孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾への外交圧力を強める中国 しかし、台湾社会の対中国硬化は中国にとって得策か?

2017-06-21 22:33:17 | 東アジア

(国交樹立を祝うパナマのイサベル・サインマロ副大統領兼外相(左)と中国の王毅外相(2017年6月13日撮影)。【6月14日 CNN】)

【「決められない政治」と中国への弱腰で支持率が低下した蔡英文政権
昨年1月に行われた台湾総統選挙で56%の票を獲得して、国民党候補(31%)、親民党候補(13%)に圧勝した民進党・蔡英文氏は大きな期待を担って昨年5月に台湾総統に就任しましたが、1年あまりの間に大きく支持率を落としていることが報じられています。

****蔡政権、内憂外患 沈む支持率「改革の過渡期」 台湾、(5月)20日で1年****
(5月)20日に就任1年を迎える台湾の蔡英文(ツァイインウェン)総統が、支持率の低迷に苦しんでいる。

昨年の総統選で改革を掲げて圧勝したものの、慎重な政権運営や野党側の抵抗もあって目に見える成果を示せずにいるためだ。懸案の中台関係も停滞が続く。蔡氏は「今は改革の過渡期」と訴え、市民の期待をつなぎ留めようと懸命だ。
 
「市民の改革への期待は非常に差し迫っている」
17日午後、蔡氏は自ら主席を務める与党・民進党の会合で、政策推進に向けて幹部らに発破をかけた。
 
この日朝、地元紙1面に掲載された世論調査では、蔡氏に「満足」と答えた割合は30%。就任時の52%から落ち込んだ。一方で「不満足」は50%となり、就任時の10%から大幅に膨らむ。調査機関によって設問は異なるが、多くの調査で蔡氏の支持率はこの1年で大きく下がっている。
 
来年は統一地方選を控えており、危機感を抱く蔡氏は3月以降、地方を行脚し、インフラ計画のアピールにいそしむ。(中略)

世論の厳しい視線の背景には政策の足踏みがある。

破綻(はたん)の恐れが指摘され、改革の本丸とされる年金改革では、減額対象となる元軍人や元公務員など野党・国民党の支持者らが立法院(国会)前でデモや騒動を続け、審議がずれ込む。画期的とされた同性婚の法制化は世論が割れ、成立のめどが立っていない。
 
世論調査を行う台湾民意基金会の游盈隆理事長は「不満を抱く層の中には、もともと改革を望まない人々がいる一方、改革を期待していたのに進まず、幻滅した人々もいる。蔡氏が今後、大なたを振るえるかが注目点だ」とみる。
 
蔡政権誕生の背景には、14年に若者らが立法院を占拠した「ひまわり運動」のうねりがある。同基金会の調査では、20代~30代前半で、今なお蔡氏を支持する割合が不支持より高い。改革への期待は続いている。
 
地元紙に今月掲載されたインタビューで、蔡氏はこう語っている。「この1年は最も苦しい1年だった。改革には『陣痛期』が必要とされる。今後は実行を加速させていく」

 ■対中「冷たい平和」
中国と関係改善を進めた馬英九(マーインチウ)・前総統に代わり、蔡氏が就任して以降、中国は態度を硬化させ、両岸関係は膠着(こうちゃく)状態にある。
 
内政同様に低姿勢で対応してきた蔡氏は、今月に入り「(中国は)情勢の変化に応じて思考を改めるべきだ」など、やや強気に転じた発言を繰り出し始めた。
 
蔡氏が主席を務める民進党は、綱領の冒頭に台湾の「独立」を掲げる。中国が受け入れを求める、中台が「一つの中国」に属するとする原則を、蔡政権は認めていない。
 
だが、前回の民進党政権だった陳水扁(チェンショイピエン)氏時代に対中関係が悪化した反省もあり、蔡氏は昨年の総統選では中台関係の「現状維持」を訴えて当選した。

同党関係者は「蔡総統は『独立』を口にせず、中国に善意を示して譲歩している。次は中国側が歩み寄れるかだ」と蔡氏の思いを代弁する。
 
中国は公式の対話窓口を閉ざしており、22日に始まる世界保健機関(WHO)総会への参加問題で、台湾は中国に参加を認めるよう書簡を送ったが、返事はないという。圧力が強まるなか、党内や支持者の一部には蔡氏に対し「弱腰」だという不満も出ており、蔡氏はいつまでも低姿勢ではいられない状況にある。
 
