(コカの葉の収穫を終えて家路につく母子たち。山岳地帯でコカを頼りに暮らしている【6月18日 WEDGE】
【内戦終結でいったんは減少したコカ栽培が再び増加】
下記は1週間ほど前に目にした記事。
****米の港でコカイン15トン押収 末端価格は1千億円超****
米ペンシルベニア州のフィラデルフィア港に停泊したコンテナ船から18日、15トンのコカインが押収された。末端価格で10億ドル(約1090億円)を超えるという。現地の検察当局がツイッターで明らかにした。米メディアによると、米国史上3番目の多さという。
AP通信によると、このコンテナ船は西アフリカのリベリア船籍。5月19日に南米コロンビアを出て、南米ペルー、中米パナマ、カリブ海のバハマに寄港。(後略)【6月19日 朝日】
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15トン、末端価格1千億円超のコカイン・・・「すごいね!」と言うしかないですが、真っ先に思ったのは、このコカイン密輸を指揮した組織の人間は今頃失敗の責任を取らされて・・・・というあたりのことです。
ただ、“末端価格1千億円超”とはいっても、こうした密輸失敗のロスを織り込んだ商品価格であり、実際にコカ栽培農家が手にする金額は、はるかに少ない金額でしょう。
コカインの原料となるコカ栽培やアヘンの原料となるケシ栽培の状況は、その生産地たるコロンビアやアフガニスタンの統治がうまくいっているのかどうかを知り得るバロメーターでもあります。
ガバナンスがうまくいっていれば、誰も危険で厄介な(こうした作物栽培には往々にして武装勢力が絡んできます)違法作物には手は出しません。しかし、生きるために他に道がないのであれば・・・。
そうした点からすると、コカ栽培の中心地、コロンビアの状況はあまりよろしくないようです。
****17年のコカイン生産量、過去最高に 内戦終結のコロンビアで増産****
2017年の世界のコカイン生産量が前年比25%増の1976トンで過去最高だったことが、26日に発表された国連薬物犯罪事務所の年次報告書で明らかになった。
内戦の終結したコロンビアでの生産量が急増したことが、理由の一端にあるという。
報告書は、世界生産量の急増は「世界のコカインの70%を生産していると推定されるコロンビアでの増加が要因」だと指摘している。
コロンビアでは2016年に政府と左翼ゲリラ「コロンビア革命軍」が和平合意を結び、内戦が終結。コカを栽培していた農家らには別の作物への乗り換えが促され、コロンビア中部の一部ではいったんはコカインの生産が落ち込んだ。
しかし報告書によるとその後、コカ栽培は再び増加に転じている。これは、以前はFARCが支配していた主に都市部から離れた地域に犯罪組織が入り込み、新たな畑でのコカ栽培が増えているためだという。 【6月26日 AFP】
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【和平合意に従わないFARC残党も】
コロンビアの治安状況全般はよくありません。
****1日当たり33人が殺された 2018年コロンビア****
コロンビア法医学協会はコロンビアの治安に関する年次報告を火曜日に発表しています。法医学協会の会長クラウディア アドリアナ デル ピラールは、2018年は1日当たり33人が殺害されていると語っています。
報告によれば、2018年にコロンビア国内で殺害された人数は前年2017年の1万1373人より6,7%増えて1万2130人となっています。(後略)【6月26日 音の谷ラテンアメリカニュース】
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また、上記によれば、「2019年世界平和度指数」(どんなものかは知りません)で、コロンビアは163カ国中143位で、144位の破綻国家ベネズエラと(平和度では問題が多い国がひしめく)ラテンアメリカ諸国の最下位を争っている状況のようです。
コロンビアに関して特に関心が持たれるのは、和平合意した左翼ゲリラ「コロンビア革命軍」(FARC)の状況がどうなっているのか?という点ですが、大手メディアの報道では最近そのあたりの記事は目にしていませんので、よくわかりません。
