孤帆の遠影碧空に尽き

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韓国  ソウル市で外国人家事労働者の受入れ始まる 批判・疑問・課題も

2024-09-05 22:28:43 | 人口問題

(3日、韓国人家庭で家事支援を始めたフィリピン人女性=ソウル市提供【9月3日 読売】 
部屋の様子からそれなりの収入のある家庭のように見えます。ひとをフルタイムで雇うということは費用的には相当な額になりますので、誰でも負担できるものではないでしょう)

【ソウル市で外国人家事労働者の受入れ始まる】
周知のように、韓国の昨年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む見込みの子どもの数)は0.72と、日本(1.20)と比べても大幅に低く、世界的にも異例の「超少子化」が進んでいます。

その韓国で直近足元で出生数が8年半ぶりに増加したという話もありますが、コロナ禍の影響が大きく、長期的な少子化傾向に変わりはないとも見られています。

****第2四半期の出生数が8年半ぶりに増加****
韓国統計庁が8月28日に発表した「2024年6月の人口動向」によると、2024年第2四半期(4~6月)の出生数が前年同期(5万6,147人)比1.2%増の5万6,838人となった。同期間の合計特殊出生率(注)は0.71で、前年同期と同一の水準だった。同時に発表した6月の出生数は前年同月(1万8,585人)比1.8%減の1万8,242人だった。

「ハンギョレ新聞」(8月28日)は統計庁の見解を次のように紹介している。
出生数が前年同期比で増加したのは、2015年第4四半期(10~12月、前年同期比0.6%増)以来、8年半ぶり。2024年4月(前年同月比2.9%増)と5月(同2.6%増)の出生数の増加が第2四半期の出生数増に大きく寄与した。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期された婚姻の件数が2022年下半期から2023年上半期にかけて増加したことで、出生数も増加したと考えられる。2024年下半期まで出生数増加が続く可能性がある。

新型コロナ禍の反動による婚姻件数の増加が落ち着けば、合計特殊出生率は再び低下すると予想される。【9月4日 JETRO】
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韓国政府もいろんな対策をとってはいますが・・・その一つが、ソウル市の外国人家事労働者の受入れ。
共働き家庭や一人親家庭での育児負担軽減を図り、少子化に歯止めをかける狙いです。

併せて、少子化による労働者不足の解消も目的としています。

第1陣としてフィリピンから100人が韓国に入り研修を受けていましたが、4週間の研修を終えて各家庭に派遣されています。

****フィリピンの家事労働者 研修終えきょうから各家庭へ派遣=ソウル市****
韓国のソウル市と雇用労働部が推進する「外国人家事管理士試験事業」に参加するフィリピンの家事労働者100人が3日、4週間の研修を終え、各家庭で働き始めた。ソウル市が伝えた。

100人は8月6日に入国し、仕事内容や韓国語、セクハラ予防、安全教育などについて計160時間の研修を受けた。

応募があった計731世帯から157世帯が選定され、最終的に142世帯に家事管理士が派遣されることが決まった。

派遣されるのは、「共働き家庭」が115世帯(81%)、「妊婦がいる家庭」が12世帯(8.5%)、「子どもの多い家庭」が11世帯(7.7%)、「母子・父子家庭」が4世帯(2.8%)となっている。

ソウル市の関係者は「キャンセルが多かったため、申請すれば1カ月からでも利用できる」と話した。12歳以下の子どもがいるソウル市に在住する世帯が対象で、「代理主婦」「トルボムプラス」などのアプリから常時申請を受け付けているという。 

市のガイドラインによると、フィリピンの家事管理士の業務範囲は育児と育児関連の家事などで、サービスを6時間以上利用する場合は、子どもの安全が確保される範囲内で簡単な掃除や親などの衣類の洗濯も可能だ。

高齢者の世話、大人のための調理、雑巾がけ、買い物、冷蔵庫など電化製品の掃除、アイロンかけなどは業務範囲に含まれていない。

育児に関連する範囲内で同居している家族に対する家事業務を「付随的に」遂行できるというのが原則だが、どこまでを付随業務とみなすのか判断が分かれることもありそうだ。

契約時に可能な業務範囲内で希望するサービスを定め、契約後に業務を追加したい場合は、家事管理士に直接指示することはできず、サービス提供事業者と協議して調整しなければならない。

