孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン治安関係者による米兵殺害相次ぐ パキスタンの和解プロセスへの対応に変化?

2012-08-14 21:33:10 | アフガン・パキスタン

(アメリカが、「パキスタンはテロ支援を国家戦略の一部にしている」と激しく批判したこともあるパキスタン軍 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6062112146/

7日、10日朝、そして10日夜
アフガニスタン情勢に関する下記の10日と12日の記事、最初は同じ事件を報じたものか・・・とも思いました。
ともに10日に起きたアフガニスタン治安部隊とアフガニタン人基地職員による米兵殺害の記事です。

****アフガン治安部隊要員?銃を乱射、米兵3人死亡****
アフガニスタン南部ヘルマンド州で10日、アフガン治安部隊の要員とみられる男が銃を乱射し、AP通信などによると米兵3人が死亡した。

男は米兵らと食事中に銃を乱射し、そのまま逃走した模様だ。旧支配勢力タリバンの報道官は同通信に、男が「我々の仲間に加わった」と述べた。

アフガン治安部隊要員が外国軍兵士を射殺する事件は後を絶たず、7日にも東部で国軍兵とみられる男らが銃を乱射し、米兵1人を殺害したばかり。治安部隊内にタリバンへの共感者が増えているとの指摘もあり、2014年末が期限の治安権限移譲プロセスに影を落としている。【8月10日 読売】
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****アフガンで基地職員?銃を乱射…米兵3人死亡****
アフガニスタン南部ヘルマンド州の国際治安支援部隊(ISAF)軍基地で10日夜、アフガン人の基地職員とみられる男が銃を乱射し、ロイター通信などによると、米兵3人が死亡した。
旧支配勢力タリバン報道官は本紙に対し、「乱射したのは我々の仲間だ」と犯行を認めた。

乱射したのは基地で働く民間人職員とみられており、乱射後に拘束された。ISAF側は「武器の入手経路を調べている」としている。
アフガン治安部隊要員などが外国軍兵士を射殺する事件は後を絶たず、10日朝にもヘルマンド州で警官とみられる男が銃を乱射し、米兵3人が殺害されたばかり。【8月12日 読売】
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10日記事にもあるように、7日にも同様事件が起きており、わずか5日ほどの間にアフガニスタン人の治安関係者による米兵殺害が3件も連続したことになります。
米軍兵士にすれば、眼前のタリバンより、背後のアフガニスタン治安部隊が気になる事態です。
2014年末までに治安権限をアフガニスタン側に移譲して撤退するというアメリカの計画がうまくいっているかどうかは、この事実を見れば言わずもがなといったところです。

パキスタン:タリバンとの和解協議を認める?】
そうは言いつつも、アメリカ及びカルザイ政権としても出口を模索する必要があります。
パキスタンが拘束しているタリバン要人のバラダル師とカルザイ政権の接触をパキスタンが認めたとのことで、和解に向けた細い糸がかろうじて繋がっているようです。

バラダル師は“タリバンの最高指導者オマル師の最側近で、2010年にパキスタン軍統合情報部(ISI)と米中央情報局(CIA)の共同作戦によりパキスタン南部カラチで拘束された。拘束前もアフガン政府側と水面下で接触していた人物”【8月14日 読売】です。
バラダル師の拘束については、カルザイ政権のタリバンとの交渉を妨害するために、和解を望まないパキスタン側が行ったとの見方がカルザイ政権側にはありました。
パキスタンが和解を望まないのは、タリバンを通じてアフガニスタンにインドに対抗する勢力を築きたいとの思惑からと見られています。

****アフガン政府、タリバーン元幹部と面会 和解見通し協議****
アフガニスタンの反政府武装勢力タリバーンの元ナンバー2で、パキスタン当局が拘束中のアブドゥル・ガニ・バラダル師にアフガン政府関係者が今年6月ごろに初めて面会し、和解の見通しを協議した。ロイター通信が12日、両国政府高官の話として伝えた。

パキスタン南部カラチ郊外で2010年に拘束されたバラダル師は、アフガンのカルザイ政権と極秘裏に接触しており、アフガン側では拘束がパキスタン当局による妨害行為と受け止められていた。
アフガン側は拘束直後から面会や身柄引き渡しを求めてきたが、今回の面会の実現はパキスタン側の和解プロセスへの態度が軟化したことを示した形だ。【8月13日 朝日】
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パキスタンの行動パターンは外部からは理解が難しいものがありますので、“パキスタン側の和解プロセスへの態度が軟化した”のどうかは、わかりません。

パネッタ米国防長官:パキスタン軍のTTP掃討作戦に期待
パキスタンの変化ということでは、従来消極的だったイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)に対する大規模な掃討作戦をパキスタンがアメリカ側に約束したことが報じられています。

