孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ・トランプ政権  「アメリカの力」を誇示することで世界に「アメリカ第一」を求める

2017-12-22 22:15:47 | アメリカ

(賛成128、反対9、棄権35。採決結果が電光掲示板に示され、採択が確実となると会場から拍手がわき起こった。【12月22日 朝日】)

エルサレム首都問題の国連総会決議でアメリカに追随した国々
周知のように、アメリカ・トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定した問題について、国連総会(193カ国)は21日に緊急特別総会を開き、アメリカに方針の撤回を求める決議案を日本を含む128カ国の賛成多数で採択しました。

反対は9カ国、棄権は35カ国で、以下のような国々です。

****エルサレム「首都」撤回を求める国連決議に反対、棄権、欠席した加盟国****
反対9:グアテマラ、ホンジュラス、イスラエル、マーシャル諸島、ミクロネシア、ナウル、パラオ、トーゴ、米国

棄権35:アンティグア・バーブーダ、アルゼンチン、豪州、バハマ、ベニン、ブータン、ボスニア・ヘルツェゴビナ、カメルーン、カナダ、コロンビア、クロアチア、チェコ共和国、ドミニカ共和国、赤道ギニア、フィジー、ハイチ、ハンガリー、ジャマイカ、キリバス、ラトビア、レソト、マラウイ、メキシコ、パナマ、パラグアイ、フィリピン、ポーランド、ルーマニア、ルワンダ、ソロモン諸島、南スーダン、トリニダード・トバゴ、ツバル、ウガンダ、バヌアツ

欠席21:中央アフリカ、コンゴ民主共和国、エルサルバドル、ジョージア、ギニアビサウ、ケニア、モンゴル、ミャンマー、モルドバ共和国、セントクリストファー・ネビス、セントルシア、サモア、サンマリノ、サントメ・プリンシペ、シエラレオネ、スワジランド、東ティモール、トンガ、トルクメニスタン、ウクライナ、ザンビア
賛成:128  (国連加盟は193カ国)【12月22日 朝日】
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ウクライナは安保理決議では賛成しましたが、この日は棄権ということで、紛争を抱える同国がアメリカ政府の圧力に配慮したものと思われます。

北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉でアメリカと微妙な関係にあるカナダ、メキシコも棄権して、これ以上のトラブルを避けたというところでしょう。

オーストラリアが棄権したのは、アメリカとの連帯の強さでしょうか。

全体的には、ミクロネシアにおいてアメリカが施政権者となっていいた国連信託統治の国々、アフリカ諸国、西欧的な価値観とは一線を画する中東欧諸国、そしてアメリカが経済的に大きな影響力を有する中南米諸国が多いようです。

ちなみに、アンティグア・バーブーダ、セントクリストファー・ネビス、セントルシアといった聞きなれない国はカリブ海の島国です。

中南米:反米から新たな対米関係へ
中南米諸国に対するアメリカの影響力はさすがに・・・といった感もありますが、カリブ海の小さな島国が以前から親米的だったのかどうかは知りませんが、コロンビア以外のいわゆる中南米諸国はひと頃は反米左派政権ばかりでした。

中南米諸国は近年変化の流れの中にありますが、それはアメリカの働き掛けというよりは、各国の国内事情によるものです。

****中南米特集】かつて反米→新たな対米外交模索 「介入」の歴史が影****
独裁色を強めるベネズエラの反米左派・マドゥロ政権が米政権との対立を深める一方、かつて反米姿勢で知られたエクアドルやニカラグアなどは米国との経済的な結びつきを重視し、新たな外交を模索する動きを見せている。
 
「(外交に)新鮮な風を吹かせる」。反米左派のコレア前大統領の後を継いで今年5月に就任したエクアドルのモレノ大統領は対米関係をめぐり、新志向を示した。
 
エクアドルは、ベネズエラの反米闘士、故チャベス前大統領が主唱した「米州ボリバル代替統合構想」(ALBA、現「米州ボリバル同盟」)に加盟するなど、ベネズエラを中心とした近隣左派政権国との関係が強かった。
 
変化の兆しがうかがえたのが貿易相の9月の訪米時。接近姿勢を強め、前政権の反米姿勢を修正しつつある。
 
この背景には経済問題がある。2014年末以来の原油安に伴い、輸出の5割を原油に頼ってきた同国経済が逼迫。「モレノ氏はイデオロギー的なものを拒否する傾向がある」(中南米外交筋)とされ、現実路線を取るとの見方が強まっている。
 
ニカラグアも事情は同様のようだ。オルテガ大統領は反米的な発言が目立つものの、50〜60万人とみられる米国在住の移民が送金する米ドルは国内総生産(GDP)の約15%に相当するとされ、経済の米国依存は動かしがたい。表向きは米国への不満を口にしながらも、米議会へのロビー活動などを通じて関係改善を探っているという。
 
