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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「ASEAN政府間人権委員会」発足にむけて

2009-10-20 22:42:57 | 国際情勢

(2007年9月27日 ヤンゴン 長井健司死亡 “flickr”より By VT@nbells
http://www.flickr.com/photos/nbells/2423182582/)

【域内全体の人権のとりで】
ASEAN(東南アジア諸国連合)は、23日にタイ・ホアヒンで開催される首脳会議で、人権委員会発足に向けた宣言を採択する予定です。

****「共同体への歴史的一歩」=人権委発足で首脳宣言採択へ-ASEAN****
東南アジア諸国連合(ASEAN)域内の人権促進と擁護を目的とした「ASEAN政府間人権委員会」発足に関する首脳宣言案が17日、明らかになった。同委員会について「ASEAN共同体に向けた歴史的な一歩。域内の人々の人権の実現、生活向上に極めて重要だ」と位置付けており、23日に中部ホアヒンで開かれるASEAN首脳会議での採択を目指す。(中略)
宣言案は、ASEAN諸国が人権を守る努力を続けることで、同委員会は域内全体の人権のとりでとなることができるとの自信を示した。同委の権限と機能強化のため、規約を5年ごとに見直すことも認め、作業は外相会合で行うとした。【10月17日 時事】
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ホアヒンでは、日本、中国、韓国が参加するASEANプラス3首脳会議、インドなどを加えた東アジアサミットも開催され、日本からは鳩山由紀夫首相が参加し、東アジア共同体構想について改めて表明する見通しとか。

【「内政不干渉」の原則は維持。意思決定も「全会一致が基本」】
さて、「ASEAN政府間人権委員会」ですが、当初は“人権機構”とも呼ばれていましたが、銃で民衆の抗議行動を鎮圧したミャンマーの軍事政権を域内に抱え、ベトナム・ラオス・カンボジアなども人権に関しては少なからぬ問題を抱えている状況で、起草作業に入って数年が経過するなかで次第に骨抜きになり、今回の「ASEAN政府間人権委員会」に至っています。

今年に入ってからの動きを見ると、2月28日に、同じホアヒンで開催された首脳会議で、年内発足に向けて努力することが確認されました。

****ASEAN、人権機構年内発足へ「努力」 捜査権限なし****
東南アジア諸国連合(ASEAN)の各国首脳は2月28日、「人権機構」の年内発足に向け努力することを確認した。ただ、規約草案は制裁などの権限に触れておらず、一方で内政不干渉の原則は明記。本来の目的である人権保護が実現できるのか、早くも疑問符がついている。
タイ政府筋によると、加盟各国は政治体制の違いから人権意識もばらばらで、人権保護に向けた取り組みの前に意識を高めることを優先。草案には人権侵害に対する制裁などを盛り込まなかった。

だが、ミャンマー(ビルマ)がこだわった「内政不干渉」の原則は維持。意思決定も「全会一致が基本」とし、「外部の干渉からASEANを守る」との記述も入れた。
28日のASEAN首脳と市民団体の会議では、ミャンマーとカンボジアの人権団体代表が出席を拒否される一幕も。「活動家が来るなら欠席する」とした両国首脳の意向を受けたもので、人権団体の広報担当は「これで本当に人権保護ができるのか」とあきれ顔だ。

各国は7月の外相会議までに規約の最終案をとりまとめ、年末にタイで開催予定の首脳会議を経て機構を発足させる。各国代表計10人が3年任期で機構を運営。5年後に活動の見直しを図るという。【3月1日 朝日】
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意思決定方式にもASEANの原則である「全会一致」を維持したため、人権問題が指摘されたミャンマーなど当該国が抵抗すれば強制力を持たず、具体事例に有効に対応するのは困難とみられています。
なお、意思決定で全会一致に至らない場合は外相会議に対応を委ねることになっています。
ASEAN原則とする「内政不干渉」も維持し、加盟各国・地域の特性や文化の違いに配慮するとして、制裁規定も見送られました。

なお、この2月の首脳会議では、ミャンマー民主化問題に関しては、議長声明で政治犯釈放の必要性を強調したものの、自宅軟禁が続く民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんの解放要求には言及しませんでした。

【監視・調査機能を持たせずに発足】
7月にタイ南部プーケットで開催された外相会議では、監視・調査機能を持たない各国学識経験者などによる「政府間人権委員会」とすることで合意しました。

