孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  与党「惨敗」 プーチン「長期支配」、停滞への不満 不正選挙への抗議デモも

2011-12-07 22:24:55 | ロシア

(「統一ロシア」党本部で、投票締め切り後に党員に話すプーチン首相(右)とメドベージェフ大統領 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6459956059/in/photostream

【「議席減は政権の改革の成果だ」】
ロシアで4日に行われた下院選挙は、“与党苦戦”との選挙前の大方の予想どおり、与党「統一ロシア」が過半数は維持したものの、大幅に議席を減らす「惨敗」となりました。
統一ロシア党首を務めるプーチン首相の「長期支配」へ有権者が反発を示した形とも見られています。

****ロシア下院選:与党・統一ロシアが大幅減 過半数は維持へ****
ロシア下院選(定数450)は4日夜、投票を終了し即日開票された。5日朝(モスクワ時間、日本時間午後)までの暫定集計で、政権与党「統一ロシア」がかろうじて議席の過半数を維持するものの75議席近くを減らす「惨敗」となる見通しになった。
野党の共産党や公正ロシアは躍進している。選挙は来年3月に実施する大統領選の前哨戦と位置づけられたが、有権者が統一ロシア党首を務めるプーチン首相の「長期支配」への反発を示した形となった。

選挙は比例代表制で7党が登録。選挙管理委員会によると、開票率約92%の時点で、統一ロシアの得票率は49.75%にとどまり、現有議席の315から238~239議席まで減らす見込み。得票率19.15%の共産党(現有議席57)が91~92議席、13.15%の公正ロシア(同38)が63~64議席、11.66%の自由民主党(同40)が55~56議席を獲得する見通し。残り3党は議席獲得に必要な7%の法定得票率に及ばず、議席を得られないとみられる。このため最終的に統一ロシアの得票率が過半数に達しなくても議席の過半数は維持できる見通しだ。

統一ロシアは下院選の1週間前に党大会を開き、プーチン氏を来年3月の次期大統領選候補に指名したが、期待するような「効果」を得られなかった。(中略)
チマコワ大統領報道官によると、大統領は議席を獲得する見込みの野党3党の党首と個別に電話協議したという。
下院は08年の憲法条項改正に基づき、次回会期から任期を従来の4年から5年へ延長する。選管によると、暫定投票率は約60%で、前回07年の63.78%を下回っている。【12月5日 毎日】
*****************************

メドベージェフ大統領は、この結果を「これが議会政治であり、民主主義だ」と評しています。
****硬い表情、突き刺す視線=「これが民主主義」―ロ大統領・首相****
ロシア下院選の暫定結果が4日夜(日本時間5日未明)明らかになると、与党・統一ロシア率いるプーチン首相、選挙責任者メドベージェフ大統領が並んで選対本部に姿を現した。

たとえ議席を減らしても、大統領は「(統一ロシアが)下院最大の政治勢力だ」と強がったが、表情はこわばっていた。
過半数割れの事態も想定した大統領は、他党と「連立合意」する可能性にも触れた。「これが議会政治であり、民主主義だ」と強調。結果的に「(ロシアの)民主主義が強くなる」と、苦戦を肯定的な評価にすり替えてみせた。

プーチン氏も、下院選について「わが国の安定的発展を保証するものだ。国情を反映した最高の結果だ」と称賛した。ただ、メドベージェフ氏が口を開いている間、突き刺すような目で横顔を見詰めていた。【12月5日 時事】 
***************************

本音はともかく、メドベージェフ大統領の「本当の民主主義が機能している結果だ」「議席減は政権の改革の成果だ」との見解は、正論でもあります。問題は選挙に示された国民の不満をどのように今後の政治にいかしていくか・・・ということです。

プーチン首相がメドベージェフ大統領の横顔を“突き刺すような目”で見つめていた・・・というのは面白い描写ではありますが、プーチン首相はもともとそういう厳しい目線の人ですから、いささか思いれ過多かもしれません。ただ、メドベージェフ大統領に国政を預けた結果に対する何らかの思いもあったかも。

なりふり構わぬ集票活動
今回選挙では、与党側は“苦戦”を意識して、選挙違反まがいの集票活動も行ってきました。

****露下院選、焦る与党 国民不満表れ****
・・・・来春の大統領選ではプーチン首相の当選が確実視されており、その場合にはメドベージェフ大統領が首相に収まる見通しだ。プーチン氏個人は引き続き高い支持率を誇っているが、与党の支持率低下は停滞が続く政治に対する国民の不満の表れとみられている。

独立新聞や週刊誌コメルサント・ブラスチなど露メディアは最近、統一ロシア陣営のなりふり構わぬ集票活動を次々と伝えた。
ウラル地方では、役人が地元の実業家に対して従業員の票を買うなどして与党票を増やすよう要求する一方、野党支持者の従業員は投票日に出勤させるよう求めた。「与党の得票率が65%に届けば追加報奨金が出る」とも述べたという。

公務員には「ノルマ」をクリアしないと解雇されるという危機感が広がっているとされる。統一ロシアのプラカードを掲示したクラスノヤルスク地方の中学校では、政党批判の落書きをした生徒が「教育の場への政党の干渉は禁止されている」と主張して校長と対立する騒ぎが起きた。

モスクワ近郊の州では、年金生活者らに薬や食べ物が配られた。袋には統一ロシアへの投票の仕方が印刷され、「これ以外の投票は無効」とのただし書きが付記されていたという。
著名な音楽グループがケメロボ州でコンサートを行ったさい、見知らぬ者が舞台に突然現れ、「このコンサートは統一ロシアの提供で行われている」と述べた。反発したグループは「選挙の前に」という曲を発表、与党を批判した。【12月3日 産経】
**************************

“統一ロシアは、地方の指導者らが属する「官僚党」の色が濃い。汚職や官僚主義のイメージで支持離れが進んだところに、集票のノルマを課された知事らが地元企業や有権者のねじを巻き、かえって反発を招く悪循環もおきている。「新時代」誌によると、野党支持の労働者に投票日出勤を命じる企業や、年金生活者に「年金財源は与党の得票率次第」と吹き込む知事もいるという。”【12月3日 朝日】

経済の停滞、格差の拡大に対する国民の不満も募っているようです。
“圧勝だった2007年の下院選のころは、経済が絶好調だった。今は「停滞の始まり」の減速感が漂う。格差の拡大に国民の不満が募っており、プーチン氏は党大会で「社会的公正」を実現すると強調した。野党の共産党などが掲げる「公正」という言葉で票のつなぎ留めを図る腐心ぶりだ。”【同上】
こうした「公正」を求める国民の不満の受け皿として、共産党や中道左派の「公正ロシア」が議席を倍増させました。

一方、リベラル政党「ヤブロコ」は7%の壁を越えられず、議席を得ることができませんでした。
“党首のヤブリンスキー氏はプーチン氏より政治歴が長く、ソ連崩壊後の90年代の混乱を生んだ張本人とのイメージが妨げだ”【同上】とのことです。
また、プーチン批判の急先鋒、カシヤノフ元首相ら野党指導者が結集した「国民自由党」(パルナス)は、登録不備を理由に選挙に参加することすらできませんでした。

リベラル層には「投票の選択肢がない」という状況で、“1日付の英字紙モスクワタイムスは、議席を持つ共産、自民、公正ロシアの3党が、野党のふりをする契約を与党の統一ロシアと結んだと報じた。見返りは議席確保の保証だという。しらけムードに輪をかけた”【同上】とも。

【「不正はあったが、規模は誇張されている」】
ただ、選挙で不正が行われたという疑惑も強くあります。
欧米は、今回選挙には厳しい見方をしています。

****選挙不正に「深刻な懸念」=ロシアに全面調査要求―米****
カーニー米大統領報道官は5日の記者会見で、ロシア下院選挙で不正行為が報告されていることに関し、「深刻な懸念」を表明した。また、トナー国務省副報道官は国務省での会見で、ロシア政府に全面調査を求める方針を示した。
選挙監視団を派遣した欧州安保協力機構(OSCE)はこれに先立ち、ロシア下院選について声明を発表。開票過程で票の水増しなどの不正操作が行われたとの見方を示した。
ロイター通信によると、クリントン国務長官は5日、ドイツのボンで記者団に、開票結果の不正操作のほか、独立監視団に対するサイバー攻撃などの嫌がらせがあったとする報告に懸念を表明した。【12月6日 時事】
*****************************

不正選挙に対する国民からの抗議の声も上がっています。
****下院選不正に抗議、モスクワで大規模集会****
モスクワ中心部で5日夜、4日に投開票された下院選での不正などに抗議する大規模集会が開かれ、5000~7000人が参加した。
政権による反政府運動の弾圧が徹底した近年のロシアで、この規模のデモが開かれるのは珍しい。

デモ参加者は、「ロシアを自由に」「プーチンなき祖国を」などと書いたプラカードを掲げ、野党指導者らの演説に気勢を上げた。ブログやサイトなどには、投票箱にあらかじめ票を詰めたり、同一人物が複数の投票所を回って投票したりするなどの不正行為の動画が投稿され、市民の怒りが広がっている。

政権幹部は「不正はあったが、規模は誇張されている」などと述べ、火消しに躍起になっている。インターファクス通信によると、内務省は「市民の安全確保」を目的にモスクワ市内に追加の治安部隊を配備した。【12月6日 読売】
***************************

こうした抗議行動に対し、当局側は野党活動家らを逮捕する形で、硬い姿勢を崩していません。
****ロシア、与党の選挙不正訴える大規模集会 逮捕者数百人 *****
ロシアのモスクワで6日、野党活動家らが下院選で与党側に不正があったと抗議する大規模集会を開いた。治安部隊の投入で数百人が逮捕された。

抗議集会は5日にも開かれ、数千人が参加して政権を動揺させた。その後、4日の下院選はウラジーミル・プーチン首相の与党「統一ロシア」が有利になるよう操作されたものだと主張する野党支持者らが、インターネットで集会への参加を呼びかけた。
野党支持者らは「ファシストよ、恥を知れ!」「プーチンのいないロシアを」などと叫んだが、現場には与党支持の若者ら数百人も集まり、野党支持者側とのにらみ合いとなった。 

モスクワの抗議集会での逮捕者には、野党指導者、ボリス・ネムツォフ元第1副首相ら、下院選への立候補が禁じられた野党政治家たちも含まれている。ネムツォフ氏は警察署に連行された後、釈放された。
モスクワの警察は、逮捕者の人数は250人と発表したが、インタファクス通信は治安当局筋の情報として、300人が拘束されたと報じている。

一方、プーチン首相の出身地のサンクトペテルブルクでも同様の抗議集会があり、約200人が逮捕された。
民間TVドーシチによると、抗議集会が行われた都市は50に上った。

5日の集会では、著名活動家のイリヤ・ヤシン氏や国営企業の腐敗告発ブログで知られるアレクセイ・ナバルニー氏ら300人が身柄を拘束された。両氏については、裁判所が6日、警察の指示に従わなかった罪で、禁錮15日の実刑判決を言い渡している。【12月7日 AFP】
*************************

「不正はあったが、規模は誇張されている」という政権側の言い分は、おそらく事実でしょう。
ただ、それを言い放つ感覚がやはり問題です。不正は規模の大小が問題ではなく、そうした不正を政権側が意図したこと、あるいは容認していること自体が、民主主義の理念とは相いれません。

今後に向けては、“メドベージェフ氏は5日、野党指導者に向けて「統一ロシアは協力の用意がある」と述べ、議会運営での協調を改めて呼びかけた。プーチン陣営が大統領選へ向けて大連立を組むシナリオが浮上する可能性がある。”【12月6日 毎日】とも報じられています。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ベルギー  新政権発足で1年... | トップ | EUサミットを間に、米格付け... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ロシア」カテゴリの最新記事