昨日の【音の谷ラテンアメリカニュース】では、以下のような情報が。
****元Farcゲリラ724人が行方をくらます コロンビア****
ここ数週間にわたりコロンビア政府・国連・人民革命代替勢力(Farc)は、行方をくらました724人の元Farcゲリラの捜索を行っています。
コロンビア政府高等平和委員ミゲル アントニオ セバジョスは逃亡者の名簿を受け取っています。
政府関係者はEL TIEMPO紙の取材に対し、行方をくらましているのは下士官クラスと平ゲリラで、その行方は和平合意後に合法政党に生まれ変わったFarcも把握していないと語っています。
彼らは戦闘訓練を受けた武器の取り扱いにたけた者たちであり、犯罪組織に加わると非常に危険な存在になると懸念されています。【6月25日 音の谷ラテンアメリカニュース】
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FARC内部に和平方針に反対する勢力があることは以前から指摘されているところですが、なかなか厄介な状況でもあるようです。
5月には、下記のような事件も。
****FARC残党か、映像作家殺害=ドキュメンタリー制作中―コロンビア****
コロンビア北東部アラウカ州にある対ベネズエラ国境の町アラウキタで9日、半世紀に及んだ内戦のドキュメンタリーを制作中の映像作家が何者かに撃たれて死亡した。州知事は、最大のゲリラ組織だったコロンビア革命軍(FARC)の残党の犯行と非難している。(後略)【5月11日 時事】
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【コカに代わるコーヒー栽培も不振】
一方、FARCが合法政党に衣替えしても、“以前はFARCが支配していた主に都市部から離れた地域に犯罪組織が入り込み、新たな畑でのコカ栽培が増えている”という状況で、コカ栽培は減らないようです。
また、コカに代わって農業を支えることが期待されているコーヒー栽培も価格暴落で困難になっており、農家をコカ栽培に走らせることにもなっています。
****最高級コーヒー豆、利益は1杯2円以下 価格暴落に苦しむ農家 コロンビア****
コロンビア西部の緑豊かな山岳地帯では最高級のコーヒー豆が栽培されているが、地元の生産者は不公正な価格にいら立ちを募らせている。
コーヒー豆の価格を決めるのは、ここから遠く離れた米ニューヨーク証券取引所。業界に打撃を与える値崩れが起きているのは、市場最安値にまで価格を押し下げている投機家のせいだと農家は非難する。
生産者の一人であるグスタボ・エチェベリさんは、コーヒー豆農園が集まるこの山の住民約1万5000人の多くは不満を抱いていると話す。
「フェアトレード」認証されたコーヒーとは程遠いと地元の農家は言う。フェアトレード認証を受けているコーヒーは、公正な条件の下で栽培され、農家が搾取されていないことを保証する商品として国際的に認証されている。
サントゥアリオ村周辺では、別の作物への切り替えを余儀なくされた生産者もいる。
昨年は国際取引価格の暴落に加え、害虫被害による品質低下にも見舞われ、栽培者らは生産コストを下回る価格で販売せざるを得なかった。
1袋12.5キロのコーヒー豆を生産するには22ドル(約2400円)のコストがかかるが、エチェベリさんのコーヒー豆の卸値は1袋当たり平均21ドル(約2300円)だ。
ラモン・ヒメネスさん一家も、近くのサンアントニオ農園で3世代にわたりコーヒー豆を栽培しているが、孫のハビエルさんは、「父や祖父の後継ぎとして農場を経営しようと思っていたが、こんな状況が続くようなら他の仕事に目を向けないと。米国に行く方がいいのかも」と語った。
コロンビアは、コーヒー豆の生産量がブラジルとベトナムに次いで世界3位となっている。高品質の生豆の生産においては首位を誇る。また54万世帯がコーヒーに関わる仕事で生計を立てており、輸出に占めるコーヒー豆の割合は石油や鉱物を抜いてトップとなっている。
■「コーヒー農園売ります」の広告に震え上がる地元
だがサントゥアリオでは、コロンビアコーヒー生産者連合会の事務所に掲示された「コーヒー農園売ります」という広告に、地元生産者らは震え上がっている。
経営を続けるため、エチェベリさんのように観光客に農場を開放した経営者もいる。
