孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リビア  再び統一政府樹立の試み ISは沿岸都市シルトを“第2のラッカ”に

2015-12-07 21:47:07 | 北アフリカ

(シルトの発電所に向かって走っているとされるIS戦闘員Photo: Agence France-Presse/Getty Images 【11月30日 WSJ】)

首相の選出などを行い統一政府を2週間以内に発足させるとのことだが・・・
北アフリカ・リビアは「アラブの春」でカダフィ独裁政権が崩壊したものの、その後、イスラム主義勢力と世俗派及び旧軍部などの対立から、二つの政府が並立する混乱が続いています。

*****リビア現状****
リビアでは、独裁者として君臨したカダフィ大佐が2011年の政変で失脚・殺害されたのち、暫定議会と制憲議会の二つの政府が並立し混乱している他、ISやアルカイダ系など複数の武装勢力が豊かな石油利益を狙って戦闘を続けています。

世俗主義勢力の暫定議会は国際的には正当性が認められているものの、首都トリポリを追われ、北東部トブルクを拠点としているため、「トブルク政府」とも称されています。

トブルク政府は、カダフィ側近だった軍将校を軍司令官とし、カダフィ政権の旧軍部も取り込んでいます。

一方、首都トリポリを拠点とする制憲議会(「トリポリ政府」)はイスラム主義勢力に支えられています。

「トリポリ政府」と「トブルク政府」の抗争という“権力の空白”に乗じて、IS等のイスラム過激派が勢力を拡大していますが、珍しく東部デルナ(トブルクの西、百数十km)では7月に撤退を余儀なくされています。
【8月16日ブログ「リビア 二つの政府が並立、ISとの攻防・・・続く混乱状態」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150816より再録】
*****************

8月16日ブログで使った説明が今もそのまま使えるところに、改善しないリビアの現状があらわれていると言えます。(最後のIS関係は、むしろ悪化していますが、その件は後述)

もっとも、「二つの政府」状態を解消しようとの動きが全くない訳ではなく、そうした動きのひとつを10月10日ブログ「リビア 国連特使仲介で「挙国一致内閣」設置方針で合意 東西分裂状態の解消なるか?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151010)で取り上げました。

しかし、当該ブログにおいても懸念していたように、結局この動きは両勢力内部の賛同を得られれず、頓挫したようです。

今また統一政府樹立の動きが報じられています。

****<リビア>国内2大勢力、和解案で合意 暫定政府を設置****
内戦状態のリビアで、東西に分立していた二つの主要な政治勢力が5日、暫定政府を近く発足させ、2年以内の選挙実施を目指すことで合意した。

リビアでは中部シルトで過激派組織「イスラム国」(IS)が勢力を拡大しており、国際社会から政治対立の解消を求める声が強まっていた。

リビアメディアによると、首都トリポリと東部トブルクをそれぞれ拠点とする政治勢力は5日に隣国チュニジアで和解協議を開催。双方が5人ずつ代表を選んで組閣委員会を組織し、2週間以内に暫定の首相と2人の副首相を選出することが決まった。

仲介役の国連は10月に和解案を示したが、東西の政治勢力が暫定首相の人選などで反発。独自の交渉で新たな和解案を策定した。ただ、東部の武装勢力は徹底抗戦も主張しており、和平が順調に進むか不透明な面もある。

リビアでは2011年の内戦でカダフィ独裁政権が崩壊した後、反カダフィ派が武装解除せずに勢力争いを続け、内戦状態にある。イスラム武装勢力がトリポリを実効支配し、世俗派民兵らは東部を拠点に対抗してきた。

ISは混乱に乗じて今年6月以降、シルトなどで勢力を拡大。国連の専門家報告書によると、外国人戦闘員も流入し、最大3000人規模に拡大している。【12月6日 毎日】
*******************

“首相の選出などを行い統一政府を2週間以内に発足させ、2年以内に議会選挙を実施するなどとしており、これらの合意事項については今後、双方の正式な承認が必要だとしています。”【12月7日 NHK】とのことですが、首相の選出にしても、“双方の正式な承認”にしても、今後の見通しは楽観できないものを感じます。

IS シリア・イラク撤退に備え、シルトを“第2のラッカ”に
ただ、今回の動きを後押しするものがあるとすれば、切迫しつつある状況への危機感ではないでしょうか。
シリア・イラクで軍事的には欧米・ロシアの空爆やクルド人勢力の攻勢にさらされ、守勢にまわっているとも伝えられるISは、新根拠地をリビアに築くことを狙っているとも。

