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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  大統領選挙・決選投票がもたらすもの

2009-10-21 21:38:17 | 国際情勢

(前回選挙の際の、投票を呼びかける看板。 兵士が守っているから、自爆テロに巻き込まれたり、タリバンに指を切り落とされたりすることはありません・・・というメッセージでしょうか。この地での投票は命がけです。
“flickr”より By Todd Huffman
http://www.flickr.com/photos/oddwick/3820021436/)


【「新政権の正統性の担保につながる」】
このところパキスタンやアフガニスタンの話題を扱うことが多くなっていますが、昨夜から今日にかけて一番話題となっているのは、やはりアフガニスタンの大統領選挙の件です。
来月7日に決戦投票となったようですが、国際社会はこの決戦投票実施を歓迎しています。

“大規模な不正が指摘されるなかでカルザイ氏がそのまま当選を決めれば、新政権の正統性に疑問符がつきかねないうえ、反カルザイ派の反発による混乱も懸念されることから、欧米諸国などは決選投票の受け入れをカルザイ氏に働きかけてきた。国連アフガニスタン支援団の関係者も「正統性への疑問を引きずらないためにも大歓迎」と話す。”【10月20日 毎日】

****カルザイ、アブドラ両氏に電話=決選投票を歓迎-米大統領****
オバマ米大統領は20日、アフガニスタンのカルザイ大統領、アブドラ前外相にそれぞれ電話し、同国大統領選挙で両者による決選投票の実施が決まったことを歓迎する意向を伝えた。ホワイトハウスが発表した。
オバマ大統領はカルザイ氏に対し、決選投票を受け入れたことについて「アフガン国民にとり最善の決定だ」と称賛。今後もアフガンへの支援を続けていく方針を示した。【10月21日 時事】
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【「無意味な選挙に何度も投票に行くほどひまじゃない」】
しかし、この決戦投票の結果、何か事態が好転する期待があまりもてない、むしろ徒労感を抱かせるような印象を個人的には感じます。

****アフガン大統領選、11月7日に決選投票*****
アフガニスタンの選挙管理委員会は20日、8月20日に投票があった大統領選の決選投票を11月7日に実施することを決めた。暫定1位のカルザイ現大統領の得票率が不正調査の結果、決選投票を待たずに当選できる過半数を割り込んだためだ。大規模な不正が顕在化するなか、国際社会は「新政権の正統性の担保につながる」と歓迎しているが、課題も山積している。

選管によると、カルザイ氏は暫定結果で54.6%を得票していたが、不正票を差し引いた結果、最終的に49.67%と過半数に届かなかった。決選投票は、暫定結果で27.8%と2位につけたアブドラ前外相との間で争われる。
カルザイ氏は20日、カブールで記者会見し、「1回目の投票は不正の汚名を受けた。選挙の合法性を確保するため、決選投票に進まなければならない」と述べて受け入れる考えを表明。アブドラ氏側も歓迎の意向を示した。同国初の大統領選となった04年の前回選挙ではカルザイ氏が第1回投票で当選しており、決選投票が行われるのは初めてとなる。(中略)
 
だが、決選投票の実施には多くの難題がある。アフガンでは早ければ今月末にも雪が降り始め、国土の多くを覆う山道を閉ざす恐れがある。投票できない人が続出する可能性もあり、正統性への疑問につながりかねない。
また、タリバーンなど反政府武装勢力による妨害行為も懸念されている。8月の投票の際には投票所にロケット弾が撃ち込まれたり、選管職員が殺害されたりした。
不正をどう防ぐのかも大きな課題だ。8月の投票では日本などから約1100人の国際監視団が入ったが、6千カ所以上の投票所の監視には少なすぎるうえ、治安上の問題で監視団が行けない地域が多かった。再び大規模な不正が起きれば、新政権の信頼性は地に落ちることになる。

長引く選挙に、市民の間にはいらだちやあきらめも広がる。カブールの携帯電話店員ハビブラさん(20)は「選挙でテロが増え、客が出歩かなくなった。とにかく早く決めてほしい」。織物商のガジ・ムハンマドさん(32)は「どうせ次も不正だらけ。無意味な選挙に何度も投票に行くほどひまじゃない」と声を荒らげた。 【10月20日 毎日】
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単に、降雪やタリバンの妨害、選挙管理という円滑な実施を阻む要因だけでなく、決戦投票を行うことがもたらす新たな混乱、外国勢力の介入のイメージという問題もあります。

【国際社会介入の印象】
****アフガン大統領選 民族対立に発展懸念 さらなる政治的混乱も*****
アフガニスタン大統領選は、不正票をめぐる2カ月の混乱を経て、カルザイ氏とアブドラ元外相による決選投票の実施が決まり、ようやく大統領選出に向けたプロセスが前進した。だが、治安などアフガンを取り巻く状況は8月の選挙から悪化の一途をたどっており、決選投票が公正に行われる保証もない。決選投票実施を歓迎する米国などとは裏腹にアフガン国民の心中は複雑だ。
               
「8月の選挙は命の危険をおかして投票した。でも、決選投票には行かない」
地元記者によると、カブールに住む多数の有権者がこう語っているという。8月選挙の投票率は38・17%。決選投票ではそれを大きく下回る20%台にまで落ち込むとの予測が出ている。カルザイ大統領は20日の記者会見で「投票率が上がることに期待したい」と期待を述べたが、現在の治安状況を考えれば、投票率アップは望み薄といえる。(中略)

一方、両候補の一騎打ちはさらなる政治的混乱を起こし、国内を一層不安定化させる可能性がある。決選投票では、最大民族パシュトゥン人であるカルザイ氏の優勢は揺るがないとみられているが、第2民族のタジク人のアブドラ氏に「3位のハザラ人が支援に回る」(アブドラ陣営)との見方も出ており、民族対立に発展する可能性もはらむ。
また、有権者には、国際社会が自分たちの選挙に必要以上に介入し、結果をねじ曲げたとの思いも広がる。カルザイ氏は今回、米国などの再三の説得によって決選投票を受け入れた。20日の記者会見は米国のケリー上院議員と並んで行われており、アフガン国民には、カルザイ氏が米国の圧力に屈したとも映る。
この2カ月間に、国民と国際社会の間に生まれた摩擦は、カルザイ氏自身も含め、同国の行く末に大きな影を落としたといえる。【10月21日 産経】
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アメリカは、汚職が横行し統治能力を示せないカルザイ政権に冷ややかですし、カルザイ大統領はアメリカなどの空爆による民間人犠牲を常に批判しています。
今でも、カルザイ大統領とアメリカの関係はこのように溝がありますが、今回アメリカが決戦投票実施を強く迫ったことで、この溝は更に深いものになったと思われます。

これだけの問題・課題を抱えながら「新政権の正統性」のために敢えて決戦投票を行い、その結果おそらく投票率は20%台・・・というのが“徒労感”を抱かせる原因です。

【民主選挙神話】
駐留米軍トップのマクリスタル国際治安支援部隊司令官が「増派したとしても、アフガン政府の汚職体質が改善されない限り、情勢好転は望めない可能性がある」と述べているように、アフガニスタン政権のグッド・ガバナンスが不可欠であり、そのためには「新政権の正統性」が重要・・・ということなのでしょうが。

もっとも、軍閥・地方有力者にポストをばらまいているカルザイ新政権でも、あるいはそのミニ版であるアブドラ新政権でも、“汚職体質”がすぐに変わるとも思えません。
民主的な選挙を行えば社会もよくなる・・・という民主選挙神話にもかかわらず、ケニヤでもジンバブエでもイランでも、選挙によって混乱が増幅されています。
また、アメリカが民主的選挙を強く求めた結果、パレスチナではハマス政権が生まれ、エジプトではイスラム原理主義勢力が台頭するといったことも、かつてありました。

もちろん、民主的な選挙の価値を否定するものではありませんが・・・。
タリバンとの戦闘状態にあるアフガニスタンに“ないものねだり”しても仕方がないという感じもしています。
重要なのは形式的な正当性ではなく、いかに汚職体質を一掃し、国内統治の改善につとめる新政権に近づけるか・・・ということでしょう。そのため新政権・国際社会は何ができるかということでしょう。

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「ASEAN政府間人権委員会」発足にむけて

2009-10-20 22:42:57 | 国際情勢

(2007年9月27日 ヤンゴン 長井健司死亡 “flickr”より By VT@nbells
http://www.flickr.com/photos/nbells/2423182582/)

【域内全体の人権のとりで】
ASEAN(東南アジア諸国連合)は、23日にタイ・ホアヒンで開催される首脳会議で、人権委員会発足に向けた宣言を採択する予定です。

****「共同体への歴史的一歩」=人権委発足で首脳宣言採択へ-ASEAN****
東南アジア諸国連合(ASEAN)域内の人権促進と擁護を目的とした「ASEAN政府間人権委員会」発足に関する首脳宣言案が17日、明らかになった。同委員会について「ASEAN共同体に向けた歴史的な一歩。域内の人々の人権の実現、生活向上に極めて重要だ」と位置付けており、23日に中部ホアヒンで開かれるASEAN首脳会議での採択を目指す。(中略)
宣言案は、ASEAN諸国が人権を守る努力を続けることで、同委員会は域内全体の人権のとりでとなることができるとの自信を示した。同委の権限と機能強化のため、規約を5年ごとに見直すことも認め、作業は外相会合で行うとした。【10月17日 時事】
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ホアヒンでは、日本、中国、韓国が参加するASEANプラス3首脳会議、インドなどを加えた東アジアサミットも開催され、日本からは鳩山由紀夫首相が参加し、東アジア共同体構想について改めて表明する見通しとか。

【「内政不干渉」の原則は維持。意思決定も「全会一致が基本」】
さて、「ASEAN政府間人権委員会」ですが、当初は“人権機構”とも呼ばれていましたが、銃で民衆の抗議行動を鎮圧したミャンマーの軍事政権を域内に抱え、ベトナム・ラオス・カンボジアなども人権に関しては少なからぬ問題を抱えている状況で、起草作業に入って数年が経過するなかで次第に骨抜きになり、今回の「ASEAN政府間人権委員会」に至っています。