コロンビアで半世紀にわたって続いた内戦で、大勢の住民がこの山岳地帯を去った。サントゥアリオのエベラルド・オチョア市長は、コーヒー栽培が危機に陥るたびに人口が流出すると嘆く。
2016年、コーヒーの国際基準価格は、1ポンド(約450グラム)当たり1.5ドル(約162円)から1ドル(約108円)未満に急落。史上最も大きい下げ幅を記録した。
国際コーヒー機関によると、2018〜2019年のコーヒー豆の生産量は、1袋60キロで換算した場合、1億6700万袋になる見通しで、世界全体の消費量1億6500万袋を上回る。(後略)【6月8日 AFP】
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一次産品価格が相対的に下落傾向にあるのはコーヒーに限った話、現在に限った話でもなく、昔から多くの発展途上国のテイクオフの足かせとなっている経済要因です。
“高級店では1ポンドの生豆から55杯分のコーヒーを作れるが、豆の買い取りを行うグローバル企業が生産者に支払う額はわずか90セント(約97円)だという。つまり生産者の利益は、1杯当たり1.6セント(約1.7円)ということになる。「1983年に比べると4分の1だ」”【同上】とも。
消費者としては複雑なところもありますが、市場原理というのはそういうものでもあります。
そこを改善しようというのが「フェアトレード」という発想ですが、どうでしょうか?よく知りませんのでパス。
【武装組織と政府軍に分かれて銃口を向けあう農村貧困層の若者 「またコカを摘むしかない」という現実】
結果的に、農家はなかなか違法なコカ栽培から抜け出せないという状況にもなります。
****コカイン栽培へと流されるコロンビアの住民たち****
コカインの原料となるコカの葉は南米原産の植物でアンデス山脈に暮らす先住民族は医療や儀式に用いてきた。(中略)
コカはその民族にとって、肉体や精神、空間を「良い」状態に保つための大切な植物だ。コロンビアで違法とされるコカ栽培は「先住民族居住区」内に限り、伝統活動として一定量の栽培が認められている。
しかし、近年蔓延する貧困から、栽培が認められていない地域でも違法的な形で麻薬産業が広まった。貧困と麻薬産業に振り回される先住民族の青年の話をしたい。
届いた1通のメール
「日本で働きたい」 昨年、コロンビアに暮らす友人からメールが届く。彼はマウロという26歳の青年だ。(中略)「元気かい?オレ、どうしても日本で働きたいんだ。どんな仕事でもする。面倒なこと言ってごめんな。でも、こっちには仕事がないんだ」
コーヒー生産地でのコカ栽培
マウロが暮らすのはコロンビア南西部カウカ県の山岳地帯で、コーヒー産地として知られている。家族単位でコーヒー栽培を営む住民が多い。
コーヒーは住民の貴重な収入源だ。マウロの家では曽祖父の世代に始まった。(中略)
近年、トウモロコシや豆類の価格が安い輸入作物の影響もあって下がり、収入の柱であるコーヒーも価格変動や病害のため不安定になった。その中でコカがより安定した収入源として生活に結びついた。
コーヒーの農閑期に近隣のコカ栽培地へ収穫の出稼ぎに出る人が増え、自家消費向けの作物からコカに転作する人も現れた。
将来の夢を描けずにいる若者がいる
マウロは都市の大学進学を夢見ていた。彼が暮らす山は反政府ゲリラが強く、政府軍との衝突が頻発し、日常的な銃声と暴力に恐怖を感じながら彼は育った。広まるコカが暴力と繋がることも知っていた。
この集落では過去に、麻薬組織から地域の自立を目指した住民運動の中心人物が暗殺されている。コカに頼る現状に後ろめたさを感じる人は多い。
深い山に閉ざされた土地で、暴力の恐怖を感じながらコカを摘む。マウロにとって都会での生活は、閉塞感を抱える故郷から飛び出し、世界の広さを実感するための一歩だった。マウロは努力の甲斐あり国内第2の都市メデジンの大学に入学する。この時彼は「心理学を勉強するんだ」と生き生きと希望を語っていた。
大学生活はマウロの姉が学費と生活費を支援した。彼女は住民によるコーヒー生産者組合で事務職に就き、毎月の一定の収入を得ていた。(中略)だが無理をしていたのだろう。入学から1年後に仕送りは止まってしまう。費用を賄えずマウロは大学を休学し実家に帰る。日本にいた私はマウロからのメールで休学の話を知った。
