孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシアと欧州・アメリカ 天然ガスをめぐる攻防

2014-06-28 23:04:43 | ロシア

(オーストリア大統領府で、同国のフィッシャー大統領(右)と記者会見に臨むプーチン露大統領=ウィーンで24日、坂口裕彦撮影【6月25日 毎日】)

エネルギーの「脱ロシア依存」路線をかく乱する動き
ウクライナとロシアの対立のなかで、ウクライナ向け天然ガス供給をロシアが止めており、パイプライン下流の欧州各国への影響も懸念されています。

****ロシア、ウクライナ向けガス停止 EUでも不足懸念****
ロシアの天然ガス独占企業ガスプロムは16日、ウクライナのガス代金未払いを理由に「今後は、支払われた分だけガスを供給する」と発表し、ウクライナ向けのガス供給を止めた。パイプラインの下流に位置する欧州各国も、ガス不足となる可能性が高い。

ウクライナのヤツェニュク首相は16日、首都キエフでの閣議で、ロシアからのガス供給が止まったことを確認した。供給停止は2009年1月以来だ。

欧州連合(EU)は、消費する天然ガスの約16%をウクライナ経由のパイプラインで輸入している。ロシア側はEU向けには契約通りガスを供給すると説明しているが、パイプラインに流すガスが減り、末端まで届かなくなる可能性がある。(後略)【6月17日 朝日】
********************

ロシアからの天然ガスパイプラインが通るウクライナやベラルーシとロシアのもめ事は今に始まった話ではないので、かねてより欧州各国はウクライナなどの問題国を通らないパイプラインを求めています。

ロシアからバルト海の海底を通ってドイツに至る北ルート「ノルド・ストリーム」は2011年にすでに稼働しています。

ロシアから黒海・ブルガリアを経て、オーストリア及びギリシャ・イタリアに至る南ルート「サウス・ストリーム」の建設計画もロシアは推し進めています。

****ロシア:オーストリアにパイプライン建設 プーチン氏署名****
ロシアのプーチン大統領は24日、オーストリアを公式訪問し、同国のフィッシャー大統領と会談した。

並行してロシア国営ガス大手ガスプロムとオーストリアのエネルギー会社OMVは同日、ロシア産天然ガスをオーストリアに運ぶ「サウスストリーム」パイプラインの新たな建設契約に署名した。

ウクライナ情勢を受け、欧米諸国が目指すエネルギーの「脱ロシア依存」路線をかく乱する動きに米国などは反発している。

ロシアが主導するサウスストリームは、黒海からロシア産ガスをウクライナを迂回(うかい)する形で欧州に運び、2017年の稼働開始を目指す。

総延長2446キロのうち今回、オーストリア国内分の約50キロのパイプラインを約2億ユーロ(約278億円)で建設する契約に署名した。

サウスストリームについては、欧州委員会が「計画凍結」を求めている。だがプーチン大統領は同日の記者会見で「契約は何ら不自然ではない」と正当性を強調。「米国が欧州に自分たちのガスを売りたいのだ」と批判した。

3月のクリミア半島編入後、初めてとなる西側への公式訪問先に比較的親露的なオーストリアを選び、西側陣営の足並みの乱れを狙ったと見られる。

同席したフィッシャー大統領も「契約は有益なものだ」と説明。

しかし、在オーストリア米国大使館は24日、プーチン大統領訪問に対する声明を発表し、「オーストリアの政府や経済人、国民はもっと注意深く考えるべきだ」と不快感を示した。【6月25日 毎日】
******************

【「エネルギー同盟を構築する」】
EUとしては基本的にはエネルギーのロシア依存そのものを軽減していこうという方針であり、ウクライナ問題で「脱ロシア依存」を強調している、丁度その時期にオーストリアがロシアの「サウス・ストリーム」建設に合意するというのは、非常に具合の悪い話です。