今年に入ってからの動きを見ると、2月28日に、同じホアヒンで開催された首脳会議で、年内発足に向けて努力することが確認されました。

****ASEAN、人権機構年内発足へ「努力」 捜査権限なし****
東南アジア諸国連合(ASEAN)の各国首脳は2月28日、「人権機構」の年内発足に向け努力することを確認した。ただ、規約草案は制裁などの権限に触れておらず、一方で内政不干渉の原則は明記。本来の目的である人権保護が実現できるのか、早くも疑問符がついている。
タイ政府筋によると、加盟各国は政治体制の違いから人権意識もばらばらで、人権保護に向けた取り組みの前に意識を高めることを優先。草案には人権侵害に対する制裁などを盛り込まなかった。

だが、ミャンマー(ビルマ)がこだわった「内政不干渉」の原則は維持。意思決定も「全会一致が基本」とし、「外部の干渉からASEANを守る」との記述も入れた。
28日のASEAN首脳と市民団体の会議では、ミャンマーとカンボジアの人権団体代表が出席を拒否される一幕も。「活動家が来るなら欠席する」とした両国首脳の意向を受けたもので、人権団体の広報担当は「これで本当に人権保護ができるのか」とあきれ顔だ。

各国は7月の外相会議までに規約の最終案をとりまとめ、年末にタイで開催予定の首脳会議を経て機構を発足させる。各国代表計10人が3年任期で機構を運営。5年後に活動の見直しを図るという。【3月1日 朝日】
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意思決定方式にもASEANの原則である「全会一致」を維持したため、人権問題が指摘されたミャンマーなど当該国が抵抗すれば強制力を持たず、具体事例に有効に対応するのは困難とみられています。
なお、意思決定で全会一致に至らない場合は外相会議に対応を委ねることになっています。
ASEAN原則とする「内政不干渉」も維持し、加盟各国・地域の特性や文化の違いに配慮するとして、制裁規定も見送られました。

なお、この2月の首脳会議では、ミャンマー民主化問題に関しては、議長声明で政治犯釈放の必要性を強調したものの、自宅軟禁が続く民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんの解放要求には言及しませんでした。

【監視・調査機能を持たせずに発足】
7月にタイ南部プーケットで開催された外相会議では、監視・調査機能を持たない各国学識経験者などによる「政府間人権委員会」とすることで合意しました。

****ASEAN:人権機構発足で合意 タイで外相会議開幕*****
東南アジア諸国連合(ASEAN)は19日、タイ南部プーケットで加盟10カ国外相による夕食会などを開き、23日のASEAN地域フォーラム(ARF)まで続く一連の関連外相会議がスタートした。
ASEAN各国外相は19日、域内の人権問題を協議する「ASEAN人権機構」について、10月にプーケットで開催される首脳会議に合わせて発足させることで合意した。ただ、強制力のある監視・調査機能の付与は先送りされ、ミャンマーの人権問題改善などに実質的に寄与できる可能性はほとんどなくなった。

人権機構は昨年12月発効のASEAN憲章に創設が盛り込まれ、具体的な権限などの協議が進められていた。外交筋によると、インドネシアなどが各国の人権状況を監視し、問題が起きた場合に調査する機能を付与するよう求めていたが、内政不干渉の原則を主張する議長国タイなどが消極姿勢を示した。このため、監視・調査機能を持たせずに発足させ、5年後に見直す妥協策で決着した。人権機構の正式名称は「政府間人権委員会」。【7月19日 毎日】
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【試金石 ミャンマー問題】
この外相会議では、スー・チーさんが5月に刑事訴追されたこともあって、スー・チーさんの名前を明記してミャンマーに全政治犯の即時解放を求めています。
3月のASEAN首脳会議の議長声明ではスー・チーさんの名前は明記されておらず、その点では踏み込んだ内容となっています。
一方で、「ミャンマーは外部による経済制裁が同国の民主化と発展を妨害しているとの考えを表明した」との文言を盛り込み、経済制裁を続ける欧米に嫌悪感を示すミャンマーへの配慮も見せています。 【7月21日 朝日より】

このとき、ASEAN地域フォーラム(ARF)出席のためタイを訪問中だったクリントン米国務長官は7月22日、テレビのインタビューに対し、ミャンマー軍事政権がスー・チーさんを解放しないなら、ASEANは加盟国ミャンマーの追放も検討すべきだと語っています。
これに対しASEAN議長国タイのアピ
シット首相は23日、「ミャンマーを追放する十分な理由はない」と述べ、長官の考えを強く否定しました。

現在は、アメリカもミャンマーへの制裁を緩和して対話を行う方向に動き出していますので、このときのクリントン発言とはまた違った見解になっていることも想像されます。
追放してすむ問題でもないでしょうが、人権侵害への批判にも及び腰・・・ということでは困ります。

人権問題への対応の試金石とも言える、スー・チーさん及びミャンマーへの対応には、ASEAN各国に足並みの乱れがあります。

****ASEAN:スーチーさん恩赦要求、足並みに乱れ****
ミャンマー軍事政権による民主化運動指導者、アウンサンスーチーさん(64)への有罪判決をめぐり、東南アジア諸国連合(ASEAN)内部の足並みの乱れが表面化している。議長国タイは加盟各国に、スーチーさん恩赦を軍事政権に要求することで合意するよう求めたが、ベトナムやラオスは不干渉の姿勢を強調。ASEANが一致して恩赦要求を打ち出すのは困難な情勢だ。
加盟国のベトナムは13日、「スーチーさん裁判は内政問題」との立場を表明。さらにラオス外務省報道官は14日「裁判はミャンマーの司法制度に基づいて行われた」と述べ、軍事政権の立場を全面的に支持したと受け取られかねない姿勢を示した。

域内の民主化進展や人権の尊重をうたうASEANだが、ミャンマー問題に関してはフィリピンやシンガポール、インドネシアなどが厳しい姿勢なのに対し、共産党による一党支配が続くベトナムや国内に人権問題を抱えるラオスなど、90年代以降の新規加盟国は常に軍事政権寄りだ。【8月17日 毎日】
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こうした経緯をへての「ASEAN政府間人権委員会」発足です。
「内政不干渉」の原則、意思決定も「全会一致が基本」、監視・調査機能は持たない・・・ということで、過大な期待はできません。
ただ、批判ばかりしても仕方ありませんし、各国が国内事情を抱えているのが現実ですから、今後の「ASEAN政府間人権委員会」での議論・取り組みが少しでも域内の民主化に貢献できることを願います。

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パキスタン治安機関とアフガニスタン・イランとの関係

2009-10-19 20:56:30 | 国際情勢

(イラン革命防衛隊幹部が標的となった18日の自爆テロは、イラン東南部シスタンバルチスタン州ピシン(Pisheen)で起きました。ピシンはパキスタン国境の町です。イランとパキスタンに両脇から包みこまれるような位置にあるのがアフガニスタンです。“flickr”より By Pan-African News Wire File Photos
http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/4024195401/)

昨日の「パキスタン軍 南ワジリスタン地区でのイスラム武装勢力への本格攻撃開始」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20091018)に続き、パキスタンの話題。

【政府・主要野党との会合で決定】
昨日も取り上げたように、パキスタン軍は17日、3万人以上の兵力を投入し、イスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の活動拠点であるアフガニスタン国境の北西部部族地域・南ワジリスタン地区の地上掃討作戦を開始しました。

報復テロの激化、難民の増加など多大の負担を伴う今回の作戦について、パキスタン国内でどの程度意思統一できているのかが気になったのですが、“地元紙によると、掃討作戦の開始は政府と主要野党による16日の会合で決定された。”【10月18日 産経】とあります。

“主要野党”と言うからには、人民党・ザルダリ政権の最大の政敵であり、よりイスラム色が強く国内イスラム原理主義政党とも連携することがあるパキスタン・ムスリム連盟シャリフ派のシャリフ元首相も賛同したということでしょう。
一応、国内の政治的コンセンサスは得ているということでしょうか。

【ISIのタリバン支援】
掃討作戦にあたる国軍のなかはどうなっているのでしょうか?
以前から、国軍において影響力の大きい諜報機関・軍統合情報部(ISI)はアフガニスタンのタリバンの生みの親でもあることから、イスラム原理主義勢力と今も強い絆があるとも言われています。

****パキスタン諜報機関がタリバン支援、狙いは西側援助=アフガン政府顧問****
アフガニスタンのスパンタ外相の上級政策顧問であるダブード・モラディアン氏は、ロイターのインタビューに答え、同国で自爆テロなどの攻撃を繰り返す武装勢力に対し、隣国パキスタンの諜報機関である軍統合情報部(ISI)が支援を行っているとの見方を示した。
英国際戦略研究所のセミナーでロンドンを訪れたモラディアン氏は、ISIによる武装勢力の支援について、核保有国であるパキスタンが不安定化するという懸念を西側諸国に与え、財政支援を得ようとするのが狙いだと語った。(中略)
モラディアン氏は、ISIとアフガンのタリバンとの関係はかなり緊密で、「ISIはタリバンのパキスタン国内での活動について、完全に承知した上で関与している」と話す。
ISIはタリバンの攻撃に単に目をつぶっているだけなのかという質問に、モラディアン氏は「違う。標的を選んだり、タリバン幹部に世論について伝えたりする際には戦略的な目的がある」と説明する。(中略)
また、モラディアン氏は、アフガンでのISIの関与がタリバンとアルカイダを含んだ「テロのトライアングル」の一部になっていると指摘。さらに、ISIの関与がアフガンで混乱が続く理由の一つになっているとも語る。このため、モラディアン氏は、パキスタン政府が軍とタリバンとの関係を断ち切らせるために取り組む必要があると訴えた。【10月18日 ロイター】
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“核保有国であるパキスタンが不安定化するという懸念を西側諸国に与え、財政支援を得ようとするのが狙いだ”というのはどうでしょうか。
より一般的には、ISIがタリバンを支援している背景について、“宿敵インドとの対抗上、後背地のアフガンへの影響力を確保するため”ということがわれています。
そうした国軍内部の親イスラム原理主義勢力は、今回の南ワジリスタン掃討作戦でどうなるのでしょうか?