ソウル市の担当者は「フィリピンの家事管理士たちが現場で業務を支障なく遂行するよう支援する」と話した。【9月3日 聯合ニュース】
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【家事労働者の人権・労働環境保護に留意する必要】
一般論で言えば、家庭内の家事労働は通常の外での業務に比べ“外から見えにくい”特質があるため、外国人労働者への差別・虐待・暴力・不当な労働などが横行しやすい危険がありますので、そのことへの配慮が必要になります。

中東でのアジアからの家事労働出稼ぎ者が虐待を受ける事件は多発していますし、アジア内においても同様の事案があります。

****マレーシアの外国人家政婦、3分の1近くが強制労働状態=ILO****
国際労働機関(ILO)は15日、マレーシアの家庭で家事に従事する外国人労働者の約3分の1が強制労働状態にあるという調査結果を発表した。

ILOによると、強制労働の指標は、▽過剰な労働時間▽残業代未払い▽低賃金▽行動制限▽退職妨害ーー。調査は、東南アジアの家事労働者1,201人へのインタビューに基づくもので、マレーシアの家事労働者の29%が強制労働の状態にあると判定された。一方、シンガポールとタイはそれぞれ7%、4%だった。

ILOは、3カ国すべての家事労働者の平均労働時間は他部門の労働時間をはるかに超えており、最低賃金を得ている者はいなかったとし、3カ国に対してILOの「家事労働者と強制労働に関する国条約」を批准し、家事労働を正当に評価し労働者を雇用者に縛りつけない仕組みづくりを行うよう促した。

アジアでは、インドネシア、ミャンマー、フィリピンなどの発展途上国の女性が家政婦として雇用されることが多いが、マレーシアでは近年、インドネシア人の家事労働者が虐待される事件が多発する他、外国人労働者を搾取する企業への非難も起こっている。ILOによると、マレーシアの家事労働者の約80%はインドネシア人。マレーシアとインドネシアは、昨年、家事労働者保護に向けた協定を締結している。

タイの労働省の広報担当者であるワナラット・スリスクサイ氏は通信社「ロイター」の取材に対し、タイでは2012年に導入された家事労働者保護に向けた法律を受けて、同国の家事労働者の待遇は改善されていると述べた。マレーシアとシンガポールの担当者からのコメントは得られなかった。【2023年6月 Asia infonet】
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【不法滞在・犯罪増加を懸念する向きも】
一方で、韓国では外国人労働者受入れ拡大で不法滞在・犯罪増加を懸念する向きもあります。

****少子高齢化進む韓国、外国人労働者の受け入れ拡大…不法滞在や外国人犯罪増加を懸念する声****
韓国政府が外国人労働者の受け入れを拡大している。急速な少子高齢化による働き手不足を背景に、尹錫悦ユンソンニョル政権は外国人労働者の受け入れを進める考えだ。(中略)

韓国政府は2004年、人手不足の製造、建設、サービス、農畜産、水産の5分野で外国人労働者に「非専門就業」の資格を与え、期限付きの単純労働を認める制度を導入した。

家事支援は対象外で、外国人の就労は結婚移住者など一部に限られていたが、韓国政府は今回試験的にフィリピン人の家事支援就労を認めた。試験結果を踏まえ、受け入れ拡大を今後検討する。

韓国は04年の制度導入以降、労働者を送り出すベトナムやフィリピンなど十数か国と協定を結んだ。韓国語教室を開くなど定着支援に力を入れ、受け入れ業種も拡大してきた

非専門就業資格で今年受け入れる外国人労働者は16万5000人を予定しており、コロナ禍前の19年の約3倍に上る見通しだ。現在はこの資格で30万人余りが暮らしており、在留外国人全体の12%を占める。

韓国の昨年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の推計人数)は0・72と世界最低水準を記録した。高学歴化が進み、製造業などの担い手は外国人労働者なしでは立ち行かないと指摘されている。工場では管理職だけが韓国人で働き手が外国人というケースは珍しくない。

韓国政府は昨年末、外国人政策を一元的に管理する「出入国・移民管理庁(仮称)」の新設案を公表した。永住する移民の本格的な受け入れを視野に入れている模様だが、不法滞在や外国人犯罪の増加などを懸念する声も出ている。【9月3日 読売】
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【現実的に費用対効果は? そもそも少子化対策としての効果は?】
また、サービスを利用した場合、費用的にかなり高額になりどれだけの世帯がふたんできるかという問題、さらに、そもそも、この取組が少子化の歯止めになるのかという根本的な疑問があるようです。

****世界最低レベルの出生率に悩む韓国...フィリピンからの「切り札」導入も露呈した「根深い問題」とは?****
<出生率低下を食い止めるべく、ソウルで外国人家事労働者の受け入れを開始。共働き家庭や一人親家庭での育児負担軽減を目指したが、数々の疑問の声が──>

