孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  自由を求める動きと規制する動きのせめぎあい 核開発問題交渉は未だ大きな溝

2014-05-22 22:18:09 | イラン

(問題となった、「Happy」に合わせて踊る男女の映像 動画はhttp://www.huffingtonpost.jp/2014/05/21/iranians-arrested-dancing-happy-pharrell_n_5369606.htmlで観られます。 【5月22日 Yasmine Hafiz  The Huffington Post】)

穏健派ロウハニ大統領のもとで個人の自由を求める動きも
イランは保守穏健派のロウハニ大統領のもとで、経済制裁の緩和を目指して欧米との核開発問題交渉を行っています。

ロウハニ大統領は個人の自由については比較的寛容な立場ですが、早期の経済回復を求める国民の声は強く、制裁解除で成果を出せないと国内政治において苦しい状況に追い込まれると思われます。
(5月14日ブログ 「イラン核開発問題 最終合意に向けた包括交渉がスタート」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140514

厳格な宗教国家、極端な反米国家のイメージも強いイランですが、若者や女性を中心に、欧米的価値観にも近い個人の自由や政治の民主化を求める人々も多く存在しています。

しかし、穏健路線のロウハニ政権が力を失い、保守強硬派が再び台頭すれば、そうした自由・民主化を求める声も封じ込まれてしまいます。

****穏健化するイラン 「神政国家」化するイスラエル****
米スタンフォード大学フーバー研究所イラン研究部長のアッバス・ミラニと、イスラエルのハイファ大学講師イスラエル・ワイスメル=マノ―ルが、4月11日ニューヨークタイムズ紙で、イランが世俗化、穏健化する一方、イスラエルは宗教右派が台頭し、神政国家化しつつある、と論じています。

すなわち、イスラエルとイランには共通点が多い。アラブ地域での非アラブ国であり、1950年代には、ベングリオンもシャーも世俗的民族主義の代表であった。1979年のイラン革命はイランの世俗主義を排除した。世俗主義はイスラエルでは今脅威にさらされている。

イランとイスラエルは外部世界、特に米国との関係で新しい段階に入っている。7年間にわたる国連安保理の制裁を経て、イランの高官は制裁が経済の破局につながると理解してきている。(中略)

石油のおかげで、イランの宗教的指導者は政権の座に居られたが、制裁は効果を挙げた。国民はアフマディネジャドに飽き、経済や西側との関係改善を掲げるロウハ二を選んだ。

ロウハ二の台頭は、文化や人口構成の変化の結果でもある。イランのエリートは年老いた男性であるが、女性は「ジェンダー・アパルトヘイト」政策にもかかわらず、多方面で活躍している。

インテリや芸術家は人民主権を主張し、人権や宗教的寛容は反イスラムと言う議論を受け入れていない。人口の60%以上が30歳以下で、個人的自由を信じている。

ハメネイが非イスラムの「文化侵略」がもっとも心配と言うはずである。(後略)【5月21日 WEDGE】
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宗教的抑圧・強制と個人の自由の関係を、目に見える一番分かりやすい形で示すのが、イスラム法によって着用が求められている女性のスカーフ(ヒジャブ)の扱いです。

****イスラムのスカーフ脱ぎ捨てたイラン女性たち、ネットに写真続々****
厳格なイスラム教国家イランの女性たちが、国の服装規定で公の場での着用を義務付けられている頭髪を覆うスカーフ「ヒジャブ」を脱ぎ捨てた写真を次々と、交流サイト最大手のフェイスブック(Facebook)に投稿している。

イランの女性の自由を求めるオンラインキャンペーンに共感した女性たちだ。

ヒジャブを身に付けるかどうかを女性が自分で決める権利について議論を促すことを目指し、今月3日に立ち上げられたフェイスブック上のキャンペーン「Stealthy Freedoms of Women in Iran(人目を盗んだイラン女性たちの自由)」には、立ち上げからわずか10日で14万6000人のユーザーの「いいね!」を集めた。

イラン政府は、欧米文化がイラン人の生活スタイルに浸透する中でイスラムの価値が低下することを警戒しており、女性に対して公の場では髪を覆い、体の線が出ない服装をするよう厳しく取り締まっている。
ヒジャブは1979年のイラン革命以降、イランのイスラム法(シャリーア)解釈の象徴となっている。

キャンペーンサイトには、ヒジャブを外した姿でポーズを取る若い女性たちの写真が100枚以上、投稿された。撮影場所は、田園地帯や郊外、海辺から市街地まで、さまざまだ。

