孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

北方領土  ロシアにとっても「お荷物」ではなくなりつつある現状で難しい返還交渉

2015-11-15 23:38:15 | ロシア

(択捉島に完成した新空港 サハリンのユジノサハリンスク(豊原)と空路で結ばれることになりました。【11月4日 SPUTNIK】)

平和条約締結交渉は再開したものの、深い溝
今日・明日にトルコで行われるG20首脳会合に合わせ、安倍首相とロシア・プーチン大統領の会談が予定されています。
18日からマニラで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議での会談を調整していましたが、プーチン大統領がAPEC欠席を発表したため、G20での実施に向け調整が行われていたものです。

対ロシア関係で日本側の最大の関心事は北方領土問題ですが、今回はそうした実質協議というよりは、実質協議に向けて、年内の訪日が困難になっているプーチン大統領訪日の再調整が話し合われと思われます。

10月に再開した平和条約締結交渉について継続していく方針についても触れられるかもしれませんが、中身が問題とされています。

北方領土問題とリンクする平和条約締結交渉については、9月にモスクワを訪問した岸田外相とロシアのラブロフ外相と会談で再開が合意され、10月8日に次官級協議が開催されています。

しかし、領土問題を切り離す姿勢を見せるロシア側との隔たりは大きいことが指摘されています。

****日露外相会談を開催 平和条約締結交渉再開で一致****
ロシアを訪問中の岸田文雄外相は21日夕(日本時間同日夜)、モスクワでロシアのラブロフ外相と会談し、平和条約締結交渉を再開することで合意した。安倍晋三首相が意欲を見せるプーチン大統領の年内来日に向けた調整を進めることでも一致した。ただ領土問題をめぐりロシア側は強硬な姿勢に終始し、歩み寄りはみられなかった。

両国は平和条約締結問題を話し合う外務次官級協議を10月8日にモスクワで開催し、具体的な協議を進める。平和条約を主題にした次官級協議開催は、ウクライナ危機を背景に昨年1月以降、中断されていた。(中略)

ただ北方領土問題をめぐっては岸田氏が「突っ込んだ議論を行った」と述べたのに対し、ラブロフ氏は「北方領土という話はなされていない。議題となったのは平和条約締結問題だ」と領土問題の存在を否定するかのような発言を行ったうえ、「この問題は日本が第二次大戦後の歴史的事実を受け入れないと前進できない」とも語り、日本側を強く牽制した。
ラブロフ氏は日本の対露制裁を念頭に、「両国間の雰囲気は友好的とは言いがたい」とも述べた。【9月22日 産経フォト】
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****日ロ次官級協議、領土議論平行線****
外務省の杉山晋輔外務審議官が8日、モスクワの外務省別館で、ロシアのモルグロフ外務次官と約1年9カ月ぶりとなる平和条約を巡る次官級協議を行った。ただ、北方領土問題を巡る議論は平行線に終わった。

会談は、昼食を挟んで8日夕(日本時間同日深夜)まで、約7時間続いた。会談後、杉山氏は「会談に非常に厳しい側面があったことは否定できない」「隔たりは大きい」と述べた。次回協議の日程についても具体的に決まらなかった。

岸田文雄外相が先月に行ったラブロフ外相との会談で、平和条約交渉の再開で合意。今回の次官級協議は合意後最初の実質的な交渉だった。日本側が実現を目指しているプーチン大統領の年内訪日に向けた準備という意味合いもある。【10月9日 朝日】
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ロシアにとってお荷物だった極東の島々が、今後その価値をどんどん増していく
北方領土に関するロシア側の姿勢は、ここ数か月でみても今まで以上に硬化しているように見えます。
メドベージェフ首相等閣僚の相次ぐ北方領土訪問は、プーチン大統領の領土問題に関する姿勢を反映したものと思われます。

****北方領土、ロシア閣僚次々 対日路線転換、プーチン氏了承か****
ロシアのソコロフ交通相が7日、北方領土の国後(くなしり)島を訪れた。8月にメドベージェフ首相が択捉(えとろふ)島を訪れたほか、7月以降、ロシア閣僚の北方領土訪問が相次ぐ。プーチン大統領も了承のうえで、北方領土交渉の中断も辞さない対日姿勢に転じた可能性が高い。

ノーボスチ通信によるとソコロフ氏は、国後島の道路や港などを視察した後、択捉島に向かう予定という。日本の外務省は7日、在京ロシア大使館に電話で「日本の立場と相いれず、極めて遺憾であり抗議する」と伝えた。

メドベージェフ氏は7月23日の閣議で北方領土を国境防衛の拠点として強化する考えを表明。他の閣僚にも北方領土訪問を促した。

こうした政府の姿勢は、2014年のウクライナ危機以前と比べると大きく変化している。13年末、メドベージェフ氏の側近は朝日新聞の取材に「首相が北方領土を訪問する計画はない」と述べた。13年4月の日ロ首脳会談で安倍晋三首相とプーチン氏が北方領土交渉の再開で合意したこと、さらに安倍氏が14年2月のソチ冬季五輪への出席を検討していたことへの配慮だったとみられる。

