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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  旧植民地アルジェリアとの間でこじれる移民の強制送還問題

2025-04-06 23:25:12 | 欧州情勢

(アルジェリア・アルジェ市内を行進する「アルキ」(1957年5月8日撮影)

****マクロン氏、「アルキ」への冷遇を謝罪 アルジェリア戦争で仏に協力****
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は(2021年9月)20日、フランスの植民地だったアルジェリアの国民が独立を求めて戦った1954~62年のアルジェリア戦争で、フランス側に協力したアルジェリア人兵士「アルキ(Harki)」を冷遇したことについて、国家を代表して謝罪した。

アルジェリア戦争では、現地の20万人以上がフランス軍に協力して独立勢力と戦った。しかし終戦時、フランス政府は保護を約束していたアルキをアルジェリアに置き去りにした。

取り残されたアルキの多くは、独立後のアルジェリアで報復の対象となり虐殺された。フランスに逃れることができた人々について、政府は当初、滞在資格を否定。多くが家族と共に収容所に送られ、劣悪な環境での生活を強いられた。

マクロン大統領は、アルキとその親族ら約300人を招いてエリゼ宮(大統領府)で式典を開き、アルキへの感謝を表明。さらに、フランスは「アルキやその妻子に対する義務を怠った」と認め、「私は許しを乞う。われわれは忘れない」と述べた。【2021年9月20日 AFP】
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「アルキ」冷遇への謝罪ではありますが、アルジェリア植民支配・弾圧についての謝罪ではありません。

フランス歴代政権はいくつかの「認識」や「遺憾の意」を表明しており、特定の事件については責任を認める発言もしていますが、アルジェリア植民支配・弾圧について明確で公式な「謝罪(pardon)」はしていません。)

【移民社会の悩み】
フランスは人口に占める移民の割合が2023年の推定で10.7%という移民社会です。

出身国別にはアフリカ出身者が移民全体の約48.2%を占めていますが、特に旧植民地の北アフリカが多くなっています。(アルジェリア: 12.5%モロッコ: 11.9%チュニジア: 4.7% )【以上、チャットGPTより】

そうした移民社会であるがため、どうしても差別や暴動といった軋轢も多く、また、テロ事件も。

****仏で刃物による襲撃 1人死亡 大統領「イスラム過激派のテロ」****
フランス東部で(2月)22日、刃物による襲撃事件があり、1人が死亡しました。(中略)

AFP通信などによりますと、22日夕方、フランス東部ミュルーズで、刃物を持った男が警察官に襲いかかり、仲裁に入ろうとしたポルトガル人の男性1人が死亡したほか、警察官数人がけがをしたということです。警察はその場で37歳のアルジェリア人の男を逮捕しました。

男はアラビア語で「神は偉大なり」と叫びながら警察官を襲ったほか、当局のテロ監視リストに載っていて、国外退去命令を受けていたということです。

今回の事件についてマクロン大統領は「イスラム過激派によるテロ行為であることは間違いない」と非難したうえで「テロを根絶するため、あらゆる努力を続ける」と訴えました。

フランスの当局はテロ事件として事件の詳しいいきさつなどについて調べています。【2月23日 NHK】
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この事件は、逮捕された人物についてこれまでもフランスはアルジェリアに強制送還しようとしていたが、アルジェリアがこれを拒否してきたという経緯があって、後出のように強制送還のあり方が問題化しています。

昨年末以来、中心部にある劇場をアフリカ出身のホームレスの若者が不法占拠した事件も記憶に新しいところです。
この件は、3月18日、警察が実力で移民の若者らを排除しました。

****パリ 移民の若者らが劇場を不法占拠 警察が追い出す****
フランス・パリで、移民の若者らが劇場を3カ月以上、不法占拠していた問題で、警察が18日、若者たちを劇場から追い出しました。

パリ中心部にある劇場「ゲイテ・リリック」では、主にアフリカ出身のホームレスの若者らおよそ450人が3カ月以上、不法占拠し、運営ができない状態が続いていました。

裁判所が定めた今月(3月)12日の退去期限を過ぎても、占拠が続き、18日、警察が強制的に若者らを退去させました。 若者らの支援者を含む46人が逮捕され、9人がけがをしました。

