孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スーダン  戦闘開始から2か月 見えない“終わり” 増加する犠牲者・難民 拡散する飢餓の脅威

2023-06-16 23:38:53 | スーダン

(チャド東部で、国連WFPがスーダンから新たに到着した避難民に食料を配布している様子【6月5日 国連WFP】)

【実効の疑わしい停戦を繰り返しながら、戦闘は拡大 終わりは見えず】
軍と準軍事組織が武力衝突を始めてから15日で2か月となったスーダン。
ウクライナ軍の反転攻勢などが国際的に注目を集めるなかでは、次第に世間の関心も薄れ、やや「賞味期限切れ」状態にも。

「停戦合意」という記事はときおり目にしますが、必ず「しかし、戦闘は続いている」という記事がそのあとに。
今月10日も、サウジアラビア・アメリカの仲介で“一応”「24時間停戦」があったようです。

****24時間の停戦で合意=スーダン****
アフリカ北東部スーダンの正規軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」が10日午前6時(日本時間同日午後1時)から24時間停戦することで合意した。両者を仲介するサウジアラビアと米国が9日に共同声明で発表した。

声明によると、軍とRSFは停戦期間中、航空機やドローンの使用、空爆や砲撃、陣営強化などをやめ、「軍事的優位を求めない」ことに同意。人道支援を妨げないことでも一致した。【6月9日 時事】 
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10日の24時間停戦がどれほどの実効があったのかは知りませんが、少なくとも戦闘はその後もむしろ拡大しているようです。かつて、「世界最悪の人道危機」と呼ばれた惨劇が繰り広げられたダルフールでも。

そもそも、今回衝突の一方の当事者、準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」はダルフールの「ジェノサイド」で悪名をはせた民兵組織「ジャンジャウィード」の後継組織です。

****RSFとは何者か 独裁者が保護した第2の軍隊―強力な資金源、頼みは「外部」・スーダン****
スーダンで軍と戦闘を繰り広げている準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」は、イランの革命防衛隊と同様、軍がクーデターを起こしても、それを迎え撃てるよう想定された「第2の軍隊」だ。軍と互角に戦える装備や訓練を施されている。

スーダン停戦、また実現せず 軍は「RSF一掃の段階」主張
 ◇総兵力10万
RSFの最近の総兵力は10万人と報じられてきた。スーダン軍は陸軍の10万人が圧倒的で、空軍は3000人、海軍は1000人。兵力数を見れば両者は互角のはずだった。

2019年まで30年に及んだバシル独裁政権が構築した「カウンター・クーデターのための暴力装置」だったが、最後は軍と手を組み権力を奪った。

この協力をきっかけに、RSFは軍から大量の「出向者」を受け入れ、スーダン全土へ急速に膨張する組織を整えた。双方の総兵力数には重複があったとみられ、15日の戦闘勃発の翌日、軍はこうした出向者に「原隊復帰」を命じた。現在の正確な勢力比は分かっていない。
13年に発足したRSFの源流は、西部ダルフール地方で住民弾圧を担った民兵組織「ジャンジャウィード」だ。03年から激化したダルフール紛争で「スーダン解放軍(SLA)」や「正義と平等運動(JEM)」など反政府勢力に対し、軍の先兵となって戦った。

軍による空爆の援護を受けつつ、ジャンジャウィードはダルフールの町や村を略奪し蓄財した。バシル大統領の個人的な保護を受け、RSFを率いるダガロ司令官の一族は今やダルフールの金鉱の利権を握り、幾つも企業を経営する富豪となっている。

 ◇他国の内戦で稼ぐ
さらに、RSFは過去10年、海外との関係を強化した。サウジアラビアのムハンマド皇太子が介入し15年から激化したイエメン内戦に数万人のスーダン人傭兵(ようへい)を送り込み、サウジを支えた。

リビア内戦では、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」と関係を深め、リビア東部のハフタル派のため傭兵を送り込んだという。イエメンやリビアの最近の内戦沈静化はこうした「RSFの資金源」に影響を与え、ダガロ氏に焦りが生まれていた可能性もある。

ロイター通信は19日、軍の空爆を受けたRSFは市内の拠点を放棄し「住宅街に紛れ込んでいる」と伝えた。ダルフール紛争以来磨いてきたゲリラ戦で軍に対抗する構えだ。

しかし、兵力も資金も「第2軍隊」であるRSFは、国庫を握る軍に対し、時間の経過とともに不利になる。サウジやリビア、ロシアなどこれまで培ってきた「外部勢力の支援」が頼みの綱だ。【4月22日 時事】
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今のところは互角の戦闘が続いており、“時間の経過とともに不利になる”という状況でもなさそうです。

****スーダン西部の都市で戦闘激化、準軍事組織批判した州知事殺害****
スーダン西部の複数の都市で14日、正規軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の戦闘が激化した。西ダルフール州ではRSFによる市民の「ジェノサイド(大量虐殺)」を批判した知事が殺害された。