しかし、今年7月以降、北方領土訪問に抗議する日本政府に対して、ロシア外務省は「日本の立場を考慮する考えはない」と繰り返している。9月2日には、外務省で対日関係を担当するモルグロフ次官が北方領土問題について「私たちは日本側といかなる交渉も行わない。この問題は70年前に解決された」と発言。外務省報道官が記者会見でロシア政府の立場だと確認した。

プーチン氏は、北方領土交渉を続ける考えを繰り返し表明してきた。相次ぐ閣僚の北方領土入りや外務省の声明は、日本がウクライナ問題で欧米とともに対ロ制裁を続けるなか、プーチン氏自身が承認したうえで対日路線を転換したことを示している。プーチン氏は、両国が基本合意していた年内訪日の実現を重視していないとみられる。

一方、プーチン氏自身は北方領土を訪問していない。昨年ウクライナから一方的に併合したクリミア半島には繰り返し訪れており、今のところ北方領土問題で対話の芽を完全に摘むことは控えている模様だ。【9月8日 朝日】
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ロシアにとって、北極海航路など北極圏戦略においても、北方領土の軍事的重要性が増しているとの指摘もあります。

****クリール諸島の基地増強へ=北方領土か、対日関係影響も―ロシア****
ロシアのショイグ国防相は22日、北極圏戦略の一環として、クリール諸島(北方領土を含む千島列島)に軍事基地を増強すると表明した。インタファクス通信が伝えた。北方領土の基地が増強されれば、対日関係にも微妙な影響を与えそうだ。

ロシアが、北極海航路などの文脈でクリール諸島の軍備増強に触れたのは初めてとみられる。

プーチン政権は資源や北極海航路支配などを狙い、北極圏で軍事力を強化中。クリール諸島の海峡は、ロシア極東のオホーツク海から太平洋、北極海に至る出入り口に当たり、北方領土の軍事的重要性も増しているとされる。

ロシアにとっては、戦勝70年で高揚させた国民の愛国心だけでなく、北極圏をめぐる安全保障戦略の観点からも、北方領土問題で譲歩は難しくなったと言えそうだ。(後略)【10月22日 時事】 
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ロシアは重視する極東開発を促進する施策の一環として、国民への土地無償供与を北方領土にも適用する方針です。

****ロシア 北方領土の土地を国民に提供へ****
ロシア政府は、極東地域の人口増加に向けて、国民に土地を無償で提供する制度を来年5月から始めることを決め、北方領土にも適用する方針で、北方領土をあくまでロシアの領土の一部として開発を進める姿勢を重ねて示しています。

この制度は、ロシアのプーチン大統領が極東地域の人口増加に向けて政府に検討を指示していたもので、極東地域の開発を担当するトルトネフ副首相が12日、モスクワでメドベージェフ首相と協議し、この制度を来年5月から始めることを決めました。

それによりますと、ロシア政府は、希望する国民に1人当たり1ヘクタールを無償で貸し出し、農地として5年間、利用するなどの実績が認められれば所有を認めるとしており、北方領土にも適用する方針です。

北方領土を巡ってロシア政府は、来年からの10年間に日本円で1300億円規模の資金を投入してインフラ整備などを行うことも明らかにしています。

政府は、今回、実施を決めたこの制度によって、極東地域に人や投資を呼び込む効果を期待しているとしていますが、北方領土をあくまでロシアの領土の一部として開発を進める姿勢を重ねて示したもので、日本側で波紋が広がりそうです。【11月14日 NHK】
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軍事的な問題を含め、単に国家の施策の問題であれば、ロシアにおける絶対的決定権を有するプーチン大統領を経済協力等の見返りで説得できれば・・・ということもあり得ますが、ロシア国民の関心が北方領土を含む「極東」に向きつつあるという話になると、現状を変更するのはプーチン大統領をもってしても難しくなります。

極東の島々は、もはやロシアにとってのお荷物ではなくなりつつあるようです。

****空前の観光ブームに沸くカムチャッカ、そして択捉島も****
西側に懲りて東に走るロシア人、北方領土返還はまた遠のく

肩身が狭くなった西欧
クリミア半島の一件以来、西欧はロシア人には肩身が狭い。黒海沿岸のソチやアナパ、など、ロシア国内にも歴史的に有名な海浜リゾートがあるが、冒険好きの若い連中にはちょっと刺激が足りない。

そこで最近になって登場してきたのが、カムチャッカやサハリン、さらにはクリールの島々だという。ロシア極東のリゾート化が始まったのだ。

私の住むプロスペクトミーラ(平和大通り)に、この9月、小さな店がオープンした。 店名はずばり「赤イクラ」。経営する会社はサハリンリーバ社(サハリン魚類会社)。

サハリンで集荷したイクラを航空便でモスクワに運び、新鮮なうちに、同社のチェーン店で販売する。どの店も在庫が終了次第、閉店。これが大変な人気なのである。

これまでモスクワで販売されていたイクラは、長期保存に耐えるよう水分が抜かれ粒と粒が筋子のようにつながってしまった、硬い卵である。

ところが、サハリンリーバ社が持ち込むイクラは水分が残り、舌の上で卵が弾けるような感覚。ロシア人がまだ味わったことのないイクラなのだ。(中略)実はこのイクラは択捉島の水産工場製とのこと。

