孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

印パのカシミール衝突  旧装備のインド軍の実態明らかに 「戦果」誇張がインド国内で論議に

2019-03-07 23:36:24 | 南アジア(インド)

(パキスタン軍に撃墜されたインド軍機の残骸=カシミール地方で2019年2月28日【3月4日 毎日】 ミグ21は優秀な戦闘機だったようですが、F16やFC1が相手では難しいものがあります)

【「聖戦」を掲げるイスラム過激派の拡散 背後にパキスタン軍部の思惑】
カシミールをめぐるインド・パキスタンの衝突は、3月3日ブログ“インド・パキスタンのカシミールでの衝突 インド側世論、総選挙を控えた政治事情の影響も”で取り上げましたが、なんとか沈静化したようにも見えたのですが、インド側で再びバスが爆破される攻撃があり、今後が懸念されます。

詳細はまだわからないものの、やはり、どうしてもこの地域の緊張を高めたい勢力があるようです。

****印パ国境、カシミールでバスが爆発 1人死亡30人けが****
インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方のインド側ジャム・カシミール州のジャムのバス停で7日、州政府が運営するバスが爆発した。インドメディアによると、市民1人が死亡、30人が負傷したという。地元警察は手投げ弾による爆発とみている。
 
2月14日に同州プルワマであったイスラム武装組織によるとみられる爆破事件をきっかけに、印パ両軍がカシミールの停戦ライン(実効支配線)を挟んで空爆や空中戦を繰り広げ、軍事的緊張が高まったが、関連は不明だ。

両軍による停戦ラインを挟んだ砲撃戦も続いていたが、この数日間は沈静化していた。(ベンガルール〈インド南部〉=奈良部健)【3月7日 朝日】
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カシミール地方におけるイスラム系住民に多する苛酷なインド治安部隊の支配については、前回ブログで紹介した、日本・パキスタン・インドを往来されているスズケーさんの「カシミール問題 インドとパキスタン、終わらない紛争」が参考になります

一方、カシミール問題には、スズケーさんも指摘しているように、従来の独立運動から次第にイスラム過激派の「聖戦」に変貌しつつあること、また、そうした勢力をパキスタン軍部が裏で支援していると思われる・・・そうした側面もあります。

****「聖戦」に揺れるカシミール****
パキスタン軍、過激派と連携か
核保有国同士のインドとパキスタンが、両国の係争地カシミール地方で突如衝突した。

2月26日、インド軍は第3次印パ戦争(1971年)以来、48年ぶりにパキスタン領内まで越境し、過激派組織「ジャイシェ・ムハンマド」の拠点とみられる場所を空爆した。極めて異例の行動である。

さらに翌日、カシミールのインド側とパキスタン側の支配地域を分断する停戦ライン(実効支配線)を挟んで両軍機が空中戦を展開し、インド軍機が撃墜された。
 
核戦争に発展するのではないかと危惧する向きもあったが、そこまで衝突がエスカレートすることはまずあり得ないだろう。そもそも新興大国のインドとパキスタンでは、もはや国力、軍事力が違いすぎる。
 
それに、今回の事態はパキスタン軍の諜報(ちょうほう)機関「軍統合情報局(ISI)」による支援を受けてきたとされる「ジャイシェ・ムハンマド」のテロが引き金だった。パキスタンのカーン首相は早々と「対話で解決したい」と表明し、撃墜したインド軍機のパイロットもすぐに引き渡したが、その融和的な対応の裏には、ISIが過激派と長年連携してきたとされることへの後ろめたさもあるのではないか。

引き金は自爆テロ
問題のテロは2月14日、カシミールのインド側支配地域にある町プルワマで発生した。インド治安部隊の車列に爆弾を積んだ車が突っ込み、隊員ら約40人が死亡した自爆テロと伝えられ、「ジャイシェ・ムハンマド」が犯行声明を出した。インド側が空爆に踏み切ったのは、これに対する報復措置だった。

「われわれの戦いはテロに対するものだ。テロへの支援をパキスタンが続ける以上、われわれはテロ組織の拠点と訓練施設を標的にする覚悟がある」─。AFP通信によると、インド陸軍のスレンドラ・シン・マハル少将は、2月末の記者会見でこう宣言した。
 