ある女性は人けのない通りの真ん中で、ヒジャブを肩にかけて写真を撮影。「これは、罪を犯している私。こっそりやらなければならないけれど、完璧な安らぎに包まれている」とコメントと共に投稿した。

娘、母、祖母の3人が一緒に写った別の写真には、「3世代が道の片隅で自由を味わっている」「次の世代が最も基本的な権利を行使できる日が来ることを願って」とのコメントが添えられている。

ヒジャブをめぐる論争はこの10年間、強硬なイラン政府当局と自由の幅を広げようと試みる一般イラン女性たちとの間で繰り返されてきた。服装規定を守らない女性に対しては、宗教警察が罰金を課したり口頭警告を行ったりするほか、身柄拘束に至る事例もある。

報道によると、2013年8月に就任したハサン・ロウハニ大統領は宗教警察に対し、規制緩和を命じたという。
しかし保守層はこれに反発しており、首都テヘランでは16日、ヒジャブ着用を厳格に取り締まるよう政府に求める1000人規模のデモが行われた。【5月19日 AFP】
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保守的な宗教勢力による規制維持も
上記のようなヒジャブ着強制に抵抗する声があがる一方で、保守的立場からの封じ込めも行われています。
イランの警察当局は、アメリカの人気歌手の曲に合わせてヒジャブを着用せずに踊る映像を動画サイト「ユーチューブ」に投稿したとして、男女6人を拘束しました。

警察は拘束理由を「無許可で、公共の道徳に反する動画を投稿した」などとしています。
なお、イランではユーチューブへのアクセスも禁じられています。【5月21日 毎日より】

****イランで顔出し「Happy」踊った若者たちが逮捕****
ソーシャルメディアで広く共有された動画が問題になり、7人または8人のイランに住む若者が、テヘランで逮捕された。

この動画は、ファレル・ウィリアムスのヒット曲「Happy」に合わせて、男女が踊っているもの。女性3人が、ヒジャブ(女性の頭髪を隠す布)を着用していなかったことなどが問題になった。

この動画は、削除されるまでに3万人以上が閲覧した。逮捕のニュースが広まると、ただちにコピーが再アップロードされ、Twitterのハッシュタグ「#FreeHappyIranians」とともに情報が拡散された。

1979年のイスラム革命以降、イランを支配してきた保守的な宗教勢力は、この動画を検閲すべき対象と見なした。
アメリカ「ABC」の報道によると、テヘラン警察のHossein Sajedinia署長は、国営のISNA(イラン学生通信)に対して次のように述べた。

「高潔なイラン国民を傷付ける下品なビデオがインターネットで公開された後、警察はこのビデオの制作に関与した者たちを特定すべきと判断した」

署長は国営テレビにこう語っている。「わが国の大事な若者たちは、こういった種類の人々を避けるべきだ。俳優や歌手、そしてこうした問題を避けるように努めてほしい」

ビデオの制作者は、逮捕の3週間前に、イランの英語サイト「Iran Wire」に対して制作意図を語っている。
それによれば彼らは、国連の国際幸福デー(3月20日)を記念して、このビデオを作ったという。

出演者のひとりでもあるネダさんは、「イランの首都にも、元気で明るい若者が大勢いることを世界に伝え、世界の人々がニュースを見て感じている、厳格で乱暴なイメージを変えたかったのです」と述べた。

イランでは政治的緊張が高まっている。
2013年8月から任期についたハサン・ロウハニ大統領は、国内におけるより広範な自由を擁護しようとしているが、イランには、行政・司法・立法の三権の上に立つ最高指導者が存在し、軍や警察、治安機関等も管轄しているからだ(現在の最高指導者は、前大統領であるアヤトラ・アリ・ハメネイ師。終身制で任期はない)。

現在のイランでは、女性がヒジャブなどを着用せずに公共の場所に出ることは法律違反になる。
だが、1979年のイラン革命以前には、イラン人の間でもヒジャブはそれほど一般的ではなかった。

フェイスブックページ「My Stealthy Freedom」(わたしの隠れた自由)は、警察に見られるおそれのない場所でヒジャブを外し、個人的な抗議活動を行う多くの女性たちを紹介している。

ネダさんはIran Wireに対し、ビデオに登場する若い女性たちは、法律に反しないようにウィッグで髪を覆っていたと語っている。

なお、「#FreeHappyIranians」ハッシュタグを始めたイランのラジオホスト、カンビズ・ホセイニ氏は、5月21日のツイートで、制作ディレクター以外の参加メンバーは釈放されたと述べた。