こうした流れについて、別の外交筋は「ボリバル同盟内の関係は緩くなってきている。各国がそれぞれの思惑で動いており、流れは左から中道へと動いている」と分析する。
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過去のアメリカ“介入”の「トラウマ」も
アメリカにとっては好都合な流れですが、ベネズエラ・マドゥロ政権への軍事介入をも示唆するようなトランプ大統領の不用意な一言が中南米諸国の警戒感を呼び起こすことにもなっています。

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南米ではマドゥロ政権の独裁姿勢を批判する国がある一方、トランプ氏の同政権への発言が思わぬ「アレルギー反応」を引き起こしているのも事実だ。
 
トランプ氏が今年8月、マドゥロ政権への軍事介入を排除しないとの考えを示した際には、各国から非難が相次いだ。

かねて米国と協調的で、ベネズエラ大使を追放したペルーの外務省でさえ、「武力行使のいかなる脅しにも反対する」と米国を批判。

ブラジルやアルゼンチンなど南米諸国による関税同盟「南部共同市場」(メルコスル)も「暴力とあらゆる軍事的な選択肢の拒絶」を訴えた。
 
米国はニクソン政権(共和党)時代の1973年、チリ軍事クーデターに関与したほか、80年代にはパナマやグレナダに軍事侵攻。また、ニカラグアの反政府武装勢力コントラを支援するなど中南米に露骨に介入した歴史を持つ。

中南米諸国にとって癒やしがたい「トラウマ」に触れると、強い反発となって表れる特有の事情があることから、外交筋は「(米国が軍事介入すれば)親米国も反米に変わる」と指摘している。【同上】
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トランプ政権:2国間関係を重視、「敵」「味方」を峻別 中ロの影響力拡大も
また、トランプ政権の多国間の枠組みより2国間関係を重視する姿勢、「敵」「味方」を峻別する対応の裏返しで、「敵」とされる国では中国・ロシアが影響力を拡大することにもなっています。

****【中南米特集】「米国第一」で敵・味方を峻別 中露の影響力増大に懸念も****
国益優先の「米国第一」の政策をとるトランプ米政権が中南米地域で「敵」と「味方」の境を明確にしている。これに対し経済的な結び付きを重視し、反米姿勢を和らげる国も出始めている。一方、中国やロシアは同地域での勢力拡大に躍起になっている。

トランプ米政権はキューバやベネズエラの反米政権が圧政で国民を苦しめているとして制裁を強化する一方、自らに協力する国を支援する姿勢を示している。「敵」「味方」の境を明確にしている形だが、多国間の枠組みより2国間関係を重視する姿勢が米国の存在感を低下させ、中国やロシアの進出が野放しになるとの懸念も出ている。
 
トランプ政権は中南米政策の基軸を不法移民や違法薬物の米国への流入阻止、公平貿易の実現に置いている。18日に発表した国家安全保障戦略(NSS)では米国と価値観を共有する国との協力を重視する考えを強調した。
 
ベネズエラやキューバが「時代錯誤の左翼権威主義」にしがみつき、国民の期待に応えていないとも指摘。トランプ大統領は9月の国連総会で「社会主義や共産主義が取り入れられた国では苦悩、荒廃、失敗がもたらされた」と両国を名指しで非難した。
 
米国がNSSで強い警戒を示したのが、中国やロシアの中南米進出だ。両国は独裁色を強めるベネズエラのマドゥロ政権を支援し、中南米諸国に軍事的な協力関係や武器売却を拡大しようとしていると指摘し、民主主義の価値観を共有する国々と協力してその脅威に立ち向かう重要性を強調した。
 
トランプ政権は、メキシコ経由で入国する不法移民が社会問題化した中米の「北部三角地帯」と呼ばれるエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスの3カ国や、麻薬の供給源となっている南米コロンビア、ペルーとの協力を特に重視し、貧困対策や警察組織への支援を進めている。
 
米州機構や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)など多国間の枠組みを使って中南米への影響力を強めようとしたオバマ前政権と比べ、2国間の関係を重視しているのがトランプ政権の中南米政策の特徴だ。
 
そのため、米コロンビア大の中南米専門家クリストファー・サバティーニ、ウィリアム・ネイラー両氏は外交専門誌フォーリン・アフェアーズ(電子版)で、米州機構やTPPを軽視するトランプ政権下で「米国は指導的地位を失う」と指摘、中露の影響力増大に警鐘を鳴らした。【12月22日 産経】
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多国間の枠組みより2国間関係を重視し、2国間で影響力を行使するというのは、南シナ海における中国と全く同じです。その意味ではトランプ大統領と習近平国家主席のやっていることは同じです。