その後、3月1日のパイロット引き渡しによって緊張緩和への期待が一時高まったが、それでもインドの怒りは収まらず、銃砲撃の応酬で一般住民にも死傷者が続出している。
 
このように、カシミールをめぐるインドとパキスタンの対立は、今や単なる領土問題をめぐる国家間の争いというよりも、「ジハード(聖戦)」を掲げてテロを起こす過激派とその後ろ盾とされるパキスタン対インドという構図に変質している。(中略)

アフガンの対ソ戦が転機に

このような状況の変化を生んだ大きな心理的要因は、カシミールの西方に位置するアフガニスタンを79年末に侵略したソ連軍に対し、アフガン・ゲリラ「ムジャヒディン(聖戦士)」が10年近くも抵抗を続け、ついに追い払った「聖戦の勝利」だった。

89年2月のソ連軍の撤退完了後、アフガン・ゲリラに義勇兵として加わっていたパキスタン人らは、今度は「カシミール解放」だと意気込んだ。
 
今回テロを引き起こした「ジャイシェ・ムハンマド」の最高指導者でイスラム法学者のマスード・アズハル(50)も、実はカシミール出身ではなく、パキスタンのパンジャブ州バハワルプール生まれなのだが、アフガンで義勇兵に志願後、カシミール行きを目指した。これは「解放闘争」が地元カシミールだけでなく、この地域のイスラム教徒全体の連帯感を呼び起こしていたことを意味する。(中略)

「戦略的縦深性」の強化図る
こうした過激派を背後で操っていたと批判されているのがパキスタンの軍部だ。

ソ連軍のアフガン侵攻よりも2年前の77年、クーデターでパキスタンの実権を握った軍トップのジアウル・ハク陸軍参謀長(後の大統領)は、米中央情報局(CIA)と組んで戦闘力のあるムジャヒディンを積極的に支援し、アフガンでの「米ソ代理戦争」を支えた。
 
これによってパキスタンは米国から巨額の援助を得たが、実は、軍部の狙いは援助獲得だけでなく、西方のアフガンの武装勢力に対する影響力を強めることによって、アフガンをいわば後背地とし、南北に細長いパキスタンの国土がインドからの攻撃を受けた場合の「戦略的縦深性」を強めようという意図があった。
 
外交筋によると、96年にアフガンで政権を奪ったイスラム組織「タリバン」も、ひそかにパキスタン軍部から支援を得ていたとされる。これも、パキスタン軍部が絡んだ対インドの「縦深性戦略」の一環だったと考えることができる。
 
さらにパキスタンは、この戦略をカシミールにも拡大していったとの見方が強い。
 
カシミールでは、アフガン紛争以前から「ジャム・カシミール解放戦線」(JKLF)という宗教色の薄い過激派が活動し、76年のインド航空機ハイジャック事件、84年の駐英インド外交官誘拐殺害事件などを起こした。だがJKLFは、あくまで地元主体の民族主義的な組織で、「カシミールの独立」を標榜していた。
 
これに対し「ジャイシェ・ムハンマド」など新興の宗教的な過激派は、最初から「カシミールのパキスタンとの統合」を唱え、JKLFから主導権を奪った。こうした点からも、新興の過激派とパキスタンとの結びつきの強さがうかがわれる。

「テロの温床」を容認?
インドとまともに軍事衝突しても勝ち目のないパキスタンは、軍以外の武装勢力も動員してインドを包囲する形で圧力を加えることに、戦略的な利益を見いだしたのだろう。

(中略)こうした過激派は、今回のテロに至るまで、カシミールでもテロを繰り返してきた。
 
パキスタン軍部は、インドとの戦力バランス確保を最大の戦略目標としているが、ジャイシェ・ムハンマドやラシュカレ・トイバなどの過激派との連携により、パキスタンとその周辺地域が「テロの温床」になることを容認してきたのではないかとの批判を米国からも浴びている。
 
