
(24日、テヘランで、トランプ米大統領が停戦を発表後、イラン軍を支持する集会に参加する人たち=ロイター【6月25日 読売】)
【トランプ大統領におもねる欧州】
24日と25日に開催されたNATO首脳会議・・・・・ルッテNATO事務総長のトランプ米大統領へおもねるような対応が印象的。
ルッテNATO事務総長としては、トランプ大統領におもねていると批判を受けようが、トランプ大統領が求める国防予算引上げに賛同するように各国に根回しも。
ルッテ事務総長としては「もしロシアが欧州を侵略するようなことがあれば、アメリカはロシアに参戦する」といった言葉をトランプ大統領に発言して欲しかったようですが、トランプ大統領は相互防衛義務を定めた第5条に関して「定義による」と突っぱねた対応。
****NATO集団防衛義務、トランプ氏が疑問呈す発言-サミット前に波紋****
トランプ米大統領は24日、北大西洋条約機構(NATO)の集団防衛の原則を定めた第5条への米国の関与について疑問を呈する発言を行った。同日から始まるNATO首脳会議(サミット)が混乱に陥るのを防ごうと、ルッテ事務総長は対応に追われている。
ルッテ氏はNATOサミットに向かうトランプ氏に対して、イスラエルとイランの紛争を抑制した手腕や欧州の国防費増額を実現させた功績を称える私的なメッセージを送っていた。だが、トランプ氏はこのメッセージのスクリーンショットを撮り、ソーシャルメディアに投稿した。
ルッテ氏はその中で「あなたは過去数十年のどの歴代米大統領も成し得なかったことを達成するだろう」とし、「欧州は当然のことながら多額の支出を行うことになる。それはあなたの勝利だ」と記していた。NATO報道室が内容を確認した。
ルッテ氏は今回のサミットで、相互防衛義務を定めた第5条に対するトランプ氏のコミットメントを引き出すことを最大の焦点に置いていた。
そのため、加盟国に対しては国内総生産(GDP)比5%への国防予算引き上げというトランプ氏の要求に応じるよう要請。2日間の会議日程を通じてトランプ氏の不興を買わぬよう慎重に準備を進めてきた。
ところが、会議直前の最終調整段階で、トランプ氏がNATO加盟国の防衛義務に対する米国の関与に疑問を呈する発言を行ったことで、ルッテ氏の目算は狂った。
ランプ氏は大統領専用機(エアフォースワン)上で第5条へのコミットメントを記者団に問われ、「定義による」と述べた。
「第5条の解釈にはいろいろある」とし、「だが私は、彼らの友人であることに注力している。これら指導者の多くと友人になった。彼らを支援することに注力している」と述べた。
第5条は第2次世界大戦後のNATO同盟の中核を成す原則だ。冷戦時代には旧ソ連から西欧を守る役割を果たし、それ以降も米国主導の安全保障体制を支えてきた。
だが、トランプ氏にとっては長らく不満の源でもあった。同盟国が米国の防衛費に過度に依存していると批判。各国は拠出を増やすべきだとの考えを示してきた。
1期目にはNATO脱退も辞さない構えをみせたほか、昨年には国防費を十分に増額していない加盟国に対し、「ロシアに好きなようにさせておく」と発言して物議を醸した。【6月25日 Bloomberg】
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各国が国防費増額受入れ姿勢を見せることでトランプ大統領のご機嫌を窺うなかで、スペインが反発。欧州側は対応に苦慮。
****NATO悩ます「スペイン問題」 防衛費5%目標で不協和音****
北大西洋条約機構(NATO)加盟国の防衛費増額の新目標を巡り、NATOのルッテ事務総長は23日、新目標の対象から自国を除外するよう求めたスペインの要望について、2029年までの軍事力の強化状況を見て判断する方針を示した。
24日に始まるNATO首脳会議を前に足並みの乱れを避けるため、「スペイン問題」の棚上げを図った形だ。
今回の首脳会議では、トランプ米大統領の要求に沿って、加盟国の防衛費目標を現行の国内総生産(GDP)比2%から「5%」に引き上げることで合意を目指している。5日の国防相会合では、防衛費自体を3・5%まで増やし、インフラ整備などの防衛関連費と合わせて「5%」とする方針で大枠合意していた。
