goo blog サービス終了のお知らせ 

孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ソマリア  暫定政府が終了し、正式政府発足へ 議員・新大統領選出には遅れが

2012-08-20 23:15:24 | ソマリア

(首都モガディシオのビーチの賑わい 100万人を超える難民とは結びつかない平和的光景です。ビーチの賑わいも難民も、ともにソマリアの現実です。“flickr”より By EvolvingPrimates http://www.flickr.com/photos/78850887@N07/7059761929/

議員275人は長老の推薦で決まる
東アフリカのソマリアでは、内戦と実質的無政府状態、更には干ばつ被害のため難民が増え続け、すでに100万人を超えています。

****ソマリア難民100万人突破=10年間で3カ国目―国連****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は17日、アフリカのソマリア難民がこれまでに100万人を突破したと明らかにした。深刻な干ばつや治安悪化により、隣国などに逃れる状況が依然続いている。
難民が100万人を超えたのはこの10年間でアフガニスタン、イラクに次ぎ3カ国目という。【7月17日 時事】
*******************

ソマリアには一応、05年から「暫定政府」が存在しますが、今日20日でその統治期限が終了します。
今年2月23日にロンドンで開催されたソマリアの安定化を協議する国際会議において、暫定政府の権限の延長は行わず、全土を代表する統一政府への移行を実現することで合意しています。
これについては、“「改革へ努力しないと国際社会は手を切る」(日本政府関係者)という暫定政府への通告、との見方もある”【2月25日 朝日】とのことです。

状況は、イスラム武装組織シャバブが首都モガディシオから撤退し、アフリカ連合(AU)平和維持部隊によってモガディシオの大統領府周辺のみがかろうじて守られていた頃に比較すると、若干は改善しています。
ただ、シャバブはソマリア中南部で依然広く影響力を保っており、首都モガディシオにおいても爆弾テロが繰り返されています。
国会議員選出の選挙も行えない状況ですが、とにもかくにも、ソマリアは正式政府発足を目指すことになります。

****ソマリア、希望の一歩 内戦21年、正式政府が発足へ****
21年間にわたって内戦が続き、無政府状態のソマリアで正式政府発足に向けた動きが活発化している。20日に暫定政府の期限が切れるのを前に国会議員の選定など国の形作りが大詰めを迎えている。新政府の成否は、近海の海賊問題の解決やテロ組織の温床化阻止など世界の安全保障にも関わる。

■国会議員の選定進む
8月上旬、首都モガディシオの集会場で、氏族に分かれた血縁集団の各長老が国会議員のリストを持ち寄っていた。議員275人は長老の推薦で決まる。首都などを除き、中南部で広範囲に実効支配するイスラム武装勢力シャバブとの戦闘が続いており、全国での選挙が行えないためだ。

議員の選定規定は学歴などのほか、女性を3分の1にするとある。長老の一人バシルさん(66)は「女性の社会参加はいいことだ。厳選している」と話す。だが選定で長老とのコネや脅し、買収の横行も指摘されており、難航している。

新大統領は議員選定の後に議員の投票で選ばれる。新大統領の下で20日の正式政府発足を目指しているが、議員選定の利害対立で行程がずれ込んでいる。
大統領候補は約50人。大半が欧米などから戻った人々だという。街には大統領候補の陣営が「政治腐敗と戦う」「農漁業の振興を」などと投票を訴えて回る選挙カーの姿も見られた。

一方、新政府発足を巡り、関連会議を狙った自爆テロも発生した。12日には議員選定を取材した記者ら2人が殺害された。シャバブの犯行とみられる。
無政府状態とシャバブの存在は、アデン湾など近海での海賊の隆盛を許した。年間約1万8千隻の商船が航行する海の要所が危険にさらされている。日本の自衛隊や世界各国の海軍が広大な海上で警戒するが、海賊の拠点がある陸地での対策がほぼ手つかずできた。

北西部のソマリランドが91年に一方的に独立を宣言、北東部のプントランドも98年に自治を宣言している。プントランドは新政府に参加する意向だが、ソマリランドは難色を示し、分離する可能性もある。
暫定政府のアフメド大統領は取材に「全土の結束が必要だ。中央政府ができ、秩序を取り戻せばシャバブや海賊が存在できる場所がなくなる」と話した。

■残骸残る海、笑顔戻る
新政府誕生を前に街の雰囲気は変わりつつある。
モガディシオ郊外にあるリドビーチ。白い砂浜とエメラルドグリーンの海が広がる。週末の午前、地元の親子連れや若者ら数百人が海水浴を楽しんでいた。色とりどりの服を着た女性も目立つ。20年以上見られなかった光景だ。内戦で人々は海岸に近寄れなかった。

周辺はかつてホテルやレストランが立ち並び、ヨーロッパ人観光客であふれる国内最大の観光地だった。今、石造りの建物は破壊され、古代遺跡のような残骸をさらしている。カラフルな看板だけが面影を残す。

一帯はシャバブの根城になっていた。
シャバブは自由な服装、海水浴、魚釣りなどを禁じた。違反者は打ち首になった。近くに住む中学生アウィエスさん(20)は、漁に出た漁師が処刑されるのを見た。「恐怖の中に住んでいた。誰も海に近づこうとしなかった」という。自身も学校に行けなくなった。

漁師のアブディさん(30)は半年前に漁を再開した。「ロブスターやサワラ。海には何でもいる」と笑う。以前は常に家の中で過ごし、援助の食糧が来るのを待った。「海があるのに食べ物に困った。馬鹿げていた」

アフリカ連合(AU)軍がシャバブとの戦闘の末にこの地域を奪取したのは昨年8月。ここ数カ月で人々が戻ってきた。ただ、シャバブの脅威は消えていない。治安部隊の装甲車が警戒にあたる中、外国人の姿は皆無だ。
AU軍の掃討作戦にもかかわらず、シャバブはソマリア中南部で広く影響力を保ったままだ。街を去ってもゲリラ的に自爆テロを繰り返している。
アブディさんは、新政府に期待する。「街を再建し、外国人が来られる国にして欲しい」と話した。

■「教育は紛争防ぐ手段」
内戦にたびたび妨げられていた学校教育は一部で元に戻りつつある。
モガディシオ南部のブスタレ小中等学校は激戦で閉鎖を余儀なくされた。シャバブの撤退により昨年11月に再開にこぎ着け、約250人が学んでいる。
多くの子どもがシャバブによってかり出され、約50人は戦闘に加わったとみられる。教員のジャワヒールさん(45)は「子どもは心に傷を負っている。シャバブに言及することは避けている」と話した。

中心街にあるイムラ小中等学校は、AU軍とシャバブが激しく交戦する地域にあった。生徒のアブディさん(18)は「授業中にいきなり戦闘が始まった。通学も銃撃の間を縫うことがあった」と話す。学校がシャバブの基地として使われた時期もあった。AU軍が学校を攻撃しないと見て入り込み、学校から攻撃した。

別の学校の教員フセインさん(45)は、平和を訴える教材を持っていたところ、シャバブの戦闘員に銃を突きつけられ尋問されたことがある。「聖戦はすばらしいと教えるように言われた。人権なんて存在しなかった」と話した。

暫定政府教育省のムーサ局長は「長年、統一された教育がなかった。教育は紛争を防ぐ手段だ。無知が一番恐ろしい」という。
教員養成機関もなければ、学校も足りない。「国民の85%が読み書きができない。国際社会は戦闘だけでなく、教育にも関心を持って欲しい」と話した。【8月19日 朝日】
********************

モガディシオ郊外のビーチで“週末の午前、地元の親子連れや若者ら数百人が海水浴を楽しんでいた。色とりどりの服を着た女性も目立つ”・・・というのは、これまでのソマリアのイメージからすると、意外な感もありました。

以前のブログでやや懐疑的に取り上げた“(モガディシオのビーチが)「立入危険区域」から「見逃せない観光スポット」に生まれ変わった”“ソマリア政府の広報担当者アブディラマン・オマール・オスマンは楽観的だ。今のモガディシュは、イラクのバグダッドやアフガニスタンのカブールよりは安全になったし、観光客誘致のため観光大臣も任命するかもしれないという。”【6月14日 Newsweek】という“ソマリア・リゾート”も、あながち嘘ではないのかも。

正式政府発足は遅れる見通し
正式政府に向けて、8月1日には暫定憲法案が採択されましたが、会議場近くでは自爆テロも起きています。

****国連、ソマリア暫定憲法案の採択を歓迎****
パン・ギムン国連事務総長は1日声明を発表し、同日、ソマリア全国憲法制定会議で暫定憲法案が採択されたことに歓迎の意を表明すると共に、会場近くで発生した自爆テロを強く非難しました。
憲法制定会議は1日、暫定憲法案について投票を行い、圧倒的多数で承認しました。しかし、投票が始まる前、会場入り口付近で、自爆テロが2回発生し、警察官2名が負傷しています。【8月2日 China Radio Internatinal】
*******************

結局、国会議員・新大統領の選出は、期限切れの20日には間に合いませんでした。
各氏族に分断され対立を繰り返すソマリア社会、これまでの経緯を考えると、正式政府発足まではひと山もふた山もありそうに思えます。

****ソマリア暫定統治期限が終了…政府発足は遅れる****
1991年から内戦状態が続くソマリアで20日、2004年に発足した暫定政府の統治期限が終了した。
当初の予定では、同日までに各部族によって選ばれた国会議員275人が大統領を選出することになっていたが、AP通信によると、汚職疑惑などで国会議員選出が遅れており、新大統領選出も遅れる見通しだ。

事実上の無政府状態が続くソマリアは海賊やイスラム武装勢力の一大拠点となっている。8月1日には、暫定憲法が採択されるなど正式政府発足に向けた進展もあり、国連やアフリカ連合などは「国際社会はこれまでの重要な進展を歓迎する」とする共同声明を19日に発表した。
新大統領候補としては、暫定政府のアハメド大統領やアリ首相、暫定議会のアデン議長らの名前が挙がっている。【8月20日 読売】
*********************

“議員275人は長老の推薦で決まる”とのことですから、コネ・脅し・買収が横行するのはやむを得ないところですが、正式政府発足前からこんな状況で大丈夫だろうか・・・という不安も感じます。

武装した海外の民間警備会社の警備員が日本船籍に乗船
なお、日本はソマリア沖で行っている海賊対策を1年延長して続行しています。
****海自:海賊対策活動を1年延長****
政府は13日午前の安全保障会議と閣議で、23日に期限が切れるアフリカ東部ソマリア沖・アデン湾での海上自衛隊の海賊対策活動を1年間延長することを決定した。森本敏防衛相は記者会見で「海賊事案は昨年より減少しているが引き続き予断を許さない状況だ」と延長理由を述べた。

自衛隊の活動拠点がある隣国ジブチに各国部隊などと活動を調整する現地調整所を新設し、自衛官3人を配置。上空から警戒監視に当たるP3C哨戒機2機、民間船舶を警護する護衛艦2隻の態勢は維持する。

ソマリア沖での海賊対策活動は09年3月、自衛隊法に基づき海上警備行動として開始。同年7月からは根拠法を海賊対処法に切り替えて継続している。同法に基づく活動延長は3回目。【7月13日 毎日】
*********************

しかし、海賊の活動範囲を自衛隊だけでカバーするのは困難なため、武装した海外の民間警備会社の警備員が日本船籍に乗船できるよう法整備を行う方向で検討がなされています。

****ソマリア沖:海賊対策に民間警備員 政府が法整備検討****
政府はアフリカ・ソマリア沖や周辺海域での海賊対策を強化するため、武装した海外の民間警備会社の警備員が日本船籍に乗船できるよう法整備を行う方向で検討に入った。

現在は海賊対処法に基づき、海上自衛隊がソマリア沖のアデン湾に護衛艦などを派遣して民間船舶を護衛している。しかし、海賊行為の発生地域がアラビア海からインド洋まで広がり、自衛隊だけでは対処できないと判断。来年の通常国会への関連法案提出を目指している。(後略)【8月14日 毎日】
*********************


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミャンマー  イスラム教徒ロヒンギャ族問題で強まる海外からの圧力

2012-08-19 22:09:27 | ミャンマー

(放火されて燃える自宅をみつめるロヒンギャの若者 “flickr”より By Rohingya Zahid Hossain http://www.flickr.com/photos/rohingya/7662230636/
ただ、写真下のコメントにあるような、イスラム国家としての分離独立を求めるという話になると、なかなか事態の収束は困難になるように思えます。)

治安部隊が暴力行為を終結させるのではなく、イスラム教徒を標的にしている
ミャンマー西部ラカイン州での仏教徒とイスラム教徒の衝突が起きたこと、そして、このイスラム教徒というのがミャンマー国内では市民権が与えられていない“存在を否定された民族”ロヒンギャ族であることは、
6月10日ブログ「ミャンマー 民主化の試金石 “存在を否定された民族” ロヒンギャ族への対応」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120610
6月14日ブログ「ミャンマー ロヒンギャ問題への、スー・チーさんら民主化運動関係者の積極的関与を望む」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120614
で取り上げたところです。

ラカイン州には非常事態宣言が出されましたが、衝突のその後の状況はよくわかりません。ただ、少なくとも好転はしていないようです。
下記記事はロヒンギャ族の難民キャンプの悲惨な状況を伝えています。ただし、イラン国営メディアの報道ということで、イスラム教徒のロヒンギャ族側に立っている可能性には留意する必要があります

****ミャンマー北西部難民キャンプでのイスラム教徒の人道上の悲劇*****
イラン国営衛星通信プレスTVは最近、ミャンマー北西部・ラカイン州にある、イスラム教徒の難民キャンプの悲惨な実態を明らかにした。

プレスTV記者が11日土曜、ミャンマー・ラカイン州(旧称アラカン州)から伝えたところによると、イスラム教徒であるロヒンギャ族の難民キャンプでは、深刻な食料・医薬品不足が指摘される上、設置されて40日にしかならないにもかかわらず、子ども数名を含めた18名が、既に死亡している、ということである。プレスTV記者は、ロヒンギャ族のイスラム教徒が収容されている難民キャンプの実態を間近に見ており、そうした実例として、重病と極度の衰弱により自分の力では動けない子どもの存在を挙げている。

さらに、この記者はミャンマー北西部のイスラム教徒居住区である、複数の村落が灰燼に帰したと伝えており、この地区のイスラム教徒の話として、ラカイン州の仏教徒が警察と共に、イスラム教徒の村落に放火し、彼らの住み処を奪ったとしている。この地区のイスラム教徒によれば、ミャンマー政府の支援を受けた仏教徒が、複数のモスクに放火したとされている。

この報告によれば、視察の対象となるキャンプは、ミャンマーのイスラム教徒が収容されている、最も状態のよいキャンプとされ、ミャンマー政府がその視察許可を出している。10日金曜には、駐ミャンマー・トルコ大使やインドネシアの副大統領が、さらに11日には国連代表がこのキャンプを視察に訪れている。
プレスTV記者はさらに、これらのキャンプ訪問がミャンマーの治安部隊による厳重な警備・監視の下に行われたとし、「このキャンプに収容されている人々は、他のキャンプの状態はこのキャンプよりはるかに劣悪だと語っている」と述べている。

この記者が、ロヒンギャ族のイスラム教徒の話として伝えたところによると、ミャンマーでは少数派の宗教であるイスラム教徒に対する民族浄化作戦が行われているとされ、同国ラカイン州の州都シットウェに住んでいたイスラム教徒7万人のうち、この町に残留したのはわずか6000人だということである。

現在、ミャンマーでは多数派である仏教徒が政権を握っており、この政権は同国のイスラム教徒を正式に認めず、彼らを違法な移民であるとさえ主張している。
ロヒンギャ族のイスラム教徒は、8世紀初頭にミャンマーに移住してきた。
国連人権委員会当局は、ミャンマーにおける暴力行為の責任は、同国の治安部隊にあるとし、この治安部隊が暴力行為を終結させるのではなく、イスラム教徒を標的にしているとみている。