【掃討作戦で変わるアフガン・パキスタン関係】
****パキスタン:反政府勢力掃討本格化 対タリバン戦略岐路に*****
パキスタンの有力紙「ジャング」は18日、パキスタン軍が17日に着手した部族支配地域の武装勢力連携組織「パキスタン・タリバン運動」(TTP)への攻撃で、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンなどTTPと連携する全武装勢力が、パキスタン軍との戦闘に合流する決定をしたと報じた。事実ならばパキスタン軍はアフガンのタリバンと初めて戦闘に突入する。衝突が本格化すれば、米国の「対テロ戦」の主戦場はパキスタンへと移る可能性が高まる。
同紙は当局者情報として、タリバンや反米武装組織「ヘズビ・イスラミ」(ヘクマティアル派)などアフガンの武装勢力と、TTPなどパキスタンの武装勢力のそれぞれの幹部が、アフガン側に集まり、パキスタン軍への攻撃に参加することで合意したと報じた。
また、パキスタン英字紙「ニューズ」などは、最近のパキスタン国内のテロ攻撃にアフガンのタリバンも関与しているとの当局者情報を報じている。
ただ、アフガンのタリバンのアフマディ広報官は18日、毎日新聞の電話取材に「パキスタン軍と戦うことはない」と報道を否定。「パキスタンでの軍事活動を狙う米国の情報戦だ」と語った。

アフガンのタリバンは米軍を敵視しているが、米国の「対テロ戦」を支援するパキスタン軍との対立を回避してきた。その背景には、パキスタン当局との関係がある。
パキスタン軍部は90年代後半、アフガンのタリバン政権を支援。01年の米同時多発テロでムシャラフ前政権が「断絶」を宣言したが、国内の武装勢力への軍事作戦は展開しても、アフガンのタリバンとの対立は避けてきた。インドとの対抗上、後背地のアフガンへの影響力を確保するためだ。
一方、アフガンのタリバン側にも、ハッカーニ司令官ら有力幹部がパキスタンの部族地域を隠れ家にするなど、米軍との戦いにおいてパキスタンを後背地にする利点があった。
しかし、パキスタン軍によるTTPへの掃討作戦が本格化した今、パキスタン軍とアフガンのタリバンとの関係悪化は確実で、パキスタンの対タリバン戦略は大きな岐路に立っている。【10月18日 毎日】
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今後、アフガニスタンのタリバンやパキスタンのイスラム原理主義勢力とパキスタン国軍が敵対するという、比較的わかりやすい構図になっていくのか、相変わらずもやもやした関係が続くのか・・・?

【イランでのテロにパキスタン関与か?】
一方、イランもパキスタンと国境を接する国ですが、18日に起きたイランの革命防衛隊を狙った自爆攻撃に関して、アハマディネジャド大統領はパキスタン治安機関(ということは、恐らくISIでしょう)の関与を示唆しています。

****イラン大統領、自爆攻撃でパキスタンの関与示唆****
イランのアハマディネジャド大統領が18日、同国南東部で革命防衛隊の幹部など35人が死亡した自爆攻撃について、パキスタン治安機関の数人が関与していたとの情報を得ていると述べた。ファルス通信が伝えた。
それによると、アハマディネジャド大統領は、パキスタン政府に対して早急に容疑者逮捕に協力するよう要請した。
また国営テレビによると、イラン外務省がパキスタンの在テヘラン外交官を呼び、今回の攻撃の容疑者がパキスタンからイランに入国した証拠があると伝えたという。【10月19日 ロイター】
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当初、イランは、事件の背景にアメリカがいるとの批判を行っていました。
ラリジャニ・イラン国会議長は18日、「今回のテロリスト攻撃は米国の行動によるものだとわれわれは考える。わが国に対する米国の敵意のしるしだ。オバマ米大統領はわれわれに手を差し伸べようなどと言ったが、このテロリスト作戦によって彼は自らの手を焼いたのだ」と発言し、米国が関与していると非難していました。
また、革命防衛隊も外国政府が関与しているとの見解を発表し、「世界のごう漫な国が、あの地域にいる彼らの追従者や傭兵をたきつけ、わが防衛隊と部族長らの大会議に対するテロリスト攻撃を実行させたのだ」と述べています。【10月18日 AFP】

こうしたアメリカ批判は、真偽のほどはともかく、よく見られる責任転嫁ですので、“またか・・・”という感じでしたが、パキスタンの関与となると具体性を帯びてきます。

イランでは、イスラム教シーア派信者が国民の大半を占めていますが、事件現場となったイラン南東部はスンニ派住民が多く、パキスタンやアフガニスタンと国境を接し、イラン国内でも貧しい地域である同地では、このところ爆弾攻撃など暴力行為が急増していたとも報じられています。【10月19日 ロイター】

テロを実行したとして、イラン側が犯人引渡しをパキスタンに求めているスンニ派過激派組織ジュンダッラー(神の兵士)の指導者はパキスタンの神学校で学び、アフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンや国際テロ組織アルカイダの影響を受けていると指摘されています。【10月19日 産経】

現段階では事実関係は不明ですが、パキスタンのISIは、インドやアフガニスタン、更にはイランと、この地域で政治的な事件が起きるといつも名前があがる厄介な存在です。
かつての日本の関東軍のように、政治的コントロールが機能していないようにも見えます。

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パキスタン軍  南ワジリスタン地区でのイスラム武装勢力への本格攻撃開始

2009-10-18 11:41:39 | 国際情勢

(南ワジリスタンは、連邦直轄部族地域(通称「トライバル・エリア(Tribal Areas)」の南部にあって、アフガニスタンのタリバンと連携するイスラム武装勢力によって実効支配されています。
なお、パキスタンの北西隣がアフガニスタンです。
“flickr”より By Pan-African News Wire File Photos
http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/3812640336/)

【核管理能力と支援法】
パキスタンでは今月に入ってテロが相次いでおり、5日以降、150人以上の民間人らが犠牲となっています。
特に、10日に首都イスラマバード近郊のラワルピンディで軍の総司令部が襲撃された事件は、パキスタンの(直接には軍の)核兵器管理能力への疑念、将来核兵器が何らかの形でタリバンやアルカイダなどの手に渡る危険性への不安を生んでいます。
なお、これらのテロ攻撃のうち複数は、イスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)が犯行声明を出しています。

一方、アフガニスタン情勢の改善には、テロ組織などが拠点を移したパキスタンの安定化が不可欠とするアメリカは、パキスタンの民主化や経済、社会復興を目的としたパキスタン支援法を進めてきました。
しかし、支援法が非軍事支援・年15億ドルを5年にわたって提供する条件として、パキスタンの核政策へのアメリカの介入や武装勢力掃討の共同作戦など、軍の政治介入を抑える内容含んでいることから、支援法を歓迎したパキスタン政府に対し、軍は「主権侵害」と批判、アメリカが強化を求めているイスラム武装勢力の掃討作戦への影響、政治混乱も取り沙汰されていました。
このあたりの事情については、先日の10月14日ブログ「パキスタン テロが生む核管理への不安と、支援法が求めるアメリカの核管理介入」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20091014)で取り上げたばかりです。

【本格攻撃に着手】
その後、こうした状況に動きが出ています。
まず、パキスタン支援法については、オバマ米大統領が15日に署名し、同法が成立しました。
もっとも、パキスタン議会が拒否すれば、実際の施行は困難となります。

パキスタンの核をガラス張りにし、更に、パキスタンがテロ組織への支援停止にどれぐらい取り組んでいるかをアメリカが“監視”する条件がついた、軍の影響力を抑えようとする同法に反発するパキスタン軍は、反政府武装勢力「パキスタン・タリバーン運動」(TTP)の拠点があるアフガニスタン国境に近い部族地域の南ワジリスタン地区を包囲しながら、実際にはなかなか攻撃を開始せず、支援法への反発から意図的に作戦を遅らせているのでは・・・といった見方も出ていましたが、17日、南ワジリスタン地区でのイスラム武装勢力に対する地上攻撃を開始しました。
作戦着手で、支援法が意図する軍への圧力を回避しようとした・・・との見方もあるようですが、このあたりの軍の思惑、更には軍とイスラム過激派勢力とのつながりはよくわかりません。

****パキスタン:軍がタリバン組織拠点へ大規模な攻撃を開始*****
パキスタン軍は17日、反政府武装勢力の連携組織「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の拠点である北西部の部族支配地域「南ワジリスタン管区」への本格攻撃に着手した。パキスタンが01年に米国の「対テロ」同盟国にかじを切って以降、最大の軍事作戦となる。ただし、戦闘の長期化は避けられない見通しで、武装勢力による報復テロが強まる恐れもある。

軍関係者によると、軍は同管区周辺に3万人以上の兵士を配置。一方、武装勢力側は国際テロ組織アルカイダと関係がある中央アジアや中東、中国などから外国人約5000人を含む総勢約2万人が抗戦態勢を敷いている。軍は数日前から包囲網を狭めていたが、17日朝に武装勢力側が攻撃を仕掛け、激しい交戦に発展。軍広報官によると、軍兵士5人、武装勢力11人の少なくとも計16人が死亡した。
ギヤニ陸軍参謀長は16日、ギラニ首相や、同管区に隣接する北西辺境州の首相らに武装勢力の動向や作戦の準備状況などを説明。軍側は「作戦開始には政府の許可が必要」との立場を取ってきており、政府がゴーサインを出したとみられる。
同管区をめぐっては、米国がアルカイダなど「テロリストの聖域」と指摘し、アフガニスタン側からミサイル攻撃を続ける一方、パキスタン民生支援の条件として米軍との共同軍事作戦などを強く求めていた。軍は作戦の着手でこうした圧力を回避する狙いもある。
ただ、同管区は12月から雪に閉ざされるため、戦闘の中断、長期化は必至とみられる。また、02年以降の掃討作戦が治安や経済を悪化させ続けており、武装勢力側が全国でテロ攻撃を増やすのは確実で、市民の犠牲拡大も予想される。

TTPは、タリバンによって司令官に任命されたベイトラ・メスード総司令官(8月に米軍のミサイル攻撃で死亡)が07年に設立。アルカイダから資金提供などを受ける一方、七つの部族地域の各武装勢力司令官や、08年11月のインド西部ムンバイ同時テロ事件の首謀組織とされるイスラム過激派「ラシュカレ・タイバ」とも協力関係を構築。タリバンによるアフガン駐留米軍などへの攻撃を全面支援してきた。
TTPの現在の指導者はベイトラ・メスード総司令官の元側近で、同じ部族出身のハキムラ・メスード氏。30歳代前半と若く、「ベイトラ氏の報復戦」を宣言。政府軍総司令部襲撃など10月に入って起きた7件のテロ攻撃を首謀した。

