【5月21日 朝日】
【「ニカラグア運河」に続き、「南米大陸横断鉄道」】
中国とブラジル、ペルーが、南米大陸の大西洋岸から太平洋岸までを結ぶ南米横断鉄道の建設計画に向けて検討を始めることで合意しました。
建設費は中国が拠出するとみられており、建設工事も中国企業が主導する可能性が高いとも報じられています。
この南米大陸横断鉄道が実現できれば、アメリカが影響力を持つパナマ運河を中心とした現在の物流に影響を与え、南米での中国の存在感がさらに高まることが予想されています。【5月21日 朝日より】
****南米大陸横断鉄道、実現性検討で合意 中国首相、ペルー大統領との会談で ブラジルとは既に合意****
南米ペルーを訪問した中国の李克強首相は22日、ウマラ大統領と会談した。両国はブラジルとペルーを結ぶ南米大陸横断鉄道の実現性について、検討を始めることで合意した。ロイター通信などが報じた。
鉄道は、ブラジル・リオデジャネイロの大西洋岸から、内陸部を通りアンデス山脈を通り抜け、ペルーの太平洋岸まで敷設される計画といい、総延長は約5300キロに及ぶとされる。ウマラ氏は「ブラジル、中国、ペルーの経済関係を強固にする」と表明した。
李氏は今月19日、ブラジルを訪問し、ルセフ大統領と横断鉄道の実現性を検討することについて、すでに合意しており、今後3カ国による本格的な研究が進められる。
中国は南米での影響力を誇示することによって、対米圧力を強める狙いがある。資源大国ブラジルとの直接貿易を進める上で、実質上、米国の影響下にあるとされるパナマ運河を使わずに、太平洋間で直接貿易ができるルートを構築したい意向だ。
経済の低迷や汚職で内政的な問題を抱えるブラジルは、中国との経済的なつながりを強化したい。ペルーもブラジルとの物流が加速し、中国経由でアジア諸国とのつながりができることを期待しており、3カ国の利害は一致している。【5月23日 産経】
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“米国の影響下にあるとされるパナマ運河を使わずに、太平洋間で直接貿易ができるルート”という点では、中国はすでに昨年12月、中米ニカラグアで太平洋とカリブ海を結ぶ「ニカラグア運河」建設に着手しています。
完成は2019年が予定されていますが、全長は約278キロでパナマ運河の3.5倍、総工費は500億ドル(6兆円)にも達するとされています。
なお、中国の通信会社、信威通信産業集団の王靖会長が香港に設立した香港ニカラグア運河開発投資(HKND)が建設にあたっており、中国政府は計画への関与を否定しています。しかし、これだけの大規模事業ですから、いずれ中国政府が乗り出してくる・・・とも見られています。
当然ながら、南米大陸横断鉄道にしても、ニカラグア運河にしても、環境破壊、工事の困難さ、巨額の資金、住民とのトラブル・・・等々の多くのハードルが存在し、実現を疑問視する向きもあります。
【“裏庭”でのアメリカとの綱引き 競い合わせる受入国】
中南米は地政学的に“アメリカの裏庭”とも言われる地域ですが、この“裏庭”に中国が踏み込む形で、アメリカ・中国の影響力をめぐる綱引きが行われています。
****米の影響力低下にらみ****
中国の中南米進出を促進した要因の一つは、1990年代以降に反米左派政権が台頭し、この地域で覇権を誇った米国の影響力が急速に低下したことだ。
中国は今年1月、中南米・カリブ地域の33カ国で構成される中南米カリブ海諸国共同体(CELAC)との閣僚級会合を北京で開催。中国の習近平国家主席はその場で、今後10年間に中南米地域に2500億ドルを投資する方針だと表明していた。
習主席は3月、自らが提唱する「一帯一路(海と陸のシルクロード経済圏)」構想について、「五大陸の友人」に参加を呼びかけた。ブラジルは、新興5カ国(BRICS=ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が共同で設立した国際金融機関「新開発銀行」の出資者でもあり、中国にとって南米大陸での協力関係の核だ。
(ブラジルを訪問した)李克強首相は共同記者会見で、「中国はインフラ建設の経験が豊富だ。優位で余裕のある生産能力も有している」と言明。
米国の「裏庭」である中南米で影響力拡大を図る背景に、インフラ関連の国有企業が海外市場に活路を見いだそうとしていることがあることを示した。
