますが、女子教育にタリバンが積極姿勢を見せたということであれば、喜ばしいことでしょう。

 

米軍が撤退するなかで、遅かれ早かれタリバンがアフガニスタン統治に参加してくるのは目に見えている感もありますので。

 

その形が、現在のアフガニスタン政府に参加するような形なのか、あるいは、現在の政府をやがては駆逐して、タリバンの単独支配の形になるのか・・・そこらはまだよくわかりませんが。

 

【進展しない交渉 暴力で圧力をかけ続けるタリバン】

タリバンとアフガニスタン政府の交渉は、目立った進展と言えるようなものは報じられていません。

 

****アフガン和平協議の進め方や規則で合意 政府とタリバン*****

アフガニスタン政府と旧支配勢力タリバンによる和平協議について、協議を仲介する米国のハリルザド・アフガン和平担当特別代表は2日、アフガン政府とタリバンが協議の規則や進め方で合意したと発表した。協議は9月に始まったが行き詰まっていた。

 

具体的な合意内容は明らかになっていないが、ハリルザド氏はツイッターに「アフガンの人々は政治的なロードマップや停戦を期待している」と記し、早急な協議の進展を促した。

 

和平協議でタリバン側は、今年2月に米国と結んだ合意を「和平協議の土台」として位置づけることや、協議で問題が生じた際にタリバンが信奉するイスラム教スンニ派の法学に基づいて解決することなどを要求し、政府側が反対していた。【12月3日 毎日】

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“イスラム教スンニ派の法学に基づいて解決”・・・・これが何を意味し、どのように合意されたのか・・・よくわかりません。

 

ひとつ確かなことは、アメリカは一日も早くアフガニスタンから撤退したがっていること、タリバンによる暴力の圧力が続いているということです。

 

****アフガンで相次ぎ自爆テロ、計34人死亡****

アフガニスタン東部ガズニ州の軍事施設近くで29日、自爆テロが発生し、地元メディアによると、少なくとも兵士31人が死亡、24人が負傷した。南部ザブール州でも自爆テロがあり、少なくとも3人が死亡した。

 

両事件の犯行声明は確認されていない。ガズニ州の事件では、何者かが運転する車両が施設に突っ込み、爆発したという。同州では過去にイスラム原理主義勢力タリバンによる自爆テロが相次いで発生している。

 

アフガン和平をめぐり、政府とタリバンは9月から恒久停戦に向けた協議を始めたが、大きな進展はない。

 

一方、トランプ米政権は今月17日、駐留米軍を現在の約4500人から来年1月15日までに約2500人に削減すると発表。タリバンは治安維持の重しである米軍の撤収方針を勢力拡大の好機ととらえ、各地で攻勢を強めている。【11月29日 産経】

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一昨日の18日には、子ども15人が死亡する爆発も。

 

****アフガニスタン、爆発で子ども15人死亡****

アフガニスタン東部ガズニ州で18日、宗教的な集まりが行われていた建物付近で爆発物を積んだオートバイが爆発し、少なくとも15人の子どもが死亡した。地元当局が発表した。

 

爆発が起きた際、子どもたちはイスラム教徒にとって聖なる日である金曜日にいつも行うコーラン(イスラム教の聖典)の暗唱をするために住宅に集まっていた。

 

ガズニ州警察は爆発があったことを認め、同国の旧支配勢力タリバンの攻撃だとしている。死亡した15人の他に、子どもを含む20人が負傷したことも明らかにした。

 

アフガニスタン政府とタリバンは紛争終結を目指して和平交渉を開始したにもかかわらず、ここ数か月間、暴力行為が急増。

 

タリバンは、暴力を利用して交渉で優位に立とうとしていると非難されている。政府とタリバンによる和平協議は今年9月にカタールの首都ドーハで再開されたものの、来年1月初旬まで中断されている。 【12月19日 AFP】***********************

 

タリバンによるものか、ISによるものかはわかりませんが、女性の権利向上を訴えていた女性ジャーナリストを標的にした暴力も。

 

****アフガン、女性記者が銃撃で死亡 女性の権利向上運動も*****

アフガニスタン東部ナンガルハル州の州都ジャララバードで10日、地元民放の女性記者マラライ・マイワンドさんの車が出勤途中に何者かに銃撃された。州報道官によると、マイワンドさんと運転手が死亡した。

 

マイワンドさんはテレビキャスターとして活躍、女性の権利向上を訴える活動にも取り組んでいた。犯行声明は確認されていない。

 

ナンガルハル州では反政府武装勢力タリバンや過激派組織「イスラム国」(IS)が活動。同国では武装勢力が批判的な報道を抑え込もうと、報道関係者を標的にする事件が相次ぐ。11月には南部と首都で少なくとも2人が爆弾で殺害された。【12月10日 共同】

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マイワンドさん殺害は、「国際人権デー」に行われました。

北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)は先に、アフガニスタンでのジャーナリスト暗殺を非難する声明を出したばかりでした。

 

アフガニスタンで社会の現実を報道するジャーナリストや活動家、特に女性は、まさに「命がけ」です。

 

****アフガニスタンでジャーナリスト暗殺相次ぐ****

(中略)アフガニスタンではこのところ、ジャーナリストや活動家、政治家が標的になる事件が相次いでいる。

 

元テレビ司会者のヤマ・シアワシュさんは11月、首都カブールの自宅近くで、車に仕掛けられた爆弾で殺害された。南部ラシュカル・ガーでも、ラジオ・リバティーのアリヤス・ダイー記者が自動車爆弾で殺された。

 

また、映画監督のサバ・サハルさんはカブールで銃撃されたが、一命を取り留めている。サハルさんはアフガニスタンで最初に映画監督となった女性の1人。

 

同国で報道機関を支援する団体NAIは声明で、「女性ジャーナリストが活躍できる場所は狭まっており、これまでのような活動はできなくなってしまっているかもしれない」と述べている。

 

アフガニスタン政府と反政府組織タリバンは現在、カタールの首都ドーハで和平交渉を進めている。【12月11日 BBC】

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アフガニスタン政府はタリバンに即時停戦を呼びかけてはいますが、実現の可能性は低いと思われます。

 

****タリバンに即時停戦を呼び掛け アフガン外相、支援会議で****

スイス・ジュネーブで開かれたアフガニスタンの復興支援国際会議に出席したアフガンのアトマル外相は24日、会議が即時停戦を求めたことについて「(反政府武装勢力)タリバンへの強固なメッセージだ。世界からの要求を聞き入れなければならない」と呼び掛けた。閉会後のオンライン記者会見で述べた。

 

タリバンは政府との停戦協議中も攻撃を続け、国際社会から暴力停止を求める声が強まっている。だが、武力を背景に交渉を優位に進めたいタリバンが停戦を即座に受け入れる可能性は低いとみられる。【11月25日 共同】

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米軍も暴力削減をタリバンに求めてはいますが・・・・。

 

****米軍トップ、タリバンと会談=アフガンで暴力削減要求****

米国防総省は17日、制服組トップのミリー統合参謀本部議長がカタールの首都ドーハで、アフガニスタンの反政府勢力タリバンと会談したと明らかにした。ミリー氏は6月にもタリバン側と秘密裏に会談しており、今回が2回目という。

 

国防総省によると、ミリー氏は「暴力行為を即刻削減する必要性」を強調。その上で、政治的解決に向けた進展を加速させるよう求めた。【12月18日 時事】

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こうした情勢にあっての、冒頭記事のようなタリバンの学校設置合意。タリバンも柔軟な考え方に変わりつつあると素直に喜んでいいものなのか・・・やはり、旧タリバン政権時代のような暴力的・イスラム至上主義的体質は変わっていないと見るべきか・・・・。

 

ただ、そのタリバンが政権に加わる日、あるいは現政権にとって代わる日はそう遠くないかも。

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先進国のワクチン争奪戦や自国第一のなかでワクチン格差 中国のワクチン外交

2020-12-19 22:46:54 | 疾病・保健衛生

(【9月2日 NHK】)

 

【途上国では21年中に10人に1人しかワクチンが行き渡らない恐れ】

新型コロナワクチンの接種がイギリスなど欧州やアメリカで始まっていますが、それにともなって顕在化している問題が「ワクチン格差」。

 

****ワクチン格差「貧困国は10人に1人だけ」 国際団体が警鐘****

新型コロナウイルスのワクチン実用化が進む中、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルなどで構成する普及団体「民衆のワクチン連盟」は、先進国のワクチン買い占めのため貧困国では来年、10人のうち9人が接種を受けられないとの見通しを示した。

 

貧困国にもワクチンが行き渡らなければパンデミック(世界的大流行)の収束や世界経済の回復は見通せず、同団体は警鐘を鳴らしている。

 

同団体によると、欧米やカナダ、日本やオーストラリアなど世界人口の14%にすぎない国々が有望なワクチンの53%を確保。中でもカナダは人口の5倍のワクチンを注文した。

 

一方、67の貧困国や途上国では来年中にワクチンが届くのは10人中1人にとどまる。エチオピアやナイジェリアなどアフリカのほか、ミャンマー、パキスタン、ハイチなどアジアや中米の国々が該当する。

 

カタールの衛星テレビ局アルジャジーラ(電子版)によると、韓国が人口の88%をまかなう量のワクチンを確保したが、人口1億人超のフィリピンは130万人分にとどまるなど、アジア諸国でも開きがある。

 

ワクチンの共同購入で途上国などへの供給に道を開く世界保健機関(WHO)主導の枠組み「COVAX(コバックス)」には180以上の国・地域が参加。ただ、ロイター通信によると米バイオ企業モデルナのワクチンや、米製薬大手ファイザーと独バイオ企業ビオンテックが共同開発するワクチンは、先進国が大半を押さえたもようだ。

 

英製薬大手アストラゼネカと英オックスフォード大は、共同開発中のワクチンの6割以上を途上国に割り当てる方針だが、来年供給できるのは世界人口の2割弱にとどまるという。

 

英BBC放送によると、アフリカでは南アフリカやモロッコ、エジプトなどで感染が拡大しており、9日現在の累計感染者数は約230万人で5万人以上が死亡した。検査件数は一部の国に偏っており、実態はより深刻だとの見方が強い。

 

WHOはワクチン供給に向けた実態調査や施設整備などを求めているが、アフリカでは定められた基準の30%程度しか済んでおらず、WHOは目標に「ほど遠い」と指摘した。

 

アフリカ連合(AU)は今後2〜3年で人口の6割にワクチンを接種する目標を掲げているが、ワクチン保存のための冷蔵施設の増強などが課題になっている。【12月11日 産経】

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各国とも自国民向けのワクチンを確保するのに必死で、激しい争奪戦が繰り広げられています。

 

正直なところ、個人的にも「欧米でワクチン接種が始まっているのに、日本は何やってんだよ。桜の咲くころ?もっと後? 早くしてよ。」って感じで、自国第一、自分第一の考えが抑えられません。

 

トランプ大統領は「アメリカ人の需要を満たすことができるようにし、それからワクチンを国際的に利用できるよう支援する」という自国優先の供給を製薬会社に求める大統領令に署名し、「ワクチン・ナショナリズム」を明確にしていますが、そのことをとやかく言う資格もないようにも。

 

ただ、記事にもあるように、「貧困国にもワクチンが行き渡らなければパンデミック(世界的大流行)の収束や世界経済の回復は見通せない」というのも事実で、冷静な対応も必要となります。

 

自力でワクチン確保が難しい国を対象にしたWHO主導の枠組み「COVAX(コバックス)」がどこまで機能するか・・・・。

 

****ワクチン共同購入枠組み「COVAX」、21年に20億回分供給の見通し****

新型コロナウイルスのワクチン開発に各国が共同出資・購入する枠組みの「COVAX(コバックス)」は18日、2021年中に20億回分のワクチンを確保し、低・中所得に当たる92カ国に少なくとも計13億回分を供給する見通しを発表した。

 

COVAXは各国の所得格差によらず公平なワクチン配分を目指す枠組み。新型コロナのワクチンを開発中の英アストラゼネカなどの医薬品大手と契約を交わし、英米両国で接種が始まった米ファイザーや、米国が承認した米モデルナとは交渉中だという。

 

枠組みに参加する190カ国・地域に、21年1〜3月ごろにワクチンを届ける目標だが、各国での接種開始には、それぞれの規制当局による承認が必要だとしている。

 

ワクチン供給を巡っては、高所得の国などが国民1人に複数回の接種を想定して、人口の倍やそれ以上のワクチンを確保する一方、途上国では21年中に10人に1人しかワクチンが行き渡らない恐れが指摘されている。

 

国際NGO「オックスファム」などは今月9日、COVAXを主導する世界保健機関(WHO)を通じ、製薬技術を共有しワクチンを量産できるようにすべきだとの提言を発表した。【12月19日 毎日】

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建前・きれいごと・理想は嗤われ、本音と称するものが重視される昨今の風潮のなかで、「COVAX(コバックス)」などを機能させて、貧困国を含めた全人類的な取り組みを進めるのは困難な道のりではありますが、やはりどうしても守らねばならない理想・建前もあります。

 

それを捨ててしまえば、弱肉強食のけだものの世界と同じレベルに堕ちてしまいます。

本来は、そのあたりを国民に訴えるのが政治家の役割ですが、大衆の「本音」を煽り、利用するポピュリズムが幅を効かす昨今では、ほとんど期待できません。

 

【東南アジア諸国のワクチン事情】

アフリカ諸国よりはかなり国力があると思われる東南アジア諸国の取り組みも国力・国情に応じて様々なようです。

 

****コロナワクチン確保へ動き活発 東南・南アジア 「国産」開発着手 輸送「ハブ化」も視野****

新型コロナウイルスワクチン確保の動きが、東南アジアや南アジアでも活発になり始めた。欧米などからの購入に加え、国産ワクチンの開発、さらには輸出や輸送の「ハブ」を目指す動きもある。一方で、国際的な分配の枠組みに頼らざるを得ない国もあり、格差が生じているのが実情だ。

 

ベトナムで17日、製薬会社ナノゲン社が国防省傘下の軍医学院と共同で国産ワクチンの治験を始めた。同国では徹底した隔離などで市中感染を抑えてきたが、本格的な経済回復にはワクチンが欠かせない。米デューク大によると、人口約9600万人のベトナムが外国から購入予定のワクチンは1億5千万回分。複数回の接種が必要になる場合もあり、外国からの購入に頼るだけでは心もとない。

 

そのため、政府は英米中ロからの輸入の交渉を進める一方で、来年末までの国産ワクチンの完成を目指してきた。ナノゲン社以外にも保健省傘下の3組織が開発を進めており、事実上の国家プロジェクトだ。

 

ナノゲン社が来年8月に計画する1万人規模の最終段階の治験では、市中感染が多いバングラデシュ、インド、インドネシアとの協力も予定され、成功すれば輸出も視野に入る。

 

タイも観光産業など経済の立て直しに向けて、ワクチンの確保を急ぐ。英製薬大手と11月に購入契約を結んだほか、大学などで国産ワクチンの開発に着手しており、早ければ年明けにも治験を始める。

 

シンガポールでも地元の大学が米企業との連携でワクチン開発を進め、8月から治験を開始。順調なら来年1~3月の初出荷を見込む。また、米ファイザー製のワクチンが12月中に到着し、米モデルナや中国シノバックとも契約。来年9月末までに全住民分を確保して無料で接種する方針だ。

 

さらに、世界各地から航空路線が乗り入れている優位性を生かし、ワクチン輸送の国際的な「ハブ化」も目指している。空港が持つ低温での貨物輸送のノウハウを使い、欧米の製薬会社から東南アジア、豪州方面への輸送の経由地となることをねらう。

 

 ■まずは緊急使用許可

感染者数が世界で2番目に多いインドでは、ワクチンの緊急使用許可の申請が製造企業から政府に相次ぐ。欧米企業の現地法人のほか、インド企業も治験を進めている。まずは医療従事者や50歳以上の人、基礎疾患のある人らに優先して接種する方針だ。保健担当相は「来年7月までに2・5億~3億人がワクチンを接種できる」と述べた。

 

インドネシアには6日、中国からワクチンの第1便を積んだチャーター機が到着。ジョコ大統領は「朗報を伝えたい。120万回分のワクチンを受け取った」と胸を張った。複数のワクチンの確保を目指すが、まずは「ワクチン外交」を繰り広げる中国が頼みの綱。中国から原料を仕入れて国産化を図りたい考えだが、十分な量をいつ確保できるか見通せず、中国頼みが続く可能性がある。

 

ワクチン途上国にも行き渡るよう、世界保健機関(WHO)などが主導して共同購入する「COVAX(コバックス)ファシリティー」に頼らざるを得ない国もある。

 