試験的事業として、外国人家事労働者を受け入れる──韓国の首都ソウルの呉世勲(オ・セフン)市長が、そんな提案をしたのは2年前のことだ。

外国人労働者の「手頃な」サービスを提供して韓国人女性の育児の負担を軽減し、少子化に歯止めをかけるのが目的で、国内の家事労働者の減少や急速な高齢化に対応する狙いもあった。

シンガポールや香港の政策を参考に、韓国政府とソウル市が進める同事業は本格始動したばかり。家事労働者の国家資格制度があるフィリピンから来た100人が9月3日から約半年間、ソウル市内の家庭に勤務する。派遣先として優先されるのは共働き家庭や一人親家庭だ。

この思い切った事業には、家事労働者の業務範囲や文化の違いへの懸念など、数々の疑問の声が上がっている。最大の問題の1つになっていたのは報酬だ。より正確には、韓国の最低賃金(時給)9860ウォン(約1075円)を支払うべきかという問いだった。

外国人家事労働者の人権を保障するには最低賃金を適用するべきだという考えに対し呉は、「同意しない」と明言。「賃金水準は市場原理に従い、技能や貢献に応じたものであるべきだ」と主張した。

これに対して、韓国女性団体連合は今年3月8日の国際女性デーのイベントで、呉は「ジェンダー平等の障害」で、家事の価値を下げ、外国人労働者差別を助長していると非難。

外交分野でも、駐韓フィリピン大使がILO(国際労働機関)などの基準を引き合いに出し、両国は「同一賃金や無差別を支持する国際条約を批准している」と指摘した。

こうした経緯の末、研修のため8月上旬に来韓したフィリピン人家事労働者らは最低賃金を保証された。週5日間、1日4時間サービスを利用する場合、社会保険料負担などを含めた月額費用はおよそ119万ウォン(約13万円)だ。

だが新たに、大きな疑問が浮上している。フィリピン人家事労働者を雇うのは、韓国人家庭にとって割に合うのか。
若年層の共働き家庭が1日最低8時間、保育のためにサービスを利用したら、月額費用は約238万ウォンに上る。韓国の30代の家計所得中央値は509万ウォン(約55万5000円)。つまり、家計所得のおよそ47%を支払うことになる。

外国の「成功例」の結果は
費用対効果だけではない。もう1つの(そして、おそらく最も)重要な問いは、少子化対策として有効かどうかだ。
韓国の合計特殊出生率は世界最低レベルが続く。昨年の出生率は0.72で、8年連続で過去最低を更新。ソウルでは、国内最下位の0.55だ。

悲惨な状況を考えれば、韓国政府が外国の政策に目を向けたのも無理はない。だが成功例として挙げる「シンガポールモデル」の結果は、宣伝とは裏腹だ。

シンガポールの外国人家事労働者計画が始まったのは1978年。女性の就労を促進したとしても、出生率は低下傾向で、昨年は初めて「1」を下回る0.97を記録した。同じく成功例とされる香港の場合も同様だ。

今回の試験的事業をめぐる批判は、韓国政府の育児観や外国人労働者への見方の現実をあらわにしてみせた。人口減少に効果的に取り組むには、国外に助けを求める前に、ジェンダー不平等や家事・育児の男女格差という国内の根本的課題に向き合うべきだ。

「コリアンドリーム」を追うフィリピン人家事労働者は、少子化問題の救世主ではない。【9月3日 Newsweek】
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同様に少子化に悩むシンガポールや香港の外国人家事労働の果たしている効果・役割については別途検討する必要があります。

両国で少子化が改善されていなくても、もし外国人家事労働がなかったらもっと悪化したかも・・・という可能性もありますので。

少子化対策としての効果は小さくても、労働者不足を補う手段としては有効という見方もあります。

“ジェンダー不平等や家事・育児の男女格差という国内の根本的課題に向き合う”のが一番重要というのは正論ではありますが、なかなか変化しない部分でもあります。であれば、補完策としての外国人家事労働もニーズがあるなら検討してもいいように思いますが、補完策に頼ることで、根本的課題への取組がなおざりにされるというのは困ります。 検討が必要でしょう。

制度の提案者であるソウル市長が、最低賃金適用に反対した・・・というところに、家事・育児の価値を低く見ている、外国人労働者を“安価な労働力”と見なしている・・・そうした基本的な問題があるように思えます。
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