(エチオピア・アディスアベバで9月20日、中国資本によってサブサハラ(サハラ砂漠以南の地域)では初の例となる、近代的な路面電車(トラム)が開業しました。【9月28日 AFP】)
【英国内外にあふれる「中国傾斜」批判】
「大英帝国」時代の1793年、イギリスの外交官ジョージ・マカートニーは通商条約締結を求め清朝の乾隆帝に謁見しましたが、朝貢使節が皇帝に対して行う中国式の儀礼である三跪九叩頭の礼(三回跪き、九回頭を地に擦りつける)をするよう要求されました。
マカートニーはこれを拒み、最終的には清側が譲歩する形でイギリス流に膝を屈して乾隆帝の手に接吻することで落ち着きました。しかし貿易改善交渉、条約締結は拒絶され、帰国することに。【ウィキぺディアより】
時代は下って21世紀
*****21世紀の朝貢外交とダライ・ラマ効果****
・・・・2012年5月にキャメロン首相がダライ・ラマ14世と会見したことに中国は猛反発、一気に関係を冷却化させた。独仏が中国との関係を深め、次々と恩賜を戴くなか、英国だけがそでにされるという状況が続いた。
「ダライ・ラマ効果」という言葉がある。2010年にドイツ人研究者が発表した論文「Paying a Visit: The Dalai Lama Effect on International Trade」で使われた言葉だ。ダライ・ラマ14世と首脳が会見した国は、その後、対中輸出が2年間にわたり平均8.1%減少することを論証した研究である。【10月22日 高口康太氏 Newsweek】
*****************
その後、キャメロン政権は人権問題に関する批判を封じて実利外交に転換。
経済成長促進のため、中国との関係強化を最優先に掲げ、ことし3月には、アメリカの反対を押し切って中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を日米欧先進7カ国(G7)の中で最初に表明しました。
中国企業による原発投資についても、安全保障面から議会内に慎重論がある中で、オズボーン財務相が主導して押し切っています。【10月21日 毎日より】
そして今月19日、キャメロン首相は習近平国家主席を異例とも言われる厚遇でイギリスに迎え、習主席は「(両国が)黄金時代を迎えた」とも。
****英中、経済強化で合意 習主席「黄金時代迎えた」****
・・・・「我々が直面する課題に一緒に取り組んでいくことに合意できた」
キャメロン首相は21日の首脳会談後の共同記者会見で、習主席に視線を送りながらそう話した。
経済関係の強化だけでなく、貧困問題など世界規模の課題に取り組む「包括的パートナーシップ」を結んだとし、両国は「新しい時代を迎えた」と総括した。
これを受ける形で習氏は「(両国が)黄金時代を迎えた」と宣言した。【10月22日 朝日】
*********************
こうしたイギリス・キャメロン首相の中国への傾斜ぶりに、国内外から多くの批判・嘲りがなされています。
****英メディア、習主席酷評 銭ゲバ外交で女性記者が辛辣質問「モラルはどこに・・・・」****
英国を訪問中の中国の習近平国家主席に対し、英国メディアが警戒感を示している。
政府や王室の厚遇ぶりや、総額400億ポンド(約7兆4000億円)の契約締結などを連日トップ級で報じているが、人権問題を抱える共産党独裁国家や、経済最優先で「赤い帝国」にすり寄る自国政府に対して、「カネ、カネ、カネ…」などと批判的な視点で切り込んでいるのだ。「極東の未知なる指導者」への不信感も強そうだ。
キャメロン英首相と習氏は21日、ロンドン中心にある首相官邸で英中首脳会談を行った。会談後の共同記者会見では、BBCの女性記者が中国の人権問題に絡めて、強烈な質問を投げかけた。
女性記者「英国民が、民主的でもなく、透明性が足りず、人権について極めて憂慮すべき態度を取っている国との、通商拡大を歓迎するべき理由を教えてください」
やや顔を引きつらせた両首脳は、「人権を話すには経済関係の発展が重要だ」(キャメロン氏)、「中国は人権の保護を大変重視している。世界中どこをみても、人権問題は常に改善の余地がある」(習氏)と述べるにとどまった。
