孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

国連設立70年 機能不全が言われて久しい安保理  変容するPKO

2015-10-24 23:31:30 | 国際情勢

(発足70年を記念しライトアップされた米ニューヨークの国連本部=23日、ロイター 【10月24日 毎日】)

【「国連の青い旗は全人類にとって希望の旗印だ」】
今日10月24日は国連が誕生して70年を迎える日ということで、国連のシンボルカラーの青色に染めるイベントが東京スカイツリーや中国の万里の長城など世界約60か国、約200か所で行われるそうです。

ただ、世界平和と人類幸福をリードすべき国連の設立70年記念行事としては、やや小規模で地味な感も。
そのあたりが、国連の置かれている現状、抱えている問題の多さを反映しているとも言えます。

国連総会は23日、国連設立70年を迎えるのを機に記念宣言を採択しました。
採択された宣言は、人権の尊重、女性の権利の重要性に触れ、「貧困の撲滅が世界最大規模の課題だ」と訴えた。先月採択された2030年までの新しい開発目標の実現に向けて取り組む決意を強調しています。

しかし、国連70年の歴史は、理想と現実のギャップの歴史でもあります。

****<国連>「青い旗は希望の旗印」・・・発足から70年 光と影****
国連は24日、発足から70年を迎えた。第二次世界大戦を防げなかった反省を踏まえて創設され、加盟国はこの間51から4倍近い193に増えた。

一方、内戦5年目のシリアでは犠牲者が20万人を突破するなど、紛争や抑圧で家を追われた人々は世界中で6000万人に達し、戦後最悪の状況が続いている。国連憲章第1条に掲げられた「国際平和と安全の維持」という理想の実現は、まだ遠い。

国連総会は23日、記念会合を開催。潘基文(バンキムン)事務総長は「70年たった今も、国連の青い旗は全人類にとって希望の旗印だ」と評価する一方「我々の取り組みはまだ完全ではない。暴力と貧困、疾病、虐待は今でも多くの人々を苦しめている」と強調。

「よりよい世界のために強い国連が必要だ」と述べ「すべての人にとって、より良く、明るい将来を目指すという誓約を再確認しよう」と呼びかけた。会合では「国連憲章の目的と原則を今後も変わることなく守っていく」ことなどを誓った決議が採択された。(後略)【10月24日 毎日】
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大国の利害対立で機能しない安保理 拒否権を手放さない米中ロ
国連の抱える問題は多岐にわたり、それらへの回答が明示できるのであれば世界平和と人類幸福も達成できるという、即ノーベル平和賞ものですが、当然ながら明確な処方箋は未だありせん。

多岐にわたる問題のなかの大きなもののひとつが安保理の機能不全、その中核にある安保理常任理事国の拒否権の問題です。

****時代遅れの構造****
第2次世界大戦後に誕生した国連は、人類の未来への最大の希望として迎え入れられた。その当時からの課題が、世界情勢の変化に取り残されないことだ。

だが、国連の主要機関である安全保障理事会は、いまだに戦後から脱し切れていない。安保理の常任理事国は、戦勝国の中国、フランス、ロシア、英国、米国が独占したままで、それぞれが拒否権を行使できる。

まさにこうした組織の停滞性が、シリアやウクライナの危機に際して国連がうまく対応できていないとの批判を引き起こしている。

コフィー・アナン前事務総長は最近、「新たに常任理事国の数を増やさなければ、 世界情勢に対する安保理の影響力は次第に低下するだろう」と述べた。しかし、常任理事国は独占的な権力を手放す、ないしはそれを分かち合うことに対し極端に消極的だ。(中略)

ジュネーブのスイス国連大使、アレクサンダー・ファーゼル氏は、小さな改革は可能だと考える。「安保理の作業方法は改善された 。公開討論の導入がその好例で、理事会の透明性を向上させようという努力がうかがえる。

また、(大量残虐行為の防止や終結を目的とした決議では拒否権を発動しないといった提案では)フランスのような常任理事国ですらこれを支持するなど、理解が広がっている」【10月23日 スイスインフォ】
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第二次世界大戦の主な戦勝国である常任理事国(アメリカ・イギリス・フランス・ロシア・中国)の一か国でも反対すれば何も行動が起こせないという拒否権の乱発は、冷戦下の多くの紛争や、現在のシリアやパレスチナの問題の解決を遅らせてきた大きな要因です。