米国はパキスタンに同管区での軍事作戦を強く求める一方、南西部クエッタやその周辺に「タリバン最高指導者オマル師が潜伏している」とし、パキスタンのテロ対策が不十分だと批判している。【10月17日 毎日】
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【テロと難民 成功すれば転機】
パキスタン軍は04年と08年にも南ワジリスタン地区で軍事作戦に着手していますが、失敗に終わっています。武装勢力側の最近の相次ぐ軍・警察施設などに対するテロは、今回の掃討作戦の動きに対する反撃でもありました。攻撃開始で、報復テロが激化する可能性があり、パキスタン国内の治安がさらに悪化することが懸念されています。

また、8月以降、人口約60万人の南ワジリスタンから約9万人の民間人が避難しています。当局者によると避難民の数は2倍以上に増えるおそれがあるそうです。【10月18日 AFP】
こうした避難民増加による国内からの不満が高まることも予想されます。

毎日記事では“同管区は12月から雪に閉ざされるため、戦闘の中断、長期化は必至とみられる。”とありますが、上記AFP記事では、“地元のテレビ局は、軍は目的を達成するまで作戦を継続するとの軍報道官の発言を報じ、それには6~8週間かかるだろうとの見通しを伝えた。複数の軍幹部は速やかに作戦を進め、冬季の激しい降雪が始まるまでに作戦を終えたいとしている。”としています。
テロ増加による市民の犠牲者増加、国内避難民の増大・・・という圧力に耐えながら作戦を遂行できるかは、作戦に要する時間にもよります。

難しい作戦ですが、うまくいけばパキスタンだけでなく、アフガニスタンの情勢にも大きな影響を与えることになります。
泥沼化しつつあるアフガニスタン・パキスタン情勢にとって、ひとつの転機となりうる可能性がある掃討作戦でもあります。

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ジンバブエ  ツァンギライ首相 続くか、宿敵ムガベ大統領との奇妙な二人三脚

2009-10-17 22:09:56 | 国際情勢

(今年6月 イギリス・ブラウン首相と会談するジンバブエ・ツァンギライ首相 “flickr”より By Downing Street
http://www.flickr.com/photos/downingstreet/3650534392/)

【経済成長率 3.7%】
戦後最悪とも言われるハイパー・インフレーションによる経済崩壊、昨年のムガベ大統領と野党「民主変革運動」(MDC)のツァンギライ議長が争った大統領選挙をめぐる政治的混乱で、殆ど国家破綻状態だったアフリカ・ジンバブエですが、とにもかくにも2月にムガベ大統領とツァンギライ首相という“大連立”がなんとか成立しました。

9月12日には、ジンバブエを訪問したEUの代表団がムガベ大統領、ツァンギライ首相と個別に相次いで会談しました。ジンバブエに対する制裁を行っているEUがムガベ大統領と会談したのは7年ぶりです。
このあたりの話は、9月14日ブログ「ジンバブエ 大連立後の状況」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090914)で取り上げたところです。

EUはジンバブエが変わらない限り制裁解除は行わないことを明らかにしています。
“ツァンギライが大きな経済発展を実現させたのは確かだが、医療や教育事情の改善、そして食糧生産を向上させるような政治的改革を伴わない限り国際社会は動かない、という意思表示だ”【10月21日号 Newsweek日本版】

ムガベ大統領の強引な黒人化政策などによって生産基盤が崩壊し、驚異的なハイパー・インフレーションで破綻状態にあった経済は、ツァンギライ首相によるジンバブエ・ドルに代わる米ドルの導入もあって、かなり改善したようです。今年の経済成長率はプラス3.7%を記録しています。
ただ、一般市民生活はまだまだ厳しい状況が続いているようです。

****ジンバブエ:物価高と外貨不足で生活厳しく*****
新体制ができ8カ月たった首都ハラレでは、かつての緊張状態は薄れ、市民に安堵(あんど)感が広がっていたものの、物価高や外貨不足により、市民生活は依然厳しい状況が続いていた。
現地語で「眠らぬ街」を意味するハラレ。24時間スーパーが開店するなど、街に活気は戻り、夜の酒場で楽しむ市民も増えた。ムガベ大統領が批判するオバマ米大統領をプリントしたTシャツ姿の若者も見られたが政治問題を語ろうとする者は少ない。
果物や野菜を販売するイエゼオさん(28)は「安心して商売をできるのがうれしい。でも、売り上げは今ひとつ」と笑顔を見せた。月末の給与支払時期は、客も増えるという。

インフレーションが拡大しデノミネーション(通貨呼称単位の切り下げ)を繰り返した後の今年1月末、政府は商取引の外貨使用を全面的に解禁。現在、街中でジンバブエ・ドル札は乗り合いバスに使用されるのみで、50米セントが3兆ジンバブエ・ドルで換算されている。米ドル札のほか南アフリカ・ランド、ボツワナ・プラなどが使用されている。
だが、多くの商店は古い紙幣を受け取らず、コインは不足し、釣り銭の代用にガムやアメなどのお菓子、クーポン券などが配られている。
一方、穀物類などは流通されるようになり、「連立政権発足後は隣国などから商品が入り、状況は改善している」(スーパー店員の40代女性)と言う。しかし、砂糖2キロが2米ドル、パン1斤が1米ドルと、市民の経済状況に照らせば厳しい現状だ。
地方公務員のファビアンさん(37)の月給は基本給の約160米ドルのみ。妻と子ども2人と親族の5人での生活は困難を極める。「家賃が400米ドルでパンク状態だ。仕入れた家畜を売りさばくこともある。海外に住む親族からの送金をあてにしてきたが世界的な金融危機以降、回数が減りつつある」と話す。

ムガベ大統領は今月6日、欧米諸国と協力関係を築く準備があると発言。先月は7年ぶりに欧州連合(EU)代表団と会談し制裁解除を訴えた。欧米は02年以降、ムガベ氏の強権政治を受け経済制裁を発動させ、経済状況悪化にもつながっている。【10月16日 毎日】
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【「不誠実で信頼できない」】
厳しさは続いているものの、ハイパー・インフレーションが改善し、改善の機運も見えることにほっとしたのですが、そうした改善をふいにしかねない政治対立が伝えられています。

****ツァンギライ首相、ムガベ大統領陣営との連立を一時停止 ジンバブエ*****
ジンバブエのモーガン・ツァンギライ首相は16日、連立を組むロバート・ムガベ大統領率いるジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線(ZANU-PF)を「不誠実で信頼できない」として、協力関係を一時的に停止すると発表した。2月に発足した連立政権に最大の危機が訪れた。
事の発端は今週、今年2月13日の新政権発のわずか1時間前に拘束されていたツァンギライ首相の側近のロイ・ベネット氏の拘束期間が延長されたことだ。べネット氏はムガベ大統領の殺害を計画していたなどの容疑がかけられていた。
ベネット氏は16日に保釈されたが、19日に出廷する。ベネット氏が所属する民主変革運動(MDC)は、容疑はでっちあげだと主張している。
ツァンギライ首相は、この一件は連立政権の「信頼性と誠実さが作り物」だったことを明らかにしたと指摘し、政府にはとどまるものの「われわれの間に信用と尊敬が戻るまで、ZANU-PFとの連立を即時停止する」と述べた。【10月17日 AFP】
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権力をどうしても手放さないムガベ大統領の居座りと暴力への妥協の産物である大連立は、その出発時から権力分配で大変な難産でした。
いつ瓦解しても不思議ではない関係ですが、今後が懸念されます。

【「ゆっくりとだが、車輪は回り始めている」】
宿敵ムガベ大統領を担ぐ政権の応援団長という困難な立場にあるツァンギライ首相(00年議会選挙勝利を無視され、04年には反逆罪で起訴されます。07年3月にはムガベ派の暴漢に襲われ危うく殺されそうになったこともあります。
今年3月にはツァンギライも同乗する車の事故で妻を亡くしましたが、この事故に対する疑惑もあります。)の最近の情勢については、「ジンバブエ首相 終わらぬ戦い」【10月21日号 Newsweek日本版】で報じられています。

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“「自分の命を狙ってきた男と一緒に仕事をするなんて、考えられるかい?」とツァンギライは言う。想像し難いが、それが今の2人の関係だ。”

“ムガベとの協力関係も、ツァンギライはなんとか維持している。「過去数年間にムガベがしたことは決して許されないが、私たちは協力して仕事にあたることを決めた」「ゆっくりとだが、車輪は回り始めている」
2人は現在、毎週月曜日に会談を持っている。ツァンギライは少しずつ、ムガベの汚職や虐待の過去を含めたデリケートな問題にも触れ始めているが、ムガベは事実を認めたがらないという。
「私が正面から問題を突きつけても、彼は否定する。証拠を示そうとしても、ムガベは否定する」”

“長年敵対してきた独裁者に対して、ツァンギライが寛大すぎるという批判もある。カネや権力と引き換えに、彼は買収されたという噂も流れている。指導者ツァンギライへの幻滅を口にするMDC支持者もいる。”

“一方のムガベにとって、首相との共存関係は好都合のようだ。さすがのムガベも、これがおそらく自分の歴史的評価を変える最後のチャンスと承知している。国の再建を遅らせているのがムガベ派ZANU-PF内の強硬派であることも自覚しているらしい。
だが、独裁者が軟化したとしても、ZANU-PFに染み付いた汚職と縁故主義の悪弊は容易に消えるものではない。
ツァンギライと同僚たちは今も、ムガベ派の政府高官による不正を目の当たりにしている。それでもツァンギライは前向きな姿勢を保ち、「罰を与えることより、進展に報いることのほうが大事だ」と言う。”
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いささかツァンギライへの肩入れに過ぎる面もある記事ですが、ツァンギライ首相の置かれている状況がわかる記事です。
ツァンギライ首相の素っ気無い執務室には、ムガベ大統領の肖像画が飾ってあるそうです。

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アフガニスタン  イタリアのタリバンへの賄賂でフランス軍に犠牲者?