****パキスタン:タリバン掃討、米政府に約束*****
パキスタン軍が米政府の要請に応じ、アフガニスタン国境に近い部族支配地域の武装勢力「パキスタン・タリバン運動」に対する大規模な掃討作戦を米側に約束したことが明らかになった。AP通信が13日、パネッタ米国防長官の話として伝えた。

パキスタン・タリバン運動はアフガンの旧支配勢力タリバンと連携しており、米側はパキスタン側に掃討作戦を求めてきたが、タリバンを通じてアフガンへの影響力を維持したいパキスタン軍は作戦に消極的だった。米側はパキスタンの「方針転換」を歓迎、14年末のアフガンからの完全撤収に向け情勢安定化の弾みにしたい考え。

AP通信によると、パキスタンのカヤニ陸軍参謀総長が最近、アフガン駐留米軍のアレン司令官に対し、近く部族支配地域の北ワジリスタン管区で掃討作戦を実施すると約束したという。
パネッタ長官はAP通信に「パキスタン軍がこの問題に取り組むことへの希望を失っていたが、新たな措置が取られることになった」と述べ、パキスタン軍の作戦実施に期待を示した。【6月14日 毎日】
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本当にパキスタン国軍及び統合情報部(ISI)がタリバンやTTPとの関係を断てば、アフガニスタン情勢は劇的に変化します。しかし、アメリカ撤退後を見据えたパキスタン国軍がそうした方向に一気に向かうとも考えにくいところです。
これまでも、イスラム武装勢力掃討でアメリカに協力したり、アフガニスタン補給路を閉鎖してアメリカと対立したり・・・といったことを繰り返していますので。

ISIとの関係は、外部から見えるよりもはるかに緊張したもの
タリバンと同じイスラム武装勢力でテロ活動を行っている「ハッカニ・ネットワーク」について、下記記事で、タリバンやパキスタンとの微妙な関係が示されています。

これまで、「ハッカニ・ネットワーク」はパキスタン統合情報部(ISI)の支援を受けていること、タリバンとの関係では、最近ではライバル的な対抗意識が双方に強く、共同行動は難しいことが指摘されていました。

2011年9月には、当時の米軍制服組トップのマレン統合参謀本部議長が米上院軍事委員会の公聴会で、パキスタン軍のISIが武装組織「ハッカニ・ネットワーク」を積極的に支援しており、同ネットワークはISIの「正真正銘の片腕」として行動していると、名指しでパキスタンを激しく批判したこともあります。

****資金調達法 米機関が指摘 「ハッカニ・ネットワークはマフィア構造*****
アフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンの一派でテロを繰り返しているハッカニ・ネットワークを分析した報告書が、米陸軍士官学校内にある調査研究機関「対テロセンター」により発表された。
同グループの財政構造を調査したもので、資金の集め方はゆすりや誘拐などの犯罪から“フロント企業”を通じたビジネスまでと幅広く、「マフィアにそっくりだ」と指摘している。

ハッカニ・ネットワークは昨年9月にカブールで起きた米大使館襲撃事件の実行グループとされるほか、今年4月に各国の大使館やアフガン議会の建物が攻撃された同時テロに関与したとされている。

先月末に公表された報告書によれば、資金源は活動への賛同者からの寄付のほか、アフガンやパキスタン、湾岸諸国での輸出入、運搬、不動産業による収入などにまで及んでおり、これらの国で数十から数百に及ぶ不動産を部分的に所有しているとされる。

このため報告書は、ハッカニ・ネットワークを武装勢力として分類するのは正確ではなく、イタリアで政府が弱体化していた19世紀に出現した「シチリア島マフィア」に似た、政治的、犯罪的性質を併せ持つ集団だと位置づけている。

1990年代初めにはパキスタンの情報機関、3軍統合情報部(ISI)を主な資金源としていたが、その後、多様化を図るようになった。
母体のタリバンからも毎月、給付金を受け取っているとされるものの、独自の資金源を持つため、「タリバンの命令に従う義務はない」(報告書)。
タリバン各派は、ニューヨークのかつてのマフィア五大ファミリーのように委員会をつくり、各支配地域にまたがる犯罪行為の分配についての交渉を行っているという。

パキスタン軍からも継続的に資金や物資の供給を受けており、ISIとはその作戦において緊密な関係を維持しているとされる。
パキスタン政府はこうした指摘を繰り返し否定しているが、ハッカニ・ネットワークに対する軍事作戦を行うよう求める米側に抵抗し続けている。実際、資金はもちろん、戦闘物資など密輸品が根城の部族地域を通過するということは、パキスタン政府の共謀や暗黙の了解なしには考えられないという。

ISIとの関係についても、外部から見えるよりもはるかに緊張したもので、「ISIの指示に従わず、自ら作戦を決定している」との関係者の証言もある。【8月14日 産経】
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パキスタンISIとタリバンやハッカニ・ネットワークなどのイスラム武装勢力の関係は、互いに相手を利用する関係で、“外部から見えるよりもはるかに緊張したもの”とのことです。
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