孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

緊張の中で恒例ミサが催されるベツレヘム 中国・インドの「反クリスマス」が示す危険な兆候

2017-12-24 21:15:02 | 国際情勢

(1週間後にクリスマスを控えたベツレヘムで18日 例年のこの時期、観光客でにぎわう聖誕教会前の広場はがらんとしていた【12月21日 朝日】)

緊張の中でクリスマスを迎えるベツレヘム
アメリカ・トランプ大統領のエルサレム首都発言を受けて緊張が高まるパレスチナですが、毎年アッバス議長なども参加してクリスマスミサが行われるベツレヘムのイエスの聖誕教会も、巡礼客や観光客の足が遠のいているようです。

17日には聖誕教会の前で、アメリカに対する抗議集会が開かれ、ろうそくを手にした参加者が「パレスチナに自由を」などと気勢を上げたことなども報じられています。

****ベツレヘムはエルサレムから南約9キロの小高い丘にある・・・・****
ベツレヘムはエルサレムから南約9キロの小高い丘にある。新約聖書(ルカ福音書)によると、マリアは夫ヨセフに伴われ、この地でイエス・キリストを産み、布にくるんで飼い葉おけの中に寝かせた。現在はヨルダン川西岸のパレスチナ自治区の町である。

イエスが暮らしたのは今のイスラエル北部の町ナザレで、はりつけにされたのはエルサレムだった。中東のこの地域一帯は古くから「パレスチナ」と呼ばれ、ユダヤ・キリスト・イスラムの3教徒が、時に反目しながらも共存してきた。

そこへトランプ米大統領が新たな対立の火だねを作った。イスラエルの「首都エルサレム」を認定し、パレスチナの反発を招いた。

イスラエルと自治区の境界は緊張し、投石と発砲の応酬でパレスチナ側に死傷者が続出している。

ベツレヘムのイエスの聖誕教会前はこの時期、きらびやかに飾られ、世界中から巡礼客や観光客が集う。パレスチナ住民の多数派であるイスラム教徒も繰り出し、宗教の違いを超えた象徴的な場所になる。

しかし今年は抗議のためツリーの明かりが一時消された。

4年前のクリスマス、「東エルサレムが首都のパレスチナ国家を」とアッバス・パレスチナ自治政府議長は訴えた。7カ月前、彼とベツレヘムで会談したトランプ氏が「和平実現のために何でもする」と語ったのは何とも皮肉である。

きょう深夜から未明にかけ、恒例のミサがベツレヘムで催される。静かな聖夜であってほしい。世界が見守る降誕祭なのだから。【12月24日 毎日】
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金一族を神として崇拝する北朝鮮での「反クリスマス」】
平和の尊さを改めて感じる機会でもあるクリスマスですが、世界にはクリスマスを嫌うような動きも。

****いじわる金正恩」のクリスマス禁止令****
<昨年からクリスマスを祝う行事を禁止した金正恩。建国の父・金日成を神格化して国民に国家への忠誠を誓わせるためにはキリスト教は都合が悪い>

アメリカの絵本『いじわるグリンチのクリスマス』に登場する全身が緑色の生き物グリンチは、人間とクリスマスが大嫌い――。ところが現実の世界にも、何とかしてクリスマスをつぶそうとする国家指導者がいる。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長だ。

昨年、金正恩はクリスマスを祝う行事を公式に禁止し、その代わりに国を挙げて1919年12月24日に生まれた祖母の金正淑(キム・ジョンスク)の誕生日を祝賀する記念行事を行った。

さらに韓国の情報機関、国家情報院によると、今年は集まって酒を飲んだり、歌を歌ったりする行為を禁止することで、クリスマス関連の行事も開催できないようにした。

金正恩のクリスマスつぶしは、北朝鮮の長年にわたる宗教、特にキリスト教信者に対する迫害の一環だ。北朝鮮の憲法では信教の自由が認められているものの、実際には宗教活動への参加に対してしばしば投獄などの処罰が下されている。

金日成が唯一の神
各国の宗教活動に関する米国務省の報告書では昨年、北朝鮮について「政府によって思想、良心、信教の自由の権利が否定され、多くの状況下で政府による人権侵害が人道に対する罪の域に達している」と、指摘している。

