孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  強まる伝統的価値観重視の流れ

2023-12-04 23:01:22 | ロシア

(ロシアのプーチン大統領の成果をアピールする博覧会。写真は併合したウクライナ南部クリミア半島のブース=2日、モスクワ【11月6日 時事】)

【三選出馬が予定されれているプーチン大統領 西側の攻撃からロシアの伝統的価値観を守ることを掲げると思われる】
ロシアでは来年3月に予定されている大統領選挙にプーチン大統領が立候補するものと思われますが、現在モスクワで開催されている「ロシア」博覧会も自身のこれまでの実績をアピールする事実上の選挙活動とも見られています。

博覧会はことし3月、プーチン大統領の大統領令によって開催が決まったもので、来年4月中旬まで、およそ半年間にわたり開催されます。

なお、2020年7月の憲法改正案の賛否を問う全国投票で賛成が78.1%と承認に必要な投票者の過半数を超え、改憲の実現が決まりました。これにより、プーチン大統領は三選が可能になり、新たに2期12年、83歳になる2036年までの続投が可能になっています。

****ロシア プーチン大統領 今月にも大統領選立候補表明の見方****
ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は来年3月に予定されている大統領選挙に向けて、今月にも立候補を表明するという見方が出ています。首都モスクワではロシアの発展を誇示する大規模な博覧会が開かれていて、メディアは大統領の業績をアピールする事実上の選挙活動が始まったと伝えています。

ロシアの首都モスクワでは先月初旬から「ロシア」と名付けられた大規模な博覧会が開かれていて、東京ドーム70個分にあたる広大な敷地の中心部では、ロシアが誇る宇宙や原子力の技術が紹介されています。

また、世界最大の領土に広がる80以上の地域に関するブースでは産業や文化の魅力が紹介されるなど、博覧会はプーチン大統領の政策によってロシアが発展したと誇示する内容が中心となっています。

一方、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアや、去年、併合を宣言したウクライナ東部と南部の4つの州を紹介するブースも設置され、軍事侵攻の成果を強調しています。

会場を訪れた女性は「ロシアへの誇りを感じた。ことしはいろいろあったが、ロシアは繁栄している」と話し、大学生の男性は「ロシアにはすばらしい未来がある」と話していました。

ロシアで来年3月に行われる予定の大統領選挙を巡って今月、日程などが議会で正式に決まる見通しで、プーチン大統領は今月14日に開く予定の大規模な記者会見や国民との対話形式のイベントなどで立候補を表明するという見方がロシアメディアや専門家の間で出ています。

独立系メディアは、博覧会が開催されたことで、すでにプーチン大統領の業績をアピールする事実上の選挙活動が始まったと伝えています。(中略)

専門家「最もありそうなのは惰性のシナリオ」
ロシアの内政に詳しいカーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンターのアンドレイ・コレスニコフ上級研究員はNHKのインタビューに対して、大規模な博覧会を開催しているプーチン政権のねらいについて、「これは政権による壮大な劇場だ。特別軍事作戦は深刻な衝撃だったため、大統領選挙を前に国民を落ち着かせ、すべては計画通りに進んでいて何の心配もいらないのだと示すことが非常に重要となっている」と指摘しました。

また、コレスニコフ氏は「『国民の全員を戦場にあるざんごうに引きずり込むわけでもなく、大部分の国民は正常な生活ができるのです。だからすべてにおいてプーチン氏を支持してください』という一種の社会契約といえる」と述べ、プーチン政権は現時点では総動員には踏み切らず、社会の混乱を回避しようとしているとして、支持を訴えているとしています。

その上で、プーチン氏が進める選挙活動に関して、「活動の主な内容は、『西側が制裁を科し、ハイブリッド戦争を仕掛けている状況の中でも発展できるのだ。そして、私たちは伝統的な価値観を守る必要に迫られている』と訴えることだ。活動の中心には伝統的な価値観が置かれるだろう」と述べ、国家の存亡をかけた戦いが続いていると国民に訴えることで、大統領のもとでの結束を促していくと指摘しました。

また、「プーチン氏にとっては、この半軍事的で半ば全体主義的な国家、社会の状態がかなり好都合だ」と述べ、情報統制なども強化することで、前回2018年の選挙を上回る80%の得票率を目標に圧勝を演出しようとしているとしています。

そのうえで、「クレムリンと体制側の唯一の目標は権力の維持だ。国民の幸福への配慮ではない。選挙後に何かが根本的に変わるとは思えない。最もありそうなのは惰性のシナリオだ」と述べ、ロシアの将来に悲観的な見方を示しました。【12月1日 NHK】
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プーチン大統領の欧米的なリベラルな価値観への嫌悪は昔からのもので、2019年にも・・・