2009-10-16 23:31:06 | 国際情勢

(9月17日 イタリア軍兵士6名の犠牲を出した爆破現場 カブール “flickr”より By spoletocity
http://www.flickr.com/photos/spoletocity/3928854580/)

【タリバン側に数万ドルの「わいろ」】
インド洋での給油活動中止に伴って、今後のアフガニスタンへのかかわりをどうするのかが日本では大きな問題になっていますが、アメリカの増派問題のほか、欧州各国でもさまざまな問題が生じています。
欧州の場合、どの程度深入りするかは、国によっても異なりますが、イタリア・フランスは一応派兵していますが、イギリスのようには戦闘に加担する気はないような印象を持っています。そんな両国の話題。

****伊がタリバンに「わいろ」=交代の仏軍、治安状況誤認で被害-英紙****
15日付の英紙タイムズ(電子版)は、西側軍事筋の話として、アフガニスタンのサロビ地区にイタリア軍部隊が駐留していた2008年7月までの間、同国情報機関員が部隊の安全確保を目的に、イスラム原理主義勢力タリバン側に数万ドルの「わいろ」を渡していたと報じた。
首都カブール東方65キロのサロビ地区の治安担当はフランス軍部隊に交代したが、同年8月、仏兵10人がタリバンの攻撃を受けて死亡した。イタリア軍はそれまで死者1人を出しただけだったため、仏軍は情勢が比較的落ち着いていると誤認。パトロールの際、十分な警戒と装備を怠っていたという。
わいろを贈った疑惑は、米情報当局による電話傍受により発覚。北大西洋条約機構(NATO)軍幹部は「地元勢力を買収したことを同盟国に知らせないのはおかしい」と批判している。
AFP通信によると、この報道について伊首相官邸は声明を出し、「ベルルスコーニ政権がタリバンへの金銭支払いを承認したことは一度もない」と強く否定した。【10月15日 時事】
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タリバンと戦う代わりに賄賂を贈っていたというのは・・・・。
「地元勢力を買収した」と言えば、きこえはよくなります。
首相官邸声明にもかかわらず、「イタリア・ベルルスコーニ政権なら、そんなこともあるだろうな・・・」と思ってしまいます。日頃の行いというか国民性のせいでしょうか。

【「フランスは対テロ、自由と民主主義のための戦いで責任を果たす」】
08年8月の戦闘は、アフガニスタンの首都カブール郊外で18日から19日にかけ、パトロール中の国際治安支援部隊(ISAF)のフランス軍部隊が待ち伏せ攻撃を受けて戦闘となり、フランス兵10人が死亡、21人が負傷したものです。北大西洋条約機構(NATO)が率いるISAFのアフガン展開後、1回の戦闘では最悪の外国兵士の犠牲者数となりました。

事件を受けて、フランスでは当時、野党の「戦争の目的は何か。そのために何人の兵士が必要なのか。01年からこれまでに何が得られたのか。」(社会党のオランド第1書記)「兵士らは米国が自国のために行う終わりのない戦争のために死んだのだ」(極右・国民戦線のルペン党首)という批判に、サルコジ大統領は「仏部隊は大きな打撃を受けたが、フランスは対テロ、自由と民主主義のための戦いで責任を果たす。私の決意は変わらない」と述べ、派兵継続に変更のないことを表明しています。【08年8月20日 毎日より】
しかし、そもそもがイタリア部隊の賄賂が発端だったとなると、どうでしょうか・・・。

なお、この戦闘に関して、仏ルモンド紙は当時、戦闘で負傷した複数の仏軍兵士の話として、NATOによる誤爆とISAFの支援を行っていたアフガニスタン軍からの誤射があったと報じています。
フランス国防相も、NATO側・アメリカ国防総省も、この報道を否定していますが、イタリア部隊が賄賂を隠していたことが原因で、しかも友軍の誤爆で犠牲者が出た・・・となると踏んだり蹴ったりです。

【「早期撤退が最良の選択だ」】
イタリアのために付け加えれば、2800名の兵士を派兵しているイタリアもアフガニスタンでは大きな犠牲を払っています。
先月17日には、首都カブールで起きた自爆攻撃でパラシュート部隊6人が死亡、4人が負傷しています。
今回の犠牲で、イタリア軍のアフガニスタンでの死者は計20人に達し、ベルルスコーニ首相は「早期撤退が最良の選択だ」と述べています。

***伊首相:アフガン撤退を示唆 爆破攻撃で6人死亡受け****
アフガニスタンの首都カブールで17日に起きた爆破攻撃でイタリアのパラシュート部隊6人が死亡、4人が負傷したのを受け、ベルルスコーニ首相はこのほど、「早期撤退が最良の選択だ」と述べた。イタリアは約2800人を派兵しているが、今回の犠牲でアフガンでの死者は計20人に達した。米国の増派要請に積極的だったイタリアだが、今後、撤退論に傾きそうな情勢だ。

イタリアの国営放送によると、首相は17日、撤退を語る一方、「国際問題であり他国との合意をすぐに覆せない」と即断を避けた。
即時撤退は無理でも「クリスマスまでの撤退を望む」と言う与党最右派、北部同盟書記長のボッシ改革担当相らの声が支持され始めている。ただし、対米関係を重んじるフラティニ外相は残留を主張しており、閣内でも議論が割れそうだ。【9月19日 毎日】
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【「公平に負担すべきだ」】
一方、アメリカに次ぐ9000人を派兵しているイギリス・ブラウン首相は増派を発表しています。

****英軍、アフガニスタンへ500人増派 9500人規模に*****
バラク・オバマ米大統領が閣僚らと、アフガニスタン戦略の見直しに関する会合を開く中、ゴードン・ブラウン英首相は14日、アフガニスタンに兵士500人を増派すると発表した。
ブラウン首相は、危険度が増し、世論の評価をさらに得にくくなっているアフガニスタンへの軍派遣について、北大西洋条約機構(NATO)同盟国にも「公平に負担すべきだ」と求め、アフガニスタン政府には兵力と腐敗対策を強化するよう圧力をかけた。
英下院に対しブラウン首相は、新たに設定する派遣規模は原則9500人程度とすることで、政府内で合意したと報告した。英国防省によると、現在からの増員数は500人となる。
ブラウン首相は増派の条件として、アフガニスタン政府自身が戦闘訓練を受けられる警官や兵士を提供し、責任を果たす姿勢を見せること、英軍が適切な装備をもてること、ほかのNATO加盟国も派遣規模を拡大することの3点を挙げた。
英軍のアフガニスタンへの現在の派遣規模は9000人で、米国に次ぐ。2001年の米軍によるアフガニスタン攻撃以来、これまでに英軍兵士221人が死亡している。【10月15日 AFP】
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“ほかのNATO加盟国も派遣規模を拡大すること”というのは、なかなか実現困難な条件です。

【アフガン政府の汚職体質が改善されない限り・・・・】
焦点であるアメリカの増派については、アメリカの国民世論からすると厳しい情勢です。

****アフガンへの増派は最大8万人も 米司令官、汚職が壁と結論*****
アフガニスタンの駐留米軍トップのマクリスタル国際治安支援部隊司令官が、オバマ大統領への提言で、米軍の追加増派規模について、自身が支持する4万人の倍に当たる最大8万人を選択肢の一つとして示していたことが13日分かった。AP通信が報じた。司令官はさらに、増派したとしても、アフガン政府の汚職体質が改善されない限り、情勢好転は望めない可能性があると結論付けた。【10月14日 共同】
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マクリスタル国際治安支援部隊司令官も言っているように、今のカルザイ政権の汚職体質ではいくらつぎ込んでも・・・というところですが、その大統領選挙について、決選投票をやる方向との記事もありました。

****決選投票の可能性高い=アフガン大統領選-駐米大使****
アフガニスタンのジャワド駐米大使は15日、ワシントン市内での講演で、大統領選挙の決選投票が行われる可能性が高いと言明した。実施された場合、カルザイ大統領と2位のアブドラ前外相との間で行われる。アフガン政府関係者が決選投票の可能性に言及したのは初めて。
同大使は、大統領選をめぐる混乱を早期に収拾する必要があり、できれば1カ月以内に決選投票を実施することが望ましいとした上で、「すべての関係当事者が(早期実施に向け)努力すべきだ」と訴えた。【10月16日 時事】
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本当にできるのでしょうか?
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ロシア  くし焼肉店名称騒動は、“双頭政権の対立表面化”か?

2009-10-15 21:26:24 | 国際情勢

(プーチン指導部を崇拝する官製青少年団体「ナーシ」の面々 白いコートがトレードマークのようですが、このコートの背には“president’ messennger”という趣旨の言葉が書かれているとか。
ただ、メドベージェフ大統領に代わった今もそうなのかどうかは知りません。
“flickr”より By Lyalka
http://www.flickr.com/photos/leilat/434802013/

【“真実を恐れ、ソ連の過去にしがみついている”】
モスクワの「アンチ(反)・ソビエト」という名前のくし焼肉店をめぐって、ロシアではちょっとした騒動が起きています。
単に店の名前の問題にとどまらず、言論の自由のあり方、プーチン首相を信奉する青年組織「ナーシ」の問題、ひいては政権内のリベラル派と保守派の対立にまで話は及んでいます。

****赤の広場 反ソくし焼き肉店?*****
モスクワ北部で今年夏に開業したくし焼き肉店「アンチ(反)・ソビエト」がとんだ騒動になった。
モスクワの行政区が9月半ば、店名を「不快」とする一部退役軍人の要請を受け、看板を掛け替えさせたのが発端だった。さるジャーナリストがネット記事で当局と元軍人らを批判したところ、プーチン指導部を崇拝する官製青少年団体「ナーシ」が連日、ジャーナリストの自宅前で過激な抗議行動に出ているのだ。

くだんのジャーナリストは店名変更を迫った退役軍人らについて「(血塗られた)ソ連権力を護持したあなた方のような元軍人が今、真実を恐れ、ソ連の過去にしがみついている。人知れずソ連体制との闘いに身を捧(ささ)げた“退役軍人”がいることも忘れてはならない」と記した。
これに対し、官製青少年団体は「退役軍人の侮辱は許されない。刑法の侮辱罪で訴え、公式謝罪を求める」「歴史を書き換える者には街頭行動が一番効く」と息巻く。ジャーナリストは身の危険を感じ、潜伏生活を余儀なくされている。