感染拡大が続くミャンマーはコバックスで来年中に人口の2割にあたる約1100万人分を、23年までに約3300万人分を確保する計画だ。

 

カンボジアのフン・セン首相も15日、コバックスを通じて人口の2割分のワクチンを入手する考えを明らかにした。ただ、コバックスを通じた確保には限界があり、さらに必要となれば外国からの購入資金などが課題になる。【12月18日 朝日】

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技術的問題としては、先進国でも手を焼いている「低温保存」の問題を、十分なインフラもない貧困国がどのゆにクリアできるか・・・という問題もあります。

 

【したたかな中国のワクチン外交】

上述のような情勢にあって、てをyアメリカが「自国第一」に走るのと対照的に、中国はこの機をとらえてワクチン供給、さらにはインフラ建設で各国への影響力を高めようとする「ワクチン外交」に力を入れているのは周知のところ。

 

****中国が仕掛けるワクチン外交 「健康のシルクロード」建設着々****

世界の富裕国が供給量に限りのある大手製薬会社の新型コロナウイルスワクチン確保に奔走する中で、中国は積極的に、資金力の弱い国々に中国製ワクチンの提供を申し出ている。

 

だが、その気前の良さは100%利他的なものとはいえない。中国政府が求めているのは外交上の長期的な見返りだ。

 

この戦略には、新型コロナ流行初期の中国政府の対応への怒りや批判をかわし、中国のバイオテクノロジー企業の知名度を上げ、アジア内外での中国の影響力を強化・拡大するなど、複数のメリットがある。

 

「中国が、悪化したイメージの回復を図ってワクチン外交を展開しているのは間違いない」と、米外交問題評議会上級フェローの黄延中氏はAFPに指摘した。ワクチン外交は「中国の世界的影響力を増大し、地政学的な諸問題を(中略)解消するツールとなりつつある」という。

 

■米国不在の保健分野をリード

中国政府はパンデミック(世界的な大流行)の初期には、マスクや防護服などの大量輸出を急ぎ、医療が逼迫(ひっぱく)していた欧州・アフリカ各地に医療チームを派遣した。

 

そして今、欧米の製薬会社がワクチンの供給を始める中で、自国製ワクチンの大量供給を開始し、次々と合意を結んでいる。相手国には、中国との関係がぎくしゃくしている国も含まれている。

 

中国の外交官がワクチン供給合意を取り付けたマレーシアとフィリピンは、いずれも南シナ海への中国進出に苦言を呈してきた。8月に李克強首相がワクチン優先供給を約束したメコン川流域の国々は、中国が上流に建設したダムの影響でひどい渇水に見舞われ、干ばつが悪化している。

 

「公益」を掲げて世界中に中国製ワクチンを提供する習近平国家主席の動きは、中国こそが世界の保健分野を主導する国だとアピールする機会になっていると黄氏は言う。

 

米国がドナルド・トランプ大統領の「米国第一主義」の下でなおざりにしてきた役割を、中国がここぞと肩代わりした格好だ。

 

■「健康のシルクロード」

中国は、低・中所得国のワクチン市場のわずか15%を獲得しただけで約28億ドル(約2900億円)の純利益を見込めると、香港の安信証券は試算する。

 

全世界でワクチン接種を推進するためには、超低温での輸送を可能にする低温物流網(コールドチェーン)や保管施設の整備も必要だが、CFRのカーク・ランカスター氏はこれらの事業について、習氏が1兆ドル(約103兆円)を投じて推進する巨大経済圏構想「一帯一路」にうまく調和すると指摘する。

 

すでに電子商取引大手アリババ(阿里巴巴)は、アフリカ・中東へのワクチン供給拠点となる倉庫をエチオピアとドバイに建設した。

 

また、中国政府はブラジル、モロッコ、インドネシアなどにワクチン製造施設を建設しているほか、中南米諸国に10億ドル(約1030億円)規模の資金提供を約束している。これらのインフラを、中国企業はコロナ後に利用できる。

 

「『健康のシルクロード』と銘打たれた一連の取り組みは全て、中国の国際的な評判を回復しつつ、中国企業向けの新たな市場を開拓することにつながっている」とランカスター氏は語った。 【12月17日 AFP】

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まったく抜け目のない国ですが、そうした戦略を実行できる国力があるというのは、たいしたものです。

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イギリス  かつての福祉大国 コロナ禍で食べ物に困る子供たち、ユニセフ支援も 日本のこども食堂は

2020-12-18 20:42:32 | 欧州情勢

(日本のこども食堂【2019年6月26日 FNNプライムオンライン】

ここ1,2年で急拡大した子ども食堂の取り組みですが、新型コロナ禍で厳しい運営を強いられ、多くは閉鎖されているとも)

 

【再び感染者急増 変異種も】

イギリスでは12月8日から、病院でのワクチン接種が始まり、第二段階として、一般開業医による患者への接種も12月14日から始まっています。

 

その一方で、やや沈静化しつつあったコロナの感染状況は、「密」の機会が増えるクリスマスを前にして、再び急増しています。しかも、その影響は定かではないものの、ウイルスの変異種が広がっているという不安な状況も。

 

****イギリスで新型コロナウイルスの変異種が急速に拡大****

英保健相は12月14日、イギリスで新型コロナウイルスの「変異種」が検出され、この変異種が最近の感染者数急増に関係していると述べた。世界保健機関(WHO)にはすでに報告されているという。

 

英保健相マット・ハンコックは、下院で行ったスピーチにおいて、ロンドンと、イングランド南部の多くの地域で新型コロナウイルスの感染者数が「急増」しているのを受け、新たに規制を強化すると述べた。 

 

この変異種が、感染者急増にどの程度関与しているのかはまだわかっておらず、重症化しやすいという証拠も、ワクチンに耐性を持つことを示す証拠も「何もない」とハンコックは述べた。

 

イングランドでは少なくとも60の地方自治体で、この変異種による感染が確認されている。 ハンコックは、イギリス全体では先週1週間で、1日の平均入院者数が13%、1日の平均感染者数が14%増加したと述べた。 

 

イングランド南部のロンドンとエセックス州の一部、ハートフォードシャー州南部では12月16日から、イギリス政府が定めた新型コロナウイルス対策で最も厳格な警戒レベルである「ティア3」が導入される。 

 

<ロンドンでは感染者が倍増>

 感染力は強いとみられ、ハンコックは下院で、「(中略)残念ながら、このきわめて有害なウイルスをコントロールするには、ワクチン接種を進める一方で、(警戒レベルの引き上げも)絶対に欠かすことができない」 

 

ティア3に引き上げられると、パブやレストランが営業できるのはテイクアウトと配達のみとなる。 ロンドン市長サディク・カーンは、ティア3の規制が導入されれば、接客業や文化、小売などの業界に「壊滅的な影響をもたらす可能性がある」と述べた。 

 

パブやレストランの多くは、クリスマスまでの1週間で来店するはずだった客のために食材や飲み物を事前に発注していたが、もはや「ビールをそのまま流しに捨てる」しかないと嘆く。 

 

ある議員の話としてBBCが報じたところによると、ハンコックは事前のブリーフィングで、ロンドンでは7日毎に感染者が倍増しており、12月23日に警戒レベルの次の見直しを行うと語ったという。 

 

感染者数の急増にもかかわらず、イギリス政府は「クリスマスのガイドラインを見直す予定はない」としている。クリスマスをはさんだ12月23日から27日の5日間は、規制が一時的に緩和され、3世帯までなら集まることが可能だ。(後略)【12月15日 Newsweek】

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ウイルス変異種に関しては「現在のところ、この変異株が重病につながると示すものはなく、ワクチンに反応しない可能性は極めて低い」と(ハンコック保健相)【12月15日 朝日】とのこと。

 

【困窮する子どもたち 先進国イギリスでユニセフの食料支援 「政治的」?】

イギリスに限らず世界各国はここまでコロナ感染拡大によって、経済・市民生活は非常に厳しい状況が続いています。

 

途上国などでは、経済規制、それに伴う景気悪化・失業などで「食べるにも困る」人々が多数出ていますが、さすがに先進国イギリスではそこまでは・・・という思い込みを覆すようなニュースが。

 

****ユニセフ、初めてイギリスの子供に食料支援へ****

設立70年以上になる国連児童基金(ユニセフ)は設立以来初めて、イギリスの子供たちに食料援助を提供することになった。パンデミックの影響で十分な食べ物を確保できない世帯が増えており、約2割の世帯で子供がおなかをすかせているからだという。

 

ユニセフUKのアナ・ケトリー氏は、「欠落を埋める」ための取り組みだと説明。「この国は世界有数の富裕国で、フードバンクや食料支援に頼る必要があってはならない」と述べた。

 

「究極的には、空腹に苦しむ子供をなくすため、食料貧困の根本原因に取り組む長期的解決が必要になる」

ユニセフは、ロンドン南部や南部デヴォンなどイギリス各地で貧困家庭の食料支援に取り組む市民団体や慈善団体連合に、数万ポンドずつの資金提供を始めた。【12月18日 BBC】

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「約2割の世帯で子供がおなかをすかせている」というのは、看過できない状況です。

 

私も、途上国や紛争国の子供支援のために月々免罪符がわりの微々たる金額をユニセフに寄付していますが、その一部が「世界有数の富裕国」イギリスに向けられるという事態に。

 

この状況は当然ながら、政治問題化しています。

 

****英、ユニセフから子どもへの食料配布支援 「不名誉」の批判も****

英政府は16日、国連児童基金(ユニセフ)から同国初となる子どもへの食料支援を受けたことが明らかになり、激しい批判にさらされている。

 

野党・労働党は、クリスマス休暇中に国内の貧困家庭約2000戸を対象に朝食を配布するための支援をユニセフから受けたことは「不名誉だ」と批判。同党副党首のアンジェラ・レイナー氏は、「われわれは世界で最も裕福な国の一つだ」とし、「こうなってはならなかった」と述べた。

 

さらに、英国の子どもたちが、紛争地帯や自然災害に見舞われた地域で活動する人道的慈善団体に依存する必要がないようにすべきだと批判した。

 

与党・保守党は以前にも、休暇中に最貧層の子ども向けに食事を無償提供する政策について激しい批判を受け、政策の転換を余儀なくされている。

 

ユニセフからの補助金2万5000ポンド(約350万円)は、ロンドン南部サザークにある複数のNPOに支給され、NPOは学校でクリスマス休暇の2週間に1万8000食の朝食を提供する計画。また、2月の中休み(ハーフターム)にも朝食6750食を配る。

 

ユニセフは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)は、第2次世界大戦後最大の緊急危機を子どもにもたらしていると指摘している。

 

ボリス・ジョンソン英首相の報道官は、コロナ禍で子どもたちを空腹にさせないための政策であり、政府は最近も食事を無償配布している慈善団体に対し1600万ポンド(約22億円)の追加支援を表明していると主張した。 【12月17日 AFP】

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金額的には“ユニセフからの補助金2万5000ポンド(約350万円)”というのは、それほど大きな金額でもありません。

 

それだけに、「ユニセフが乗り出す以前に、政府としてどうして対応できないのか? イギリス政府はそこまで困窮しているのか?」という疑問にもなり、上記記事の野党からの「不名誉だ」「こうなってはならなかった」という批判になります。

 

上記記事の首相報道官発言は、今回のユニセフの決定を是認しているように見えますが、与党内にはユニセフを「政治的」と批判する声もあるようで、ユニセフとイギリス政府の関係がどうなっているのかよくわかりません。

 

****英保守党幹部がユニセフに反発 英への食料支援は「政治的」****

国連児童基金(ユニセフ)が設立以来初めて、コロナ禍で困窮するイギリスの子供たちに食料援助を提供することについて、英与党・保守党のジェイコブ・リース=モグ下院院内総務は17日、下院でユニセフを強く批判した。

 

リース=モグ議員は、ユニセフUKがイギリスに食料支援を提供するのは「政治的」だと非難。ユニセフは最貧国の子供の支援が目的のはずであり、「恥を知るべき」だと述べた。

 

ユニセフUKは、英各地で困窮家庭を支援する団体に数万ポンドずつの助成金を提供すると発表している。たとえば、ロンドン南部で活動する「School Food Matters」には2万5000ポンド、英南部デヴォン州の複数の団体には計2万4000ポンドなどを助成している。

 

ユニセフは、どこで生まれるかを問わず、すべての子供は健やかに育つ権利があると主張している。

設立70年以上になるユニセフが、イギリスの子供に緊急支援を行うのは初めてという。

 

格差について質問受け

リース=モグ院内総務はこの日、野党・労働党のザラ・スルタナ議員から質問を受けた。

スルタナ議員は、「子供への人道援助を担当する国連機関、ユニセフが今回初めて、イギリスの労働者階級の子供たちに食事を与えなくてはならない事態になっている」と指摘。「しかし、子供がおなかをすかせている間も、少数の金持ちが下品なほどの富を享受している」と述べた。

 

その上で議員はリース=モグ院内総務に、「この社会を痛めつけるグロテスクな不平等を終わらせられるよう、ご自分と超金持ちのお仲間も公平に分担すべきだと、協議する時間を政府に与える」考えはあるかと尋ねた。

 

「本当のスキャンダル」

これに対しリース=モグ氏は、ユニセフは「恥を知るべきだ」と反論。「ユニセフがこのように政治的な真似をするのは、本当のスキャンダルだと思う。大勢が飢えている世界で、最も貧しく、最も困窮した諸国の人たちを助けるべきなのに、飢饉と内戦で揺れる国を助けるのではなく、ひとつの行政区に確か2万5000ポンドを与えるなどして、安易に政治的な得点を挙げている」と述べた。

 

これに対して、ユニセフUKのアナ・ケトリー氏は、「ユニセフUKは、イギリスで子供の権利のため働いてきた25年間の経験をもとに、この前例のない危機に対応している。8月に開始した一度きりの全国的な対応で、この危機下で危険にさらされている全国の子供や家族に支援を提供している」と説明した。

 

ケトリー氏によるとユニセフは、食料確保が不安定なパンデミック下でイギリス各地の住民グループに計70万ポンド以上の資金を提供している。

 

「ユニセフは引き続き、世界で最も貧しい子供たちを助けるために、国際的な資金を使っていく。私たちはすべての子供が大事で、すべての子供が、どこで生まれたかにかかわらず、生き延びて健やかに成長する権利があると信じている」と、ケトリー氏は強調した。【12月18日 BBC】

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かつて「ゆりかごから墓場まで」の福祉大国としられたイギリスの福祉制度は、その後のサッチャー改革などで大きく変容しています。

 

詳しい事情はわかりませんが、ユニセフが乗り出すような事態となっているなら、「政治的な真似」云々を批判する前に、現状を直視する必要があるのでしょう。

 

【日本では、コロナ禍で閉鎖されるこども食堂】

ひるがえって日本の状況。

日本では、様々な事情で十分な食事が難しい子どもたちに食事を提供する「子ども食堂」というものがあります。

 

****子ども食堂*****

子ども食堂は、子どもやその親、および地域の人々に対し、無料または安価で栄養のある食事や温かな団らんを提供するための日本社会活動

 

2010年代頃よりテレビなどマスメディアで多く報じられたことで動きが活発化し、孤食の解決、子どもと大人たちの繋がりや地域のコミュニティの連携の有効な手段として、日本各地で同様の運動が急増している。

 

子ども食堂の形態は、運営者次第で様々な運営形態があり、参加費(料金)、開催頻度、メニューも食堂ごとに違いがあり、明確な定義があるわけではない。(後略)【ウィキペディア】

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*****子ども食堂とは?****

こども食堂とは、地域住民や自治体が主体となり、無料または低価格帯で子どもたちに食事を提供するコミュニティの場を指しています。

また、単に「子どもたちの食事提供の場」としてだけではなく、帰りが遅い会社員、家事をする時間のない家族などが集まって食事をとることも可能です。

このように、「人が多く集まる場所」ができたことで、地域住民のコミュニケーションの場としても機能しているのです。


こども食堂は、民間発の自主的、自発的な取り組みから始まりました。(出典:農林水産省公式サイト「子供食堂と連携した地域における食育の推進」)【gooddo】

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政府の制度ではなく、民間・地域のボランティア活動に支えられたもののようです。

 

その子ども食堂の多くが、新型コロナ禍で閉鎖に追い込まれています。

 

****コロナ禍での子ども食堂、フードロス、そして直筆の手紙(前)****

コロナ禍で日常生活そのものに大きな変化が生じた。運営する「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)での子ども食堂も例外ではない。

 

まず、「三密」は避けようがない。子どもの仕事は大きな声で話し、激しく動き回ることだ。
 

当然、手づくりの食事提供は不可能となった。食堂を閉鎖することは簡単だが、コロナ禍が長引くと食事づくりのボランティアの士気にも影響する。一度閉めれば、再開は容易なことではない。とはいえ、閉鎖を回避できたのはレトルト食品などの提供のおかげであったが…。