****リベラルな価値観は時代遅れ、西側諸国で拒絶─プーチン大統領=FT紙****
ロシアのプーチン大統領は、自由主義(リベラル)的な価値観について、西側諸国の多くの人々が拒絶しているため、時代遅れのものとなったとの見解を示した。

プーチン大統領は27日付の英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙に掲載されたインタビューで、ドイツのメルケル首相は中東からの移民・難民に対しリベラルな政策を導入したことで基本的な誤りを犯したと指摘。

「リベラルな概念は何もする必要がないことを前提としている。移民・難民は殺人などの罪を犯しても、移民・難民としての権利が守られなくてはならないため、責任を免れる。これは一体どのような権利なのか。いかなる犯罪も罰せられなくてはならない」と述べた。

その上で「リベラルな概念は時代遅れのものとなった。国民の大多数の利益と相反するものとなっている」とし、「多くの人々にとり、伝統的な価値観はリベラルな価値観よりも安定的で重要なものになっている。リベラルな価値観は消滅しつつあると考えている」と述べた。【2019年6月28日 ロイター】
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プーチン大統領が欧米的なリベラルな価値観に代えて重視するのがロシアの伝統的価値観。上記記事にもあるように、大統領選挙立候補にあたっては、西側からの攻撃から伝統的な価値観を守る必要に迫られているという主張が根幹になると思われます。

欧米との対立が露わになっているロシア・プーチン政権にとっては、伝統的価値観重視は欧米との対抗軸としての意味合いもあります。

【伝統的価値観重視でロシア正教会とも一致】
そうしたロシアの伝統的価値観重視を後押ししているのがロシア正教会で、プーチン大統領の支持基盤ともなっています。

****ロシア総主教、プーチン氏支持 正教会、侵攻で関係深化****
ロシア正教会最高位のキリル総主教は28日、モスクワで開かれた会議で演説し、プーチン大統領が国家発展のための職務を続けるよう期待を示した。タス通信などが伝えた。来年3月の大統領選で立候補が確実視されているプーチン氏への事実上の支持表明とみられる。

プーチン氏も南部ソチからオンラインで会議に参加し、ウクライナ侵攻に参加する軍人や家族への正教会による支援に謝意を表明した。侵攻を通じた政権と正教会の一層の緊密化が示された。

会議はロシアの伝統的価値観の維持を目的に正教会などが主導して開催した。【11月29日 共同】
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【ロシア最高裁 LGBTなど性的少数者の権利を擁護する活動を事実上、非合法化する判断】
こうしたで伝統的価値観重視はすでに現実に大きな流れとなっています。

****LGBT擁護活動を非合法化=架空団体を「過激派」認定―ロシア最高裁****
ロシア最高裁は30日、LGBTなど性的少数者の権利を擁護する活動を事実上、非合法化する判断を下した。プーチン大統領の通算5選出馬が見込まれる大統領選を来年3月に予定する中、人権を重視するリベラル派を萎縮させるとともに、伝統的価値観を重んじるロシア正教会を含む保守派に配慮したとみられている。

今回の判断は、法務省が「『国際LGBT運動』という団体を過激派と認定するべきだ」と申し立てたことを受けて出された。最高裁は、同団体を「過激派と見なす」と決定し、ロシアでの活動を禁じた。

しかし、ロシアでこの名称の団体は存在しない。米政府系メディアによると、同省が申し立てを行った後、ロシアの性的少数者が新団体「国際LGBT運動」を発足させると表明し、法廷で争うことを望んだが、最高裁が出廷を認めたのは法務省だけだった。【12月1日 時事】 
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ロシアでは同性愛そのものが違法とされている訳ではありませんが、そうしたものを公の場で広めようとする運動(と当局がみな行為)が非合法と判断されています。

今後、LGBT運動への参加や資金提供だけではなく、LGBTについて、声を上げる場合でも罪に問われる可能性があります。

判決文の全文は公表されておらず、具体的にどのような行為が禁止されるのかあいまいにすることで不安をあおり、活動を一層制限する狙いだとみられます。

例えば、レインボーカラーの服を着て外出した場合なども当局の判断次第では非合法活動と見なされるのかも。

ロシアでは昨年11月に同性愛に関する宣伝禁止法を強化する法案も可決成立しています。

****ロシア下院、「同性愛宣伝禁止法」改正案を可決 映画や書籍も規制対象****
ロシア下院は23日、同性愛に関する宣伝禁止法を強化する法案を、賛成397、反対および棄権0の全会一致で可決した。近く上院で承認され、ウラジーミル・プーチン大統領の署名を経て成立する見通し。