実は、ソ連時代にも同じ場所にくし焼き肉屋があり、ここに集った反体制派知識人らは密かに「反ソビエト」と称した。店の向かい側にホテル「ソビエト」があることにも引っかけた呼び名だった。そのソ連当時の店内を“再現”したのが冒頭の店だ。むしろソ連時代を回顧する趣向で、実際は「反ソビエト的」ですらないのだが。【10月14日 産経】
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【大統領直属評議会 VS 与党「統一ロシア」】
上記産経記事だけでは、トピックス的な話題にすぎませんが、人権などに関するメドベージェフ大統領直属の評議会、プーチン首相率いる与党「統一ロシア」も絡んでくると、話が大きくなってきます。

****愛国派団体が記者を『脅迫』 ロシア政権内で賛否めぐり論争*****
ロシアで、退役軍人会を批判したジャーナリストに対して愛国派団体が脅迫まがいの圧力を加えたとされる騒ぎがあり、政権内で団体の行為をめぐる賛否真っ二つの論争が起きている。「言論の自由」の確立を訴えてきたメドベージェフ大統領は今のところ、自身の立場を明らかにしておらず、事態は混乱の度を増している。
発端はモスクワで先月、店名に「反ソビエト」と付けた食堂に退役軍人会が改名を要求したこと。
「(軍人会の)おつむはスターリン主義のまま」と論評した記者に対し、愛国派の青年団体「ナーシ」が猛反発。記者の自宅前で連日、抗議集会を開く騒ぎに発展した。ネット上に家族の写真まで掲載された記者は「脅迫行為があった」などとして身を隠した。

クレムリン(大統領府)人権会議のパンフィーロワ委員長が五日、言論の自由を理由に団体を非難する声明を出したところ、与党「統一ロシア」などから「ナーシにも抗議の自由がある」と異論が噴出。インタファクス通信によると、同委員長が七日、検察当局にナーシへの刑事捜査を求める意向を示したのに対し与党内から大統領に委員長解任を求める動きがあり対立はエスカレートしている。
ロシアでは、経済危機からソ連時代を肯定する民族強硬派が勢力を増しており、八日付の英字紙モスクワ・タイムズは「大統領は政権をコントロールできていない」との人権活動家の声を伝えた。【10月9日 東京新聞】
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上記東京新聞記事では“「言論の自由」の確立を訴えてきたメドベージェフ大統領は今のところ、自身の立場を明らかにしておらず”とありますが、「クレムリン(大統領府)人権会議」は大統領直属の評議会で、地元紙では“大統領も(パンフィーロワ委員長の)声明に同意したとみられ”と報じられています。【10月12日 宮崎日日】

メドベージェフ大統領直属評議会の委員長が、プーチン首相側近が創設にかかわった「ナーシ」を批判、一方、プーチン首相率いる与党「統一ロシア」は「ナーシ」を擁護して、パンフィーロワ委員長の更迭を求める・・・という構図になっています。
上記の地元紙「宮崎日日新聞」では、記事の見出しは“双頭政権の対立表面化”と、非常に仰々しいものになっています。

そこまでの問題かどうか・・・最近次期大統領選挙への出馬をめぐって、メドベージェフ大統領とプーチン首相の間に微妙な空気があるような報道もされており、そうした流れと重ねると上記見出しのようなことになるのでしょう。
ただ、“双頭政権の対立”というのは、ロシア国外の欧米メディアが“期待”しているものであるため扱いも大きくなりますが、どれだけロシア政権内部に実際存在するのかは全くわかりません。
メドベージェフ大統領がプーチン首相とは異なる独自色を出したいと考えていたとしても、それを実行できる政治権力基盤があるのか・・・・。

また、仮にメドベージェフ大統領が比較的リベラルな考えの持ち主だったとしても、それをストレートに出すことは政治的に危険でもあり、むしろ保守派からの批判を避けるため、ことさらに強気な外交姿勢を見せるということも考えられます。

【地域の(限定的な)戦争でも核先制使用】
ロシアのパトルシェフ安全保障会議書記は、年内にメドベージェフ大統領に提出する新軍事ドクトリンでは、核兵器による先制攻撃を行う条件として地域紛争への対応を新たに加える方針を明らかにしています。
核廃絶を求める国際的な流れに逆行する核を使用する条件を緩和するもので、南オセチア問題で敵対するグルジアなどに対し、軍事的な圧力を高める狙いと見られています。

****ロシア:核兵器先制使用の条件緩和を検討*****
ロシアの安保政策を策定する安全保障会議のパトルシェフ事務局長は、14日付のイズベスチヤ紙に掲載されたインタビューの中で、年末までに策定を目指す新たな軍事ドクトリンで核兵器による先制予防攻撃の条件緩和を検討していることを明らかにした。オバマ米大統領が「核なき世界」を提唱したことで盛り上がりを見せている核軍縮の機運に逆行する可能性があり、今後議論を呼びそうだ。

軍事ドクトリンは軍事戦略の指針となる文書。00年に改訂した現行ドクトリンは、ロシアや同盟国が通常兵器で「大規模攻撃」を受けた場合、核兵器の先制使用の可能性を盛り込んでいる。
パトルシェフ氏は同紙に、新ドクトリンは「大規模攻撃だけでなく地域の(限定的な)戦争」も対象に含めるとし、「情勢や敵の意向に応じて核兵器を使用する可能性の選択肢を検討している」と述べた。新ドクトリンは年内にメドベージェフ大統領に提出される見通し。

メドベージェフ大統領は8月、昨年のグルジア紛争を念頭に、国外での軍事力行使の条件を緩和する国防法改正案を下院に提出。改正案はロシアだけでなく、周辺同盟国の脅威に対しても軍事力が行使できると規定している。今回の軍事ドクトリン見直しもグルジアなど近隣の地域紛争を念頭に置いている可能性がある。
ロシアは5月に公表した「2020年までの国家安全保障戦略」で、長期的には国際的な核廃絶への道も視野に入れつつ、中期的には核戦力を維持する方針を明記している。【10月14日 毎日】
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ロシアでは「統一地方選」が11日に実施され、プーチン首相が党首を務める与党「統一ロシア」がモスクワ市議会選をはじめとして軒並み勝利しています。
野党側は大規模な選挙違反を指摘していますが、大勢には影響しない見通しです。

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パキスタン  テロが生む核管理への不安と、支援法が求めるアメリカの核管理介入

2009-10-14 22:38:35 | 国際情勢

(パキスタンで拘束された自爆テロ犯 14歳 “flickr”より By Doug20022
http://www.flickr.com/photos/isle_of_paradise/3681927625/)

【テロ地獄】
パキスタン・ザルダリ政権が非常に困難な状況にあること・・・アフガニスタンと国境を接するパキスタン北西部部族地域でのイスラム原理主義反政府武装勢力の活動、それを抑え込むようにとのアメリカの圧力とミサイル攻撃、そんなアメリカへの国民の反発、国内政治的にはシャリフ元首相らの野党勢力の影響力拡大、大統領の法的正当性を司法権力が否定する可能性・・・については再三このブログでも取り上げてきました。
むしろ、これだけ厳しい状況でザルダリ政権がよく続いているものだと感心するぐらいです。

今月はじめ、パキスタン国軍がタリバン勢力一掃に向けて大規模な作戦に出ることが報じられました。
****タリバン掃討へ兵2万8千人展開 パキスタン軍****
ロイター通信は4日、複数の米国防総省当局者などの話として、パキスタン軍がアフガニスタンの反政府武装勢力タリバンに対する地上掃討作戦のため、アフガンと国境を接するパキスタン北西部部族地域の南ワジリスタン地区に2万8千人規模の兵力を展開したと報じた。タリバンや国際テロ組織アルカイダの幹部らの潜伏先とされる「隠れ家」の一掃が狙い。【10月5日 共同】
************************

しかし、そうした軍事的緊張の高まりのせいか、今月に入って反政府武装勢力による大規模なテロが目立っています。

10月5日、首都イスラマバードにある世界食糧計画(WFP)の事務所で爆発が起き、イラク人職員1人とパキスタン人職員3人の計4人が死亡、7人が負傷。武装勢力は、かねて国連が政府軍の掃討作戦を後方支援していると非難していました。事件後、イスラマバードにあるすべての国連事務所は安全のため閉鎖されました。

10月9日、北西部ペシャワルの市民らでにぎわう市場で、自爆攻撃による大規模な爆発があり、少なくとも49人が死亡したほか、100人以上の負傷者が出ました。

10月10日、首都近郊ラワルピンディの軍司令部内の建物を武装集団が襲撃し、兵士を人質に立てこもる事件が発生。パキスタン軍特殊部隊は11日早朝、この建物に突入、人質42人(報道によって数字には差があります)を解放しました。AP通信によると、この事件で人質3人と武装集団8人を含む少なくとも19人が死亡。軍は武装集団のリーダー格1人を拘束したとされています。
拘束されたのは、10年以上前にパキスタン軍に在籍したモハマド・アキール司令官(通称ドクター・ウスマン)とも報じられています。【10月11日 毎日】

10月12日、北西辺境州シャングラ地区で政府軍の車列を狙った自爆攻撃があり、少なくとも41人が死亡、50人以上が負傷。死者の大半が通行中の市民でした。同地区西側のスワート地区を拠点に政府軍と戦闘を続ける武装勢力の犯行とみられ、自爆犯は10代前半の少年とみられています。【10月13日 毎日】

【核管理能力への疑念】
5日以降、上記4件のテロ事件が発生し、計約120人が死亡するという事態になっています。
特に、10日の事件は
“国の治安を守るべき軍が、足元の警備さえ十全にできていなかったことを露呈した。パキスタンでは軍が核兵器を管理しており、「核流出」に対する国際社会の懸念をさらに強めることになりそうだ。”【10月12日 産経】、
“1947年の建国以来、国の屋台骨を自任する軍の中枢が襲撃されたのは初めてで、国内には大きな衝撃が走っている。核兵器を管理する軍の本拠地が襲撃されたことで、核管理能力を疑問視する声が国際社会で再燃するのも避けられそうにない。”【10月12日 読売】
と、パキスタンの核管理能力への不安という文脈で論じられています。

