孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドイツ  ナチスの歴史に対するドイツ人の考え方にも変化

2010-12-11 17:43:33 | 世相

(“flickr”より By stricklandk234@yahoo.com http://www.flickr.com/photos/51334935@N03/4719642272/

第2次大戦の敗戦国である日本とドイツでは、戦前に対する見方にはかなりの差異があるようです。
日本の場合、天皇の戦争責任という扱いにくい問題もあって、戦争責任に関する議論は曖昧なところがあり、一方で「一億総懺悔」的な発想もあります。現実的にも、天皇制は形を変えながらも存続し、A級戦犯で逮捕された者が国家指導者になったりもします。そうした明確な総括なしに「なんとなく」戦後に引き継いでいる感もある日本社会に対して、周辺国からは、靖国参拝などで“歴史認識の問題”として不満が噴き出ることもあります。
また、日本国内には、戦前を否定的にとらえることへの「自虐史観」との反発もあります。

第三帝国と連邦共和国のドイツ外交官
ドイツの場合は、過去の戦争・ホロコーストはヒトラー及びその周辺のナチスに責任があるという形で割り切っているようにも見えます。
政府外務省やドイツ国軍にしてもナチスの犯罪には加担していない・・・との認識です。

****ナチスの弾圧に外務省加担=定説覆す報告に衝撃―ドイツ*****
ナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)に同国外務省が深くかかわっていたとする調査報告書が28日、出版された。外務省はナチスの政策に抵抗していたというのがこれまでの定説。同省が弾圧に加担していたとの報告に、国民は大きな衝撃を受けている。
2005年に外務省内で同省とナチスの関係をめぐる論争が活発化したのを受け、当時のフィッシャー外相が歴史学者による調査委員会を設置。報告書は同委が5年かけてまとめた。
報告書「外務省と過去―第三帝国と連邦共和国のドイツ外交官」によると、外務省は抵抗したどころか、ナチスの機関として圧政を支えた。戦後もナチスに関与した職員を多く抱える一方、ナチスとの過去の関係を隠していたという。【10月29日 時事】
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当時の国家統治機関とヒトラー・ナチスが一体の関係にあり、そうした体制を支え支持していたのは他ならぬ多くのドイツ国民である・・・というのは外部の人間には当然のことのように思えますが、ドイツ国内にあってはそうではないようです。
ただ、自らの過去について5年がかりできちんとした報告書を作成するあたりは日本とは違います。

ナチス政権に多くの一般国民も従ったのはなぜか・・・
一切の責任を負わされた形のヒトラー・ナチスを公に扱うことはタブーとする風潮がります。
法律的にも、ナチズムは非合法化され、ナチズムの称賛は全面的に禁止されています。
“ナチス時代の軍服や武器を一般市民が手に入れることは原則禁止であり、販売も許されない。また、ナチスのシンボルである鉤十字、あるいはそれを彷彿(ほうふつ)させるような図柄を公共の場に掲揚することも禁止されている”【ウィキペディア】

そうしたドイツ社会の心情にも、時間の流れとともに変化も見られるようです。
****人間」ヒトラーと向き合うドイツ*****
70年代にお蔵入りになったドキュメンタリー映画の再上映で浮かびあがったドイツ人の変化

1973年のカンヌ国際映画祭でドキュメンタリー映画『スワスティカ(まんじ)』が上映されると、館内で小競り合いが始まり、スクリーンめがけて椅子が投げられた。「大混乱だった」と、フランスで生まれでロサンゼルス在住のフィリッペ・モーラ監督は振り返る。「怒鳴り声が響き、物が飛び交っていた。上映は中止され、誰かが表に出て『皆さん、ここはカンヌ映画祭だ。ビアホールじゃない』と叫んだ」
これほどの怒りを引き起こしたのは、モーラの作品がアドルフ・ヒトラーの「人間らしさ」を描いているように映ったからだ。ヒトラーがオーバーザルツベルクの山荘でくつろぐ未公開のホームビデオ映像(主に愛人のエバ・ブラウンが撮影した)を使うことで、『スワスティカ』はお決まりの「悪魔」のイメージを打ち砕いた。
映画の中で、ヒトラーは愛犬を抱きしめ、子供たちと遊び、『風と共に去りぬ』について語り合う。観客は拒否反応を示し、映画は事実上、お蔵入りとなった。
 
その『スワスティカ』が先月、ベルリンのフンボルト大学で上映された。ドイツ国内で上映されるのは初めてのことで、観客の多くは若者層。彼らは物を投げつけることもなく、辛辣な皮肉に笑い声を上げられるほど落ち着いた様子だった。上映後の質疑応答も、礼儀正しい雰囲気に満ちていた。
これは、ナチスの歴史に対するドイツ人の考え方が変化し続けていることの表れだと、モーラは言う。さらに、ホロコーストを推し進めたナチス政権に多くの一般国民も従ったのはなぜか、といった重要な疑問にいまだに答えが出ていないことの証でもある。

80年代まで西ドイツ(当時)でナチスが議論されることはまずなかったと指摘するのは、画期的な展示会「ヒトラーとドイツ人」の共同キュレーター、シモーネ・エルペル(この展示会も『スワスティカ』の再上映と同じく、ナチス時代を再検証する動きの一つだ)。
ヒトラーを映画で取り上げることは、90年代後半までタブーだった。だが、「人間」ヒトラーをときには同情的にさえ描いた04年の『ヒトラー 最後の12日間』や、07年のコメディー映画『わが教え子、ヒトラー』などの問題作がタブーを打ち破った。
「『スワスティカ』は時期が早すぎた」と、フンボルト大学での上映会後にエルペルは語った。「70年代前半以降、多くの変化があった」
ベルリンのドイツ歴史博物館で開催中の「ヒトラーとドイツ人」展では、一般のドイツ人がナチスのプロパガンダに熱烈に協力した様子が展示されている。もし73年にこの展示を行っていたら、『スワスティカ』と同じ目にあっただろうと、エルペルは言う。「30年前には、ドイツ人はこうした事実に向き合う準備ができていなかった。一般市民とナチスは違うという伝説を作り上げ、『祖父はナチス党員でなかったから殺人者ではない』と言ったものだ」(中略)