パキスタン内務省は3月5日、ジャイシェ・ムハンマドの幹部ら44人を拘束したと発表したが、いずれほとぼりが冷めれば、釈放されるとの見方も根強い。
 
核兵器も持つパキスタンのような軍事強国が、過激派と手を組むという危険な「火遊び」が事実だとすれば、それはカシミール問題にとどまらず、国際社会にとって重大な懸念材料である。【3月7日 時事ドットコム】
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上記記事では“新興大国のインドとパキスタンでは、もはや国力、軍事力が違いすぎる”ことがパキスタン側への抑止力として働くとされています。

【今回衝突で露呈した“張子の虎”インド軍の実態
実際そうなんでしょうが、ただ、インドの軍事力への疑問も今回衝突で表面化しています。

****インド軍の弾薬はたった10日分、パキスタン軍と戦えば勝ち目なし?****
<インドはパキスタンよりずっと大国だが、パキスタン軍の戦闘機とのドッグファイトでは旧ソ連時代のミグ戦闘機で撃墜される旧時代の軍隊だ>

インドでは、軍の装備品が時代遅れであることや軍事費が乏しいことがにわかに危機感をもって語られはじめた。万が一戦争が起きたときに国が無防備な状態になりかねない。

インド政府の概算によると、軍事用に備蓄している弾薬はわずか10日分しかもたないと、ニューヨーク・タイムズ紙が報じた。さらに装備の3分の2以上は旧式で、軍も年代物と認めている。(中略)

2月27日、インド空軍機はカシミール地方上空でパキスタン軍機と空中戦を演じた挙句、撃墜された。操縦士は助かったが、旧ソ連時代の老朽化したミグ21戦闘機は失われた。規模はインド軍の半分で、軍事費も4分の1のパキスタン軍が、装備の質では上回っていることからもこの一件からよくわかる。

いずれも保有国である両国は互いに報復し合って緊張を高めており、軍事衝突する可能性も出てきている。

戦争は待ってくれない
(中略)ちなみに、インド軍機を撃墜したパキスタン軍機はアメリカ製の戦闘機F16ではないか、という疑惑が持ち上がっている。アメリカはF16売却時に使用目的を対テロに限定しており、もし使われたとすれば、合意違反になる。パキスタン政府は否定しているが、米政府は調査を開始する。(中略)

豪シンクタンクのローウィー研究所が発表した2018年版アジア国力指数によると、インドの2018年の軍事費は450億ドルで、対立するパキスタンの97億ドルよりはるかに多い。この指数の軍事力部門では、インドは世界で4位にランクしている。

しかし、軍事費の大半は現役兵士120万人の給与として使い果たされ、新たな軍備に投じられるのは140億ドルにすぎない。

ゴゴイは、「現代的な軍隊は諜報力と技術力の向上に多大な資金を投じている。インドも同取り組む必要がある」と述べた。【3月5日 Newsweek】
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一方で、意気軒高なのが、パキスタンと軍事的関係が深い中国です。

****パキスタン空軍強し、中国と密接に交流しているからだ―中国メディア****
インドとパキスタンの間で軍事衝突が発生し、空中戦でインド空軍の戦闘機が撃墜される事態も発生したことで、中国ではインドとパキスタンの戦闘能力についての関心が高まっている。

中国メディアの新浪網は2019年3月5日付で、「パキスタン空軍は強い」として、その背景には中国との密接な交流があると主張する記事を掲載した。

(中略)中国とパキスタンはインドに対する「敵の敵は友」とも形容できる極めて親密な関係を構築した。中国人の対パキスタン感情は極めて良好で、パキスタンの対中感情も中国周辺国の中で際立って良好だ。

新浪網記事は、2月に始まった軍事衝突で、パキスタン空軍が撃墜したのはインド空軍のMiG―21戦闘機だったと紹介。「パキスタン空軍の訓練のレベルは非常に高く、パイロットのはつらつとした雰囲気や戦術面の素養は、中国で行われた珠海航空ショーを通じて、多くの人が知っている」と論じた。(中略)【3月6日 レコードチャイナ】
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インド軍機を撃墜したパキスタン軍機がアメリカ供与のF16なら、パキスタンとアメリカの間のもめ事となります。
一方で、中国側には、撃墜したパキスタン軍機は中国との共同開発によるFC1ではないないかとの“期待をこめた”憶測も出ているようです。そうであれば、FC1にとっては初めて実戦で敵機を撃墜したことになります。