「コカを摘むしかない。それでお金を貯めてまた大学に戻れたら」投げやりとも感じた彼の言葉から苛立ちが伝わってきた。
その後、マウロは大学を中退したと彼の姉の知らせがあった。(中略)
「私の村には将来の選択肢がなかった」 農村の若者を取り込む武装組織
マウロのように、経済的な理由などで進路を閉ざされた農村の若者を武装組織は取り込んだ。2017年、反政府ゲリラFARCを取材した際、戦闘員は農村出身者が多数を占め、先住民族、アフリカ系も多かった。彼らにFARC入隊の動機を聞くと、ある男性戦闘員は「私の村には将来の選択肢がなかった」と話す。
彼は幼い頃、家のジャガイモ畑を手伝うため小学校を卒業できなかった。いくら働いても生活は良くならない。何かを変えたくても勉強もできずお金もない。
彼が19歳のときFARCが村に現れた。彼らは住民に、農村の貧困はコロンビアの差別的な社会構造に原因があると説明し、不平等な社会を変えるには革命が必要だと説いた。「革命を起こし社会を変える」という物語は、くすぶる青年の心に響いた。身体の奥から湧き上がる衝動のままに彼はFARCへ入った。
また先住民族である別の青年は、幼い頃に受けた町での差別が動機となった。町では山に暮らす先住民族に対し、言語や習慣の違いを嘲笑う場面が日常的にあったという。幼い彼の心に悔しさと羞恥が焼き付いた。彼はゲリラになることで「違う自分になれる気がした」と振り返る。
農村出身者の就職先として政府軍がある。お金を稼ぎたい、未来を切り開きたいという若者が持つエネルギーの受け皿として武装組織が役割を果たした面がある。
この両組織に関する2つの統計がある。
1つは2017年にFARC構成員約1万人の出身地域をコロンビア国立大学の調査したもの。構成員の66%が農村出身者だ。(中略)
もう1つは政府軍兵士の出身階層だ。コロンビアの情報サイト「Los 2 Orillas」によれば、政府軍兵士の80%が貧困層出身であり、中流階層19.5%、上流階層0.5%となる。貧困層の割合が圧倒的に高い。
コロンビアの貧困は年々改善されているが、今も農村の3割以上が、ひと家族が生きるために必要とする最低限の食料、教育、医療などを賄える収入以下で生活する「金銭的貧困(Pobreza Monetaria)」状態にあるという。
特に開発から取り残される傾向が強い先住民族やアフリカ系住民が暮らす地域でその数字が高い。(中略)
貧しい農村の若者が、選択肢のない中で新しい未来を切り開こうと麻薬産業に加担する。そこで銃口を向け殺し合うのも同じく周縁化された社会に属する若者だ。麻薬・紛争という社会が抱え続ける問題を彼らが一身に引き受けている。
再び閉ざされる未来、青年のその後
ウロが実家に戻り1年後に再び彼を訪ねると実家のコーヒー畑を手伝っていた。そこで私は嬉しい知らせを聞く。ある農業学校の奨学生に彼が合格したのだ。(中略)
夢を語る彼の姿は自信に満ちていた。
だが、その夢も閉ざされようとしていた。2018年1月にコロンビアで彼を訪ねると、やっと得た仕事が期間を延長されずに終了したという。次の仕事はその土地にはもうなかった。「またコカを摘むしかない」。ようやく差しかけた光を見失いかけていた。
「日本で仕事を探したい」という彼のメールが届いたのは、2018年2月に私が帰国して間もなくだった。(中略)
コロンビアから日本へ
(中略) 日本での1グラムあたりの末端価格が2万円以上とされるコカインは、その高額さから「セレブのドラッグ」と呼ばれているという。一方で、山岳部のわずかな土地を切り開きコカ栽培をする零細農家のひと月分の収入は、コロンビアの最低賃金と同程度の3万円前後。末端の生産者が必死に働きようやく手にすることができるのが、1グラムのコカインをわずかに上回る金額なのだ。
日本の薬物問題はコロンビアと直接関係はない。(中略)だが、両者は生産者と消費者という密接な関係で繋がっている。
テレビやインターネットでは、次々と話題にあがる薬物使用のニュースが日々消費されていく。だが、そんなこととは関係なく、コロンビアのある地域では今日も、明日の糧を得るためにコカの葉を摘む人々が汗を流している。【6月18日 WEDGE】
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