しかし、スペインは直前になって「福祉国家の世界観とは合わない。不合理だ」などと異論を唱えた。ルッテ氏によると、スペインは防衛費をGDP比2・1%にすれば、NATO加盟国の兵力や装備の増強方針を定めた非公開の軍事力目標を「達成可能だ」と主張しているという。
ルッテ氏は23日の記者会見で「NATOはスペインが(軍事力目標を)達成するためにはGDP比3・5%の防衛費が必要だと確信している」と指摘。NATOは29年に加盟国の防衛費と軍事力目標の達成状況を検証する方針で、ルッテ氏はスペインの主張の是非は「その結果をまつことになる」とした。
今回の首脳会議で、トランプ氏の要求と同率の新目標を設定することに関しては「トランプ氏の懐柔と米国のNATOへのつなぎ留め以外に実質的な根拠がない」との見方が加盟国の一部から出ている。
一方で、防衛費目標に例外を設けるとトランプ氏の反発を招く恐れもあり、ルッテ氏は調整に苦慮している。【6月24日 毎日】
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防衛費目標引上げ要求には苦慮してはいますが、とにもかくにもアメリカに「見捨てられたら」困る・・・・ということで、何とかトランプ大統領のご機嫌に沿いたい「弱い立場が露呈」した形の欧州の現状です。
事情は日本を含めたアジア地域でも同様で、日本やオーストラリアもトランプ政権から、防衛費をGDP比で3.5%に増やすよう迫られておいると報じられています。
日本政府は防衛費を2027年度にGDP比2%(約11兆円)にする方針を掲げていますが、以降の数値目標は決定していません。「日本の防衛費は日本で決めるものだ」(石破茂首相)との姿勢・・・・当然でしょう。
今回のNATO首脳会議についても、石破首相が参加予定でしたが、トランプ大統領が欠席するのでは・・・との見方が流れ、「それなら行っても仕方ない」と石破首相も欠席を表明。トランプ大統領はその後出席することに・・・といったドタバタがありました。
NATO首脳会議に合わせてアメリカは日本や韓国、オーストラリアなどを招待して特別会合を開く予定でしたが、韓国やオーストラリアは出席見送りを表明。首相も特別会合の出席がオランダ訪問の「メイン」だったと記者団に語っていた。
これも、トランプ大統領が行かないなら・・・云々というより、NATO加盟国がGDP比で5%に引き上げる新目標で合意するという流れ・外圧に日本も巻き込まれていくことへの(防衛オタクでもある)石破首相サイドの警戒でもあるのでしょう。
なお、欧州への5%に対し、トランプ政権の日本などアジアへの要求が低い水準にとどまる理由について、日本政府関係者によれば、「アメリカに頼りきりだった欧州に自立を促す一方、アジアには対中国抑止の観点から関与を続けるという米国の意思の表れだろう」とのこと。
【トランプ大統領を中東に再び引きずり込んだネタニヤフ首相 一人負けのイラン】
アメリカ・トランプ政権は欧州・中東離れ、対中国シフトへ軸足を移してきましたが、その流れを(ネタニヤフ首相の剛腕で)一時的にも中東に引き戻したが今回のイラン核施設爆撃でした。
****結局は一人負け…「茶番劇」で終わった報復攻撃、再び毒入り“聖杯”をすすったイラン、トランプを引き入れたネタニヤフ****
米国のトランプ大統領は6月23日、交戦を続けるイスラエルとイランが停戦に合意したと発表した。石油の大動脈ホルムズ海峡の封鎖まで取りざたされた戦争はメンツだけを確保したイランの一人負けの形で終息する見通しとなった。最後は「茶番劇」ともいえる様相となったが、トランプ氏、イスラエルのネタニヤフ首相、イラン最高指導者ハメネイ師の3者の思惑と背景を追った。
「体制転換」の危機
戦況は目まぐるしく展開した。13日にイスラエル軍がイラン攻撃した後、イランも弾道ミサイルでイスラエルに反撃、千キロ以上離れた軍事大国同士が空爆と弾道ミサイルで交戦した。この間、イスラエルはイラン上空の制空権を完全に掌握、ナタンズ、イスファハン、フォルドウの3つの核施設を攻撃した。
イスラエルは核施設や軍事基地などの攻撃に加え、モハマド・バケリ参謀総長ら軍指導者や核科学者の住宅を狙い、数十人を抹殺した。イラン側の指揮命令系統はずたずたになった。イスラエルの情報機関モサドは軍幹部らの携帯に直接電話し、「もうすぐ殺害する」と脅し、恐怖を煽った。