ギニア出身の自称16歳
「行くところがなく、外で寝ていたが、この冬は本当に寒かったので、屋外で夜を過ごさなくて済むように屋根が必要だった。だから、『ゲイテ・リリック』を占拠するしか選択肢がなかった」

警察が18日の介入を予告していたため、劇場で寝泊まりしていた若者の多くは、前日の夜までに退去していました。
 行政が用意した代わりの宿泊施設に移動したのは、6人のみだったということです。【3月19日 テレ朝news】
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この不法占拠移民はサハラ以南のアフリカ出身者が多かったようです。移民に多い北アフリカ出身者のような強固なコミュニティをまだ築いていないせいでしょうか。

【アルジェリアとの間でこじれる「強制送還」問題】
上記のような事件からも推測されるように、移民に対する世論の警戒感も強まっており、アメリカ同様に「強制送還」も課題となっています。

今年1月にはアルジェアが強制送還者の受入れを拒否し、この問題がクローズアップされるようにもなっています。

****アルジェリアとフランスの関係が緊張、インフルエンサーの強制送還押し戻しで****
アルジェリアとフランスの間の関係が緊張している。アルジェリアへの送還者が、アルジェリア側の拒否によりフランスに戻された件で、ルタイヨー内相は10日、アルジェリアはフランスを辱めようとしている、などと述べて厳しく批判した。

アルジェリア出身のインフルエンサーらはこのところ、アルジェリアの反体制派に対する暴力的制裁を呼びかける投稿を頻繁に行っており、仏政府は態度を硬化させている。

そのうちの一人である「Doualemn」ことブアレム・ナマン氏(59)は、そうした投稿を行ったことを理由に逮捕され、9日に強制的な送還が執行された。

しかし、アルジェリア当局は、ナマン氏が「入国禁止措置」の対象であることを理由にその再入国を拒否したため、フランス側は同氏を連れ帰らなければならなくなった。同氏は現在、フランスで勾留の対象となっている。

フランス側は、アルジェリアの対応について、再入国を拒否する妥当な理由がないとして、悪意のある決定であるとみなしている。

フランスとアルジェリアの関係は本来、良好であるとは決して言えないが、フランスが西サハラ問題でモロッコ寄りの姿勢に切り替えて以来で目立って緊張している。

アルジェリア政府は、フランスに居住し、先に帰国した反体制派の作家サンサル氏を逮捕したが、これが両国の間で舌戦を招き、それと呼応して、アルジェリア出身のインフルエンサーらが反体制派叩きを展開、これが両国間の緊張をさらに高める構図になっている。 

フランスでは、アルジェリアとの関係見直しを求める声も上がっている。アタル元首相は、アルジェリア出身者の受け入れに関して、他の外国の出身者よりも有利な条件を設定している1968年の二国間協定を破棄するよう求める意見を表明。政府部内でも、タカ派のルタイヨー内相をはじめとして、アルジェリアに対する強硬論が強まっている。【1月13日 エトワ】
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次期大統領選挙への出馬が困難となったとされる司法判断に関して先日も取り上げた極右政治家ルペン氏は、トランプ米大統領の強硬姿勢を倣うべきとの見解を示しています。(なお、ルペン氏の裁判は控訴審が非常に早いスケジュールで行われる異例の対応になったようで、そこで無罪になれば出馬も・・・といった状況のようですが、無罪は難しいでしょう)

****仏極右ルペン氏、トランプ米大統領の強制送還巡る強硬姿勢に同調****
フランス極右政党、国民連合(RN)の指導者マリーヌ・ルペン氏は(1月)29日に放映されたテレビインタビューで、フランスは旧植民地アルジェリアに対してより強い姿勢を取るべきで、強制送還者の受け入れを拒む国々に対するトランプ米大統領の強硬姿勢を倣うべきとの見解を示した。

トランプ氏は、南米コロンビアが米国から強制送還された不法移民を受け入れない場合、コロンビアに関税と制裁を課すと警告。最終的には貿易戦争を回避するため、合意が成立した。

ルペン氏の発言は、トランプ氏の移民に対する強硬姿勢が欧州の政策に影響を与えることを浮き彫りにしている。欧州ではトランプ氏の人気は高くないものの、長年にわたる移民問題に対して強硬な意見が強まっており、かつては考えられなかったトランプ氏の主張に共感する有権者が増えている。

