(マリ 武装組織空港襲撃 大統領専用機燃やす【9月18日 ABEMA】)
【米仏が撤退し、ロシアが勢力拡大という話はよく聞くが・・・】
マリ、ブルキナファソ、ニジェールの西アフリカが国際的に国際関係の面で語られるのは、この地域では軍事クーデターが起き、軍事政権と対立するフランス・アメリカが撤退し、民間軍事会社ワグネルを先陣とするロシアが影響力を拡大しているという話。
****アフリカ・サヘルの政情不安****
アフリカ大陸の北部サハラ砂漠の南で、半乾燥地域のことをサヘルというが、そこにはセネガル、モーリタニア、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、ナイジェリア、チャド、スーダン、南スーダン、エリトリアという国々がある。(中略)
今、このサヘルで旧宗主国のフランスやアメリカに代わって、ロシアがプレゼンスを高めている。
この地域では、国際テロ組織のアルカイダや過激派組織「イスラム国(IS)」などが活動しており、新型コロナウイルス流行で職を失った若者をリクルートして、勢力を拡大してきた。
そのために治安が悪化し、国民の不満が高まったが、民主派政権は過激派テロ組織の鎮圧に失敗し、統治能力の欠如を示した。そこで、軍部がクーデターを起こしたのである。
マリでは2020年8月に軍部が反乱し、民主的に選ばれたケイタ大統領を追放し、ゴイタ大佐が2021年5月に大統領に就任した。ブルキナファソでは、2022年1月に軍事クーデターでカボレ大統領が失脚した。
ニジェールでは、2023年7月、軍部がクーデターを起こした。首謀者のアブドゥハーマン・チアニ大統領警護隊長は、親欧米派のモハメド・バズム大統領を追放し、憲法を停止し、自ら国のトップに就任した。
これらの軍事クーデターの背後には、ワグネルを軍事政権の傭兵として活動させるロシアの存在がある。ニジェールはウランの有数な産出国であり、EUのウラン輸入の約24%を占める最大の供給国である。また、マリもブルキナファッソも金を産出するなど、資源に恵まれている。ロシアは、その資源も自由に入手する。
これらの国々では、旧宗主国のフランスへの反感が強く、駐留フランス軍の安全が確保できなくなった。そこで、マクロン大統領は、ニジェールから約1500人の仏軍を昨年12月に撤退させた。今年の4月には、約1000人の米軍も全てニジェールから撤退した。米仏に代わってロシアが居座っているのである。(後略)
【8月15日 現代ビジネス 舛添要一“「ゼレンスキーは《最悪の選択》をした」ロシア越境攻撃を仕掛けたウクライナが、「アメリカ・フランスに見放される」運命にある理由】
************************
【国際的にあまり注目されることもない虐殺の現実】
“国際テロ組織のアルカイダや過激派組織「イスラム国(IS)」などが活動しており、新型コロナウイルス流行で職を失った若者をリクルートして、勢力を拡大してきた”・・・その現実は“勢力を拡大”と簡単に片づけるにはあまりしも悲惨です。
住民を襲う虐殺・暴力はイスラム系過激派のテロだけでなく、少数民族をテロ組織と同一視する政府軍やロシア兵による攻撃もあります。
ウクライナやパレスチナでの犠牲には多くの目が向けられますが、西アフリカにおけるイスラム過激派のテロや政府軍・ロシア兵による攻撃の具体事例はあまり語られることはありません。
****「ウクライナやガザと同じことが…マリの実態知って、虐殺止めて」現地ジャーナリストが国際社会にSOS****
軍事政権下にある西アフリカのマリで、十数万人の少数民族らが隣国モーリタニアに逃れ、過酷な難民生活を送っている。背景にはロシアの民間軍事会社「ワグネル」の進出に伴う紛争激化がある。長年、現地の少数民族トゥアレグを取材してきたジャーナリスト、デコート豊崎アリサさん(53)に現状を聞いた。(太田理英子)