拒否権の是非はさておき、この拒否権問題を何らかの形で改革するためには国連憲章改正が必要であり、そのためには総会での議決の他、拒否権を持つ常任理事国すべての批准が必要です。ということは、実現は殆ど不可能に近いとも言えます。

非人道的な虐殺行為が発生した場合、常任理事国は拒否権を発動しない・・・という「行動規範」も多くの国によって署名されていますが、肝心の常任理事国のロシア、中国、そしてアメリカが賛同していません。

****国連70年】安保理「機能不全」打開に日本など104カ国が「反対しない」誓約に署名 中露米は賛同せず****
国連創設から24日で70年となるのを前に、加盟国(193カ国)の半数以上にあたる104カ国は23日、非人道的な虐殺行為が発生した場合、安全保障理事会に提出された関連決議案に反対しないと誓約する「行動規範」に署名した。

シリア内戦の解決を目指す決議案にロシアと中国が拒否権を行使するなど、安保理が「機能不全」に陥っている状況を打開するためのもので、常任理事国からはフランスと英国が賛同したものの、ロシアと中国、米国は賛同しなかった。

規範作成を主導したのはリヒテンシュタインなど27カ国で作る「ACT」グループ。規範は、虐殺や戦争犯罪阻止に向けた「説得力ある決議案に(誓約国は)反対しない」と規定。発生した「暴力」を「虐殺」と認定するのは事務総長であると規定している。

現在の非常任理事国からはスペインが賛同したほか、2016〜17年に非常任理事国を務める日本やウクライナ、ウルグアイも賛同した。ドイツやイタリアなどの大国も賛同した。

署名に先立ち、フランスのファビウス外相は9月下旬、虐殺行為があった場合、常任理事国5カ国は拒否権を使うべきでないと提言し、約75カ国が賛意を示した。

しかし、中露は拒絶を表明したほか、パレスチナ問題関連の決議案に拒否権を行使してきた米国も慎重姿勢を見せていた。

国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」(HRW)は23日、「(多くの加盟国が署名したことで)虐殺問題の決議案に反対すれば、より多くの『政治コスト』が伴うことになった」と指摘した。

潘基文(パン・ギムン)事務総長は同日、国連本部で行われた創設70年の記念討論会合で、「国連の青い旗は人類全体にとって希望の旗だ。より良き世界の構築に向け、強い国連が必要だ」と強調した。【10月24日 産経】
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この問題に意欲を見せている(その真意はわかりませんが)のがフランスです。

フランスはすでに2001年の段階で、国連安全保障理事会の常任理事国は、大量虐殺のような犯罪行為に歯止めを掛ける事案に関しては拒否権の行使を控えるべきだという提案を持ち出しており、今年9月28日の一般討論演説で、オランド大統領「大規模な残虐行為に関して、安全保障理事会常任理事国が拒否権を使えなくなることを望む」と、改めてこの問題を提起しています。

フランスの構想は、国連憲章改正まで踏み込まず、自主規制にとどまるものですが、“「大衆受けを狙った提案だ。フランスが自国の拒否権を制限したければ、どうぞ、おやりなさい」。ロシアのチュルキン国連大使は先月の記者会見で、フランスの「本気度」をあざ笑った。”【10月24日 毎日】とのこと。

【「1国1票」の国連総会 肥大化して非効率な国連組織
大国利害が対立した際の安保理の機能不全も問題ですが、それでは安保理を機能を縮小して、代わりに国連総会の意思決定をより重視する方向がいいのか・・・というと、躊躇するところもあります。

12~13億人の人口を有する中国やインド、あるいは米ロといった国も1票、失礼ながら多くの人が名前も聞いたことがない国、人口1万人ほどのナウルやツバルなども1票という現状にあって、こうした「1票の格差」の問題とは別に、総会決議の重みに懐疑的になることもあります。