フランスのルタイヨー内相はアルジェリアとモロッコにフランスからの強制送還者の受け入れを増やすよう求めているが、ルペン氏はこうした対応が不十分だと批判している。【1月31日 ロイター】
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問題がこじれる背景にはフランスへの旧植民地アルジェリアの根深い反発があります。

****フランス、旧植民地アルジェリアと「移民対立」 強制送還の受け入れ求め、こじれる関係****
フランスと旧植民地アルジェリアが移民問題で対立を深めている。仏側がアルジェリアに強制送還の受け入れを求めるのに対し、アルジェリアは「押し付けるな」と反発し、批判の応酬が続く。

マクロン仏大統領は旧植民地との関係改善を目指してきたが、歴史に根ざす確執克服の難しさが浮き彫りになった。

国外退去、実現1割以下
「移民対立」が火ぶたを切ったのは今年1月。仏当局が南仏在住のアルジェリア人を「交流サイト(SNS)で暴力を扇動した」として逮捕し、強制送還しようとしたことだった。アルジェリア政府は受け入れず、身柄は飛行機でフランスに戻された。

2月にはイスラム過激派とみられるアルジェリア人の男が仏東部でテロ事件を起こし、1人を刺殺した。テロ礼賛の言動で有罪判決を受け、強制送還の対象となった人物だと発覚。

バイル仏首相は「アルジェリアに10回受け入れを拒否された」となじり、圧力をかけるため、強制送還の対象者約60人の名簿を突き付けた。

アルジェリアは取り合わず、仏閣僚や与党重鎮から「わが国への侮辱」「対抗措置を」など怒りの声が出た。

仏統計によると昨年、アルジェリア人不法滞在者は国別最多の約3万4千人で、国外退去に至ったのは約3千人にとどまる。仏側にくすぶっていた不満が噴出した形だ。

国境紛争で態度硬化
今回の移民対立には伏線がある。昨年夏、アルジェリアとモロッコの国境紛争で、フランスがモロッコ寄りの姿勢を表明したことだ。

米国やスペインと歩調を合わせたものだったが、アルジェリアのテブン大統領は激怒し、駐仏大使を召還した。テブン氏は移民問題ではかねて強硬派で、仏紙との会見で「アルジェリア人は(フランスが植民地支配を続けた)132年分のビザ(査証)をもらってもよいではないか」と歴史に重ねて皮肉を言ったこともある。

仏在住のアルジェリア人は約87万人で、2世を加えると約200万人とされる。モロッコなどほかの旧植民地と異なり、フランスが2国間協定により家族呼び寄せで優遇措置を認めたことが背景にある。

アルジェリア移民の多くは両国に親族を持ち、経済交流の担い手となっていることから、故国での影響力は強い。ビザ削減や協定見直しをほのめかす仏側に、アルジェリア政府は対抗姿勢を示さざるを得ない。

「未来志向の関係」難航
アルジェリアは1962年、フランスから独立した。血みどろの独立戦争の記憶が残り、両国関係は常に緊張をはらんできた。

マクロン氏はアルジェリア独立後に生まれた初の仏大統領で、未来志向の関係作りを目指してきた。2017年の大統領就任直前、植民地支配は「人道に対する罪だ」と発言し、右派の反発を浴びながらも相手国の感情に寄り添おうとした。仏当局がアルジェリアで独立派を拷問してきた歴史を認め、両国の歴史家による共同研究も提唱した。

今回の移民対立でマクロン氏は「敬意を持って対話を」と述べ、アルジェリア批判を続ける閣僚をけん制した。3月31日にはテブン大統領と電話会談を行い、関係改善に向けた共同声明を発表した。

ロシアや中国が北アフリカで影響力を強める中、外交関係を重視したとみられている。一方、仏世論調査では8割が「強制送還に協力しないなら、ビザ発給を差し止めよ」と強硬策を求めた。国民の不法移民への不安が広がる中、マクロン氏は難しいかじ取りを迫られる。【4月6日 産経】
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日本と中国・韓国の関係が複雑で、簡単には説明できないように、また、歴代政権の対応にも差があるように、フランスとアルジェリアの関係も複雑で、歴代政権で差があります。