****EU:ガス確保へ連携 露頼り脱却目指す****
欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会は28日、ロシアへのエネルギー依存を減らす「エネルギー安全保障のための包括戦略」を発表した。

EU全体でエネルギー購入の交渉にあたるほか、ガス供給停止などに備えて、備蓄の相互供給など「連帯メカニズム」を構築し、域内のパイプライン接続を強化して、ガスの逆流ルートを作って融通する力を高める方策を取る。6月末の首脳会議で本格的な討議を始める。来月4日からの主要7カ国(G7)首脳会議でも討議される見通し。

EUはロシアにガスの39%、原油の33%を頼っている。
ロシアが今年3月、ウクライナ・クリミア半島を編入したことで、ガス停止が「政治的な武器」にされかねないことから、3月のEU首脳会議で戦略を提示するよう欧州委に求めていた。(後略)【5月28日 毎日】
****************

****EU:「エネルギー同盟」首脳宣言採択へ 関連政策を統一****
欧州連合(EU)が26日から開催される首脳会議で、エネルギー安全保障と気候変動対策を並行して進める「エネルギー同盟」を構築する戦略文書を採択することがわかった。

EU全体でガス輸入の約3割を頼るロシアが16日にウクライナへのガスを停止。エネルギー安保情勢が緊迫しており、バラバラだった政策を統一して「エネルギーの将来を完全な管理下に置く」ことを目指す。「エネルギー同盟」は世界のエネルギー事情に大きな影響を与えそうだ。

毎日新聞が入手した戦略文書は「改革の時を迎えた戦略重点課題」と題され、今後5年間の最重点政策としてエネルギー・気候変動対策を挙げた。

EUはエネルギーを外部に依存する割合が高まりエネルギー安保体制が「脆弱(ぜいじゃく)」になったと総括し、「エネルギー同盟を構築する」と宣言する内容。

対策の3本柱にエネルギーの「適正化」「安全保障」「緑のエネルギー」を挙げた。具体的には、ガス市場の透明化▽ガス価格交渉の強化▽エネルギー源の多様化▽域内での相互供給の強化▽再生可能エネルギー、シェールガスなど地場エネルギー開発による外部依存低下▽効率化による消費低下−−を実現し、気候変動対策をリードする。

一方、別に採択する首脳宣言ではロシアのガス停止に備え、今年の冬を乗り切る短期対策で合意。
ガスの相互融通▽パイプライン逆流▽ウクライナを念頭に周辺国への協力−−を挙げた。

他の加盟国から供給がない「孤島」を2015年末までになくし、今年10月の首脳会議で温室効果ガス削減の30年の目標で合意、エネルギー安保長期策も決める。【6月27日 毎日】
*******************

【「各国の利益のための計画だ」】
こうした「脱ロシア依存」のEU方針については、オーストリアとしてもその当事者の一員である訳ですが、EU方針と国の利害がぶつかるところで、「そうは言っても・・・」という話になっています。

****ロシアガス、欧州に亀裂 新パイプライン、波紋****
ウクライナ危機を受け、エネルギーのロシア依存から脱却を目指すはずの欧州連合(EU)で、足並みが乱れている。

加盟国の一部が、ロシアが進める新パイプライン実現のため動き出しているからだ。背後には、世界のエネルギー市場の変化を先取りしようと、輸入国と輸出国の双方が躍起になっているという事情もある。

 ■建設望む中南欧/脱依存探るEU
EUと対峙(たいじ)しているロシアのプーチン大統領は24日、EU加盟国のオーストリアにいた。
フィッシャー大統領との会談の主要議題は、ウクライナを迂回(うかい)してロシアと、オーストリアなど中南欧を結ぶ新たなパイプライン「サウスストリーム」の建設計画だ。

