孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタンをめぐる、パキスタンと“陸に上がったクジラ”になりかねない米軍の“チキンレース”

2018-02-06 21:56:43 | アフガン・パキスタン

(国連開発計画、WFP及びアフガニスタン政府の協力で進められている女性自立のための農場 “flickr”より By UNDP こうした取り組みがアフガニスタン政府崩壊で無駄にならなければいいのですが・・・)

【“1日10人ペース”のテロによる市民犠牲者
政府が支配するのは国土の6割程度と言われるアフガニスタンでは、首都カブールでもタリバン及びISによる襲撃・爆弾テロが相次いでいます。

“テロや戦闘は政府にダメージを与えることを狙ったものだが、現場では大勢の市民が巻き添えになっており、国連アフガン支援団(UNAMA)によると同国では昨年1〜9月だけでも市民2640人が死亡、5379人が負傷した。”【1月27日 朝日】

単純に年間換算すると、1年で3500人超となります。“1日10人ペース”にも。

ISの方が無差別的な市民殺傷が多く、タリバンの方は軍・警察施設や外国人を狙うケースが多いようにも思えますが、それでも巻き添えになる市民は少なくないでしょう。

****アフガン首都で救急車爆発、95人死亡 タリバーン声明****
アフガニスタンの首都カブール中心部で27日午後1時ごろ、警察を管轄する内務省の施設前で爆発があり、保健省によると、少なくとも市民ら95人が死亡、約160人が負傷した。自爆テロとみられる。反政府武装勢力タリバーンが、警察を狙ったとする犯行声明を出した。
 
現場はカブール市中心部の公官庁や外国大使館、病院などが集まる地区。内務省などによると、同省の施設の入り口付近で爆発物を積んだ救急車が爆発したという。地元テレビは、路上に黒こげの車の残骸が散らばり、鉄柱がなぎ倒されている様子を伝えた。爆発当時、多くの人や車で混み合っていたという。(後略)【1月27日 朝日】
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****カブールで武装グループが軍施設襲撃 兵士11人死亡****
大規模なテロや襲撃が相次いでいるアフガニスタンの首都カブールで29日朝、軍の施設が武装グループに襲撃されてアフガニスタン軍の兵士11人が死亡し、急速な治安の悪化が懸念されています。(中略)

今回の襲撃について、過激派組織IS=イスラミックステートとつながりのあるアマーク通信は、ISの犯行だと伝えました。

カブールでは、今月20日に外国人も利用するホテルが反政府武装勢力タリバンによって襲撃され20人以上が死亡したほか、27日も中心部でタリバンによる大規模な自爆テロがあり100人以上が死亡するなど、大規模なテロや襲撃が相次いでいて、急速な治安の悪化が懸念されています。【1月29日 NHK】
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“急速な治安の悪化が懸念されています”・・・・ここ1年以上、テロのたびに毎回目にする表現です。

タリバンの思惑 アメリカの対応
1月27日のタリバンによる100人前後が犠牲になった爆弾テロについては、“タリバンをめぐっては、2015年以来、途絶えたままとなっている、アフガニスタン政府などとの和平協議の再開に向けて、水面下の交渉を進めているという観測が出ていて、警戒が厳しい首都で大規模なテロを実行する能力を示すことで、交渉で優位に立ちたいという思惑もあると見られます。”【1月28日 NHK】とも。

ただ、100人前後の犠牲を出すような大規模な爆弾テロということは、そうした“和平協議の再開に向けた交渉で優位に立ちたいという思惑”よりも、タリバン内に和平協議推進派と反対派が存在し、反対派が和平協議が進むことを妨害するために行った・・・という方が納得できます。もちろん真相は知りません。

アメリカ・トランプ大統領は、怒りにまかせて「現時点では彼ら(タリバン)と対話する用意はない」とタリバンを批判。

****米大統領、タリバンと対話せず=アフガンのテロ非難****
トランプ米大統領は29日、アフガニスタンの首都カブールで爆発物を積んだ救急車で多数の死傷者を出した自爆テロなどを実行した反政府勢力タリバンを非難し、「現時点では彼らと対話する用意はない」と強調した。ホワイトハウスで行われた国連安保理理事国の大使との昼食会冒頭で発言した。
 