そのあたりは一部、2023年9月11日ブログ“モロッコ地震  旧宗主国フランスからの支援を受入れを渋るモロッコ 微妙な仏・モロッコ・アルジェリア”でも取り上げましたが、“右派の反発を浴びながらも相手国の感情に寄り添おうとした”というマクロン大統領自身の発言がアルジェリア側の反発を招くようなこともありました。

フランスとアルジェリアの間には、植民地支配・独立戦争という「負の遺産」があり、マクロン大領は過去の清算を行いたいようですが、アルジェリア指導部の抵抗で清算が進まない事態に苛立ちも。

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アルジェリアにおけるフランスの植民地支配の負の遺産から脱却したいというマクロン大統領の長年の願望と、彼が持つアルジェリア当局がそうした負の遺産に固執しているという印象と不満は、昨年大きな問題を引き起こし、今回の訪問にも影を落とすかもしれない。

選挙運動中にマクロン大統領は、アルジェリアの国民性はフランスの支配下で鍛えられたものであり、同国の指導者はフランスへの憎しみに基づいて独立闘争の歴史を書き換えてしまったと示唆したのだ。

その結果、アルジェリアはフランス大使を召還して協議し、領空をフランス機に対して閉鎖する事態となった。このため、サヘル地域(サハラ砂漠南縁部)でのフランスの軍事作戦の輸送ルートも複雑化した。【2022年8月25日 ARABNEWS】
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上記のような“こじれ”を正すこ狙いと、更に資源確保の思惑もあって、マクロン大統領は2022年8月にアルジェリアを訪問しました。

****フランス、アルジェリアと関係改善探る 中ロの接近警戒****
フランスのマクロン大統領は(2022年8月)27日、アルジェリアのテブン大統領とエネルギー分野の連携強化などを盛り込んだ共同声明に署名した。

中国、ロシアのアルジェリアへの接近を警戒し、旧宗主国として関係改善を模索する。天然ガス産出国のアルジェリアに欧州への供給増を働きかける狙いもある。

マクロン氏は25~27日にアルジェリアを訪問した。共同声明は「両国は新たな関係を始める」と明記し、天然ガスや水素分野などでの協力強化を宣言した。アルジェリアがフランスから独立した独立戦争(1954~62年)を巡り、歴史検証委員会を共同で立ち上げることでも合意した。

訪問の背景には、中ロのアルジェリア接近への危機感がある。中国は5月、アルジェリアと事業費4億9千万ドル(約670億円)の石油開発で合意した。

タス通信によると、ロシアとアルジェリアは11月「砂漠の盾2022」と名付けたテロ対策の軍事訓練を初めて共同で実施する予定だ。

米欧が主導する国際秩序に対抗するため、中ロはアフリカ大陸との関係強化を目指している。

一方の(アルジェリア大統領)テブン氏は7月末、メディアのインタビューに「(中ロなどでつくる)BRICSに興味を持っている。経済的にも政治的にも力を持っている」として参加に関心を示した。BRICSはウクライナ侵攻で孤立を深めるロシアが重視している。

仏・アルジェリア関係は独立戦争などを巡る長年のしこりがある。フランスが独立運動を激しく弾圧したことや、仏軍側に立って戦ったアルジェリア人「アルキ」を見捨てた過去があることが今も不信感につながっているためだ。

マクロン氏が2021年「フランスが植民地化する前にアルジェリアという国はあったのだろうか」「アルジェリアのシステムは疲弊している」などと発言したことも、関係悪化に拍車をかけた。

マクロン氏は今回の共同声明を関係修復に向けた一歩と位置付け、中ロとの接近を食い止めたい考えだ。アルジェリアでは広くフランス語が通じ、多くのアルジェリア移民がフランスに渡っている。経済面の協力をもとに関係改善を進めやすいとみている。

アルジェリア産天然ガスの欧州への供給増を求める狙いもある。ウクライナ危機に絡んでロシアが欧州連合(EU)への供給量を絞っており、欧州各国は代替の調達国を探す必要がある。(後略)【2022年8月28日 日経】
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この訪問のあと、アルジェリアは2022年11月にBRICSへの加盟申請を行った旨を公表しています。

上記のようにフランスとアルジェリアの間には植民地支配の負の遺産とも言うべき問題(アルジェリア側の不満。それへのフランス側の苛立ち)が横たわっており、そのことが「強制送還」問題を難しくしています。
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