さらに「北朝鮮国外の宗教団体や人権団体からの多数の報告によれば、多くの地下教会のメンバーが信仰によって逮捕、暴行、拷問、殺害されている」と、報告書は述べている。

抑圧的な北朝鮮政府は、国民が国家に忠誠を誓い、金正恩の祖父で建国者とされる金日成ら最高指導者を崇拝することを望んでいる。

「北朝鮮のプロパガンダはまるで宗教だ」と、脱北者のカン・ジミンは14年7月に英紙ガーディアンへの寄稿の中で語っている。「政府のプロパガンダは、金日成思想を受け入れれば、肉体が死んだ後も政治的生命は不死である、と教示している。このために北朝鮮では金日成が唯一の神とされ、それによって人々の生命が奪われることもある」

こうした事情から、北朝鮮では特にキリスト教が忌避されている。(中略)

北朝鮮が建国される1948年以前、国民の約20%はキリスト教信者だった。現在の北朝鮮の人口は2500万人余りだが、国連人権委員会によると、このうち20〜40万人がキリスト教信者と推定され、秘密裏に宗教活動を行っているとみられる。(後略)【12月22日 Newsweek】
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キリスト教と社会不満が結びつくことを警戒する中国での「反クリスマス」】
このあたりの北朝鮮の話はいまさら驚くこともありませんが、中国やインドでもとなると、いささか剣呑です。

****クリスマス行事禁止の動き=「文化侵略」めぐり論争―中国****
中国で共産党員や公務員らがクリスマス関連の行事に参加することを禁止する動きが広がっている。西洋による「文化侵略」への対抗が理由だが、「季節の行事を楽しみたい」という反発も出ている。
 
22日付の共産党機関紙・人民日報系の環球時報英語版によると、湖南省衡陽市公安局は14日付の通知で、党員や公務員に「西洋の祝祭のまん延に抵抗する」ことを呼び掛け、家族も含めクリスマスの祝賀行事に参加しないよう求めた。通知は、クリスマスの飾りのために雪の模造品を作ったり売ったりした者に対し高額の罰金を科す方針も示した。
 
「クリスマス禁止」の指示は大学などでも出ているという。共産党は党員が宗教を信仰することを認めていない。特にキリスト教は西側の価値観を代表するものとして警戒を強めている。【12月22日 時事】 
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****中国・瀋陽の大学、クリスマス関連行事禁止に****
米政府系放送局ラジオ自由アジア(RFA)は17日、中国遼寧省瀋陽市の瀋陽薬科大学で、クリスマスに関するイベントを禁止する通知が出されたと伝えた。
 
RFAによると、中国共産党の青年組織「共産主義青年団」の同大委員会は、11日付の通知で「祝祭日は国家や民族の歴史と文化を象徴するものだ。西洋の宗教文化の侵食を阻止するため、校内でのクリスマス関連行事を禁ずる」と指示した。

著名な人権活動家、胡佳氏はRFAに対し、「中国共産党がキリスト教徒の増加に警戒感を強めている」との見方を示した。
 
この措置に対し、中国版ツイッター・ 微博 ( ウェイボー )には「パソコンではなく、筆を使えというのか」など皮肉った書き込みが相次いだ。【12月18日 読売】
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もとより中国では、司教任命権をめぐってバチカンとの対立がありますが、更にその背景には、多くの社会矛盾への民衆の不満が宗教に向かうことへの共産党政権の不安・警戒があると思われます。

中国のキリスト教徒は非公認も合わせると共産党員数を上回るとも言われています。

****中国のエルサレム」強まる信仰弾圧 温州、キリスト教徒が15%****
キリスト教が盛んなことから「中国のエルサレム」とも称される浙江省温州市で、教会への弾圧が強まっている。表向き「信仰の自由」をうたう政府だが、教会の影響力の拡大を抑えたい思惑があらわになってきた。関係者は不満を募らせ、緊張が高まっている。

 ■監視カメラ拒否、教会破壊
14日、温州の中心から北へ40キロほど車で走ると、プロテスタント系の「ベテル教会」が姿を現した。田園の緑色に淡い朱色の壁が美しく映える。1988年に設立された政府公認の教会で、現在の建物は2007年に改築されたという。
 