首脳会談に合わせて、両国のエネルギー企業は、2017年の稼働開始を目指して建設を進める文書に署名。オーストリアがロシアにエネルギー依存を強める方向性が固まった。

「EUは懸念するが、多くの国にとっては重要な問題だ」。フィッシャー大統領は記者会見で語った。オーストリアは、天然ガスの6割の輸入をロシアに頼っている。パイプライン建設でガスを安定的に得る大事さを理解して欲しいという思いがにじんでいた。

プーチン氏も「だれかと敵対しようというのではない。各国の利益のための計画だ」と援護に回った。

ウクライナ危機を巡り、EUとロシアの関係は冷え込んでいる。3月のクリミア半島併合宣言以降、プーチン大統領がEU加盟国を訪問したのは、第2次世界大戦の「ノルマンディー上陸作戦」記念行事以外ではこれが初めて。

ロシアは危機で延期されていた公式訪問の早期実現を望んだ。訪問と合意がセットになっていた「サウスストリーム」建設が、ロシアにとって重要であることのあらわれだ。

ブルガリア、イタリアなどとの協議も続く。

ウクライナ経由のパイプラインでガスを受け取っている国々は、調達ルートを多様化したい思いが強い。ロシアからウクライナへのガス供給が一時止まった09年、下流の各国にもガスが届かなくなった経験があるからだ。

EUの行政執行機関である欧州委員会は、その動きを複雑な思いでみつめている。

欧州は天然ガスの約3割をロシアからの輸入に依存。ロシアとの関係が不安定になる中、EUはエネルギーの「ロシア頼み」脱却を打ち出し、欧州委のバローゾ委員長は「加盟国の団結が何より大切だ」と訴えてきた。
27日のEU首脳会議でも、エネルギーでロシアへの依存をどう減らすかが重要な議題だ。

その直前の動きに、「プーチン氏はEUを分断しようとしている」(スウェーデンのビルト外相)との批判も出ている。【6月27日 朝日】
****************

ロシアの焦り
ロシアの「サウス・ストリーム」を推進しているのは、ひとつには“ウクライナ経由のパイプラインでガスを受け取っている国々の調達ルートを多様化したい思い”ですが、天然ガス輸出が経済の根幹をなすロシア側にも切迫した事情があります。

****ロシア、米の輸出に焦り シェールガス、市場に革命****
プーチン大統領が天然ガスの輸出先の確保に躍起になるのは、世界的なエネルギー地図の変化で自国の地位が脅かされかねない、というあせりがあるからだ。

プーチン氏は24日、「米国は欧州に天然ガスを輸出しようとしている」と米国への警戒心をむき出しにした。プーチン氏は、米国の「シェールガス革命」で、世界の天然ガス市場が大きく変わり始めていることに神経をとがらせている。

「シェールガス」は、地中の「頁岩(けつがん)」と呼ばれる地層に含まれている天然ガスのことだ。これまでは、硬い岩盤に阻まれて安いコストで取り出すことが難しかったが、技術の発達で通常の天然ガスと同じぐらいの費用で生産できるようになった。このことが、世界のガス市場に「革命」と言われる影響を与えている。

米エネルギー情報局(EIA)によると、米国の原油と天然ガスの生産量は昨年、ロシアを抜いて世界一となった模様だ。

国際エネルギー機関(IEA)の予測では、米国など各国でシェールガスの生産が順調に進めば、そうでない場合に比べて、2035年の世界の天然ガスの主要国の輸入市場は、3割も縮小する。米国が輸入国でなくなることが大きな理由だ。

その縮小する市場を、ロシアは、輸出国に転じる米国などと奪い合うことになる。米国が「ロシアへの依存度を下げるため、我々の欧州の同盟国は米国の天然ガスを強く求めている」(下院外交委員会のロイス委員長)と輸出に前向きになっていることがロシアの神経を逆なでしている。

それだけに、ロシアは長期的な供給先の確保を急いでいる。プーチン大統領は5月に中国を訪問し、今後30年間中国にガスを輸出することで基本合意した。

だが、欧州向けより安い価格と見られる上、順調に輸出が始まるかどうかは不確かだ。欧州は長期的に安定的な輸出市場とみられるだけに、食い込みをさらに強めようとロシアは必死だ。【同上】
********************