国連人権理事会の見解でも、数十年にわたる差別により、ロヒンギャ族は難民となり、祖国を失ったとされている。さらに、ミャンマー政府はロヒンギャ族のイスラム教徒が居住する地域を軍事的に包囲することにより、同国のイスラム教徒の動向に制限を加え、彼らの居住権や、教育・公的サービスを受ける権利までをも剥奪しているのである。【8月12日 IRAN JAPANESE RADIO】
**********************

なお、“今回のラカイン州でのムスリム(イスラム教徒)と仏教徒の衝突の裏には、イスラム教原理主義組織の存在も指摘されている”“州内の民族対立は、今に始まったことではない。ただ、今回は少し様相が異なる。普段は温厚なあるミャンマー人の友人が今回の事件について「これまでも女性が暴行される事件はあったが、今回のように殺されることはなかった。絶対に許せない」と憤る。これまで軍政下で制限されていた情報が、民主化の結果、多くのミャンマー人の耳に入り、反ロヒンギャ感情を増幅させている”【7月20日 SANKEI EXPRESS】との指摘もあります。

【「イスラム教徒弾圧」として国際問題化
ロヒンギャ族がイスラム教徒であることから、イスラム諸国を中心として、海外からのミャンマー政府への圧力が強まっています。

****ミャンマー宗教対立、拡大 イスラム教国に飛び火 パキスタン「迫害」を非難****
ミャンマー西部ラカイン州における仏教徒のラカイン族と、イスラム教徒のロヒンギャ族との衝突事件は、イスラム教国パキスタンなどに飛び火した。民族問題という事の本質が、「イスラム教徒弾圧」として国際問題化する状況に、ミャンマー政府は苦しい立場に置かれている。

パキスタンでは7月29日、西部バルチスタン州の州都クエッタで、数百人が横断幕とプラカードを手に、ミャンマー政府によるイスラム教徒の「迫害」を非難した。参加者は国連の即時介入を求め、批判の矛先は、沈黙を守るパキスタン政府にも向けられた。
これに先立つ26日には、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動」(TTP)が声明を出し、「流血の報復をするだろう」と警告した。

約1億8千万人の人口を抱えるパキスタンでは、93%がイスラム教徒だ。一方、88%がイスラム教徒のインドネシアも事態を重視しており、「差別的な扱いには反対する」(マルティ外相)との声を上げている。過激派組織のイスラム擁護戦線(FPI)は、首都ジャカルタのミャンマー大使館に押しかけ、「虐殺の中止」を要求した。

もっともTTPに対しては、ロヒンギャ族や、ミャンマー国内のイスラム教団体などは「テロ組織の支援は受け入れない。原理主義者はラカイン情勢を利用しようとしているだけだ」と、一線を画している。

ロヒンギャ族の若者が6月、ラカイン族の少女を暴行したことに端を発する衝突では、少なくとも77人が死亡、109人が負傷し、家屋など約5千軒が放火された。逮捕者は858人にのぼり、仏教徒1万4千人以上、イスラム教徒3万人以上が、89カ所の臨時キャンプに収容されている。

ラカイン州がなお、非常事態宣言下にある中で、国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは、治安部隊により、多くのロヒンギャ族が暴行、逮捕され、差別的に隔離されているとの報告を出した。国連のナビ・ピレー人権高等弁務官も、事態が「イスラム教徒・ロヒンギャ族に対する弾圧に変容する」ことへの懸念を表明した。

これに対し、ミャンマーのワン・マウン・ルウィン外相は「犠牲者はイスラム、仏教徒の双方であり、宗教的な迫害ではない。宗教問題として政治・国際問題化する動きは受け入れられない」と反論している。【8月2日 産経】
*******************

もっとも、イスラム諸国でも国内事情から今回の問題への対応に苦慮している国もあります。
自国に多くの少数民族やキリスト教徒を抱えるインドネシアもそのひとつです。

****インドネシア大統領 内憂外患****
インドネシアのユドヨノ大統領が、ミャンマー西部ラカイン州でのロヒンギャ族をめぐる民族対立問題への対応で、苦しい立場に立たされている。インドネシアは世界最大のムスリム(イスラム教徒)人口を抱える国だけに、ムスリムであるロヒンギャを支援することを多くの国民は支持しているが、物事はそう単純ではない。

というのもインドネシア自身が多民族・多宗教国家だからだ。他のイスラム諸国からロヒンギャ支援で同調を求められる一方で、インドネシア国内のキリスト教徒などからは、まず自国の少数民族の保護を優先すべきだとの声があがっている。

宗教紛争を否定
「ラカイン州の問題は異なる集団の間の紛争であって、宗教紛争ではない。たまたまラカインとロヒンギャが仏教徒とイスラム教徒だったに過ぎない」
これまでラカイン州での問題に沈黙を守ってきたユドヨノ大統領は8月4日の記者会見で、初めてこの問題に言及した。会見で大統領は、ラカイン族とロヒンギャ族の対立は宗教問題ではないと繰り返し強調。双方が少数民族として十分な支援を受けられないことが原因と指摘した。

大統領は、ロヒンギャへの人道支援をムスリムの兄弟として行うよう呼び掛けたものの、同時にミャンマーのテイン・セイン大統領の立場を支持する姿勢も示し、どちらかに偏ることなく、問題解決を図りたいとの姿勢をにじませた。【8月10日 SANKEI EXPRESS】
*********************

イスラム協力機構(OIC)は16日、サウジアラビアのメッカで開かれた首脳会議で、ミャンマー政府の対応を非難し、国連総会への提起を決定しています。
こうした国外からの圧力に対し、テイン・セイン政権は独自の調査委員会を設置することで内政への干渉を阻む姿勢を見せています。

****ミャンマー、異例の調査委 宗教衝突 イスラム・国連干渉拒む*****
ミャンマー西部ラカイン州における仏教徒のラカイン族と、イスラム教徒のロヒンギャ族との衝突をめぐり、イスラム諸国と国連がミャンマー政府に対する圧力を強めている。これを受け、テイン・セイン大統領は、衝突の原因などを究明するため異例の調査委員会を設置した。自助努力の姿勢を示し、内政干渉を阻止することを狙っている。

57カ国・地域が加盟するイスラム協力機構(OIC)は16日、サウジアラビアのメッカで開かれた首脳会議で、ミャンマー当局はロヒンギャ族への「暴力」を継続しており、市民権を付与することも拒否していると、非難した。そのうえで、この問題を国連総会に提起することを決定した。

これに先立ち、OICはラカイン州へのOIC調査団受け入れをミャンマー政府に要請していた。国連人権理事会のキンタナ特別報告者も、ロヒンギャ族への「治安部隊による過度の武力行使や逮捕、勾留、殺害、拷問」など、事実関係を調査するよう要請した。

これに対し、テイン・セイン大統領は「国内問題であり、外国による調査は必要ない」との立場だ。主要政党からは「キンタナ氏はロヒンギャ族寄りで、不公平であり偏っている。彼を交代させるべきだ」(民主党幹部)と、辞任を求める声が噴出していた。

こうした経緯の末に、大統領が調査委員会の設置を発表したのが17日。委員会は27人で構成され、宗教指導者や民主活動家らも含まれる。目的は、犠牲者などの実態を調査し、緊張緩和と平和的共存の道を探ることにあるとしている。
大統領にとり、衝突を「イスラム教徒弾圧」「人権侵害」とみる第三者による調査は、到底受け入れ難く、独自の調査委員会設置は苦肉の策でもある。【8月19日 産経】
***********************

民主化運動の試金石
ミャンマーの民主化運動のリーダーとして議会活動を開始しているスー・チーさんは衝突発生直後に長期の外遊に出ており、そのことを批判する向きもあります。
帰国後のインタビューで次のように語っています。

****少数民族問題は「市民権確立で対処を****
スー・チー氏の欧州歴訪中、ミャンマーでは西部ラカイン州で仏教徒とイスラム教徒の少数民族ロヒンギャ人との衝突が起き、80人以上が死亡した。この問題についてスー・チー氏は、法の支配を強化し市民権法を整備することによって、市民権のあるロヒンギャ人と不法移民を区別することが大事だと述べた。

スー・チー氏は、「地域社会の対立は文化や宗教の違いに根ざしていることが多い」と指摘。こうした違いは乗り越えるのに時間がかかるが、法の支配さえ確立すれば衝突は減少するはずだとの考えを示した。

また、ラカイン州がバングラデシュと国境を接し不法移民が出入りしやすい地域特性に加え、移民当局に汚職がはびこっている点も挙げ、ミャンマーとバングラデシュ両国が移民の押し付け合いをしていると批判。国際的に理解を得られる公正で強力な市民権法の確立が必要だと訴えた。【7月2日 AFP】
*****************

ロヒンギャ族に関しては、政権側・野党側を問わず、ミャンマー仏教徒全般に嫌悪感が強く存在しており、スー・チーさんらの民主化運動がこの問題にどのように対処できるのかも注目されています。

****スー・チーを苦しめる新たなジレンマ****
・・・・スー・チーがヨーロッパにたつ直前には、西部のラカイン州に非常事態宣言が発令された。圧倒的多数派の仏教徒とイスラム系少数民族ロヒンギャ族の間で衝突が激化しているためだ。民族問題が激化する最中に外遊することについても疑問の声が湧き起こった。

さらにスー・チーが外遊中の演説でこの件に言及し、長年迫害されてきた少数派のロヒンギャ族の権利擁護を主張すれば、仏教徒の反発を買いかねない。その半面、何も発言しなければ、少数派抑圧を容認していると批判を浴びる恐れがある。これも、自宅軟禁の日々には経験することのなかったジレンマだ。【6月27日号 Newsweek】
***************

少数民族和平協議:政権の目指す和解の早期実現は難しい情勢
なお、ロヒンギャ族の問題を離れて少数民族問題全般についてみると、テイン・セイン政権の和平協議がこのところ停滞している・・・との報道があります。

****ミャンマー、少数民族との和平協議停滞 改革路線に陰り****
ミャンマーのテインセイン政権による少数民族との和平協議が停滞している。停戦協定を結んだ各派との政治対話は進まず、戦闘状態にあるカチン族とは正式交渉に入れていない。政権の目指す和解の早期実現は難しい情勢だ。

政権で少数民族との交渉責任者を務めるアウンミン鉄道相は、2月末の朝日新聞との会見で(1)国軍と戦闘状態にある主要11民族の武装勢力と3~4カ月以内の停戦協定合意(2)停戦合意した各派との政治対話と難民帰還の開始(3)恒久和平に向けた国民会議の開催の3段階のシナリオを示し、実現に自信を見せていた。

うち10民族は停戦で合意。唯一、戦闘状態にあるカチン独立軍を率いるカチン独立機構(KIO)のラジャ書記長は先月下旬、バンコクで朝日新聞の取材に応じ、「政治解決の道筋が見えない限り、停戦協定は結ばない」と明言した。

書記長によると、アウンミン氏をトップとする政府交渉団と、タイ国内とミャンマー国内の自派支配地域で6月下旬まで3回、非公式な交渉を重ねた。アウンミン氏は停戦協定の受け入れを求めたのに対し、KIOは政府軍部隊の撤退を主張し、議論は平行線をたどったという。正式交渉の日程や場所でも合意に達していない。

書記長は「我々は(最大民族の)ビルマ族と同じ権利を求め、昨年まで17年間、停戦に応じてきた。しかし軍事政権は政治的な努力をせず、昨年6月には一方的に停戦を破った。政府側は口だけの停戦を言うのではなく、政治的な解決策を示し、信頼回復を図るべきだ」と主張する。

一方、停戦合意した各派と政府側の政治対話も進んでいない。60年以上独立闘争を続け、今年初めに停戦を受け入れたカレン民族同盟(KNU)は今月28日、アウンミン氏ら政府交渉団と協議する予定。ただ議題は、停戦をめぐる行動規範などにとどまる見通しだ。

少数民族勢力の動向に詳しい民主活動家のキンオマー氏は「住民に和平の期待が広がる一方で、政府軍部隊は撤退せず、不安定な治安状態が続いている」と指摘する。実際、カレン(カイン)州やシャン州で先月末以降、政府軍や政府側民兵と少数民族武装勢力との小競り合いや衝突が散発的に起き、死傷者も出た。

民主化や経済自由化とともに、少数民族との和解を改革の柱にすえるテインセイン大統領は4日、少数民族政党の代表と会談し、和解実現への協力をよびかけた。しかし具体的な提案や日程などには言及しなかった。【8月9日 朝日】
********************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

尖閣諸島・竹島を巡って高まる日本・中国・韓国の緊張 周辺国へも影響

2012-08-18 23:07:02 | 東アジア

(2010年5月29日 韓国・済州島で開かれた日中韓首脳会談 “flickr”より By GreenDominee http://www.flickr.com/photos/green_leader/4651411607/

反日行動に抑制的な中国の対応
尖閣諸島の香港活動家上陸問題については、上陸を徹底的に阻止すれば、器物損壊や公務執行妨害容疑による逮捕に発展しかねないため、野田政権は早期決着の道を選択しました。
2010年の菅政権当時、尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船に衝突した中国漁船の船長を公務執行妨害容疑で逮捕。これに中国側が反発し、政権は処分保留で釈放、菅政権は「弱腰外交」の批判を浴びる・・・という悪夢の二の舞を避けたということでしょう。

中国側も秋の党大会での指導部交代を控えて非常に「敏感」な時期にあり、反日行動が反政府行動に火をつけるような事態は避けたいという思惑から抑制気味の対応となり、早期決着で日中双方の利害が一致したようです。

もちろん中国国内のネット世論には過激な反日の意見が溢れています。(恐らく日本国内のネットも同様でしょう)中国政府はこうした反日感情の暴走を警戒しています。

****中国、反日デモ抑制の構え ネット呼びかけ次々削除****
尖閣諸島に上陸して逮捕された活動家ら14人が強制送還される見通しになったことで、中国政府は「事態の複雑化は避けられる」(日中外交筋)と判断し、高まりつつあった市民の反日感情が暴走しないよう引き締めを図る構えだ。

北京の日本大使館前には16日朝から10~30人前後のグループが断続的に現れ、日本に対する抗議の声を上げた。上海や山東省青島の日本総領事館でもそれぞれ20人余りが抗議に集まったが、いずれも多数の警察官が取り囲み、過激な動きを抑えた。

中国のネット上では2010年の一連の反日デモの皮切りとなった四川省成都市など各地で抗議集会や反日デモの呼びかけが広がっているが、これも次々と書き込みが削除されている。【8月17日 朝日】
*******************

****尖閣問題>日本と全面戦争なんて馬鹿げている、今はそんな時代ではない―中国紙****
2012年8月17日、中国共産党機関紙・人民日報系の国際情報紙「環球時報」は、尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題をめぐり、中国と日本が全面戦争で解決を図ろうとするのは馬鹿げていると論じた。以下はその概要。

大国間が戦争という手段で領土紛争を解決する時代は終わった。中国と日本が全面戦争で釣魚島(尖閣諸島)問題を解決しようとするのは馬鹿げている。両国のネット上では「開戦しろ」といった過激な意見も出ているが、ほとんどの国民はそんなことは望んでいない。もちろん、両国政府の選択肢に戦争が入るわけがないだろう。

だからといって、中国が日本に妥協するという意味ではない。むしろ全く反対である。今日の「保釣」(尖閣防衛)の局面は我々が懸命に作り上げてきたものだ。日本側に逮捕された14人を救い出すために今できることは、日本に厳正な態度で圧力をかけることである。衝突を激化させない姿勢がかえって問題解決を早め、この局面を救うことになる。

中国の釣魚島(尖閣諸島)に対する戦略は今のところ、成功だといえる。我々は現実とよく向き合うべきだ。理想主義のスローガンに流されて、何も進展していないと勘違いすべきではない。力強く釣魚島(尖閣諸島)の領有権保護という方向に向かって進んでいこう。どんな時も決して後退はしない。国民よ、どうか自らの立ち位置と環境をよく見極め、「前進」と「後退」の違いを理解してほしい。【8月18日 Record China】
***********************

