孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国経済  若年層の高い失業率 地方政府の巨額債務の問題

2023-06-15 22:59:28 | 中国

(【2019年6月16日 AFP】中国貴州省独山県にある「天下第一水司楼」は、高さが99.9メートルの24階建て、くぎを使わず木と木をつなぎ合わせた大型木造建築物で、地元少数民族シュイ族の文化と知恵の象徴となるはずでした。しかし、2018年ごろに外観がほぼ完成したものの、地方政府の財政難で工事がストップ。過剰な開発投資を続けた独山県の債務は、年間財政収入の40年分にもなっています。)

【力強さを欠く「まだら模様」の中国経済】
****中国でスト頻発 世界需要低迷で工場閉鎖、労働者反発****
中国の工場でストライキが頻発し、7年ぶりの水準に達している。世界的な需要低迷のあおりで、輸出企業が賃金引き下げや工場の閉鎖を余儀なくされているためだ。(後略)【6月15日 ロイター】
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ゼロコロナ後の中国経済については、"中国の景気は悪いのか良いのか。シンガポールのテレビCNA(6月2日)は、民間のPMI(景況感についてアンケート調査した結果を指数化したもの)とサービス業の伸びを並べ、「まだら模様」と表現した。”【6月7日 MAG2NEWS】とのことです。

“国産ジェット旅客機「C919」が商業飛行を開始。すでに、受注数も1000機を超えている”【同上】といった製造業の分野では、技術面でのブレークスルーが継ぎ目なく脚光を浴びている一方で、不動産業界を覆う曇天は相変わらずですっきりしない、若年層の失業率の高さは深刻、米中対立の影響も懸念される・・・といった不安材料も。

かつて「爆買い」と称された旺盛な購買意欲は影を潜め、経済を牽引する需要がイマイチの状況です。
しかし、経済全体が深刻な状況に陥ったり、不況が長引くといった「重症化」することはないと一般的には考えられています。

****中国のインフレ問題「インフレがない」****
西側の中央銀行が根強い高インフレの抑制を目的に利上げを続ける中、中国ではデフレのリスクが高まっている。

中国の5月の生産者物価指数(PPI)は7年ぶりの下落率を記録し、消費者物価指数(CPI)はほぼ横ばいだった。世界第2位の経済大国である中国が国内外で難題に直面していることが改めて示された格好だ。

エコノミストによれば、インフレ圧力がないということは、経済が早期に回復しなければ中国でデフレ――幅広く物価が下落する現象――がしばらく続く恐れがあることを意味する。

長引くデフレは成長の圧迫につながることが多く、なかなか抜け出せないこともある。中国で長期にわたって物価が下落することはおそらくなさそうだが、それでも同国の政策立案者はデフレリスクを食い止め、経済を再び回復軌道に乗せるために金利を引き下げたり、元安に誘導したり、家計や企業への現金など消費の「呼び水」を提供したりして対策を強化する必要がある。(中略)

国内外の消費不足も中国が苦境に陥った理由の一つだ。
中国の工場が値下げしているのは、各国で利上げが始まる前ほど活発に海外で中国製品が買われていないからだ。中国の経済成長を後押しするはずだった待望の消費ブームは起きていない。不動産は低調で、投資は大幅に減少している。(中略)

それでもほとんどのエコノミストは中国が今年、政府が目標とする5%以上の経済成長を達成するか、または上回るとみている。2022年は主要都市のロックダウン(都市封鎖)で経済が打撃を受けており、比較対象となる数字が低いからだ。

キャピタル・エコノミクスの中国担当エコノミスト、ジーチュン・フアン氏は中国で幅広いデフレは起きないと考えていると話し、CPIの伸び率は政策立案者の後押しや労働市場の改善で数カ月のうちに回復するとの予想を示した。【6月12日 WSJ】
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「爆買い」が影を潜めたのは、可処分所得など経済の問題もあるでしょうが、社会の成熟とともに消費行動が変化していることも背景にあるのではないでしょうか。

【社会不安にも繋がりかねない若年層の20%を超える失業率 雇用ミスマッチの側面も】
一方、問題視されている不安材料のひとつが、若年層の失業率の高さです。

****中国 若者の失業率、過去最悪の20.8% 5人に1人が職に就けず…ゼロコロナ政策の“ひずみ”深刻***
中国の若者の失業率が20.8%と過去最悪を更新しました。ゼロコロナ政策が残した経済のひずみが深刻さを増しています。

中国国家統計局の発表によりますと、中国の都市部における16歳から24歳までの先月の失業率は20.8%となりました。前の月の20.4%から0.4ポイント悪化し、2018年以降最も高い失業率となっています。

