孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

大河メコン   進む「メコン川流域開発計画」

2008-03-31 16:44:20 | 世相
個人的に旅心をいたく刺激されるキーワードがふたつあります。
ひとつは“シルクロード”。
この言葉を耳にすると胸がざわつき、旅にでるのをせきたてられるような気持ちになります。
もうひとつが“メコン”。
こちらは、のんびり、まったりとした気分になります。
メコンデルタの豊饒を物語るベトナム・カントーのマーケット、ラオスの古都ルアンパバンのプーシーの丘から眺めるメコンに沈む夕陽、メコンに繋がるカンボジア・トンレサップ湖の茫洋たるひろがり・・・などの記憶も蘇ります。

昨日の夕方のTVでなにやらメコン川開発関連のことを取り上げていました。
所用がありチラチラとしか観ていませんが、恐らくラオスの首都ビエンチャンで30日から開催される広域開発プロジェクト「メコン川流域開発計画」の第3回首脳会議絡みのものではないでしょうか。

メコン川はチベット高原に源流を発し、中国雲南省を通り、ミャンマー・ラオス国境線、タイ・ラオス国境線、カンボジアを通じて、ベトナムに抜けるおよそ4000kmに及ぶ堂々たる国際河川です。
「メコン川流域開発計画(GMSプログラム)」はそのメコン流域に位置するタイ、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー、中国の6か国が関与するプロジェクトで、アジア開発銀行(ADB)が資金的にリードしています。

日本はADBの最大出資国で、歴代総裁を出していますので関連も浅くありませんが、それ以上に、このメコン流域の開発は日本経済にとっての市場拡大、また、開発を通じてのこれらの国々と日本との関係強化・改善という意味で重要な意味があります。

メコン川自体の物流への利用拡大については以前から考えられてきましたが、ラオス国内にある“コーンの滝”周辺の急流がネックとなっており、かつてインドシナ殖民地支配を行ったフランスもメコン川を利用した中国との交易をあきらめた経緯があります。
また【ウィキペディア】によれば、近年では、乾季に水量が著しく減少して運航が困難になることから、川の堆積土砂を除去する計画が周辺国で協議されたようですが、すぐにまた堆積してしまうということで頓挫したそうです。

「メコン川流域開発計画(GMSプログラム)」は、2005年段階で、交通、エネルギー、通信、環境、人的資源の開発、投資、貿易、観光、農業などの分野で119の協力プロジェクトがスタートした総合開発計画ですが、なかでも基幹となるのが、幹線道路の整備です。

現在進められている主な道路プロジェクトには、ベトナム中部・ダナンからラオス・タイを横断してミャンマー・モーラメインに至る“東西回廊”、中国・昆明から南下しラオスを通過してタイ・バンコクに至る“南北回廊”(昆明からベトナム北部・ハノイにまで連結します。)、バンコクからカンボジア・プノンペンを経由してベトナム南部・ホーチミンに至る“第二東西回廊”(南部回廊)があります。

陸続きの中国が経済力をバックに南北回廊を整備しながら、各国との結び付きを強めているのに対抗して、日本政府は今年1月16日に東京で開かれた初の日・メコン外相会議で、東西回廊、第二東西回廊整備に2000万ドル(約23億円)の無償資金協力を表明、対東南アジア外交の再構築を図っています。

道路による物流をこれまで妨げてきたのが大河メコン川。
06年末にタイ・ムクダハンとラオス・サバナケットを結ぶ“第2メコン国際橋”が竣工し、東西回廊(全長1450km)はほぼ完成しました。
中国は南北回廊のタイ北部とラオスを結ぶ“第3メコン国際橋”建設で両国と合意、09年に着工予定です。
なお、“第1メコン国際橋”(通称“タイ・ラオス友好橋”)はタイ・ノンカイとラオス・ビエンチャンを結び94年完成しています。

大河にかかる橋の物流に及ぼす影響は絶大なものがあります。
メコンからは離れますが、バングラデシュ旅行の際、ジョムナ川にかかるジョムナ橋を利用しました。
この橋は全長4.8キロ、日本の円借款約213億円の拠出も得て、1998年6月に開通。
自動車、鉄道だけでなくガスや電気も送ることができ、従来フェリーに頼っていた首都ダッカと北東部地域をダイレクトに結ぶ重要な役割を果たす橋です。
地元では“夢の橋”とも呼ばれ、日本の資金協力は高く評価されています。

メコンに戻ると、こうした道路整備によって、例えばこれまで2週間かかっていたバンコクからハノイ間が3日間に短縮されるとか。
しかし、まだ通関手続きの問題や、国境越えの際に車を換えて荷物も積み替えないといけない(?)といった問題もあるとか。

ところで、南進する中国に東西横断で対抗する日本・・・なにやらかつてのインドシナにおける英仏の競合、あるいはアフリカにおけるイギリスの縦断政策とフランスの横断政策、スーダンでのファショダ事件などを連想させます。
道路の場合出来上がり連結すれば自由に行き来できますので、物資の流れについて言えば、東西回廊を含めた幹線網を使って地続きの“世界の工場”中国からの労働集約的な安価な製品がこれらメコン流域国に溢れることになるかと思われます。
すでに、今現在ミャンマーでもラオスでも中国製品が溢れていますが。

道路インフラ整備は投資環境も変えます。
タイには約1300社の日系企業が進出しています。
タイと東西回廊で結ばれるカンボジアやラオスは労働賃金がタイの5分の1の水準で、物流網の整備が進めば両国への第2工場建設などで、日系企業にも大きなメリットがあると言われています。

そのことは受け入れるラオスなどの経済発展のチャンスにもなります。
ラオスの場合、政治的に安定しており(民主的かどうかは別として)、電気代も安く、言葉が相当にタイ語に似通っていますのでタイ人によるタイ語での技術指導も可能です。(カンボジアでは電気代が高く、ポル・ポトが国民を殺し尽くしたため人材が不足しています。)

もっとも、冒頭のTV番組で紹介していましたが、ラオスは基本的に自給自足可能な社会ですので、勤労意欲に欠けると言うか、無理して働くインセンティブがあまりないとも言え、労働者もすぐに辞めてしまうといったこともあるそうです。

ラオスを旅行すると、このあたりは何となく想像できます。
東南アジアの国々の店では、ひんやりした床に店員が横になって昼寝しているということはよくありますが、それでも客が来ると普通は起き上がって対応します。
ラオスでは、客が入ってきても寝たまんまです。
“いつ起きてくるのだろうか”と思いつつ品定めをして、希望の品が見つからず出て行く・・・それでも店員は寝転がったまんまです。
さすがに“やる気あるのかい?”と思ってしまいます。
まあ、そういうところがラオス好きの人々には受けるところではありますが。

ラオスとメコン川の関係で言うと、急速な産業発展に伴いエネルギー不足に悩むベトナムが、隣国ラオスに20億ドル(約2300億円)規模の巨大水力発電ダムを建設するプロジェクトを立ち上げています。
ラオス国内で稼働中のダムは現在10基以下ですが、70基を超える水力発電ダム開発の計画が進行中だそうです。
ラオス政府は、国内のダムで発電される電力を隣国のベトナムやタイに売却したい考えで、「東南アジアの電源供給国」を目指しています。【07年12月26日 AFP】
中国も国内流域にダムを建設しているとか。
こうしたダム建設は、地元住民の立ち退き問題や、メコン川流域の希少な生態系の破壊(漁獲量減少を含む)、護岸破壊といった問題も惹起しているようです。


コメント
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