孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  相互の不信感のなかでの核問題交渉

2013-12-27 22:50:01 | イラン

(12月23日、イランのロウハニ大統領は、アメリカやその他の西側諸国との関係改善を目指す意向を示しています。【12月23日 ロイター】)

羊の皮をかぶった狼」】
イランでの保守穏健派と言われるロウハニ大統領の就任、それを契機として動き出したイラン核問題の交渉、そして難航の末にまとまった「第1段階」の合意は、これまで国際情勢の不安定要因だったイラン問題解決に向けた重要なステップということで、間違いなく2013年の画期的・歴史的合意でした。

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第1段階の実行期間は6カ月。

米側発表では、イランは(1)5%超のウラン濃縮活動を停止(2)保有する20%の濃縮ウランを軍事転用が困難な形に加工(3)プルトニウム抽出につながるアラクの研究用重水炉建設を中断(4)国際原子力機関(IAEA)にナタンツ、フォルドゥの濃縮施設への徹底した査察を容認-する。

一方、6カ国側は、金・貴金属類や石油化学製品の取引制限を一部停止するほか、イランが石油販売関連収入のうち最大42億ドル(約4200億円)の送金を受けとることを認める。制裁緩和は総額約70億ドル(約7千億円)相当。イランが合意を順守する限り、6カ月間は追加制裁を科さない。【11月25日 産経】
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ただ、ウラン濃縮活動の「権利」については敢えて玉虫色にもされており、互いの相互不信、更には国内外の障害もあって、今後の交渉が一筋縄ではいかないものであることは、当初から予想されているところです。

****イラン核合意を脅かす相互不信****
核協議 核開発問題の包括的な合意を達成するには、アメリカもイランも自国内の抵抗勢力を統制する必要がある

・・・ただ進展があったとはいえ、今も核協議はいつ決裂してもおかしくない緊張感をはらんでいる。「羊の皮をかぶった狼」と祁楡されるロウハニを前にして欧米諸国は自問している。本当にイランは変わったのか・・・。

特にアメリカは、イランに対する警戒心をまだ解いていない。
合意後も米議会では、保守派がイランヘの新たな制裁法案の提出を推し進めようとしている。追加制裁を阻止したいジョン・ケリー国務長官は12月、米下院外交委員会で「イランヘの懸念は私も共有している」と複雑な心境を吐露した。 

イランもそんなアメリカの動きに敏感になっている。合意直後、米政府は現行の制裁措置に違反したとして19のイラン企業や個人に追加制裁を科した。これにイランのアッバス・アラグチ外務次官は「合意の精神に反している」と激怒。ケリーはすぐにジャバド・ザリフ外相に電話を入れてイラン側をなだめた。

米ランド研究所のアリ・ナダー上級研究員は、「そもそもすべての懸案事項において合意しているわけではない」と指摘する。「アメリカがこれ以上新たな制裁措置を科せば、核協議は台無しになる」

問題は制裁だけではない。アメリカと同じように、イラン国内でも関係改善にブレーキをかけようとする声が根強い。特に影響力を振るっているのが反米保守勢力だ。

79年のアメリカ大使館占拠事件の記念日を迎えた11月、強硬派がデモ隊を動員してここ数年で最大規模の反米デモを繰り広げたのはその最たる例だ。保守派は今もアメリカがイランのイスラム国家打倒を狙っているとの疑念を持つ。

それでもロウハニには本気で核協議を進展させたい理由がある。国際的な孤立を脱し、制裁措置で疲弊した経済を再建させるには核協議の進展しかない。

今のところ、最高指導者のアリ・ハメネイ師はロウハニを支持しているが、イラン国内の強硬派による圧力とアメリカの間でどう折り合いをつけるのか、ロウハニにとって14年は正念場になるだろう。

アメリカにも懸念がある。核協議を進展させたいオバマ政権には、国内の保守派以外にも「抵抗勢力」がいる。同盟国のイスラエルとサウジアラビアだ。これまで中東地域でイランの影響力が拡大するのを阻止してきた両国は、核開発問題の進展を望んでいない。

合意は「歴史的な過ち」
イスラエルは、イランが隣国レバノンのイスラム過激派勢力ヒズボラやシリアのアサド政権を支援していることを指摘。ベンヤミン・ネタニヤフ首相は歴史的合意を「歴史的な過ち」と批判した。
またスンニ派国家のサウジアラビアはシーア派の大国イランの台頭を警戒し、自らも核武装すると息巻く。

ただ批判を続けることは両国にもマイナスに働く可能性がある。ランド研究所のナダーは、「核協議の進展に反対することで、気が付けば自分たちがアメリカや国際社会から孤立してしまう可能性がある」と指摘する。

14年に包括合意がなされるかは予断を許さないが、核開発問題が重要な曲がり角を迎えているのは間違い。【12月31日号 Newsweek日本版】
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実際、交渉は一進一退という感もあります。

****イラン核:専門家協議を中断 来年初頭の合意履行困難に****
欧米など主要6カ国(米英仏中露独)とイランは22日、イランの核問題解決に向けた合意の履行時期や方法を決めるため、19日からスイスのジュネーブで行っていた専門家協議を中断した。