西安では18日、尖閣諸島(中国名・釣魚島)の中国領有などを主張する若者ら数百人が反日デモを行っています。“公安当局は若者らの間で高まる愛国感情に配慮し、過激化しない範囲で反日デモを容認した形”【8月18日 時事】とのことですが、このデモも“夕方までには警官隊が出動し、沈静化した。大きな混乱は伝えられていない”【同上】とのことです。

野田政権の、上陸を許したうえでの強制送還という対応には、国家主権侵害を許したとして、また、今後同様の行動が頻発することになるとして、与野党から批判も強いようですが、尖閣諸島は日本側が実効支配しており、中国側も公式見解は別として、実態としてはことさらに尖閣を問題化させようという姿勢ではない現状からすれば、問題が大きくなることを避けるのは現実的な対処と思われます。

李明博大統領の言動には韓国内にも懸念・異論も
韓国の李明博大統領の竹島上陸や、天皇への謝罪要求などの対日批判発言については、野田政権は国際司法裁判所(ICJ)への提訴、日韓の通貨交換(スワップ)協定の見直しの検討、韓国の国連非常任理事国立候補を支持しない・・・といった具体的対抗策を講じる動きを見せています。
韓国側には、尖閣諸島問題では中国に柔軟な対応を行いながら、韓国に対しては強硬な姿勢をとる・・・といった不満もあるようです。

韓国の国民世論はともかく、政治・経済面では、日本との対立が深まることへの懸念もあるように報じられています。

****韓日中の外交緊張 経済面でも大きなマイナスに****
独島問題をめぐり韓日関係が急速に冷え込んでいる。また、人権活動家の韓国人が中国で拷問されたとする問題で、中国との関係も悪化の兆しが見える。日本と中国も領土問題で緊張感が増している。
外交上のあつれきが深刻な水準に達していることから、経済への影響を懸念する声が高まっている。状況がさらに悪化すれば、実体経済や金融部門の損失にとどまらず、韓国への反発が2次被害を引き起こす恐れもある。

◇日中への経済依存度高い韓国
日本経済新聞が読者を対象に意識調査を実施したところ、90%が李明博(イ・ミョンバク)大統領の独島上陸を許せないと回答し、33%は関税など経済分野で対抗措置が必要とした。
日本や中国が韓国に経済的な報復措置を取れば、韓国経済には致命的な打撃となる。韓国の輸出は、日本から先端技術・部品を持ち込み、中国で組み立て、米国などに販売するという構造のためだ。(中略)

現代経済研究院のイム・ヒジョン研究委員は「日本が露骨に輸出を減らすことはできなくても、新製品や追加分の輸出などで非協力的になる可能性もある」と指摘した。

一方、中国は韓国にとって最大の輸出先であると同時に生産拠点でもある。1~6月の対中輸出は全体の23.2%にあたる594億ドルだった。韓国経済の成長を支える輸出の相当部分が、中国の影響力下にある。韓中のあつれきが強まれば、中国が「実力行使」に乗り出すこともあり得る。
LG経済研究院のイ・グンテ研究委員は「貿易報復の可能性は日本より中国のほうが大きい」と指摘。しかし、サムスン経済研究所のパン・テソプ主席研究員は「現在は韓日中とも経済が良くないため、貿易報復などには慎重だろう」と話した。

◇金融分野に心理的な動揺
3カ国の外交面の摩擦で、金融分野にも混乱が予想される。代表的な例が、韓日が緊急時に外貨を融通し合う通貨スワップ協定だ。日本の読売新聞は、李大統領の独島訪問と天皇に関連する発言への対応として、日本政府が通貨スワップ協定の見直しを考慮していると伝えた。ただ韓国政府は、通貨スワップは日本にも利益があるため、協定を解除する可能性は小さいと見ている。

それでも協定解除の可能性による不安心理は、市場に悪影響を与えているもようだ。金融研究院のキム・ヨンド研究委員は「協定締結が外為市場に安定心理をもたらした。逆に、日本が協定を解除する可能性が示されれば、市場の不安心理を刺激することになる」と指摘した。(中略)

◇韓流輸出、観光収入にも影響
外交問題は国民感情を悪化させ、2次被害も引き起こすと予想される。まず、韓流文化輸出への逆風が考えられる。(中略)

しかし韓国への反発が強まれば、これら韓流輸出は減少せざるを得ない。実際に日本の衛星放送局は、独島まで泳いで渡る行事に参加した韓国俳優ソン・イルグクさんが主演した韓国ドラマの放送を無期限延期した。(中略)

また、国内総生産(GDP)の5.2%を占める観光産業の被害も避けられない。昨年訪韓した日本人観光客は329万人、中国人観光客は222万人で、その合計は訪韓観光客の56.3%を占める。特に中国人観光客は韓国で1日平均254ドル、日本人は234ドルを使っており、米国やフランスの2倍となっている。

締結を目指し現在推進中の韓日自由貿易協定(FTA)=日本側名称:日韓経済連携協定(EPA)=、韓日中FTAの交渉にも赤信号がともりそうだ。韓国に対する国民感情が悪化すれば、国民的な同意が必要なFTA締結をつまずかせることになりかねない。【8月17日 聯合ニュース】
*******************

次期大統領選挙に向けて動き出している韓国政治にあっては「死に体」とも評されるように求心力を失っている李明博大統領の言動に対しては、次期政権に大きな負担を残すとして、冷やかな見方も一部にあるようです。

****大統領言動「行き過ぎ」批判も=対日関係悪化に懸念―韓国****
韓国の李明博大統領の竹島(韓国名・独島)訪問への対抗措置として、日本政府は近く国際司法裁判所(ICJ)への提訴手続きに入る。日韓関係は緊迫局面を迎えており、韓国内では李大統領の行き過ぎた言動を批判する声も上がっている。

18日付の京郷新聞は「日本政府はこれまで『竹島は日本の領土』と主張しながらも、特別に強い挑発はしなかったが、大統領の独島訪問以後、日本のやり方は根本的に変わった」との見方を紹介。「独島問題は未知の領域に入った」として、「政府は内心では緊張しながら対策準備に腐心している」と伝えた。

韓国でも波紋を呼んだのが14日に行った、天皇陛下の訪韓には死亡した独立運動家への謝罪が必要との発言だ。京郷新聞は「日本社会の特殊性などを勘案すると、度を超えた感がある」との専門家の意見や「過ぎたるは及ばざるがごとしだ」との与党議員の声を伝えた。【8月18日 時事】 
********************

困惑する台湾
日中韓以外にも今回の問題は波紋を広げています。

尖閣諸島については台湾も領有権を主張しますが、香港の活動家が上陸した際、台湾の旗である「青天白日満地紅旗」を中国国旗「五星紅旗」と一緒に掲げたことで、馬英九政権は難しい立場に置かれています。
尖閣諸島の領有権問題では、台湾は再三、「中国と協力して解決しない」と日本側に伝えてきたことから、台湾側は日本側への釈明に追われているとも報じられています。

“台湾外交部の董国猷(とう・こくゆう)政務次長は16日、日本の対台湾窓口機関、交流協会の樽井澄夫台北事務所代表(大使に相当)と会談し、旗が尖閣に立てられたことについて「我が政府の主張と合っている」と原則的立場を述べながらも、旗がともに掲げられた事実は「全く知らなかった」と釈明した。台湾側としては、日本に“台湾が中国と通じている”と疑われることも避けたかったようだ”【8月17日 毎日】

****尖閣上陸 「国旗」掲げられ困惑 台湾、外交と民意の板挟み****
香港の活動家らによる沖縄県・尖閣諸島上陸は、周辺海域の「平和と安定のため」として、台湾の抗議船出港を差し止め、香港の抗議船の寄港を断った台湾当局を困惑させている。台湾は同諸島の主権を主張する一方、この問題では「大陸(中国)と連携しない」との方針を打ち出しているが、活動家が中国国旗を掲げ、台湾の旗も並べたことで「連携している」との印象を持たれるなどしたためだ。

また、ネット上では「中華民国(台湾)の領土の釣魚台(尖閣の台湾での呼称)に、香港人が上陸し、五星紅旗(中国国旗)が掲げられたのに抗議しないのか」などとする批判も噴出している。
これに対し、台湾の外交部(外務省)報道官は16日、香港の団体のメンバーの速やかな釈放を日本に求める一方、上陸については「中華民国政府の許可を得ていないが、台湾も香港も自由な社会だ」として旗を掲げた行為を問題視しない考えを示した。

一方、台湾の有力紙、中国時報は同日付で、活動家の上陸について、「政府高官も唖然(あぜん)」などとして報じ、上陸が台湾当局にとって想定外だったことを明かした。
記事によると、総統直轄機関の国家安全会議に設けられた特別班では、活動家らの上陸はシナリオになく、関係各部署は衝撃を受けたという。【8月17日 産経】
********************

【「対岸の火事」ではないベトナム・フィリピン
一方、南シナ海問題で中国と対立するベトナム・フィリピンには、日本と韓国が対立することが中国を利する結果になることへの警戒感もあるようです。また、日本の国際司法裁判所(ICJ)への提訴の動きに注目しています。

****東南ア諸国、対中結束を強調 「韓国は中国のわなにはまっている****
沖縄県・尖閣諸島と、島根県・竹島をめぐる情勢は、南シナ海の領有権を中国と争う東南アジア諸国にとり「対岸の火事」ではなく、国際司法裁判所(ICJ)への日本の提訴の動きなどを注視している。元外交官らは、韓国が「中国のわな」にはまっており、東・南シナ海を問わず、中国と領有権を争う関係当事国が、結束し対処することが必要だ、と指摘している。

「韓国は日本との争いを過熱させていることで、中国のわなにはまっている。韓国は中国と黄海の入り口にある離於島(中国名・蘇岩礁)をめぐり係争していることを想起すべきだ」。こう語るのは、ベトナムの元駐広州(中国)総領事のズオン・ザイン・ジ氏だ。

つまり「中国は今は、韓国との係争を見ぬふりをし、中国とともに韓国を日本との争いに集中させている」という。だが「中国は日本との問題が小康状態になれば、矛先を韓国へ向けるだろう。そのことに韓国も早晩、気づき、日本との関係維持に動く」とみる。
個別の領有権問題は関係当事国以外、介入しがたい。同氏はしかし「日本とベトナムは中国を相手に似た状況に直面しており情報の交換、共有など協力すべきだ」と提起する。

フィリピン政府筋も「南シナ海の関係当事国と日本などが結束、協力し中国に対処すれば、中国の海洋覇権拡大を阻止する『鉄拳』になり得る」としている。
領有権問題をめぐる国際環境について、フィリピン政治暴力テロ研究所のロンメル・バンロイ所長は「領有権問題を規定、統制する包括・絶対的な裁定権限は欠如し、無政府主義的な状況下にある」と憂慮する。

フィリピンの元駐マレーシア大使で、東南アジア諸国連合(ASEAN)の元事務局長、ロドルフォ・セベリーノ氏も「領有権問題は、ICJなどで直ちに解決されない。法律上の権利を超えた、国益に関する問題だからだ」と指摘する。それでもフィリピン政府筋は「日本の提訴方針は理解できる」と評価する。フィリピンも中国を提訴することを検討してきており、「日本の動きに後押しされる可能性もある」と言う。【8月18日 産経】
*********************

北方領土問題を抱えるロシアは、ウラジオストクで9月に開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を前に東アジアの主要国間の摩擦をあおりたくない事情があって、今は静観の構えのようです。
アメリカは、深入りを避けたいという姿勢です。

領土については言うべきことをきちんと主張するのは当然のことですが、感情的なものが入り込むと確執が深まるだけで、解決からは遠ざかります。中国・韓国にある反日感情と同様に、日本側にも両国に対する差別的な嫌悪感が充満しています。
自己満足的にそうした感情をぶつけあっても、いたずらに過激化するだけで、問題は何百年かかっても一歩も動きません。

自国に主張があるように、相手の立場に立てば別の主張もあります。双方が出来るだけ感情的なものを排し、互いの利益につながる妥協の道を模索する努力が、問題の解決には必要とされます。その際、長年の実効支配の現状への一定の配慮はやむを得ないところがあるとも思われます。

領土は国家主権そのものといった議論や、地下・漁業資源や戦略的重要性の問題もありますが、隣接する国が信頼関係を回復するのはそれら以上に重要な問題に思われます。

コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イラン  求心力を失うアフマディネジャド大統領 大統領制廃止の議論も

2012-08-16 22:37:31 | イラン

(「死に体」とも評されるアフマディネジャド大統領(左)と、失脚したものの復権も報じられるラフサンジャニ元大統領(右) 今年4月頃の写真のようです。もちろん互いの腹のうちは笑顔とは別物でしょう。国営イラン労働通信より)

【「この国はレバノン(のヒズボラ)は助けても国民は助けない」】
(「死に体」とも評されるアフマディネジャド大統領(左)と、失脚したものの復権も報じられるラフサンジャニ元大統領(右) 今年4月頃の写真のようです。もちろん互いの腹のうちは笑顔とは別物でしょう。国営イラン労働通信より)

イランのマルジェ・バヒドダストジェルディ保健相は13日、イラン北西部で11日に発生した2回の地震で、306人が死亡、3037人が負傷したと発表、死者の大半は女性と子どもでした。

この地震翌日に早々に捜索を打ち切り、状況を正確に伝えることもなく、海外からの援助も断るイラン政府の対応に、住民の不満が高まっています。

****イラン地震:捜索打ち切りに怒り…被災者「救助足りない****
イラン北西部タブリーズ近郊で発生した大地震で、イラン政府の救援対応の遅れや事態を正確に伝えない国内メディアに不満が高まっている。

犠牲者は13日夕時点で306人に上るが、政府は地震翌日の12日夜、早々に「捜索活動完了」を宣言。実際には多くの村で救助の手が足りず、住民はがれきの中を手作業で捜索に当たっていた。救援物資も行き届かず、被災者たちは政府の対応に怒りの声をあげている。

タブリーズ近郊の山間にあるバジェバジ村(人口約500人)では、住民38人が死亡した。農業を営むアフマディさん(40)は倒壊した住宅を数時間かけて素手で掘り起こし親戚の少女(15)を救出したが、既に死亡していた。

村人たちは夜通し総出で捜索活動を続け、ほぼ丸1日たった12日午後、1歳の子供を抱えた女性や高齢の男性を救出した。だが全員、絶命していたという。「早く救助隊が来ていれば助かったはずなのに」。口々に憤る住民たち。12日に国軍や民兵組織バシジの兵士ら約60人が来たが、視察しただけで何もしなかったという。ある男性住民は「この国はレバノン(のシーア派民兵組織ヒズボラ)は助けても国民は助けない」と皮肉を込めて怒った。(中略)

イランのナッジャル内相は地震翌日の12日夜の国営放送で「捜索救助活動は終了し、避難所や食糧確保に当たっている」と発表。海外からの支援の打診も拒否した。一般に、災害発生から72時間以内であれば生存可能性は一定程度認められる。海外の一部メディアなどは、発生翌日の「捜索終了」は早すぎると疑問を投げかけている。

一方、国内のメディアは地震の実態を伝えない。体制に近い保守系紙は地震発生翌日の朝刊も、地震の記事を1面に掲載しなかった。被災地の状況を伝えるテレビ報道は少なく、国営ラジオは「救助隊が発生1時間後に助けに来た」などと、好意的な住民の声を中心に伝えている。

イランは核開発問題で米欧諸国から相次ぐ経済制裁を受け、国民の不満が次高まっている。地震がさらなる不満要素にならないよう被害を最小限に見せる意図がありそうだ。【8月13日 毎日】
********************

こうした政府の姿勢への批判が高まったことで、海外支援を受け入れる受け入れることへ方針を変更しましたが、敵対するアメリカからの支援は断っています。

****イラン、地震で米国支援を拒否 国内では政府批判強まる****
イラン北西部で300人以上が死亡した地震への対応をめぐり、イラン内務省のガダミ次官は15日、米国からの支援の申し出を断ったことを明らかにした。イランのファルス通信が伝えた。当局は、人命救助をはじめとする対応に批判を浴びて外国の支援受け入れに転じたが、核開発問題で対立する米国にはかたくなな姿勢を貫いた。