車を降りて近づくと、無残な光景に言葉を失った。入り口の階段や玄関がめちゃくちゃに破壊されていたのだ。
教会にいた幹部の男性が憤慨した様子で3月30日に起きた事件を語り始めた。
 
地元公安当局が教会に監視カメラの設置を要求してきたのは、事件の1カ月ほど前だった。「治安維持のためだ」と説明した。
 
同意する信者は一人もいなかった。防犯用のカメラは、すでに自分たちで取り付けていたからだ。「我々を監視するカメラなど要らない」。信者たちは全会一致で設置を拒んだ。
 
すると30日夜、突然100人以上の男が教会を取り囲んだ。公安ではなく「当局に雇われたであろうならず者たち」(教会幹部)だった。

鉄の棒で外壁をたたき壊し侵入すると、重機で玄関を壊し地下にある電気ケーブルを切断した。停電して真っ暗になった瞬間、信者らに殴りかかった。
 
繰り返し設置を求める公安当局に教会は今も抵抗しているが、幹部の男性は「防ぎきれるかは分からない」と不安を口にする。
 
隣村の教会関係者によると、監視カメラ設置は浙江省政府が省内全体で進めているという。同省では、14年以降、地元当局が教会の屋根にある十字架を無理やり撤去したり建物を取り壊したりする事件が相次いだ。

当局は違法建築の取り締まりを根拠にしたが、十字架をへし折るような強引さに、信者は強い反感を抱いている。しかし、憤る信者たちの口は重い。4月に教会を取り壊されたという牧師は絞り出すように言った。「事実を話せば公安当局に呼び出され、信者を困らせる。分かってほしい」

 ■影響力の抑制狙う?
温州でキリスト教への弾圧が強まるのはなぜか。カメラ設置や教会取り壊しについて、地元政府は明確な理由を語らない。

かつて浙江省のトップを務めた習近平(シーチンピン)国家主席の意思を受けた幹部による引き締めとの見方もあれば、人権運動に取り組む活動家にはキリスト教徒も多いことから、見せしめが目的との声もある。
 
カトリック系公認教会の神父は「布教を妨害し、キリスト教を弱体化させるねらいがあることは間違いない」と話す。
 
改革開放政策初期の1980年代前半には300万人とされたプロテスタントが、現在は10倍を超えたとの統計もある。

経済成長に伴い貧富の差が生まれたことで、貧困層の入信が多いという。特に温州は人口約900万のうち15%がキリスト教信者とされ、その割合は他都市の倍を超える。
 
中国は51年からバチカン(ローマ法王庁)と断交しているが、ここ1~2年は国交正常化を模索する動きもある。

中国にとっては、台湾とバチカンの関係を断って台湾の孤立化を深める「政治カード」としての意味があり、バチカンには政府公認・非公認で中国内の教会が分裂している状況を解消するメリットがある。
 
そんな中、邵祝敏(シャオチューミン)・温州教区司教が5月18日に失踪する事件が起きた。事情を知る神父によると、邵氏はバチカンの会合に出席しようと準備中、突然公安に連れ去られた。

非公認である地下教会出身の邵氏の司教就任を中国政府は承認しておらず、バチカンに赴くのを妨害したとみられる。
 
この神父は「万一、国交が回復したところで状況は何も変わらない。『宗教はアヘン』と考える共産党政府が、我々の自由な信仰を認めるというのか」と、深いため息をついた。

 ◆キーワード
<中国のキリスト教> 信仰の自由は憲法で認められているが、政府の管理下に置かれることが前提。官製団体としてプロテスタント系の「基督教三自愛国運動委員会」、カトリック系の「天主教愛国会」などが存在する。

中国社会科学院の2010年の報告によると、プロテスタントは約2300万人、カトリックは約600万人。

共産党や政府ではなくあくまでローマ法王や教義に従おうとする非公認組織の「地下教会」「家庭教会」の信者は統計に含まれていない。非公認も合わせると、共産党員の8875万人(15年末現在)を上回るとの指摘もある。【6月26日 朝日】
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最近のバチカンとの関係では、以下のような硬軟両方向のニュースが。

