孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

グルジア  修復に動きだした対ロシア関係

2013-01-26 22:35:28 | ロシア

(昨年10月の議会選挙後の写真 勝利した野党連合を率いたロシアともつながりの深いイワニシュビリ氏(右)と、敗北した反ロシア・親欧米派のサーカシビリ大統領(左) 実権は首相に就任したイワニシュビリ氏に移行しつつあります。 “flickr”より By MIKHEIL SAAKASHVILI http://www.flickr.com/photos/saakashvilimikheil/8073867803/

【“罠にはまった”グルジア
グルジアはカフカス山脈の南麓、黒海の東岸にあたり、北側にロシア、南側にトルコ、アルメニア、アゼルバイジャンと隣接する国で、旧ソ連のひとつです。

2008年8月、グルジアからの分離独立を求める親ロシアの南オセチア自治州をめぐり、ロシアとグルジアが軍事衝突、ロシア側の圧勝に終わったグルジア紛争は、まだ記憶に新しいところです。
この紛争後、南オセチアやアブハジア自治共和国が独立を宣言、ロシアや南米ベネズエラなどが「国家」として承認していますが、欧米諸国はグルジアの領土保全を優先し、独立を認めていません。

グルジアの親欧米派サーカシビリ大統領は、ロシア側の侵攻が軍事衝突のきっかけだったとしていますが、グルジア側の南オセチアへの軍事攻撃が先で、それにロシア側が報復した・・・という構図の方が実態に近いのではとも見られています。

“紛争は8月8日、グルジアが北部の親露派地域、南オセチア自治州に軍事進攻し、ロシアが報復に出た構図。グルジアのヤコバシビリ国務相(再統合問題担当)は「ロシアが戦争をしたがっていると知り自衛せざるを得なかった」と述べ、ロシア軍戦車150両が7日にロシアから南オセチアに抜けるトンネルを通ったことを根拠に挙げる。
これに対し、グルジアの専門家、ザカレイシビリ氏は「グルジアは(戦争をしたがっていた)ロシアのわなにはまった」と指摘する。ロシアは1990年代からグルジア独立派地域のアブハジア自治共和国や南オセチアの住民に市民権を付与し、「自国民保護」の口実を作った。南オセチアからグルジアへの攻撃は8月に入り激しさを増しており、サーカシビリ政権はロシア側の“挑発”に乗ってしまったとの見方だ。“ 【08年9月1日 産経】

満を持していたロシア側の“罠にはまった”感があるグルジア・サーカシビリ政権ですが、当時、ロシアのメドヴェージェフ大統領は休暇中、プーチン首相は北京オリンピックの開会式に出席しており不在であったこと、アメリカの支援で増強されていた自国軍事力へのサーカシビリ大統領の過信なども、グルジアが攻撃に踏み切った背景にあるとも指摘されています。

権限移行で進む対ロシア関係修復
グルジアでは昨年10月に議会選挙が行われ、サーカシビリ大統領率いる与党と、ロシアでの事業で財をなした資産家、イワニシュビリ氏が反政府勢力を糾合する形で立ち上げた野党「グルジアの夢」が対決、結果、野党が勝利し、イワニシュビリ氏が首相に就任しています。

グルジアでは今年10月の大統領選後、首相と議会中心の体制へ移行することになっています。サーカシビリ大統領が3選禁止で退任が決まっていることから、首相へ転出することで実権を維持しようとする思惑からの変更とも見られていましたが、結果的にはその首相の座をイワニシュビリ氏に奪われる形となっています。
なお、イワニシュビリ首相は、グルジアの国内総生産(GDP)の約半分にあたる64億ドル(約4987億円、フォーブス誌推計)の資産を有し、各地に病院や教会を建設する篤志家としても知られる人物だそうです。

サーカシビリ大統領・与党敗北の背景としては、“かつて欧米諸国が「民主化の旗手」と持ち上げたサーカシビリ氏の政権運営は次第に権威主義に傾斜し、近年は民主化の後退が国内外で批判されている。失業率が公式統計でも14%にのぼるなど経済の実態は芳しくなく、08年のグルジア紛争をめぐっても政権の責任を問う声がくすぶっている”【2012年9月30日 産経】とも報じられています。

