孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス・マクロン大統領 台湾問題についてアメリカ追随を否定し、「われわれの危機ではない」

2023-04-11 23:08:41 | 欧州情勢

(7日、中国・広州の公園を散策する習近平国家主席とマクロン仏大統領=AP【4月8日 読売】
習近平主席としては「二日連続の異例のおもてなし」とも)

【台湾をめぐる緊張高まりに「われわれのものではない危機にとらわれれば、ワナに陥る」】
フランス人は英語が理解できても、英語の質問には答えない、フランス語でしか話さない・・・と昔から言われるように独自性の主張が強い国民性とも評されます。

国際政治においても、「ドゴール主義」と言われる、NATOにも加盟せず、アメリカとは一線を画する独自路線を主張した時代もありました。

マクロン大統領が中国を訪問して、台湾問題について「EUは米国の政策に追随すべきでない」、「われわれの危機ではない」と言い放ったことは、そうしたフランスのアメリカ追随を良しとしない自己主張の強さ改めて思い起こさせました。マクロン大統領のときに「傲慢」とも批判されるような、周囲の空気をものともしないプライドの高さも。

マクロン発言には欧州内において批判も高まっています。

****仏大統領の台湾発言が波紋 「我々の危機ではない」****
フランスのマクロン大統領が5〜7日の訪中時、米欧メディアと行ったインタビューで台湾をめぐり、欧州連合(EU)は米国の政策に追随すべきでないと主張し、「われわれの危機ではない」と位置付けたことが波紋を広げている。欧州の対中強硬派から、批判が相次いだ。

インタビューは移動の機中で行われ、仏紙レゼコー(電子版)などが9日に掲載した。マクロン氏はEUは米中対立と距離を置き、「第三極」を目指すべきだと主張。

「台湾での(緊張の)高まりに、われわれの利害はあるか。答えはノンだ。最悪なのは、米国のペースや中国の過剰反応に追随せねばならないと考えること」と訴えた。「われわれのものではない危機にとらわれれば、ワナに陥る」とも述べた。

ドイツでは、連立与党から批判が出た。ショルツ首相の社会民主党(SPD)で外交問題を担当するハクベルディ下院議員は独紙で、「中国に対し、西側が分裂するのは誤り」と強調。ロシアのウクライナ侵攻を教訓に、「強権国家におもねるべきではない」と対米連携を訴えた。

欧州各国の議員で作る「対中政策に関する列国議会連盟」(IPAC)は声明で、「台湾海峡の平和を維持するための国際社会の努力を損なった」とマクロン氏の発言を批判した。声明には英仏独のほか、スウェーデンやオランダなどの国会議員が名前を連ねた。【4月11日 産経】
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【思惑が一致したマクロン大統領と習近平主席】
そもそも、フランスは周知のように受給年齢引き揚げを伴う年金制度改正問題で大きく揺れており、議会採決を経ずに改正法案を強行採択したマクロン大統領の姿勢に反発が更に高まっています。

そんな大変な時期にどうして訪中? という疑問もありますが、そんな大変な時期だからこそ、大きな成果が欲しいのだろう・・・という指摘も。

****「苦労するフランス大統領」を印象付けるマクロン大統領の訪中****
外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が4月7日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。4月6日に北京で行われたフランスと中国の首脳会談について解説した。

フランスと中国が首脳会談
中国を訪問したフランスのマクロン大統領は4月6日、北京で習近平国家主席と会談した。マクロン大統領はロシアによるウクライナへの軍事侵略について、「ロシアに理性を取り戻させ、すべての関係者を交渉のテーブルに戻すために、あなたの役割に期待している」と呼びかけた。(中略)

国内では年金改革反対デモが激化 〜だからこそ中国に行かざるを得ない部分も
宮家)そもそも「マクロンさんにはそんな暇があるのか? いまパリはどうなっているのだ?」と思いますね。フランスは労働組合が強いですから、年金の支給開始年齢を62歳から64歳に引き上げるという年金制度改革に対して、大規模なデモが10日以上も続いているわけです。(中略)

国内がこれだけ荒れているのですから、「まずはそっちをやりなさい」と言いたいところですが、実はそういう状況だからこそ、中国に言われたら行かざるを得ない。中国はエアバスを買うなど、経済的にいろいろなベネフィットがあるからです。

飯田)50人くらいの企業経営者が同行しているという話です。

「マクロン大統領が苦労している」ことを印象付ける今回の訪中
宮家)気持ちはわかります。国内が荒れているのもフランス経済がよくないからであり、ここで中国に行き、「大きな商談を決めてアピールして帰りたい」という気持ちはわからないでもない。しかし、それにしてはあまり上手くないなと思います。(中略)

仲介するのはいいですよ。でも、マクロン大統領自身がウクライナとロシアを仲介しようとしたけれど、成果がないではないですか。中国と組んでも、一緒に仲介者になれるわけがない。今回の訪中からは、マクロンさんも苦労しているなという印象を強く受けました。

自国の国益を最大化するため
飯田)こういう動きをすると、ロシアに「西側は足並みが乱れているのではないか」と取られませんか?