 

コロナ禍での子ども食堂

マスク姿のボランティアさんたち 全国の子ども食堂の大半が食事提供を中止している。

 

子ども食堂は、生活困窮者の子どもたちに食事を提供するだけではなく、学習支援などにおいても大きな力となっている。地域の目となり、虐待や育児放棄(ネグレクト)などの発見において地域の見守り役として重要な役目も担っている。

 

子ども食堂は、団地の集会場や公共施設の会場などを利用している例が多いが、コロナ禍で使用制限などの理由によりその役目をはたすことができないでいる。(後略)【11月24日 Net IB News】

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一方で、大企業が支援に乗り出す動きもあるようです。

 

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「無料や低価格で食事を提供する『子ども食堂』を、大手企業が催したり、支えたりする動きが広がっている。食品ロスを減らしながら、地域や社会への貢献を目指す活動。新型コロナウイルスの影響で通常通りの運営が難しいが、オンライン開催なども進めている」(朝日新聞 11月7日付)。

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感染リスクを避けながら、非日常の楽しみを提供したいと大手コンビニストア、(株)ファミリーマートが9月下旬、東京都内の店舗と家庭をオンライン会議システムでつないだ「デジタル子ども食堂」を初めて開いた。

 

「5家族17人が参加。通常だと、食事の提供とともに、レジ打ちや普段は入れないお店の裏側を見るなどの体験イベントがある。デジタルでは、『ファミチキ』調理の様子を見たり、事前に配った菓子を一緒に食べたりして1時間を過ごした」(同)。

 

日本ケンタッキー・フライドチキン(株)は子ども食堂への食材提供を年内に100カ所へ広げる。「ぐるり」にも小売店や大手スーパーなどからの「食料品の寄付」が増えはじめ、前回(11月12日)開催の子ども食堂では大量の菓子の提供があり、スタッフがうれしい悲鳴を上げていた。

 

企業側の本音は、食品ロスを回避し、「捨てられる運命にある食品を有効に活用したい」というものだ。同時に、社会貢献をすることで、企業のイメージアップにもつなげたいという思惑も見え隠れする。【前出 Net IB News】

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まあ、どんな「思惑」でも、それで子どもたちが助かるなら歓迎すべきことでしょう。

 

イギリスの「ユニセフ支援」を嗤うのではなく、日本国内の状況がどうなっているのかを確認し、民間・地域の善意に頼るだけでなく、政府による公的支援の余地の検討を行うべきでしょう。

 

 

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中国  今更ながら、宇宙・新技術でも、地域的にも、コロナ禍でも強まるその存在感

2020-12-17 23:21:40 | 中国

(中国の無人月面探査機「嫦娥5号」が採取した月の土壌試料入りのカプセルを調べる関係者ら=中国の内モンゴル自治区で2020年12月17日【12月17日 毎日】)

 

【宇宙・新技術で勢いを強める中国】

日本の小惑星探査機「はやぶさ2」は素晴らしい成果をおさめ、日本の宇宙開発技術の高さを示すものともなっていますが、ほぼ同時期、中国の無人月面探査機「嫦娥(じょうが)5号」も地球に帰還し、中国の並々ならぬ宇宙開発への「勢い」および「実績」を示すものとなっています。

 

****中国の無人探査機、月から帰還 土壌試料入りのカプセル持ち帰る 宇宙開発で米に対抗****

中国の無人月面探査機「嫦娥(じょうが)5号」が17日午前1時59分(日本時間同2時59分)、採取した月の土壌試料入りのカプセルと共に、中国の内モンゴル自治区に着地した。国営新華社通信が伝えた。

 

月から試料を持ち帰ったのは米国、ソ連に続き3カ国目。1976年の旧ソ連の「ルナ24号」以来44年ぶりとなる。月の成り立ちなどを探るための重要な手がかりとして注目されている。

 

中国は近年、宇宙開発で成果を積み重ねており、米国に対抗する「宇宙強国」の建設を印象づけた。(中略)

 

嫦娥5号は11月24日、南部の海南省から大型ロケット「長征5号」で打ち上げられた。12月1日に月面への着陸に成功した後、試料を採取。月の周回軌道上で機体の分離やドッキングなどの複雑な工程をこなした。

 

中国は宇宙開発を国家戦略の柱として重視している。2003年10月、米露に次いで有人宇宙飛行に成功。07年10月、初の月探査機「嫦娥1号」を打ち上げ、19年1月には「嫦娥4号」が世界で初めて月の裏側に着陸した。20年7月には火星への着陸を目指す探査機を打ち上げ、22年までに地球を回る軌道上に宇宙ステーションの建設も計画する。

 

米国は中国の台頭に危機感を強めている。米国は19年5月、月面に再び人を送る「アルテミス計画」を発表し、日本などが参加を表明。米軍は19年12月に「宇宙軍」を発足させており、宇宙空間を巡っても米中の覇権争いが激しくなっている。【12月17日 毎日】

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鼻息も荒い中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は、英フィナンシャル・タイムズの「月への往復、中国の研究開発は米国を置き去りにしつつある」とする記事を紹介しています。

 

フィナンシャル・タイムズ記事は、アメリカのNASAなど宇宙開発予算が減少する一方で、中国のそれは大きく増加している事実などを指摘したうえで、「パンデミックの悲劇の中で、世界の二つの経済大国は、貿易戦争やその他の分野で衝突を続けている。しかし先週、そのうちの一つの国の科学者が象徴的な精密機器の崩壊(米自治領プエルトリコのアレシボ天文台の巨大電波望遠鏡が崩壊)を嘆き悲しむ一方で、もう一つの国の科学者は間もなく到来する発見(嫦娥5号)を喜び祝った。これは何かの予兆だろうか」と結んでいるそうです。

 

現在の中国の技術水準をどのように評価するかについては、意見もいろいろあるかもしれませんが、中国躍進のスピードがただならぬものであることは事実でしょう。

 

その流れは、宇宙開発に限らず、多くの「新技術」分野で見られる現象であり、「中国は新技術の独占を通じ、経済や地政学的利益を追求している」とアメリカ議会も懸念を強めています。

 

****中国の新技術独占に懸念、「自由な国際秩序失う」=覇権に野心―米議会報告****

米議会の超党派諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」は1日、中国が「次世代技術の開発独占や標準化を目指している」と強い懸念を示す年次報告書を公表した。新技術の独占を通じ、経済や地政学的利益を追求していると指摘。「中国の意図を過小評価すれば自由な国際秩序を守るための対応が遅きに失するリスクを招く」と警鐘を鳴らした。

 

香港への国家安全維持法導入など、中国が国際規範やルールに縛られずに影響力拡大や覇権への野望をむき出しにしつつあると訴える内容。米国に根付く対中不信の強さを改めて浮き彫りにし、来年1月に発足するバイデン次期政権に米中関係の課題を突き付けた形だ。

 

報告書は「中国は2020年、国際機関や地域を自国の意向に従わせるという野心をさらけ出し、覇権を目指す姿勢を激化させた」と強調。米国が擁護する自由な民主主義を「根本的な障害」と捉え、他国に自在に影響力を行使できる新しい国際体制の構築を狙っていると断じた。

 

その一環として、国際電気通信連合(ITU)など国際規格設定機関のトップに中国人を送り込み、自国に有利な次世代技術の基準作りで主導権を握ろうとしていると指摘した。

 

巨大経済圏構想「一帯一路」に基づき、通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)による次世代通信規格「5G」のインフラ整備で、各国を取り込む狙いがあるとも分析した。

 

新型コロナウイルス対策では、パンデミック(世界的流行)を利用し、医療機器などの提供により「責任と善意のある国際的リーダー」として振る舞おうとしたと強調。各国が混乱に陥る中で、台湾や隣国を軍事的に威圧する一方、中国を批判するオーストラリアなどには牛肉の輸入制限などの経済報復を行ったと批判した。【12月2日 時事】

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【アフリカにおける存在感 アジアでも】

地政学的にみた中国の影響力の拡大は今更言うまでもないところ。

 

****中国、アフリカを「実験場」に=政治・経済両面で影響拡大―米報告書****

米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」が公表した報告書は、中国の対アフリカ戦略の分析に大きな分量を割き、中国式統治モデルの「実験場」としてアフリカ進出を強めている現状に懸念を示した。同委によれば、毎年議会に提出される同報告書でアフリカ情勢を大々的に取り上げたのは初めて。

 

報告書は「中国政府がアフリカを中国式政治・経済モデルを輸出する実験場と見なしている」と指摘。政治、経済的関与を通じて得た影響力を行使して国際舞台で中国の権益主張を支持させる一方、アフリカや国際組織における米国の影響力を低下させていると憂慮を示した。

 

経済分野では、中国がコバルトなどのアフリカ産鉱物資源の供給を独占し、価格を自在に設定することを警戒。中国企業がアフリカの新興デジタル経済に着目し、ベンチャーキャピタル市場への投資を拡大して次世代の技術標準を設定しようとしていると分析した。

 

中国はアフリカや世界各地で軍事転用可能な港湾開発を進め、拠点の確保を図っている。報告書は、中国がアフリカ大陸やその周辺での軍事プレゼンスを拡大すれば「インド洋西部や大西洋南部で米海軍の活動が阻害されることにつながりかねない」と警鐘を鳴らした。

 

調査委員会のキャロリン・バーソロミュー副議長は「中国が政府一丸となって『人類運命共同体』の青写真を実行に移そうとしているのがアフリカだ」と説明した。【12月2日 時事】 

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政治的進出の基盤となっているのが経済的な存在感

 

****アフリカを訪れた日本人が「ここは中国か?」と訝った理由=中国****

日本では多くの「メード・イン・チャイナ」の製品が販売されており、今や中国製品なしの生活は考えられなくなったと言えるだろう。これはアフリカ市場においても同じで、「ここは中国か」と見まがうほど大量の中国製品であふれているようだ。


中国メディアの百家号は11月30日、「アフリカは中国製品だらけ」と紹介する記事を掲載し、アフリカ市場は中国製品の天下だと伝えた。(後略)【12月4日 Searchina】

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当然に、現地での軋轢は多々あり、そうした軋轢や「債務の罠」みたいな話の指摘はありますが、全体的にはアフリカ現地では中国の進出は好意的にとらえられているとも。

 

****アフリカ人の6割が中国の影響力を肯定―中国メディア****

中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)は19日付の記事で、「汎アフリカ研究機関のアフロバロメーターが17日発表したリポートによると、アフリカ人の約6割(59%)が中国の政治的および経済的影響力について好意的な見方をしている」と報じた。

記事によると、アフロバロメーターは2019年7月から20年4月まで、アフリカの18カ国で2万6000人以上を対象に調査を実施した。アフロバロメーターは5年前(2014年から15年にかけて)にも同様の調査を行っている。

今回の調査結果によると、中国の政治的および経済的影響力について好意的な見方をしている人の割合が高かった国は、カーボベルデ、ギニア、マリ、ブルキナファソで、いずれも80%を超えた。

「米国と中国のどちらの国の開発モデルを好むか」との問いでは、「米国」が32%、「中国」が23%だっだ。

 

だが5年前の調査と比べると、ガーナ、ナイジェリア、ウガンダ、ギニア、コートジボワールなど、中国が現地のインフラ整備に投資している国では、中国の開発モデルの人気は安定しているか、より前向きになっている。

ブルキナファソでは、中国の開発モデルの人気は、前回調査からの5年間で、20%から39%へとほぼ倍増している。

 

オーストラリアの学術系ジャーナリズムサイト、The Conversationは、「中国が戦略的に地域の安全保障と開発に深く関わってきたことによるもの」と分析している。

記事によると、The Conversationは、「中国に対する好意的な見方は、5年前の65%から減少している。これは『債務のわな』の主張に関連している可能性があるが、中国の影響力は依然としてアフリカにとってプラスであると考えられている。アフロバロメーターの調査結果はとても重要だ。アフリカの人々の見方やニーズがよりよく反映されており、前向きな関係の構築に資する」と伝えている。【11月23日 レコードチャイナ】

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話はアジアでも同様でしょう。

ロシアの「裏庭」だった中央アジアにおける、中国の存在感の高まりはよく指摘されるところ。

 

東南アジア諸国の中国との経済的つながりは、その国の経済全体を左右するレベルにありますが、距離的に近いだけに、南シナ海など利害が相反する側面もあり、微妙なところもあります。

 

【コロナ禍でのワクチン外交】

コロナ禍の最近の流れで言えば「マスク外交」続く「ワクチン外交」が注目されています。

 

****中国が仕掛けるワクチン外交 「健康のシルクロード」建設着々****

世界の富裕国が供給量に限りのある大手製薬会社の新型コロナウイルスワクチン確保に奔走する中で、中国は積極的に、資金力の弱い国々に中国製ワクチンの提供を申し出ている。だが、その気前の良さは100%利他的なものとはいえない。中国政府が求めているのは外交上の長期的な見返りだ。

 

この戦略には、新型コロナ流行初期の中国政府の対応への怒りや批判をかわし、中国のバイオテクノロジー企業の知名度を上げ、アジア内外での中国の影響力を強化・拡大するなど、複数のメリットがある。

 

「中国が、悪化したイメージの回復を図ってワクチン外交を展開しているのは間違いない」と、米外交問題評議会上級フェローの黄延中氏はAFPに指摘した。ワクチン外交は「中国の世界的影響力を増大し、地政学的な諸問題を(中略)解消するツールとなりつつある」という。

 

■米国不在の保健分野をリード

中国政府はパンデミック(世界的な大流行)の初期には、マスクや防護服などの大量輸出を急ぎ、医療が逼迫(ひっぱく)していた欧州・アフリカ各地に医療チームを派遣した。

 

そして今、欧米の製薬会社がワクチンの供給を始める中で、自国製ワクチンの大量供給を開始し、次々と合意を結んでいる。相手国には、中国との関係がぎくしゃくしている国も含まれている。

 

中国の外交官がワクチン供給合意を取り付けたマレーシアとフィリピンは、いずれも南シナ海への中国進出に苦言を呈してきた。8月に李克強首相がワクチン優先供給を約束したメコン川流域の国々は、中国が上流に建設したダムの影響でひどい渇水に見舞われ、干ばつが悪化している。

 

「公益」を掲げて世界中に中国製ワクチンを提供する習近平国家主席の動きは、中国こそが世界の保健分野を主導する国だとアピールする機会になっていると黄氏は言う。米国がドナルド・トランプ大統領の「米国第一主義」の下でなおざりにしてきた役割を、中国がここぞと肩代わりした格好だ。

 

■「健康のシルクロード」

中国は、低・中所得国のワクチン市場のわずか15%を獲得しただけで約28億ドル(約2900億円)の純利益を見込めると、香港の安信証券は試算する。

 

全世界でワクチン接種を推進するためには、超低温での輸送を可能にする低温物流網(コールドチェーン)や保管施設の整備も必要だが、CFRのカーク・ランカスター氏はこれらの事業について、習氏が1兆ドル(約103兆円)を投じて推進する巨大経済圏構想「一帯一路」にうまく調和すると指摘する。

 

すでに電子商取引大手アリババ(阿里巴巴)は、アフリカ・中東へのワクチン供給拠点となる倉庫をエチオピアとドバイに建設した。また、中国政府はブラジル、モロッコ、インドネシアなどにワクチン製造施設を建設しているほか、中南米諸国に10億ドル(約1030億円)規模の資金提供を約束している。これらのインフラを、中国企業はコロナ後に利用できる。

 

「『健康のシルクロード』と銘打たれた一連の取り組みは全て、中国の国際的な評判を回復しつつ、中国企業向けの新たな市場を開拓することにつながっている」とランカスター氏は語った。 【12月17日 AFP】

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【日米や欧州の中国けん制、さらには各国の対中国事情】

こうした、中国の影響力・存在感の拡大・・・・という話は、まず第1段階。

 

これを受けて、日本やアメリカ、欧州の対応は・・・という話が第2段階として続きます。

 

例えば、日米だけでなく英仏独にも中国の進出をけん制する動きがあり、

“日米仏で初の離島上陸訓練 来年5月、対中包囲網を強化・拡大”【12月5日 産経】

“英空母、日本近海に派遣へ 香港問題で中国けん制”【12月6日 日経】

“インド太平洋に軍艦派遣 独国防相―中国警戒、自衛隊と訓練も・岸防衛相と討論へ”【12月13日 時事】

こうした動きを、「中国大嫌い」の石平氏は“中国を封じ込める「海の長城」構築が始まった”【12月16日 Newsweek】とも。

(日本近海に派遣されることになった英海軍の最新空母クイーン・エリザベス【同上】)

