孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア石油精製施設へのウクライナのドローン攻撃で露呈するウクライナとアメリカの立場の違い

2024-03-23 23:46:45 | 欧州情勢

(米国はウクライナに対し、無人機(ドローン)によるロシアのエネルギーインフラへの攻撃を中止するよう促した。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が22日、関係筋の話として伝えた。写真は無人機攻撃を受けたロシア・リャザン州の製油所。【3月22日 ロイター】)

【ロシア産原油の上限価格設定 ロシアに大きな減収をもたらしている・・・とアメリカは評価】
ウクライナに侵攻したロシアへの欧米による制裁が行われていますが、ロシアの2023年のGDP成長率は前年比3.6%増(2022年は1.2%減)ということで、制裁が効果をあげておらず、ロシア経済が持ち直しているのではないか・・・との指摘もあります。

ロシアに対する最大の制裁である石油取引についてみると、EUはロシア産石油製品の全面禁輸を2023年2月5日に発効しました。しかし、それだけでは制裁に参加していない国に振り向けられるだけということにもなり、あまり効果的ではありません。

****ロシア石油製品、EUの禁輸措置発効後は主にアジアに振り向け*****
EU(欧州連合)によるロシア産石油製品の全面禁輸が2月5日に発効したが、ロシア産燃料油や減圧軽油(VGO)の大部分はすでに主にアジアに振り向けられていることが分かった。業界筋やリフィニティブのデータで明らかになった。

1月には、ロシア産石油製品のEU向け輸出は5%以下となっていた。ある業界筋は「言うまでもないが、残りの部分を他の目的地に仕向けるのは簡単だ」と指摘した。

EUは6カ月前からロシア産燃料油輸入の一部制限を開始し、5日からは全面禁止となった。主要7カ国(G7)もロシア産石油製品の価格に上限を課している。

このため、余剰分をアジアや中東に迂回させるなどするケースが増加しているという。
リフィニティブのデータによると、昨年はロシア産燃料油・VGOの大部分がシンガポール、マレーシア、中国、アラブ首長国連邦、トルコ、セネガル、韓国へ振り向けられた。【2023年2月7日 ロイター】
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そこで、制裁に参加していない国との取引についても価格を抑制することでロシアの収入を減らし、結果的にロシアの戦争遂行能力を削いでいこうというのがG7が導入したロシア産原油に価格上限を設ける経済制裁です。

ロシア産原油の上限を超える取引については、海運・保険サービスを提供しないようにする措置ですが、巨額な船舶の損害賠償にも対応できる船主責任保険について、世界の市場シェアをほとんど握っているのが欧米諸国の会社であるというところがミソです。

これによって、制裁に参加せずロシアと石油取引を行う国も、その上限価格範囲内でないと海運・保険サービスが利用できないので、結果的にロシア産原油の取引価格は上限で抑えられる・・・輸入国にとっても安い方がいいので、ロシア産原油を買い叩くインセンティブになる・・・という方法。

しかも、ロシアをあまり追い込みすぎると、ロシアは減産して価格高騰を狙いかねない・・・というように世界の原油市場が混乱するので、そこまではロシアを追い込まないあたりの上限価格に調整するという賢い方法です。

その価格が1バレル=60ドル。

****G7サミットに合わせ米財務省がロシア産原油輸出価格上限設定の効果に関する報告書を発表****
米財務省は、「ロシア産原油輸出価格上限設定」の効果をポジティブに評価

米国財務省は5月18日に、G7広島サミットの開催に合わせて先進国が導入した対ロシア制裁措置、「ロシア産原油輸出価格上限設定」に関する報告書(The Price Cap on Russian Oil: A Progress Report)を発表した。同措置は、ちょうど1年前のG7サミットで議論が始まり、半年前の昨年12月に導入されたものだ。

G7、欧州連合(EU)、オーストラリアなどは昨年12月に、海上輸送されるロシア産ウラル原油に上限価格を設定する制裁措置を導入した。その際、ロシア産ウラル原油の上限価格は、1バレル60ドルに設定された。さらに今年2月には、ガソリンなどの石油製品にも同様に1バレル45ドルの上限価格が設定された。この措置を受けて、ロシア産原油価格は大きく下落したのである。

先進各国は、今まで講じられてきた対ロシア経済制裁措置が、ロシアの戦争継続能力を低下させることに十分な効果を発揮していないことに不満を抱いている。迂回貿易などを通じて、制裁の効果が減じられているからだ。

