孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

新疆ウイグル族弾圧  内部文書リークで明らかにされた実態

2019-11-21 22:51:28 | 中国

(中国・新疆ウイグル自治区カシュガルで、モスク(イスラム礼拝所)を出るウイグル人を見張る警察(2017626日撮影)【1118日 AFP】)

 

【国際的攻防の焦点となる新疆ウイグル族問題 中国支持国も多数存在する現状】

中国との貿易交渉を有利に進めるための「カード」としての思惑もあってか、新疆ウイグル自治区におけるイスラム系ウイグル族等へ行っている弾圧をアメリカがさかんに取り上げていることは、1026日ブログ“米中貿易交渉の「カード」して取り上げられるウイグル族の人権問題 「強制労働」による中国綿製品”でも取り上げました。

 

最近では・・・

 

****ポンペオ米国務長官、中国によるウイグル族弾圧をやめるよう声明****

ポンペオ米国務長官は5日、中国共産党政府によるイスラム教少数民族ウイグル族への人権弾圧に関し声明を発表した。

 

ポンペオ氏は、中国当局によるウイグル族活動家の親族や、自治区の収容施設での体験談を発表した出所者に対する嫌がらせや投獄、恣意(しい)的な拘束が相次いでいるとする複数の報告があるとして、「深く苦悩している」と表明した。

 

ポンペオ氏は、こうした迫害が「国務省高官との面会直後に起きた事例が複数回ある」と指摘。また「中国共産党による弾圧政策の犠牲となった勇敢な人々やその家族に対し、心からの弔意を表する」とした。

 

その上で、「米国は中国政府に対し、中国国外に住するウイグル族に対する全ての迫害をやめ、恣意的に拘束された全ての人々を解放するよう改めて要求する」と訴えた。

 

一方、中国の人権状況を監視している「中国問題に関する議会・行政府委員会」(CECC)は5日、税関・国境警備局(CBP)に書簡を送り、自治区で拘束されているウイグル族を強制的に働かせて製造された中国製の衣料品の米国への輸入を禁じるよう要請した。

 

書簡によると、問題の衣料品は米国内のスポーツ用品大手アディダスやアパレル大手H&M、エスプリなどの店舗や通販サイトで販売されているという。【116日 産経】

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国連を舞台にした攻防も行われており、先月末には、日本や米英など23カ国が中国批判の共同声明を出していますが、注目すべきは、これに反対して中国支持の共同声明が54カ国から出されたこと。

 

数の上からすれば、中国支持が倍以上存在しており、国際社会における中国の存在感の高まりを反映しているように思われます。

 

****国連、ウイグル問題で攻防 欧米日本など23カ国「拘束停止を」 中国支持派は54カ国**** 

中国が新疆ウイグル自治区で少数民族ウイグル族を大規模拘束している問題について、日本や米英など23カ国が29日、国連総会第3委員会で、中国に対して懸念を示し、恣意的な拘束をやめるよう求める共同声明を出した。

 

これに対抗してロシアやパキスタンなど54カ国は中国を支持する声明を発表。ウイグル問題で加盟国が賛否の立場に分かれ、応酬を繰り広げた。

 

第3委は人権問題を扱う。ウイグル族の拘束に懸念を示したのは他に欧州各国やカナダ、オーストラリアなど。英国のピアス国連大使が代表で共同声明を読み上げ、「信教の自由を含む人権を尊重するため、国内法や国際義務を守るよう中国政府に求める」と強調。また、国連関係機関の現地調査を認めるよう呼びかけた。

 

米国のクラフト国連大使は演説で100万人以上が収容施設に拘束されているとし、「非難する」と述べた。

 

中国を支持する共同声明にはエジプト、ボリビア、コンゴ民主共和国などが名を連ねた。ベラルーシの代表が声明で「(施設では)すべての民族グループに対する基本的人権が守られている」と強調。

 

中国の張軍国連大使は演説で、中国を支持する国が上回ったことを念頭に「米国の主張は不人気だ。米国やその他の数カ国は国際社会に対抗し、これ以上間違った道を進むべきではない」と自らの政策の正当性を主張した。

 

また中国と同調する約20カ国が演説に臨み、「内政干渉する口実に人権問題を利用してはならない」(ミャンマー)といった指摘が目立った。

 