法案は、同性愛に関する宣伝を禁止する、いわゆる「ゲイ・プロパガンダ」禁止法の規制を拡大する内容。書籍や映画、オンラインなどで同性愛を流布することが違法とされ、違反者には重い罰則が科せられる。

同法は、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官が「表現の自由への打撃」と批判したことから「ブリンケンへの回答」法とも呼ばれている。

活動家たちは、ロシアのLGBT(性的マイノリティー)コミュニティーをさらに抑圧しようとする試みだと指摘している。

法案が成立するには上院の承認とプーチン大統領の署名が必要となるが、これらは事務的な手続きとみられている。

「同性間の関係」の流布を禁止
物議を醸している「ゲイ・プロパガンダ」法の原案は2013年に承認された。子どもたちの間で「非伝統的な性的関係に関する流布」、つまり同性間の関係を描写したものを広めることを禁止している。

同法はマスメディアや広告で同性間の関係を肯定的に描写することを、ポルノの配布や暴力の促進、人種・民族・宗教的緊張の扇動と同類としている。

LGBTを肯定的に表現した広告や書籍、映画が禁止されることから、出版社からはロシアの古典文学に影響を及ぼしかねないという懸念が上がっている。

LGBTに関するオンライン上の議論もブロックされる可能性がある。LGBTのスローガンやシンボルが描かれた商品の販売も禁止される。

違反者には最大40万ルーブル(約92万円)の罰金が科される。企業の場合は最大500万ルーブル(約1150万円)の罰金を支払うよう命じられる可能性がある。

外国人や無国籍者は同法に従わない場合、収監あるいはロシアから追放される恐れがある。

LGBTへの攻撃の波を懸念
人権活動家やLGBT団体は、規制の拡大はLGBTコミュニティーのあらゆる行為や公の発言が犯罪行為とされることを意味すると指摘している。

ロシアに拠点を置くLGBT支援団体「Vykhod」のクセニア・ミハイロワ氏は、9年前に最初の禁止法が導入されたことでゲイ・コミュニティーへの攻撃の波が引き起こされたと述べた。

ミハイロワ氏はロイター通信に対し、改正案が事実上「国家はLGBTへの暴力に反対しないとしている」ことから、LGBTへの攻撃の「津波」が起こるだろうと語った。

ブリンケン米国務長官は23日、「法案を取り下げて、すべての人の人権と尊厳を尊重する」ようロシアに求めた。

議会で「ブリンケンへの回答法」だと述べたヴャチェスラフ・ヴォロージン下院議長は、西側諸国が広めた「闇」であるLGBTの価値観からロシアを守るためのものだと主張した。

プーチン大統領は反同性愛の論調を政治課題の要としている。
最近の演説では、欧州でゲイやトランスジェンダーの権利が推進されていることを例に挙げ、西側が「公然たる悪魔主義に向かっている」と非難している。【2022年11月25日 BBC】
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なお、ロシアの同性愛に関する宣伝禁止法については、2014年のソチオリンピックでもロシアの人権侵害を象徴するものとして欧米で批判が高まり、アメリカのオバマ大統領(当時 以下同)やフランスのオランド大統領、イギリスキャメロン首相ら欧米諸国首脳がの開幕式への出席を見送る事態にもなっています。

【外国人のロシア批判を禁じる動き】
ロシア的価値観に従うことはロシア国民だけでなく、外国人にも求められます。

****ロシアへの「忠誠承諾書」、外国人に署名強制へ 法案準備と報道****
ロシア内務省は、同国に対する「忠誠承諾書」への署名を外国人に強制する法案を準備している。外国人が政府の政策を批判することなどを禁じる。

国営タス通信によると、ロシアに入国する外国人は「ロシア連邦の公的機関の活動を妨げ、いかなる形であれ、ロシア連邦の対外・国内国家政策、公的機関およびその当局者の信用を傷つけること」が禁止される。

また、伝統的な家族観に背くことや、「ソ連国民の祖国防衛における偉業とファシズムに対する勝利への貢献に関する歴史的真実を歪曲すること」も禁じられるという。

ロイターはこの法案を独自に確認できていない。内務省からは今のところコメントを得られていない。

ロイターの調べでは法案はまだ議会に正式に提出されていない。

タス通信は、外国人が承諾書に反した場合の罰則には触れていない。【11月29日 ロシア】
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“具体的には、ウクライナ侵攻下のロシアの内政・外交を批判したり、性的少数者の権利を主張して伝統的価値観を否定したりすることを禁止する”【11月29日 時事】

ロシアはプーチン大統領のもと、ますます欧米・日本とは異なる社会に向かって突き進んでいます。
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