米政府による対イラン追加制裁やイランのウラン濃縮の権利を巡る意見の相違で溝が埋まらず、イラン側は「協議は悲観的だ」と表明。イランは来年初頭の履行開始を目指していたが、困難な見通しとなった。

6カ国側の調整役を務める欧州連合(EU)のアシュトン外務・安全保障政策上級代表(外相)の報道官は「クリスマスを挟み中断した。年内に再開するだろう」とコメント。

一方、イラン国営通信によると、イランのアラグチ外務次官は21日、「6カ国側は、濃縮すべきでないと主張するが、これはイランの権利だ」と主張。22日には、米国の対イラン制裁の対象拡大を念頭に「信頼を欠く事態を目の当たりにし、彼らが約束を果たすか確証を持てない」と、6カ国側をけん制した。(後略)【12月23日 毎日】
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双方、国内に抵抗勢力
アメリカ国内には強いイラン不信感があり、イランへの厳しい対応を求める動きもありますが、オバマ大統領はこれを抑えて交渉を継続し、結果を出したい意向です。

****米上院:イラン制裁強化法案 大統領報道官「拒否権」明言****
米議会内で成立を目指す動きのある対イラン制裁を強化する新法案について、カーニー米大統領報道官は19日の記者会見で「法案が可決されれば、大統領は拒否権を行使する」と述べ、成立を阻む方針を明言した。

米上院外交委員会のメネンデス委員長(民主)ら超党派の上院議員26人は同日、イランが11月に米欧と締結した核開発凍結の合意を順守しない場合、制裁を強化する法案を提出した。

一方、上院の銀行、情報、軍事、歳出、司法、エネルギー天然資源の各委員長ら計10人の民主党議員は同日、対イラン制裁を強化するのは「本音では交渉による核問題の解決の失敗を望んでいるイランの思うつぼだ」として、新法の制定に反対する手紙を上院民主党トップのリード院内総務に送った。

野党共和党が過半数を占める下院は7月、対イラン制裁を強化する独自法案を可決。上院が新法案を可決すれば下院案と一本化され、新制裁強化法が成立する。

ただ、発効には大統領の署名が必要で、米憲法は大統領が法案を差し戻す拒否権を認めている。拒否権が行使された場合、上下両院がそれぞれ3分の2以上で再可決すれば、法律は発効する。

イラン核問題の交渉による解決を目指すオバマ政権は、制裁強化は障害になるとして、上院に法案審議見合わせを要請してきた。【12月20日 毎日】
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アメリカ国内の動きを受けて、保守強硬派を抱えるイラン国内でも対抗措置的な動きがあります。

****イラン議会、60%ウラン濃縮の新法案起草 追加制裁けん制****
イランの核開発問題で、同国議会は26日までに、米国などが新たな経済制裁を科した場合、自国政府に対し最大60%の濃度を目指すウラン濃縮活動に踏み切ることを要求する新たな法案を起草した。同国の国営プレスTVが報じた。

米上院で最近、イランが核開発問題に関する欧米との暫定合意などに違反した場合を想定し、追加制裁発動を求める動きが表出したことへ対抗措置とみられる。
60%のウラン濃縮は核兵器化に大きく前進するとの指摘がある。

プレスTVによると、法案起草に関与した国会議員100人のうちの1人は法案が可決された場合、政府はフォルドゥやナタンズにあるウラン濃縮関連施設の完成を迫られるだろうと指摘。新たな制裁が打ち出された場合、イランの核開発の権利は侵害され、平和的な核利用の権利は欧米に無視されることになると説いた。(後略)【12月26日 CNN】
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交渉事はすべて互いにブラフをかけながら行うものではありますが、その行き過ぎは悲劇的な結末にもつながります。
先ずは双方とも、交渉を深める方向での冷静な対応をとって結果を出してもらいたいものです。
小さくとも最初の結果が出れば、次のより大きな、本格的な結果が期待できるようになります。

****イランのロウハニ大統領、米国との関係再構築に意欲示す****
イランのロウハニ大統領は、米国やその他の西側諸国との関係改善を目指す意向を示した。プロジェクト・シンジケートへの寄稿を23日付南ドイツ新聞が掲載した。

大統領は、「われわれは欧州および北米諸国と、相互尊重に基づいて関係を再構築、改善したいと考えている」と表明した。
「われわれはイランと米国の関係に新たな困難が加わらないよう努力するとともに、われわれが引き継いだ緊張感を取り除くことにも努めている」とした。

ロウハニ氏が6月の大統領選で大勝して以来、イランと米国は定期的に接触しているが、イランの核問題をめぐる交渉に限られている。
イランと米国は1979年のイラン革命で国交を断絶している。

ロウハニ大統領は、過去60年にわたり米国との関係に影響を及ぼした全てのことを忘れることはできないとしながらも、「われわれは今こそ、現在に注意を集中し、未来に視線を向ける必要がある」とした。