台湾の中央警察大の董立文教授(中台関係)は「(中国では)習近平(シーチンピン)政権が新態勢に移る秋の党大会を控えている。当面は『冷たい平和』と言えるような状態が続くだろう」とみる。【5月18日 朝日】
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内政に関しては「決められない政治」、外交に関しては中国の攻勢に有効に対応できていないとの評価が支持率低下の原因となっています。

****嗚呼がっかりの台湾「蔡英文」 民心離反で早くも「後継探し」へ****
・・・・経済面で中国依存からの脱却を目指して打ち出した「イノベーション推進策」も「新南向政策」も宙に浮き、景気は馬前政権の時より悪化した。蔡氏に投票した民進党支持者は、彼女の「決められない政治」に愛想を尽かしている。
 
政権発足直後、蔡氏は国民党が独裁時代に違法に取得した「不当財産」を没収する方針を打ち出したが、国会で抵抗されると放置。

民進党が推進する台湾本土化運動の一つで、企業や公的な場で使用されている中国、中華という呼称を「台湾」へ置き換える正名運動には支持者から高い期待を寄せられたが、これも手つかず。
 
外交の成果も乏しい。民進党の支持者は、日本に親しみを持つ人が多い。蔡氏は選挙前の一五年十月に訪日して安倍晋三首相と会談し、蔡政権で日台関係が前進すると報じられた。

ところが彼女は就任後、日本に冷淡になった。日本側の関係者は、蔡政権で福島など五県の食品の輸入解禁に期待を寄せていたが「食の安全を守るべきだ」と台湾メディアに反対され、解禁の検討を中断した。
 
日台の関係者が憤慨したのは、日本統治時代の台湾でダム建設など水利事業に貢献した日本人技師、八田與一の銅像が破壊された事件を蔡氏が無視したことだ。(中略)

対中関係でも失点が続く。WHO(世界保健機関)年次総会への出席は中国の圧力で断念し、蔡氏の選挙スタッフを務めた元民進党職員の男性が中国で拘束されても手をこまねくばかり。

民進党筋は「台湾のリーダーという自覚があるなら、日米欧に特使を送って外交を展開し、中国と対峙する姿勢を見せるべきだ」と不満を漏らす。

蔡氏のこの一年で唯一の仕事は、トランプ氏が米大統領選に当選後、お祝いの電話をかけたことだけ」と揶揄する声も聞こえてくる。【「選択」6月号】
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中国:馬英九前総統時代には控えていた外交圧力を再開
内政はともかく、外交における中国への対応は、現在の中台の国際政治における力関係を考えると、蔡総統一人を責めるのはいささか酷な感もあります。

比較的中国に宥和的な国民党・馬英九前総統時代は、中国は中台統一に向けて台湾を引き寄せるべく、過度な圧力を行使することを控えていましたが、「一つの中国」を認めず、独立志向も強い民進党・蔡英文総統になってからは、中国の圧力は容赦ないものに変わっており、台湾・蔡総統の力では如何ともしがたいものもあります。

中国の圧力で台湾は国際会議の場から締め出されています。
前回はゲスト参加ができた昨年9月の国際民間航空機関(ICAO)総会には出席できませんでした。続く11月の国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)の総会は、オブザーバー参加を申し込んだものの断られています。

2009年からオブザーバーの立場で参加してきた世界保健機関(WHO)総会の招待状も届きませんでした。

台湾の窮状もさることながら、こうした国際会議で自国の意思を押し通すことができる中国の影響力の強さを改めて認識もさせられます。

また中国は、馬英九前総統時代には控えていた国交をめぐる外交競争を再開させています。
昨年12月のサントメ・プリンシペ(日本では殆ど耳にすることがない国名ですが、西アフリカのナイジェリアやカメルーンの沖合に位置する島国です)に続き、中米パナマも台湾との国交を断絶し、中国に“寝返る”ことが明らかになっています。

サントメ・プリンシペとは異なり、パナマ運河を擁するパナマは国際物流の要衝で、アメリカの影響力も強いだけに、中国は「外交の勝利」と位置づけています。

台湾からすれば、長年の支援を“食い逃げ”されたとの悔しさも。
蔡総統は総統就任直後の昨年6月、パナマを訪れて台湾企業が関わったパナマ運河の拡張工事の完成式典に出席。バレラ大統領と会談し、「友好強化」を確認したばかりでした。

