
(トランプ大統領 パナマ運河とスエズ運河を無料で通航できるようにすべきと表明【4月27日 TBS NEWS DIG】
【アメリカはなぜパナマ運河を返還したのか? 当時からあった返還反対論】
トランプ米大統領はこれまでにパナマ運河を「取り戻す」と主張し、軍事力を行使する可能性も否定しない対応をとってきたことは周知のところです。
****パナマ運河****
スエズ運河を拓いたフェルディナン・ド・レセップスが開発に着手するが、難工事とマラリアが蔓延して放棄する。のちにパナマ運河地帯としてアメリカ合衆国が建設を進め、10年かけて1914年に開通した。長らくアメリカが管理したが、1999年12月31日正午にパナマへ完全返還した。【ウィキペディア】
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確かにパナマ運河建設にはアメリカが大きな役割を果たしました。ただ、その所有権は上記にもあるようにすでにパナマに完全返還されています。
****アメリカはなぜパナマ運河を返還したのか?****
■ そもそもなぜアメリカがパナマ運河を支配していたのか?
1903年、アメリカはパナマ(当時はコロンビアから独立したばかり)と条約を結び、「パナマ運河地帯」を実質的に自国領土のように管理する権利を手に入れました。
その後1914年に運河を完成させ、アメリカは長い間運河をコントロールしていました。
ただし、パナマ側から見ると「運河地帯は外国に占領されているようなもの」であり、不満がずっとくすぶっていました。
■ なぜ返還することになったのか?
20世紀中盤からパナマ国内の反米感情が高まったことが大きな理由です。
特に1964年、運河地帯でアメリカとパナマの間で大規模な衝突(暴動)が発生し、パナマ人が何十人も犠牲になる事件がありました。
国際的にも、「植民地主義的な状況を続けるべきではない」という圧力が強くなっていきました。
アメリカ国内でも、「いつまでも外国に拠点を持ち続けるのはリスクだ」という意見が増えてきました。【ChatGPT】
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ただ、当然ながらパナマ運河返還にはアメリカ国内にも強い反対論がありました。
返還条約を進めたのは民主党・カーター大統領でしたが、カーター外交(「人権外交」とも当時評されていました)を弱腰と批判する保守派・共和党にパナマ運河返還にも反対論がありました。
理由は、安全保障上の懸念(当時は冷戦が続いていましたので、「もしソ連が運河を脅かしたらどうするのだ!」という主張)、せっかくアメリカの血と汗でつくったものをどうして手放すのかという感情論・ナショナリズム、軍事独裁政権だったパナマへの不信感、通行料が入らなくなる経済的損失などでした。
トランプ大統領の主張を受ける形で、ヘグセス米国防長官は4月8日、中米パナマを訪問し、中国がパナマ運河の運営を危険にさらすことをアメリカは許さないと警告しました。
ただし、パナマ運河の主権に関しては「パナマ運河はパナマにあることはもちろん認識しており、悪意のある影響力からパナマの主権を守ることは重要だ」とも。
****運河の主権保有者はパナマ、米が認識とパナマ政府発表****
ヘグセス米国防長官の訪問を受けて中米パナマ政府は9日、パナマ運河の主権を自国が持っていることを米国が認識したと発表した。また、米国がパナマでの軍事演習を強化することで両国が合意したとも表明した。
米国とパナマが安全保障協力の強化で合意したことに関し、パナマが発表したスペイン語版の共同声明には「さらにヘグセス氏は、パナマ運河と隣接地域に対するパナマの指導力と不可分の主権を認めた」と盛り込んだ。これに対し、米国防総省が発表した英語版にはその一文が含まれていなかった。
トランプ米大統領はこれまでにパナマ運河を「取り戻す」と主張し、軍事力を行使する可能性もけん制していた。