米ホワイトハウスは地震発生翌日の12日、「支援を提供する用意がある」との声明を発表していた。だが、ガダミ氏は「米国の申し出は善意に基づいていない。本当に助けたいのならば、(核開発に対する)制裁を解除すべきだ」と指摘し、「そうすれば我々は医薬品が買える」と語った。

イランは当初、「自力で対処できる」(赤新月社のファギヒ総裁)として外国の支援を断ったが、批判が噴出し、14日に一転して受け入れを表明していた。【8月16日 朝日】
**********************

また、イラン核開発に対する欧米の制裁によって国内では食料品などの価格が高騰を続けており、「制裁と無能な政府がこんな状況にしたんだ」といった政権批判が強まっています。

【「ハメネイ師はアフマディネジャド氏を信頼していない」】
一方、アフマディネジャド大統領は、最高指導者ハメネイ師の信頼を失い、議会内でも同じ保守派の反大統領派が多数を占める状況で、「死に体」とも言われるように求心力を失いつつあります。
来年6月には大統領選挙が予定されていますが、保守派内部の反大統領派からアフマディネジャド大統領を牽制する声が強まり、更には大統領制廃止も議論されています。

****イラン国会「選挙任せぬ」 政府の不正を懸念****
大統領選を来年6月に控えたイランの国会(定数290)で、政府に選挙管理を任せられないとする声が噴き出した。大統領派と反大統領派の「権力闘争」が背景にある。国会は大統領制の廃止も検討する予定で、任期1年を切ったアフマディネジャド大統領の「死に体」ぶりを印象づけている。

イランでは内務省が選挙実務を仕切る。憲法で大統領の3選は禁止されており、アフマディネジャド氏は立候補できないが、反大統領派は、同氏の後継候補が有利になるよう内務省が結果を改ざんしかねないと懸念する。2009年の大統領選では、不正を訴える大規模暴動が起きた。

国会が8日に公表した議事録によると、反大統領派の筆頭格、ラリジャニ国会議長は「内務省とは別組織を設けて選挙を担わせるか、その組織が内務省を監視する方法がある」と発言。大統領派のタジェディニ議員は「政府とイスラム体制を弱めようとするものだ」と猛反発した。
選挙結果は、イスラム法学者らで組織する護憲評議会がチェックするが、その評議会も「選挙管理を別組織に任せることはできる」(キャドホダイ報道官)という姿勢だ。

アフマディネジャド氏は05年の初当選後、中断していた核開発を再開。米国やイスラエルを挑発する発言を繰り返し、国際社会で孤立した。昨年は情報相人事をめぐり最高指導者ハメネイ師とも対立し、国内で「(体制からの)逸脱勢力」と非難された。今年3月の国会議員選では、インフレを抑制できない政府を批判した反大統領派が7割以上の議席を占めた。

約300人が犠牲になった11日の地震への対応をめぐっても、被災地選出の議員は「政府の危機管理は最悪だ」とこき下ろした。発生翌日、内務省が生存者の救出作業を打ち切ると発表したことなどへの反発とみられる。
元政府高官は「ハメネイ師はアフマディネジャド氏を信頼していない」と言い切る。ハメネイ師は昨年10月、大統領制廃止の可能性を示唆した。国会はすでに1989年まで続いた議院内閣制の導入を検討する委員会を設置。10月から本格的に議論を始めると伝えられている。【8月16日 朝日】
*******************

記事にもあるように、アフマディネジャド大統領自身の出馬はありませんが、大統領選挙後の政界引退の意向も報じられています。

****イラン大統領:今期で引退「学問の世界に戻る****
イランのアフマディネジャド大統領は独メディアに対し、「13年の大統領選後は、学問の世界に戻る」と語り、政界を引退する意向を明らかにした。イランでは法律上3選が禁止され、現在2期目の大統領は次期出馬が不可能だが、政界から距離を置くことを明言したのは初めて。
イラン政界では、大統領に反発する宗教的、対外強硬的な勢力が拡大しており、大統領が政界から退けば、そうした流れがさらに加速する可能性がある。

独紙フランクフルター・アルゲマイネ日曜版(17日付)の取材に対し、大統領は来年8月の任期満了以降は「大学で政治にかかわるかもしれないが、政治グループに所属したり、新設することはない」と語った。また、ロシアのプーチン大統領のように一時的に退いた後に復帰する可能性については「(2期)8年間で十分だ」として否定した。

アフマディネジャド氏は05年に初当選して09年に再選。当選前はテヘラン市長と同時に大学教授だった。米国やイスラエルに対する過激な発言から、欧米は「保守強硬派」として敵視してきたが、実際には欧米への譲歩も模索しているとされる。【6月17日 毎日】
*******************

【「制裁を招いたアフマディネジャド氏に代わり、ラフサンジャニ師に期待するハメネイ師の意思を代弁したもの」】
欧米から嫌われているアフマディネジャド大統領ですが、現在議会の多数を制している保守派・反大統領派の強硬姿勢に比べると、欧米との妥協も可能な現実主義的な側面もある政治家でもあります。

アフマディネジャド大統領より更に現実主義で経済重視の立場に立つのが、前回大統領選挙で改革派のムサビ元首相を支持して失脚したラフサンジャニ元大統領です。
そのラフサンジャニ元大統領が最近復権しつつある・・・との報道がありました。

****失脚のイラン元大統領、復権? 危機下に待望論****
失脚が伝えられたイランのラフサンジャニ元大統領が、国内メディアに相次いで登場するようになった。米国と欧州連合(EU)の追加制裁で経済の危機が懸念される。現実路線で知られるラフサンジャニ師が、事態打開に向けて復権したとの見方もある。

国連安全保障理事会常任理事国などとの核協議が不調に終わった直後の6月22日、メヘル通信は「我々は団結する必要がある」というラフサンジャニ師の発言を報道。国営テレビも5月末、新国会の宣誓式でアフマディネジャド大統領と隣り合って座る姿を伝えた。

保守穏健派のラフサンジャニ師は、2009年の大統領選で改革派のムサビ元首相を支持。最高指導者ハメネイ師の不興を買い、イスラム教金曜礼拝の導師として人前に立つことはなくなった。昨年3月には最高指導者の任免権を持つ専門家会議の議長を退任。別の公的ポストは維持しているが、政界での力を失ったとみられていた。

最近のメディアの変化について、イラン政府元高官は「制裁を招いたアフマディネジャド氏に代わり、ラフサンジャニ師に期待するハメネイ師の意思を代弁したもの」と分析する。ラフサンジャニ師は1989~97年の大統領在任中、欧米との対話を志向する現実路線を敷いた。
ラフサンジャニ師が指導部内で影響力を強めれば、「ウラン濃縮の一時停止に応じるなど核協議で柔軟になる可能性はある」(地元記者)との見方もあり、今後のイランの変化が注目される。【7月3日 朝日】
*********************

制裁で経済運営が行き詰っていることから、経済に明るく現実主義的なラフサンジャニ元大統領への期待・・・ということですが、どうでしょうか?対欧米ではアフマディネジャド大統領以上に強硬な反大統領派が中心的な現在のイラン政界で、本当にラフサンジャニ元大統領復権があるのでしょうか?
まあ、復権のためなら、改革派とでも、保守強硬派とでも、誰とでも手を結ぶような現実主義的なイメージがあるラフサンジャニ元大統領ではありますが。

【「男性のネクタイまで規制するとはうんざりだ」】
最近のイラン国内の状況を伝える記事が2本。

****イラン:「西洋文化の象徴」ネクタイ販売 取り締まり強化****
イランの警察当局が、ネクタイを販売する洋服店の徹底的な取り締まりを強めている。イラン政府はこれまでも、ネクタイは「西洋文化の象徴」として敵視してきたが、販売は容認していた。宗教界の影響力の高まりを受け服装規制を厳格化する当局に対し、市民や商店主から反発の声が上がっている。

イスラム革命(79年)以降、反欧米を掲げるイランでは、官僚や政治家らは一切ネクタイを着用しないのが慣習。それでも私的なパーティーでは好んで着用する市民もおり、販売は許されてきた。

当局は今年5月末以降、ネクタイを販売する洋服店の一斉取り締まりを開始。テヘラン中心部の洋服店店主の男性(30)によると、販売すれば罰金や3〜6カ月の営業停止処分にするとの通達があり、店頭から自主的にネクタイを撤去したという。
男性店主は「当局は、女性の服装にもうるさいが、男性のネクタイまで規制するとはうんざりだ。これがイスラム共和国(イラン)のやり方だ」と不満をぶちまけた。【6月25日 毎日】
*****************

****イラン裁判所、飲酒の2人に死刑判決 人権団体は反発****
イラン北東部ホラサンラザビ州の裁判所が、酒を飲んだとされるイラン人2人に死刑を言い渡した。イラン学生通信が24日伝えた。飲酒を理由とした死刑がイランで執行されたケースはないが、最高裁が支持すれば刑は確定する。人権団体は反発している。

イスラム教国のイランでは、飲酒は厳禁。法律は3度目に逮捕されれば死刑もあり得ると定める。ただ、国際社会の批判を考慮してか、罰金刑やむち打ち刑にとどめているのが現実だ。

死刑判決について、ホラサンラザビ州の司法当局者は「2人は飲酒を繰り返し、逮捕は3度目となる」と正当化した。2人の性別や名前、逮捕日、一審判決日などはいっさい明らかにしていない。【6月26日 朝日】
*********************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

エジプト  モルシ大統領、タンタウィ軍最高評議会議長を更迭 軍とも合意のうえ、権限掌握へ

2012-08-15 22:37:17 | 北アフリカ

(イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区との境界付近で兵士16人が殺害されたことを受け、シナイ半島を視察するエジプトのモルシ大統領(右)とタンタウィ国防相・軍最高評議会議長(左)【8月13日 AFP】http://www.afpbb.com/article/politics/2894865/9356938

【「(人事は)評議会内で協議した結果だ」】
権限維持を図る軍最高評議会と、議会を制したイスラム主義穏健派のムスリム同胞団出身のモルシ大統領の間の対立が注目を集めていたエジプトで、モルシ大統領による急速な権力掌握の動きが報じられています。

「アラブの春」によるムバラク政権崩壊を受けて民政移管したものの、これまでは軍部が実質的権限を維持し、イスラム主義勢力が勝利した人民議会(下院)は、選挙法に関する最高憲法裁判所の違憲判断を受けて解散を命じられました。
軍最高評議会は6月に暫定憲法を修正し、解散を命じられた議会再選挙までは軍が立法権を握り、解散前の議会が設置していた憲法委の委員人選も軍がやり直せるとしていました。

今月初めに組閣されたカンディール首相を首班とする内閣でも、タンタウィ軍最高評議会議長が国防相にとどまるなど、軍の影響が強く残る政権となりました。
(8月5日ブログ「エジプト  軍部との関係、身内のムスリム同胞団への配慮などで難しい運営を迫られるモルシ大統領」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120805

こうした流れは、軍最高評議会が主導権を握った流れのように思われましたが、モルシ大統領は12日、軍トップであるタンタウィ軍最高評議会議長を更迭し、タンタウィ氏が兼務していた国防相の後任に、陸軍のシシ少将を任命。アナン参謀総長(軍最高評議会副議長)も解任し、後任にシドキ司令官を昇格させました。
空席だった副大統領には、破棄院(最高裁に相当)幹部のメッキ判事を指名。メッキ判事は、在任中のムバラク前大統領を批判したことで知られる人物です。

更に、モルシ大統領は、暫定憲法の修正を無効とし、大統領が行政執行権と立法権、新憲法の主導権を握るとする大統領令を発布しています。
なお、解任されたタンタウィ氏とアナン氏は、大統領顧問に就くとも報じられています。【8月13日 毎日】

今回の動きの背景としては、“今月5日にパレスチナ自治区ガザとの境界線付近で武装勢力がエジプト国境警備部隊を襲撃し、16人が死亡する事件が発生。未然に防げなかったエジプト軍と情報機関に対する批判が高まり、ムルシ政権は情報機関幹部や現場を統括する北シナイ県知事の更迭を発表していた。ムルシ氏は、これを利用して軍評議会から権力を奪い、政権基盤の強化に動いたものとみられる。” 【8月13日 朝日】とのことです。

ただ一連の人事は軍の協力が不可欠で、もし軍部が反発すればクーデターにも繋がりかねない急展開ですが、軍部とは何らかの合意が出来たうえでの動き・・・と報じられています。

****エジプト大統領:軍と事前に協議し合意か 国防相解任など****
エジプトのモルシ大統領が12日、軍トップであるタンタウィ軍最高評議会議長を更迭し、軍最高評議会が大統領権限の一部や立法権を掌握するとした暫定憲法修正を無効とした一連の決定は、軍と事前に協議して合意を得ていたとみられる。

合意が事実なら、民政移管の前進を示唆する展開と言えそうだが、モルシ氏の出身母体の穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団と軍部はこれまで権力争いを続けており、両者の「和解」が実現するか今後の展開を注視する必要がある。(中略)

ロイター通信によると、軍最高評議会のメンバーでこの日新任されたアサル副国防相は「(人事は)評議会内で協議した結果だ」と語った。モルシ大統領が軍の同意のうえ一連の決定をしたようにみえる。大統領は演説し「国益を考えた決定だ」と語った。(後略)【8月13日 毎日】
***********************

“タンタウィ軍最高評議会議長はずし”の動きには、軍内部の争いも想像されます。
“軍高官の一人はロイター通信に対し、76歳と高齢で守旧派の象徴ともされていたタンタウィ氏らの解任は「軍最高評議会との相談で決まった」と指摘しており、モルシー氏側が周到に根回しを進めていた可能性がある。 タンタウィ氏の後任のシシ新国防相は軍情報部出身で、主に作戦畑を歩んだタンタウィ氏のような陸軍本流ではないことから、軍内部の権力闘争が絡んでいるとの見方もある”【8月14日 産経】
モルシ大統領と軍内部の反タンタウィ勢力は手を握ったということでしょうか。

本当にこれで軍部が収まるのだろうか・・・という懸念もありますが、今のところは至って平穏に推移しているようです。モルシ大統領は解任したタンタウィ氏とアナン氏の功績を讃え勲章を授与し、アナン氏は笑顔で勲章を受け取った・・・とのことです。

****前軍政トップに勲章授与=権力闘争幕引きか―エジプト大統領****
エジプトのモルシ大統領は14日、解任したタンタウィ前軍最高評議会議長(前国防相)とエナン前軍参謀総長に対し、国家への貢献を評価して勲章を授与、国営テレビがその模様を伝えた。ムバラク政権崩壊後に軍政トップを務めたタンタウィ氏が大統領決定を穏便に受け入れたことを示し、権力闘争に幕引きを図る狙いがあるようだ。

大統領は「国家や国民に誠実であり続けた人へのエジプト国民からの感謝の念を表すものだ」とタンタウィ氏をねぎらった。エナン氏も笑顔で勲章を受け取った。また、大統領は同日、海軍や空軍の司令官を相次いで任命し、軍上層部の人事刷新を図った。【8月15日 時事】
******************

【「憲法裁は早急に手を打つべきだと思う」】
軍部と並び、これまで大統領と対立してきた司法の出方も注目されます。
司法対策としては、副大統領に任命されたメッキ判事が重要な役割を担うと見られています。

****大統領令、司法の判断焦点 エジプト国防相解任*****
エジプトのムルシ大統領が軍のトップだったタンタウィ国防相らを解任し、軍部が行った暫定憲法の修正を無効として権限を奪う大統領令を出した。これまで軍と歩調を合わせ、大統領と対立してきた司法の出方が今後の焦点となっている。

大統領令について、最高憲法裁判所のゲバリ判事は13日付の政府系紙アハラム電子版で「暫定憲法の条文を一方的に無効にする権限は、大統領にはない」と述べ、「一市民としての意見」としたうえで「憲法裁は早急に手を打つべきだと思う」と語った。

司法はムバラク政権崩壊後、軍部とともにムルシ氏や出身母体のムスリム同胞団と対立。大統領選直前の6月には憲法裁が、同胞団系が第一党だった人民議会(下院)を「選挙制度が一部違憲」として解散を命じるなど、ムルシ氏らに不利な決定を出してきた。
今回の大統領令の違憲審査などを求める提訴があった場合、裁判所が大統領に不利な判決を出す可能性は否定できない。

一方、ムルシ氏は大統領令で、「改革派判事」として知られるマフムード・メッキ氏を副大統領に任命している。メッキ氏の兄は、すでに法相に任命された元裁判官アハマド氏。ムルシ政権が司法界に通じたメッキ兄弟を通じて裁判所の人事異動に乗り出し、裁判所側の動きを封じる可能性もある。

軍部の動向については、複数の政府系メディアが13日、「軍部は今回の大統領令を支持している」とする軍幹部のコメントを伝えた。タンタウィ氏を含め、反発の動きは今のところ伝えられていない。
ただ、軍部はこれまで維持してきた軍事予算の非公開などの特権を新憲法に盛り込もうとする動きを見せてきた。ムルシ政権と軍部との間で新憲法の起草作業などをめぐり、対立が再燃する懸念もある。

昨年の反政権デモを主導した青年グループ「4月6日運動」は「革命を進め、旧体制の支配を終わらせるための重要なステップだ。タンタウィ氏らの訴追を待ちたい」と評価。
ノーベル平和賞受賞者で民主化運動家のエルバラダイ元国際原子力機関(IAEA)事務局長は「軍の政治関与を終わらせるのは、正しい道筋に向けたステップだ」との声明を出した。

一方、「これは同胞団の権力独占だ」(左派政党幹部)などと警戒感も出始めている。【8月14日 朝日】
********************

民主化を是とする立場に立てば、軍部から民意を反映した大統領・議会に権限を移すのは、至極当然のことと言えます。
ただ、議会・大統領はイスラム主義だけでなく、広く国民全体の権利を保護する必要があります。

軍部の巻き返しがあるのか、司法が議会・大統領に厳しい姿勢を変更するのか、ムスリム同胞団の権力が肥大化してイスラム主義の国民への強制につながることはないのか・・・まだしばらくは、多くの不安定要素尾を抱えた展開になるようです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アフガニスタン治安関係者による米兵殺害相次ぐ パキスタンの和解プロセスへの対応に変化?