若者の5人に1人が職に就けない状況は、中国でも社会問題となっていて、中国政府も対策を急いでいます。

また、今年1月から5月までの不動産投資は去年の同じ時期に比べて7.2%減少しました。中国経済の大きな割合を占める不動産市場の回復の遅れは、ゼロコロナ政策の転換からの回復を目指す中国経済の足かせになりそうです。【6月15日 日テレNEWS】
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“4月の都市部全般の失業率が5.2%と前年同月の6.1%を下回っており、これが若者の失業率の高さを一層際立たせている。”【5月25日 WSJ】ということで、全体の失業率が低下しているにもかかわらず、若者の失業率は急上昇している状況です。

雇用の絶対数が不足しているというより、若年層が求める職種と実際の雇用のミスマッチの側面が強いと指摘されています。

****中国の大卒者は就職難 雇用ミスマッチ****
(中略)
中国経済全体に占めるサービス業の割合は高まっている。しかし、過去10年に創出されたサービス職の多くは配達員やレストランのウエーターなど、大卒者にとって必ずしも魅力的とは言えない低位職だ。調査会社TSロンバードの中国・アジア調査責任者ローリー・グリーン氏はそう話す。

中国では過去10年間で高等教育進学者が大幅に増加した。過去3年間に労働市場に加わった大卒者は2800万人を超え、都市部の新たな労働供給の約3分の2を占める。

求人サイトの智聯招聘の調査によると、今夏に卒業する大学生の約30%がインターネットや通信、教育業界での就職を希望している。しかし、それらの業界の多くがここ数年の規制強化で混乱し、雇用主は増員に慎重になっている。(中略)

マッコーリー・グループの中国担当チーフエコノミスト、ラリー・フ氏は、中国の平均的な家庭が豊かになるにつれ、親世代と比べて求職活動に長い時間をかける余裕のある若者が増えていると話す。

多くの若者が、より高度な学位を得るために学校に戻っている。今年、大学院の募集枠120万人に対し、入学試験を受けた学部生は470万人と過去最高に達した。国営メディアの報道によると、2021年には上海の大学の3分の1近くで、既に大学院生の数が学部生の数を上回っていた。

米ノースウェスタン大学のナンシー・チエン教授(経済学)によると、就職を遅らせたり、求職活動を断念したりする若者は、公式統計では求職者としてカウントされない。カウントされれば、実際の失業率はもっと高くなるはずだという。(後略)【5月25日 WSJ】
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【雇用創出の役割を担わされる地方政府 すでに悪化している債務超過問題への更なる重荷に】
“今夏には過去最高となる1160万人の大学生が卒業する見込みであることから、若者の雇用市場は一段と悪化すると一部のエコノミストはみている。”【同上】という状況では、高い失業率は“雇用ミスマッチ”であろうが、やはり大きな社会不安材料になります。

「雇用第一」を重視する李強首相のもとで、大企業などが少ない地方にあっては、地方政府が雇用創出の役割を果たさざるを得ませんが、そのことは、ただでさえコロナ禍で膨らんだ債務超過が問題視されている地方政府の財政状況を更に悪化させる危険があります。

****中国地方政府、雇用と債務の二律背反に 膨らむ財政危機****
中国で債務規模が最大級に膨らんでいる幾つかの地方政府が、大量の新規採用を進めている。今年は記録的な数の大学卒業生が労働力人口に加わるとの見通しに対応し、雇用を創出する狙いとみられる。ただ、これによって既に脆弱な地方財政が一段とひっ迫しかねない、と専門家は警告する。

中国の地方政府が抱える債務は総額9兆ドル。国内総生産(GDP)の約50%に達し、持続的な経済成長を推進する上で最も大きな脅威の1つに挙げられている。

中央政府が今年掲げる主要政策目標には、こうした地方の借金に関連するリスクを取り除くことが含まれる。
一方で、新型コロナウイルスの感染対策として実施したロックダウン(都市封鎖)や移動規制などによる経済の痛手がなお残る中で、雇用創出も優先課題とされる。

ところが、人も企業も出て行ってしまう比較的貧しい地域の場合、仕事口はほぼ地方政府と言っても差し支えない。そして、地方政府は所得税や土地売却を通じた歳入の確保に苦戦を強いられている。