キャメロン氏率いる保守党政権の最大の政治テーマは、将来の展望が開けない「国内経済の活性化」だ。そこで、目をつけたのが、チャイナマネーといえる。
英国は今年3月、AIIB(アジアインフラ投資銀行)への参加を先進国の中でいち早く表明し、中国の歓心を買っていた。
首脳会談後、キャメロン氏は、中国とエネルギー協力などで総額400億ポンドの契約を締結したと語った。英南部サマセット州で2025年に完成予定の原発に、中国企業が60億ポンド(約1兆1000億円)を出資し、事業の33・5%の株式を取得することで合意したという。ロイター通信などが報じた。
このほか、経済協力のメニューには、新高速鉄道建設への中国企業の参入など、安全性や性能に疑問のあるものが並ぶ。チャイナマネーのためなら、背に腹は変えられないということか。
ただ、英国メディアは先月以降、チベットやウイグルでの人権弾圧が指摘される中国や、経済最優先で、同盟国・米国ですら懸念を示す自国政府の「中国傾斜」について、批判を隠していない。
有力経済紙、フィナンシャル・タイムズは「米国の最も信頼できる同盟国が、中国の特別な友人になれるのか?」「政府は、人権などの他の問題で中国に従う立場を取らなければならないと決めている」などと報じた。ガーディアン紙も、中国経済に依存するリスクについて言及した。
エコノミスト誌は「英国は無自覚なまま中国との距離を急速に縮めている」と警戒感を示し、保守系週刊誌のザ・スペクテーターは「カネ、カネ、カネだ。それがすべてだ。モラルはどこに行ったのか」と嘆いた。
BBCは、中国による鉄鋼のダンピング攻勢の影響で大量の失業者が出ていることをリポート。労働者が政府を批判するコメントも流した。BBCはさらに、文化大革命時代の毛沢東主席の映像を流し、習氏が毛氏に匹敵する権力の持ち主と紹介した。(中略)
評論家の宮崎正弘氏は「経済的に厳しい中国と英国が、本音を隠して接近している」といい、続ける。
「習氏とすれば、窮地にある中国経済を活性化させるため、人民元建て国債を発行してくれる英国にすがっている。アヘン戦争でやられた恨み節も話していない。英国としては、国債発行で莫大な手数料を得られる。金融街シティが潤えばいいのだろう。英国は情報機関がしっかりしているので、中国の苦しい現状は把握しているはずだ。中国は『米英同盟分断』も狙っているが、英国はそこは対象外だろう」【10月23日 夕刊フジ】
***********************
BBCの女性記者の人権問題に関する質問については、キャメロン首相は習主席の顔色を窺い心配そうでしたが、習主席の方は、当然に想定された質問ですから、「われわれは現実に即した人権発展の道を見つけた。人権は大切であるが、世界を見渡せば、すべての国で改善が必要な状況にある」とかわしています。
人権問題で批判される国との経済関係強化への批判のほか、通信機器や原子力といった安全保障に強くかかわる分野における中国資本の進出への懸念も指摘されています。
キャメロン首相としては、こうした国内外の批判は想定内のものでしょう。
財政再建を進めるイギリスとしては、老朽化が進む国内インフラ更新の資金に「中国マネー」を期待するのと同時に、今後拡大が見込まれる人民元取引を取り込むことで、国際金融センター・ロンドンの地位強化を図りたい考えであると指摘されています。【10月21日 毎日より】
どんなに批判されようと、嗤われようと、あるいは最大の同盟国アメリカから警告されようが、今のイギリスに必要なのは「中国マネー」であるとの判断のうえでの中国接近でしょうから、それはそれで尊重すべき宰相の決断です。
【確実に強まっている中国の影響力】
中国との関係強化を求めている(それを“なびく”と表現するかは別にして)はイギリスだけではありません。
****独首相、29日に訪中****
中国外務省は23日、ドイツのメルケル首相が29、30の両日に中国を公式訪問すると発表した。習近平国家主席や李克強首相らと会談し、経済協力強化などを話し合う。【10月23日 時事】
*****************
中国の経済的・政治的影響力の大きさと、今後それらがますます増大するであろうことを考えれば当然の流れでしょう。