 

もっとも、下記のような記事を見ると、「イギリスが中国に砲艦外交? 頭の中の時間がアヘン戦争の頃で止まっているのでは?」と笑えますが。

 

****英右翼政治評論家「中国にコロナでの賠償金支払わせるため砲艦派遣すべき」―中国メディア****

中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)は6日、英国の右翼政治評論家のダグラス・マレー氏が再び、新型コロナウイルスの感染拡大の責任は中国にあるとし、損害の賠償金を中国に支払わせるべきと主張していると報じた。

環球時報によると、マレー氏は5日、英紙The Spectatorへの寄稿で、「英国に与えた損害のつぐないとして中国に賠償金を支払わせるために、英国は制裁と砲艦をテーブルの上に乗せるべきだ」と主張した。

マレー氏は今年5月にも、英紙The Sunへの寄稿で、「中国は代償を払うべきだ」と主張していたが、今回は新たに「制裁」と「砲艦」という言葉を使っている。(後略)【12月6日 レコードチャイナ】
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中国へのけん制の動きはあるものの、本当に中国に対して強気で行動できるのか?・・・という話になると、各国それぞれいろんな事情を抱えています。

 

例えば、香港問題などで中国を批判するイギリスにしても、EU離脱後は中国との関係がこれまで以上に重要になってきます。

 

話は日本も同様でしょう。

 

そのあたりの話が第3段階。

 

・・・と、話は第2段階、第3段階と続きますが、そのあたりに踏み込むときりがなくなりますので、また別機会に。

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伝統的価値観を強要するハンガリー・ポーランド 皮肉な「ゲイの乱交パーティー」とショパン同性愛者説 

2020-12-16 23:17:26 | 欧州情勢

(ポーランド・ワルシャワで行われた女性の権利擁護を訴えるデモで、与党・法と正義(PiS)党首で副首相のヤロスワフ・カチンスキ氏の写真を掲げる女性(2020年12月13日撮影)【12月14日 AFP】)

 

【ハンガリー 同性カップルが養子を取ることを事実上禁止】

西欧的な「自由主義的民主主義」とは異なる権威主義的・民族主義的な価値観を掲げるハンガリー、ポーランドなどの中東欧諸国と西欧が主導するEU指導部の「法の支配」をめぐる対立はについては、12月11日ブログ”EU イギリスとの交渉は「決裂の可能性高い」 法の支配をめぐるハンガリーなどとの問題は妥協成立”でも取り上げたように、“一応の”妥協が成立したようです。

 

そのハンガリー・ポーランドの国内事情に関する最近の記事をいくつか。

 

ハンガリーでは、オルバン首相が西欧的「自由主義的民主主義」を否定するような、強権支配で民族主義を重視する「非自由民主主義」を主張。具体的にはロシアや中国的なモデルを念頭に置いているとも指摘されています。

 

政府に批判的なメディアを抑圧し、移民・難民に対しては排他的で、性的マイノリティーに対しても伝統的価値観に基づく締め付けが続いています。

 

オルバン首相が常々「目の敵」にしているのが、ハンガリー生まれのリベラル派の大富豪ジョージ・ソロス氏。

 

****ソロス氏をヒトラーになぞらえ、ハンガリー文化庁長官に非難殺到****

ハンガリーの文化庁長官が、リベラル派の大富豪ジョージ・ソロス氏をナチス・ドイツ指導者アドルフ・ヒトラーになぞらえたとして、厳しく批判されている。

 

デメテル・シラード文化庁長官は28日、欧州連合の予算と新型コロナウイルス対策パッケージで「法の支配」についての基準が条件とされたことにハンガリーとポーランドが反発している問題についての記事を政府寄りのニュースサイト「Origo.hu」に寄稿。その中で、「欧州はジョージ・ソロスのガス室と化した(中略)ジョージ・ソロスはリベラルの総統だ」と書いていた。

 

ハンガリーとポーランドは、EUの予算とコロナ対策パッケージに拒否権を行使してEUと対立している。デメテル氏は、この問題に関する記事で、ポーランド人とハンガリー人は「新たなユダヤ人だ」と述べた。

 

デメテル氏は、「こうした『リベラルアーリア人』は今や、われわれがまだ権利を持っている最後の政治的コミュニティーからポーランド人とハンガリー人を締め出そうとしている」と主張した。

 

ハンガリー内外のユダヤ人団体や、ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の記憶を伝える活動をしている団体はデメテル氏を厳しく批判。

デメテル氏は29日、問題の記事を撤回し、自身のフェイスブックのページも削除したと発表した。

 

しかし抗議は29日も続き、ゴルドン・バイナイ元首相やリベラル派のカラーチョニ・ゲルゲイブダペスト市長ら野党の著名政治家らは、オルバン・ビクトル首相にデメテル氏の解任を要求した。

 

オルバン首相は、欧州への移民流入を支援したり、EU予算をめぐる対立の中で欧州議会の議員らにロビー活動をしたりしているとして、ソロス氏への批判を強めていた。

 

ポーランドとハンガリーは今月、欧州連合の1兆8000億ユーロ(約220兆円)の予算と新型コロナウイルス対策の支援パッケージに拒否権を行使していた。

 

オルバン首相は最近のインタビューで、ソロス氏を「世界で最も腐敗した人物の一人」で「経済犯罪者」と呼んだ一方、法の支配基準は移民に反対するEU加盟国に対する「脅し」だという考えを示していた。

 

ハンガリー生まれでホロコーストを生き延びたソロス氏は今月、雑誌「プロジェクト・シンジケート」のインタビューで、「自身の国から好き放題に金を巻き上げる収奪政治制度」をつくり出しているとして、オルバン氏を批判していた。 【11月30日 AFP】

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実際のところはよく知りませんが、オルバン首相・政権・与党としては、ソロス氏が自分たちを排除するためにリベラルな国内野党勢力を支援しているという考えで毛嫌いしているのでしょう。

 

同性愛のような西欧リベラリズムが容認する性的マイノリティーも毛嫌いしています。

 

****ハンガリー議会、一連の反LGBTQ法案を可決****

ハンガリー議会で15日、厳しい立場に置かれている国内のLGBTQ(性的少数者)を狙った政策に関する一連の法案が可決された。

 

国家主義的で保守的なオルバン・ビクトル政権を支持する議員らが成立させた新法の一つは、養子縁組できるのは結婚したカップルのみとし、同性カップルが養子を取ることを事実上禁じ、家族問題相が承認した場合のみ例外を認める。

 

政府はここ数か月、反LGBTQ的な姿勢を強めてきた。オルバン首相は10月、同性愛者のキャラクターが登場する子ども向けの本に関する論争の中で、「(同性愛者は)子どもたちに近寄るべきではない」と述べていた。

 

15日、議会は「母親は女性、父親は男性」とする憲法改正も承認した。

 

政府は改憲について、「西欧における新しいイデオロギー的な動き」によって、「起こりうるイデオロギー的あるいは生物学的な干渉から子どもたちを守る」ことが必要になったと説明している。.

 

改正憲法は、子どもの性別を出生時に定められたものと定義し、ハンガリーのキリスト教文化に沿った子どもの養育を保証するとしている。

 

ハンガリーでは5月に合法的に性別を変えることができなくなり、人権団体はトランスジェンダーの人たちが差別される恐れがあると警告している。【12月16日 AFP】

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【首相の盟友、ロックダウン違反の「ゲイの乱交パーティー」参加で警察から警告受ける】

“ハンガリーのキリスト教文化に沿った”と言いつつも、その内情は・・・。

 

****他国でロックダウンに違反し「乱交パーティー」、欧州議会議員が謝罪****

ハンガリーのオルバン・ビクトル首相の盟友で、先週末に辞職を表明した保守系の欧州議会議員が1日、ベルギーで新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)違反となるパーティーに参加し、警察に警告を受けたことを明かし、謝罪した。このパーティーについて現地メディアは、乱交パーティーだったと報じている。

 

ハンガリーの憲法起草にも関わったヨージェフ・スチャヤー欧州議会議員は11月28日、「一身上の都合」により辞職する意向を表明していた。しかし1日、ロックダウン実施中のベルギーの首都ブリュッセルで参加していたパーティーから逃走したところを警察に拘束され、警告を受けていたことを認めた。その際、合成麻薬エクスタシーの所持も発覚したという。

 

ブリュッセルの検察当局によると、11月27日に同市中心部で開催されたパーティーで男性20人が拘束され、それぞれ250ユーロ(約3万2000円)の罰金を科された。参加者のうち、スチャヤー氏と他2人が外交特権を主張した。

 

拘束時、スチャヤー氏の手は血まみれで、逃走しようとしてけがをしたのではないかと検察当局はみている。エクスタシーは、同氏が持っていたバックパックの中から見つかった。

 

現地メディアはこのパーティーについて、ロックダウン前はゲイバーが多いことで知られた市中心部の歴史地区にあるアパートで開かれた「乱交パーティー」だったと報じている。

 

スチャヤー氏は、ロックダウンに違反したことを自らの家族に謝罪したが、性行為に一切言及せず、所持していた錠剤がエクスタシーだとは知らず、違法薬物を使用していないと主張した。

 

欧州議会が免責特権剥奪を決定しない限り、スチャヤー氏が刑事訴追されることはない。同氏の辞任は、12月31日付となる。

 

スチャヤー氏は1990〜2002年の間に4回、ハンガリー国会議員に選出された。2004年からは欧州議会議員を務め、4期目に入っていた。 【12月2日 AFP】

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****「乱交パーティー」でハンガリー反LGBT・保守与党に非難の声、言行相反****

ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は2日、「ゲイの乱交パーティー」に参加したとされる盟友の欧州議会議員を非難したが、両氏が所属する保守系の与党フィデス・ハンガリー市民連盟に対しては、言行相反だとの批判の声が上がっている。

 

オルバン氏は、パーティー参加後に辞職を表明したサーヤー・ヨージェフ議員の行動について「容認できず、擁護できない」と評した上で、「われらが党の価値観にふさわしくない」と述べた。

 

反LGBT(性的少数者)的な措置を提唱してきたサーヤー氏は1日、ベルギーで「秘密のパーティー」に参加したと認めた上で、新型コロナウイルス対策に違反したことを謝罪した。
 
野党・民主連合のフェレンツ・ジュルチャーニ党首は、「フィデスの政治家はキリスト教や家族、伝統的な男女の役割、道徳規範について説いているが、実際には口にしている価値観からかけ離れた、全く異なる生活を送っている」と批判した。

 

ベルギーメディアによると、サーヤー氏が参加したパーティーは、全裸の男性25人が参加するものだったという。

 

サーヤー氏は、与党の保守的な政策を推進する上で重要な役割を果たし、結婚を「男性1人と女性1人によるもの」と定義する条項を盛り込む憲法改正を後押ししてきた。それだけに、こうしたパーティーに参加したことの発覚は、特にきまりが悪いものとなった。

 

調査報道サイト「Direkt36」の記者はサーヤー氏について、「自身はLGBTにフレンドリーなブリュッセルで楽しむ一方、ハンガリーで暮らすLGBTの人々の生活を悲惨なものにしてきた」とツイッターに投稿した。 【12月3日 AFP】

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どこの国・時代でも、人々に厳格な道徳観を強要する権力者の内実は得てしてこんなものですけどね・・・。

 

【ポーランド 人工妊娠中絶の要件を更に厳格化 「女性の権利や自由を奪う」と連日の抗議デモ】

カトリック教会の影響が強いポーランドでは、憲法裁判所は10月22日、胎児に先天的な異常がある場合の人工妊娠中絶は違憲との判断を下しました。

 

****人工妊娠中絶の要件厳格化に抗議 ポーランドで連日デモ****

ポーランドの憲法裁判所が人工妊娠中絶の要件を厳しくする判決を出し、首都ワルシャワなど各地で市民が連日、抗議活動を繰り広げる事態になっている。

 

同国はキリスト教カトリックの影響が強いが、「女性の権利や自由を奪う」などといった反発が広がり、批判の矛先は保守的な政権与党にも向かっている。

 

同国では胎児の先天性異常を理由とした中絶が認められてきたが、憲法裁は22日、この法律について「違憲」と判断。保守政党の与党「法と正義」(PiS)の議員が昨年、違憲だとして提訴していた。

 

もともとポーランドは欧州でも中絶の条件が厳しく、認められる場合の大半が胎児の障害を理由にしたものとされる。この判決を受け、母体の健康が脅かされる場合やレイプなどで妊娠した場合を除き、中絶は認められなくなった。

 

ワルシャワでは22日、判決への抗議デモが発生。憲法裁のほか、PiS本部やカチンスキ党首の自宅にまでデモ隊が押し寄せた。

 

警察当局は、新型コロナウイルスの感染防止のため多数で集まることを禁じた措置に違反したなどとして、参加者を拘束したが、抗議活動は若者を中心に全国に波及。グダニスクやクラクフ、ウッチなど全国の主要都市で連日、デモが続き、今後も予定されている。【10月28日 朝日】

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抗議デモは、今も続いているようです。

 

****中絶ほぼ全面禁止に抗議 ポーランドで数千人デモ****

ポーランドで13日、例外的な状況を除いて中絶をほぼ全面禁止とする憲法裁判所の10月の判断に抗議するデモが行われ、首都ワルシャワの街頭に数千人が繰り出した。

 

デモ参加者の大部分は女性や若者で、デモ隊はヤロスワフ・カチンスキ副首相の自宅に向かってワルシャワを横断した。カチンスキ氏は今回の憲法裁の判断に関与したと専門家から指摘されており、同氏宅は最近行われたデモで何度か標的となっていた。

 

警察はデモ隊がカチンスキ氏の自宅に達するのを防ごうと、複数回にわたりデモ行進の妨害を試み、最終的に同氏宅のある通りを封鎖した。

 

デモが夜通し続く中、政府が農業製品価格の下落を食い止める対策を何もしなかったと非難する農民グループは、通りにブタの死骸を投棄し、ジャガイモや卵をまき散らした。

 

10月22日、憲法裁は胎児の先天的な異常を理由とした中絶を違憲とし、中絶をほぼ全面的に禁止とする判断を下した。この判断以来、活動家たちはこれまでに何度も抗議デモを主催してきた。

 

この判断はまだ正式には発表されていないためまだ適用されないが、医師たちは法律違反となることを恐れて予定していた中絶手術を取り消している。

 

この判断が法制化されれば、同国での中絶は、性的暴行または近親相姦(そうかん)、母体に命の危険が及ぶ場合に限って認められることとなる。 【12月14日 AFP】

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【国民的作曲家ショパンは同性愛者?伏せられる真実】

”ポーランド政権はカトリックの価値観を重視する保守政党「法と正義(PiS)」が率い、憲法裁の裁判官の多くが同党の指名で就任した。政権はLGBTなど性的少数者の権利拡大に公然と反対し、欧州連合(EU)と対立。各国との溝がさらに広がる可能性がある。”【10月23日 共同】とのことですが、そのポーランドの国民的作曲家ショパンが同性愛者だったという“不都合な真実”が論議を呼んでいるとか。

 

****ショパンは同性愛者だった? LGBTQに風当たりの強いポーランドで物議****

 欧州の中でも特にLGBTQ(性的少数者)に対して風当たりの強いポーランドで、国民が敬愛するロマン派の作曲家ショパンが同性愛者だったという説が大々的に報じられ、論議を巻き起こしている。

 

210年前、首都ワルシャワ西部の小さな村に生まれたショパンの名は、全土の至る所に刻まれている。

毎月100万人以上が利用する首都ワルシャワの空港はショパン空港。生家には記念碑が飾られ、主要都市に胸像や銅像があり、ショパンの名が付いた公園や通り、ベンチや建物が各地に存在する。1849年に39歳で死去した後、心臓はアルコール保存されてワルシャワの聖十字架教会の壁に収められた。

 

ところがショパンの私生活に関して、保守性の強いポーランドの伝統や右派の指導部とは相いれない説が脚光を浴び、国民が幼い頃から聞かされてきたショパンの物語が真実だったのかどうかという疑問が浮上した。

 

スイスのラジオ局のドキュメンタリー番組によると、ショパンは複数の男性と関係を持っていたとされる。しかしそうした関係は、歴史家や伝記作家によって歴史から追いやられてきた。

 

スイスの放送局SRFの番組に出演した音楽ジャーナリスト、モリッツ・ウェバー氏は、ショパンが男性の友人宛てに出した手紙を調べたところ、性的に露骨な内容やロマンチックな内容が書き記されていたことが分かったと語った。

 

さらに、後に伝えられた伝記や再現された手紙では、男性名詞が女性名詞に入れ替えられ、意図的かどうかを問わず、ショパンの男性との関係が取り上げられていなかったことも分かったという。