【核政策へのアメリカの介入を求める支援法】
一方、パキスタンの核管理に関して、もうひとつの問題が浮上しています。
アメリカ上院が9月に可決したパキスタンへの非軍事支援法案を巡って、パキスタン政府と軍部や野党勢力が対立を深めているとのことです。
支援法は年15億ドルを5年にわたって提供する条件として、核政策へのアメリカの介入や武装勢力掃討の共同作戦などを求めています。この支援法を歓迎したパキスタン政府に対し、国軍などは「主権侵害」と批判しており、アメリカが強化を求めている掃討作戦に影響を及ぼすほか、政治混乱も誘発する恐れがあります。

****<パキスタン>米の非軍事支援法案巡り政府と軍部などが対立****
支援法は、アフガニスタン新包括戦略の一環として、パキスタンの民生支援を打ち出したオバマ米大統領の意向を受け、米上院外交委員会のケリー委員長(民主党)とルーガー委員(共和党)が5月に共同提案した。
9月24日に米上院で可決され、同日の国連総会中に開かれたパキスタン支援国会合でオバマ氏が発表し、日本を含む各国が拍手で歓迎。パキスタン政府も満足感を表明した。

ところが、最近になって、支援条件の内容をパキスタン各紙が相次いで報道。
▽核兵器関連材料の調達ネットワークの米側への明示と解体
▽米軍との共同軍事作戦
▽軍部が政治や司法に介入していないことの証明--などが判明した。
これに対し、軍部に太いパイプを持つ野党「イスラム教徒連盟クアイディアザム派」や最大野党「イスラム教徒連盟ナワズ・シャリフ派」などが、「核の主権放棄につながる」と批判。キヤニ陸軍参謀長が7日、ギラニ首相と会い「支援法はパキスタンの国力を低下させる」と訴える騒ぎに発展した。

現ザルダリ政権を率いる人民党は、支援法が民主化を推進するとの立場を堅持する。軍部の政治介入を排除し、政府の管理下に置きたいとの思惑があるためだ。
軍部の政治介入が常態化したのは、人民党創設者のアリ・ブット元首相(07年に暗殺されたベナジル・ブット元首相の父)がハク軍事政権により、79年4月に処刑されたのが始まりだった。
このため、人民党の軍部へのうらみは根深く、党内には支援法を機会に、核政策への影響力も持つ軍部の力をそぐ狙いがある。一方、米国は、オバマ大統領の核軍縮計画を促進するため、パキスタンの核をガラス張りにしたいとの思惑などがあるとみられる。
支援法はオバマ大統領の署名で発効するが、パキスタン議会が拒否すれば、実際の施行は困難となる。【10月8日 毎日】
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【アメリカがアフガニスタンにこだわる理由】
国軍・野党の反対を受けて、ザルダリ大統領は12日、法案の見直しを求めるためクレシ外相をアメリカに派遣しました。しかし、パキスタン政府は法案を一度は歓迎しており、アメリカ側が難色を示すのは確実とみられています。
今後、支援法案が暗礁に乗り上げれば、アフガニスタンとパキスタンの安定化をセットで考えているオバマ米政権の新戦略は、根底から見直しを迫られることになるとも。
なお、“クレシ外相は12日、パキスタンを訪問した岡田克也外相と会談した際、支援法案が「内政干渉に当たる可能性」を指摘。日本は米国のパキスタン支援を後押ししているだけに、岡田外相は「米国がこれだけカネを出すということは支援に本気である証拠」と述べ、対話による解決を求めた。”【10月13日 毎日】とのことです。

10日の軍司令部襲撃事件がもたらした核管理能力への不安と、核兵器関連材料の調達ネットワークのアメリカ側への明示と解体を求める支援法が、どのようにリンクしていくのでしょうか。
小説・映画の世界なら、国軍の核管理への関わりを低下させるために、10日の軍司令部襲撃事件の背後では人民党政権やアメリカ情報機関が関与している・・・なんて話もあるところですが・・・。
それはさておき、拘束された反政府勢力指導者が元軍司令官というのは、かねてより言われている、軍とタリバン・反政府勢力とのつながりを窺わせます。
そのことも、パキスタンの軍による核管理に疑念を抱かせる要因のひとつです。

アメリカが泥沼化するアフガニスタンから手を引けない最終的理由は、アフガニスタンでのタリバン政権復活が隣国パキスタンを不安定化させ、その核管理において重大な問題、最悪の場合、核がアルカイダなどテロ勢力側にわたる危険が生じる・・・という点にあるとも言われています。
したがって、支援法が求める核管理へのアメリカの介入は、アメリカとって重大な関心事です。

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無人航空機が主流となる米空軍  将来はターミネーターの世界も

2009-10-13 22:12:18 | 世相

(無人航空機“Reaper” “flickr”より By BWJones
http://www.flickr.com/photos/bwjones/2285449366/)

【増える無人航空機】
現在、戦場では無人航空機が活躍していることは周知のところです。
ロボット兵器みたいなものが開発されていることもときおり耳にします。
ですから、下記の記事は特段の目新しさはありません。

****未来の戦場は無人機だらけ?******
いま最もホットな武器は無人航空機だろう。人間を乗せずに衛星通信で操作する無人機は国防費の予算削減のあおりを受けず、逆に各国に広まりつつある。アメリカ以外にイギリス、カナダ、トルコ、スウェーデン、ロシアが導入、あるいはテストしている。
偵察用だけでなくミサイルを搭載したものもあり、米軍によるアフガニスタンとパキスタンでの無人機の使用は過去2年間で約2倍になった。人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は6月30日、イスラエル軍が昨冬 のガザ地区攻撃で、無人機を使って市民29人を殺害したと非難した。

無人機は長い目で見れば民間人の犠牲を減らせる可能性もある。HRWの報告書は無人機を「(イスラエルの)最も正確な武器」の1つと呼ぶ。ピンポイントでミサイルを撃ち込めるので、巻き添えになる市民を減らせるというのだ。
「将来的には米軍機はすべて無人になるだろう」と、HRWの報告書を書いた国防総省出身のマーク・ガラスコは言う。「軍にとって多くの利点がある」
最終目標は人間が無人機を遠隔操作せず、プログラムによって攻撃させることだとガラスコは言う。03年のイラク戦争ではこうした爆弾が戦車に対して使われた。
今のところ、ミサイル発射というつらい決断は人間が下している。だが無人機が暴走したら誰が責任を担うのか。プログラマーか、計画を承認した議員か。それともほかの誰かなのだろうか。【7月15日 Newsweek】
***************

【F22からUAVへ】
目新しくはありませんが、上記記事が指摘している現象を想起させる記事をふたつ目にしました。
ひとつは、「将来的には米軍機はすべて無人になるだろう」という部分に関係しますが、実際、アメリカ空軍では有人戦闘機から無人航空機(UAV)への急速なシフトが起きているそうで、そのあたりを紹介しているのが「さらば栄光のトップガン」(10月14日 Newsweek)です。

アメリカ空軍はステルス戦闘機F22ラプターを新たに20機導入するための40億ドルの予算を強く求めていましたが、7月17日上院はF22導入中止を決定しました。オバマ大統領はもし議会が導入を決定した場合拒否権を行使することを明らかにしていましたが、そこまでいたらず中止が決定されました。

F22戦闘機は日本も次期主力戦闘機として希望していた機種で、この生産中止は日本の防衛計画にも影響するものとして話題になりました。
この件は、F22生産に要する巨額の費用と財政赤字の観点から論じられることが多いのですが、そもそもF22は冷戦の時代に開発が決まったもので、ソ連の戦闘機との空中戦を想定していましたが、現在のイラクやアフガニスタン・パキスタンでの戦闘は当時想定したものとはまったく変わってきており、その役割が時代の要求にあわなくなってきているという問題があります。

イラクでも、アフガニスタンでも、F22が爆撃すべき戦略拠点は殆どなく、空中で追跡・撃墜すべき敵機もありません。(実際、どちらにもF22は投入されていません。)
両戦場における空軍の役割は、物資の空輸や地上部隊が敵を発見・攻撃するのを手助けすることにあり、そうした地上部隊支援で主流になってきているのが無人航空機UAVです。

これまで、アメリカ空軍参謀長は1947年~82年の10人は爆撃機か戦闘機のパイロット出身、82年~08年の9人はすべて戦闘機パイロット出身だったそうです。
パイロット出身の空軍幹部にはUAVへの抵抗感が強く、ゲーツ国防長官は空軍のUAVへのシフトについて苦労していたそうですが、08年6月のそれまでの空軍参謀長を不祥事(爆撃機が核爆弾を搭載したままアメリカ国土上空を飛行していたなど)の責任をとらせる形で更迭し、代わりに現在のシュワーツ空軍参謀長を任命しました。
彼は、戦闘機にも爆撃機にも乗っておらず、彼が操縦していたのはC130輸送機でした。
この人事にも、空軍の役割を輸送・地上部隊支援にシフトさせようとする政権の意図が表れています。

09年に空軍で訓練を受ける要員は、爆撃機や戦闘機のパイロットよりUAV操縦士のほうが多いとか。
「空軍の活動の中心に身をおきたければ、この職種を選択するべきだ」(シュワーツ空軍参謀長)
なお、ロシアや中国との有事の際の戦闘機としては、F22より小型で安価な開発中のF35で十分だそうです。

以上が「さらば栄光のトップガン」(10月14日 Newsweek)の要旨ですが、空軍のエリートは戦闘機パイロットからUAV操縦士に代わりつつあるようです。ゲーム機で育った現代若者にはうってつけのようにも思えます。

【UAV制御不能】
もうひとつ、冒頭記事のなかの「無人機が暴走したら誰が責任を担うのか」という部分にかんするもので、笑えると言うべきか、怖いというべきか、興味深い情報がありました。

****ロボット戦闘機が制御不能で暴れだしたら?****
すでに前線で実戦配備中という米空軍のUAV(無人機)の最新鋭機「MQ-9 Reaper」なんですけど、このほどアフガニスタン上空で原因不明の制御不能状態に陥ってしまい、緊急発進した仲間の有人戦闘機によって打ち落とされねばならない悲劇を招いてしまいましたよ。
「急いで撃墜せねばならない非常事態ではあったものの、幸い墜落した山中は人里離れた場所で、民間人や民間施設などの被害は一切なかったことを報告する」
そう慌てて公式声明が出されてはいるのですが、詳しい状況説明はなされることなく、真実は霧の中に包まれている感じなんだとか。こういうUAVには、かなりの安全装置なども備わっていて、たとえ制御不能になってしまっても、他に何ら危害を加えることなく基地まで戻ってくるような設定が組み込まれているはずなんですけど、どういうわけか機能せず、しかも最後の選択肢ともいうべき、自軍の戦闘機で大急ぎで撃墜して葬り去らねばならない事態って、一体どんな狂いぶりだったんでしょうね?