米ロ、両にらみの日本
アメリカのシェールガス輸出には、欧州だけでなく日本も大きな期待を寄せています。

****G7:エネルギー安保強化へ シェールガスが柱に****
・・・・そうした中で欧州が新たな調達先として期待を寄せるのが、「シェール革命」で大量のガスを生産できるようになった米国だ。米国は国内価格を抑えるため、輸出先を原則として自由貿易協定(FTA)締結国に限っているが、販路を広げたいエネルギー業界の要望も踏まえ、昨年5月に非締結国の日本への輸出を解禁した。

26日、ブリュッセルでEUのファンロンパウ大統領らと会談したオバマ大統領は「EUへの天然ガスの輸出を容易にしたい」と述べ、欧州向け輸出を認める可能性を示唆。実現すれば、米欧によるエネルギー安保協力の大きな柱となる。

ただ、即効性には乏しい。パイプラインのつながっていない米国からの輸出には液化天然ガス(LNG)にしなくてはならず、輸出拠点の整備が必要。

しかも、既存の輸出案件は日本など売り先が決まっており、EU向け輸出が実現するのは数年後になる見込みだ。

ロンドン大学国際研究・外交センターのヒューバウム氏は「ロシア以外の近隣資源国とのパイプライン整備など他の代替策も数年の期間が必要。当面ロシア依存を続けざるを得ない」と指摘する。

米国のシェールガス輸出の動向を日本も注視している。「米政府が輸出認可のハードルを下げれば、日本向けの輸出も増える」(日系商社)との期待がある一方、EUと競合し、価格上昇に見舞われかねないためだ。

日本は新たな天然ガス調達先にロシアを位置づけているが、米欧との関係悪化が続けば「ビジネス拡大とはいかなくなる」(外務省幹部)可能性も高い。【3月28日 毎日】
******************

LNGの輸入量の1割を、原油の7%をそれぞれロシアに頼る日本は、東京電力福島第一原発の事故後は、停止した原発を補う火力発電の燃料としてLNGの輸入が急増しています。

アメリカのシェールガスとロシアの両方を睨んで、少しでも安いガスを・・・というところです。
ロシアとの関係では、日本としては北方領土交渉に前向きな雰囲気を作りたい思惑もありますが、欧米との共同歩調を乱して一人日本が・・・というのも難しい問題があります。

勝者は?】
ロシアに話を戻すと、今回のウクライナ問題ではプーチン大統領の“力”による国境線の変更という横暴ぶりが欧米の批判の的になっています。

意のままにふるまったロシア・プーチン大統領が勝者で、なすすべがなかったアメリカ・欧州はこれに敗れたとの評価もあります。

しかし、ウクライナでの強引な手法は「やはりロシアは信用できない・・・」という思いを欧州各国に抱かせることにもなり、先述のように国家経済の根幹である天然ガスの将来が不透明なロシアにとって得策ではなかったように思えます。

もちろん、その国が置かれた立場によっては今回オーストリアのような選択もありますが、長期的・全体的には「脱ロシア依存」を推し進めることになります。

そういう意味で、今回のウクライナ問題で“力”をふるったロシア・プーチン大統領は“やり得”という訳ではなく、将来そのツケを支払うことになるかも。

プーチン大統領も、これ以上の欧米との摩擦はロシアにとって不利益と見て、なんだかんだ言いつつも事態を収束させる方向で動き出したのでしょう。

ただし、もめ事においては予期せぬ不測の事態、突発的な出来事が起こりえますので、その場合は振り上げたこぶしを下ろせなくなり、意に反して事態がエスカレートするということもあり得ます。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« シリア・イラクでの“ねじれ”... | トップ | 「サラエボ事件」から100年 ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ロシア」カテゴリの最新記事