孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

コートジボワール  紛争は最終段階 今後の論議をよぶ住民虐殺とPKOによる軍事介入

2011-04-06 21:22:49 | 国際情勢

(昨年12月 ワタラ氏が居住するアビジャンのホテルを警護するPKO部隊を訪問した国連事務総長の使節 “flickr”より By unpeacekeeping  http://www.flickr.com/photos/unpeacekeeping/5497840019/

国連・仏軍介入で、バクボ大統領の投降は時間の問題
カカオの産地でもある西アフリカ・コートジボワールの大統領選挙を巡る混乱については、これまでも数回取り上げてきました。

2010年の大統領選をめぐり、選管がワタラ元首相の当選を認定したのに対し、最終確定権を持つ(バクボ大統領の影響下にある)憲法評議会が現職のバグボ大統領の再選を宣言。国際社会はワタラ氏の当選を承認しましたが、バグボ氏は退陣に応じず、「二人の大統領」が並立する状況となっていました。混乱の背景には、宗教・民族的な南北対立もあるとされています。

アフリカ連合(AU)の調停も不調に終わり、最大都市アビジャンにおいて、PKO部隊に守られたワタラ氏をバクボ大統領側がホテルに缶詰め状態にする状況が続き、国際社会の不当介入を煽るバクボ大統領側の住民虐殺も懸念されていました。
その後、ワタラ氏を支持する北部勢力が南進し、双方の衝突が激化し、多数の市民らが死亡。ワタラ氏支持勢力は3月下旬に西部を攻略、攻勢を強めていました。

こうした混乱も、ワタラ氏を支持する旧宗主国フランスの軍事介入によって、ワタラ氏側の武力制圧という形で、一応の決着がつきそうです。
今朝のフランスのTVニュースでは、バクボ大統領が隠れていたシェルターから出て投降した・・・との報道もありましたが、ネット上のメディア報道では、まだ投降は確認されていません。ただ、時間の問題と見られています。なお、6日20時41分の【毎日】では“ワタラ元首相の支持部隊が攻撃を再開、バグボ前大統領が立てこもっているとされる最大都市アビジャンの大統領の邸宅に突入した”とあります。

****コートジボワール 大統領投降へ交渉 元首相支持部隊が総攻撃****
昨年11月の大統領選をめぐり混乱が続くコートジボワールの最大都市アビジャンで、国際社会が当選を承認するワタラ元首相の支持部隊が4日、政権に居座るバグボ大統領側部隊への総攻撃を開始した。バグボ氏側司令官は即時停戦を申し入れており、ジュペ仏外相は5日、バグボ氏の投降に向けて交渉が行われていることを明らかにした。仏国防省によると、投降は時間の問題とみられる。
ロイター通信によると、同氏の広報官も5日、ワタラ氏を大統領と認める▽バグボ氏と家族の安全を確保する-ことを条件に同氏の投降と国外脱出が双方間で交渉されていると述べた。

ワタラ氏側部隊は4日、大統領公邸を攻略したが、バグボ氏は見つかっていない。バグボ氏側の共和国防衛隊2500人は軍基地や大統領府、国営テレビ局で抵抗を続けているが、ワタラ氏側の兵力は9千人と圧倒している。
平和維持活動(PKO)部隊の国連コートジボワール活動(UNOCI)はアビジャンで戦闘が激化した3月31日以降、バグボ氏側の攻撃で11人が負傷。市民の犠牲者も激増した。