◆国際機関の支援なし、気温50度近い砂漠で
フランス人と日本人の両親を持つデコートさんは、1997年に初めてアフリカ大陸北部のサハラ砂漠を訪れて以来、砂漠を拠点にするトゥアレグのキャラバンのドキュメンタリー撮影や取材活動をしてきた。「今、民族浄化の危機が迫っている」と訴える。
今年7月には国境近くに点在する難民キャンプを取材。木の棒と布で作ったテントの下に人々は身を寄せていた。昨年10月以降、北部から約12万人が逃げてきたといい、多くはトゥアレグを中心とした少数民族。8割は女性と子どもだ。
国境なき医師団を除き、国際機関の支援は見られない。砂漠地帯で気温は50度近い。「衛生環境が悪く感染病も広がっている」
◆ワグネルの進出で事態がさらに悪化
トゥアレグは、マリやニジェールをまたぐサハラ砂漠の遊牧民だったが、1950~60年代にマリや周辺国が独立。マリでは政府の弾圧に対し、トゥアレグの組織が自治を求め反乱を繰り返した。2012年に独立を宣言したが、混乱に乗じてイスラム過激派組織も勢力を広げ、紛争の様相は複雑化した。
事態がさらに悪化したのは、2021年の軍事政権樹立。駐留仏軍が撤退し、代わってマリ政府に接近したのがロシアだった。ワグネルが進出し、軍事支援や情報工作を展開。
2023年にはマリ軍とワグネルが「反テロ対策」としてトゥアレグの組織の拠点地域に侵攻。交戦が続き、トゥアレグや別の少数民族プルの人々も隣国に逃れたという。
◆ロシアがアフリカに近づく狙いは
ワグネルは2017年ごろからアフリカ諸国で現地政府への軍事協力、選挙介入や鉱物採掘などの活動を展開したが、2023年に実質解体された。
ロシアの準軍事組織「アフリカ部隊」などに吸収され、従来の活動はロシア政府主導で強化。現在マリ軍と活動しているのもアフリカ部隊とみられる。
ロシアがウクライナ侵攻で欧米と対立する中、アフリカに近づく狙いは何か。
日本エネルギー経済研究所中東研究センターの小林周主任研究員は「ワグネルが築いた現地政府との関係や開発利権を生かして収益源にすると同時に、国連や欧米の影響力、存在感を低下させている」とみる。
◆かつてないほど残酷な虐殺が
政府軍とアフリカ部隊による攻撃に加え、過激派組織のテロなど、住民への脅威は増大している。
デコートさんは「かつてないほど残酷な手段で虐殺が起きている」と話す。キャンプにいた50代女性は、親族が切り刻まれたほか、生きた状態で井戸に投げ込まれた人もいたと証言。「マリ軍などは国境付近に集中し、逃げることさえ危険」と語ったという。
現地に入る報道機関はなく、デコートさんは国際社会に現状が伝わらないことに危機感を募らせる。「ウクライナやパレスチナ自治区ガザと同じことが起きている。マリの実態を知ってもらい、無差別な虐殺を許さない世論を広げたい」【8月25日 東京】
**********************
そのマリでは9月、首都マリがイスラム過激派の攻撃を受けています。
*****西アフリカのマリ、首都攻撃され70人死亡 アルカイダ系武装組織 数百人死傷の情報も****
ロイター通信は19日、西アフリカ・マリで17日に国際テロ組織アルカイダ系武装組織が首都バマコの空港や警察学校を攻撃し、約70人を殺害したと報じた。外交筋の話としている。
イスラム系などの武装勢力に悩まされるマリの軍事政権はロシアと協力して対策を進めているが、首都を攻撃される異例の事態となった。
ロイターによると、軍政は被害の詳細を明らかにしていない。数百人が死傷したとの情報もある。ゴイタ暫定大統領は攻撃の数日前、ロシアの支援で武装勢力を弱体化させたと主張したばかりだった。