その技術は日本から入れたもので、品質は日本製のイクラと同じだろうと言う。そのイクラが最近整備された択捉空港からサハリンに空輸され、他地区から集荷された水産品とともにコンテナ積みされて、モスクワまで輸送されるのだそうだ。

そして、そのサハリンから届いたイクラにモスクワでは行列ができる。

カムチャッカ産にも長蛇の列
これと同じ光景を先日クロックスエキスポの展示会場で行われた「黄金の秋」展でも見ることができた。
こちらはカムチャッカ産のイクラ。価格はサハリンリーバ社のイクラと同じく、300グラムで1500円程度である。ここにも長い行列ができていた。

今や、ロシア人にとり、我々の言うところの「北方領土」は美味いものの一大産地となりつつある。

文頭に戻ろう。ヨーロッパへのバケーションが楽しみにくくなるにつれ、リゾートとしてのロシア極東はその意義をますます強める。

ウラジオストク郊外にロシア国内4カ所で建設中のカジノ村の最初のコンプレクスがオープンし、すでに年末のホテル予約が取れないというニュースに接したのはまさに数週間前のことである。

旅行社はカムチャッカのツアーを充実させて、ホテルも雨後の筍のように次々にオープンしている。

サハリンは千島列島への空路のハブとして、ますます成長が見込まれる。そして、択捉島。水産業の一大拠点として、モスクワの民間資本の資金もかなり流れ込んでいると聞く。

今、ロシアを巻き込みながら、世界はものすごい速度で変化している。
ウクライナ紛争も、シリアでの反政府派攻撃も、そしてその結果なのだろうか、今回シナイ半島上空で失われた224人のロシア人の命も、ソチオリンピックの終わった2014年2月には予想さえできなかった事態である。

これらの新しい事態と太い糸で結合され、あるいは見えない細い糸で絡み取られるようにして、極東の半島や島々もそのロシアの変化の中に取り入れられていく。

お荷物だった極東の島々が・・・
客観的に見て、ロシアにとってのお荷物だった極東の島々、そして半島は、今後その価値をどんどん増していくだろう。

新しい観光地、グルメランド、漁業基地、水産物加工場、すでにこれだけの多面性を実現したこの地が、今後多くのロシア人を呼び込むことに成功すれば、ヨーロッパ側に大きく傾いていたロシアの東西バランスを真ん中に戻すことができるかもしれない。

皮肉なことに、ロシアの西側での苦難は、最も忘れられていたロシアの領土である極東を蘇らせることに貢献することになる。

このような大事業が見え隠れする北方領土をロシアが日本に返還することがあるのだろうか。いや、正確に言えば、歯舞、色丹というすでにロシア側が一度返還条件まで明示した2島については、当然返還されねばならない。

しかし、国後、択捉の2島について、すでに見てきたロシアの変化の中においては、日本への返還はプーチン政権の選択肢からはすでに除外されているのではないか、と「赤いイクラ」の店の前に列を作る人々を見て考える。

我が国の選択は、択捉島の水産加工産業の拡大に我が国も参加し、その利益を両国で確保することではないのか。
日本人もロシア人とともに、レジャーや事業目的で国後、択捉に自由に出入りできるような状態を作ることではないのか。

北方領土に指一本触れることなく、遠くからロシア高官の北方領土訪問を非難するだけでは、我々日本国民はロシアの前で確実にガラパゴス化していくだけである。

北方領土に対する我が国の政策は、激動する現代に即した方向に今からでも転換せねばならない。【11月12日 菅原信夫氏 JB Press】
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領土問題というのは絶対に譲歩できない問題であると多くの人には認識されているようですが、私個人としては、領土というものは戦争を含むいろんな事情で取ったり取られたりした結果のもので、それ以上でも以下でもないと考えています。

また、北方領土に限らず、どんな問題についても利害が対立する双方に言い分・主張・立場があります。

自己の主張に固執するあまりに内向きになり、世界の流れから切り離されていくよりは、一定の段階で手を打ち、不満足な状況でも止むなしと受け入れ、大陸に、極東に目を向けてフロンティアを求める方が、少子高齢化で今後ジリ貧が予想される日本社会にとって資するものであるように思えるのですが。

蛇足ながら、戦後70年が経過した現在、歯舞を除く島々において、そこに暮らすロシア人の生活も確立されています。昔のように本土から見捨てられた状態ではなく、それなりに関心も資金も向けられる状況にもなっています。日本の要求であれ、プーチンの決定であれ、今更「返還」と言われても・・・というのが現地に暮らすロシア人の心情でしょう。

だったら島を追われた日本人の心情はどうなるのか・・・という話にもなるのでしょうが、現状を覆すにはあまりに年月が経ち、新しい現実が出来上がってしまっています。

そうしたことを踏まえた対応が現実的に思えるのですが、領土問題というのは未来永劫絶対に譲歩できない問題であるという立場からは、人々の暮らしなどどうでもいい話になるのでしょう。

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