ムーディーズのバイスプレジデント兼シニアアナリスト、ジャック・ユアン氏は「この種の戦略は、高等教育を受けた若者をもっと発展した地域に流出させず、地元にとどめようとする計算が働いているのだろう」と話す。
だが、これらの地域は予算と債務の窮迫感が相対的に強いので、採用拡大に伴う歳出増が財政リスクを助長させると指摘した。

中国の大手公務員試験予備校、中公教育科技股分有限公司(オフcn・エデュケーション・テクノロジー)によると、今年は甘粛省と雲南省、広西チワン族自治区の採用予定者数の増加率が最も高くなりそうだ。(中略)

華宝信託のニエ・ウェン氏は「こうした地域で土地売却の不振に拍車がかかるようなら、これほどの規模の公務員採用は持続できないだろう」と述べた。

<雇用第一>
今年3月に首相となった李強氏は、中国が「雇用第一」を政策課題に据える必要があると訴えた。実際、中央政府は今年の成長率目標を5%前後と控えめに設定しながらも、創出すべき雇用の目標は昨年の1100万人から1200万人に引き上げている。

背景には、今年の労働市場に新規参入してくる過去最高の1158万人の大卒者に仕事を提供しなければならないという事情がある。足元で16―24歳の失業率が18.1%と過去最悪に近い水準で推移しているだけに、これは政府にとっても難しい任務だ。

中公教育科技股分有限公司の説明では、甘粛省と雲南省、広西チワン族自治区が求めている人材は主に法律、ファイナンス、会計の学部出身者で、応募基準も大卒者にとって有利になっているという。(中略)

多くの地方政府は、インフラ整備事業などの資金を債券市場から調達する上で、いわゆる地方融資平台(LGFV)に依存している。LGFVは地方政府が傘下に置く投資会社で、資金調達とデベロッパーの機能を併せ持っている。

国際通貨基金(IMF)は今年2月のリポートで、中国の各LGFVが抱える債務の合計が足元で、昨年の57兆元から過去最大の66兆元(9兆5000億ドル)に膨らんだと発表した。

これらLGFVの借り入れには厳密な公的保証が付与されているわけではなく、その資産には利用されていない空港や道路など価値が疑わしいものも少なくない。

今のところLGFV(地方政府が傘下に置く投資会社で、資金調達とデベロッパーの機能を併せ持っている)がデフォルト(債務不履行)を引き起こしたという公式発表はないものの、ムーディーズのユアン氏は、甘粛省を含む地方政府が債務返済のための借り換え圧力増大に直面していると警鐘を鳴らす。

このためユアン氏や他の専門家は、大量採用や高過ぎる成長目標を実現しようとすれば、とっくに限界を迎えている財政の面で、より深刻な問題が生じる恐れがあると懸念している。

INGの広域中華圏チーフエコノミスト、アイリス・パン氏は「普通ならこのような成長率と債務比率(の共存)は非常に危険なストーリーだ」と眉をひそめた。【4月2日 ロイター】
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上記記事にもあるように、地方融資平台(LGFV)の債務は表には出てこない「隠れ債務」となっていますが、この「隠れ債務」は1100超円を超えているとも指摘されています。

****中国、地方政府の「隠れ債務」1100兆円 深まる財政難****
中国の地方財政が厳しさを増している。

地方政府傘下の投資会社、融資平台が抱える「隠れ債務」の残高は2022年末に1100兆円を超えた。新型コロナウイルス流行前の19年から5割増えた。過剰な借金でインフラ開発などを進めてきたことが要因となる。

金融不安への飛び火を防ぐには債務圧縮が不可欠だ。ただ地方経済の発展モデルが崩れ、中国景気の重荷になるリスクも高まる。(後略)【6月14日 日経】
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****中国地方政府の巨額債務、経済に重荷****
ゼロコロナ政策で支出急増、成長の足かせに

1970年代以来の低成長局面を乗り越えようとする中国経済に、地方政府の財政悪化が暗い影を落としている。新型コロナウイルス禍で地方政府の債務は急速に膨れあがり、その影響がいよいよ表面化してきた。

習近平国家主席が旗振り役となった「ゼロコロナ」政策により、中国各地の都市は大量検査とロックダウン(都市封鎖)で予定外の巨額支出を余儀なくされた。さらに指導部による不動産市場の過剰なレバレッジ(借り入れによるテコ)に対する締め付けは土地売却の急激な落ち込みを招き、自治体から重要な収入源を奪った。

地方政府の約3分の2は債務残高が昨年の歳入の120%を超え、中国当局が非公式に定めた深刻な財政危機を示す債務基準を突破しかねない状況にある。S&Pグローバルが分析した。