いつものことながら前置きが長くなってしまいましたが、08年に戦争を行ったグルジアとロシアの関係が、イワニシュビリ首相のもとで急速に改善しています。

****グルジア総主教が訪ロ=紛争後初、プーチン大統領と会談****
グルジア正教会のイリヤ総主教がロシアを訪問し、23日、モスクワ郊外でプーチン大統領と会談した。総主教訪ロは、2008年に南オセチアの独立をめぐって両国が衝突したグルジア紛争後初で、対ロ関係改善の象徴と受け止められている。

国交正常化が模索される中、イリヤ総主教は事実上のグルジア政府「特使」。会談で、イワニシビリ首相から託されたメッセージを伝えた上で、「首相は関係改善に必要かつ可能なことは全て取り組む」と語った。【1月24日 時事】 
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****ロシア:グルジアとの関係修復へ 首脳、要人接触相次ぐ****
08年に軍事衝突したロシアとグルジアの首脳や要人が今月下旬に相次いで接触しており、両国は関係修復に乗り出している。グルジアで昨秋に就任したイワニシビリ首相が歩み寄りを主導する一方で、ロシア政府も同国でサーカシビリ大統領の影響力が排除される動きを歓迎している。

ロシアのプーチン大統領は23日にモスクワ近郊で、グルジア正教会の最高指導者イリヤ2世(総主教)と会談した。イリヤ2世はイワニシビリ首相のメッセージを伝え、この中で、イワニシビリ首相は関係改善に臨む姿勢を鮮明にした。

スイスで開かれている世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席したイワニシビリ首相は24日、「ロシアとの関係を復興するために最善を尽くす」と言明。首相は23日にメドベージェフ露首相と接触しており、将来的な首脳間の協議に意欲を示す。

ロシアは以前から親欧米路線を敷くサーカシビリ政権と対立してきた。両国は08年に軍事衝突をきっかけに国交を断絶したが、昨年12月に2国間協議を再開。近く2回目の協議を開く。ロシアは関係改善策の一環として、禁輸としているグルジア産ワインや飲料水の解禁を検討中。2月初旬にグルジアと専門家協議を予定するなど、政府間の接触も活発になってきた。

グルジアでは昨年10月の議会選で、イワニシビリ氏が率いる野党連合が勝利したことを受け、サーカシビリ大統領の求心力が急落。首都トビリシでは今月20日、大統領に退陣を求める集会が開かれた。新政府も昨秋以来、サーカシビリ派高官を人権弾圧の疑いで相次いで逮捕し、大統領への圧力を強めている。【1月26日 毎日】
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“ロシアでの事業で財をなした資産家”というイワニシュビリ首相の登場で、ロシアとグルジアの対話は昨年12月から報じられていました。

****ロシア:グルジアと4年ぶりの2国間協議へ****
08年のグルジア紛争で衝突したロシアとグルジアは14日、ジュネーブで4年ぶりの2国間対話を行う。対露関係の改善を唱え10月の議会選の野党勝利を受けてイワニシビリ氏がグルジアの首相に就任したことで、両国は関係修復に乗り出した。(中略)

ロシアとグルジアは当面、経済分野を中心に関係改善に取り組む見通し。ロシアは禁輸対象のグルジア産ワインや飲料水について、輸入再開を検討する考えを示している。一方、グルジアからの独立承認を求めているアブハジアと南オセチアの処遇を巡り、ロシアとグルジアの立場がかけ離れており、外交面の難問が残されている。

ロシアはグルジア紛争直後、アブハジアと南オセチアを国家承認し、グルジアと国交を断絶。親欧米の立場を取るグルジアのサーカシビリ大統領を敵対視してきた。しかしロシアと関係の深いイワニシビリ氏が首相として実権を握ったことから、両国間で対話再開の機運が生まれていた。【2012年12月14日 毎日】
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今年に入ると、イワニシュビリ首相のもとで親ロシア政治犯への恩赦が行われ、対ロシア交渉への地ならしが行われています。

****親ロシア政治犯ら、グルジアで恩赦に 親欧米の大統領は批判****
旧ソ連グルジアで13日、政治犯190人が国会決議による恩赦で釈放された。親欧米・反ロシア路線を強権的に進めたサアカシュビリ大統領の政権下で拘束されたが、昨秋の国会総選挙で野党連合が大統領与党を破って政権を事実上奪取し、恩赦が実現した。サアカシュビリ大統領は「ロシアのスパイや工作員も釈放するのか」と反発している。

