孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウィキリークス批判・創設者逮捕に対し、知る権利・表現の自由・報道の自由からの批判・反論も

2010-12-10 20:29:35 | 国際情勢

(アサンジ容疑者に対するインターポールの国際指名手配 これに基づき同容疑者は7日イギリスで性犯罪容疑という“別件逮捕”されています。 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/5241447302/

NATO・ロシア接近の裏情報
ウィキリークスによる情報公開が連日続いています。
12月3日ブログ“「ウィキリークス」に踊るイラン関連情報 核ドミノからハメネイ師病状(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101203)」でも書いたように、こうした外交交渉過程、内部のやり取りが公になることは外交交渉の機能を大きく損なう危険があります。

ただ、連日明るみに出る情報を見ていると、「なるほどね・・・」と思わせるものも少なくなく、こうした情報をリークすることが悪いことなのか、秘密にしておく方がいいのか・・・・という点では確信が持てない部分があります。

今日明らかにされたものでは、最近関係改善が進んでいるNATOとロシアの関係に関する記事がありました。
****NATOがバルト防衛策…ロシアと融和の裏で 暴露公電****
民間告発サイト「ウィキリークス」が公開した米外交公電で、米欧でつくる北大西洋条約機構(NATO)が今年1月、エストニア、ラトビア、リトアニアの旧ソ連バルト3国やポーランドをロシアの侵略から防衛する計画を立てていたことが明らかになった。

NATOは11月のリスボン首脳会議で「ロシアは脅威ではない」と新行動指針でうたい、双方は連携強化の共同声明を出したばかり。ロシアのラブロフ外相は9日、「片方ではパートナーシップで合意し、片方で防衛の必要性をうたう。どっちが本心か」と批判、回答を求めると述べた。
防衛計画は「ロシアの脅威から東欧で最ももろい部分を守る」目的で、冷戦後初めて立案。米英独とポーランドが軍部隊を派遣し、同国北部とドイツの港が戦闘部隊や艦船の受け入れ基地になる。オバマ米政権は、ロシアを不必要に刺激するのを懸念して秘密裏に計画を進めたという。
ラスムセンNATO事務総長は9日、イタル・タス通信に対し、「ロシアは敵でも脅威でもない」と強調した。【12月10日 朝日】
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いろんな思惑はあるにせよ、ロシアとの関係改善をNATOが望んでいるのは事実でしょう。ただ、そのためにはロシアへの警戒感が強いバルト3国などへはそれなりの配慮も必要ということでの防衛計画でしょう。それを公にしてはロシアを刺激するだけなので秘密にした・・・外交的には納得がいく対応ではありますが、ロシアとしては面白くない話です。
こうした「裏の情報」を知る権利と、外交関係を円滑に進める必要性のどちらを重視すべきなのか・・・判断に迷うところです。