2012-08-14 21:33:10 | アフガン・パキスタン

(アメリカが、「パキスタンはテロ支援を国家戦略の一部にしている」と激しく批判したこともあるパキスタン軍 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6062112146/

7日、10日朝、そして10日夜
アフガニスタン情勢に関する下記の10日と12日の記事、最初は同じ事件を報じたものか・・・とも思いました。
ともに10日に起きたアフガニスタン治安部隊とアフガニタン人基地職員による米兵殺害の記事です。

****アフガン治安部隊要員?銃を乱射、米兵3人死亡****
アフガニスタン南部ヘルマンド州で10日、アフガン治安部隊の要員とみられる男が銃を乱射し、AP通信などによると米兵3人が死亡した。

男は米兵らと食事中に銃を乱射し、そのまま逃走した模様だ。旧支配勢力タリバンの報道官は同通信に、男が「我々の仲間に加わった」と述べた。

アフガン治安部隊要員が外国軍兵士を射殺する事件は後を絶たず、7日にも東部で国軍兵とみられる男らが銃を乱射し、米兵1人を殺害したばかり。治安部隊内にタリバンへの共感者が増えているとの指摘もあり、2014年末が期限の治安権限移譲プロセスに影を落としている。【8月10日 読売】
*******************

****アフガンで基地職員?銃を乱射…米兵3人死亡****
アフガニスタン南部ヘルマンド州の国際治安支援部隊(ISAF)軍基地で10日夜、アフガン人の基地職員とみられる男が銃を乱射し、ロイター通信などによると、米兵3人が死亡した。
旧支配勢力タリバン報道官は本紙に対し、「乱射したのは我々の仲間だ」と犯行を認めた。

乱射したのは基地で働く民間人職員とみられており、乱射後に拘束された。ISAF側は「武器の入手経路を調べている」としている。
アフガン治安部隊要員などが外国軍兵士を射殺する事件は後を絶たず、10日朝にもヘルマンド州で警官とみられる男が銃を乱射し、米兵3人が殺害されたばかり。【8月12日 読売】
*******************

10日記事にもあるように、7日にも同様事件が起きており、わずか5日ほどの間にアフガニスタン人の治安関係者による米兵殺害が3件も連続したことになります。
米軍兵士にすれば、眼前のタリバンより、背後のアフガニスタン治安部隊が気になる事態です。
2014年末までに治安権限をアフガニスタン側に移譲して撤退するというアメリカの計画がうまくいっているかどうかは、この事実を見れば言わずもがなといったところです。

パキスタン:タリバンとの和解協議を認める?】
そうは言いつつも、アメリカ及びカルザイ政権としても出口を模索する必要があります。
パキスタンが拘束しているタリバン要人のバラダル師とカルザイ政権の接触をパキスタンが認めたとのことで、和解に向けた細い糸がかろうじて繋がっているようです。

バラダル師は“タリバンの最高指導者オマル師の最側近で、2010年にパキスタン軍統合情報部(ISI)と米中央情報局(CIA)の共同作戦によりパキスタン南部カラチで拘束された。拘束前もアフガン政府側と水面下で接触していた人物”【8月14日 読売】です。
バラダル師の拘束については、カルザイ政権のタリバンとの交渉を妨害するために、和解を望まないパキスタン側が行ったとの見方がカルザイ政権側にはありました。
パキスタンが和解を望まないのは、タリバンを通じてアフガニスタンにインドに対抗する勢力を築きたいとの思惑からと見られています。

****アフガン政府、タリバーン元幹部と面会 和解見通し協議****
アフガニスタンの反政府武装勢力タリバーンの元ナンバー2で、パキスタン当局が拘束中のアブドゥル・ガニ・バラダル師にアフガン政府関係者が今年6月ごろに初めて面会し、和解の見通しを協議した。ロイター通信が12日、両国政府高官の話として伝えた。

パキスタン南部カラチ郊外で2010年に拘束されたバラダル師は、アフガンのカルザイ政権と極秘裏に接触しており、アフガン側では拘束がパキスタン当局による妨害行為と受け止められていた。
アフガン側は拘束直後から面会や身柄引き渡しを求めてきたが、今回の面会の実現はパキスタン側の和解プロセスへの態度が軟化したことを示した形だ。【8月13日 朝日】
******************

パキスタンの行動パターンは外部からは理解が難しいものがありますので、“パキスタン側の和解プロセスへの態度が軟化した”のどうかは、わかりません。

パネッタ米国防長官:パキスタン軍のTTP掃討作戦に期待
パキスタンの変化ということでは、従来消極的だったイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)に対する大規模な掃討作戦をパキスタンがアメリカ側に約束したことが報じられています。

****パキスタン:タリバン掃討、米政府に約束*****
パキスタン軍が米政府の要請に応じ、アフガニスタン国境に近い部族支配地域の武装勢力「パキスタン・タリバン運動」に対する大規模な掃討作戦を米側に約束したことが明らかになった。AP通信が13日、パネッタ米国防長官の話として伝えた。

パキスタン・タリバン運動はアフガンの旧支配勢力タリバンと連携しており、米側はパキスタン側に掃討作戦を求めてきたが、タリバンを通じてアフガンへの影響力を維持したいパキスタン軍は作戦に消極的だった。米側はパキスタンの「方針転換」を歓迎、14年末のアフガンからの完全撤収に向け情勢安定化の弾みにしたい考え。

AP通信によると、パキスタンのカヤニ陸軍参謀総長が最近、アフガン駐留米軍のアレン司令官に対し、近く部族支配地域の北ワジリスタン管区で掃討作戦を実施すると約束したという。
パネッタ長官はAP通信に「パキスタン軍がこの問題に取り組むことへの希望を失っていたが、新たな措置が取られることになった」と述べ、パキスタン軍の作戦実施に期待を示した。【6月14日 毎日】
******************

本当にパキスタン国軍及び統合情報部(ISI)がタリバンやTTPとの関係を断てば、アフガニスタン情勢は劇的に変化します。しかし、アメリカ撤退後を見据えたパキスタン国軍がそうした方向に一気に向かうとも考えにくいところです。
これまでも、イスラム武装勢力掃討でアメリカに協力したり、アフガニスタン補給路を閉鎖してアメリカと対立したり・・・といったことを繰り返していますので。

ISIとの関係は、外部から見えるよりもはるかに緊張したもの
タリバンと同じイスラム武装勢力でテロ活動を行っている「ハッカニ・ネットワーク」について、下記記事で、タリバンやパキスタンとの微妙な関係が示されています。

これまで、「ハッカニ・ネットワーク」はパキスタン統合情報部(ISI)の支援を受けていること、タリバンとの関係では、最近ではライバル的な対抗意識が双方に強く、共同行動は難しいことが指摘されていました。

2011年9月には、当時の米軍制服組トップのマレン統合参謀本部議長が米上院軍事委員会の公聴会で、パキスタン軍のISIが武装組織「ハッカニ・ネットワーク」を積極的に支援しており、同ネットワークはISIの「正真正銘の片腕」として行動していると、名指しでパキスタンを激しく批判したこともあります。

****資金調達法 米機関が指摘 「ハッカニ・ネットワークはマフィア構造*****
アフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンの一派でテロを繰り返しているハッカニ・ネットワークを分析した報告書が、米陸軍士官学校内にある調査研究機関「対テロセンター」により発表された。
同グループの財政構造を調査したもので、資金の集め方はゆすりや誘拐などの犯罪から“フロント企業”を通じたビジネスまでと幅広く、「マフィアにそっくりだ」と指摘している。

ハッカニ・ネットワークは昨年9月にカブールで起きた米大使館襲撃事件の実行グループとされるほか、今年4月に各国の大使館やアフガン議会の建物が攻撃された同時テロに関与したとされている。

先月末に公表された報告書によれば、資金源は活動への賛同者からの寄付のほか、アフガンやパキスタン、湾岸諸国での輸出入、運搬、不動産業による収入などにまで及んでおり、これらの国で数十から数百に及ぶ不動産を部分的に所有しているとされる。

このため報告書は、ハッカニ・ネットワークを武装勢力として分類するのは正確ではなく、イタリアで政府が弱体化していた19世紀に出現した「シチリア島マフィア」に似た、政治的、犯罪的性質を併せ持つ集団だと位置づけている。

1990年代初めにはパキスタンの情報機関、3軍統合情報部(ISI)を主な資金源としていたが、その後、多様化を図るようになった。
母体のタリバンからも毎月、給付金を受け取っているとされるものの、独自の資金源を持つため、「タリバンの命令に従う義務はない」(報告書)。
タリバン各派は、ニューヨークのかつてのマフィア五大ファミリーのように委員会をつくり、各支配地域にまたがる犯罪行為の分配についての交渉を行っているという。

パキスタン軍からも継続的に資金や物資の供給を受けており、ISIとはその作戦において緊密な関係を維持しているとされる。
パキスタン政府はこうした指摘を繰り返し否定しているが、ハッカニ・ネットワークに対する軍事作戦を行うよう求める米側に抵抗し続けている。実際、資金はもちろん、戦闘物資など密輸品が根城の部族地域を通過するということは、パキスタン政府の共謀や暗黙の了解なしには考えられないという。

ISIとの関係についても、外部から見えるよりもはるかに緊張したもので、「ISIの指示に従わず、自ら作戦を決定している」との関係者の証言もある。【8月14日 産経】
******************

パキスタンISIとタリバンやハッカニ・ネットワークなどのイスラム武装勢力の関係は、互いに相手を利用する関係で、“外部から見えるよりもはるかに緊張したもの”とのことです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国  共産党指導部内の勢力図を決める“北戴河会議”

2012-08-13 20:18:04 | 中国

(8月5日 北戴河に招いた“全国から集まった各分野の専門家や人材”と会見する習近平副主席 【8月6日 CRI online】 http://japanese.cri.cn/881/2012/08/06/181s196604.htm

胡錦濤、江沢民、習近平の3世代の勢力争い
中国では秋の党大会での共産党指導部交代に先立ち、党最高指導者らが河北省の避暑地・北戴河で一堂に会し、党が抱える問題について話し合う恒例の“北戴河会議”が今月6日頃から行われています。

****北戴河(ほくたいが)会議****
中国共産党の指導者や長老らが毎年夏、河北省の海辺の避暑地、北戴河に集まって開く非公式の会議。毛沢東時代から指導者らが家族連れで別荘に滞在しながら政談を重ねてきた。党大会で党内の対立が露呈するのを避けるため、北戴河で事前調整が行われ、指導部人事や重要議案の内容がほぼ固まるとされている。【8月7日 朝日】

建国の父、毛沢東が夏に同地の海に入って泳ぐ習慣に合わせて、党、政府、軍の指導者が北戴河に集まるようになったのが由来といわれる。引退した指導者にも発言権が与えられることが特徴。二重権力構造の批判から2003年にいったん廃止したが、長老らの猛反対で復活した。この会議で決まった人事や政策が秋以降の公式会議で正式に決定されることが多い。【8月3日 産経】
***************

上記説明にあるように引退した旧指導者も参加するといことで、「院政」という形で今後に影響力を残したい胡錦濤国家主席の勢力と、未だに大きな影響力を保持している江沢民前主席の勢力の確執が取り沙汰されています。
最近、胡錦濤主席の勢いが強まっているのでは・・・という話は、7月15日ブログ「中国 指導部交替に向けて、権力基盤を強める胡錦濤国家主席」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120715)でも取り上げたところです。

当然ながら、新たに指導部を率いることになる習近平副主席も自身の勢力を確保したいと狙っていますので、胡錦濤、江沢民、習近平の3世代の思惑が入り乱れての「権力闘争の天王山」いうことになります。

****胡派VS習派、主導権争い 北戴河会議 党人事に焦点 「権力闘争の天王山****
中国共産党内の現、元最高幹部らが一堂に集まり、重要人事や政策などについて話し合う非公式会合、北戴河会議が3日から開催されることが分かった。複数の共産党筋が明らかにした。今秋に開かれる党大会で審議される次期指導部人事が最大のテーマとなる。「権力闘争の天王山」といわれる同会議では、各派閥による激しい攻防が繰り広げられそうだ。

共産党筋によれば、今年の北戴河会議は当初、7月末に予定されていたが、人事案などの調整が遅れ、8月第1週の週末にずれ込んだ。河北省の張慶黎党委書記は7月30日に北戴河入りし、警備体制など準備状況を確認した。共産党筋によれば、現役最高指導部である政治局常務委員9人のほか、引退した指導者数十人も参加する同会議では、胡錦濤政権の10年間の外交、内政の総括や次期指導部人事案について話し合われる。党規律部門に身柄拘束されている薄煕来・前重慶市党委書記の処遇も議題になるという。

政治局拡大会議と称される全体会議のほか、テーマごとに分かれた複数のグループ会合などが8月中旬まで断続的に開かれる見通しだ。

今年の会議は、胡主席のグループと、江沢民前主席、次期総書記に内定している習近平副主席の連合グループによる主導権争いが最大の焦点だ。胡派は次期指導部での過半数を確保するために、現在9人の政治局常務委員会のメンバーを7人にしたいとしているが、習氏らが反対している。また、党大会で総書記を引退した後も、軍トップである中央軍事委員会主席にしばらく留任したい胡氏を阻止するために、習氏と江氏が連携を強めている。

特に江氏の動きが最近、目立っている。7月20日に故郷の揚州に小規模な地震があった際、江氏は地元の共産党委員会に自ら慰問電話をかけた。また、7月末に『簡明中国歴史読本』という書物の序言を書き、人民日報などに大きく報道させた。健康不安説が絶えない江氏は、北戴河会議を前に自らの存在感を示す狙いがあるとみられる。
江氏については2日早朝、北京から空路で北戴河入りしたとの情報がある。曽慶紅前国家副主席も同日、北戴河入りしたもようで、3日夕までには現役指導者らが現地入りする予定だ。【8月3日 産経】
****************