今年7月にジュネーブで開かれた国連人権理事会でも賛否に分かれた加盟国グループがそれぞれ書簡を提出するなど、国連の舞台でウイグル問題をめぐる攻防が続いている。【1030日 産経】

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100万人以上が収容施設に」という数字については、個人的には「本当だろうか?」という疑問もありますが、人権団体「東トルキスタン国民覚醒運動」は、それよりはるかに多くの人が中国政府に拘束されている恐れがあると主張しています。

 

****中国のウイグル収容施設500か所近くを確認 100万人超が被収容の恐れ****

人権団体「東トルキスタン国民覚醒運動」は12日、中国・新疆ウイグル自治区の少数民族ウイグル人らが拘束されている収容施設や刑務所を、500近く確認したと発表した。

 

100万人が収容されていると一般的に言われてきたが、同団体はそれよりはるかに多くの人が中国政府に拘束されている恐れがあると主張している。

 

米ワシントンを拠点とするETNAMは、イスラム教徒が多数を占める新疆ウイグル自治区の独立を目指す人権団体。グーグルアースで地図画像を調査し、ウイグル人たちに自身が持つ文化を捨てるよう圧力をかけているとされる「強制収容所」とみられる182か所の位置を地図に示した。

 

刑務所とみられる施設209か所と労働収容所とみられる施設74か所も特定した。これらの詳細については後に共有するという。

 

ETNAMのカイル・オルバート氏はワシントン郊外で記者会見を行い、「これらの(施設の)大半は、これまで確認されていなかった」と述べ、拘束されている人の数は従来考えられていたよりもはるかに多い恐れがあると指摘。「それどころか、われわれが確認できていない施設がさらにあるのではないかと懸念している」と語った。

 

活動家や目撃者らによると、中国政府はウイグル人たちを拷問にかけて多数派の漢民族に強制的に統合しており、イスラム教徒のウイグル人に礼拝や禁酒、豚肉を食べないなどの信条を捨てるよう圧力をかけている。

 

オルバート氏は、中国政府の政策は「投獄による大虐殺」であると表現し、ウイグル人が永久に拘束されるのではないかと懸念した。

 

中国政府は当初、収容所の存在を否定していたが、イスラム教徒に職業訓練を提供して過激思想を持たないようにしていると政策を正当化している。 【1113日 AFP】

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人権団体「東トルキスタン国民覚醒運動」は中国と対峙している一方の当事者ですから、その中国批判の「数字」については過大にとらえられている可能性も一定に留意する必要があろうかとは思います。

 

【米紙にリークされた弾圧の実態 「情け容赦は無用」】

そうしたウイグル族弾圧が国際的に注目されるなかで、習近平国家主席の生々しい発言などを含む内部文書が米紙ニューヨーク・タイムズにリークされ、中国当局の弾圧の実態が改めて明らかになっています。

 

****ウイグル人に「情け容赦は無用」、中国政府の内部リークで新事実明らかに 米報道****

中国・新疆ウイグル自治区の少数民族ウイグル人に対する弾圧の新たな事実が、中国政府関係者が米紙ニューヨーク・タイムズにリークした大量の内部文書によって明らかになった。

 

NYタイムズが16日付の紙面で報じた文書によれば、習近平国家主席はウイグル人の取り締まりに「情け容赦は無用」とハッパを掛けていた。文書には、習主席のこれまで非公開だった演説の内容や、ウイグル人監視や支配に関する報告が含まれている。

 

NYタイムズに文書をリークしたのは、中国政界既成勢力の匿名の人物。リークによって、習主席を含めた政権幹部らによる「ウイグル人大量拘束の責任回避」を阻止したかったという。(中略)

 

中国共産党は米国など国際社会が批判を強めているウイグル人弾圧をひた隠しにしてきたが、今回、NYタイムズが入手した403ページの内部文書によって、これまで知られてこなかった弾圧の実態があらわになった。 

 

文書によれば、習主席は2014年にウイグル自治区の鉄道駅で31人が死亡したウイグル人による無差別攻撃事件の後、当局者を対象にした演説で、「独裁の仕組み」を活用して「テロリズム、侵入、分離独立」に対する「情け容赦は無用」の全面闘争を指示している。

 

2016年に陳全国氏がウイグル自治区の新たな党書記長に就任すると、収容施設の数が急速に拡大。陳氏はウイグル人弾圧を正当化するため、2014年の習主席の演説内容を自治区当局者らに配布し、「拘束すべき者たちを一網打尽にせよ」と促していた。
 