 

ウェバー氏はCNNの取材に対し、「ショパンは男性との愛情について非常に直接的に語っていた」「学者や有名伝記作家はなぜ、そのことに疑問を投げかけなかったのか」と問いかけた。

 

ショパンについては伝統的に、女性との恋愛関係が語り継がれてきた。中でも作家のジョルジュ・サンド(本名アマンティーヌ・リュシル・オーロール・デュパン)との関係は最も有名だった。

 

しかしウェバー氏が調べた手紙は違う内容を物語っていた。ショパンは女性には全く手紙を出していなかったといい、女性と恋愛関係にあったと断定できるような内容も書き残していなかったという。

 

「明らかなのは、男性の友人に向けてラブレターを書き送っていたことだった。最も情熱的なのは、ティトゥス・ボイチェホフスキに宛てた手紙だった」。ボイチェホフスキはポーランドの活動家でショパンの長年の友人だった。ショパンはほかにも多数の男性に宛てて同じような手紙を送っていたという。

 

ショパンが男性を愛したという説は新説ではない。しかしここ数日の間にポーランドの複数の新聞が「ショパンはゲイだった?」と問いかける記事を掲載し、「ショパンが友人にキスをしたからといって、ゲイだったことになるのか?」と疑問をぶつける新聞もあった。

 

ポーランドは欧州の中でもLGBTQにとって最悪の国といわれる。政府は極端な同性愛嫌悪の表現を頻繁に使い、首相は「同性愛計略」が祖国を脅かすと言い放つ。

 

カトリック教徒が多く、教会が強い影響力を持つことから、LGBTQの権利拡大には宗教指導者が抵抗する。

LGBTQを非難するアンジェイ・ドゥダ大統領は今年、この問題を公約の中心に掲げて再選された。

 

同国の活動家は、ショパンの恋愛関係が改めて脚光を浴びたことで、そうした姿勢に変化が起きることを期待する。「公言しよう。ショパンは少なくともバイセクシュアルだった」。同国でLGBTQ運動の前線に立つ活動家はそう記している。【11月30日 CNN】

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新型コロナ  広範なワクチン不信感 「免疫パスポート」の倫理的問題は? インフルとの「ウイルス干渉」

2020-12-15 23:24:32 | 疾病・保健衛生

(防護服姿でマレーシア議会に出席した(感染者との接触があった)閣僚2人。(2020年12月14日撮影)【12月15日 AFP】)

 

【ワクチン接種開始から1週間】

新型コロナへのワクチン接種は、イギリスを皮切りにアメリカ、カナダでもスタートしており、「終わりの始まり」として大きな期待を集めています。

 

****米国で接種開始「終わりの始まりに…期待」****

アメリカで14日、製薬大手ファイザーなどが開発した新型コロナウイルスのワクチンの接種が始まりました。

ニューヨークでは14日、クオモ州知事が見守る中、最前線で働く女性看護師が、ファイザーなどが開発したワクチンの接種を初めて受けました。

接種受けた看護師「他のワクチンとの違いは感じなかった。これがこの非常につらい時期の終わりの始まりになることを期待する」

クオモ州知事は「トンネルの先に光が見えているが、これは長いトンネルだ」と警戒を続けるよう訴えました。

アメリカではまず、約300万回分のワクチンが、14日以降、全米の病院など636の施設に順次、届けられる予定です。【12月15日 日テレNEWS24】

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スタートから1週間が経過したイギリスでは、従来からアレルギーを有していた者二人がアレルギー反応を起こしたという問題がありましたが、素人考えで言えば、(一定の範囲内であれば)そういう出来事はこの種のことには「つきもの」の話でしょう。今回ワクチンに限らず、世の中に存在するすべての薬剤にアレルギーの副作用は不可避です。

 

有効性の確認は今後の問題となりますが、安全性・有効性以外の問題としては、かねてより指摘されている低温輸送の問題がやはり現実的困難となっているようです。

 

****超低温輸送で苦戦、「証明書」発行に議論 英のワクチン接種1週間****

英国で米製薬大手ファイザーなどが開発した新型コロナウイルスのワクチン接種が始まってから15日で1週間がたった。数万人に投与されたが、接種を受けた2人がアレルギー反応を起こしたことからワクチンを望まない国民も増えている。

 

英政府はワクチン普及のため、接種の有無を示す「証明書」の発行をほのめかしており、接種を受けない人が不利益を被るのではないかとの懸念が出ている。

 

「久しぶりに、家族を抱きしめられる」

ワクチン投与が始まった今月8日に接種を受けた40代の介護職員の女性は英メディアなどに喜びを語った。新型コロナが欧州で拡大した3月以降、接触による感染を恐れ「母親をハグできなかった」という。

 

欧米メーカーのワクチンを初めて実用化した英国は8日から約70の病院で接種を開始。80歳以上の高齢者や高齢者介護施設の職員らが優先的に接種を受けた。ハンコック保健相は重症化リスクが高い人への接種が来春までに終了するとの見通しを示している。

 

ただ、首都ロンドンを含むイングランド地方で、新型コロナによる死者数が多い高齢者介護施設の入居者への接種は進んでいない。ファイザーのワクチンは輸送時にマイナス70度前後に保つ必要があり、病院から高齢者施設への運搬方法が課題となっているためだ。英政府は保冷用の特殊なケースで輸送する計画をクリスマスまでに実行する方針だが、成否は予断を許さない。

 

ワクチンの安全性に疑念を呼ぶ出来事もあった。8日に接種を受けた2人の医療従事者に投与後、すぐ激しいアレルギー反応が出た。2人は回復したものの、ファイザーの臨床試験(治験)で頭痛などの副作用が報告されていたこともあり、国内ではワクチンを恐れる人も出ている。

 

英国の介護施設運営を支援する団体「ナショナルケア・アソシエーション」のアーメッド会長は英メディアに、介護職員の半分近くが「接種を拒否するかもしれない」と話した。

 

こうした中で広がっているのが、英政府はワクチン推奨のため、接種の有無を示す証明書を発行するのではないかとの観測だ。発端となったのは、接種を担当するザハウィ保健担当閣外相が11月末、英メディアに、接種を受けたことを記録するスマートフォン用アプリの開発を検討していると明かしたことだ。

 

ザハウィ氏は、アプリの記録がレストランなどに入る際に、ワクチンを投与されたことの「証明書」になりうると発言。同氏の説明は、レストランなどが証明書のない客の入店を拒否できるかの印象を与えた。

 

ゴーブ内閣府担当相はその後、「(証明書の)計画はない」と否定。だが、ジョンソン政権に近い与党・保守党議員は今月7日の英スカイニューズ・テレビの番組で、証明書の構想を明確に否定しなかった。

 

英人権擁護団体リバティは英紙デーリー・メールに「(証明書がなければ)公共サービスや住宅の利用のほか、就職まで妨げられる恐れがある」と指摘。「一部の国民は自由を得て、接種しない国民は社会から締め出される二重構造を生み出す」と懸念を示した。【12月15日 産経】

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【広範なワクチン不信感】

アレルギー反応事例以前から、開発が“超特急”でなされたワクチンに対する「不信感」はかなり根強い・広範なものがあるようです。

 

****米、42%が「ワクチン接種しない」 安全性への懸念払拭課題****

(中略)接種は、医療従事者、高齢者施設など長期療養施設の入所者が最優先される。集団免疫を獲得するためには約7割の接種率が必要とされるが、安全性への懸念からか米国でのワクチンへの理解は大きく広がっていない。

 

調査会社ギャラップの調査(10月19日〜11月1日)によると、接種を受けるとした人が58%だったのに対し、接種をしないと答えた人は42%にも上り、賛否が分かれている。

 

こうした中で、米次期大統領に就任する見通しとなったバイデン前副大統領は3日、米CNNテレビのインタビューで、国民の信頼が厚い国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長を引き合いに出し、「ファウチ氏が安全だといえば、公開の場で接種を受ける」と明言。国民の懸念払拭に努める姿勢をアピールした。【12月6日 産経】

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単に医療情報に疎いからワクチンを不安に思う・・・というだけでもないようです。

“10月に米国看護師財団(ANF)が約1万3000人を対象に実施した調査では、米国の看護師の36%が自主的にコロナワクチンを受けるつもりはないことがわかった。”【12月15日 WSJ】

 

“ワクチン接種に懐疑的な人々の中には、あらゆるワクチンへの反対を声高に唱える少数派グループがいる。またマイノリティーの間に深く根づいた保健当局への不信感もある。黒人などのマイノリティーが非倫理的な医療実験に利用された暗い歴史があるためだ。”【同上】よいった問題も。

 

アメリカ以外でも

“「接種希望」半数のみ=広がるワクチン不信―仏調査”【12月6日 時事】

“スペイン、国民の半数以上が直ちにワクチン接種望まず=調査”【12月5日 ロイター】

 

“11月5日に調査会社イプソスが公表した世論調査では、(フランスの)ワクチンを「接種する」との回答は54%。日本(69%)や米国(64%)、英国(79%)など他の14対象国と比べ、突出して低かった。”【12月6日 時事】ということで、日本は比較的許容度が高い方のようです。

 

おそらく“「ワクチンが次第に入手しやすくなり、人々が慣れてくれば、ちゅうちょする比率も低下するだろう」。ジョンズ・ホプキンス大学保健安全センターの医療人類学者モニカ・ショクスパナ博士はこう述べた。「大勢の人々がまだ様子見モードだ。ワクチン接種に関心はあるが、安全性の証拠をもっと確かめたいと思っている」”【12月15日 WSJ】ということで、ワクチンへの不安感は次第に薄れてはいくのでしょう。

 

【いわゆる「免疫パスポート」の問題】

ワクチンが実用化されるにつれて問題になるのが、すでにワクチンを接種した人について、その旨を証明するいわゆる「免疫パスポート」

 

このパスポートを有する者だけが、あるいは有する者が優先して、いろんな入店・観劇できるなどの各種サービスを受けられるとか、ひいては雇用などにおいても・・・という状況も想定されます。

 

技術的問題としては、そこまでワクチンに「有効性」があるのか?・・・という問題が。

それより微妙なのは、そういう形で、国民を「分けて扱う」ことの倫理的問題でしょう。

 

****「免疫パスポート」は有効か、倫理問題巡る疑問も****

英国が西側諸国で先陣を切って新型コロナウイルス予防ワクチンの接種を開始したことで、公衆衛生に関してかねて存在する倫理的問題が再び焦点に浮かび上がってきた。

 

ワクチン接種者に対して免疫の証明を発行することは正当かどうかという問いだ。  

 

構想では、ワクチンの接種を受け、他人への感染リスクがないと証明できれば、その人物はマスク着用やソーシャルディスタンス(対人距離の確保)といった規定に従わなくてもよくなると考えられている。

 

レストランや劇場、オフィスなどは、ワクチン接種の証明を持った人々を迎え入れることで安心して稼働を再開することが可能になり、国境をまたぐ移動も復活するだろう。そして、ワクチン接種者が増えれば、暮らしも段階的に正常化する見通しだ。  

 

だが、科学者や公衆衛生の専門家は、急ピッチで開発されたワクチンが果たして本当に予防効果を生み、持続的な免疫を提供できるのか、判断するのは時期尚早だと警鐘を鳴らしている。

 

治験で疾患の深刻度を低減したのと同じくらい、他人への感染防止効果があるのかも明確になっていない。

 

また、ワクチン接種の有無で市民を分別することが賢明なやり方なのか、倫理的かつ政治的な疑問も持ち上がっている。  

 

西側諸国で初めてワクチン承認に踏み切った英国では先週、この「免疫パスポート」構想の是非を巡る議論に火がついた。  

 

英政府のワクチン担当相を務めるナディム・ザハウィ氏は、規制当局が米ファイザーと独ビオンテックが手掛けるコロナワクチンを承認する2日前、バーやレストラン、娯楽施設はいずれ、サービスを利用する条件として、顧客にワクチン接種の有無を確認し始めるかもしれないと述べた。  

 

その上で、ワクチン接種の有無を示す機能を接触追跡アプリに組み込むなどして接種状況を簡単に提示できるよう、政府としてテクノロジー面での改良を検討する考えを示した。  

 

一方で、ザハウィ氏は、英政府はワクチン接種者に対して、免疫パスポートを正式に発行したり、接種を義務づけたりする計画はないとも指摘。テレビとのインタビューでは「人々はワクチン接種を望むかどうか、自分で決定することが認められるべきだ」と述べている。  

 

免疫パスポートという構想自体は新しいものではない。海外旅行に関しては特にそうで、例えば、ガーナやナイジェリアなどを訪れる旅行者は、黄熱病のワクチン接種がビザ発給の条件となっている。とりわけ血液に関わる仕事に従事している医療関係者に対しては、B型肝炎の予防ワクチン接種を義務づけている国もある。  

 

豪カンタス航空のアラン・ジョイス最高経営責任者(CEO)は、国際線の搭乗客に対して、ワクチン接種の証拠を提示するよう義務づけることになるだろうと述べている。豪政府はこれまで、外国からの訪問者や帰国者に対し、入国の条件として、ワクチン接種の証拠提示を求める可能性があるとし、他にも追随する国が出てくるとの見方を示している。  

 

似たような証明書の発行構想は今年に入り、すでに浮上していた。英国やドイツ、イタリアは、職場復帰を認める従業員を選定する方法を巡り、過去の感染の有無を示す抗体検査の可能性を探った経緯がある。

 

だが、世界保健機関(WHO)は、過去の感染でどの程度の免疫をもたらすのか不透明だとして、構想に反対する立場を表明。この案が普及することはなかった。  

 

英医学誌ランセットは10月、免疫パスポートを支持する論文を掲載。具体的には、ワクチンを接種した証拠として、政府が特別なリストバンドやアプリ、証明書などを提供することを提案した。  

 

論文執筆者の1人であるジュリアン・サバレスキュ氏(オックスフォード大学上廣応用倫理センター所長)は、「国家による強制の行使、自由の制限が唯一正当化されるのは、他人に危害を及ぼすリスクがある場合に限る」と述べる。「他人に危害を加えるリスクのない場合には、自由は制限されるべきではない」  

 

だが、慎重論はなおくすぶる。一部の科学者は、ワクチンが他人への感染リスクを低減する上でどの程度有効なのか、予防策が不要になるほど免疫が十分に持続するのか、まだはっきりと解明されていないと主張する。潜在的な副作用リスクに関する情報も、広範な配給ではなく、治験に基づく内容しかこれまで把握できていない。  

 

また法律の専門家からは、ワクチン接種の有無で個人を分別することには隠れた危険が存在するとの意見が出ており、個人情報の保護やプライバシー、偽造などを巡っても問題が生じる恐れがあると懸念されている。しかも、若者層など、自由を最もおう歌するとみられる人々までワクチンが行き届くのはさらに数カ月先だ。  

 

ニューヨーク州立大学ビンガムトン校のニコール・ハッソン教授(哲学)は「免疫パスポートが名案であることを裏付ける証拠は不十分だ」と指摘する。【12月9日 WSJ】

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ワクチン接種の機会が回ってこない段階で、接種していないことを理由に各種サービスが制約されるというのは不愉快ですが、一部の国では感染症の拡大を防ぐため入国時にはポリオや黄熱病などの予防接種証明書が求めらいる現状も考え合わせると、誰でも摂取できる状況になった時点で「免疫パスポート」的なものが求められるというのは、それ自体にはあまり無理はないようにも思えます。

 

もっとも、「健康であることを各種検査で証明する必要がある」ということがコロナを超えて一般化するという話になると、最終的には「遺伝子検査で雇用・結婚・保険加入などを判定する」という近未来ディストピア的な話にもつながっていくものもあるのかも。

 

更に現実的問題としては、“誰でも摂取できる状況”とは言いつつ、常にノーマルケースからはみ出す人々が存在します。例えばホームレスの人は接種を受けられるのか?パスポートが発行されるのか?あるいは「思想・信条」の観点から接種を拒否する人の扱いは?