トランプ氏は昨年8月に発表したアフガン新戦略で米軍の関与を継続する方針を表明。3000人以上の部隊増派を承認した。

トランプ氏はこの日、「われわれは終わらせるべきことを終わらせる」と指摘。アフガン政府とタリバンの和平交渉を急ぐよりも、タリバンを弱体化させるための軍事作戦を優先する意向を示した。【1月30日 時事】
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しかし、“例によって”、大統領発言の翌日に、力タリバンに軍事的圧力をかけ、和平交渉への参加を促す米国の戦略に変更はないとサリバン米国務副長官が強調し、大統領発言の軌道修正を行っています。

通常なら、「あの発言は何だったのか?」と問題になるところですが、トランプ大統領の場合は“いつもの話”で問題にもならないという不思議な状況です。アメリカ大統領もずいぶん軽くなったものです。

パキスタンに圧力をかけるアメリカ
アフガニスタンでタリバンの活動が一向に収まらないのは、背後でパキスタンが支援しているからだ・・・ということで、アメリカはパキスタンに対応を明確にするよう迫っています。

****米、パキスタンへの支援停止=テロ対応改善を要求****
米国務省は4日、パキスタンが国内テロ組織への対応を改善するまで、安全保障関連の資金支援や武器の提供を停止すると発表した。対象となる支援の種別を精査中のため、実際に停止される金額は公表しなかったが、数億ドル規模に上るとみられる。
 
国務省のナウアート報道官は記者会見で、「アフガニスタンの反政府勢力タリバンと武装勢力ハッカニ・ネットワークはパキスタン国内に拠点を置き続け、越境テロを計画するなど地域不安定化の要因となっている」と指摘した。

その上で「パキスタン政府がこれらの組織に断固とした対応を取るまで支援を停止する」と述べた。
 
米国はかねて、パキスタンがタリバン幹部やハッカニ・ネットワークを「保護下」に置いていると批判。パキスタン側は「事実無根だ」などと反発してきた。

今回の支援停止で両国の溝が深まるのは避けられず、パキスタンの協力をアフガン和平実現のカギと位置付けたトランプ政権は、早くも南アジア戦略の軌道修正を迫られる可能性もある。
 
また、国務省は4日、信教の自由を侵害しているとして、パキスタンを「国際信教の自由法」に基づく「特別監視国」に指定した。中国や北朝鮮、イランなどの「特定懸念国」ほど宗教弾圧が深刻ではないものの、警戒が必要と判断した。【1月5日 時事】 
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1月20日にタリバンが行った「インターコンチネンタル・カブール」襲撃についても、アメリカはパキスタンに対応を要求しています。

****アフガン高級ホテル襲撃で米がパキスタンにタリバン幹部の拘束・追放要求****
サンダース米大統領報道官は22日の記者会見で、アフガニスタンの首都カブールの高級ホテル「インターコンチネンタル・カブール」が20日、イスラム原理主義勢力タリバンに襲撃された事件に関し、パキスタン政府に対して同国内に滞在するタリバン幹部らを逮捕するか国外に追放するよう要求した。(後略)【1月23日 産経】
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相次ぐテロはパキスタンのアメリカへの報復?】
パキスタン側は、身に覚えのない批判として当然反発していますが、タリバンによる相次ぐテロは、アメリカの強硬な姿勢に反発するパキスタンがタリバンを操って“報復”に出ている・・・との見方もあるようです。

****1日平均10人の犠牲者」パキスタンが米に報復か?アフガンのテロ続発の背景****
アフガニスタンでイスラム過激派タリバンによるテロが止まらない。その背景として、トランプ米政権によるパキスタンへの軍事援助停止などの圧力に対する報復ではないか、との見方が強まっている。パキスタンが背後でタリバンを使って、アフガン情勢を操っているというのだ。

民間人、1日平均10人が犠牲
それにしてもこのところのテロの激化は凄まじい。(中略)

アフガンの治安は悪化の一途だが、国連などによると、昨年の最初の9カ月間のテロなどによる民間人の死者は1日平均10人に上る。アフガン治安部隊の死者も過去1年で1万人を超えており、このままでは、今年はこれを上回る最悪のペースになりかねない。
 
タリバンとの戦闘は例年、雪に覆われる冬には下火になるが、この冬は過去16年のタリバンとの戦争で初めて、米軍の空爆が縮小されなかった。

それどころか、米紙によると、空爆は12月だけで455回(昨年65回)に上った。これは、トランプ大統領が昨年8月に発表した「新アフガン戦略」に基づくもの攻撃強化の一環だ。8月から12月までの空爆は2015、16年の合計2000回とほぼ同じ回数だ。
 