また、文書によれば、中国政府は自治区に帰省したウイグル人学生らが家族が行方不明、または施設に収容されたなどと知った場合の問い合わせに対する想定問答集も作成。当局者らはこうした学生に対して、家族は「過激思想ウイルス」に感染したため、軽い病が深刻化しないうちに治療が必要だと説明するよう指導されていた。

 

さらに、党内にはウイグル人弾圧を不服とする者もいることが、文書からうかがえる。

 

ウイグル自治区莎車県の責任者だった王勇智氏は、収容施設に拘束されていたウイグル人計7000人以上を自らの判断で釈放したが、党の指示に背いたとして2017年から18年に取り調べを受け、処罰対象となった。流出文書によると王氏は、大量拘束によって対立が激化してウイグル人の憎悪が深まることを恐れたと当局に供述している。 【1117日 AFP】

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上記記事最後にある王勇智氏については、“民族間対立を解消するために経済発展に力を入れる政策をとっており、それまでの評価は高かった。だが、陳全国時代以降は、全県で強制収容された2万人のムスリムのうち7000人をひそかに釈放していたことがばれ、「党中央の新疆政策に対する深刻な違反」で拘留、起訴され、権力剥奪ほか懲罰を受けたという。”【1121日 福島 香織氏 JB Press 「すっぱ抜かれた悪行、新疆と香港を踏みにじる中国」】とも。

 

また、“想定問答集”については

 

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・・・・例えば、ウイグル人留学生が夏休みに新疆の実家に帰ってきたとき、家に父母がおらず親戚も失踪、隣人たちも姿がない。みんな強制収容されていて、学生が当局の官僚に「家族はどこにいますか」と問い合わせてきたとする。そのとき、どう答えるべきか? といった模範解答も指示されている。

 

「彼らは政府が建てた研修学校にいる」と答えるのが模範解答例だ。もし学生がさらに説明を求めたら「彼らは罪を犯したのではないが、学校から離れることはできない」と答える。

 

さらに「もしもあなたが彼らを支持するのならば、それは彼らのためにも、あなたのためにも良いことだ」という言い方で、学生の答え方次第で家族の拘禁時間が短くなったり延長したりすることを伝えるよう指示されている。つまり恫喝だ。

 

父母の強制連行を学生に見られた場合、父母の学費を誰に支払ってもらえるのか学生が知りたがった場合、労働力を奪われ畑を耕す人間がいなくなったといわれた場合の模範解答もある。そして官僚に恨みを抱きそうな人間に対しては、恫喝を交えて、共産党の助けに感謝し、沈黙するように求めよと指示している。【同上】

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中国側は、「本来の意味を文脈から切り離して、内部文書だとするものを吹聴し・・・」と反発しています。

 

****内部文書流出報道のウイグル弾圧問題、中国政府が正当性強調****

中国・新疆ウイグル自治区の少数民族ウイグル人に対する弾圧に関し、膨大な量の公式文書がリークされたことを受け、中国政府は18日、この問題で政府が「寛大になることは決してない」と明言した。(中略)

 

中国外務省の耿爽副報道局長は18日の定例記者会見で、同紙に対し「本来の意味を文脈から切り離して、内部文書だとするものを吹聴し、新疆で行われている対テロおよび脱過激化の取り組みを中傷、非難している」と指摘し、「事実から目を背けている」と批判。

 

さらに「中国は暴力的なテロリストらとの戦いで寛大になることは決してない」と断言した。

 

また耿氏は、新疆では1990年代から2016年までの間に「暴力的なテロ事件が何千件も発生」したが、過去3年間は現行の政策によりあらゆる攻撃が阻止されたと述べた。

 

今回のリークにより、中国の極西に位置する同自治区で多数のイスラム教徒らが拘束されている問題に改めて注目が集まっている。 【1118日 AFP】AFPBB News

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【胡錦濤政権の新疆政策を否定して強硬政策に転じた習近平】

福島 香織氏は、その内容、これまでの実例などからして、ねつ造文書をつかまされた可能性もゼロではないとしながらも、“全文読んだわけではないが、一部公開されているものを読む限りでは、本物ではないか、と見ている。”として、習近平政権における対ウイグル族政策の変化について以下のようにも。

 

****すっぱ抜かれた悪行、新疆と香港を踏みにじる中国****

・・・・こうした新疆における暴力事件を受けて、習近平は新疆政策に関する4つの秘密演説を展開する。

 