 

****コロナ予防接種カードは「免疫パスポート」として使えるか 集団接種が始まった英で論争****

(中略)

予防接種カードは社会をさらに分断する

英人権擁護団体リバティは英大衆紙デーリー・メールに「予防接種カードを持っていない人は、必要不可欠な公共サービス、仕事、住宅へのアクセスを妨げられる恐れがある。こうした人たちはもともと社会的弱者で、今回のコロナ危機でさらに困窮している」と警鐘を鳴らしています。

 

カードは「国民総背番号制の道を開く」上、自由なイギリス人と締め出されるイギリス人の二層化を進めかねないとの指摘も浮上しています。(後略)【12月8日 木村正人氏 YAHOO!ニュース】

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「ワクチン接種の有無で個人を分別することには隠れた危険が存在する」という点に関して、慎重な議論・対策が必要かも。

 

【“消滅”したインフルエンザ 「ウイルス干渉」?】

最後に、コロナ関連の話題で興味深い記事を。

かねてより、インフルエンザが流行する冬場はインフルエンザとコロナで大混乱するのでは・・・と懸念されていましたが、いまのところインフルエンザがパッタリと影を潜めており、そうした混乱は起きていません。

 

****飛沫防止や渡航制限が奏功か インフルエンザ「消滅」状態に*****

(中略)あの厄介なウイルスの気配も今年はパッタリと消えた。おなじみの「インフルエンザ」の話である。

 

昨年2019年の11月第4週の患者数は、全国で約3万人だった。2018年は約5000人、2017年、2016年はおおよそ1万人。年によって流行に多少の差はあるものの、冬には毎週1万人ほどの人が高熱や腹痛、咳や悪寒に悩まされてきた。

 

ところが2020年、同じく11月第4週の患者数は、日本全国でたったの46人。例年のざっと100分の1以下だ。もはや「インフルエンザは消滅した」といってもいいほどだ。

 

(中略)目下、世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスとは関係があるのか。

 

「新型コロナもインフルエンザも『飛沫感染』します。今年ほど、マスク着用やうがい・手洗い、『3密』回避などの感染対策が徹底的にとられたことはかつてない。新型コロナ対策が、インフルエンザの流行防止に奏功したのでしょう」(廣津医院院長で、日本感染症学会のインフルエンザ委員会メンバーでもある廣津伸夫さん)

 

内科医で医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さんは、「海外からの渡航制限のため、国内にインフルエンザウイルスが持ち込まれていないことが大きい」と分析する。(中略)

 

もう1つ考えられる理由は「ウイルス干渉」だ。

「ウイルス干渉とは、“1人の人間に対して感染できるウイルスは1種類”という現象です。椅子取りゲームにたとえると、1つの椅子(=1人の人間)に座れるのは、1つのウイルスなのです」(廣津さん)

 

ウイルス干渉が起きるメカニズムは現代医学でもまだ解明されていない。ただ、冬場の早い段階でインフルエンザが流行った地域では、コロナウイルスが引き起こすウイルス性の風邪が減ったという研究結果がある。

逆もまたしかりだと廣津さんが指摘する。(後略)

女性セブン2020年12月24号【12月15日 NEWSポストセブン】

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表題は「飛沫防止や渡航制限」ですが、話としては「ウイルス干渉」が面白いですね。

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ベネズエラ  野党ボイコットの国会議員選挙で基盤を強化するマドゥロ政権 さらに影を薄める野党

2020-12-14 23:27:17 | ラテンアメリカ

(マドゥロ政権の是非を問う住民投票で投票する女性ら=ベネズエラの首都カラカスで12日【12月14日 毎日】

路上に置かれた段ボール箱の投票箱・・・国としてオーソライズされた投票ではなく、野党側が勝手にやっているという位置づけでしょうか?)

 

【ずるずると延命するマドゥロ政権 野党ボイコットの国会議員選挙でさらに権力基盤強化】

南米・ベネズエラ・マドゥロ政権の混迷について、以前このブログでいつ取り上げたか調べてみると、前回は2019年9月18日ブログ“ベネズエラ  混迷する政治・経済のなかで市場重視の動き、与党の国会復帰という“変化”の兆しも”。

 

1年以上、取り上げていません。

この空白が意味するのは、ベネズエラの混乱を打開するようなドラスティックな動き、あるいはその兆しも、ここ1年以上なかった・・・ということです。

 

ひところは、いつ崩壊してもいいように思えた強権支配・経済失政・反米左派のマドゥロ政権でしたが、やはり「権力」を握っているものの強みでしょうか、ずるずると持ちこたえて、そうこうするうちに「改革」の機運もしぼんでいくようにも。

 

反比例して、「改革」を期待された野党勢力を束ねる立場にあるグアイド国会議長の存在感は、次第に薄れていくようにも。

 

左派政権嫌いのトランプ米大統領も、いかんともしがたく、クーデター騒動以後は放置した感じも。

 

そうしたマドゥロ政権延命の流れを補強することになるのが、12月6日の国会議員選挙。

これまで野党勢力が優位な国会は、野党勢力を支える唯一の基盤でしたが、国会選挙をボイコットしたことで、その国会も失うことになります。

 

****ベネズエラ、疑惑の国会議員選 マドゥロ政権、独裁強化狙う 野党はボイコット****

食料や医薬品も不足する人道危機が続く南米ベネズエラで6日、国会議員選がある。

 

国会で多数を占めてきた野党勢力は「選挙が公正ではない」として不参加を表明しており、与党が勝利し、マドゥロ政権が独裁体制を一層強めるのは確実な見通しだ。

 

国会を選ぶ力は、あなたたちの手中だけにある。野党が再び勝つなら、私は大統領府を出る」。マドゥロ大統領は3日、カラカスでの集会で声を張り上げ、国会議員選の勝利に自信を見せた。

 

2015年にあった前回の議員選は野党が圧勝した。これを受け、マドゥロ派が多数を占める最高裁が立法権を国会から奪ったり、政権が国会の上位に「制憲議会」を置いたりし、国会を無力化してきた。

 

このため、今回の選挙結果が政権運営に与える実質的影響はない。しかし、選挙を経れば政権が「正統性」を主張する根拠になり、意味合いは大きい。

 

政権は選挙に向け、8月には拘束していた野党政治家100人以上を釈放。「野党も参加する、開かれた選挙だ」と主張する。

 

だが、最高裁がテロ事件への関与の疑いなどを理由に野党幹部を解職し、後任に政権に近い議員らを指名。

 

主な野党勢力は「手続きが公正ではない」として選挙をボイコットしたが、最高裁が指名した野党幹部が候補を擁立した。選挙管理を担う「全国選挙評議会」(CNE)のメンバーも、憲法が定める国会の承認を得ずに、最高裁が選定した。

 

選挙の公平さへの懸念は、国外からも出ている。政権は、欧州連合(EU)に選挙監視団の派遣を要請したが、EU側は「公正な信頼できる選挙という、派遣の条件が満たされていない」として、選挙の延期を提案したほどだ。

 

ボイコットする野党も、選挙でダメージを受ける。18年の大統領選ではマドゥロ氏が再選を果たしたとしているが、野党は「選挙は不正で、再選は無効」と主張。大統領職が空位になったとし、グアイド国会議長が憲法規定を根拠に暫定大統領への就任を宣言し、米国や欧州諸国、日本など、50カ国以上の支持を受けている。

 

しかし、来年1月で国会議員の任期が終われば、グアイド氏は「暫定大統領」を名乗る根拠を失う。野党も政権打倒を掲げながらまとまることができず、欧米による制裁頼みが実情だ。

 

これまで、トランプ米政権はマドゥロ政権に厳しい姿勢を取り、資金源となる国営石油会社も経済制裁の対象とした。バイデン次期大統領は、こうした制裁の継続について明言していない。

 

ただ、人道危機やマドゥロ政権による弾圧については「ベネズエラの人々とともに立ち上がる決意を再確認した」とツイートしており、批判的な立場はトランプ政権と変わらない。

 

人道危機も深刻なままだ。ベネズエラの人口は15年には約3千万人だったが、国連難民高等弁務官事務所によると、今年11月までに約545万人が難民や移民として国を逃れた。新型コロナの流行で国境は閉鎖されたが、抜け道を通って隣国コロンビアに越境したり、小舟でカリブの島国へ渡ったりする人々もいる。【12月6日 朝日】

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選挙に参加しても、数字は政権に都合がいいように「加工・修正」され、「野党勢力も参加した選挙の結果だ」という政権側の言い分だけが残る・・・ということでの、ボイコット選択でしょう。

 

実質野党がボイコットした選挙ですから、当然なですが(投票率は約30%ながら)結果は与党の圧勝。

 

****与党、9割の議席獲得=ベネズエラ総選挙****

南米ベネズエラからの報道によると、同国の中央選管に当たる全国選挙評議会(CNE)は9日、国会(一院制)議員選挙で、統一社会党(PSUV)など反米左派与党連合が277議席中91%に当たる253議席を獲得したと発表した。

 

これまで国会で多数を占めていた野党連合は選挙をボイコットした。新国会の発足は来年1月5日。これにより、マドゥロ大統領が国の全権を掌握する。【12月10日 時事】 

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これにより、マドゥロ政権の支配体制はより強固になります。

 

****ベネズエラ 三権掌握のマドゥロ政権 国際社会のせめぎあいも長期化****

(中略)独裁体制を強める反米左翼のマドゥロ政権が行政と司法に加え、立法府を含めた三権を掌握することになった。

 

米国や欧州連合(EU)などが選挙を「不当」として結果を受け入れないと非難する一方、ロシアや中国はマドゥロ政権との関係強化を進め、ベネズエラへの影響力を強めていくとみられる。(中略)

これに対し、国会で多数を占めていた野党連合は、CNEの委員の任命権などをめぐりマドゥロ氏側の不正を訴え、選挙をボイコット。野党連合出身のグアイド国会議長は7日、選挙の無効を訴え、新国会が発足する来年1月5日以降も「暫定大統領」として留まる考えを表明した。

 

新たな選挙の実施などを問う独自の「国民投票」を7〜12日まで行うが、議員の資格を失うことが濃厚となっている。

 

ベネズエラをめぐり対応が割れる米国と中露のせめぎあいも長期化しそうだ。グアイド氏を支援する米国のポンペオ国務長官は7日、選挙を「茶番だ」と非難し、マドゥロ政権を認めず、グアイド氏を引き続き暫定大統領と認定すると表明した。

 

だが、米次期大統領に就任する見通しとなったバイデン前副大統領は今回の選挙に関し声明などを発表していない。トランプ政権による石油輸出禁止の経済制裁に苦しむマドゥロ氏は8日、「バイデン新政権が発足すれば、対話の可能性を開くことを期待している」と述べ、米国の政策転換に期待感を示した。

 

一方、マドゥロ政権の後ろ盾となっているロシア外務省は声明で、「ベネズエラの選挙プロセスは、普段から民主主義の模範を自任する国々よりも、透明性が高かった」と指摘。中国外務省も「ベネズエラの内政問題だ」として、マドゥロ氏への批判を強める米国を強く牽制(けんせい)した。

 

また、反米路線で一致するイランは燃料不足にあえぐベネズエラに対し、ガソリンを大量輸出しており、今後もマドゥロ政権への支援を続けるとみられる。【12月9日 産経】

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【唯一の支持基盤「国会」を失う野党勢力 グアイド氏の「暫定大統領」根拠も弱まる】

逆に、グアイド氏は国会議員の資格も失い、暫定大統領としての法的根拠も弱まります。

 

****「民主化の希望の星」が輝き失う南米ベネズエラ****

(中略)野党の指導者で2019年に「暫定大統領」への就任を宣言したグアイド国会議長も議席を失う見込みである。

 

グアイドには、選挙に参加して公正な選挙でないことをアピールすることも1つの選択肢だったかもしれない。しかし、選挙に参加すれば政権側に選挙に正当性を与える根拠として利用されることも目に見えていた。

 

徹底的な経済制裁や天文学的なインフレによる経済破綻、失政や人権侵害に抗議する大規模な国民の抗議活動、大量の国民の国外流出等々にもかかわらず、何故マドゥーロは持ちこたえたのであろうか。

 

これは、キューバの諜報組織やロシアの軍事支援を受けた軍、警察及び民兵組織による徹底した支配により国民の不満を力ずくで抑えていることによる。そのために国営企業等の利権を軍幹部に配分し、政府支持者を優遇するバラマキ政策等により最低限の求心力を維持してきた。

 

憲法上の規定により暫定大統領就任を宣言したグアイドには、法的正統性の一応の根拠があり、欧米やラテンアメリカ主要国など50か国以上が支持し、一時期グアイドはベネズエラの民主化の希望の星であった。

 

トランプ米大統領も、武力介入も選択肢にあることを匂わせ、最大限の圧力政策として、ベネズエラ原油の輸入禁止やベネズエラ原油を購入する第3国企業に対する制裁措置を含めた経済制裁を強化し、体制の変更を目指した。

 

2019年4月には、グアイドらが軍隊に決起を呼びかけ、あと一歩というところまで事態は動いたが、結局失敗に終わった。

 

この事件とその後の強硬派のボルトン補佐官解任を契機に、トランプのベネズエラに対する関心は低下したようにも見えた。ノルウエーの仲介工作やEU、リマグループ(マドゥーロ政権に批判的なラテンアメリカ諸国のグループ)の対話呼びかけも実ることなく、結局トランプ政権は何らの成果もあげることなく退陣となる。

 

来年1月にグアイドが議員の地位を失えば暫定大統領としての法的根拠も弱まるであろう。マドゥーロは、議会での多数も獲得し、民主主義の体裁を備えた完全な独裁権力が完成する。

 

その必要があれば、グアイドの身柄の拘束に踏み切るかもしれない。更に、米国の外交政策の空白をついて、ベネズエラ原油を中国に輸出することを計画しているとも報じられている。

 

就任直後のバイデンは、このような事態にどう対応するのであろうか。難問山積のバイデンにとり、政策アジェンダにおけるベネズエラの優先度がそう高いとは思われない。

 

従って、トランプの導入した制裁措置を直ちに見直すこともないであろうが、マドゥーロが取ろうとしている制裁回避策や反対派の弾圧や人権侵害、人道上の危機に効果的な対応ができるのか疑問である。

 

EU側には、政権側との対話を求める一部野党指導者とのコンタクトを通じて外交上の努力で事態の改善を模索しようとの動きも見られる。

 

バイデンも、グアイドに対する道義的支持は維持するものの、圧力だけでなく外交交渉によるアプローチに切り替えることになるであろう。マドゥーロも制裁緩和は実現したいので、交渉に応ずる素振りは見せるかもしれないが、むしろ自信を深めており、民主化等の面で実質的な譲歩をするとは思われない。【12月14日 WEDGE】

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【政権の是非問う住民投票】

議員選挙はボイコットするものの、前出【産経】に(野党勢力主導で)“新たな選挙の実施などを問う独自の「国民投票」を7〜12日まで行う”とあります。

 

たぶん、その結果が下記記事でしょう。

 

****ベネズエラで政権の是非問う住民投票 投票率が国会議員選上回る****

南米ベネズエラの国会は12日、独裁色の強いマドゥロ政権の是非を問う住民投票について、開票率87%時点の投票率が31%に上ったと明らかにした。

 

国会で多数派の野党連合が「不正が行われる」としてボイコットした6日の国会議員選の投票率を上回った。

住民投票に法的拘束力はないが、野党連合は、マドゥロ政権の正当性を否定する民意が示されたと主張している。

 

国会によると、7〜12日の住民投票では、有権者数2070万人の31%にあたる646万人が投票した。国内在住の321万人が投票所で票を投じ、国内の241万人と国外在住の84万人がオンラインで投票した。

 

住民投票ではマドゥロ政権の正当性や国会議員選の公平性について尋ねたが、国会は回答の内訳を明かさなかった。ただ、野党連合を主導するグアイド国会議長は13日、「住民投票の参加者は(国会議員選を)はるかに上回った。民主主義のための闘いを続ける」とし、新国会が発足する2021年1月5日以降も現国会を継続すると主張した。

 

国会(1院制、277議席)議員選では、マドゥロ大統領率いる与党が9割にあたる253議席を確保。マドゥロ氏は唯一、影響下に置いていなかった国会も掌握し、独裁色を強めるとみられる。議会選の投票者数は625万人で、投票率は30%だった。

 

マドゥロ氏は10日、住民投票について「誰も法的意味があると考えていない」と有効性を否定していた。【12月14日 毎日】

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住民投票の開票・集計作業は誰が行っているのでしょうか?

 

「住民投票ではマドゥロ政権の正当性や国会議員選の公平性について尋ねたが、国会は回答の内訳を明かさなかった。」・・・どうして?

議員選挙同様に結果数字は政権側に修正されるから?