別の視点でナチス時代を考えるきっかけに
仲間のナチス党員と平凡な会話を交わすヒトラーは、非常に人間くさい。そして次の瞬間、画面は熱烈な声援を受けるヒトラーを映したニュース映像に切り替わる。モーラが言うように、その群集はまるで「ローリング・ストーンズのコンサートで叫ぶファン」のようだ。
観客は、人々の陶酔に飲み込まれるような居心地の悪さを感じる。一方で、皮肉たっぷりのユーモアもある。映画の最後に登場するのは、今まで見たこともないほど残虐なホロコーストのシーン。そしてエンドロールとともに、ノエル・カワードの風刺ソング「ドイツ人にひどい態度を取るのは止めておこうぜ」が流れる。
 
モーラは、ヒトラーが悪であることに疑問を呈したり、ドイツ史上最悪の暗黒時代を軽視しているわけではない。ただ、あの時代を別の視点で考えるきっかけを提供しているだけだという。
「この作品は、ヒトラーが残忍な殺人鬼であると誰もが知っているという前提で作られている。その点に議論の余地があるなんて思ってもみなかった。だが、ヒトラーも父と母、姉妹と愛犬がいる人間であり、その点が人々を本能的に不安にさせた。ヒトラーが宇宙人や悪魔なら『次』はないはずだが、実際には第2のヒトラーが現れる可能性は高い」
フンボルト大学での上映会に参加した映画プロデューサーのイエンツ・ケーター・コール(46)は、ドイツの高校の教育過程に『スワスティカ』を取り入れるべきだと指摘する。「ドイツで育つ子供たちは、ナチスやホロコーストの事実を学んでいる」と、彼は言う。「だが感情面での理解は抜け落ちている。ナチスには、人々が追随したくなる魅惑的な何かがあった。『スワスティカ』を見ると、それがわかる」

ドイツが過去をゆっくりと消化していくにつれて、今後も議論が沸き起こるだろう。エルペルに言わせれば、その最後のフロンティアが、若手映画監督が特に関心をもっているユーモアのジャンルだ。
「皮肉や風刺を使ったアプローチは過去と向き合う一つの方法だ」と、エルペルは言う。「非常に深刻な問題について笑うのは大切なことだ。風刺とはそういうもの。10年後には、風刺を通してヒトラーと向き合う時代が来ているだろう」【12月9日 Newsweek】
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ネオ・ナチ
“過去をゆっくりと消化していくにつれて”とは言っても、その過程でまたいろんなものが出てきます。
ネオ・ナチなどもそのひとつでしょう。

****ネオ・ナチ夫婦の子に大統領賞、ドイツで議論紛糾****
子どもの多い家族への表彰を通じて大統領が子どもの象徴的後見人になる制度のあるドイツで、ネオナチを支持する夫婦の第7子にこの証明を発行することを自治体首長が拒否し、国内で議論を呼んでいる。
大統領府は1日、旧東ドイツ領にあたる独北東部メクレンブルク・フォアポンメルン(Mecklenburg-Western Pomerania)州にある人口3300人の村、ラレンドルフの村役場へ授賞に必要な書類を送付したと発表した。
しかし急進左派政党、左派党出身のラインハルト・クナーク村長は2日、AFPの取材に対し、子どもの両親に賞の証明書を発行することは拒否するつもりだと述べた。その理由として、現地紙ターゲスツァイトゥングに「私たちの地域では、極右過激派の拠点とならないよう多大な努力を払っており、この賞を渡すわけにはいかない。それはこの両親が極右主義者だからだ」と語った。

クリスチャン・ウルフ大統領が後見人になるはずの子どもは、ペトラ・ミュラーさんとマルク・ミュラーさん夫妻の7番目の子ども。夫のペトラさんは「優生学系の研究所」に勤務し、妻のマルクさんは極右系の女性グループに所属していると報じられている。
大統領府は、「大統領が手続きを進めたのは、それが両親に関することではなく、新たに生まれた子どもに関することだからだ。子どもを民主的な環境のもとで育てることは、すべての人に求められることだ」と発表した。この賞では、両親に500ユーロ(約5万5000円)が贈られることにもなっている。

ドイツでは第2次世界大戦中のナチス政権下、生涯に複数の子どもを生んだ女性に贈る「母親名誉十字章」という制度を設けていた。戦後の西ドイツではこの制度は廃止されたが、1949年には大統領が後見人になる新たな表彰賞が新設され、これまでに7万6440人が受賞した。
一方、ラレンドルフ村では5日、当局にネオナチ系と目されている人物約10人が、クナーク村長宅の庭に侵入する事件も発生している。警察によると村長自身から通報があったが、村長は無事だった。現在は村長と合意の上で適切な対策が講じられており、実行した人物らは不法侵入の罪に問われている。【12月8日 AFP】
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たびたび取り上げているように、欧州では移民に対する厳しい姿勢が強まっており、極右勢力も増えています。
多くのトルコ系移民を抱えるドイツでも、外国人排斥の形でネオ・ナチの活動が行われています。

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