同月30日に採択された国連安全保障理事会決議に基づき、重火器による市民やPKO部隊への攻撃を防ぐため、国連は4日、駐留仏軍と共同作戦を実施。武装ヘリがバグボ氏側の重武装車両、武器庫を破壊した。
ロシアのラブロフ外相は「PKOは中立かつ公平であるべきで、合法性を検討中だ」と述べた。
旧宗主国フランスの大統領府は4日の声明で、潘基文国連事務総長の要請に基づき駐留仏軍が武力介入を開始したと発表。仏外務省によると、アビジャンでフランス人2人を含む外国人5人が拉致された。フランスは戦闘の激化に伴い約900人の駐留部隊を約1650人に増強していた。【4月6日 産経】
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旧宗主国ということでコートジボワールと関係の深いフランスは、現地の在留フランス人が約1万2000人いるとのことで、フランス軍は4日、救出のため自国民をアビジャン市内の3カ所に集合させ始めていました。
“フランスは大統領選後、ワタラ氏の支持を表明し、バグボ氏側に早期の政権移行を促していた。バグボ氏はこれに対し、「植民地主義の再来」と反発、仏系銀行の系列会社の「国有化」に踏み切った。3月初めには生産量世界一のカカオ豆の買い付けや輸出を政府の統制下に置くと発表するなど、フランスを含む多国籍企業の権益への脅威が増していた。”【4月5日 朝日】ということで、フランスが有する権益確保と西アフリカにおける存在感維持のため、フランスは軍事介入に踏み切ったと思われます。

今後に影響する住民虐殺の真相
今回のワタラ氏側の軍事進攻にあたっては、ふたつの問題が生じています。
ひとつは、軍事衝突のなかで起きた住民虐殺の疑惑です。

****コートジボワール混乱、800人以上犠牲 赤十字発表****
昨年11月のコートジボワール大統領選をきっかけに始まった政治混乱の影響で、赤十字国際委員会は2日、同国西部の町ドゥエクエでの戦闘で800人以上が殺されたと発表した。
戦闘は、国際社会が当選を認定したワタラ元首相を支持する部隊と、選挙で敗北したが大統領職に居座る現職バグボ氏の政府軍の間で、29日に起きた。

国際社会の介入にもかかわらず事態が打開しないため、3月下旬からワタラ氏側が、バグボ氏の支配圏への攻勢を強めている。国連によると、双方に人権侵害行為の疑いが出ている。
ワタラ氏は2日、同国西部で複数の集団墓地が見つかったと明らかにした。バグボ氏側がワタラ氏の支持者を虐殺したと見ている。
戦闘は、バグボ氏の拠点である最大都市アビジャンで、2日も続いている。バグボ氏はアビジャンにいる模様だが、この数日間は姿を見せていない。(ナイロビ=古谷祐伸)【4月2日 朝日】
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今のところ、虐殺の犠牲者数も、どちら側による殺りくだったのかも不明です。
ワタラ氏は潘基文(パン・ギムン)国連事務総長との電話会談で、支持勢力の関与を否定し、国際社会からの調査を受け入れると表明しています。
今後の調査でワタラ氏側の関与が明らかになった場合、ワタラ氏を支持した国連の立場にも影響が出てきます。

【「(PKO部隊の)自衛と市民保護のため」】
もうひとつの問題は、その国連PKOの今回対応についてです。
これまでバクボ支持勢力からワタラ氏をホテルに保護してきたPKO部隊は、フランス軍との共同作戦で、明確なバクボ大統領側攻撃に出ました。

****仏軍と国連部隊、バグボ氏拠点を空爆 コートジボワール****
2011年04月05日 09:12 発信地:アビジャン/コートジボワール
大統領選の結果をめぐって混乱が続くコートジボワールで4日、駐留仏軍と国連平和維持活動(PKO)部隊が大統領に居座るローラン・バグボ氏の拠点への空爆を行った。国際社会が当選を承認するアルサン・ワタラ元首相の支持派も同日、バグボ派への総攻撃を開始した。
国連関係者によると、仏軍・PKO部隊のヘリコプターは、最大都市アビジャンで、大統領宮殿、バグボ氏の住居、兵舎などを攻撃した。この数時間前には、ワタラ派が新たな攻撃を開始した。