宮家)いい意味で、みんな自分の国益を最大化するために動いているのですから、それは当然ですけれどね。
飯田)自国の国益を最大化するために。

宮家)ロシアに近い東欧の国と、そうではないフランスやドイツのような西欧の国は微妙に考え方が違うし、ロシアや中国との関係でも、アメリカとも一味違う。そこにフランスやドイツの存在価値、もしくは国益を最大化するためのさまざまなアイデアが眠っているのではないでしょうか。(中略)

そういう意味でマクロンさんの動きは、フランスの大統領としては当然なのかも知れません。

しかし、本当に中国とロシアがこれから上手く連携して、ウクライナだけではなくインド太平洋地域においてもどこかを侵攻するような状況になったら、「フランスは本当に役割を果たしているのか?」と思います。

「ただ単に漁夫の利を得ようとしているのではないか?」とまでは言いたくはありませんので、マクロンさんにはそうならないようにして欲しいですね。(後略)【4月9日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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「北京詣で」はマクロン大統領だけでなく、昨年11月にはショルツ独首相、今年3月末にはスペインのサンチェス首相が訪中して習近平主席と相次いで会談しています。「自国の国益を最大化するために」各国首脳が活発に動いているというところでしょう。

そうした中で、アメリカが策動するような中国経済とのデカップリングを否定して、中国との経済関係の成果を得たい、また、アメリカのように軍事的勝利にこだわらず、ロシアとの「より厳しい対話」で欧州の長期的和平確立を主導したい・・・マクロン大統領のそうした思いと、アメリカ主導の「対中包囲網」が狭まる中、欧州と経済関係を強化し、米欧の結束にくさびを打ち込みたい習近平主席の思いが合致した両者の会談でもありました。

習近平主席は北京での会談後、マクロン大統領の広東省広州訪問にも対応する「二日連続のおもてなし」という極めて異例の厚遇で、フランスを重視する中国の姿勢が改めて鮮明になりました。

****マクロン氏と習近平氏、ノーネクタイで公園散策…異例の厚遇で米欧連携に「くさび」****
フランスのマクロン大統領は7日、中国南部の広東省広州を訪問した。6日に北京で会談したばかりの習近平シージンピン国家主席も広州に赴き、非公式首脳会談と夕食会に臨んだ。マクロン氏への異例の厚遇を通じ、米欧、欧州のいずれの連携にもくさびを打ち込む狙いがあるようだ。

中国中央テレビによると、両首脳は7日午後、通訳だけを伴い、ノーネクタイで市内の公園を散策しながら意見を交わした。マクロン氏は地元大学生との交流会を行ったほか、投資家、芸術家らと面会した。

中国共産党機関紙傘下の環球時報は7日、前日に会談した習氏とマクロン氏、欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長がそろって、米国主導のデカップリング(切り離し)に「反対した」と報じた。完全な経済切り離しは難しいとするマクロン、フォンデアライエン両氏の立場を、対中包囲網をけん制するために利用した形だ。

習氏は3期目政権発足以降、相次いで欧州首脳らを招待している。人権問題などで冷え込んだ関係の改善に加え、経済立て直しへ投資を呼び込む狙いがある。ウクライナ侵略を続けるロシア寄りのスタンスを取る習氏への警戒感を和らげる狙いもあるようだ。

「米国との違いを強調すれば、米欧の離間を目指す中国の思うつぼになる」
仏戦略研究財団のアントワーヌ・ボンダズ研究員は、マクロン氏の今回の訪中にこう警鐘を鳴らしていた。

一方、今回の訪中では、EUとマクロン氏との間の安全保障問題などを巡る温度差も浮き彫りとなった。

マクロン、フォンデアライエン両氏は、中国との対話や交流を維持しつつ、戦略物資の調達などの依存は避けるという方針では一致する。

だが、6日の習氏との会談で、フォンデアライエン氏が台湾問題を提起したのに対し、マクロン氏は台湾に触れなかったばかりか、持論である米国とは一線を画す政策「欧州の戦略的自立」を繰り返した。

米中対立の場となる国連で、中仏はともに安全保障理事会常任理事国を務める。習氏は会談したマクロン氏に「中仏は世界の多極化の推進者だ」と呼びかけた。(後略)【4月8日 読売】
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冒頭の「我々の危機ではない」というマクロン発言は、上記のように“米国とは一線を画す政策「欧州の戦略的自立」”というマクロン大統領の持論をストレートに表現したものです。

【欧州でも強まる批判】
マクロン大統領のこうした主張への批判は冒頭記事にもありますが、下記のようにも。

****台湾巡る仏大統領の発言、中国に配慮し過ぎ 欧米議員批判***
マクロン仏大統領は仏紙とのインタビューで、欧州は台湾を巡る対立を激化させることに関心がなく、米中両政府から独立した「第3の極」になるべきだと述べた。これを受けて、中国に配慮し過ぎた発言だとして欧米各国の議員から批判が出た。