“断交は長年の経済協力を「食い逃げ」する形で、李大維外交部長(外相に相当)は援助の即時停止を発表。「台湾が長く発展に協力してきたことを無視した」とパナマを非難した。”【6月13日 産経】

今回のパナマとの断交で台湾が外交関係を持つ国は20か国となっています。
内訳は、エルサルバドル、グアテマラ、パラグアイなど中南米(11カ国)、パラオ、マーシャル諸島、ソロモン諸島など太平洋(6カ国)、ブルキナファソ、スワジランドのアフリカ(2カ国)、そしてバチカン。

パナマに続いて台湾と断交する可能性のある国として、ニカラグア、パラグアイ、セントルシアの3カ国の名もあがっています。

また、現在外交関係を有する国の中でも国際的影響力が大きいのはバチカンですが、中国は近年、司教の任命権などをめぐり対立してきたバチカンとも外交関係樹立を視野に水面下の交渉を続けているされ、台湾は「断交ドミノ」を憂慮しています。

台湾には厳しい言い様ですが、パナマが国際的影響力を有する中国に乗り換えたのは国益を考えれば当然の話で、台湾が中国と力勝負をしても勝ち目はありません。

パナマを含めて、台湾がこれまで220各国余りと外交関係を維持できていたのは、中国が圧力を控えていたからにすぎません。パナマはもっと早い段階から中国との国交を望んでいたようです。

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・・・だが2009年、いざパナマ側が中国との国交樹立を望んだとき、おりしも台湾は親中派の馬英九が総統。2011年にウィキリークスが暴露した駐パナマ米大使の外交電文によれば、中国側はこのパナマの申し出を拒否したという。
馬英九のメンツを優先させたからだという。

ちなみに、ロイター通信によれば、この当時、中国が外交関係樹立を持ちかけられて、馬英九政権のために拒否した国は五カ国に上るとか。【6月21日 日経ビジネス 福島香織氏「中国がパナマと国交樹立、その意味を考える」】
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台湾の苦境 アメリカ・日本の視線も中国へ
台湾としては、勝ち目のない資金援助合戦などで中国と争うより、国家・社会の質の違いをアピールしたいところです。

****中台の違いは民主と自由」 台湾・蔡総統が談話****
台湾の蔡英文(ツァイインウェン)総統は4日、中国・北京で1989年6月4日に起きた天安門事件から28年になるのに合わせ、自身のフェイスブック上に談話を公表し、中国と台湾の「両岸の間にある最大の違いは民主と自由だ」と訴えた。
 
蔡氏は更に中国国内に民主化を期待する人々がいると指摘し、「北京当局は天安門事件に新たな意義を与えることができる。その意味で、台湾は自らの民主化の経験を対岸と共有することを願う。台湾の経験の力を借りれば、大陸は民主的改革の陣痛を短縮できる」と呼びかけた。(後略)【6月4日 朝日】
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しかしながら、“民主と自由”という価値観を共有し、台湾への支援が期待されているアメリカ、そして日本も、中国の国際的影響力という現実に配慮せざるを得ない・・・というのが現実です。

****日本の反応から見る台湾の苦しい外交的立場****
2017年6月19日、中国メディアの四月網は台湾メディアの記事を引用し、台湾に対する日本の態度から、台湾政府は外交的に苦しい立場に置かれていることが分かるとする記事を記載した。

記事は、先日パナマが台湾と断交し中国と国交を樹立したことについて、米国政府から特別な反応はなく、中台は対話によって緊張が高まるのを避けるべきと呼び掛けるにとどまったことを紹介した。

そして、日本も米国同様、注目はしているがコメントは差し控えるとの「冷たい態度」であったと記事は指摘。この反応は、これより前の世界保健総会(WHA)への台湾参加を強く支持した態度とは大きく異なっているとした。

記事では、日本の態度にこのような大きな違いが出たのには、米国トランプ政権が中国に対する態度を変えたことと関係があると分析。不安を感じた日本は、中国との関係改善に乗り出すことで、外交政策の自主性を主張するようになったとした。

具体的には、トランプ政権誕生後、日米同盟は「漂流状態」となり、米国に対する不信感が強くなっているため、一帯一路構想を支持するなど中国との関係改善に動いている日本にとって、台湾とパナマの断交にそれほど注意を向けないのは当然だと論じた。