ヘグセス氏はパナマ市での記者会見で「パナマ運河を共産主義国の中国から取り戻すのを手助けする」と訴えた。米当局者や専門家は、中国企業が保有する港湾などのインフラがスパイ活動に利用される可能性があるなどとし、米国が安全保障上の懸念を持っていることを正当化している。
一方、パナマ政府はパナマ運河を中国に支配されているとの米国側の主張を強く否定している。
また、パナマがパナマ運河の主権を持っていることを認めるのかと質問されたヘグセス氏は「パナマ運河はパナマにあることはもちろん認識しており、悪意のある影響力からパナマの主権を守ることは重要だ」と回答。
米国とパナマが安全保障協力の強化で合意したことに関し、パナマが発表したスペイン語版の共同声明には「さらにヘグセス氏は、パナマ運河と隣接地域に対するパナマの指導力と不可分の主権を認めた」と盛り込んだ。これに対し、米国防総省が発表した英語版にはその一文が含まれていなかった。
トランプ米大統領はこれまでにパナマ運河を「取り戻す」と主張し、軍事力を行使する可能性もけん制していた。
ヘグセス氏はパナマ市での記者会見で「パナマ運河を共産主義国の中国から取り戻すのを手助けする」と訴えた。米当局者や専門家は、中国企業が保有する港湾などのインフラがスパイ活動に利用される可能性があるなどとし、米国が安全保障上の懸念を持っていることを正当化している。
一方、パナマ政府はパナマ運河を中国に支配されているとの米国側の主張を強く否定している。
また、パナマがパナマ運河の主権を持っていることを認めるのかと質問されたヘグセス氏は「パナマ運河はパナマにあることはもちろん認識しており、悪意のある影響力からパナマの主権を守ることは重要だ」と回答。
続いて「だからこそトランプ氏はパナマ運河を中国の影響力から取り戻すと言っており、それには米国とパナマの連携が必要になる」とし、「パナマが米軍のローテーション、合同軍事演習を歓迎してくれていることを感謝している」と語った。
米国を発着するコンテナ船の年間輸送量のうち4割超、約2700億ドル相当がパナマ運河を経由しており、パナマ運河を通過する船舶の3分の2超を占めている。【4月10日 ロイター】
米国を発着するコンテナ船の年間輸送量のうち4割超、約2700億ドル相当がパナマ運河を経由しており、パナマ運河を通過する船舶の3分の2超を占めている。【4月10日 ロイター】
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パナマに主権があることは認めているが、もし運河の運用が中国の管理下におかれるのであれば、アメリカに返してもらう(管理権なのか主権なのかはよくわかりませんが)・・・ということでしょうか。
【スエズ運河も「米国なければ存在しなかった」とは? スエズ動乱をめぐる経緯か】
ここにきて、トランプ大統領はパナマ運河だけでなくスエズ運河についても、アメリカの船舶の通航を無料にするよう求めています。
*****「米国なければ存在しなかった」トランプ大統領がパナマ、スエズ運河の「無料通航」主張****
米国のトランプ大統領は26日、自身の交流サイト(SNS)で、「米国の船舶は軍用でも商用でも、パナマ運河とスエズ運河の無料通航が許可されるべきだ」などと主張した。
両運河は「米国がなければ存在しなかっただろう」とも述べ、ルビオ国務長官にただちに対処するよう指示したことも明らかにした。
太平洋と大西洋を結ぶ中米のパナマ運河と地中海と紅海をつなぐ中東のスエズ運河は海上貿易の要衝。トランプ氏は1月の就任以降、パナマ運河について「中国の影響下にある。管理権を取り戻す」などと主張してきたが、スエズ運河にも関心を示した形だ。
パナマ運河を巡っては3月、香港系企業が運河両端にある2つの港の権益を、米資産運用大手が率いる共同事業体に売却する計画を発表。中国当局は反発しており、手続きが遅れている。【4月27日 産経】
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パナマ運河については冒頭に書いたように、その建設はアメリカが担いました。
ではスエズ運河は?