ちなみに、そんなに大きなニュースにはなってませんけど、実はこの1カ月ほどで、他のUAV「MQ-1 Predator」なんかも、敵軍に打ち落とされるわけでなく、次々と意味不明の墜落事故に世界各地で見舞われているなんて報告まであり、なにやら不気味な様相を呈してきております。もしやターミネーター?【9月30日 ギズモード・ジャパン】
************************

【サイバースペースの戦争】
ついでに、こんな記事も。
****次の世界大戦はサイバースペースで起きる危険性、ITU事務総局長が警告****
次の世界大戦はサイバースペースで起きるかもしれない――国連の専門機関、国際電気通信連合(ITU)のハマドゥーン・トゥレ事務総局長は6日、警鐘を鳴らした。
トゥレ事務総局長はスイスのジュネーブで開催されているITU主催の通信見本市「テレコムワールド2009」で演説し、専門家らがサイバー攻撃撲滅を訴えるなか「次の世界大戦はサイバースペースで起きるかもしれない」と警告した。トゥレ氏は、仮にそのような事態となれば「大惨事になるだろう」と指摘し、「(サイバースペースでの戦争においては)超大国などというものが存在しないことを各国に理解してほしい」と強調した。(後略)【10月7日 AFP】
******************

冒頭記事で「最終目標は人間が無人機を遠隔操作せず、プログラムによって攻撃させることだ」とありますが、サイバースペースでの戦争というになると、コンピュータ管理下の無人航空機やロボット兵器が自軍や民間人を攻撃し始める・・・なんてことも、あながち妄想の世界の話ではなくなります。
まさに、ターミネーターの世界です。 
核兵器はテロリストの手に渡り、ロボット兵器は自国民を攻撃し始める・・・そんなこともあるかも。
コメント (2)
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イスラムの国で エジプトのニカブ イランの未成年者犯罪処刑

2009-10-12 18:13:11 | 世相

(カイロで ニカブも必ずしも黒一色ではないようで “flickr”より By pixelwhippersnapper
http://www.flickr.com/photos/megascope/405187098/

【増加する「ニカブ」】
イスラム女性の服装の問題は、フランスなど非イスラム教国におけるムスリム女性のスカーフやニカブの着用、イスラム教国における西欧的な服装などで、しばしば政治・社会問題化します。
このブログでも何回か取り上げている問題でもあります。
(8月16日ブログ「イスラム社会との軋轢 「ブルカ」に「ブルキニ」、そして「ズボン」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090816

今日はイスラム教国内における「ニカブ」(頭から足の先まで真っ黒な衣で覆い“銃眼”のように目だけを出した衣装)の話題。
もっとも、イスラム教国とは言っても、コプト教徒など非イスラム教徒も15%ほど存在し、宗教政党が禁止されている世俗的なエジプトでの話ですが。

****原理主義的?「顔まで覆う女性」にエジプト当局が危機感*****
エジプトではイスラム教徒の女性たちはたいてい、髪の毛を隠すヒジャブを身につけている。ところが最近、首都カイロでは、顔をすっぽり覆う「ニカブ」まで付けている女性の姿が目立つようになってきた。黒い手袋をはめている女性もいる。原理主義の台頭を避けたい政府にとっては心配の種だ。

この問題は今週、イスラム教スンニ派の最高学府であるアズハル大学のムハンマド・タンタウィ総長が傘下の高校を訪問した際、ある女子生徒にニカブをとるように言ったと報じられたことがきっかけで大きな注目を集めるようになった。エジプト最高の宗教的権威であるタンタウィ総長は、アズハル大学でのニカブの着用を禁止する方針を示したともされる。
宗教財産省は、ニカブの着用は非イスラム的と説明するパンフレットを配布している。一方で保健省は、女性の医師や看護師のニカブ着用を禁止したいと考えている。

■ニカブを着用した学生に対する教育現場の反応
国立のカイロ大学の寮でのニカブ着用も禁止されたとの報道があるが、大学側はこれを否定している。
あるガードマンは、教育省からの命令であることをほのめかしたが、同省スポークスマンは「禁止令のようなものは一切出していない」と否定。「去年、ニカブを着用した数人の男が寮に侵入して逮捕された事件があったので、ニカブを着けた学生は身元確認のためにニカブをとってほしいということだ」と付け加えた。
同国の人権監視団体「Egyptian Initiative for Personal Rights」のホッサム・バーガト氏は、「反体制的思想を持つ学生、特に(非合法ながら事実上の最大野党となっている)イスラム原理主義組織のムスリム同胞団に近い学生は、寮に住むことが禁じられる傾向にある」と話す。もっとも、選挙を通じてイスラム体制の実現を目指しているムスリム同胞団は、ニカブとはあまり関係がない。
ニカブを支持する人々は、「これを着用した女性は神により近づくことができる」、「自分の服を選ぶ権利は認められるべき」と主張している。

■ニカブとサラフィズム
ニカブは、中東では、一般的にサラフィズムの信仰と結びついている。サラフィズムとは主にサウジアラビアで信奉されている超保守的な信仰上の考え方。アルカイダ指導者ウサマ・ビンラディン容疑者のイデオロギーとの共通点も多いが、現実には信者の大半が政治とは距離をおき、初期イスラム教の実践と信仰を遵守するピューリタン的信念を流布することに重点を置いている。
専門家らは、ニカブを着用する傾向は、政府のみならずアズハル大学にとっても懸念材料だと指摘する。

エジプト政府は1981年のアンワル・サダト大統領の暗殺以来、原理主義勢力との大規模な武力衝突をたびたび繰り返している。そして、サラフィズム信者の多くは、アズハル大学が教えている神学の内容を軽べつしている。【10月10日 AFP】
*********************

記事では“選挙を通じてイスラム体制の実現を目指しているムスリム同胞団は、ニカブとはあまり関係がない”としていますが、どうでしょうか。背景には共通したものがあるように思えます。

イスラム原理主義組織のなかでは比較的穏健とされるムスリム同胞団は、そこから排除された少数過激派(サダト大統領を暗殺したジハード団、ルクソール事件を起こしたイスラム集団など)を生んできています。
また、パレスチナのハマスもムスリム同胞団から派生した組織です。

宗教政党が非合法化されているエジプトでは、ムスリム同胞団は無所属の形で選挙に臨んでいますが、2005年の選挙の際にはアメリカの民主化要求に沿う形で、ムバラク政権はムスリム同胞団への積極的弾圧を行わなかったと言われています。その結果ムスリム同胞団系勢力は、民選の444議席中88議席を獲得し、大躍進する結果となりました。【ウィキペディアより】

こうしたムスリム同胞団の勢力拡大も、記事にあるような「ニカブ」の自主的着用の増大も、基本的には社会の宗教的保守化傾向を示すものと思えます。こうした動きは、国内における世俗政権の政策結果への不満、国際的に見た場合のイスラム教徒が置かれている状況への不満から出てくるのでしょう。
そして、世界同時不況などの経済的困窮は、こうした傾向を強めるものと思われます。
(顔を隠すことの気楽さや、女性のファッションとしての嗜好もあるかもしれませんが)

世俗主義と宗教的原理主義のせめぎあいは、世俗主義を国是とするトルコでも問題となっているところですが、2010年に予定されているエジプトの総選挙でも厳しくなりそうです。

【未成年者犯罪の死刑執行】
イスラム関連の話題がもう1件。こちらはイスラム原理主義を国是とするイランからの話題です。

****17歳の時に殺人を犯した男の死刑を執行、イラン****
2009年10月11日 22:12 発信地:テヘラン/イラン
イランの報道によると、17歳の時に乱闘相手を刺殺したとして死刑判決を受けていた男が、被害者の両親によって11日、絞首刑に処せられた。Behnoud Shojaie受刑者は、2005年8月に乱闘でEhsan Nasrollahiさん(17)を刺殺した罪で有罪判決を受けた。

イラン学生通信は、テヘラン市内のエビン刑務所で「Ehsan Nasrollahiさんの両親が自らの手で死刑を執行した」と伝えた。
イランのマハムード・ハシェミ・シャハルディ前司法府代表は前年6月、Shojaie受刑者の死刑執行を延期し、イスラム法(シャリア)のもとで同受刑者に恩赦を与える機会を被害者遺族に提供していた。しかし、遺族は恩赦を拒否した。
シャリアのもとでは、被害者の遺族は賠償金を受け取って、受刑者に対する死刑判決を禁固刑に減刑することができる。

Shojaie受刑者の事件は国際的な注目を集めており、イラン国内の人権団体も死刑の執行停止を強く求めていた。イラン国会では現在、若者による犯罪への刑罰を緩和し、殺人を犯した未成年者に死刑判決を出すことを困難にする法案が審議中だった。
司法当局高官のFakhredin Jafarzadeh氏は、ISNAに対し、「減刑のため最後の一瞬まで努力を続けたが、残念なことに無駄に終わり、死刑が執行された」と語った。
イランは、成人前に犯した罪で死刑にすることを禁じた国連の「子どもの権利条約」の署名国。人権団体が今年2月に発表したところによると、イランでは過去2年間で17人が18歳未満当時に起こした犯罪で死刑を執行されている。【10月11日 AFP】
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イランで18歳未満当時に起こした犯罪で死刑を執行されたこと自体はさほど驚きませんでしたが、遺族の両親が自らの手で死刑を執行したということは、やはり驚きです。
それと興味深いのは、イラン国内でも、こうした未成年者犯罪への死刑適用をよしとはしない考えが、指導者の間にもあるということです。

公開処刑が行われたり、同性愛者が処刑されたりするイランですが、決してやみくもにシャリアに基づき処刑すればいい・・・という訳でもないようで、少し安心した次第です。
現実政治の運営、世界共通の価値観と宗教的価値観のバランスは、イスラム国家にあっても難しい問題のようです。

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