上記記事ラストの江沢民前主席の動向については、「そこまでしないといけないほど影響力が弱まっている可能性もある」(外交筋)【8月12日 毎日】といった見方もあるようです。

【「ポストの増減は、胡氏が党内をどれだけ掌握しているかの物差し」】
特に注目されているのは、最高決定機関でもある政治局常務委員のポストと人数に関する決定です。政治局常務委員は02年の胡錦濤体制の発足時に、江沢民前主席の影響力を強く反映して7人から9人に増えていますが、次の政権では7人に戻すべきだとの意見が論議されています。
その変更で、次期習近平政権における胡錦濤氏の影響力が強くなるとも言われています。

****中国共産党の人事調整、山場に 常務委員2人削減が焦点****
・・・・複数の党関係者によると、胡主席は7人にする方向に傾いている模様だ。
党組織部や中央党校関係者によると、常務委員が増えたことで、総書記を補佐して日常的な政策判断をこなし「政策の総指揮部」と呼ばれた党中央書記局の権限が弱まった。そのため、政策決定に時間がかかったり、総書記のリーダーシップが弱まったりといった点が指摘されている。
改革派の政治学者は「ポストの増減は、胡氏が党内をどれだけ掌握しているかの物差し。その力関係が、常務委員の顔触れにも影響する」と話す。

削減の対象に上がっているのは、02年に常務委員に格上げされた政法委員会書記と、イデオロギー・宣伝担当の常務委員。特に警察や司法機関を統括する政法委書記は、「権限が大きくなりすぎた」(党組織部関係者)として、常務委員の下の政治局員にとどめ、総書記の指揮下に置くべきだとの案が出ている。

しかし、党関係者や外交筋の間には「7人態勢には抵抗が大きく、最終的には9人に落ち着く」との見方も強い。ポストが減れば党内各勢力の調整が難しくなる。胡氏がそこまでの指導力を発揮できるか、疑問視しているからだ。

次の常務委員会入りが確実なのは、前回党大会で常務委員になった習氏と李克強(リー・コーチアン)副首相の2氏。残りのポストを胡氏の出身母体の共産主義青年団(共青団)に連なる勢力と、江・前国家主席が代表する勢力が争い、習氏らの意向を踏まえて調整が図られる見通しだ。

一連の会合では、党大会で発表され、次の政権の基調路線を示す「政治報告」の内容のほか、家族や部下のスキャンダルで失脚し党当局の取り調べを受けている薄熙来(ポー・シーライ)前重慶市書記の処分も議論されるとみられる。【8月7日 朝日】
******************

概ね、江沢民前国家主席(85)と胡錦濤国家主席(69)との間で主導権争いが行われている・・・といった情勢で、次期政権を担う習近平氏の影が薄いように見えます。

事件の幕引きを急ぐ中国指導部の思惑
いずれにしても、永田町の政局すらよくわからないのですから、情報が限られている中国共産党内部の勢力争い、しかも非公式会議である北戴河会議の動向・・・というのは、およそ外部には窺い知れぬものです。

ただ、今の中国指導部が極めて“敏感”な時期にあることは間違いありません。
中国共産党の権力闘争に関しては、失脚した薄煕来氏の妻の殺人罪公判にもその影響が反映していると指摘されています。

****薄煕来氏の妻、初公判 権力闘争 見え隠れ 「単純な事件」構図の裏側は****
中国の重慶市党委書記を解任された薄煕来氏の妻で、英国人ニール・ヘイウッド氏を殺害したとされる谷開来被告の9日の初公判の詳細が明らかになった。

11日付の「京華時報」など中国各紙が一斉に伝えた。法廷で審議された事件は、経済問題を発端とする殺人事件という単純な構図で、共産党内の権力闘争とのからみや薄氏本人の関与は切り離された格好だ。薄氏本人を守ろうとする共産党内の勢力が主導して作られたストーリーの可能性がうかがえる。
                   ◇
 ◆脅迫され神経衰弱に
中国各紙によると、谷被告は数年前、大連の不動産業者が主導する土地開発計画に参画するようヘイウッド氏に持ちかけたが、計画が頓挫して関係が悪化。報酬を求める同氏が、英国留学中の谷被告の長男の身の安全について脅迫するようになったという。

息子が危険にさらされていることを知った谷被告は神経衰弱に陥り、ヘイウッド氏の殺害を決意。薄家の使用人を通じてヘイウッド氏を重慶市のホテルに呼び出し、酒に酔って水を求めた同氏の口に、毒薬を入れて殺害したとされる。重慶市の公安局長だった王立軍・元副市長はその後、谷被告をかばうために殺人事件の隠匿を指示した。

しかし、共産党内の実力者一家である薄家と組んでビジネスを展開するヘイウッド氏が、1つの事業をめぐって本格的に対立するとは考えにくいほか、谷被告が長男を守る方法は殺害以外にもありえたことなど、明かされた事件の構図には疑問点も残る。

こうした点をふまえ、共産党筋は「事件の背景には薄氏と胡錦濤国家主席派との権力闘争がある」と説明した上で、「昨年秋、胡主席の主導で党の規律部門が一家の経済問題を調べていることを知った薄氏が、妻と共謀して蓄財のための海外送金を請け負っていたヘイウッド氏の口を封じるために殺害したのが真相だ」と明かす。

薄氏失脚後、胡派はその経済問題を追及する姿勢をみせたが、薄氏と同じく元高級幹部子弟で構成する太子党出身の習近平国家副主席らは「穏便な処理」を主張し、対立したといわれる。

双方が水面下で攻防を重ね、谷被告主導の殺人事件という構図に落ち着いた可能性もありそうだ。
共産党筋は「薄氏は別の問題で起訴される可能性はあるが、殺人事件とは無関係だと認定されたことで一つの山を越えたといえる」と分析している。【8月12日 産経】
*****************

事実関係はよくわかりませんが、“指導部が10年ぶりに世代交代する秋の党大会を控え、河北省の保養地、北戴河では指導部人事を話し合う非公式の「北戴河会議」が開かれ、党内駆け引きが激化していると伝えられる。薄氏には現在でも保守派の一部から支持する声が出ており、薄氏や谷被告の処遇は指導部にとっても難題。安定を最優先する指導部の政治判断が判決に影響を及ぼすのは避けられない情勢だ。”【8月9日 毎日】ということで、“幕引きを急ぐ中国指導部の思惑を色濃く反映した公判”【同上】という見方は各紙共通しているようです。

【「(温家宝首相は)資本主義国家の多党制を目指す政治改革を推進しようと企てている」】
もうひとつ、共産党指導部絡みの話題として最近報じられたのは、市場重視の改革を主張している温家宝首相に対する罷免要求が左派からだされたというものです。

****温首相の罷免要求、左派知識人らがネットに公開****
中国共産党や政府の元幹部や学者ら1644人が7月、温家宝首相は「社会主義経済の基礎を転覆させる」などとして、党中央委員会に連名で首相罷免を求める文書をネット上に公開していたことが7日、分かった。

中国で首相の罷免が公開の場で要求されるのは異例で、署名者の一人は「文書はすでに党中央委などへ送付した」と語った。署名者の多くは市場経済化を進める現路線に批判的な左派に属するとみられ、今秋の党大会を控え、新指導部体制に関する議論に、圧力をかける狙いだったとみられる。

文書は、温首相が民間、外資企業の発展を後押ししてきた結果、極端な貧富の格差などを招いたと指摘している。
署名者には、元国家統計局長や北京大教授らの名がある。【8月8日 読売】
********************

上記罷免要求文書は、“温氏が国有企業の職員の声も聞かず、独断専行で国有企業を解体し、私有経済を発展させた結果、極端な貧富の差を生んだと主張。さらに「(温氏は)資本主義国家の多党制を目指す政治改革を推進しようと企てている」と非難した。また4月、マルクス主義や毛沢東主義を宣伝する保守系のサイトが温氏の指示で閉鎖されたと指摘し「人民の言論の自由を侵犯した重大な政治的事件だ」と批判した”【8月7日 MSN産経】とのことです。

権力闘争という点では、明確な派閥に属さない温家宝首相は蚊帳の外の存在ですが、今後の“改革”の動向に影響を与えようとする路線対立的なもののようです。

何度も言うように、外部からは窺い知れぬものではありますが、今後の習近平政権における胡錦濤、江沢民、習近平各氏の力関係、改革派と左派・保守派との路線対立について、北戴河会議を受けての動向や、秋の党大会に向けて、より明確になってくるものと思われます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

台湾  難航交渉の末、中国と投資保護協定  馬総統、日本に対し「東シナ海平和イニシアチブ」を提言

2012-08-11 23:08:21 | 東アジア

(3.11の地震・津波被害に、台湾では日本支援チャリティー番組に馬英九総統が出演するなど、大きな支援の輪が広がりました。写真は、台湾の新聞に掲載された、台湾からの支援に感謝する日本側のメッセージ “flickr”より By 早見 @Fang-Jing, Chen http://www.flickr.com/photos/triamber/5683057984/

【「両岸(中台)関係の特殊性」がネックとなり交渉が難航
台湾の国民党・馬英九政権が中国との経済関係強化による台湾経済活性化を図っていることは周知のところですが、このほど中国との間で投資保護協定が調印されました。

****中国・台湾:投資保護協定に調印****
台湾を訪問している中国の対台湾窓口機関、海峡両岸関係協会の陳雲林会長と台湾側の海峡交流基金会の江丙坤(こう・へいこん)理事長が9日、台北市内のホテルで会談し、投資保護協定に調印した。
協定は、台湾のビジネスマンが中国に投資した財産を保護するのが主な目的で、中台間の紛争処理の方法などを定めた。

台湾から中国への投資総額は01年の27億8400万ドル(約2180億円)から昨年は143億7700万ドル(約1兆1260億円)に拡大。中国が最大の投資先となっており、協定締結を急いでいた。
一方、中国から台湾への投資は09年6月末に制限付きで解禁されたが、昨年末までの2年半で投資総額は1億7600万ドル(約138億円)しかない。締結を機に台湾側は、中国からの投資拡大も図りたい考えだ。【8月9日 毎日】
******************

今回の投資保護協定も、一連の中国との関係強化の流れのひとつということで、あまり気にもとめなかったのですが、“台湾側の主権の問題など「両岸(中台)関係の特殊性」(中国側幹部)がネックとなり交渉が難航したため、2年越しの締結実現となった”【8月9日 時事】ものです。

そもそも、保護協定が必要とされるという背景には、それだけ多くのトラブルが発生しているという現実があります。
台湾側からすると、中国進出企業において用地・工場が地方政府に収用されることが多く、“台湾企業が用地買収などで中国当局とトラブルになった場合、これまでは泣き寝入りするケースが多かったが、中台当局を通じて解決を図れるようにした”【同上】というものです。

また、企業関係者が身柄を拘束されるという事件も頻発しており、単に経済問題ではなく、「人権」もかかわる問題でもあります。それだけに交渉も難航したようです。

なお、中国と台湾という特殊な関係の両国の協議については、“互いを国として認めていない中国と台湾の間には正式な政府間協議がないため、経済関係の緊密化や人の往来の増加によって生じる問題については民間窓口機関の接触という体裁で話し合っている。そのために台湾は1991年に海峡交流基金会を、中国は92年に海峡両岸関係協会を設立。2008年以降は両機関トップが頻繁に会談を重ね、今回を含めて計18の協定を結んだ。”【8月10日 朝日】とのことです。

合意内容は、台湾側にとっては不十分な点もあり、最大野党・民進党は「台湾人民の期待に全く応えていない。台湾を中国の国内とする枠組みになってしまった」【同上】などと強く批判しているそうです。

****中台、投資協定ようやく署名 企業保護巡り際立つ相違****
中国と台湾の交渉窓口機関のトップ会談が9日、台北であり、投資保護協定に署名した。中台が互いに進出企業を公正に扱う目的の協定だが、2年近い交渉を経ても台湾の要求は十分に反映されず、むしろ「主権」と「人権」をめぐる立場の違いが表面化した。

会談には海峡両岸関係協会(中国)・陳雲林会長と海峡交流基金会(台湾)・江丙坤理事長が臨んだ。会談で江理事長は「協定の執行面で改善しなくてはならない」と含みを残した。問題の一つは、投資をめぐる紛争の解決方法だ。

協定を台湾側が求めた背景には、中国に進出した台湾企業が、地方政府に工場を収用されたり操業を停止させられたりする事例が頻発していた事情がある。
通常の二国間投資保護協定では、こうした問題の解決を国際的な仲裁機関に委ねているが、中国は、台湾に主権が及ぶという立場のため容認できない。協定では、中台双方で紛争対応の仕組みを作ることを定めた。実質的には現状とさほど変わらない。

交渉を長引かせたもう一つの争点は、中国での台湾企業人の安全確保だった。様々な理由で身柄を拘束される事件が後を絶たず、台湾側が把握しているだけで昨年、91件あった。

中国の「盲目の人権活動家」陳光誠氏が自宅軟禁を逃れ、5月に米国に出国した事件も影を落とした。台湾の対中政策責任者、頼幸媛・大陸委員会主任委員が、事件を受け「中台会談で人権を重視する立場を伝えたい」と述べたことに中国側が非公式ルートで猛烈に抗議、交渉が中断しそうになった。

さらに6月、中国江西省で台湾の企業家が「国家安全にかかわる」として捕まる事件が起きた。中国政府が「邪教」として禁じる気功集団「法輪功」のメンバーだったからだ。今も釈放されていない。

台湾側は「身柄拘束時は例外なく24時間以内に家族か企業に通知すること」を協定に盛り込むよう要求したが、結局、協定本文と別の合意文書を作成。すでにある司法機関同士の連絡制度を使って通報するなどの努力規定で落ち着いた。台湾企業からは早くも不安の声が出ている。

台湾の最大野党・民進党は9日、協定について「台湾人民の期待に全く応えていない。台湾を中国の国内とする枠組みになってしまった」などと強く批判した。【8月10日 朝日】
*********************

国家主権と領土の面では妥協できないが、資源は分かち合える
一方、馬英九総統は、日本との関係では「東シナ海平和イニシアチブ」を提言しています。
日台間には沖縄県・尖閣諸島を巡る問題もありますが、「争いの棚上げ」して「資源の共同開発」「行動規範の策定」を行おうという提言のようです。

****馬総統が「東シナ海平和イニシアチブ」提言、日華平和条約60年で 台湾****
台湾の馬英九総統は5日、台北市内で開かれた「日華平和条約発効60周年」関連式典で、「東シナ海平和イニシアチブ」を提言した。「資源の共同開発」「行動規範の策定」などを呼びかけており、積極的な提言で東シナ海における台湾の存在感を示す狙いとみられる。

馬総統は沖縄県・尖閣諸島での台湾の主権を改めて主張し「平和互恵、共同開発」を強調。提言では、「対立行動の自制」や「争いの棚上げ」「対話の継続」「国際法の順守と武力行使の否定」を指摘したほか、関係国・地域での共通認識を求めて「東シナ海行動規範」を定めることや、「資源共同開発のためのシステム構築」などを呼びかけた。

馬総統は、日本と「中華民国(台湾)」が1952年に締結した日華平和条約の調印会場だった台北市内の台北賓館で、6日から開かれる関連史料特別展の開幕式の座談会に出席した際、提言を打ち出した。
日本と中華民国との戦争状態に終止符を打った日華平和条約は、72年の日中共同声明で失効した。【8月5日 MSN産経】
*********************

馬英九総統の「東シナ海平和イニシアチブ」に対し、日本の玄葉外相が尖閣諸島に対する日本の主権を主張しつつも、台日関係への重視と、東シナ海に関する議題の上で協力する可能性を示したことに、台湾外交部は“我が国が平和かつ理性的な方式で争いに対処しようとする呼びかけに応えるもので、「東シナ海平和イニシアチブ」の主張とある程度合致するものだ”と評価しているとのことです。