中国は「一帯一路」を中南米にも拡大し、更に、台湾との“外交戦争”の視点もあって、この地域への関与を強めています。

****中南米特集】中国、海運要衝狙い「一帯一路」拡大 台湾との外交戦争も再開****
中国は世界最大のエネルギー消費国として、資源が豊富で海運の要衝も抱える中南米地域での影響力拡大に力を入れている。
 
今年6月、中米パナマが電撃的に台湾との断交に踏み切り、中国と国交を樹立した。決め手となったのは中国が約束した巨額の経済支援だ。パナマ運河の通過貨物量が米国に次ぐ2位の“上客”でもあり、運河沿いでは中国企業が巨大投資を計画している。
 
中南米地域は本来、沿線国でのインフラ投資を支援する現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」のルート外だ。ただ中国は今年から「延長線上にある」との理屈を持ち出し、パナマのほかチリ、アルゼンチン、ブラジル、ペルーなどが参加の意思を示している。
 
中国が中南米諸国との結びつきを強化しているもう一つの理由が、台湾との“外交戦争”の再開だ。
 
台湾が現在、外交関係を保持する20カ国のうち半数を中南米の国が占める。「一つの中国」原則を認めない蔡英文政権の誕生を機に、習近平指導部は台湾の外交孤立に向けて露骨な圧力をかけ始めている。
 
台湾にとってパナマに続く“断交ドミノ”は悪夢だ。来年1月には、チリで中国・ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)フォーラムの閣僚級会合が開催され、台湾との外交関係を持つ国も多く参加する。中国の外交専門家は「こうした国と中国との政治的・経済的関係も強化されるだろう。もし蔡英文氏が独立路線を進めるなら、中国は手を打つ必要がある」と警告する。 
 
中国は米国主導の国際秩序に対抗するため「国際関係の民主化」を唱えている。多くの発展途上国を抱える中南米地域は中国にとり、経済力を利用して多数派工作を進めるための“草刈り場”でもある。【12月22日 産経】
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エルサレム首都問題でも援助打ち切りの強圧的姿勢 反発も招く“力の誇示”】
こうした中国・ロシアの動向があるなかで、トランプ大統領のマドゥロ政権への軍事介入を排除しないとの発言は余計でした。

18日の国家安全保障戦略にもみられるようにアメリカ・トランプ政権は“アメリカの力”を誇示することで、アメリカにとって具合の良い世界を築こうとという姿勢です。

今回のエルサレム首都問題でも、その特徴がよく出ています。

****トランプ氏、決議賛成国へ援助打ち切り示唆 首都問題****
米トランプ政権がエルサレムをイスラエルの首都と承認した問題で、国連総会が米国に撤回を求める決議案を採決することを受けて、トランプ大統領は20日の閣議で「我々に反対する投票をさせとけばいい。我々はたくさん節約する。気にしない」と語った。決議案に賛成した国への援助打ち切りを示唆して牽制(けんせい)した。
 
国連総会は21日午前(日本時間22日未明)に緊急特別総会を開いて、決議案は圧倒的多数の賛成を得て、採択される見通しになっている。
 
トランプ氏は「何億ドル、何十億ドルも(米国から)受け取り、そして我々に反対する投票をする」と不満をあらわにし、「我々は投票を見守る」とした。
さらに、「米国民は(他国に)利用されるのにうんざりしている。これ以上利用されない」と述べた。
 
国連では安全保障理事会が今月18日に同様の決議案を採決し、常任理事国の米国が拒否権を行使したため廃案になった。これを受けて、トルコやイエメンが今回の国連総会の緊急特別総会の開催を求めた。【12月20日 朝日】
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こうしたトランプ政権の対応への反発も出ています。

****エルサレム首都」に抗議=首相ら数千人集会―マレーシア****
トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定した問題を受け、イスラム教を国教とするマレーシアで22日、ナジブ首相ら数千人が首都クアラルンプール近郊プトラジャヤに集まり、抗議集会が開かれた。ナジブ氏は集会で、トランプ政権の方針に対し「首相として最後まで反対する」と訴えた。

国連総会で採択された米国の判断撤回を求める決議の賛成国に対し、トランプ氏は援助停止を警告している。これに対し、首相は「米国に支援を頼んでいない。むしろ向こうから飛行機を買ってほしいと頼まれたぐらいだ」と批判した。【12月22日 時事】 
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なんだかんだ言っても、「アメリカの力」を誇示することで「アメリカ第一」を貫こうとするトランプ大統領の狙いは、短期的にはそれなりの効果をあげるのかもしれません。

ただ、そうした“力”による関係を長期的に維持することは困難ですし、ヤクザの恫喝と同じで、国際秩序の“あるべき論”からしても好ましいことには思えません。

外交・国際関係なんて所詮“力”による関係だ・・・と言えば、そうかも。ただ、それを言ってしまっては・・・・。

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