他方、このロシア産原油輸出価格上限設定については、ロシア産原油価格の下落を通じて、ロシアの財政収入を大きく減らすなど、期待された効果が発揮されていると言える。自画自賛的な側面があることは否めないが、同報告書はロシア産原油輸出価格上限設定の効果について、非常にポジティブな評価をしている。

ロシア産ウラル原油の価格は国際基準となるブレント原油よりも3割安に
ウクライナ侵攻後、2022年春に世界の原油スポット価格は1バレル当たり140ドル超にまで上昇した。そのもとでロシアは、原油の輸出で1バレル当たり100ドル以上の法外な利益を上げていた。

しかしその後、世界経済の減速懸念などから原油価格が全体に低下し、さらに輸出価格上限措置が出されたことを受けて、ロシア産ウラル原油の価格は大きく下落した。国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、輸出価格上限措置以降、ロシア産ウラル原油の平均価格は月間ベースで1バレル当たり60ドルを下回っている。

ウクライナ侵攻前には、ロシア産ウラル原油の価格は、国際基準となるブレント原油の価格よりもわずか1バレル当たり数ドル低い水準だった。ところがこの数週間は、1バレル当たり25~35ドルも低い水準となっている。輸出価格上限措置によって、輸入国側が値引き販売をロシア側に要求していることの影響が大きい。ロシア財務省によると、ウラル原油の4月の平均価格は1バレル約59ドルと、北海ブレントに比べて3割安い。

ロシア政府の歳入に占める石油収入の割合は23%まで低下
原油価格が大きく下落する中、それによる収入減を補うために、ロシアは原油輸出量を拡大させている。IEAによれば、ロシアの4月の原油と石油製品の輸出量は、ウクライナ侵攻後で最も多い日量830万バレルを記録した。欧州向け輸出は大きく減少する一方で、中国やインドへの輸出量が増えている。

しかし、数量の増加で価格の下落を補うことはできていない。そのため、ロシアが原油輸出から得る収入は大きく減っているのである。

これは、ロシア経済とロシアの財政に大きな打撃を与えている。報告書によると、ウクライナ侵攻前に、ロシア政府の歳入に占める石油収入の割合は30〜35%であったが、今年は23%まで下がっている。

先進国は、ロシアの原油輸出量をさらに減少させるような追加制裁措置を打ち出せば、需給ひっ迫から世界の原油価格は高騰し、先進国やその他の国の経済に大きな打撃を与えることを警戒していた。

そこで、ロシア産ウラル原油の輸出価格を低下させる一方、ロシアの原油輸出量は減らさずに、世界的な原油価格高騰を避け、ロシア経済、財政に打撃を与えてロシアの戦争継続能力を削ぐという離れ技に先進国は取り組んだのである。

そこで考え出されたのが、ロシア産ウラル原油価格の上限設定措置であり、当初期待された効果を上げていると言えるだろう。それによって、昨年末以降のロシアの財政環境はにわかに厳しさを増しているのである。(後略)【2023年5月23日 木内登英氏 NRI】
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****G7のロシア産原油価格上限は引き続き効果発揮=米財務省高官*****
米財務省のバンノストランド次官補代理(経済政策)は3日、ロシア産原油の輸出価格に上限を設けた主要7カ国(G7)の取り組みについて、ロシアの収入を圧迫するとともにエネルギー市場の安定化に効果を発揮し続けているとの見方を示した。

バンノストランド氏は「われわれのアプローチはロシアの最も重要な収入源の中核部分に打撃を与えている。戦争前の時点でロシアの石油収入は国家総予算の約33%を占めていたが、今年になって25%まで低下した」と述べた。

G7と欧州連合(EU)、オーストラリアは、ウクライナに侵攻したロシアに対する制裁の一環として海上輸送されるロシア産原油に1バレル=60ドルの上限を設け、西側企業に対してこの価格を超える取引に輸送や金融、保険といったサービスを提供するのを禁じている。

バンノストランド氏は、ロシアのデータを挙げて同国政府の今年前半の石油収入は前年比で50%近く減少しており、販売価格は北海ブレントを大幅に下回っていると指摘し、報告されているウラル原油の販売価格は最近上昇してきたものの、今のところ平均で上限の60ドル近辺で推移していると説明した。【2023年8月4日 ロイター】
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ただ、石油取引がなくなった訳ではないので、ロシアの2023年の原油輸出による収入額は1120億ドルと推測もされています。約16~17兆円。巨額です。
しかし、上限設定がなされていなかったら、これが1500億ドルほどにもなっただろうと。つまり約25%、6兆円弱の減収となっているということです。