野党勢力に都合の悪い結果だったから?(国会議員選挙に投票した層と住民投票の層が重なるなら、政権支持者が多数をしめるという結果にもなるかも)

 

よくわからないことが多い「住民投票」です。

 

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トルコ  「新オスマン主義」の成果と負担 コロナ感染「世界第3位」 ワクチン早期接種に躍起

2020-12-13 23:14:54 | 中東情勢

(バクーで10日行われた「戦勝」パレードで、壇上に並ぶトルコのエルドアン大統領(左)とアゼルバイジャンのアリエフ大統領【12月12日 朝日】)

 

【「新オスマン主義」の華やかな成果 アゼルバイジャン「戦勝」パレード】

トルコ・エルドアン大統領の「新オスマン主義」とも評される積極的な外交・軍事については、10月2日ブログ“トルコ 「新オスマン主義」とも評される強気の外交姿勢 各地で軋轢も”でも取り上げたところです。

 

それに伴う「軋轢」としては

東地中海では、キプロス・ギリシャ・フランスと、シリアではクルド人勢力、シリア政府・ロシアと、リビアではフランスやロシアなどと、ロシア製ミサイル導入ではアメリカと。

 

そして、アゼルバイジャンを支援して、アルメニア・ロシアと。

こちらは、アゼルバイジャン・トルコの会心の勝利に終わりました。エルドアン大統領としても意気揚々といったところでしょう。

 

****旧ソ連圏、トルコ存在感 アゼルバイジャン「戦勝」パレード ナゴルノ停戦****

トルコのエルドアン大統領は10日、アゼルバイジャンの首都バクーで行われた同国の「戦勝」パレードに主賓格で出席した。

 

9~11月に続いたナゴルノ・カラバフ地域をめぐる同国とアルメニアの軍事衝突で、エルドアン氏は各国が即時停戦を求める中でも一貫してアゼルバイジャンを支援。この日も演説で「栄誉ある勝利だ」と同国軍をたたえ、旧ソ連圏での影響力拡大を印象づけた。

 

パレードは、ロシアが仲介した停戦合意が発効して1カ月の節目で行われた。

 

現地からの報道によるとバクー中心部の広場で約3千人のアゼルバイジャン軍兵士が行進。戦車などの車両や今回の軍事衝突で威力が注目されたトルコ製の無人攻撃機などのほか、戦闘でアルメニア軍から奪ったという装甲車両など「戦利品」も披露された。行進にはトルコ軍兵士も加わり両国の結束を強調した。

 

軍事衝突は9月27日、1990年代からアルメニアが実効支配してきたアゼルバイジャン領ナゴルノ・カラバフ地域とその周辺で勃発。和平協議で議長国をつとめる米国、フランス、ロシアの首脳が即時停戦を呼びかけたのに対し、エルドアン氏は3国を非難し、アルメニア軍撤退を停戦条件にしたアゼルバイジャンを支援した。

 

戦闘は44日間続き、アゼルバイジャン軍がナゴルノ・カラバフ地域南部を制圧。アルメニアは停戦合意で周辺地域からの撤退を受け入れた。

 

アゼルバイジャンは自国兵士の死者数を明らかにしてこなかったが、今月3日に2783人と発表。市民の犠牲も含め、双方の死者は5千人を大きく上回ったことになる。【12月12日 朝日】

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【マクロン大統領との舌戦 同日で2件の制裁が報じられる】

一方で、積極的外交・軍事に伴う「軋轢」を代表するのが、フランス・マクロン大統領との険悪な関係。

 

****トルコ大統領、「マクロン仏大統領の排除」望むと発言 舌戦に拍車****

トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は4日、フランスのエマニュエル・マクロン大統領を同国にとっての「問題」と評し、同国がマクロン氏をできるだけ早く「排除する」よう望むと発言した。両首脳の舌戦に拍車を掛けた格好だ。

 

エルドアン大統領は同日、イスタンブールで金曜礼拝に出席した後、報道陣を前に「マクロン氏はフランスにとっての問題だ。同氏がいるから、フランスは非常に危険な時期を過ごしている。フランスが同氏をできるだけ早く排除することを望む」と述べた。

 

トルコとフランスは、地中海東部における緊張やアゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノカラバフをめぐる紛争など、さまざまな問題で対立している。 【12月4日 AFP】

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戦争をしている訳でもない国の指導者を、ここまで直接的にけなすというのは、良くも悪くも、穏健な日本外交とは異質です。

 

舌戦にとどまらず、トルコには積極外交・軍事の対価としての「制裁」も課せられそうです。

 

****米、対トルコ制裁発動へ ロシア製ミサイル購入巡り=関係筋****

米国は、ロシア製地対空ミサイル「S400」の購入を巡り、トルコに制裁を科す見通しだ。米政府当局者を含む複数の関係筋が10日、ロイターに明らかにした。すでに問題を抱える両国の関係がさらに悪化するとみられる。

制裁は近く発表される可能性があり、トルコ国防産業当局の責任者イスマイル・デミル氏が対象になる見通し。一部のアナリストが想定している厳しいシナリオほどの影響はないとみられるものの、トルコに打撃を与えることになる。

これを受け、トルコリラは一時1.4%下落した。

トルコ政府高官は、二国間の関係悪化につながると指摘。「制裁は非生産的で、関係を阻害する。トルコは外交や交渉を通じた問題解決を望む。一方的な制裁は受け入れない」と述べた。

トルコのエルドアン大統領と協力的な関係を築いてきたトランプ米大統領は、アドバイザーらの助言にもかかわらず、トルコへの制裁に反対してきた。

しかし関係筋によると、トランプ氏が行動を取らないとしても、制裁は発動される見通しという。

米上院が週内にも採決を実施する見込みである年間7400億ドル規模の国防権限法案の最終版で、トルコへの制裁を30日以内に科すことが義務付けられているからだ。

関係筋によると、制裁の発表は11日になるとみられるが、早ければ10日にも行われる可能性がある。

トルコは昨年、ロシアからS400を購入。北大西洋条約機構(NATO)の防衛システムに統合することはなく、脅威にならないとしているが、米国はこれを脅威と受け止め、米ロッキード・マーティンが中心となって開発する最新鋭ステルス戦闘機「F35」の共同製造プログラムからトルコを除外した。【12月11日 ロイター】

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****トルコに追加制裁へ=東地中海の資源開発で―EU首脳会議****

欧州連合(EU)は11日、ブリュッセルで開いた首脳会議で、東地中海の資源開発をめぐり、加盟国のギリシャやキプロスとの対立が続くトルコに、追加制裁を科すことで合意した。現在、トルコの国営石油会社幹部らに科しているEUへの渡航禁止や資産凍結の制裁措置に新たな対象者を加える。

 

ギリシャやフランスはより厳しい制裁を科すよう訴えていたが、今回は見送られた。一方で、ボレル外交安全保障上級代表(外相)に対し、EU・トルコ間の政治や経済、貿易関係の現状報告や制裁措置の拡大を含めた対応策を来年3月までに示すよう指示した。【12月11日 時事】 

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同じ日に、異なる国・地域からの、異なる問題に関する制裁が報じられるというのは、そうそうあることではありません。

 

もちろん、エルドアン大統領はこうした制裁を気にするようなタマではありませんが。(少なくとも表面上は)

外圧というのは、一時的に国内求心力を高めることもありますし。

 

【感染自体の透明化で「感染者数」で世界3位に急浮上 ワクチンの早期接種に前のめり】

エルドアン大統領にとって、制裁以上に悩ましいのが国内の新型コロナ感染状況ではないでしょうか。

 

****新型コロナ「感染者数」で世界3位に浮上したトルコ 感染急拡大でワクチン確保に躍起****

新型コロナウイルスの世界の感染者が6000万人を超えた。特に欧米各国での感染拡大に歯止めがかからない。そんな中、トルコ政府が11月25日に発表した「感染者数」に注目が集まっている。

 

トルコ政府は7月下旬以降、症状がある「患者数」のみを公表し、陽性でも無症状の人はカウントしてこなかった。しかし、ついに日本や欧米など多くの国と同じく、無症状でも陽性が確認された人を含む「感染者数」の発表に踏み切った。

 

その数、2万8351人。

同日、症状がある「患者数」は6814人だったことから、およそ4倍だ。医師会や野党はこれまでも政府が感染の実態を隠していると批判し、陽性者全体の数を発表するよう追求してきたが、コジャ保健相は記者会見で今回の発表を「国民の要望に基づいて発表した」と説明した。

 

4カ月公表しなかった「感染者数」をなぜこのタイミングで発表したのか?そこには、世界各国のワクチン獲得競争が激しさを増す中で、トルコが抱えるジレンマが垣間見える。

 

「感染者数」で世界3位に浮上

この発表を、トルコメディアも一斉に伝えた。

ソズジュ(大手紙):「コジャ保健相が本当の感染者数を公表したら、トルコはヨーロッパ首位になった!」

レマン(風刺漫画誌):「感染者数でヨーロッパ首位、世界3位!9カ月もの間、われわれは真実の数ではなくうその数にだまされていたのか?」

 

医師会は早速、政府の姿勢を強い言葉で糾弾した。

イスタンブール医師会:「政府はコロナが始まってから今まで、理性と科学に従わず不足だらけで一貫性のないその場しのぎの対策を講じてきた。コロナ対策においてトルコは世界最低水準であり、政府が重視してきたのは国益だけだ。責任はコジャ保健相を任命したエルドアン政権にある。現政権の思考回路こそが障壁だ。保健相は辞任せよ」

このコロナ禍、まさに命を賭して患者の治療にあたるドクターらの声は極めて重みがあり、政権も無視できないだろう。

 

一方、野党党首らも手厳しい。

民主主義進歩党 ババジャン党首(元副首相):
「なぜ数カ月にわたり公表しなかったのか。国民の健康を危険にさらしてこなかったか。(今回発表された)これらの数字も、どれだけ信ぴょう性があるかわからない」

未来党 ダウトオール党首(元首相):
「10月に、感染者と患者数は別だとして国民を愚弄するのはやめろと警告したが、政府はようやく公表した。もはや誰も政府を信頼していない。政府はこの国を台無しにしている」

優良党 アクシェネル党首:
「感染者を公表したのだから、2週間の完全ロックダウンを行うべきだ」

 

感染急拡大で再びロックダウン

実際、トルコでは11月に入ってから感染が急拡大していて、25日に発表された1日あたりの死者数は168人と過去最多、累計1万2840人となった。

 

20日からは再び部分的ロックダウンも始まり、学校は全学年で再びオンライン授業になったほか、レストランはテイクアウトとデリバリーのみ営業可、映画館やサッカー場は閉鎖、高齢者と若者は外出可能時間が定められるなど、市民生活が大きく制限されている。政府は今後、必要に応じて外出規制時間の拡大など規制を強化する構えだ。

 

一方で、国民にこれだけ行動制限を強いているのにも関わらず、トルコ政府は7月に再開した外国人観光客の受け入れを止める様子はない。

 

現在、トルコでは国・地域別の入国制限も自主隔離も必要ない。ホテル内のレストランも宿泊客を対象に営業している。つまり、外国人観光客には大甘なのだ。

 

経済が低迷し観光収入が激減する中、背に腹は代えられないといったところだろうか。しかし、対面授業を禁止して子供から十分な教育機会を奪う一方、感染拡大リスクを顧みず、外国人観光客からの外貨収入は諦めない。こうした姿勢こそが、医師会や野党が「国益だけを追求している」と批判するゆえんなのかもしれない。

 

ワクチン確保を急ぐトルコ

感染が急拡大する中、トルコ政府はワクチンの確保にも躍起となっている。コジャ保健相は25日の記者会見で、中国のシノバック・バイオテック社から、5000万回分の新型コロナウイルスワクチンを購入する契約を結んだと明らかにした。既に1000万回分はトルコに出荷されている。

 

これが実現すれば、同じくシノバック社から4600万回分を調達予定のブラジル・サンパウロ州を抜き、トルコは中国製ワクチンの買い手として暫定世界一となる。

 

トルコ政府はあわせて、アメリカのファイザー社やドイツのビオンテック社などとも交渉しているほか、トルコ独自のワクチン開発も進めていている。世界的なワクチン争奪戦が過熱する中、人口が8000万人を超えるトルコにとって、ワクチン確保は急務といえるだろう。

 

トルコ政府は今回、無症状でも陽性が確認された人を含めた「感染者数」を公表したが、実際の数はこれよりもはるかに多いと指摘する声もある。コジャ保健相は、イスタンブールなどの大都市では「第3波が発生している」と明言していて、ICU占有率もイスタンブールで約70%(11月25日)とひっ迫してきている。これ以上の感染拡大を防ぐためにも、トルコ政府が進めるコロナ対策にはさらなる透明性の確保が求められている。

【11月27日 FNNプライムオンライン】

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「さらなる透明性の確保」の結果、累計感染者数が「前日比約119万人増」という事態に。

「前日比」、つまり1日で119万人増えたということです。

 

****コロナ感染「1日で119万人増」=トルコ、統計修正を反映****

トルコ保健省は10日、国内で確認された新型コロナウイルスの累計感染者数が「前日比約119万人増」の174万8000人超になったと発表した。これまで累計数に反映されていなかった症状が軽微な患者をこの日から過去にさかのぼって含める形にしたため、統計上の数が急増した。

 

保健省は11月25日、これまで「患者」として発表してきた数の中に無症状や症状の軽い人が含まれていなかったことを認めた。これ以降、1日当たりの「患者」以外の感染者数も公表するようになったが、25日以前の分については「患者」のみにとどまっていた。

 

今回の修正で、累計感染者数は中東最多のイラン(約110万人)を大きく上回り、世界的にも感染拡大が深刻な英国やイタリア、スペインとほぼ同じ水準であることが判明した。トルコでのこれまでの死者数は1万5700人超となっている。【12月11日 時事】 

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国内批判をかわすためにも、なんとか早急なワクチン接種を・・・ということで

 

****トルコが世界最速のワクチン接種国に?中国製コロナワクチンがそろそろ到着****

12月2日、トルコ保健省のファフレッティン・コジャ長官は、12月11日以降に中国製新型コロナウイルスワクチンの接種を開始する計画を明らかにし、順調にいけば、トルコは世界で最初に新型コロナウイルスワクチン接種を行う国の一つになるだろうと述べた。

 

トルコは先頃、新型コロナウイルスの流行に対応するため、中国のバイオ医薬企業「科興控股生物技術(SinoVac Biotech)」と5000万回分のワクチン購入契約を締結したが、ワクチンの最初の出荷分が12月11日以降にトルコに到着することも明らかにされた。

 

中国ではすでに5種類の新型コロナウイルスワクチンが、発売前に行われる最終臨床試験の段階に入っている。トルコのイスタンブールで行われている新型コロナウイルスワクチンのフェーズ3の臨床試験では重篤な副作用は確認されていない。【12月8日 36kr.Japan】

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その後どうなったかのかは確認できていませんが、エルドアン大統領にとっての「大敵」は、アルメニアでも、フランスでも、アメリカでもなく、新型コロナでしょう。

 

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フランス  イスラム規制強化としての「共和国原則の尊重強化法案」 「多文化共生」と「同化」「統合」

2020-12-12 23:17:45 | 欧州情勢

(インド・コルカタで行われた反フランス抗議デモで、火を付けられたエマニュエル・マクロン仏大統領の写真を使った人形(2020年11月4日撮影)【11月5日 AFP】)

 

【「共和国の価値観」を掲げる一方で、イスラム狙い撃ちの本音も】

フランス・マクロン大統領は9月、仏週刊紙「シャルリー・エブド」がムハンマドの風刺画を再び掲載した直後から、「フランスには冒涜の自由がある」と擁護し、一方で、10月2日にはイスラム過激派対策として、モスクの監督強化などを含む法案を作る方針を示すなど、イスラム規制を強化しています。

 

****仏、イスラム規制強化へ 過激派対策でモスク監視、政教分離徹底 マクロン氏、保守層支持狙う***

フランスのマクロン大統領は(10月)2日、イスラム過激派対策として、モスクへの規制強化などを盛り込んだ法案を年末までに提案する方針を示した。公の場所に宗教を持ち込まない原則を徹底させることが柱だ。

 

治安問題に強い姿勢を示すことで、1年半後の大統領選で保守層の支持を得る狙いが透ける。イスラム教徒側からの反発を招く可能性もある。

 

フランスにはイスラム過激主義が存在し、フランスの法律を否定し、暴力をはびこらせ、テロの条件を生み出している」 マクロン氏は2日、パリ郊外で行った演説でこう強調した。

 

フランスでは近年、イスラム過激派によるテロが相次いでおり、自国で育ったテロリストが少なくないことから、徹底排除を訴えた。

 

マクロン氏が示した法案の骨子によると、国内のモスクに外国からの資金が流れていないか監督を強化するほか、「反乱主義者」が紛れていないか監視するとしている。

 

各種文化団体などには「共和国の価値観」を守るよう署名させる。マクロン氏は、国内の一部のプールなどで女性と男性の利用者を分けるなどしていると指摘。「男女平等」が守られていないとした。

 

さらに、公共交通機関などの公共の場所で、「政教分離」を徹底させる方針も示した。マクロン氏は、フランスの理念から外れる行為をする者を「分離主義者」と非難。「フランスを好きになってもらわなければならない」と強調した。

 