イランの核問題に関して大統領は、緊張を拭い去るためにできることは何でも実施していると表明。
大統領は「核兵器を手に入れるという選択肢を検討したことはない」と強調した上で、「原子力の恩恵を受ける権利を放棄することは絶対ないが、全ての疑惑を取り除き、われわれのプログラムについて適切な質問には全て答えられるよう取り組んでいる」とした。

イランと欧米など6カ国は先月24日、イランがウラン濃縮活動を制限する見返りに欧米側が経済制裁を一部緩和することで合意している。【12月23日 ロイター】
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イタリアはイランに、フランスはイスラエル・サウジに接近
一方で、制裁緩和を見込んだ動きも始まっています。
イタリアはイランとの関係強化に乗り出しています。シリア問題についても、来年1月22日にスイスで開かれるシリア和平国際会議にイランが参加すべきだとしています。

****イラン核問題:伊 制裁緩和後見込み、関係を強化****
イランに対する国際社会の経済制裁の緩和を見込んで、イタリア政府がイランのロウハニ新政権に急接近している。ボニーノ伊外相は外交活動を国内経済の浮揚につなげる「成長外交」を掲げており、エネルギー分野などでのイランとの関係強化を景気回復のテコにする狙いがありそうだ。

ボニーノ外相は21、22の両日、イタリア外相として2004年以来初めてテヘランを訪れ、ロウハニ大統領らと会談した。大統領はイタリアを「欧州への門」と位置づけ、イタリアとの定期首脳会談を提唱。ザリフ外相はシリア内戦、アフガニスタン情勢への対応などで協力を推進する意向を表明した。

レッタ伊首相は23日、年末恒例記者会見で「中東の不安定要因の多くは(強硬派の)アフマディネジャド前イラン大統領と関係があったが、(穏健派の)ロウハニ大統領(の就任)によって好機が生まれた」と指摘。ロウハニ政権との関係を深める方針を強調した。

地中海をはさんで北アフリカと向き合い、欧州を目指す難民・移民の「玄関口」となっているイタリアにとって中東の安定は死活的に重要だ。シリア内戦の長期化を受け、地中海に浮かぶイタリア最南端ランペドゥーサ島などにはシリア難民が殺到している。

対イラン接近の原動力となっているのは女性のボニーノ外相。外相は「米仏の対シリア軍事攻撃への反対をレッタ政権閣僚の中でいち早く打ち出し、イラン問題でもさきがけ的な役割を果たしている」(外交筋)。イラン核開発を巡る11月24日の国際合意に先立ってザリフ外相をローマに招き、今回のイラン訪問への道筋を付けた。

背景にはイランのエネルギー資源への熱い視線もある。イタリアのエネルギー大手ENIのパオロ・スカロニCEO(最高経営責任者)は5日、ウィーンでザンガネ・イラン石油相と会談。「制裁が解除されればイラン事業を拡大する」と述べ、イランの石油・天然ガス開発計画に参入する用意を示している。【12月25日 毎日】
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興味深いことに、11月段階の交渉でもイランに対する厳しい姿勢を見せて交渉にブレーキをかけた感もあったフランスは、その姿勢の延長で、イラン敵対国であるイスラエルやサウジアラビアとの関係強化に乗り出しています。
ただこれは、イラン核協議が順調に進めばイラン市場を失うことにもなるハイリスクな賭けにも見えます。

****イラン核問題:仏イスラエル接近 市場参入でリスクも****
イランと主要6カ国が核問題を協議した11月の包括交渉で対イラン強硬姿勢を取ったフランスは、イランと対立するイスラエルやサウジアラビアなど中東諸国との経済連携を強める意向だ。
だが、各国が狙う経済制裁緩和後のイラン市場への参入で後れを取るリスクを指摘する声も出ている。

フランスは高度な技術力を持つイスラエルとの経済関係強化を不振の国内経済の向上につなげたい思惑だ。
オランド大統領はイラン核問題で国際合意に至る前の11月17〜19日にイスラエルを訪問。石油大手トタルや動画サービス「デイリーモーション」、国鉄など仏企業40社の幹部も同行した。ネタニヤフ首相にイランへの厳しい条件提示を約束し、鉄道分野での提携を結ぶなど成果を上げた。

また、サウジアラビアは近年、仏最大の武器輸出先となっており、兵器市場としての中東諸国の重要性も増している。米国がアジア重視の姿勢を強める中、「中東に戦略的空白ができるのを避けたい」(ファビウス外相)との危機感と、中東でフランスの存在感を拡大したい意向もある。

一方で、潜在力を持つイラン市場への参入に遅れるとの懸念の声も上がっている。イラン情勢の専門家、アルダバン・アミルアスラニ氏は仏日曜紙「JDD」で「イランの市場開放はソ連崩壊後の東欧諸国に次ぐ経済的に大きな出来事で、全世界がイラン市場に注目する中、フランスは大きな商機を失うかもしれない」と指摘した。【12月25日 毎日】
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したたかなフランスのことですから、みすみすイラン市場を見逃すようなことはしないでしょう。
交渉の成り行きを見て、どこかで新たな対応も見せるのではないでしょうか。

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