****バチカンへの団体旅行禁止=司教任命権問題で圧力か―中国****
中国の旅行各社が、バチカン(ローマ法王庁)への団体旅行の募集を停止したことが21日分かった。各社のホームページからは関連ツアーの広告が消えた。北京の旅行会社は取材に対し「上から通知があった」と、国家観光局からの指示を認めた。
 
バチカンと中国政府は1951年に外交関係を断絶。中国国内の司教の任命をどちらが行うかをめぐり、対立が続いていた。昨年には合意づくりに向けた協議も報じられたが、難航しているもようで、今回の措置は中国によるバチカンへの圧力の可能性がある。【11月21日 時事】 
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****中国の故宮博物院とバチカン博物館、「芸術外交」で交換展実施へ ****
中国の故宮博物院(紫禁城)とバチカン美術館は、中国とバチカン(ローマ法王庁)の外交関係改善を目指す取り組みの一環として、それぞれ美術品40点を交換し展覧会を実施する。
 
作品群は来年3月、中国とバチカンで同時に開幕する展覧会で展示される予定。展示作品にはバチカン美術館が所蔵していた中国の陶磁器や絵画も含まれるという。
 
バチカンと中国は1951年に断交し緊張関係にあったが、近年は関係修復に努めている。しかし、待望の外交関係回復の動きはこのところ司教の任命権をめぐって鈍化している。(後略)【11月22日 AFP】
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最近の「反クリスマス」の動きも、こうしたキリスト教徒・バチカンとの緊張関係が根底にあっての話でしょう。

ヒンズー至上主義が高まるインドでの「反クリスマス」】
一方、インドでは、これまでも再三取り上げている「ヒンズー至上主義」の動きからの「反クリスマス」が。

****インドで広がる「反クリスマス」 ヒンズー至上主義の高まりで摩擦拡大****
ヒンズー教徒が多数を占めるインドで、キリスト教徒らによるクリスマス行事に反発する動きが相次いでいる。「改宗を迫っている」との告発でキリスト教の神父らが逮捕される事態に発展。

モディ政権誕生以降、インド国内ではヒンズー至上主義が高まりを見せており、宗教的な摩擦が拡大している。
 
中部マディヤプラデシュ州で、地元警察は14日、クリスマスの聖歌を歌っていた神父や神学生ら32人を拘束した。警察署に勾留されている神父らの様子を警察署に見に行った8人も逮捕された。翌日までに全員釈放されたが、警察署の外に置いてあった神父の乗用車も放火されたという。
 
地元住民から、神父らが住民に強制的に改宗やイエス・キリストへの崇拝を迫ったとして「反改宗法」に基づく告発が出ていた。

地元紙インディアン・エクスプレスなどによると、告発者はモディ首相率いる国政与党インド人民党(BJP)と関係が深いヒンズー至上主義団体「バジュラン・ダル」の一員だという。地元カトリック団体は「恒例の聖歌を歌っていただけだ」と反発している。
 
北部ウッタルプラデシュ州では複数の学校に対してクリスマス行事の中止を要求する手紙が届き、「クリスマスを祝うなら自らの責任で」と脅迫めいた文言が記されていた。西部ラジャスタン州でもクリスマス行事が妨害された。
 
ヒンズー至上主義の高まりを受けて、インド各地では少数派宗教への弾圧が相次いでおり、牛を神聖視するヒンズー教徒が牛肉を販売したイスラム教徒を襲撃する事件も相次いだ。

インドカトリック司教協議会会長のバーセリオス・クレーミス枢機卿は「インドは宗教的価値観に基づいて分断されている。民主主義国家としてよくない状況だ」と事態を憂慮している。【12月24日 産経】
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メリー・クリスマス
日本では、かつてクリスマスに三角帽子を被った酔客が街で大騒ぎするようなこともあって顰蹙を買う時代もありましたが、現在では静かなホームパーティーが定着したようです。

キリスト教徒が宗教的に祝うのも当然の話ですし、そうした宗教とは離れたところで穏やかにクリスマスを家族・友人と楽しもうとするのにとやかく言うのは偏狭と言わざるをえません。

ましてや、その背後に国家権力や特定宗教が蠢いているとしたら、非常に危険な兆候とも言えます。

残念ながら世界には多くの不幸・逆境に苦しむ人々がいます。そうした人々に救いの手が差し伸べられますように・・・メリー・クリスマス。
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