マリでは2020年以降に2度クーデターが起き、権力を掌握した軍政はテロ対策で駐留していたフランスの部隊を撤退に追い込んだ。ロシアとの連携に転換したが、7月下旬には北部でロシアの民間軍事会社ワグネルの戦闘員多数が遊牧民トゥアレグの反政府勢力に殺害された。(共同)【9月20日 産経】
********************
“数百人が死傷したとの情報も”・・・・欧米はもちろん、ウクライナやパレスチナでも大事件ですが、マリの場合は“数百人が死傷したとの情報も”で片づけられてしまします。
ブルキナファソでは
****ブルキナファソの虐殺、死者600人に 仏当局の評価で当初推計から倍増****
西アフリカ・ブルキナファソにある町を国際テロ組織アルカイダとつながる武装グループが8月に襲撃した際、数時間で最大600人が射殺されていたことが分かった。フランス政府による安全保障関連の評価から明らかになった。
当初の報道で引用された死者数から2倍近く増加した。 更新された死者数は、当該の襲撃がこの数十年にアフリカで発生した単独の襲撃事件として最悪の部類に入ることを意味する。
襲撃に関与したのは、サハラ砂漠南部のサヘル地域を拠点とするアルカイダ系の「イスラム・ムスリムの支援団」(JNIM)。
ソーシャルメディア上にあるJNIM支持のアカウントに投稿された複数の動画によると、8月24日に発生した襲撃では、JNIM所属の戦闘員らがオートバイに乗って同国のバルサロゴ郊外に進入。住民に対し組織的な銃撃を始めた。
死者の多くは女性と子どもで、動画からは自動小銃の銃声と犠牲者らの叫び声が聞こえる。犠牲者らは、死体のふりをしているところを撃たれているようだ。
サヘル地域では米軍とフランス軍が主導して治安の確保に取り組んでいるものの、イスラム武装勢力の進入にはなかなか歯止めがかからない。マリ、ブルキナファソ、ニジェールではクーデターが相次ぎ、フランスと米国の軍隊は撤退を余儀なくされた。
各国の軍事政権はロシアの傭兵(ようへい)を集め支配力強化を図るが、逆に権力の空白地帯が生まれ、イスラム武装勢力の台頭につながっている。
CNNがフランスの安全保障当局者から入手した前出の評価で明らかになった。 国連は当初、バルサロゴでの襲撃の死者数を200人と推計。JNIMは300人近くを殺害したと発表していた。
ロイター通信が引用した米SITEインテリジェンス・グループの翻訳によると、JNIMは軍とつながる民兵組織の構成員を標的とした襲撃であり、市民を狙ったわけではないと主張した。
フランスの当局者はCNNの取材に答え、ブルキナファソの治安が著しく悪化していると指摘。治安部隊が対処できないため、武装したテロリスト集団がますます自由に振る舞う状況になっているとした。
今回の報告によれば、バルサロゴでの襲撃の15日前にはタウォリという村で軍の車列が襲われ、兵士150人がイスラム武装勢力に殺害された。 9月17日には隣国マリの首都バマコでも、JNIMの襲撃が発生。空港やその他の重要な建物が狙われ、70人以上が死亡した。【10月4日 CNN】
*********************
映画などのドラマでは、オートバイに乗った武装勢力が村を襲撃して住民を虐殺・・・という場面を見ますが、それはドラマ上の話ではなく、西アフリカの現実です。
アルカイダ系の「イスラム・ムスリムの支援団」(JNIM)は“市民を狙ったわけではないと主張した”とのことですが、死者600人・・・・皆殺しの意図を持ってやらなければあり得ない数字です。
“軍が集落を防衛しようと住民に塹壕を掘らせていた際に襲撃を受けたが、住民を守る措置を取っていなかったため被害が拡大したとの見方がある。報告書は「軍政にテロ対策を担う力はない」と結論付けたという。”【10月5日 産経】
政府軍に加担する村や町はこうなるぞ・・・という見せしめなのでしょう。