10月6日、国連の関連事業などで便宜を図る見返りに、中国の不動産事業者らから計130万ドル(約1億5000万円)を超す賄賂を受け取った疑いで、元国連総会議長がアメリカ連邦検察によって逮捕される事件がありました。

逮捕されたアッシュ元国連総会議長は、カリブ海の島国アンティグア・バーブーダ出身ですが、私はこの国の名前を始めて聞きました。人口は9万人ほどの国のようです。日本で言えば、ちょっとした市程度の人口です。

そうした国から国連に送り出された人間が、権限は少ないとは言え、一般討論の司会などを担当する国連総会議長(事務総長に次ぐ国連の顔とも)に地域の持ち回りで決まるという国連総会とは一体何なのか?という疑問も。
相当に偏見に満ちた疑念であることは認めますが・・・。

肥大化した国連組織の非効率性も問題とされています。

***ニーズの増加***
国連で最大の権力を持つ安保理が1945年代に留まっている一方で、実際のオペレーションにおいて国連は、ニーズに応じて拡大の一途をたどってきた。

職員の総数は8万5千人。年間予算は400億ドル(約4兆7700億円)と、20年間で約4倍に膨れ上がった。だが、資金面では、専門機関の間の熾烈(しれつ)な競争が妨げとなり、困難な状況が続いている。

現在国連は、独自の予算で独自に総会を開く20の専門機関を抱える巨大な組織に成長した。ところが全体を概観・統括する組織が存在しない。世界保健機関(WHO)がエボラ熱流行の兆しをもっと早く把握できなかったのは、この複雑化した構造のためだと批判されている。

「個人的には、国連の問題は規模が拡大したからではなく、組織が個々に分断されている点にあると思う。スタッフ採用にせよ、支出にせよ、適切に管理するのは至難の業だ。さらに、この巨大な組織を管理する実務面が、加盟国によって押し付けられた国連独自のルールで細部まで規定されており、身動きが取れなくなっている」(モラー事務局長)【10月23日 スイスインフォ】
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【「平和維持」から「平和強制部隊」へ
機能不全を言われながらも、国連が拡大してきた任務が平和維持活動(PKO)です。

“1945年に発足した国連の功績の1つは平和維持活動(PKO)だ。紛争が絶えないアフリカなど16カ国に総勢12万人以上を展開。PKO部隊が派遣されたインドシナが今、「繁栄のエンジンになっている」(国連外交筋)のは、部隊派遣の成果といっていい。【10月23日 産経】

拡大するPKOは、当初の「平和維持」という任務から、平和が存在しないとも言える地域で、武力によって強制的に平和を作り出す任務へと変容しつつあります。

****PKO拡大、近づく危険 コンゴ民主共和国に「介入旅団****
・・・・強力な部隊が不可欠だ――。国連安全保障理事会は13年、PKOの「例外」として介入旅団の設置を決めた。任務は「武装勢力の無害化」「攻撃作戦」と明記された。住民や国連への攻撃を待つ必要はない。

このPKO「コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)」のトップ、マーティン・コブラー事務総長特別代表は「無害化とは、最終的に武装勢力(の脅威)を消すということだ。投降に応じなければ、攻撃を加える。これが基本方針だ」と言い切った。

拡大するPKOは、新たな課題にも直面している。その一つが、テロ組織などとの「非対称戦」にどう対処するかだ。

「PKOは非対称戦に向いているか? 私はノーと答える」
6月の国連安保理。西アフリカ・マリに展開するPKOのマイケル・ロレスゴールド軍事司令官が訴えた。

ロレスゴールド氏が今春赴任したマリでは、アルカイダ系武装勢力が、PKO隊員を狙った仕掛け爆弾(IED)や自爆攻撃を繰り返す。世界で最も危険な任地になっている。

ロレスゴールド氏の訴えは、対テロの前線に部隊を出しておいて、十分な訓練も施さない安保理への不満とも受け止められた。

PKOに詳しいジョージ・ワシントン大のポール・ウィリアムズ准教授は「マリやコンゴの部隊は、維持する平和があると想定できない地域に出ている。コンゴの介入旅団は殺傷的な武力行使を認められており、平和『維持』ではなく、住民を標的にする武装勢力に対する平和『強制』の任務になっている」と話す。【10月24日 朝日】
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アメリカの思惑 中国の影響力拡大 日本の対応
こうしたPKOの変容を、アメリカが「国際的な負担分散」として推進しているという実態もあります。