正規軍とRSFの戦闘が4月半ばに同州の州都ジェネイナで始まって以来、1100人が死亡したと現地の活動団体は推定しており、首都ハルツームやコルドファン、ダルフール両地方の主要都市が人道危機に陥っている。

米国とサウジアラビアが仲介する停戦は何度も頓挫しており、戦闘終結の見通しが立たないままだ。米国務省の高官らは13日、新たなアプローチを検討していると述べた。

西ダルフール州のアバカル知事は14日、RSFとその協力関係にある民兵組織がジェノサイドを実行したと批判した数時間後に殺害された。知事が指揮する武装集団が明らかにした。2人の政府筋はRSFの犯行だと述べた。【6月15日 ロイター】
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【増加する犠牲者、難民・避難民】
戦闘の犠牲者は少なくとも1800人との推計も発表されています。また、国全体では220万人が家を追われているとも。しかし、戦闘が終わる兆しは見えていません。

****スーダン、終わりのない戦闘2カ月 首都から100万人脱出―軍とRSF、泥沼の衝突****
アフリカ北東部スーダンで正規軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の戦闘が始まってから15日で2カ月が経過した。サウジアラビアなどが仲介する中、両陣営は依然として首都ハルツームや西部ダルフール地方で戦火を交え、終わる兆しは見えない。住民からは「国の全域が災害に遭ったようだ」と嘆く声が漏れる。

19日にスーダン支援国会合 サウジ主導、EU・国連も参加
衝突は、軍トップのブルハン統治評議会議長と、RSFを率いるダガロ司令官の権力闘争が表面化する形で4月15日に始まった。ハルツームの支配を巡り都心部で激しい戦闘を展開してきたことが特徴で、首都の街並みは変わり果てた。

目撃者がAFP通信に語ったところによると、軍は14日、戦闘開始後初めてハルツーム南西約350キロの都市オベイドを空爆した。RSFが2カ月間包囲していた地域だった。

ただ、制空権はこれまで、空軍を握る軍が一貫して掌握してきたが、スーダン軍当局者は14日、RSF側が攻撃用ドローンを使用し始めたと述べ、警戒を強めている。

軍は14日、西ダルフール州の知事をRSFが「拉致して殺害した」と非難。「(RSFが)全スーダン人に対して犯している野蛮な犯罪記録に新たな一章が加わった」と批判し、衝突は泥沼の様相を濃くしている。

米NGO「武力紛争地域事件データプロジェクト(ACLED)」によると、戦闘の犠牲者は少なくとも1800人。国際移住機関(IOM)によれば、国全体では220万人が家を追われ、ハルツームからも100万人以上が脱出した。うち52万8000人は周辺国へ避難したとみられている。

ハルツームでは水や食料、医薬品が調達できなくなりつつある。住民アハメド・タハさんはAFPの取材に「われわれには何も残っていない」と訴えた。「国中が完全に破壊された。どこを見ても、爆弾が落ちたり、銃弾が当たったりしている」と力なく語った。

米国やサウジが仲介努力を続けるが、停戦合意は、軍とRSF双方の違反で幾度となく破られ、有名無実が常態化している。援助団体は物資搬送のための人道回廊の設置を訴えるが、実現していない。サウジは19日にスーダンへの援助を話し合う支援国会合を開くと発表している。【6月16日 時事】
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米国は双方の人権侵害、暴力を批判していますが、批判の力点は「即応支援部隊(RSF)」側にあるようにも見えます。

****米、スーダンの人権侵害と暴力非難 対立勢力双方を批判****
米国は15日、スーダンで2カ月にわたり続いている紛争による人権侵害、虐待、「おぞましい暴力」を最も強い調子で非難すると表明した。

国務省のマシュー・ミラー報道官は声明を発表し、米国は特に準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」と、協力関係にある西ダルフール州の民兵組織による民族を対象にした暴力行為を懸念していると指摘。

「西ダルフール州その他の地域で行われている残虐行為は、2004年に米国がダルフールでジェノサイド(大量虐殺)が行われていると判断した事態の残存だ」と述べた。

その上で、RSFによる市民のジェノサイドを批判したアバカル西ダルフール州知事が14日に殺害された事件を特に非難するとした。

一方、スーダンの正規軍(SAF)も「民間人を保護できておらず、部族動員を扇動して衝突をあおっているとの報告がある」と批判した。【6月16日 ロイター】
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【日本政府も新たな緊急支援で食料・水・薬を供与】
“52万8000人は周辺国へ避難”とのことですが、その避難先のひとつが隣国チャド。
しかし、避難先でも雨期で孤立し、状況が懸念されています。

****チャドに逃れたスーダン難民、雨期で孤立も 国境なき医師団が警告****
非政府組織(NGO)の国境なき医師団は12日、スーダンから紛争を逃れてチャドに避難している難民数千人が、雨期の到来で人道支援から隔絶される恐れがあると警告した。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は今月、4月の紛争勃発以降にスーダンからチャドへ避難した人は10万人を超え、今後3カ月で倍増する可能性があると予測した。