アルファ・ドッグにマフィア国家
ロシア絡みの情報としては、「(主人公)バットマンがプーチン首相。メドベージェフ大統領は相棒ロビンの役割を演じている」「プーチン首相は“アルファ・ドッグ(群れのボス犬)”だ」と揶揄するような人物評価、ロシアを「マフィア国家」と批判する公電などがこれまで公開されています。
****米公電流出】「マフィア国家」にプーチン激怒 新たな米外交官発言暴露****
 内部告発サイト「ウィキリークス」が独自に入手した大量の米外交公電を公表し続け、米政府が情報管理方法の見直しを決めるなど衝撃が広がる中、ウィキリークスは1日、さらに新たな公電を暴露。この中で欧米の高官がロシアの体制について「マフィア国家だ」「民主主義は失われた」などと酷評していたことが分かった。これに対してウラジーミル・プーチン露首相(58)は1日放送の米CNNテレビで「露政府は選挙で選ばれた政府だ。米国こそ問題がある」などと反発した。
「アルファ・ドッグ」
ウィキリークスが暴いた外交公電の中で、米外交当局者たちによる散々な人物評価が明らかにされた各国首脳のうち、直後に本人が反応を示したのは、「無能で役立たず」などと酷評されたイタリアのシルビオ・ベルルスコーニ首相(74)が「三流か四流の小役人による暴露」と反論しただけだった。あとは大人の対応をみせ、沈黙したままだった。しかし、「アルファ・ドッグ(群れのボス犬)」と揶揄されたプーチン首相が吠えたことで、余波は米露関係にも微妙に及びそうだ。
ロイター通信などによると、 スペインの首都マドリードの米大使館から今年2月、米本国に送られた公電によると、スペインの汚職・組織犯罪特別検察官はロシア政府が犯罪組織と癒着しており、実質的に「マフィア国家だ」と指摘。ロシアマフィアを懸念すべき理由として、プーチン首相のマフィアへの関与の度合いや、統制の有無が分からないことを挙げた。特定の政党が犯罪組織と緊密に協力して動いているとも述べた。【12月3日 産経】
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【『自分のことを棚に上げて他人を批判する』行為だ
こうしたこともあって、ロシア・プーチン首相はさぞやウィキリークスには怒っている・・・と思っていたのですが、意外にもアサンジ容疑者の逮捕を激しく非難しています。怒りの矛先はウィキリークスではなくアメリカに向けられています。確かにその方が論理的でしょう。

****アサンジ容疑者逮捕は「非民主的」、プーチン首相が非難****
ロシアのウラジーミル・プーチン首相は9日、英警察が内部告発ウェブサイト「ウィキリークス」の創設者、ジュリアン・アサンジ容疑者を逮捕したのは「非民主的」だと非難した。アサンジ容疑者を支持する動きが一部の世界的指導者の間で広まりつつある。
「アサンジ氏は、なぜ投獄されなければならなかったのか。これが民主主義か。まさに『自分のことを棚に上げて他人を批判する』行為だ」。プーチン首相はこのように述べ、アサンジ容疑者の逮捕を激しく非難した。

そんなプーチン首相自身も、ウィキリークスが公開した外交電文で恥ずかしい思いをした1人だ。ある外交電文では、プーチン首相の役割を快く思わないヒラリー・クリントン米国務長官が同首相を「背後で暗躍する操り人形師」と呼んでいた。ロシア高官による汚職に触れた別の電文では、プーチン首相を「イヌの群れのリーダー」と表現していた。

アサンジ容疑者への「連帯」を公言した国家指導者には、他にブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領がいる。ルラ大統領はアサンジ容疑者は「手が届かないと思われた民主主義を白日の下にさらした」人物だと評し、同容疑者の逮捕を「表現の自由に対する攻撃」だと批判した。(後略)【12月10日 AFP】
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表現の自由を認めた権利に抵触している可能性がある
また、ウィキリークスへの資金供給を断とうとする包囲網については、ピレイ国連人権高等弁務官が「表現の自由を認めた権利に抵触している可能性がある」と批判しています。
****ウィキリークスへの圧力懸念=表現の自由阻害の恐れ―人権高等弁務官****
ピレイ国連人権高等弁務官は9日、当地での記者会見で、内部告発サイト「ウィキリークス」への寄付が、金融機関による口座閉鎖などで妨害されている問題について、「情報公開への検閲ともいえ、表現の自由を認めた権利に抵触している可能性がある」と述べ、ウィキリークスへの圧力に懸念を示した。
 弁務官は、同サイトによる機密情報の暴露が「知る権利と安全保障確保や公的秩序との複雑なバランスの問題を提起した」と指摘。創設者のアサンジ容疑者が情報暴露に関する罪を犯した場合は、「公正な手続きに基づく裁判がそのバランスを判断する」と語った。【12月10日 時事】 
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NYタイムズはメディアとしての独立性を放棄
また、別の角度からの批判もあります。
NYタイムズがウィキリークス情報を公開する前に、国務省に「お伺い」を立てていたことを、「検閲を願い出るような行為」だとする意見です。

****ウィキリークス 報道の自由を捨て去ったNYタイムズの失態****
内部告発サイト「ウィキリークス」が入手した米国務省の外交公電をスクープしたのは欧米の5紙。うち唯一の米紙ニューヨーク・タイムズに、アメリカの読者から批判が殺到している。国家機密を暴露したことで「国民の命が危険にさらされる」というのだ。
米政府にとってウィキリークスは「情報のテロ組織」。ニューヨーク・タイムズは、そのウィキリークスの「メディアパートナー」に成り下がった反逆者だ---同紙に対するコメントは、こうした怒りに満ちている。

だが実際、ニューヨーク・タイムズは米政府にとって「助っ人」の役割を果たした。ウィキリークスが外交公電約25万点をサイトで公表し始めるよりも前に、同紙はメディアとしての独立性を放棄してまで、オバマ政権にその公電を見せたのだから。
ニューヨーク・タイムズは「読者へ」という文書の中で、アメリカ外交の内実を浮き彫りにする外交公電の公表が「重要な公益に合致すると信じる」と説明。一方で、同紙が報じる予定の公電を事前に米国務省に見せ、国益を損なう情報があるかを吟味させたと明らかにした。
だが報道内容について報道対象に事前にお伺いを立てるのは、メディアが政府に検閲を願い出ているようなもの。ニューヨーク・タイムズによると、同紙は政府の意向をいくつか取り入れながら「国家機密の情報源を危険にさらし、国家の安全保障を脅かす情報」を削除したという。
このような「愛国的な」米メディアがウィキリークスの情報を事前に得たのは、米政府にとってラッキーだった。おかげで政府も報道内容を先取りし、関係国への釈明に奔走できた。

実は今回、ニューヨーク・タイムズはウィキリークスから直接外交公電をもらえたわけではなかった。直接提供を受けたのは英ガーディアン紙、独シュピーゲル誌、仏ルモンド紙、スペインのエル・バイス紙のみ。ニューヨーク・タイムズはガーディアンから「再リーク」という形で公電の全ファイルを受け取ったことが、報道開始翌日にガーディアン側から暴露された。
なぜニューヨーク・タイムズはスクープにこだわりながら、事前に報道内容を政府に「検閲」させるという報道機関としての自殺行為に走ったのか。
「検閲」だけではなく、ニューヨーク・タイムズは米国務省の懸念を他国の4紙とウィキリークスに伝える「伝書鳩」の役割まで引き受けていた。
背景には、同紙が71年に報じたベトナム戦争に関する国防総省の機密書類「ペンタゴン・ペーパーズ」のスクープがありそうだ。この記憶が報道合戦に駆り立てたと同時に、「兵士の命を危険にさらした」という今も続くジャーナリズム上の大議論が、政府に事前に内容を伝える判断をさせた可能性がある。だが自ら判断するのではなく政府に相談するのは、メディアとしての責任と独立性を放棄しているのに等しい。

現在もアフガニスタンで戦争を続けるアメリカには、メディアの自己規制を評価する向きもある。12月2日発表のゾグビー・インターナショナルの世論調査によると、ウィキリークスが入手した機密文書を米メディアが公表すべきでないと答えた米国民は63%に上った。
この状況を危惧する専門家もいる。ノースウェスタン大学のティモシー・マクナルティ(ジャーナリズム学)はCNNへの寄稿で、国家機密を暴くことを過剰に批判する空気が生まれると、政府が秘密主義を加速しかねないと指摘する。
テロとの戦いに終わりが見えないアメリカは、守り続けて来た知る権利や報道の自由を捨て去ろうとしているのだろうか。【12月15日号 Newsweek】
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「人間の戦いは個人対公的機関だ」「真実や思いやりは公的機関の上下関係や不公正な利益供与によってゆがめられている」というアサンジ容疑者ですが、現実的な外交機能と国民の知る権利、表現の自由、報道の自由との関係で悩ましい問題を提起しています。
なお、アサンジ氏はケニア警察当局による殺害行為を暴露したとして、09年に人権団体アムネスティ・インターナショナルの「国際メディア賞」(ニューメディア部門)を受賞しています。



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