建設自体にはアメリカは関与していません。スエズ運河の建設(1859年~1869年)当時、アメリカは南北戦争(1861年–1865年)でそれどころではない時期です。
にもかかわらずトランプ大統領が「米国がなければ存在しなかっただろう」と主張するのは、おそらくスエズ動乱(スエズ危機とも)のいきさつを指すものと思われます。
スエズ動乱(危機)とは、エジプトのナセル大統領のスエズ運河国有化に端を発する第2次中東戦争(1956年)とも呼ばれる戦争です。
****スエズ危機とアメリカ*****
■ 1956年:スエズ危機
当時、スエズ運河はイギリスとフランスが大きな影響力を持って運営していましたが、エジプトの大統領ガマール・アブデル=ナセルが「運河を国有化する!」と宣言しました。
これに激怒したイギリス、フランス、そしてイスラエルがエジプトに対して軍事行動を開始します。(=スエズ戦争)
■ アメリカの立場
普通ならアメリカはイギリスやフランスを支援しそうですが、今回は違いました。
冷戦の真っ最中だったので、アメリカ(当時の大統領はアイゼンハワー)は、アラブ諸国をソ連側に追いやることを恐れました。
だからアメリカは、イギリス・フランス・イスラエルに対して即時撤退を要求しました。
同時に、国連と連携して停戦を主導し、国際平和維持軍(UNEF)を派遣させる形に持っていきました。
■ その後
この一件でイギリスとフランスの中東での影響力は急激に低下し、代わりにアメリカとソ連が中東問題の中心プレイヤーになっていきました。
スエズ運河そのものにアメリカが直接支配権を持つことはなかったものの、運河の国際的な自由航行の保証や中東での影響力維持にアメリカが深く関与するようになります。【ChatGPT】
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英仏両国政府はエジプトに侵攻してスエズ運河地帯の確保を画策したが、第二次世界大戦以後、かつてのような侵略目的の戦争は非難を浴びる社会となっていたことから、英仏が目をつけたのが第一次中東戦争でエジプトと敵対していたイスラエルであった(エジプト革命の際にイスラエルはエジプトを攻撃しており、これに激怒したナセルは、イスラエルのインド洋への出口であるアカバ湾と紅海をつなぐチラン海峡を軍艦をもって封鎖していた。これによってイスラエルは経済に打撃を受けていた)。
スエズ運河の利権を確保するために軍事行動の口実を探していた英仏と、チラン海峡における自国船舶の自由航行権を確実なものとするためにエジプト軍をシナイ半島から追い払いたいイスラエルは利害が一致した。
ナセル政権打倒で一致していた三国による共同軍事行動をまとめたのは、フランスであった。【ウィキペディア】
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上記の英仏・イスラエルの軍事行動を頓挫させたことで、アメリカの国際社会における立場はゆるぎないものになりました。
“結局英仏はスエズ運河を失い、イギリスのアンソニー・イーデン首相は敗戦の責任をとらされる形で辞職した。アメリカはナセルをこれ以上追い詰めて、ソ連が介入してくることを恐れたが、しかし英仏軍撤退の瞬間にアメリカが欧州に対して圧倒的優位であることを世界に誇示することができた。”【ウィキペディア】
当時の国際状況は今とは随分違います。
第2次大戦前の植民地支配・帝国主義的残滓を引きずる英仏は露骨に好戦的です。
アメリカも今のようにイスラエルべったりではなく、イスラエルに対する経済制裁も示唆しています。
トランプ大統領は、上記のスエズ動乱の経緯を念頭に、エジプトがスエズ運河を保有できているのはアメリカが国際社会を動かして英仏・イスラエルを阻止したおかげだ・・・・と言いたいのでしょう。
“アメリカのおかげで・・・”というのはあながち間違いでもありませんが、今になって無料通航を求めるというのは、いささかスエズ動乱当時の英仏と似通った自国利益中心の強引さを感じます。