国境なき医師団のチャド担当者は、例年この時期に発生する洪水で、スーダンと国境を接する地域が孤立する可能性があると指摘。清潔な水が入手しにくく、衛生状態の確保も困難で、降雨により水を媒介した感染症が発生するリスクが高まると警告した。

国境なき医師団によると、同地域には約3万人の難民がおり、人道支援の不足から住居、水、食料が足りない状態にある。

チャドは世界最貧の国の一つだが、今回の紛争前から既に60万人近くの難民を受け入れている。【6月13日 ロイター】
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チャドの状況は、多くの避難民の直面している苦境のひとつに過ぎないでしょう。
日本政府も新たに500万ドルの緊急無償資金協力を行い、食料や飲み水などを供与することを決めました。

****スーダン支援に新たに500万ドル 食料や飲み水など供与へ 政府****
武力衝突が続くアフリカのスーダンの人たちを支援するため、政府は新たに500万ドルの緊急無償資金協力を行い、食料や飲み水などを供与することを決めました。これは、林外務大臣が16日に記者会見で発表しました。

それによりますと、軍と準軍事組織との間で武力衝突が続くスーダンの人たちを支援するため、新たに500万ドルの緊急無償資金協力を行い、WFP=世界食糧計画などの国際機関を通じて食料や飲み水、薬などを供与するとしています。

また、これとは別に、日本政府がすでにNPOに拠出しているおよそ146万ドルを使って、スーダンと周辺国のチャドで、食料や保健などの分野で支援を行うとしています。

林大臣は、「スーダン情勢について、先月の広島サミットでもG7=主要7か国として、一刻も早い停戦の実現に向けて取り組むことで一致した。日本政府として、引き続き必要な支援を実施していく」と述べました。【6月16日 NHK】
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【難民流入でスーダンの不安定な状況が『アフリカの角』の地域全般に拡散する懸念も】
スーダンから国外への避難民流出は、東アフリカ一帯に不安定な状況を拡散し、すでに深刻化している飢餓の脅威を更に悪化させることが予想されます。

****「スーダン、内戦により1900万人が飢饉に追い込まれる」WFP局長の訴え****
「今後3~6カ月以内にスーダンで飢餓に直面した人々は1900万人に達する可能性があります」

内戦中のスーダンで援助活動を行っている国連世界食糧計画(WFP)のマイケル・ダンフォード東アフリカ地域局長は8日、中央日報との書面インタビューで、現地の雰囲気をこのように伝えてきた。

ダンフォード局長は「内戦によりスーダンから近隣諸国への難民流出がすでに始まっている」とし「これが進めば、スーダンの不安定な状況が『アフリカの角』の地域全般に拡散しかねない」と懸念を示した。

「アフリカの角」地域はアデン湾の南部にまたがる東アフリカ地域で、サイの角のように突出している地域を指す。エチオピア・ソマリア・ジブチなどが属している。(中略)

内戦以降、外国人はもちろんスーダン人も「必死のエクソダス」に乗り出して難民が最大86万人発生するという悲観的見通しが出てきている。(中略)

スーダン内の状況が統制不能状態に陥り、国連のような国際救援団体の活動はますます厳しくなっている。一線の救護団体職員たちは文字通りに命懸けで活動している。

WFPも先月16日、スーダンの北ダルフール地域で救護活動中に職員3人が交戦に巻き込まれて命を落とした。WFPはこの事件で活動をしばらく中断したが、今月1日、WFPのシンディ・ヘンスリー・マケイン事務局長が救護を臨時に再開すると伝えた。(中略)

東アフリカは長い政治不安で慢性的な食糧危機を経験しているが、最近になって40年ぶりに最も乾燥した気候に直面し、食糧難が最悪に達しているという。

ダンフォード局長は「エチオピア、ケニア、ソマリアなどでは生計手段である家畜が干ばつや気象異変による洪水などで1300万頭が死亡し、最大8000万人が飢えに追い込まれている」と述べた。(後略)【5月9日 中央日報】
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RSFは“軍と互角に戦える装備や訓練を施されている”(前出 時事)とは言え、民兵組織に由来した歩兵中心の組織であり、装備的には国軍に劣るものと想像されます。

そのRSFがここまで軍と互角に戦い、ドローン攻撃も・・・周辺国、国外勢力の支援も推測されます。

軍・RSFの戦闘を沈静化させるためには、周辺国・関係国の停戦に向けた強い意思が必要でしょう。武器・弾薬などの供給が止まれば、戦闘もおのずから停止するはずです・・・ただ、多くの紛争がそういう道をたどらないのは、現実には関係国の武器支援などが止まないためでしょう。

1日も早い実効ある停戦の実現を期待する・・・としか言い様がありませんが・・・。
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