中国の対外進出を示すものとして、アジア、ロシア、中南米、アフリカなどで展開されている、あるいは計画されている国際的巨大プロジェクトが多々ありますが、個人的に最近印象に残ったのは、エチオピアでの路面電車の件でした。
****エチオピア首都で路面電車開業、中国の大規模な出資で完成****
エチオピア・アディスアベバで20日、サブサハラ(サハラ砂漠以南の地域)では初の例となる、近代的な路面電車(トラム)が開業した。
アフリカ第2位の人口を抱える同国の首都アディスアベバでは、中国の大規模な投資によって完成にこぎつけたこのインフラプロジェクトを、経済発展における重要な一歩を画するものとして歓迎する声が上がっている。
開通式のリボンカット・セレモニーが行われる前には、すでに数百人もの住民たちが、1日で最大6万人の利用が見込まれる路面電車にいち早く乗車しようと列をつくった。
全2路線の総延長距離が34キロという路面電車は、中国鉄道グループ株式会社(CREC)が建設。総工費4億7500万ドル(約570億円)のうち85%は、中国輸出入銀行が出資した。
第1便に乗り込もうと、2時間も列に並んだというデレジェ・ダバさんは、「とてもわくわくしており、エチオピア人として誇りに思う。私たちは長い間、この時を待ちわびていた。路面電車のおかげで公共交通機関の不足が緩和されるだろう」と話した。
内中心部のカフェで働くダバさんの場合、路面電車が開通したことにより、これまでは1時間かかった通勤時間が、わずか20分にまで短縮されるという。現在のところは2路線中、南北を結ぶ路線のみの開通となっているが、来月には東西を結ぶ路線が開通する予定となっている。
また運賃は、住民たちが利用しやすいよう、30セント(約36円)未満にまで低く抑えられている。【9月28日 AFP】
********************
世界が注目する、資金力に物を言わせた巨大プロジェクトだけでなく、こうした住民生活に密着した分野でも中国の影響力が拡大しているようです。
本来なら、こうしたものこそ日本の支援で実現してほしかった感があります。
【インドネシア高速鉄道敗退の反省】
中国と日本の“力比べ”が注目された案件としては、インドネシアにおける高速鉄道建設がありますが、周知のように日本は敗退しました。
日本はインドネシアにとって最大の援助供与国ですから、日本側には「当然の日本の計画が採用されてしかるべき・・・」との思いもあったでしょう。
しかし、“2000年代に入ってからは、日本からインドネシアに対する援助の金額が減少しつつあることに加え、インドネシアからの円借款の償還が増えているため、全体としては貸す金額よりも返済される金額の方が多い状況になっている。”“インドネシア政府に対して影響力を及ぼせる有力政治家も、日本にはいまや存在しない”【10月22日 川村晃一氏 フォーサイト】というのが現実です。
*****「上から目線」を改めよ****
・・・・いまのインドネシアに「日本ロビー」は存在しない。
しかし、たとえそのような人物がいたとしても、日本の新幹線がインドネシアに採用されたかどうかは分からない。
インドネシアは、スハルトという大統領1人の一存ですべてが決まる独裁体制から、民主体制へと大きく変貌した。
また、インドネシアにとって、日本はもはや最大の友好国ではない。
インドネシアと手を結びたいと考える国は、世界に数多く存在する。インドネシアは、この中から自国にとって最も有利な相手を選べるのである。
日本は、今回の「敗戦」を、「最大の援助供与国」という過去の地位に甘え、いつまでもインドネシアが日本に頼ってくるであろうという「上から目線」の態度をあらためるきっかけとしなければならない。【同上】
**********************
【願望ではなく、現実を直視した戦略を】
中国経済の“崩壊”を予想する指摘は多々あります。
共産党一党支配の将来的危うさを指摘する声も多々あります。
ただ、そうしたものは昔から多々ありましたが、今日の状況に至っています。
経済について言えば、どこの国であれ、何らかの“重大な調整局面”が訪れるのは当然のことですが、それが“崩壊”と言えるかどうか・・・・?