その中で習近平はウイグル人の大規模拘束を直接命令はしていないが、「専制」を手段として、新疆からイスラム過激派分子を徹底排除することを呼び掛けている。

 

また習近平は、経済発展を通じて新疆の不安定さを抑制していくという以前の中国指導者のやり方について、「それでは不十分だ」「イデオロギー上の問題を解決して、新疆地域のムスリム少数民族の思想を作り変える努力を展開せよ」と指示。これは2009年の7.5ウルムチ騒乱以降、胡錦濤政権が展開した経済優先の新疆融和政策を批判している内容といえる。

 

胡錦濤政権は、7.5ウルムチ騒乱の原因は当時の自治区書記の王楽泉の腐敗政治によるウイグル人搾取に対する不満と恨みがあると見た。

 

そこで、ウルムチ騒乱を鎮圧したのち、経済発展によって民族間の格差と不満を解消する比較的融和的な政策を打ち出した。だが、習近平はこれを生ぬるいと批判したのである。

 

自分の前の指導者の政治が失敗だったことを証明することで自分の政策の正しさをアピールするやり方は、中国に限らず政治家の常套手段だが、習近平の場合、胡錦濤の新疆政策を否定するために必要以上に強硬政策に転じたともいえそうだ。

 

ニューヨーク・タイムズによると、2014年ごろから登場した再教育施設と称する強制収容施設は、当初は数十人から数百人のウイグル人を収容する小型施設が多かった。

 

施設の目的は、イスラム教への忠誠を捨てさせ、共産党への感謝の情を植え付けることだった。だが、20168月に陳全国が書記になると、数週間後に地方官僚に召集をかけて、習近平の秘密講話を引用しながら、新たな安全コントロール措置と強制収容所の拡大を命じたのだという。

 

このスクープは、共産党が現在行っている新疆政策がけっして、国際社会に対し説明しているようなウイグル人の再就職支援といった「善意」の目的ではなく、また建前で謳う多民族国家や人類運命共同体といった理想とは程遠い、「専制」による民族・宗教・イデオロギー弾圧であり、支配管理強化であることの明確な証拠となるものと言えるだろう。

 

今、新疆で起きている問題は、間違いなく人道の問題なのだということを証明する内部資料という意味で、このスクープの意義と影響は大きい。【1121日 福島 香織氏 JB Press

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【香港の「新疆化」】

福島氏は更に続けて、香港の「新疆化」の懸念も指摘しています。

 

****つながっているウイグル問題と香港問題****

・・・・若者の中国専制に対する命がけの抵抗を中国は「テロ」と表現し、その弾圧を正当化しようとし、さらには、数千人の若者を「暴動」に関与したとして手当たり次第に拘束し、どこに収容されているのか、ケガの手当てがされているのか、弁護士にも家族にもわからないという人が多々存在する。

 

香港の人権団体・本土研究社によれば、深圳に近い山間部に、「反テロ訓練センター」の建設予定があり、19億香港ドルの予算が計上されているという。

 

この施設は新疆ウイグル自治区のテロ対策施設を参考にしており、実際に香港警察は2011年から毎年エリート警官を7人ずつ新疆ウイグル自治区のテロ対策施設での研修に派遣しているそうだ。

 

訓練センターには新疆と同じく反テロ再教育施設のような洗脳施設も併設されるのではないかとの話も出ている。

 

ウイグル人の中にISのテロに参与する人間がおり、香港のデモ参加者の中にも破壊活動や血生臭い暴力を振るう人はいる、というのは事実だ。

 

だが、それを理由に、ウイグル人全員、香港人全員が無差別に捕まえられ、拷問や虐待が行われていることを国際社会は座視してはいけないだろう。

 

また、どのような犯罪者にも最低限の人権があり、公正な司法プロセスに従って裁かれるのが現代文明国家を名乗る最低の条件だ。中国がその最低限の条件・法治を備えない限り、中国のテロ対策、暴徒鎮圧という建前での暴力的権力の行使に、一分の説得力もない。

 

ウイグル問題、香港問題はつながっている。それが台湾や南シナ海周辺国家や、あるいは日本に波及する可能性が、絶対ないとは言い切れない。だからこそ、私はウイグルや香港の問題に関心を持ち続けてほしいと繰り返し訴えるのである。【同上】

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