****ASEAN:人権機構発足で合意 タイで外相会議開幕*****
東南アジア諸国連合(ASEAN)は19日、タイ南部プーケットで加盟10カ国外相による夕食会などを開き、23日のASEAN地域フォーラム(ARF)まで続く一連の関連外相会議がスタートした。
ASEAN各国外相は19日、域内の人権問題を協議する「ASEAN人権機構」について、10月にプーケットで開催される首脳会議に合わせて発足させることで合意した。ただ、強制力のある監視・調査機能の付与は先送りされ、ミャンマーの人権問題改善などに実質的に寄与できる可能性はほとんどなくなった。

人権機構は昨年12月発効のASEAN憲章に創設が盛り込まれ、具体的な権限などの協議が進められていた。外交筋によると、インドネシアなどが各国の人権状況を監視し、問題が起きた場合に調査する機能を付与するよう求めていたが、内政不干渉の原則を主張する議長国タイなどが消極姿勢を示した。このため、監視・調査機能を持たせずに発足させ、5年後に見直す妥協策で決着した。人権機構の正式名称は「政府間人権委員会」。【7月19日 毎日】
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【試金石 ミャンマー問題】
この外相会議では、スー・チーさんが5月に刑事訴追されたこともあって、スー・チーさんの名前を明記してミャンマーに全政治犯の即時解放を求めています。
3月のASEAN首脳会議の議長声明ではスー・チーさんの名前は明記されておらず、その点では踏み込んだ内容となっています。
一方で、「ミャンマーは外部による経済制裁が同国の民主化と発展を妨害しているとの考えを表明した」との文言を盛り込み、経済制裁を続ける欧米に嫌悪感を示すミャンマーへの配慮も見せています。 【7月21日 朝日より】

このとき、ASEAN地域フォーラム(ARF)出席のためタイを訪問中だったクリントン米国務長官は7月22日、テレビのインタビューに対し、ミャンマー軍事政権がスー・チーさんを解放しないなら、ASEANは加盟国ミャンマーの追放も検討すべきだと語っています。
これに対しASEAN議長国タイのアピ
シット首相は23日、「ミャンマーを追放する十分な理由はない」と述べ、長官の考えを強く否定しました。

現在は、アメリカもミャンマーへの制裁を緩和して対話を行う方向に動き出していますので、このときのクリントン発言とはまた違った見解になっていることも想像されます。
追放してすむ問題でもないでしょうが、人権侵害への批判にも及び腰・・・ということでは困ります。

人権問題への対応の試金石とも言える、スー・チーさん及びミャンマーへの対応には、ASEAN各国に足並みの乱れがあります。

****ASEAN:スーチーさん恩赦要求、足並みに乱れ****
ミャンマー軍事政権による民主化運動指導者、アウンサンスーチーさん(64)への有罪判決をめぐり、東南アジア諸国連合(ASEAN)内部の足並みの乱れが表面化している。議長国タイは加盟各国に、スーチーさん恩赦を軍事政権に要求することで合意するよう求めたが、ベトナムやラオスは不干渉の姿勢を強調。ASEANが一致して恩赦要求を打ち出すのは困難な情勢だ。
加盟国のベトナムは13日、「スーチーさん裁判は内政問題」との立場を表明。さらにラオス外務省報道官は14日「裁判はミャンマーの司法制度に基づいて行われた」と述べ、軍事政権の立場を全面的に支持したと受け取られかねない姿勢を示した。

域内の民主化進展や人権の尊重をうたうASEANだが、ミャンマー問題に関してはフィリピンやシンガポール、インドネシアなどが厳しい姿勢なのに対し、共産党による一党支配が続くベトナムや国内に人権問題を抱えるラオスなど、90年代以降の新規加盟国は常に軍事政権寄りだ。【8月17日 毎日】
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こうした経緯をへての「ASEAN政府間人権委員会」発足です。
「内政不干渉」の原則、意思決定も「全会一致が基本」、監視・調査機能は持たない・・・ということで、過大な期待はできません。
ただ、批判ばかりしても仕方ありませんし、各国が国内事情を抱えているのが現実ですから、今後の「ASEAN政府間人権委員会」での議論・取り組みが少しでも域内の民主化に貢献できることを願います。

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