一方、米国は昨年末、地域の反米左派政権の精神的支柱であるキューバと国交回復交渉を開始。同国との関係改善をてこに、中南米で拡大する親中路線を親米に引き戻そうとしている。
こうした状況の中、中南米各国は米中の競争に乗じ、両国から資本を引き出したいと考えている。
中南米が今後どちらに傾くのか、その指標となるのがキューバの動向だ。
半世紀にわたる米国の経済制裁を受けたキューバの貿易相手はこれまで、キューバと商取引した第三国に米国が科す罰則を恐れない国に限定されてきた。そのため、冷戦終結まではソ連、近年は輸出入の50%以上をベネズエラと中国に依存する偏重が生じた。
キューバは米国との国交正常化方針を発表した直後の今年1月、東部サンティアゴデクーバで中国資本による港湾工事を開始した。カリブ海の中心にコンテナ物流基地と工業団地を造る計画で、2016年完成予定のパナマ第2運河と、19年完成予定のニカラグア運河による物流増加を見越した動きだ。
中国からの融資でインフラ整備と資源開発をし、生産力を上げて米国の市場にも売り込む。こうしたキューバ流の外交術と外資運用法が今後、中南米の主流になるとみられる。【5月20日 毎日】
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そのキューバはアメリカと21、22の両日、ワシントン市内の国務省で第4回国交正常化交渉を行い、大使館を開設・国交回復の日程合意までには至らなかったものの、相互の大使館開設に向けて協議の継続を決め、着々と関係改善を進めています。
中国との関係では、やや後退した動きもありました。
****米キューバ接近で中国誤算「古い兄弟」すきま風****
キューバが昨年後半、いったん合意した中国海軍艦艇の常駐を撤回したことで、同じ社会主義国として「古い兄弟」と呼ばれる中国とキューバの間にすきま風が吹き始めた。
キューバは昨年末、米国との国交正常化交渉開始で合意しており、米国の「裏庭」で存在感を高めたい中国にとっては、誤算となっている。
「結局、信用できるのはパキスタンだけなのか」
中国軍関係筋によると、中国の 習近平 ( シージンピン )国家主席は、キューバから艦艇常駐撤回の通告を受けた際、南アジアの伝統的友好国であるパキスタンを引き合いに出して落胆を隠さなかったという。
新華社電によると、中国海軍は2009、13年の2度にわたり、「軍交流」名目でフリゲート艦など艦隊をブラジルやペルー、チリなどに派遣。11年10月には海軍の医療船がキューバの首都ハバナに初めて寄港するなど、中南米地域での影響力拡大を図ってきた。
中国はキューバにミサイル駆逐艦を常駐させようとしていた。実現すれば、作戦能力を持つ艦艇が初めてカリブ海に入ることになり、中国軍の海外展開戦略で大きな前進となるはずだった。【5月20日 読売】
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「一帯一路」などで中国の支援を受け入れる国々も、キューバや中南米諸国に限らず、アメリカやロシア・インドといった中国と競合する国も念頭に置いて、競い合わせる形で最大限の利益を引き出そうとします。
【中国の影響力拡大という「不都合な真実」】
中国の中南米への進出や「一帯一路」については、当然に様々な問題が存在しており、必ずしも中国の思惑どおりに進むものではありません。そうした問題点を指摘する記事なども山ほどあります。
しかし、そうであるにしても、中国の国際社会における影響力拡大の流れは今後強まることはあっても、とどまることはないのではないか・・・・と感じざるを得ません。
実現可能かどうかは別にしても、「一帯一路」という壮大な大風呂敷をアジアで広げながら、アメリカの裏庭でもニカラグア運河や大陸横断鉄道を打ち上げる勢いは感嘆すべきものがあります。
南シナ海でアメリカは中国の勢力拡大を阻止する方向で動いてはいますが、大きな流れで見ると、10年後・20年後は中国は世界を動かすひとつの大きな軸になるとことが想像されます。
日本は、その中国が巻き起こす渦の一番近いところに位置しています。
いささか“オオカミ少年”のようにも思える「中国は崩壊する」的な期待・願望にしがみつくのではなく、勢いを強める中国、少子高齢化で伸びしろが少ない日本という「不都合な真実」に正面から目を向けて、進むべき道を検討する必要があります。
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