空爆強化に伴い、駐留米軍の規模も増強された。オバマ政権下で最盛期10万人もいた米軍はいったん8400人までに削減された。トランプ大統領も当初は完全撤退を主張していたが、タリバンやISの台頭で第二のシリアになるという米軍指導部の助言を入れ、増派を決定。

現在は1万5000人規模になっていると見られている。それでも国土の半分を支配するタリバンを壊滅するには焼け石に水だろう。

“陸に上がったクジラ”
タリバンの最近の首都でのテロ攻撃の続発は冬場になっても衰えないこうした米空爆への仕返しの意味も無論あるだろう。

だが、それだけではない、との見方がもっぱらだ。「トランプ大統領から軍事援助を停止された報復で、パキスタンがアフガニスタンを米国との代理戦争の場にしている」(中東専門家)というのだ。
 
トランプ氏は昨年の「アフガン新戦略」の発表の際、パキスタンが過激派を支援しているとして「混乱と暴力、恐怖の温床」と非難。今年元旦には「パキスタンはアフガンでわれわれが追っているテロリストの隠れ家になっている。もうたくさんだ」と不満を爆発させた。
 
トランプ大統領が新年のツイートで口を極めてパキスタンを罵ったのは米情報当局が、パキスタンがタリバンを援助しているという具体的な証拠を掴み、それを大統領に報告したからに他ならないだろう。

米国は4日、パキスタンによるアフガンの過激派対策が不十分だとして、対パキスタン軍事援助の一部凍結に踏み切った。パキスタンは米国から年間13憶ドルの援助を受けているが、凍結されたのは約3億ドルと見られている。
 
パキスタンはタリバン支援を真っ向から否定し、「米国の裏切り」(同国解説者)と強く反発、両国の対立は極度に悪化した。

タリバンは元々、パキスタンの軍情報機関ISIがマドラサ(イスラム神学校)から原理主義者をアフガンに送り込んで創設された組織。ISIがタリバンを背後で操っていると見られているのはこうした理由による。
 
だが、米国の軍事援助凍結という制裁はうまくいかないとの見方が強い。「アフガン駐留米軍は“陸に上がったクジラ”になりかねない」と米国の元パキスタン大使は米紙に警告している。

というのも、パキスタンが軍事援助停止の報復として、アフガン駐留軍への補給ルートを閉鎖するかもしれないからだ。もしパキスタン経由の陸上補給ルートが遮断されれば、駐留米軍は補給が滞り、軍事活動に重大な支障が出ることになるだろう。遮断しないまでも、パキスタンがさまざまな注文を付けて嫌がらせをする懸念は十分ある。

変わる地政学
しかし、米政府はタリバンの事実上のナンバー2である組織の最強硬派「ハッカニ・グループ」の指導者シラジュディン・ハッカニがISIとの関係を深めていると疑っているようだ。

パキスタンが最近、米国の要求を無視して軟禁状態にあった過激派指導者らを解放したことも米国が激怒した理由だが、当面、両国の関係が改善する見通しはない。
 
特にパキスタン軍で影響力を増大させている陸軍参謀長カマル・バジュワ将軍の米国への反発は強く、米国に代わる支援国を模索しようと、中国、ロシア、イラン、カタール、サウジアラビアなどに急接近している。

とりわけ、中国との経済関係が急拡大しており、中国の影響力拡大を封じ込めたい米国にとっては大きな脅威になっている。
 
対して、米国もパキスタンの潜在的な敵国であるインドとの関係強化にすでに乗り出しており、西南アジアの戦略バランスは一気に激変しそうな雲行きだ。アフガニスタンの治安悪化はアジア全体の地政学を大きく変えようとしている。【1月30日 佐々木伸氏 WEDGE Infinity】
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【アメリカの泣き所“陸に上がったクジラ”】
パキスタン、特にISI(軍統合情報局)が“報復”に出ているのかどうか・・・ありそうな話ではありますが、真相はわかりません。

ただ、パキスタンと完全に対立すると、アフガニスタンの米軍は補給路を断たれて“陸に上がったクジラ”になってしまうというのは、以前から再三指摘されている米軍の泣き所であり、1月12日ブログ“アフガニスタン情勢  アメリカ・トランプ政権のパキスタンへの支援停止で変化は?”でも取り上げました。