また、先月行われた第4回日中ハイレベル政治対話で、中国側から日台関係についての不満が伝えられ、台湾問題で日本側は決まり通りに事を処理するべきと注文をつけられたことや、7月の日中韓首脳会議を通して安倍首相は、来年の日中首脳の相互訪問実現を目指しており、日中関係改善に忙しい安倍首相は、台湾の外交的危機に力になりたくともなれないのだとした。(後略)【6月20日 Record china】
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中国メディアの見方ですから、日本として承服しかねる部分もあるでしょうが、価値観に関心がないトランプ政権も、米中関係の行方に影響される日本も、台湾より中国に目がいく・・・というのは一面の真実でしょう。

圧力をかけるほどに中国から離れていく台湾
ただ、中国としても、パナマとの国交樹立のような外交圧力は台湾に対する“いやがらせ”としては効果的ですが、本来の目的である中台統一という点においては、台湾の対中国感情を悪化させ、台湾をさらに遠くへ押しやる結果にしかなりません。

*****中国がパナマと国交樹立、その意味を考える****
・・・・ただ、蔡英文政権に圧力をかけても、今のところは台湾の国民党自体に、執政党になり得る実力や求心力がないので、国民党に対する追い風にはあまりなっていない。

中国はWHO(世界保健機関)に総会(WHA)参加の招待状を台湾に送らないように圧力をかけたが、この事件にしても、むしろ台湾世論の蔡英文批判は「中国になめられている」という方向に流れる。

もし、中国の圧力に弱腰の蔡英文政権がダメだと台湾有権者に判断されれば、おそらく次に登場するのは、民進党のより反中的な、例えば頼清徳(台南市長)あたりが総統候補として台頭してくるのではないか、と見られている。

仮に彼が台湾総統になれば、おそらく、中国にとって蔡英文よりも扱いづらい相手となろう。(後略)【6月21日 福島香織氏 日経ビジネス】
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三年後の総統選挙には蔡英文氏に代えて・・・との声が民進党内で出ている頼清徳氏(台南市長)は“八田像破壊事件後、日本の関係者に「台日の友好関係は、親中嫌日の感情的行為が破壊できるものではない」との内容の日本語の手紙を送った。親中メディアに「媚日派」と批判されたが、本人は意に介さない。”【「選択」6月号】という人物です。

そうした“副作用”もあるパナマとの国交樹立を中国が敢えて実施したのは、パナマ運河というパナマも持つ特殊性・国際戦略上の重要性を重視した結果ではないか・・・というのが、上記記事の主旨にもなります。(中国が手がけるするニカラグア運河の先行きはまだ不透明です)

前出【5月18日 朝日】でも“(中国の)圧力が強まるなか、党内や支持者の一部には蔡氏に対し「弱腰」だという不満も出ており、蔡氏はいつまでも低姿勢ではいられない状況にある。”とも。

****パナマ断交で台湾に波紋 独立へ余地広がると「歓迎論」も****
・・・・一方、「台湾独立」派長老で総統府資政(上級顧問)の辜寛敏氏(90)は同日の会見で、パナマとの断交で「主権独立国家を宣言する余地が広がった」として「歓迎する」と述べた。

辜氏は「国交国」が将来なくなる可能性も指摘。「北京(中国)を批判するのではなく、国家を正常化させる方法を考えるべきだ」とした。

辜氏は憲法制定委員会を設置し住民投票を行うべきだとの持論を展開。「中華民国」ではなく「台湾」名義での国連加盟申請も念頭にあるとみられる。【6月14日 産経】
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“失うもの”が少なくなれば中国の圧力を気にする必要もなくなり、台湾は台湾としての主張を掲げて進むだけだ・・・という話にもなります。

もちろん経済関係や“中華民族”としての血のつながりを考えれば、話はそう単純ではありませんが、中国としてもそうした台湾側の感情・意識を配慮する必要があるのではないでしょうか。

中台間の対立・緊張を極限まで高めて、一気に軍事力で解決する・・・というなら別ですが。
それはそれで、アメリカ・日本の対応、国際社会の反応を考えると簡単な話ではありません。

過度に台湾を追い込まず、当面は『冷たい平和』を維持するというのが、中国にとっても得策ではないでしょうか。

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