日本でこの種の議論が今も昔も氾濫しているのは、多分にそうなって欲しいという“願望”の変形でしょう。
もちろん中国の国内統治には是正すべき問題が多々あります。
外交においても、眉をひそめたくなるも多々あります。
日本との関係で、苛立ちを感じるものも多々あります。
しかし、いつの日か厄介な中国が消えてなくなる日が来てほしいという“願望”と、かつてアジア世界においては日本が唯一の先進工業国であったという過去の栄光にすがってみても仕方がありません。
また、“力勝負”を挑むだけでは、状況は益々不利になります。
頼りにするアメリカの支援も・・・・どうでしょうか。
****10年後の中国、影響力増=米はアジア介入に消極的―日米中韓世論調査****
日米中韓4カ国でこのほど実施された世論調査で、今後10年間にわたってアジアにおける中国の影響力が増大するとの回答が、いずれも半数を上回った。一方、米国の10年後の影響力は「現状維持」とみる回答が各国で最も多かった。日本の民間団体「言論NPO」が20日、調査結果を発表した。
10年後の中国が影響力を増すとみるのは、日本では60%、米国で52%と半数を越えた。中韓では8割以上だった。
オバマ米政権は、アジア太平洋に安保戦略の重心を移すリバランス(再均衡)政策を打ち出している。ただ、米国の影響力が増大するとの回答は日中韓で3割に満たず、米国でも31%にとどまった。
アジア地域での米軍駐留に関しては、「現状維持」を求める答えが日米韓で半数を超えた。
他方、米国民の間では、米軍の東アジアでの紛争介入に消極姿勢が広がっている。尖閣諸島をめぐる日中の軍事衝突への介入に64%が反対。北朝鮮による日本や韓国への侵略では賛否が4割台で拮抗(きっこう)した。【10月20日 時事】
********************
もちろん、日本と中国の間には、英中関係などとは比較にならないいろんな事情がありますので、同じような対応になるものでもありません。ましてや“叩頭”外交を勧めるものでもありません。
ただ、世界で、日本の周囲で現実に起きていること、これから起こるであろうことを直視し、また、日本が避けられない少子高齢化社会という未来を踏まえて、中国や世界への向き合い方を考えていく必要があります。
****英中首脳がパブで乾杯・・・習氏側要望、庶民の味も****
キャメロン英首相は22日夕、中国の 習近平 ( シージンピン )国家主席をロンドン近郊の首相別邸近くにあるパブに案内した。
ノーネクタイ姿の両首脳はビールで乾杯。庶民の味フィッシュ・アンド・チップスをつまんだり、居合わせた客らと談笑したりした。
地元紙の報道によると、習氏側が事前にパブ行きを要望していたという。【10月23日 読売】
*******************
訪米ではローマ法王の影に隠れ、オバマ大統領との対立も解けなかった習主席ですが、イギリスでの居心地は満足しているのではないでしょうか。
中国が鉄道開発を受注すれば、インドネシアを批判し、
南京虐殺の資料が登録されれば、ユネスコを批判し、
英中が接近すれば、英国を批判する。
中国はいずれ崩壊するなどと言った願望論にすがり、
見たくない銀実は見ない振りをする。
自らの立場や振る舞いを客観視できない、
まるで幼稚なガキである。
どうしようもない国になった。