ロウハニ大統領の以下のツイートからは、メンバーの釈放には同大統領の介入があったことが伺える。
「幸福は、人々の権利だ。喜びによって引き起こされる行動について、あまりに厳しすぎることがあってはならない」【5月22日 Yasmine Hafiz   The Huffington Post】
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上記記事最後のロウハニ大統領のツイートは、欧米的価値観にも一致するものです。
ロウハニ大統領は、国民のネット利用についても寛容な姿勢を示しています。

****イラン大統領、国民のネット利用を容認する姿勢示す****
イラン国営通信(IRNA)によると、イランのロウハニ大統領は、国民のインターネット利用を認めるべきだとの考えを示し、ネット検閲強化を進める一部の保守派との違いを鮮明にした。

大統領は演説で、インターネットを規制することで権力を勝ち取ろうとすることは、銃撃戦に木刀で臨むようなものだと述べ「インターネットを機会としてとらえるべきだ。ワールド・ワイド・ウェブに国民が接続する権利をわれわれは認めなければならない」と語った。

デジタルの世界を利用せずにイランが発展することは不可能だと指摘。ネットを利用せず、学生は本を読みノートを取ることだけを徹底すべきだ、との考えには賛成できないと述べた。

大半のイラン国民は、ツイッターやフェイスブック、ユーチューブなどにアクセスできないが、比較的穏健派の同大統領が昨年就任して以来、ネット規制が幾分緩和されたと国民は指摘している。【5月21日 ロイター】
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自由化・改革を求める動きと、イスラム的規律や政治的従属を求める動きがせめぎあっているイランですが、冒頭にも触れたように、現在行われている核開発問題の交渉で穏健派ロウハニ大統領が成果を引き出せるか否かで、今後のイランの空気も変わってきます。

核開発問題協議:7月20日が最終合意の目標期限
核開発問題の交渉については、制裁解除を求めるイランが核開発を大幅に縮小する案を提示していることは前回5月14日ブログで取り上げましたが、14日から16日に行われた最終合意文書の草案作成に向けた交渉は、「建設的雰囲気だったが、具体的進展はない」(イラン外務次官)、「大きな溝が残る」(欧米外交筋)というように、具体的な進展はみられませんでした。

****イラン核協議 主要項目で大きな隔たり****
イランの核開発問題を巡る協議では、イランが核施設の遠心分離機の数を現在の4倍以上に増設することを要求しているのに対して、欧米側は逆に4分の1以下に削減するよう求めるなど主要な項目で大きな隔たりがあり、最終合意に向けて厳しい交渉が予想されます。

イランの交渉関係者は21日、NHKの取材に対して、欧米など関係6か国との最終合意に向けた核協議では7つの主要な項目で大きな相違点があると指摘しました。

このうち、国内2か所のウラン濃縮施設に設置されている遠心分離機について、イランは原発や原子力艦船に使う核燃料の確保を理由に現在の2万基から将来的に、4倍以上の9万基にまで増設する必要があると主張しています。

これに対し、欧米側は逆に、4分の1の5000基以下に削減することを要求するとともに、ウランの製造能力が従来より数倍高いとされる新型の遠心分離機の設置を拒否しているということです。

西部アラクに建設中の重水炉については、イランが設計を変更することで抽出されるプルトニウムを5分の1まで減らす妥協案を提示しましたが、欧米側は重水炉の建設自体に難色を示しているということです。

経済制裁を巡っては、イランが石油や天然ガスの輸出や銀行間取引に対する制限を即座に全面解除するよう求めているのに対し、欧米側は今後10年間をめどに、項目ごとに、段階的に解除することを提案しているということです。

イランと欧米側は、来月16日からウィーンで大詰めの協議に入りますが、主要な項目で大きな隔たりがあるため、7月20日の最終合意の目標期限が迫るなか、厳しい交渉が予想されます。【5月22日 NHK】
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もとより核兵器開発の拡散防止については、すでに核兵器を所有している国が、新たに開発しようとする国を押しとどめるという、矛盾をはらんだ極めて政治的なルールです。

すでに核兵器を保有しているとされるイスラエルは、国際的になんの制約も課されていないといった、国によって適応されるルールが全く異なるという側面もあります。

イランの核がことさらに問題とされるのは、イランがアメリカによって「ならず者国家」と見なされており、イスラエルがイランの核開発を極めて警戒しているからですが、今回交渉で成果が出せて、イラン国内で穏健派が定着できれば、その「ならず者国家」の程度も大きく変わるものと思われます。

自由と民主化を求めるイラン国内の人々の声が封殺されることにつながる結果にならないことを強く希望します。

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