****IS指導部、リビアへ脱出準備か 地中海都市が“第2のラッカ****
過激派組織「イスラム国」(IS)の指導部はシリアの支配地が陥落した時に備え、北アフリカのリビアに大脱出する計画を準備しつつあるようだ。脱出先の地中海の沿岸都市シルトにはすでに外国人戦闘員とその家族があふれ、“第2のラッカ”の様相だ。

ISの撤退計画 
ニューヨーク・タイムズやウオールストリート・ジャーナルなど米メディアなどが伝えたところによると、内戦状態にあるリビア中部の地中海沿岸にあるシルトは完全にISの支配下に置かれ、外国人戦闘員ら約5000人が集結、まるでシリアの首都ラッカと同じような状況だ。

シルトにISの黒旗が最初に掲げられたのは1年前。その時の勢力はわずか200人にも満たなかったことから見ると、ISが組織的にシルトの増強を図ってきたことが分かる。ISの宣伝機関も最近、シリアではなくリビアに行くように外国人に呼び掛けている。

この点について米国防総省高官はNYタイムズに「撤退計画」と述べ、IS指導部が活動本拠であるシリアとイラクから掃討された時に備え、リビアへの脱出計画を準備している可能性があり、これを西側情報機関が憂慮していることが明らかになった。

9月末にロシアがシリアに軍事介入し、11月13日のパリの同時多発テロ以降、米ロやフランスのIS攻撃が激化し、英国も3日からシリア空爆を開始したことで、ISのこの脱出計画が加速する可能性もある。米英は特殊部隊をリビア国内に投入し、情報収集と監視を強化している。

ISは空爆強化にも組織が直ちに崩壊するような兆候を示してはいないが、戦況は明らかに劣勢だ。6月にはシリアの戦略的な要衝タルアブヤドから掃討され、11月にはイラクの町シンジャルを失い、ラッカと占領中のイラクのモスルとの重要な補給ルートがクルド人勢力に制圧された。

シルト周辺には当初、「アラブの春」で独裁者カダフィ大佐を打倒した強力な民兵部隊がいて、IS勢力と戦闘を続けていたが、外国人戦闘員の増強により敗北。ISが8月までにシルトを完全な支配下に置いた。現在はシルトを中心に地中海沿岸を東西に約250キロの一帯がISの勢力圏になった。

ISに忠誠を誓った組織はエジプトやアフガニスタン、インドネシアなど世界各地に多数存在しているが、シルトの組織はシリア本家のISが唯一、直轄統治の“天領”にしている特別な地位にある。

シルトには70万人が居住しているが、すでに厳しいイスラム法が施行され、住民らはラッカ同様、厳しい宗教警察の監視下の生活を強いられている。

ラジオ局は音楽の代わりに、ISの指導者アブバクル・バグダディを称える番組を流し、女たちは全身を覆うマント着用を強いられ、酒は無論、タバコも禁じられている。

学校の教育もコーランの勉強中心に変わった。首の切断による処刑も開始、抵抗した部族は殺され、8月には4人が十字架に掛けられた。(後略)【12月5日 WEDGE】
*******************

シルトのISは、テロの活動資金を確保するため石油の支配権を掌握しようと、リビア東部の油田地帯の拠点都市、アジュダビヤの制圧を狙っているとされ、アジュダビヤ制圧は時間の問題とも。

また、リビアに拠点を築いたのちの、次の目標はがローマやミラノ、バチカンなどイタリア国内ではないかと見られているとの情報も。

統一政府樹立による“権力の空白”解消に失敗すれば、今でも十分に混乱しているリビアは、IS支配が広がることでシリアと同様の状況に陥る危険があります。

「トブルク政府」「トリポリ政府」の両勢力もそこは認識しているとは思いますが、具体的な成果を出せるか・・・期待しましょう。

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« イラク:アメリカ・トルコの... | トップ | ミャンマー  「スー・チー... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
マスコミは何故追求しない (独善)
2015-12-07 22:04:00
世界中にテロが拡散した本質的原因は、イラク政権の崩壊
により始まった秩序の崩壊である。

どのような小規模のテロ組織であっても、それが国家に
より把握され監視できない状態が最も危ないのだ。

そのような組織が徒党を組み、無政府状態のリビアから、
アフリカに流れているのである。

また、シリアも同じように、イスラム国を運営しているのは、
旧イラク政府の政権や軍の幹部達である。

各地から収集した素人に運営などできるはずもなかろう。

国際法を無視し、独善的な軍事介入により中東やアフリカの
秩序を崩壊させてきた欧米の責任は重い。

一連の因果をマスコミは何故追求しない。
返信する

コメントを投稿

北アフリカ」カテゴリの最新記事