****外交部、「東シナ海平和イニシアチブ」への日本側のコメントを重視****
馬英九総統は5日、「中華民国と日本との間の平和条約発効60周年記念展示会及びシンポジウム」での挨拶の中で「東シナ海平和イニシアチブ」を提唱、関係各方面に対して、自制、争いの棚上げ、平和的手段での争議の処理、東シナ海の平和確保を呼びかけた。これに対して、日本の玄葉光一郎外相は7日、定例記者会見でコメント。外交部は7日、このコメントを重視するとしている。

玄葉氏は、釣魚台列島(日本名:尖閣諸島)に対する日本の立場を繰り返し、「台湾の(釣魚台列島に対する)独自の主張は受け入れられない」とする一方、現在の台湾と日本の良好な関係に釣魚台列島をめぐる事態が影響を及ぼさないよう望むと述べ、東シナ海の平和と安定のため、具体的な協力を進めていくことは重要だとの認識を示した。そして、「協力形態は具体的にはなっていないが、考えられないわけではない」と述べた。

外交部は、「釣魚台列島の主権は中華民国にあり、同列島は中華民国固有の領土である」との立場を重ねて表明した上で、国家主権と領土の面では妥協できないが、資源は分かち合えるとの考えを示し、玄葉外相による釣魚台列島は日本が所有するとの言い方は受け入れられないが、中華民国政府は各国が争いを棚上げするよう常に主張していると説明した。

外交部は、玄葉外相が公の場で台日関係への重視と、東シナ海に関する議題の上で協力する可能性を示した談話は、我が国が平和かつ理性的な方式で釣魚台列島をめぐる争いに対処しようとする呼びかけに応えるもので、「東シナ海平和イニシアチブ」の主張とある程度合致するものだと評価した。

楊進添外交部長は7日、「東シナ海平和イニシアチブ」に対する玄葉氏の発言は、二者間もしくは多角的な協力が、「ウィンウィン」(二者が勝者に)さらには「ウィンウィンウィン」(みなが勝者に)を生み出す可能性を示したものだと評価した。

外交部は、「東シナ海平和イニシアチブ」に基づいて、これからも日本側と意思疎通を図っていくとしている。
また、中華民国の海洋調査船「海研二号」が5日、海洋調査研究を行っていた際、日本側に退去させられたことについて、外交部は7日、国立海洋大学の「海研二号」は中華民国の経済水域で海洋調査研究を行っていたが、その地点は日本の経済水域と重なる場所だったと説明した。そして、中華民国と日本の主張する経済水域が重なっていることについて、外交部は日本側と更なる対話と意思疎通を進めていく考えを示した。【8月12日 Taiwan Today】
**********************

最も好きな国は日本41%、中国、米国は各8%
中国に顔が向きがちな馬英九総統はともかく、台湾全体では日本への親近感が強いことはかねてより指摘されています。

****台湾で4人中3人が「日本に親しみ」 交流協会調査****
日本の対台湾窓口機関、交流協会台北事務所が21日に発表した世論調査結果で、台湾人の4人に3人が日本に親近感を持っていることがわかった。調査期間は今年1月30日から2月22日、回答者は台湾各地の1009人。

日本に「親しみを感じる」「どちらかというと親しみを感じる」と答えた人は合わせて75%。2009年末の前回調査の62%から増えた。特に20~30歳代で親近感が強い。日本のイメージでは「きまりを守る国」「経済力、技術力の高い国」「自然の美しい国」が多く挙げられた。

最も好きな国に日本を挙げた人は41%。前回調査の52%から減ったものの、中国、米国の各8%を大きく引き離した。ただ「今後親しくするべき国」は中国が37%で最も多く日本の29%を上回り、対中経済関係の深まりを反映した現実的な判断がうかがわれる。

東日本大震災の影響も尋ねた。日本産の食品について65%は「震災前から特に変化はない」。一方で日本への観光旅行は51%が「しばらく控えている」と答え、このうち半数が放射能の影響への心配を理由にしている。【6月22日 朝日】
**********************

こうした“親近感”“信頼”は、日本にとってかけがえのない財産です。
もちろん台湾にも先鋭な民族主義的主張は存在しますが、国民全体の“親近感”“信頼”を基盤に、“国家主権と領土の面では妥協できないが、資源は分かち合える”との姿勢で、妥協を恐れず「ウィンウィン」な関係構築ができるように、日台双方の努力を望みます。

逆に言えば、これほどの“親近感”を有する台湾との間で成果が出せないようなら、韓国との間の竹島問題、ロシアとの北方領土問題の進展も全く期待できません。台湾との間で成果が出せれば、他の問題のアプローチにとっても参考になるでしょう。

【「軍紀違反」から「軍全体のミス」へ
なお、台湾海軍の艦隊が演習海域を離脱し、沖縄県・与那国島に接近した問題については、当初「軍紀違反」としての厳しい処分が出されましたが、その後「軍全体のミス」として再検討されるという不透明な展開となっています。

****与那国に接近「全体のミス」 処分、台湾海軍トップへ飛び火****
全面見直し、異例の決定
台湾海軍の艦隊が演習海域を離脱し、沖縄県・与那国島に接近した問題で、艦隊指揮官が事前に演習海域からの離脱を電文で演習監督部門に報告していたことが確認され、台湾国防部(国防省に相当)は10日までに、軍全体のミスを指摘し、関係者の処分を全面的に見直すとの異例の決定を行った。海軍トップの董翔龍司令長官(大将)も、自身を処分対象とするよう要請。国防部は同司令長官について権限者の馬英九総統の決裁を仰ぐとしている。

国防部が9日、発表した新たな調査報告書では、参謀本部、海軍司令部、艦隊指揮部から演習艦隊の司令だった張鳳強少将にいたるまで、関係した全ての部門においてミスがあったとし、当初の調査報告を撤回した。軍全体に及ぶ大量処分の可能性も浮上してきたといえる。

報告によると、張少将が指揮したキッド級駆逐艦「蘇澳」など3隻は、7月26日未明、演習海域を離脱して日本の防空識別圏(ADIZ)の公海に進入したが、直前の25日午後9時台に、2度にわたって演習監督部門に離脱の針路を電文で報告していた。同部門は電文を「見落としていた」という。

張少将は随伴艦の制止を無視したとされるが、証言などには食い違いもあり、すでに懲戒処分を受けた張少将ら将校5人についても見直しの対象となった。

当初、張少将には軍の指揮・統率に直接関わる「抗命罪」の適用も検討され、「日本にこびた厳しい処分」とする軍関係者の批判が噴出した。
国防部では「対日配慮ではなく軍紀違反」と釈明に追われたが「当初の決定は、『東シナ海平和イニシアチブ』を提言した馬総統のメンツを潰した責任を、現場に押しつけようとした」との指摘もあり、馬総統は「規定に沿った処分を望む」とコメントしていた。【8月11日 産経】
*******************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ベトナム  米越合同の枯葉剤汚染除去作業始まる 深まるアメリカとの経済関係

2012-08-10 23:40:19 | 東南アジア

(ベトナム戦争が終わって37年になりますが、枯葉剤の後遺症は未だ現在の問題として残っています。 “flickr”より By gaelic 69 http://www.flickr.com/photos/gaelic69/4303505193/

今なお約300万人が枯れ葉剤の後遺症に苦しむ
アメリカはベトナム戦争において、南ベトナム解放民族戦線のゲリラやその補給路に打撃を与えるため密林を枯らす作戦を展開し、枯れ葉剤約7200万リットルを空中から散布しました。

この枯葉剤には発がん性や催奇性が指摘されるダイオキシンも含まれており、ベトナムでは約300万人が枯れ葉剤の後遺症に苦しみ、うち約100万人は子どもと言われています。【下記 中日新聞より】
枯葉剤と言えば、私の年代だと、下半身がつながった結合双生児「ベトちゃんドクちゃん」をすぐに連想します。

****枯れ葉剤後遺症の子どもをサポート ベトナムの障害児施設****
130人が集団生活 社会参加目指す
ベトナム戦争終結から37年。戦争の記憶が薄れつつある一方で、米軍機がまいた枯れ葉剤の後遺症に苦しむ子どもたちは、ベトナム国内に今なお100万人いるともいわれる。首都ハノイ市内の枯れ葉剤障害児施設「タインスアン平和村」には、そうした戦争被害の現実がまだ生々しく残っている。

ハノイ中心部から車で約30分。建設ラッシュに沸く街中を抜けると、平和村に着く。2、3階建ての建物数棟と中庭があり、小学校のような造りだ。枯れ葉剤の影響でさまざまな障害のある子どもたち約130人が、ここで集団生活を送っている。

「全問正解よ。頑張ったね」。教室から女性教師の声が聞こえてきた。算数の練習帳を手に、ゴゥ・チィ・トゥン君(11)がはにかんでいた。父親がベトナム戦争に参加し、枯れ葉剤を浴びた。ゴゥ君は脳性まひで、今は小学2年生レベルの算数と書き言葉などを学んでいる。「友だちがたくさんいて楽しいよ」と笑う。「枯れ葉剤って分かる?」と聞くと、教師が間に入って「その質問は難しすぎるわ」と制した。

この施設は1991年、ドイツ政府や民間団体の支援で設立された。子どもらを支えるのは、勉強や生活習慣を教える教師、治療とリハビリにあたる医師、ボランティアら約80人。運営費は国内外からの善意などで賄われている。

グエン・ティ・タイン・フォン院長(52)は運営目標について「言語、運動能力を身に付け社会参加できる水準を目指している」と説明。ただ「すべての子どもが適応できるわけではない。進学したり、工場で働ける子どももいるが、そうばかりではない」とも付け加えた。施設では、子どもたち1人ずつ症状などに応じて、将来できることを模索。障害の程度が重く教室で学べない子は、刺しゅうや織物を学んでいる。

ベトナムでは約300万人が枯れ葉剤の後遺症に苦しみ、うち約100万人は子どもという。知的障害児や肢体不自由児が多く、全身に無数の黒い斑点(はんてん)を持つ子もいる。枯れ葉剤を浴びた親から生まれる子に障害が現れ、2世、3世にまで被害が及ぶとされるが、枯れ葉剤と障害の因果関係は証明困難とみる説もある。

ベトナムは、米国と1995年に国交を正常化。米国は現在、ベトナム最大の輸出先となり、この国の経済成長を支えている。しかし、米国は枯れ葉剤被害者に対する賠償に応じず、ベトナム政府も十分な補償は行っていない。

グエン院長は「枯れ葉剤は子どもたちの幸せを奪いました」と涙目。「苦しんでいる子どもたちがここにいる限り、ベトナム戦争はまだ終わっていない」と、枯れ葉剤被害の現状を語る。
平和村の近くで、ベトナムの経済発展を反映した大規模な建設工事が進められていた。グエン院長は「経済成長で新たな時代に入ったが、枯れ葉剤のことは忘れられないと信じている。この施設が不要になる日を待ち望んでいます」と、遠くを見つめた。【1月23日 中日新聞】
************************

ようやく枯れ葉剤の除去作業開始という歴史的な日を迎えた
未だ戦争の後遺症が癒えないベトナムですが、アメリカのベトナム戦略の中核を担った空軍基地があったダナンで、アメリカ・ベトナム合同の枯葉剤汚染除去事業が開始されたそうです。

****米越両政府、ベトナムで枯れ葉剤の汚染除去作業を開始****
ベトナム中部のダナン空港で9日、ベトナム戦争中に米軍が散布した枯れ葉剤、通称「エージェント・オレンジ」の汚染除去作業が始まった。米越両政府が共同で実施するもので、汚染された土壌を高温に熱してダイオキシンを無害な成分に分解する技術も活用する。費用は4300万ドル(約33億8000万円)。

かつて米空軍基地だったダナン空港周辺では多くの人が先天性の障害やがんなどの病気に苦しみ、住民らは以前から枯れ葉剤が原因だと主張してきた。戦争終結から数十年を経て、ようやく枯れ葉剤の除去作業開始という歴史的な日を迎えた。

米軍の枯れ葉剤散布は、ベトナム南部の密林地帯に潜む南ベトナム解放民族戦線の兵士から身を隠す木々と食糧を奪うことが目的だった。当時、ダナン空軍基地は米軍の枯れ葉剤散布作戦「ランチハンド作戦」の拠点で、枯れ葉剤8000万リットルの大半がここで混合、貯蔵され、軍用機に積み込まれた。

ダナン市に住むグエン・ティ・ビンさん(78)はAFPに「戦時中は滑走路のすぐそばに住んでいて、異臭のため口を覆わなければならないような夜もあった」と話した。

ビンさんの5人の子供のうち3人は重度の精神・身体障害がある。ビンさんは子どもの障害は前世で犯した罪のせいだとずっと思っていたが、今では自分と亡き夫がダイオキシンにさらされたのが原因かもしれないと考えるようになったという。ビンさんの成人した娘たちは、取材中も幼児のようにビンさんの周りをはい回っていた。だが、米政府はいまだにダイオキシンと健康被害の因果関係は明らかになっていないとしている。

枯れ葉剤除去プロジェクトの背景には、中国が南シナ海における領有権の主張を強めていることを受け、米越両国が接近していることがある。【8月10日 AFP】
*********************

補償問題も絡む敏感な問題ですので、なかなか手がつけられてきませんでしたが、“ようやく・・・”といった感があります。

ベトナム政府は経済、外交などで対米接近を基本政策とする
かつては激しい戦闘を行い、互いに大きな傷を負ったアメリカ・ベトナム両国ですが、市場経済化を推し進めるドイモイ政策のもとで急速な経済成長と遂げるベトナムへ、近年は多くのアメリカ企業が進出し、著しい経済関係強化が見られます。

*****************
アメリカが支援していた南ベトナムからは多くの難民が流出し、カナダ、オーストラリア、フランス、アメリカへと移民した。サイゴン陥落後からソ連崩壊を経て、ドイモイ政策後の1995年8月5日、ベトナムとアメリカは和解し、アメリカとの国交が復活し、通商禁止も解除された。

2000年には両国間の通商協定を締結し、アメリカがベトナムを貿易最恵国としたこともあり、フォードやジェネラルモーターズ、コカ・コーラやハイアットホテルアンドリゾーツといったアメリカの大企業が、ドイモイ政策の導入後の経済成長が著しいベトナム市場に続々と進出し、2003年にベトナムの国防大臣はペンタゴンの歓迎式典で最大の敬意を払って迎えられた。

ベトナム政府は経済、外交などで対米接近を基本政策としており、ジョージ・W・ブッシュ大統領の来訪も大歓迎している。対米関係への配慮から戦争中の枯葉剤などについても、あえて『民間団体』に担当させて、政府は正面に出てこないくらいアメリカに気を遣っており、一般のベトナム人も経済向上のためにはアメリカとの関係を緊密にするべきだと感じ、アメリカの観光客、企業代表などを熱く歓迎している。

米軍に侵攻され多大な被害を受けたにもかかわらず、政府・国民とも親米的な珍しい例である。2010年8月には国交復活15周年を記念し空母ジョージ・ワシントンがダナンを訪問した。しかし、薬品会社は未だ枯葉剤問題に対して棄却し未解決であり、アメリカに激しい憎しみを持つ者も存在する。

アメリカは南ベトナムからは82万ものベトナムの難民を受け入れており、ベトナム系アメリカ人は故郷ベトナムに旅行するなど交流は活発になっているが、基本的に南ベトナムからの難民が大多数なので共産主義のベトナム本土とは対立が根深く、ベトナム政府関係者の訪米には抗議する傾向がある。【ウィキペディア】
*********************

以前も紹介したように、枯葉剤の製造元である米企業「モンサント」もベトナム進出を進めていることが報じられています。

****枯葉剤のモンサントがベトナムに進出****
40万人の死者を出した枯葉剤の製造元で反省の色もない米企業を、政府が誘致する事情

遺伝子組み替え作物の種子の世界シェア90%を誇るアメリカの総合化学メーカー、モンサント社がベトナムに「帰還」する準備を着々と進めている。
ベトナムでモンサントの名はそれほど知られていない。しかし同社がかつて開発し、ベトナム戦争で米軍の枯葉作戦で使用された、悪名高き「エージェントオレンジ(枯葉剤)」の名は誰もが知っている。