作戦の報道官は、「国連安保理決議1975にもとづき、駐留仏軍と共同作戦を行っている」と発表した。
前月30日に採択されたこの決議は、大統領職を辞さないバグボ氏に制裁を科すもので、国連部隊は民間人を保護するとともに、重火器の使用を回避すべきとも記されている。
関係者によると、仏軍・PKO部隊による合同軍事行動は、国連の潘基文事務総長がニコラ・サルコジ仏大統領に書簡で(軍事行動を)緊急要請したことに応じたものだという。【4月5日 AFP】
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PKO部隊が紛争当事者の片方を支持して軍事行動に出ることは異例の事態ですが、これまでの“中立・不介入”が、PKO部隊が展開していながら推定80万人もの虐殺が行われたルワンダなどでは結果的に“虐殺の黙認、住民見殺し”につながったとの批判もあります。

****PKO、バグボ氏攻撃「自衛と市民保護」 国連事務総長****
コートジボワールで、国連平和維持活動(PKO)部隊が紛争当事者のうち一方を攻撃したのは、PKO部隊としては異例の行動だ。潘基文(パン・ギムン)国連事務総長は「(PKO部隊の)自衛と市民保護のため」とする声明を出したが、加盟国からは反発の声も出そうだ。

潘氏は声明で、過去数日間、アビジャンにあるPKO部隊の本部が、バグボ派によって迫撃砲などで攻撃されて4人が負傷し、市民保護活動に従事していたPKO部隊もバグボ派に襲撃されたと説明。国連がバグボ派の標的となっている状況を訴え、自衛の必要性への理解を求めている。
その上で、先月30日に採択された国連安全保障理事会の決議などに基づいて、差し迫った暴力から市民を保護するため、駐留フランス軍と連携した軍事行動を含む必要な手段を講じるように命じたとしている。

PKO部隊によるバグボ派への攻撃は、この日の安保理でも報告された。PKO担当のアラン・ルロワ国連事務次長は安保理に出席後、報道陣に対し、「今回の武力行使は、暴力から市民を守るという安保理決議に則したもの。異議を唱えた理事国はなかった」と繰り返し強調した。安保理はコートジボワール情勢をめぐる協議を5日も行う予定だ。
一方、コートジボワール駐留仏軍が軍事介入を決めた背景には、旧宗主国フランスの権益を守り、西アフリカでの存在感を維持したいとの思惑がある。(後略)【4月5日 朝日】
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潘基文国連事務総長はリビア紛争においても、国家が住民の保護責任を放棄した場合、国際社会が国家に変わって保護する責務があるとの立場で軍事介入を容認していますが、国際社会による“市民保護”という観点からの積極的な紛争介入を進めています。

こうした立場は、先述のようなルワンダの悲劇の反省に基づくものですが、とかく“存在感がない”と批判される潘基文国連事務総長自身の存在感アピールの思惑もあるのではないでしょうか。

PKOの軍事行動を疑問視する立場も
ただ、国連の紛争介入には批判もあります。
****コートジボワールのPKO空爆を疑問視、ロシア・南ア外相****
大統領選の結果をめぐって混乱が続くコートジボワールで、国連平和維持部隊(PKF)と駐留仏軍が、大統領に居座るローラン・バグボ氏の拠点を空爆したことに対し、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は5日、PKFによる武力使用に疑問を示した。
ラブロフ外相は記者団に「PKFは公平・中立の義務があったはずであり、この問題についての法的側面を調べている」と語った。
ラブロフ外相はまた、ロシア政府は状況の説明を求めて国連安全保障理事会に特別報告を要請したが、その結果に満足していないと述べ、「われわれの疑問を解消するような的確な回答は得ていない。今後も状況を調査するつもりだ」と語った。

安保理の非常任理事国である南アフリカもコートジボワールでのPKFの役割に懸念を強めている。マイテ・ヌコアナマシャバネ外相は、コートジボワールでの治安や人道的状況の悪化を深く懸念しているものの、空爆が委任されたとは認識しておらず、空爆を必ずしも支持しないと述べた。【4月6日 AFP】
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今回衝突のもうひとつの問題である住民虐殺にワタラ氏側が関与していた事実が出てくると、今回PKFの軍事介入の正当性に対する批判も強まりそうです。
個人的には、国連部隊が存在していながらルワンダのような虐殺が行われるの見過ごすことは人道的に許されないことだと思いますので、なんらかの形での国連・PKOの積極的介入はあってしかるべきだと考えています。


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