調査会社ロジウム・グループの調査によると、中国主要都市のうち約3分の1は利払いすらままならない。極端なケースとして、甘粛省の省都・蘭州の利払いは2021年歳入の74%相当に達している。

債務の大半は近く支払期限を迎える。中国格付け大手の子会社、聯合評級国際では、地方政府傘下の投資会社(融資平台)が抱えるオフショア債務842億ドル(約11兆4400億円)のうち、約84%が今年から2025年に期限を迎えると分析している。

自治体がデフォルト(債務不履行)に陥り、金融危機を招くリスク自体は大きな懸念ではないが、可能性を排除することはできないとエコノミストは指摘する。

ただ、こうして借金を抱えた都市は今後数年にわたり支出を減らし、投資を先送りするなどして債務返済を優先せざるを得ず、成長を下押ししそうだ。

アップルの主要サプライヤー、鴻海精密工業(フォックスコン)がiPhone(アイフォーン)製造拠点を構える河南省・鄭州では昨年、公共バス運転手が減給となり、その後も給与水準は戻っていない。市内清掃員の中には数カ月賃金が未払いになっている人もいるが、出勤を続けている。(中略)

大都市の広東省深セン市では、教師がソーシャルメディアでボーナス急減への不満をぶちまけている。ラストベルト(さびた工業地帯)である黒竜江省の鶴崗市では1月、公益企業が地方政府から補助金を受け取ることができなかったとして、住民に暖房カットに備えるよう通知した。

武漢、大連、広州といった都市ではここ最近、医療システム改革を巡り抗議デモが発生。地方財政の悪化を背景とする医療給付の削減などに市民が不満の声を上げている。

(3月)5日から開幕した全国人民代表大会(全人代、国会に相当)では、地方政府に対してわずかな支援しか発表されず、財政規律を優先する姿勢を示唆した。

中央政府から地方政府への財政移転は今年、前年比3.6%増の約1兆5000億ドルにとどまる見通しで、18%増だった昨年から急ブレーキがかかる。地方自治体に割り当てられた特別債発行枠は約5500億ドル相当と、前年実績の5800億ドルを割り込んだ。

中国の劉昆財政相は1日、地方政府の財政はそれほど悪化していないとの見方を表明。昨年はおおむね安定した状態にあり、今年は景気回復に伴い、さらに改善するだろうと述べた。 メディアの問い合わせ窓口である国務院新聞弁公室は現時点でコメントの要請に応じていない。

中国政府には大規模なデフォルト回避のために必要なら個別に介入する十分な財政余地がある、と指摘するエコノミストは多い。地方政府は、買い手を確保できれば資産を売却することも可能だ。

もっとも、中央政府のバランスシートはすべての偶発債務について支援できるほど盤石ではない。投資会社シーフェアラー・キャピタル・パートナーズの中国分析責任者ニコラス・ボースト氏は、今月公表した地方債務に関する研究論文でこう指摘している。

同氏は「それどころか、1回限りの救済が相次げばモラルハザード(倫理観の欠如)を悪化させ、そもそも問題を招いた根本原因に対処することにはならない」としている。(中略)

公式データによると、中国31省の政府債務残高は、国内外の投資家が保有する債券を含め約5兆1000億ドル相当に上る。

ただ、これには地方政府系の投資会社が通常、資金調達の手段として使うさまざまな簿外債務は含まれていない。これらの簿外債務は近年、インフラなどの支出を手当てする手段として広く普及しており、国際通貨基金(IMF)では、今年10兆ドルに迫ると予想している。(中略)

利払い負担は他の支出を圧迫する。ロジウム・グループの分析では、中国25都市では2021年の財政資源のうち、利払い額が少なくとも2割を占めた。10%を超える(100都市以上が該当)と「本格的な制約」へとつながると同社は指摘している。

アナリストの間では、中国政府が不動産税導入を通じた資金調達など、地方財政の改善に向けた改革に動く可能性は低いとの意見も出ている。政治的に不人気な措置であり、地方政府に対する中央政府の支配を損なうことにもなりかねないためだ。

また国家資産の売却を増やせば、国有企業を通じて重要なテクノロジー分野で自給自足の実現を目指すという習氏の戦略目標に反する恐れもある。【3月7日 WSJ】
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若年層の失業問題にせよ、地方政府の財政問題にせよ、問題を放置するほど中国指導部は馬鹿でもないので「中国経済崩壊」といった事態にはならないまでも、「足かせ」にはなってくると思われます。

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