ベトナムのタインニエン紙によれば、国内の活動家たちはモンサントにベトナムで事業を行う資格はないと反対の声を上げている。ベトナムでは枯葉剤によって40万人が死亡し、50万人の奇形児や障害児が生まれ、200万人にさまざまな後遺症を残した。

モンサントが現在ベトナムで関心を抱いているのは農業分野だ。遺伝子組み換え技術で農作物の収量を上げる技術を持つモンサントを、ベトナム政府が誘致しようとしていると、タインニエン系列の週刊誌が報じた。

ベトナムとアメリカ両国の枯葉剤犠牲者から訴えられているモンサントは、もちろん過去を忘れたわけではない。米軍からの発注で製造した枯葉剤は、植物を枯らしてジャングルに潜む共産ゲリラをあぶり出して掃討するために散布された。

モンサント社の冊子は、枯葉剤は愛国的な化学薬品だったと紹介しいる。「アメリカと同盟国の兵士の命を守る」ために作られたものであり、係争中の裁判については「当事者だった政府によって解決されるべきだ」と主張している。

モンサントのベトナム進出を阻止しようとする活動家たちの戦いは、すでに苦戦を強いられているようだ。タインニエン紙によれば、ベトナムの元副国防相が国会でこの問題を取り上げようとしたが、政権側に発言を妨げられたという。【2月8日 Newsweek】
**********************

南シナ海問題での対中牽制でも利害一致
最近では経済関係だけにとどまらず、南シナ海問題で中国と厳しく対峙するベトナムと、アジア太平洋重視ということで中国の南シナ海進出を牽制するアメリカの利害が一致し、政治的な関係も強まっています。
7月10日は、クリントン米国務長官がハノイを訪問してします。

****南シナ海、平和的解決で一致-米越外相がハノイで会談****
クリントン米国務長官は10日、ベトナムの首都ハノイを訪問し、ファム・ビン・ミン外相と会談した。双方は、中国とベトナムなどが領有権を争う南シナ海問題の平和的解決に向け、法的拘束力を持つ「行動規範」策定の重要性などで一致したほか、経済関係の強化、ベトナム戦争時の地雷除去などの協力について話し合った。

クリントン長官は記者会見で、南シナ海問題でベトナムと「重要な戦略的利害」を分かち合っていると指摘。経済分野でも、過去数年で米越両国関係に「目覚ましい発展」があったと評価し、両国が交渉参加を表明している環太平洋連携協定(TPP)の重要性を訴えた。ミン外相は、クリントン長官に20社以上の米企業関係者が同行している点に触れ、一層の対越投資を呼び掛けた。

クリントン長官は同日、グエン・タン・ズン首相、グエン・フー・チョン共産党書記長とも会談し、南シナ海問題や米越関係の強化について協議した。【7月10日 時事】
**********************

“クリントン長官に20社以上の米企業関係者が同行している”ことに、最近のアメリカ・ベトナムの経済関係強化が窺われます。

****貿易総額は220億USDへ****
Pham Binh Minhベトナム外務大臣は会談後の記者会見で「アメリカ企業によるベトナムへの投資は毎年増えている。GE、Microsoft、ExxonMobil等、アメリカの大手がベトナムに進出した。今後、アメリカがベトナムにとっての第1投資家になることを狙い、両国間の貿易増加を期待する」と述べた。

7月10日、米国外務省は「BTA(ベトナム・アメリカ両国貿易協定)が有効となった2001年12月より両国の経済関係が急速に発展し、貿易総額は2001年の10億USDから昨年の220億USDに増加した。2011年は2010年より17%の増加となっている」と発表した。【7月12日 ブルーチップ ベトナム投資ニュース】
*******************

先日のTV番組では、こうしたアメリカのベトナム進出について、“ベトナムに対しては以前から日本が積極的にアプローチしていた。しかし、当時はベトナムの経済がまだ立ち上がっていなかった。やっとベトナム経済が立ち上がったときには、アメリカが出てきて成果を持っていかれてしまった”といった主旨の発言をしていました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ベラルーシ  波紋を広げるテディベア 強権姿勢を強める「欧州最後の独裁者」ルカシェンコ大統領

2012-08-09 23:14:12 | 欧州情勢

(“flickr”より By Canadian Bear http://www.flickr.com/photos/gkjakobs/7727369610/

【「クマ爆弾」でスウェーデンとベラルーシの関係が急速に悪化
「欧州最後の独裁者」と呼ばれルカシェンコ大統領が厳しい国家管理体制を敷くベラルーシで、領空を侵犯したスウェーデン人活動家がテディベアを空から大量にばら撒くという「クマ爆弾」事件の波紋が広がっています。
小さなパラシュートを背負ったテディベアには、言論の自由や人権の改善を訴えるビラが付けられていました。

****ベラルーシ:空からテディベア800個 人権改善訴え****
旧ソ連・ベラルーシで先月、隣国リトアニアから無許可で飛来した軽飛行機が、人権改善を訴えるメッセージ付きのぬいぐるみ「テディベア」を約800個投下する“事件”があった。

「欧州最後の独裁者」と呼ばれ厳しい国家管理体制を敷くルカシェンコ大統領は、“大失態”の責任を取らせる形で国境警備委員長と空軍の防空司令官を7月31日に解任。今月2日に任命した新たな国境警備委員長に対し、武器使用を含むあらゆる手段で国境侵犯の再発を防ぐよう指示した。

現地からの報道によると、先月4日、スウェーデンの広告会社に勤める2人が搭乗した軽飛行機が、リトアニア南部の飛行場を離陸。ベラルーシ領空を1時間半にわたって飛行した。同国の人権活動家支援のほか、ルカシェンコ体制の面目をつぶすのが目的だったという。

政権側は投下されたテディベアの写真をネットで公開した地元学生を逮捕するなど国内の締め付けを強化している。【8月5日 毎日】
************************

ベラルーシとスウェーデンは、互いに大使の国外追放、外交官の国外退去といった対抗措置をとり、関係が急速に悪化しています。

****テディベア投下」で外交関係が悪化、ベラルーシとスウェーデン****
スウェーデンの人権活動家が無許可でベラルーシ領空を飛行し、テディベア数百個を投下して言論の自由や人権を訴える抗議行動を行ったことをきっかけに、スウェーデンとベラルーシの関係が急速に悪化している。

ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は国境警備責任者と空軍司令官を解任。3日には両国関係の「破壊」を試みたとして、スウェーデンのステファン・エリクソン大使を国外追放した。

これに対しスウェーデン政府も、エリクソン大使の後任としてベラルーシ側が指名した新大使の承認を拒否するとともに、ベラルーシ人外交官2人の在住許可を取り消し国外退去を求めた。

ベラルーシ側はさらに8日、スウェーデン外交官全員に8月30日までの国外退去を通告し、スウェーデンとの交渉窓口を閉じると発表した。

マイクロブログのツイッターで外交官の退去通告について明らかにしたスウェーデンのカール・ビルト外相は、ルカシェンコ大統領の「人権に対する恐れはエスカレートしている」と述べている。
ベルギー・ブリュッセルの欧州連合(EU)筋によると、事態の悪化を受けてEUは10日、EU大使らによる緊急会合を開き打開策を協議するという。(後略)【8月9日 AFP】
*******************

経済危機、ロシアの圧力、EUの民主化弾圧批判で苦境のルカシェンコ大統領
ルカシェンコ大統領は、政治的には強権支配、経済的にはソ連型社会主義体制を維持する路線をとっています。
ルカシェンコ大統領はもともとロシアとの統合を主張し、統合を目指すロシア・ベラルーシ連邦国家創設条約にも調印しています。
しかし、ベラルーシを実質的に吸収合併しようとするロシア・プーチン大統領(前期)に対し、対等の関係をアピールするルカシェンコ大統領の対立もあって、統合は進展していません。【ウィキペディアより】

メドベージェフ前大統領も「外交的規範どころか人間としての基本的礼儀すらわきまえていない」と、厳しいルカシェンコ批判を行っており、ロシア側はルカシェンコ大統領をベラルーシ“併合”の最大の障害と見なしています。

そうした状況で、ルカシェンコ大統領はロシアとEUを天秤にかけ、双方から経済支援を引き出すしたたかな外交を展開してきました。
しかし、2010年以降は経済状態の悪化が進行、代金未払いに対し天然ガスや電力供給をストップさせるという強い圧力をかけるロシアに依存せざるを得ない状況に追い込まれています。

そういうロシア依存の腹をくくったせいか、2010年12月の大統領選挙で4選を果たした後は、野党指導者ら600人以上を拘束するという、EUが嫌う強権姿勢を強めています。
これに対し、EU側は制裁を発動しています。

****ベラルーシ大統領らを渡航禁止 EUが制裁****
欧州連合(EU)は1月31日の外相理事会で、昨年12月のベラルーシ大統領選挙後に野党勢力を弾圧したとして、ルカシェンコ大統領と家族、側近ら158人に対し、EU域内への渡航を禁止する制裁措置を決めた。

外相理事会は「昨年12月の大統領選挙は不正に実施され、選挙直後に民主的な野党勢力が暴力で弾圧された」と批判、いまだに拘束されている人々の即時釈放を要求した。
ベラルーシに対する経済制裁は「国民に苦痛をもたらす」として見送られた。

EUはルカシェンコ政権が「民主化を弾圧した」として1999年に政府高官らのEU域内への渡航禁止、資産凍結などの制裁を実施したが、「民主化の兆候がある」として08年10月にルカシェンコ氏らの渡航禁止措置を緩和していた。【11年2月1日 共同】
*********************

その後もベラルーシの経済危機は進行し、EUの制裁強化によって、ロシアを頼らざるを得ない状況が深まっています。

****欧州最後の独裁者」ルカシェンコ大統領窮地 ベラルーシ経済危機****
露、統合路線を加速
ロシアの隣国、ベラルーシが深刻な経済危機に瀕(ひん)し、「欧州最後の独裁者」と称されてきたルカシェンコ大統領がいよいよ窮地に陥っている。旧ソ連型の経済運営を続けてきた同国だが、ここにきてロシア産石油・天然ガスの価格引き上げとバラマキ財政に耐えられず、外貨が底をついた状況だ。ロシアはベラルーシに国家資産の売却を迫り、同国の吸収・統合路線を加速させる思惑だ。

外貨準備急減
ベラルーシは24日、自国通貨(ベラルーシ・ルーブル)を米ドル、ユーロ、ロシア・ルーブルの3外貨に対して54%切り下げる措置をとり、公定レートを1ドル=4930ベラルーシルーブルに設定。これに先立ち、ロシアを中心とするユーラシア経済共同体から3年間で30億ドル(約2460億円)の融資を得ることで基本合意した。

ただ、今年の貿易赤字が120億ドルにのぼるとみられていた状況で外貨準備は30億ドル以下まで急減しており、通貨切り下げなどは弥縫(びほう)策にもならないと受け止められている。各地の両替所では外貨を求める人々の長蛇の列ができ、物価高騰を恐れる庶民は商品買い占めに走っている状況だ。

バラマキ財政
ベラルーシはソ連崩壊後も経済改革を先送りしてきたことで知られ、安価なロシア産原油の精製と欧州諸国への転売で利益を得てきた。ロシアが近年、ルカシェンコ政権との複雑な関係も背景に石油・天然ガス価格の引き上げに動いたことが経済危機の第1要因だ。
ロシアが昨年、ベラルーシ向け石油に関税を導入したのを受けてベラルーシの石油製品輸出量は前年から27%減少。逆にロシアからの天然ガス輸入額は前年比で55%も増えた。

第2の要因は、2008年の世界金融危機以降、政権が財政出動で国内消費を刺激し続けたことだ。特に昨年12月には大統領選が行われたために政権のバラマキが度を強め、消費と貿易赤字の急拡大を招いた。

過去のルカシェンコ氏はロシアと欧州連合(EU)の間で風見鶏のごとく振る舞い、双方からの融資を得て経済的苦境をしのいだ。
ただ、EUは昨年12月の大統領選での反政権派弾圧を非難し、ベラルーシ高官の入域禁止など制裁を強めている。国際通貨基金(IMF)からも融資を受けながら構造改革の約束をほごにしてきた経緯があり、頼みの綱はロシアしかない。

「見返り」戦略
一方、ロシアはベラルーシとの「連合国家」や「関税同盟」を形成しながら、ルカシェンコ氏の抵抗で国家統合の動きが停滞していたことに不満を抱く。
このため、経済支援には国営企業の売却など「見返り」を求め、これを機にベラルーシの石油精製企業やパイプライン網、通信インフラを握る戦略だ。露ルーブル通貨の導入を迫るべきだとの意見も出ている。

ベラルーシでは通貨切り下げによるインフレ圧力が高まっている上、危機脱却には痛みを伴う急進的改革が必要とみられている。「安定」を喧伝(けんでん)してきたルカシェンコ大統領への反発も予想され、独裁政権は土壇場に立たされている。【11年5月31日 産経】
*********************

国内弾圧強化、EUは制裁強化
国民の間には経済悪化、強権支配への不満も広まっており、11年夏には「拍手デモ」も報じられていますが、政権側は強権でこれを抑え込んでいます。

****ベラルーシの「拍手デモ」を警官隊が鎮圧、「蜂起を夢想するな」と大統領***
ベラルーシの首都ミンスクで3日、アレクサンドル・ルカシェンコ大統領の独裁的政治に抗議して「拍手をし続ける」デモを行っていた人びとに対し、警官隊が催涙弾などで鎮圧にあたり、多数の参加者が身柄を拘束された。

ベラルーシの独立記念日にあたる3日、ソーシャル・ネットワーキング・サイトの呼びかけに応じてミンスク駅前の広場に集まった人々は、拍手を続けることでルカシェンコ大統領への不満を示した。
現場で取材していたAFP特派員によると、警官隊は集会を解散させようと催涙弾を発射。広場周辺の脇道へ逃げながら拍手を続ける人びとを追いかけ、老若男女を問わず、拍手し続ける人びとに殴る蹴るの暴行を加えた上、身柄を拘束した。報道カメラマンらを含む数十人が警察車両で連行されたという。

17年にわたってベラルーシを統治するルカシェンコ大統領は、独立記念日の演説で、蜂起など夢想するなと述べて反対派をけん制していた。
ルカシェンコ大統領は、前年12月に再選された直後に大規模な抗議デモが起きたことを受け、野党に対する過去にない大規模な取り締まりを展開。大統領選の対立候補を含め、野党活動家の多くが身柄を拘束された。

政情不安に加え、同国は経済的にも困窮しており、前週にはインフレ防止対策として全ての消費財に上限価格を設けたほか、料金未払いを理由にロシアから一時エネルギー供給を止められている。【11年7月4日 AFP】
*******************

批判勢力を力で抑え込もうとするルカシェンコ政権に対し、EU側は制裁を更に強化、今年2月にはバラルーシ駐在大使の本国召還を決めています。

****駐ベラルーシ大使、一斉召還=制裁反発に対抗措置―EU****
欧州連合(EU)は28日、ベラルーシに駐在するEU各国の大使を本国に一斉召還することで合意した。EUの制裁強化に反発したベラルーシが取った「敵対行為」(シュルツ欧州議会議長)への対抗措置。

EUは同日、野党弾圧を続けるルカシェンコ政権への圧力を強めるため、当局者21人を対象とした渡航禁止と資産凍結を決定。これに反発したベラルーシは、ブリュッセルのEU代表部大使を召還するとともに、ベラルーシ駐在のEU代表部大使らに国外退去するよう伝えた。【2月29日 時事】
*****************

EUの制裁強化に対しルカシェンコ大統領は3月、制裁強化を推進したドイツ外相が同性愛を公言していることを念頭に置いて、「同性愛者になるくらいなら独裁者のほうがましだ」とも発言しています。

今回の「クマ爆弾」は予想外の出来事でしたが、EU各国との関係悪化はここ2年ほどの流れでもあり、起きるべくして起きた状況とも言えます。
ただ、頼りとせざるを得ないロシアもルカシェンコ大統領にはうんざりしており、ルカシェンコ政権生き残りの道は険しそうです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする