孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エジプト  通貨切り下げにサウジの石油供給停止 難しいエジプト経済立て直し

2016-11-08 22:38:33 | 北アフリカ

(カイロの街角 【10月14日 ロイター】)

変動相場制移行で通過の大幅切り下げ
エジプトでは軍部出身のシシ大統領による強権的な統治にもかかわらずイスラム過激派のテロはおさまらず、ロシア民間機墜落事件などのテロ不安から観光業(GDP・雇用の約12%を占めています)が打撃を受けていることなどから経済状態が極めて悪化、深刻な外貨不足に陥り、原油価格下落によって湾岸諸国からの支援もままならない状況もあって、8月にはIMFからの支援を仰ぐところへ追い込まれている・・・という話は、9月9日ブログ“エジプト 深刻な外貨不足からIMF支援を要請するも、今後の改革の成否は不透明”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160909で取り上げました。

ただ、IMFからの融資には条件が付きます。そのひとつが為替管理の適正化で、エジプトは今月3日から変動相場制へ移行することになりました。

これにより大幅な通貨切り下げとなりますが、この措置は農産物など輸入品価格の大幅上昇をもたらしますので、エジプトにとっては極めて大きな“痛み”となります。

****エジプトポンドが変動相場制移行 IMFからの融資条****
経済危機が深刻化しているエジプトの中央銀行は3日、エジプトポンドの固定相場制を廃して変動相場制に移行すると発表した。同国は8月、国際通貨基金(IMF)から3年間で120億ドル(約1兆2100億円)の融資を受けることでIMFと基本合意したが、履行の条件としてエジプトポンドの切り下げを求められていた。
 
中銀の発表によると、外為市場が取引を開始するまでは、暫定的に交換レートを約48%切り下げた1ドル=13エジプトポンド前後で交換するように市中銀行に指示した。
 
エジプトは2011年の「アラブの春」以降、政変やテロの影響で主要産業の観光業が大打撃を受け外国投資も低調。外貨準備は11年以前は約350億ドルあったが、今年9月には196億ドルにまで減っていた。
 
最近のエジプトポンドの交換レートは、闇市場で半値前後に下落。インフレも深刻化している。

IMFのラガルド専務理事はエジプト政府に早急にポンドを切り下げるよう求めていた。IMFの融資は理事会で正式に決定されるが、変動相場制への移行のほか、燃料補助金の削減なども求めている。【11月4日 朝日】
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サウジアラビアの石油供給停止
IMFの要求は例によって経済政策的には“正論”ではありますが、エジプト国民・シシ政権がこの“痛み”に耐えられるのか?・・・という話になります。しかも、サウジアラビアからの石油供給の停止というエジプト経済にとって更に大きな問題も起きているようです。

****サウジアラビア:エジプトへの石油供給を停止****
10月に入り、サウジアラビアからエジプトへの石油供給が停止された。10月9日、エジプト石油省のアブドゥルアジーズ報道官は「様々な理由によりサウジ・アラムコからの石油製品が到着していない」と述べた。

10月10日付の『Reuters』は、エジプト政府筋の情報として、10月初頭にサウジ・アラムコがエジプト石油公社(EGPC)に石油製品の供給ができないことを伝えてきたと報じている。両国は、4月にサルマーン国王がエジプトを訪問した際に、サウジが毎月70万トンの石油精製品を5年間エジプトに230億ドルで供給することで合意していた。
 
エジプトは10月分の石油製品を受け取ることができておらず、国内消費に必要な石油を買い付けるため、EGPCは5億ドルを割り当てる計画である。10月12日、アブドゥルアジーズ報道官は、他の供給元から緊急に石油を買い付けることができたと述べている。本件に関し、サウジアラビア側からはいかなる見解も出されていない。

評価
報道ベースでは、昨今のサウジ・エジプト関係の冷え込みが今回の石油供給の停止につながったと論じられる傾向にある。直近では、10月8日に国連安保理でロシアが提出したシリアに関する決議案にエジプトが賛成票を投じたことをサウジが問題視しており(なお、エジプトはフランスとスペインが提出した決議案にも賛成票を投じている)、

サウジのムアッリミー国連大使は「(非常任理事国の)セネガルとマレーシアの立場の方がアラブを代表する国(エジプトのこと)よりもシリアに対するアラブの総意に近かったことを見るのは、痛ましい」と述べ、エジプトを批判した。

従来からサウジとエジプトはシリアを巡る対応で一致していなかったが、公の場でサウジがエジプトを非難するのは稀なことであり、サウジ側のエジプトへの強い不満が窺える。

近年のサウジ・エジプト関係は良好なものであったが、エジプトがサウジにティーラーン島を引き渡したことでエジプト国民の間に強い反サウジ感情が生じるなど(中略)、ここ数カ月はぎくしゃくとした関係が続いている。
 
もっとも、石油供給の停止がこうした政治的な動機に基づくものなのかは未だ不明である。上述のとおり、石油製品が未到着であることは10月9日の時点で明らかにされており、10月8日の国連安保理でのエジプトの投票行動が直接的なきっかけになっているとは考えづらい。

また、停止措置が一時的なものであるのか、あるいは今後も継続されていくのかも定かではない。

供給過剰が続いている石油市場ではエジプトが新たな石油供給元を探すことも難しくないが、サウジとの契約より条件は悪くなることが予想される。深刻な外貨不足に悩むエジプトがどのような決断をするかが今後の焦点となろう。【10月13日 中東調査会「中東かわら版」】
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“供給過剰が続いている石油市場ではエジプトが新たな石油供給元を探すことも難しくないが”とは言っても、金欠状態のエジプトにとっては大きな負担となるでしょう。

サウジアラビアの石油供給停止の原因は、上記記事にもあるように、エジプトが安保理にけるシリア問題に関間するロシア提案(空爆停止の具体的な方策には触れずに、停戦を呼びかける案)に賛同したことへの報復・・・というのは、時間的にみて考えにくいところですが、エジプトのロシア案賛成(シリア・アサド政権を支持し空爆を行っているロシアに、反体制派支持のサウジアラビアは強く反対)と、サウジアラビアの石油供給停止は、ともに両国の最近のギクシャクした関係の反映ではあるでしょう。

そして、おそらくそうしたギクシャクした関係には、エジプト側の外貨不足といった経済的要因も絡んでいるのではないでしょうか。

ロシアとの接近 イランとの協議は・・・・
シリアを舞台に中東での存在感を高めたロシアは、周辺国との関係強化を進めています。エジプトとも軍事演習のほか、軍事施設貸与、空軍基地建設などが報じられています。

****露軍、エジプトと演習・・・・シリア周辺国と関係強化****
エジプトのメディアによると、ロシア軍とエジプト軍は15日、エジプト北西部エル・アラメインで合同演習を行った。
 
ロシアがエジプトで軍事演習を行うのは初めて。シリア周辺国との関係を強化し、シリア紛争をロシアにとって有利な形で収拾する狙いがあるとみられる。
 
エジプト軍によると、演習は12日間。露日刊紙イズベスチヤ(10日付)によると、ロシアはエジプト北部シディ・バラーニの軍事施設を賃借し、空軍基地を建設する交渉も進めている。カイロの軍事・外交専門家のサミール・ガタース氏は「シリア問題などで支援を得る狙いだ」と指摘する。
 
エジプトはロシアに接近する一方、友好関係にあった米国とは距離を置き始めている。オバマ米政権が、エジプトのシシ政権による人権弾圧に批判を強めたためだ。

ロシアは今月、シリア情勢の沈静化を求めたフランス主導の国連安全保障理事会決議案に対抗する形で、独自の決議案を提出した。日米などは反対したが、エジプトは賛成した。【10月15日 読売】
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オバマ米政権の人権弾圧批判は、アジアでは“話題の”フィリピン・ドゥテルテ政権や汚職疑惑のマレーシア・ナジブ政権との関係を悪化させていますが、エジプト・シシ政権との関係も同様です。
ただ、人権問題に対する対応というのは基本的価値観の問題であり、一時的外交関係より優先するものだと個人的には考えています。

サウジアラビアから石油供給を停止されたエジプトは、当然ロシアとも協議するのでしょうが、ロシアにその余力があるのか?

エジプトはイランとも協議したい動きをみせていましたが、これはイランの宿敵サウジアラビアのご機嫌を更に損ねたようです。

****エジプトの石油問題****
・・・・エジプトの石油大臣は7日アブダビ(石油関係の会議に出席)で、アラムコから「通告があるまでは石油の供給を止める」との通告があったことを確認した由。

また6日には石油省報道官が、大臣は(アブダビ経由で)イランに赴き、イランからの石油の供給に関する合意に署名すると語っていたことを否定し、自分はアブダビの会議に出席のために来たのであって、イランに行くことはないと語った由。(中略)

どうも良く解らない話で、単純に考えれば、いつもの通りのエジプトのお役所仕事で、大臣と部下の意思疎通が悪かったのか、ということになりそうですが、ちょうどこのころエジプトポンドのフロートの決定がされており、どうもこの話にはより多くの裏があるような気がします。

一番あり得るのは、ここまでエジプト経済が悪化し、外貨危機に見舞われると、外交政策等で格好をつける余裕もなくなったところに、一番の金づるのサウディから、石油大臣がイランに行くのなら、今後は経済支援もイランに頼ったらどうだ、とのシグナル(サウディン国営石油会社アラムコから、通知のあるまでは原油供給停止との通告)があり、エジプトとしてはサウディの脅しに屈したというシナリオです。

その他、勿論価格やその他の条件でイランと折り合わなかったとか、イランが政治的系条件を付けてきたとか、種々のシナリオが考えられますが、どうも単純に商業上の問題ではなさそうです。【11月7日 「中東の窓」】
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根本的解決は手に負えそうにないシシ政権
変動相場制移行に伴う通過の大幅切り下げにしても、石油供給停止にしても、日本的感覚からすれば経済を大混乱させる一大問題ですが、エジプトにとってはそうなのでしょうか?

シシ大統領は、こうした問題からの物価上昇圧力を補助金でかわそうとしているようですが、その補助金もIMFから削減を求められて条件のひとつであり、あまり根本的な対策に乗り出す構えはなさそうです。

****エジプト情勢****
エジプトに関してニュースを2つほど・・・・一つは電力の価格ですが、シーシ大統領は7日電力大臣と会談し、その場で大臣は、最近のエジプト通貨のフロートで、燃料価格が値上がりしており、このままの状況を続ければ、電力料金に対する補助金が大幅に増えざるを得ないとの報告書を提出した由。

これに対して、シーシはエジプトの諸民にこれ以上の経済的負担を背負わせる訳にはいかないとして、電力料金の値上げを認めず、必要な補助金等については政府が何とか工面するように指示した由

(通貨のフロートともに、ガソリン等燃料の価格は挙げられており、当然このままでは電力料金に反映せざるを得ないところ、シーシ大統領としては国民の反発に鑑み、取りあえず電力料金は据え置くこととした模様。しかし、こんな首尾一貫しない政策がいつまで持つでしょうかね?)(後略)【11月8日 「中東の窓」】
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前回9月9日ブログでも触れたように、“エジプトは殆ど石油を産出しないのに、(一説によると)世界で2番目にガソリン価格が安いのです。この激安価格の秘密が、補助金制度にあるのです。”【飯山陽氏 「どこまでもエジプト」http://nouranoiitaihoudai.blog.fc2.com/blog-entry-53.html】とのことです。

こうした事態に関する「ムバラク以上に圧制的かつモルシ並みに無能だ」とのシシ大統領の責任については、やはり前回ブログ触れたところです。

*****エジプトの不幸******
・・・・勿論、エジプトの経済的困難は、政権の制御外の石油価格の低下、戦争とテロによる観光客の激減、アラブ社会主義の残滓や軍のビジネス利権等にも原因があるが、シシが事態を一層悪くしている。

彼はインフレや暴動の誘発を避けようと、エジプト・ポンド防衛に固執したが、資本規制はドルの闇市場の出現を防げず、結局インフレを煽り、工業を駄目にし、投資家を怖がらせてしまった。
 
また、スエズ運河を擁するエジプトは、商業的に非常に有利なはずだが、拡張したスエズ運河はかえって収入が減り、砂漠にドバイ級の都市を創る計画も挫折した。(後略)【9月9日 WEDGE】
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しかし、IMF流の経済改革にエジプトが耐えられるのか?という問題があります。

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・・・・また、貧困・中流層が大半を占める9000万人の国民が抵抗するとみられるさまざまな措置も講じる必要がある。
 
エジプトはIMFと予備的な融資契約を交わした際、公的債務の削減や付加価値税(VAT)の導入、エネルギー補助金の削減、変動為替相場制への移行にも同意している。
 
スタンダートチャータード銀行の中東・北アフリカ・パキスタン担当シニアエコノミスト、ビラル・カーン氏は「これらの措置は改革の政治的コストを著しく引き上げるだろう」とし、「したがって、エジプトの社会経済状況は改善する前に悪化するとみている」と述べた。
 
ポンド下落や補助金削減、税制改革はインフレや金利上昇の可能性をもたらすリスクがある。そうなれば、エジプトの借り入れコストが増加し、ただでさえ経済再建に苦しむエジプトにとって一段と負担が重くなる。(後略)【8月31日 WSJ】
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シシ大統領の手には負えそうにありませんが、指導者が変わったからといって解決する問題でもありません。
国民の理解が不可欠ですが、今のエジプトにそれを求めるのも・・・。

なかなか出口が見えないエジプトです。海外からの観光客が戻れば一息つけるのでしょうが、それも今後の治安次第です。私も個人的に、来年あたりまたエジプト観光に行こうか・・・とも思ったりはしていますが。

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