昨年10月の総選挙では、反大統領派の野党連合「グルジアの夢」が国会(定数150)の過半数を制し、リーダーで富豪のイワニシビリ氏が首相に就任。ロシアで事業経験のある同氏は欧米との関係維持とともにロシアとの現実的な関係修復を打ち出していた。

国会は昨年12月に恩赦を決議したが、サアカシュビリ大統領は署名を拒否。しかし、国会は再度、賛成多数で恩赦を決議し、今月12日に国会議長が署名して発効した。今後も恩赦は続く見通しだ。

現地からの報道では、イワニシビリ首相は地元テレビでのインタビューで「欧米からの圧力を乗り越えることができた」と発言。これに対し、サアカシュビリ大統領は「(新政権の行為は)グルジアの対外路線を破壊するたくらみだ」と批判した。東西冷戦終結から20年以上たっても、グルジアでは東西の対立路線が今も尾を引いている。

サアカシュビリ氏は今月20日で大統領就任から任期満了の5年を迎えるが、今秋の大統領選までポストにとどまる意向。反大統領勢力は早期辞任を求めてデモ活動を繰り返している。(モスクワ=副島英樹)【1月15日 朝日】
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“恩赦措置は、「グルジアの夢」などが選挙公約として掲げていた。内閣発足後、立法手続きに入り、サーカシビリ大統領が実権を握っていた04年から12年までに収容された「政治犯」をリスト化。今後、3千人を釈放し、約1万4千人の刑期を短縮することを決めた。”【1月16日 産経】とのことで、19日の「190人」はその第1陣です。

グルジアにとっては、主要輸出品であるワインや果物が現在ロシア市場から締め出されており、輸出禁止が解かれれば経済再生への一助となります。
一方、ロシアにとっては“グルジアに隣接する南部ソチで14年に冬季五輪を開催するロシアにとってもグルジアとの関係修復は、五輪の安全確保を図る上でメリットがある”【同上】とのことです。

旧ソ連圏のウクライナ、ベラルーシの現状
グルジアと同様にカラー革命で親欧米政権が樹立され、その後親ロシア政権への揺り戻しが起きている旧ソ連のウクライナでは、対ロシア関係で国論が二分されている状況です。

****ロシア訪問、急きょ中止=ウクライナ大統領****
ウクライナのヤヌコビッチ大統領は、18日に予定していたロシア訪問を急きょ中止した。プーチン大統領との首脳会談に向けた事前調整が不調で、大きな成果が望めないためとみられる。

ヤヌコビッチ大統領はロシア、ベラルーシ、カザフスタンでつくる関税同盟へのウクライナの参加など経済問題を中心に協議する予定だった。ウクライナ大統領府は「合意にはさらなる協議が必要」と、訪問中止の理由を説明した。

10月に行われたウクライナ最高会議(議会)選挙の結果、親ロシア派のヤヌコビッチ大統領の与党・地域党は第1党を維持したものの、欧州連合(EU)との関係を重視する親欧米派の新党などが台頭。対ロ関係で国論が二分している。【2012年12月18日 時事】
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また、旧ソ連のベラルーシは、依然として「欧州最後の独裁者」とも呼ばれるルカシェンコ大統領の強権支配が続いており、独自の外交政策を採っています。
ひところはロシアと欧米を天秤にかけるような対応でしたが、欧米諸国からの人権弾圧・野党弾圧批判は弱まっていません。
結果、ロシアに傾く流れです。

ロシアのプーチン大統領は就任直後にアメリカで開かれた主要国首脳会議(G8サミット)を欠席、2012年5月末、就任後初めての外遊としてベラルーシを訪問しています。
これは、旧ソ連圏の結束を最重視する姿勢を鮮明にしたものと見られています。

ロシアは、ベラルーシ、カザフスタンの両国とスタートさせた関税同盟と統一経済圏を核に、旧ソ連圏での「ユーラシア経済同盟」に拡充深化させていきたい意向で、プーチン大統領はルカシェンコ大統領と会談し「ユーラシア経済同盟」の創設で協力すること、その見返りとしての融資の約束などで合意しています。

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