そのあたりを踏まえて、支援停止で脅しをかけるアメリカと補給路を握るパキスタンの“チキンレース”が展開されているとも。

****米国とパキスタンの「チキン・ゲーム***
ウォール・ストリート・ジャーナル紙が1月3日付で、パキスタンがアフガニスタンで活動するタリバン他のテロリスト・グループに隠れ場所を提供していることに憤るトランプ大統領は正しく、米国はパキスタンの行動を変えさせる必要がある、という社説を書いています。論旨は次の通りです。
 
トランプ大統領の今年のツイートは、パキスタンは「混乱、暴力、テロのエージェントに隠れ場所を提供し」米国の援助に「虚偽と詐欺」をもって報いているというパキスタン非難で始まった。

パキスタン政府は反撃した。しかし、トランプは正しい。パキスタンがタリバンやハッカニーのようなテロ・グループを後援している限り、米国はアフガニスタンの戦争に勝てない。
 
パキスタンが、米国の同盟国として2002年以来330億ドルの援助を得る一方で、アフガニスタンで活動するテロ・グループを支援していることについては、具体的な証拠がある。それへの苛立ちの表現として、昨年8月、米国は2.55億ドルの援助を保留した。
 
援助は米国が有する梃の一つに過ぎない。MNNA(major non-NATO ally:非NATO主要同盟国)の指定を取り消すというもっと強力な措置も検討されている。その場合、米国の装備品、訓練、情報共有へのアクセスを断たれることになるのでパキスタン軍には深刻な影響をもたらす。

米国はパキスタンをテロ支援国家に指定することも出来る。これには制裁が伴う。既にFATA(金融活動作業部会)がパキスタンに対しテロ資金供与の防止が不十分なことを理由に監視リストに掲載することを警告している。
 
これらの措置が軽々に取られることはない。米国はアフガニスタンへの補給をパキスタンの港湾と道路に依存している。ロシアとイランとの緊張の高まりのために中央アジアを経由する別のルートの開拓は実現可能性がない。

中国はパキスタンを無条件に支持しており、インフラへの570億ドルの投資を約束している。もし、中国に更に依存することを迫られれば、パキスタンは中国海軍にグワダル港へのより大きなアクセスその他の戦略的便宜を与えるかも知れない。
 
しかし、最も強力な議論は、パキスタンとの関係断絶をすれば、それが裏目に出て宗教的な狂信者による権力掌握を助けることになるかも知れないということである。イスラマバードが過激なイスラム主義者の手に落ちることを防ぐことは、絶対的に必要である。
 
このことは、トランプがより強硬な路線を選択することが誤りであるという意味ではない。米国はその梃を使ってパキスタンの行動を変えさせるべきである。パキスタン軍首脳部は圧力に憤るかも知れないが、両国関係の断絶は双方にとって危険であり、事態を悪くすることを認識せねばならない。(後略)【2月6日 WEDGE】
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【“コペ転”でもしないと・・・
パキスタンを何とかしない限り、アフガニスタン情勢の安定はない・・・というのは間違いないです。

ただ、“陸に上がったクジラ”にならずに、どのようにパキスタンに迫るのか・・・という肝心なところは、上記記事も何も語っていません。

【WEDGE】の上記ウォール・ストリート・ジャーナル記事への評論も“結局あまりいい知恵がないことを告白しているに等しい”と指摘。

補給路については、代替ルートがない訳ではないことは、【1月12日ブログ】でも取り上げました。
“アメリカはインドと組み、イラン南東部のチャバハル港経由でアフガニスタンに物資を運ぶべきだ(中略) チャバハルはインドが開発に協力した港で、アフガニスタンヘの鉄道と道路網の整備も進んでいる。”というルートです。

そのためには、トランプ大統領が敵視するイランと和解するというコペルニクス的大転換が必要になります。

普通ならありえない話ですが、どうせ朝令暮改、“何でもあり”のトランプ大統領ですから、この際、そのくらいの“豹変”を行ってもいいのでは・・・。

ついでに、これも“コペ転”で、タリバンと連携してIS掃討を行うのもいいかと。

まあ、そのくらいのことを考えないと、アフガニスタンの“ジリ貧”から抜け出すのは難しいというのは【1月12日ブログ】の結論でした。

ただ、イランと和解すると、今度はイスラエル、サウジアラビアが・・・。

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