戦闘機を中国と共同開発する一方で、アメリカからも供与されるという“奇妙な”実態が、パキスタンの国際的立ち位置を示しているとも言えます。インド軍がロシア製ミグを使っているのも、非同盟主義でアメリカと一線を画してきたインド外交の歴史を示しています。

なお、撃墜されたのち、パキスタンからインド側に引き渡されたパイロットに関しては、“バルタマン中佐を国民的英雄とたたえる声が出ており、称賛の印として特徴的な口ひげをまねる男性が続出している。”【3月5日 CNN】とも。解放を歓迎するのはわかりますが、撃墜されて“英雄”というのは?

【総選挙利用を目論むモディ政権 「戦果」をねつ造か?】
27日に起きた両国空軍の空中戦は、前日26日に行われたインド側の攻撃にたいするパキスタン側の報復でもありましたが、その26日のインドによる攻撃の「戦果」は、かなり“大本営発表”的なものだった疑いがあり、インド国内でも論議を呼んでいます。

モディ首相は、今回のパキスタンとの衝突に“強気の対応”を示すことで、5月の総選挙対策として最大限利用するつもりです。

****印モディ首相、下院選へ国威発揚 パキスタン攻撃から1週間****
インド空軍によるパキスタン攻撃から5日で1週間。パキスタン政府の対話の呼び掛けに、インドのモディ首相が応じる気配はなく、逆にテロ対策への注力を打ち出すなど強力な指導者像をアピール。

5月までに予定される下院選の日程が近く公表されるとみられ、退潮が予想される与党の勢力維持に向けて国威発揚を狙っているもようだ。
 
モディ氏は1日、南部タミルナド州で「テロリストに報いを受けさせる、これが新しいインドだ」と演説した。【3月5日 共同】
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一方、野党側は、架空の戦果で政治利用していると政府を批判しています。

****空爆“成果”独り歩き? インド政府「多数殺害」裏付けなく****
インド軍による先月26日のパキスタン領内への空爆の「成果」を巡り、謎が深まっている。

インド政府が「テロリストの訓練キャンプを攻撃」し、「非常に多く」を殺害したと主張する一方、パキスタン側はキャンプの存在自体を否定し、死者もいなかったとしているためだ。
 
インドの最大野党の国民会議派は、モディ政権が「証拠が示されていない『成果』を政治宣伝に利用している」と批判するなど、5月までに総選挙が予定されていることもあって、「成果」を巡りインド国内で与野党が対立する事態にもなっている。
 
インド軍は先月26日、パキスタン北東部を越境攻撃。与党・インド人民党トップは「250人を殺害した」と主張するが、インド空軍のダノア参謀長は4日、殺害した人数について「数えられないし、空軍は数える立場にない」と言及を避けた。
 
これについて野党は証拠を示すよう要求。さらに米紙ニューヨーク・タイムズなど欧米メディアも専門家や地元住民などの証言に基づき、キャンプの存在自体や殺害された人数について懐疑的な見方を示した。(中略)【3月4日 毎日】
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この26日のインド側攻撃について【朝日】は現地取材を行い、インド兵ら約40人が死亡し、インドとパキスタンの対立の引き金となった2月14日の爆破事件でも犯行声明を出しているイスラム武装組織「ジャイシェ・ムハマド(JeM)」の機関紙が「聖戦士を養成する施設」と紹介している宗教学校を狙ったものが的を外れて、丘の下に着弾した可能性が高いとの見解を示しています。【3月7日 朝日より】

なお、“パキスタンのマリク・アミン・アスラム気候変動相は1日、先月26日にインド軍がパキスタン領内を空爆して多数の木々が被害を受けたのは「環境テロ」だとして、インドを相手取り、国際機関に訴えを起こす考えを示唆した。”【3月2日 AFP】というのは、インドの「成果」ねつ造への揶揄でしょう。

いずれにしても、前回ブログでも書いたように、今月末(3/24出国)にパキスタン・フンザ旅行を予定していますので、今後の動向が個人的にも気になります。

現在はインド側上空が飛行禁止とかで、パキスタン行きのタイ航空などは欠航していますが、私の利用する中国国際航空は中国側から入るので「飛んでいる」とのことです。




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