****負担分散」米は強化主張****
・・・・そんな中、さらにPKOを強化するよう呼び掛けるのが米国だ。米国は、自国の直接の脅威でない問題には多国間の「集団的行動」で対応する方針で、PKOを「国際的な負担分散」と位置づける。

9月にオバマ大統領も出席し、ハイレベル会合を国連本部で開催。約50カ国が貢献策を表明し、約4万人の新たな要員派遣が可能になった。

一方、対テロの現場への深入りを懸念する声も根強い。ノーベル平和賞受賞者ラモス・ホルタ氏(東ティモール元大統領)ら専門家が出した国連報告書は「対テロ軍事作戦」は当事国や地域連合軍の役割だとして、PKOに負わせるべきではないと主張した。

PKOに詳しい米ニューヨーク大のリチャード・ゴーワン教授は「安保理の常任理事国、特に米英仏には、より強力な部隊をPKOに求める衝動がある。国連報告書は、PKOを武力行使の方向にプッシュしすぎないで欲しいとの警告だ」と指摘している。【同上】
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日本は現在、南スーダンのPKOに自衛隊が参加していますが、日本もPKOの変容に対応して、派遣している陸上自衛隊の武器使用基準を緩和し、来年5月の部隊交代に合わせて任務に「駆けつけ警護」を追加する方針です。

ただ、武装勢力から住民を守るため、強力なパトロールで住民に安心を与えると同時に武装勢力を威圧し、必要に応じて武装勢力と交戦する、平和強制のための「介入旅団」への参加は想定していないとのことです。

****自衛隊の参加「想定しない****
9月に成立した安全保障関連法の国会審議で、政府は自衛隊派遣の対象が拡大されても、紛争当事者間の停戦合意成立などの「PKO参加5原則」は変えないと説明した。政府関係者は「5原則があるので、介入旅団への参加は想定していない」と話す。

一方で、安保法により、離れた場所で襲われた他国軍や民間人を助けに向かう「駆けつけ警護」が可能になった。
また、自衛隊員が武器を持って巡回や検問などの地元住民を守る活動に参加できるようになる。

こうした任務を行うため、武器の使用基準も緩和された。例えば駆けつけ警護に向かう途中、妨害する武装勢力を排除するために武器が使えるようになる。【同上】
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現在、PKOへの派遣人員の多い国はインド、バングラディシュ、パキスタン、エチオピア、ルワンダなどで、経済面で遅れている国が「費用獲得」を主たる目的にPKOに参加する場合があるとも言われています。

そうしたPKO参加部隊の起こす犯罪行為も問題となっています。

一方、中国・習近平国家主席は9月29日の国連総会演説で、PKOに対応するための8000人規模の待機部隊を設立することを明らかにしています。
今後、この分野でも存在感を強める方針のようです。

PKO予算でも中国は日本を抜き、発言権を強めそうです。

****中国のPKO予算2位に=16〜18年、日本3位に低下―国連試算****
2016〜18年の国連平和維持活動(PKO)予算の分担率試算が21日までにまとまり、日本が米国に次ぐ2位から3位に低下する一方、中国が6位から2位に浮上したことが分かった。(後略)【10月22日 時事】
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15日に行われた安全保障理事会の非常任理事国5カ国の入れ替え選挙で、日本は当選回数は国連史上最多の11回となる非常任理事国に選出されています。

日本は安保理の枠組みを改正して常任理事国となることを、ドイツ・インド・ブラジルとともに働きかけていますが、自国の利益を損なう可能性のある国々(韓国や中国など)の反対が強く、実現は難しそうです。

常任理事国を希望という話になると、これまで以上のPKOなどへの関与を求められることも考えられますが、そのあたりを政府はどのように考えているのでしょうか?

個人的には、PKOに参加する以上は住民保護のための武力行使を求められるような場面もやむを得ないと考えています。ただ、そうした武力行使が不必要に拡大しないためにも制度的制約はあった方がいいとも考えています。

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