マクロン氏は先週訪中した際に仏紙レゼコーとポリティコとのインタビューに応じ「最悪の事態は、この(台湾を巡る)話題でわれわれ欧州が追随者となり、米国のリズムや中国の過剰反応に合わせなければならないと考えることだ」と述べた。

ドイツ連邦議会外務委員会のレトゲン議員はツイッターに、マクロン氏は「中国訪問を習近平氏のPRクーデターと欧州の外交政策の惨状に変えることに成功した」と指摘。仏大統領は「欧州で一段と孤立している」と批判した。

米上院のルビオ議員(共和党)もツイッター投稿動画で、もし欧州が「台湾を巡り米国と中国のどちら側にもつかないのであれば、われわれも(ウクライナに関して)どちらの味方もすべきでない」と指摘した。【4月11日 ロイター】
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****EU内でフランスが孤立する可能性も 仏マクロン大統領「ヨーロッパは米中に追従すべきでない」と主張****
地政学・戦略学者の奥山真司が4月11日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国訪問中に仏マクロン大統領が語った台湾有事に関する発言について解説した。

(中略)
中国に警戒心が強まっているなかでのマクロン大統領の今回の発言 〜EU内でフランスが孤立する懸念も
奥山)EU内で「台湾有事などがあった場合には中国に厳しく当たる」というコンセンサスがあったはずなのですが、空気が読めていない発言をしてしまったというか、EU内でフランスが孤立するのではないかという懸念が少しあります。

飯田)あのような映像を見ていると、イギリスのキャメロン政権時代に、思い切りパンダをハグしたというような感じの……。

奥山)当時のイギリスは「黄金時代」と言っていました。そのあと、2016年前後から中国が浸透工作を仕掛けていることが、メディアの方にも徐々に発覚していきました。警戒感が強まったなかで、逆にマクロンさんが中国へ寄っていったのは、我々自由主義陣営としては「余計なことをしてくれたな」という印象です。

王毅氏による「地ならし」が功を奏している 〜ドゴール政権時代にもアメリカと違う独自のスタンスを取ったフランス
飯田)伏線のようなものはあったのですか?
奥山)前に外交部長を務めていた王毅さんがヨーロッパを訪問し、地ならしを行っていたところがありました。それが成功したということでしょうか。(中略)

今回、フランスが「台湾有事は我々とは関係ない」というようなスタンスを取ったおかげで、アメリカ側、特に保守派が激怒しています。アメリカの「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙は保守的な意見を書くことで有名ですが、「最悪のタイミングで、ドゴール主義的な閃き」と書いています。(中略)

ドゴールさんは、かつてNATOに入らなかったことがありました。50年代〜60年代、ソ連に対抗しなければならないときに、「我々はアメリカとは別のスタンスで独自に行きます」と足並みを揃えなかった過去があります。(中略)

そのときと同じで、「フランスはアメリカとは別のスタンスでいきます」と示し、それに対してアメリカのメディアが怒っているという状況です。

また、「マクロン氏が対ロシア戦争でアメリカ国民の支持を減らしたいと思っているなら、これ以上の上手い発言はなかっただろう」と皮肉っぽい記事も出ていました。(後略)【4月11日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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日本国内にも、欧州におけるウクライナ戦争に対し、「所詮ロシアとウクライナの喧嘩であり、アメリカの尻馬に乗って深入りする必要はない」といった主張もありますが、似たようなものかも。

地理的に遠いフランスにあっては中国の軍事的脅威とか、民主主義や人権に対する脅威といったものは、やや現実感のないものにもなってしまうのかも。

【台湾への軍事的圧力を継続する中国】
台湾・蔡英文総統の訪米、マッカーシー米下院議長との会談に反発して、台湾を包囲するような軍事演習を行っていた中国ですが、演習終了後も台湾に圧力をかけ続けているようです。

****中国軍機が演習終了後も台湾海峡中間線越え 軍事的圧力常態化狙いか****
台湾国防部(国防省)は11日、同日午前6〜11時に延べ26機の中国軍機が台湾周辺で活動し、うち延べ14機が台湾海峡の中間線を越えたり、台湾の防空識別圏に入ったりしたと発表した。

中国は蔡英文総統とマッカーシー米下院議長の5日の会談に反発して8〜10日に台湾周辺の海空域で軍事演習を行った。演習終了後も台湾に対する軍事的圧力を常態化させることを狙っているとみられる。

蔡氏は11日、動画で談話を発表し、台湾総統が友好国訪問や米国への立ち寄りで要人と交流することは以前から行ってきたことであり、「これを口実に中国が軍事演習を実施し、台湾海峡を不安定にすることは、地域の大国の責任ある態度とは言えない」と批判した。

蔡氏は演習期間中に誤った情報を故意に拡散する動きがあったとした上で、「軍民が一致して、誤情報に惑わされることなく、民主主義の台湾を守ることが最も大事だ」と述べた。【台4月11日 毎日】
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