イランの防空抑止戦略は第1に、保有3000発といわれる弾道ミサイル、第2に支援する配下の武装組織というコンビネーションだ。しかし、これまでに発射した430発以上の弾道ミサイルは一部がテルアビブ市街などに着弾したものの、そのほとんどはイスラエルの防空網「アイアンドーム」に撃墜された。
配下の武装組織も昨年来のイスラエル軍の大規模攻撃で一気に弱体化した。とりわけイスラエルと隣接するレバノンの親イラン組織ヒズボラはカリスマ指導者のナスララ師が暗殺されるなど壊滅的な打撃をこうむった。昨年12月、盟友だったシリアのアサド政権が崩壊したのも痛かった。イランの抑止戦略は強大なイスラエルの軍事力の前に機能しなかった。
米国が22日に参戦、フォルドウなどの核施設を14発の大型の地中貫通弾で攻撃、破壊した。ハメネイ政権のジレンマは深まった。このまま何もしなければメンツを失い、支持基盤である保守派の離反を招いてしまう。
だが、周辺の米軍基地に報復攻撃すれば、米軍からさらなる攻撃を受けるだろう。1979年のシーア派革命以来続いてきた「体制の転換」の危機に直面しかねない。
メンツ確保の出口戦略
窮地に陥ったイランにハメネイ師の暗殺という悪夢も迫っていた。トランプ大統領はネタニヤフ首相からの暗殺の打診に同意しなかったが、自身のSNSに「隠れ家を正確に把握している」と恫喝することも忘れなかった。(中略)
こうした中、イランの国家安全保障委員会は米国への報復を決め、ハメネイ師に進言した。「米軍基地を攻撃するが、事前に通告し、損害を最小限にとどめる」といった内容だった。
辛うじてメンツを立てる象徴的な報復だ。対象としてカタールの「アルウデイド空軍基地」とイラクにある基地が選定された。
「アルウデイド基地」には米中央軍司令部が置かれ、約1万人が駐屯する中東最大の拠点だ。イラクの基地には約2500人が駐留している。2020年に革命防衛隊のソレイマニ将軍が米軍に暗殺された際、イランは報復として弾道ミサイルを同基地に発射。100人以上を負傷させた。しかし、攻撃に先立ってイラク政府に通告し、米軍には避難の警告がされていた。
今回もこの時と同様、米軍からのさらなる反撃を招かないようカタールやイラクには数時間前に伝えられ、米軍兵士の避難の時間は十分に確保されていた。トランプ大統領は事前通告について「イランに感謝する」と表明した。
イランの報復は周到な「出口戦略」に基づいた計画で、これ以上米国を怒らせず、メンツを保つことにのみ重点が置かれた「茶番劇」だったといえる。
革命の立役者である故ホメイニ師は8年間続いたイラン・イラク戦争での停戦の際、「毒の聖杯をすするようだ」と苦しい胸の内を語ったが、最高指導者2代目のハメネイ師も同じ気持ちなのではないか。
トランプのおとり作戦
(中略)トランプ氏はこの時、支持者の間の「イデオロギー戦争」に身を引き裂かれていた。MAGA(メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン=米国を再び偉大に)は中東の戦争に巻き込まれるとしてイランへの介入に反対していた。
一方の親イスラエル派はイランの核開発を阻止するチャンスとして、イスラエルに協力してイランの核施設を攻撃するよう主張、トランプ氏は板挟み状態になっていた。
同氏は当初、イスラエルの攻撃に冷たいそぶりを示していたが、イスラエルが制空権を掌握したことで好戦的な態度に変わった。
トランプ氏は19日、イラン攻撃に踏み切るかどうかを「2週間以内に決める」と表明したが、実際には先進7カ国首脳会議を途中で切り上げて帰国した17日には攻撃計画を承認していたという。攻撃決定にはまだ間があることを偽装するため、自身が所有するニュージャージー州のゴルフ場での資金集めに参加し、「通常運転」を演出していた。
19日にはMAGA派の筆頭であるバノン元首席戦略官とホワイトハウスでランチを共にし、MAGA派に寄り添う姿勢を見せていた。トランプ氏の攻撃は核施設を破壊するための1回のみの「限定作戦」。イランが本気で報復し、戦争の泥沼に足を取られることを内心では恐れていた。
「ホッとした」というのが本音だろう。ノーベル平和賞が見えたと思っているのかもしれない。
復活したネタニヤフ
劇的に復活したのはネタニヤフ首相だ。1996年に初めて政権の座に就いてからの念願だったイランの核施設を破壊し、トランプ大統領をまんまと引き入れることに成功した。「イスラエルの守護者」としての地位を固め、来年の総選挙に勝利する見通しもついた。
パレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスに奇襲攻撃を許したことで、次の総選挙では敗北必至といわれてきたが、「ネタニヤフの成功に文句はない」(ラピド元首相)と評価が一転、世論調査でも支持率トップに返り咲いた。このまま選挙に勝ち、レガシーを固めたいところだろう。
一人負けの恰好のイランだが、結局のところ核武装しか抑止力になりえないことを噛みしめているのではないか。フォルドウの核施設から60%の濃縮ウランを事前に持ち出した疑いもある。戦争はイランの核武装への決意を高める結果になった疑念が消えない。 【6月24日 佐々木伸氏(星槎大学大学院教授) WEDGE】
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【現段階では「賭け」に勝ったトランプ大統領 今後は不透明 核兵器開発への思いを強めたであろうイラン】
トランプ大統領にとってイラン核施設攻撃は、外国への関与を嫌う支持勢力「MAGA派」の反発を招く大きな「賭け」でした。
****イラン攻撃でMAGA分裂リスク、トランプ氏の大きな賭け****
かつてカジノ経営者だったトランプ米大統領は就任以来リスクをいとわない姿勢を示してきた。だが、イラン空爆はトランプ氏にとってこれまでで最大の賭けとなるかもしれない。
今回の行動は政治的な見返りが大きいものの、イランとイスラエル間の和平維持の成否に大きく左右され、事態がトランプ氏の制御を離れて悪化する危険性もはらんでいると専門家は指摘する。
現時点ではトランプ氏は米国の関与を限定し、イスラエルとイランに停戦を強いるという賭けに勝ったように見える。ユーラシア・グループで中東・北アフリカ部門を統括するフィラス・マクサド氏は「トランプ氏は賭けに打って出た。そして事態は思い通りに進んだ」と語った。
ただ、停戦が維持されるかどうかはまだ分からない。トランプ氏は24日朝、自身が停戦を宣言した数時間後にイスラエルがテヘランへの攻撃を開始したことに不満をあらわにした。
合意が守られなかったり、イランが軍事的あるいは経済的に報復したりすれば、トランプ氏を再び大統領の座に押し上げた「米国第一主義」連合が分裂する恐れがある。トランプ氏が掲げる運動の理念がますますあいまいになり、その定義も不明瞭になるからだ。【6月25日 ロイター】
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この「大きな賭け」の邪魔になるイラン・イスラエルの戦闘継続にはトランプ大統領は激怒しています。・・・“トランプ氏、罵倒語を使いイスラエルとイランを非難【6月24日 BBC】”
“「イスラエル。その爆弾を落とすな。そんなことをすれば大々的な違反だ。操縦士たちを帰還させろ。ただちに!」とすべて大文字で、自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に書いた。”
結果、戦闘はおさまっており、トランプ大統領は「賭け」に勝った形。勝負師の面目躍如・・・でしょうか。
イランにもはや反撃能力がないことを見切っての「賭け」でしょう。大当たりでした。
もちろん、「現段階」の話で、今後の戦闘復活の可能性は十分にあり、その場合、トランプ大統領は中東に引きずり込まれたという傷を追う形になります。
核施設についても、トランプ大統領は「完全破壊」と言っていましたが、どうもそうではなく、数か月程度イランの行動を遅らせただけ・・・との評価も。(まだ現地に入れないので、正確な評価はできませんが)
このイラン側の核開発の今後の動向も、「賭け」の今後にかかわります。
何より重要なのは、“一人負けの恰好のイランだが、結局のところ核武装しか抑止力になりえないことを噛みしめているのではないか。”ということ。 イランは今後、国際的な監視の枠組みから離脱して、これまで以上に秘密裏に核兵器開発に邁進し、北朝鮮のように核兵器をイスラエル・アメリカに突きつけることで自国の安全保障を図る道に進む可能性が高くなっています。
もしそうなると、トランプ大統領の「賭け」は何だったのか?・・・という話にもなります。