この規制をかいくぐるような「制裁のがれ」、そこへの欧米側の対応といった話もありますが、それは別にして、欧米としてはこの上限価格措置を評価しています。

【ウクライナは「1バレル30=ドル」を要求 アメリカは応じないだろうとロシアの見立て】
しかし、上記のようにロシアに巨額の収入をもたらし続けていることも事実です。
欧米としては、これ以上やるとロシアは石油を減産して国際価格が暴騰することにもなるので、このあたりで・・・という話ですが、ロシアの攻撃に曝されているウクライナからすれば「生ぬるい」ということにもなります。

ウクライナは今の上限価格「1バレル=60ドル」を「1バレル=30ドル」に引き下げるように求めています。
しかし、上記のような理由でアメリカは応じないだろう・・・というのがロシアの余裕の見立て。

*****ロシア産原油の上限価格引き下げ、米国は支持せず=ラブロフ氏****
ロシアのラブロフ外相は21日、西側諸国がロシア産原油に設定した上限価格を1バレル=30ドルに引き下げる案を米国が支持する可能性は低いとの見方を示した。

主要7カ国(G7)などはロシアに対する制裁措置として、2022年に同国産の原油価格の上限を1バレル=60ドルに設定した。

ラブロフ氏は、これを30ドルに引き下げるようウクライナが米国に要請しているもようだが「限度を超えている」とインタビューで述べた。

「米国がウクライナに同調する可能性が低いことは重要だ」とし、そのような上限価格引き下げが現実のものとなれば世界の石油市場と米経済に深刻な影響を与えると主張した。

また石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の主要な産油国で構成する「OPECプラス」の供給は中国とインドが吸収できると述べた。【3月21日 ロイター】
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欧米(日本も)はウクライナ支援にはやぶさかではないが、石油市場が大混乱に陥り、自国経済がダメージを受けるような事態は避けたい・・・というのが本音。

【ウクライナによるロシア石油精製施設への攻撃でも、ウクライナとアメリカで立場の違い露呈】
同じようなアメリカとウクライナのロシア産石油に関する「立場」の違いは、ウクライナによるロシア石油精製施設への攻撃についても露呈しています。

アメリカがロシアの石油生産・取引を止めないなら、ウクライナとしては自力で・・・

ロシアの石油精製施設への攻撃を強めるウクライナに対し、アメリカは混乱を招くと中止を要請。一方、ウクライナは「自らの能力や資源で戦っている」と反論。

****ロシア石油日量60万バレル停止か ウクライナの無人機攻撃****
米ブルームバーグ通信は18日、石油取引大手グンボルの推定として、ウクライナ軍の無人機攻撃により、日量約60万バレルのロシアの石油精製能力が稼働停止に追い込まれたと報じた。ウクライナは最近、ロシア経済に打撃を与えようと、燃料関連施設への攻撃を強めている。

ロシアのシュリギノフ・エネルギー相は20日、今年の製油量は前年並みを維持すると主張した。各地の製油所での事件を受け、定期修理の日程を調整し安定供給を図ると記者団に述べた。(後略)【3月21日 共同】
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****ロシア石油施設攻撃に中止要請 米、価格高騰・報復の危険警告****
英紙フィナンシャル・タイムズ電子版は22日、ロシア国内の石油施設への攻撃を強めるウクライナに対し、バイデン米政権がエネルギー関連インフラへの攻撃をやめるよう求めたと報じた。原油価格高騰やロシアによる報復を誘発する危険があると警告した。

ガソリン価格の上昇は、米大統領選でバイデン大統領の弱点となり得る。要請はウクライナ国防省情報総局などの高官に伝えられた。米国家安全保障会議の報道担当者は「われわれはロシア国内への攻撃を奨励していない」と述べた。

ウクライナのステファニシナ副首相は22日、「要請は理解できるが、私たちは自らの能力や資源で戦っている」と主張した。【3月23日 共同】
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“ウクライナがロシアのエネルギーインフラへの攻撃を始めた12日以降、石油価格は4%近く上昇している。米国でガソリン価格がさらに上昇すれば再選を目指すバイデン大統領に打撃となる。”【3月22日 ロイター】

ウクライナからすれば「原油価格高騰? はあ? それが何!。 こっちはロシアの爆弾にさらされているんだよ!」といったところでしょうが、車社会アメリカにあって、バイデン大統領にとってはガソリン価格高騰はトランプ云々、民主主義云々など吹き飛ばす再選戦略にとっての致命傷になりかねません。

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