一方で、「我々自身が貧困を一定の区域に集中させ、分離を生み出してきた」とも語り、格差解消にも取り組む姿勢を示した。

 

今回の方針は、治安対策が不十分だとして右派から批判を浴びてきたことが背景にある。1年半後に大統領選を控え、フランスの原点である「政教分離」を強調しつつ、治安問題での強い姿勢を示すことで、保守層の支持を回復する狙いがあるとみられる。

 

 ■テロと宗教の「同一視」批判

在仏イスラム教評議会(CFCM)はAFP通信に対し、法案は「イスラムと自称する過激主義者との闘い」を目指すものだとして、理解を示した。

 

一方、別のムスリム団体代表は同通信に「マクロン氏はテロとイスラム教を一緒にしないようにしているが、実際には同一視に一役買っている」と指摘。人権団体のSOSラシズムも同通信に「過激化の問題が特定の区域に集中してしまったのは、フランスがこうした地域を放置してきたからだ」と政府を批判した。

 

リヨン政治学院のアウエス・セニゲール准教授は「法案は何をもって分離主義者とみなすのかあいまいだ。イスラム教徒は自分たちだけが非難されるという懸念を抱くだろう」と語る。(後略)【10月4日 朝日】

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この後、10月16日には、パリ近郊で16日、授業中にイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を見せた男性教師が殺害され首を切断される事件が発生。イスラム規制強化の流れをさらに加速させる形にもなっています。

 

“マクロン大統領は事件当日の夜、「表現の自由を教えたために殺害された」と指摘。容疑者について「フランスの価値観を打倒したかったのだ」と断じ、「反啓蒙主義が勝つことはない」と強調した。”【10月18日 朝日】

 

こうした流れは、国内イスラム社会、国外のイスラムを主とする国家との軋轢を強めることにもなりますが、当然ながら、マクロン大統領は、イスラム教自体を敵視するものではなく、イスラム過激派・イスラム主義を問題視しているのだという立場を強調しています。

 

“マクロン仏大統領、イスラム教徒との緊張緩和図る” 【11月1日 AFP】

“闘う相手は「イスラム教ではなくイスラム主義」 英紙記事に仏大統領が反論”【11月5日 AFP】

 

とは言うものの、イスラム社会との緊張の高まりは否めません。

 

****風刺画巡り首脳が政治哲学論争 フランスとエジプト、会見で****

フランス紙によるイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画掲載などを巡り各国でイスラム教徒が反発した問題で、マクロン大統領は7日、フランスを訪問したエジプトのシシ大統領との共同記者会見で政治哲学論争を繰り広げた。

 

マクロン氏は人権が全てに優先すると主張、シシ氏は宗教的価値観が勝ると訴えた。

 

マクロン氏は報道の自由について説明し「風刺はイスラム教に対するフランスのメッセージではない。冒涜をする権利のある記者や漫画家の自由な表現だ」と理解を求めた。

 

一方、シシ氏は「人間の価値観は人間がつくり、変更が可能だ。宗教的価値観は神聖で全てに優越する」と指摘した。【12月8日 共同】

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そうした流れの中で、イスラム規制は進行しています。

 

****仏政府、過激派一掃へ大規模措置 まずは76のモスクを調査=内相****

フランスのダルマナン内相は2日、宗教過激派対策として「類例のない大規模な」措置を講じると発表した。まずは76のモスク(イスラム教礼拝所)を調べるとした。

内相はツイッターに声明を投稿し、結果として一部のモスクが閉鎖される可能性があると述べた。

マクロン政権はイスラム過激派による攻撃で死者が出ている事態を受け、一部当局者らが「内なる敵」と表現する存在の一掃を約束し、対応に乗り出している。【12月3日 ロイター】

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9日には、イスラム過激派対策として、フランスの価値観を徹底させ、共和国の理念に反する行為を罰することなどを盛り込んだ法案も閣議決定されています。

 

****仏の理念反する行為、罰則 イスラム過激派対策 法案閣議決定****

フランス政府は9日、イスラム過激派対策として、共和国の理念に反する行為を罰することなどを盛り込んだ法案を閣議決定した。相次ぐテロを背景に、男女平等や、政治と宗教の分離といったフランスの価値観を徹底させて同化を迫る狙いだ。

 

法案はマクロン大統領が10月、過激なイスラム主義がフランスの一体性を損ないつつあるとして、「分離主義者」を取り締まるために必要だと訴えていた。

 

9日に記者会見したカステックス首相は「イスラム過激思想が社会に憎しみや暴力を広げようとしている」と強調。7日の仏紙ルモンドのインタビューでは許容できない実例として、スポーツクラブで「アラー(神)以外に頭を下げないという理由で柔道で対戦相手にお辞儀をしない」、「学校についていけない子どもの支援団体が、フランスを憎むよう説いている」ことなどをあげた。

 

法案では「分離主義的な圧力」を公務員にかけた場合や、他人の個人情報を拡散させて危険にさらすことへの罰則を設ける。最大で禁錮5年、罰金7万5千ユーロ(約950万円)のほか10年間の国外追放を科す。宗教を理由に教員を保護者が脅迫したり、病院で患者が特定の性別の医師による診察を要求したりするケースも想定されている。

 

いずれの罰則も、10月に中学教員が殺害されたテロ事件をきっかけに作られた。教員はイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を授業で扱った後、保護者によってSNS上に投稿された動画で辞職を呼びかけられていたためだ。

 

法案には、公立図書館で過激思想をあおるような本が貸し出されている場合、知事が迅速な撤去を裁判所に求められる規定も新設する。

 

マクロン氏は10月、過激化を防ぐために格差解消も必要だと訴えていたが、法案は規制色の強いものになった。

 

■<考論>平等、イスラム教徒の声は 仏国立高等研究院、ジャン・ボベロ名誉総長

政府は「反共和国的」行為を取り締まるというが、線引きをどうするのか。例えば、カトリックでは女性は司祭になれない。民法では雇用における女性差別に当たるが、司法が問題にすることはまずないだろう。

 

一方、モスク建設が一部住民の反対運動にあうことが度々あり、建設を許可した市長が非難を浴びることさえある。政府はテロとの戦いを掲げつつイスラム教徒を守る姿勢を示す必要があるが、そのバランスが欠けている。

 

フランスは自由、平等、博愛を掲げているが、平等と博愛は忘れられがちだ。表現の自由が声高に叫ばれるが、果たして、フランス国内でイスラム教徒の声がメディアに十分反映されてきただろうか。

 

預言者ムハンマドの風刺画は、とても熟考を促すようなものではなく、ムスリムを傷つける侮辱でしかない。健全な批判とは区別されるべきもので、博愛の精神とはほど遠いものだ。【12月11日 朝日】

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上記ジャン・ボベロ氏が指摘するように、「フランスの価値観、共和国の理念」と言いつつ、宗教名を盛り込まず、「共和国原則の尊重強化法案」と名付けられてはいるものの、カトリックの司祭の事例にみるように、イスラムを狙い撃ちした色合いが濃いのは事実でしょう。

 

【「多文化共生」と「統合」の相克】

異なる価値観、文化を有する人々とどのような関係を構築するのか、互いの文化・価値観を多元的に認め合うのか、その国の価値観を重視して同化を求めるのか・・・フランスのイスラム対応に限らず、移民・難民の増加に伴って多くの国が直面する課題です。

 

****「みんなの文化を尊重」かえって溝広げた? 「多文化主義」問い直すヨーロッパ****

欧州各国は戦後、多くの移民や難民を労働者として受け入れてきた。しかし、経済成長が鈍り、社会問題が増加するに伴い、移民らへの批判や反発も強まっている。今なお移民との「多文化共生」を維持しようとするスウェーデンと、外国人の排除にかじを切った英国の例を見た。

 

(中略)低所得の労働者が暮らす街ボートシルカだ。人口の約55%はシリア、アフガニスタン、インドなどからの移民やその子どもたちで、国籍は160にも及ぶという。

 

8月、ここで深夜に犬を散歩させていた12歳の少女が射殺され、社会を揺るがした。近くでは毎晩、武装した移民系若者らによると見られる発砲音が響いており、流れ弾を受けたと考えられた。一帯の治安は数年前から悪化し、「行けない地域」(no-go zone)と呼ばれていた。

 

この事件にとりわけ衝撃を受けたのは、ボートシルカで住民の交流の場となってきた「多文化センター」だった。問題を深刻に受け止めたスタッフのミカエル・モールベリさん(56)は、移民の代表者とともに、若者を集めて対応を考える場を急きょ設けた。

 

「今回の事件では『何かしなければ』との危機感を抱きました。若者の犯罪は確かに、この街の大きな問題です」

モールベリさんはそう認める一方で、事件を移民問題と結びつける考え方に釘を刺す。

「犯罪に走るのは、彼らが貧しいから。移民だからではない」

 

「多文化センター」は、移民の伝統を尊重した交流事業を多方面で展開しており、国外からの視察も多い。その活発な取り組みは「開かれたスウェーデン」の象徴と見なされてきた。

 

モールベリさんは言う。「スウェーデン社会と移民との関係は、『移民は社会に適応すべきか』という問題に限らない。地元社会の側も移民に適応していく必要のある、いわば双方向の関係だ。そうしてこそ、多文化共生も可能になる」

 

しかし、こうした考えに違和感を感じる人が、近年多い。移民問題を専門にするジャーナリストのポーリナ・ノイディングさん(38)は「ボートシルカなどで最近頻発する事件は、加害者も被害者も移民なのが実態だ。政府は『移民は社会に適応している』と言い続けてきたが、成果が出ていないのは今回の事件が如実に物語っている」と反論する。

 

ノイディングさんによると、治安悪化の原因を「移民ではなく社会の問題」として議論を避けてきたことにこそ、事態悪化の原因があるという。

 

「移民は深刻な、何世代にもわたって影響する問題で、決して安易に考えてはならない。なのに、この国で移民問題を語ると『人種差別主義者』のレッテルを貼られる。深刻なテーマなのに誰も触れたがらない」

 

■それぞれの文化を認める考え、見直しも

欧州各国は第2次世界戦後の復興期、労働力の確保を目指し、多くの移民労働者を受け入れた。英国などは、移民の出身国の文化や習慣をそのまま認める「多文化主義」を採用。欧州の基本的な価値観を受け入れるよう求めるフランスなどの「同化主義」政策と対比された。

 

ただ、近年は社会の一体性が保たれないとして「多文化主義」を見直す国が相次いでいる。多くの国は、緩やかなフランス型モデルを採用し、社会への移民の「統合」を目指すようになった。「多文化主義」本家の英国も、ここ20年ほどの間に、「統合」を主眼に置く方針に徐々に転換した。

 

その中で、移民とその子孫が人口の25〜30%を占めるスウェーデンは、依然として「多文化共生政策」を掲げている。マルメ大学移民政策研究所のピーター・ベヴェランダー所長(57)は「移民の文化継承、母語教育政策を進めるとともに、彼らを社会に適応させ、仕事や住む家を見つけ、スウェーデン人と交流できるよう促している」と説明する。

 

■「多文化主義」がつくる溝

しかし、「多文化主義」の限界を指摘する声は少なくない。

南部の工業都市マルメの中心部ローゼンゴード地区は、行き交う女性のほとんどがベールをかぶり、香辛料の芳しさが漂う移民の街だ。ここに住む数千人のソマリア系移民は、伝統的な「氏族社会」の中で生きているという。

 

スウェーデンをはじめ北欧諸国では一般的に、国家と市民との相互信頼度が高いといわれる。国家の方針に市民は従い、法律を守り、高額の税金を払う。国家側は市民の医療や教育、インフラ整備に責任を持つ。

 

しかし、ソマリアでは、そうはいかない。内戦状態が続くこの国では、そもそも国家が機能を失っている。そこに暮らす人々にとって、国家の代わりを担うのが「氏族」。氏族社会内部の出来事は、内部の話し合いで解決される。

 

この発想がそのままスウェーデンに持ち込まれているという。例えば、移民同士の殺人事件が起きれば、スウェーデンの司法制度でなく、長老の裁定で加害者の家族が被害者側に賠償金を支払う。

 

現地で移民支援の活動を続ける元ジャーナリストのペール・ブリンケモさん(60)は、長老らと密接な協力関係を結ぶ一方で、スウェーデン社会とソマリア系社会との間に越えがたい溝があるとも感じているという。

 

「スウェーデンの法理念から離れた制度がパラレルに存在している。司法当局にとっては衝撃的な事実で、文化の衝突とも言える状態だ」

 

ブリンケモさんの活動を支援するウエスト大学のヨーラン・アダムソン准教授(56)は「多文化主義の理念に固執し、移民を民族文化に押し込めた結果、一般市民との溝を逆に広げてしまった。橋をつくるつもりが、壁をつくってしまった」と指摘する。

 

欧州では2015年が移民問題の大きな転機となった。主にシリアからの難民が押し寄せて起きた社会不安が、「移民排斥」を訴える右翼政党に勢いを与えた。それはスウェーデンでも同じだった。

 

マルメ大学上級講師ヨーン・オーベリさん(37)によると、スウェーデン人は戦前、ドイツや日本のように同一の民族意識に基づく国家観を抱いていた。だが、ナチス・ドイツの行く末を目にして単一民族国家が持つ危うさに気づきたことから、多文化主義への転換を試みた。政治家や文化人らは、「寛容で開かれた国際国家」としての側面をしきりに強調した。

 

その結果、スウェーデンには70年代まで、イタリアやギリシャなどから多数の移民が住み着いた。その後は、戦乱や貧困に苦しむ地域からの難民を積極的に受け入れた。若い労働力を求める経済界からの要請もあった。

 

多文化主義は、人権や平等、民主主義の理念と結びついていた。これに異議を唱えることははばかられた。だが、難民危機を契機にタブーが薄らぎ、移民批判が噴き出した。この流れに乗って、ファシズムに端を発する右翼の小政党だったスウェーデン民主党が、移民への厳しい政策を掲げて人気を集め、中道左派、中道右派に続く第3党に成長した。

 

オーベリさんは警鐘を鳴らす。

「スウェーデンで、多文化主義の活動は依然として活発だが、大きな試練の時を迎えているのも間違いない。もしスウェーデン民主党が参加する保守政権が生まれると、移民政策は大転換するだろう」

 

■「反移民」がEU離脱を後押し、英国の今

移民を含む「人の移動」は、グローバル化社会にとってもはや不可欠だ。欧米の経済は移民抜きでは回らない。ただ、反発を抱く人も多く、反移民政策が時に人気を集めるのも現実だ。

 

英国では、東欧各国やバルト三国からの出稼ぎ労働者が農業や福祉の現場を支えていた。欧州連合(EU)内は人の移動が自由なため、職を求めて多くの人が到来した。だが、英国人労働者層の反感を背景に、2016年の国民投票でEU離脱派が勝利。その流れを受け継ぐジョンソン現政権は、学歴や技能を点数化する制度の導入によって出稼ぎ単純労働者を排除するなど、強硬な反移民政策で人の流れを変えようとした。

 

その結果生まれたのは皮肉な現象だ。東欧などからの合法的な出稼ぎ労働者が去った農場や老人ホームでは、人手不足が深刻化。「誰でもいいから助けて」と悲鳴を上げたところ、雇用のチャンスありと踏んだ不法移民が殺到した。

 

いくら政府が移民を減らそうとしても、労働需要がある限り流入は止められない。「グローバルな資本主義経済下で、資本、商品、サービスを自由化したまま人の流れだけ規制しようとしても、どだい無理な話」と、欧州の人の移動に詳しい英リーズ大学のエイドリアン・ファヴェル教授(52)は語る。

 

英仏海峡を渡る密航者は今年、8月までに、昨年1年間の3倍近い約5000人に達した。困惑した英政府は、実力阻止を画策。海峡にフェンスの「浮く壁」を築いて密航船を防ぐ案を船舶業界に打診する一方で、上陸した不法移民らを南大西洋の英領アセンション島やセントヘレナ島の収容所に押し込める計画も立案した。

 

こうした方針は「(メキシコからの不法移民を防ぐ米国の)トランプの壁と同じ」「人命軽視」などの批判も浴びた。

 

もっとも、不法移民の実態は、旅行者として合法的に入国してそのまま居座るケースが大半だ。「海峡を渡るケースはごく少数に過ぎず、そうした人々を押しとどめても、実質的な効果は薄い。政治的イメージづくりの域を出ない」とファヴェル教授は指摘している。【12月7日 GLOBE+】

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日本も“コンビニや飲食店、工場、介護施設、農村など、いまや外国人が働いている姿を見かけない日はない。海外から見れば、日本はすでに「移民大国」だ。”【12月8日 GLOBE+】

その日本の現状・課題については、また別機会に。

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