孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  戦争開始から2年 見えない出口、厳しさを増す戦況にきしむウクライナ社会

2024-02-22 23:12:40 | 欧州情勢

(ウクライナ・キーウ 2月11日 兵士の早期帰還を求める兵士の妻や母親らの抗議デモ 【2月22日 日テレNEWS】)

【戦争開始から2年 ウクライナで高まる傾向の厭戦ムード それでも、首相「私たちは疲れ切ってしまったわけではない。私たちは国を守り続ける覚悟がある」】
ウクライナの戦況については、開始から2年を迎えて人員・物量に勝るロシアが被害の甚大さにもかかわらず攻勢を強める結果、ウクライナ側は守勢にまわる厳しい戦いを余儀なくされていることは連日報じられているところです。

****ウクライナ、抗戦継続を7割支持 24日で侵攻2年、長期化必至****
ロシアによるウクライナ侵攻は24日、開始から2年を迎える。全土奪還を掲げるウクライナ国民の7割以上が依然として戦争継続に賛成する。

国内で高い支持を集めるロシアのプーチン大統領に譲歩の余地はなく、長期化は必至だ。犠牲が拡大し、社会に疲労が蓄積するウクライナは難局が続く。

キーウ国際社会学研究所が今月上旬、ウクライナで約1200人を対象に実施した世論調査によると、侵攻開始当初の2022年5月と同水準の73%が「必要な限り戦争に耐える」と回答した。

ロシアが併合した南部クリミア半島や東部ドンバス地方(ドネツク州とルガンスク州)を含む全土を奪還して終戦すると信じる人は65%に上った。

東部ハリコフ州や南部ヘルソンを相次いで奪還した軍の躍進は22年秋以降に停滞。昨年の反転攻勢は失敗とされ、社会に落胆が広がった。ゼレンスキー大統領は欧米の支援強化に奔走するが、求心力は下り坂だ。【2月22日 共同】
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上記調査では“ウクライナ国民の7割以上が依然として戦争継続に賛成”とのことですが、昨年の反転攻勢の失敗、強まるロシア側の攻勢、長期化する戦争と見えない出口、増大する被害、そして何より自分自身や家族の命が戦争で失われる可能性が高まっていることなどから、勝利への希望が現実性を持って語られていた1年前に比べてウクライナ社会の空気は暗く淀んできており、戦争疲れ、厭戦気分も一定に増加していることも報じられています。

****ウクライナ世論調査「領土諦めてもよい」19%、昨年5月からほぼ倍増…厭戦ムード少しずつ拡大か***
ロシアの侵略を受けるウクライナの調査研究機関「キーウ国際社会学研究所」が今月(12月)発表した世論調査によると、「平和のために領土を諦めてもよい」との回答割合が19%で昨年5月のほぼ2倍になった。

ロシアの占領下にあるウクライナ東・南部の奪還を目指す反転攻勢が思うように進まず、 厭戦ムードが少しずつ広まっているようだ。
「どんな状況でも諦めるべきではない」は74%で、初めて8割を割り込んだ。地域別に見ると、ロシアの攻勢にさらされているウクライナ東部では「諦めてもよい」は25%で、「諦めるべきではない」が67%だ。領土の放棄を容認する割合が他地域よりも高かった。

ただ、「諦めてもよい」と答えた人の71%が、「西側の適切な支援があれば、ウクライナは成功できる」と回答しており、ウクライナ国民が士気を保てるかどうかは、欧米の軍事支援次第と言えそうだ。(後略)【12月26日 読売】
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ゼレンスキー大統領が徹底抗戦を掲げ、ロシア軍が撤退し、領土を取り戻すまで戦うと強く主張し続けているのは周知のところですが。

****ウクライナ世論調査、ゼレンスキー氏「信頼」64%に低下…解任のザルジニー前総司令官は94%****
ウクライナの調査研究機関「キーウ国際社会学研究所」は15日、世論調査結果を発表した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領を「信頼する」と答えた割合は昨年12月の前回調査(77%)から低下し、64%だった。

国民的人気が高く、8日に解任されたワレリー・ザルジニー前軍総司令官は94%が信頼すると答えた。(中略)

また、ウクライナが現在進む方向について、46%が「間違っている」と回答した。「正しい」は44%で2022年5月以降、「間違っている」が「正しい」を初めて上回った。ロシアによる侵略開始から2年を前に国民の不安が見て取れる。

調査は、ザルジニー氏の解任前後の今月5日から10日にかけて、ウクライナ全土の約1200人を対象に行われた。【2月16日 読売】
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戦争長期化に伴う厭戦ムード・・・当然と言えば当然の現象ですが、ウクライナのシュミハリ首相はそれを認めたうえで、「私たちは疲れ切ってしまったわけではない。私たちは国を守り続ける覚悟がある」と訴えています。

****ウクライナ「疲れ切ってはいない」 シュミハリ首相、防衛へ決意****
ウクライナのシュミハリ首相が20日、東京都内で記者会見した。欧米で懸念されるウクライナへの「支援疲れ」について問われると、シュミハリ氏は「世界中から団結して支えてもらっている」と強調した。 

ウクライナへの支援を巡っては、欧州連合(EU)が4年間で500億ユーロ(約8兆1000億円)の支援で合意する一方、米国では支援予算案の審議が連邦下院議会で滞っている。この点についてシュミハリ氏は「米国も、EUや日本と同様にウクライナを支えてくれると信じている」と述べた。  

ロシアのウクライナ侵攻開始から24日で2年となる中、ウクライナでは徴兵逃れなど国民のえん戦ムードの広がりが指摘されている。

シュミハリ氏は「2年間も全面戦争が続いていれば自然なことだ。毎日危険にさらされ、大人も子どもも死んでいくのだから」と話し、人々の「戦争疲れ」を認めた。だが「私たちは疲れ切ってしまったわけではない。私たちは国を守り続ける覚悟がある」と訴えた。  

さらに「世界最大級の核保有国との戦争を軍事力で終わらせることは不可能だ。外交的な方法で終わらせたい」とも話した。ゼレンスキー大統領が提唱する、露軍の即時全面撤退などを含む10項目の和平案「平和の公式」に沿った形で侵攻を終わらせるよう「ロシアに圧力を与える」と力を込めた。  

シュミハリ氏は19日、ウクライナ支援に向けた官民の協力強化を確認する「日ウクライナ経済復興推進会議」に出席しており、「日本とウクライナが、新しい友好の地平を開き続けると信じている」と支援に感謝した。【2月20日 毎日】
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【ウクライナ停戦論は、ロシアが獲得した領土を固定化するような「裏」がある“取り扱い注意”との指摘】
「外交的な方法で終わらせたい」とは言うものの、ロシア軍が攻勢を強める現状、(今回は取り上げませんが)アメリカ・欧州での“支援疲れ”から、現状で可能性があるのは現状を追認するようなロシアに有利な内容での停戦でしょう。

先述のようなウクライナ国内の状況も考えれば、それでも停戦すべきとの考えもありますが、そのような“安易な”停戦を戒める見方もあります。

****「ウクライナ停戦論」の表と裏****
停戦提案は戦闘の代替ではなく、戦闘の延長線上に存在する

戦争が長期化し膠着状態が続く中、停戦をめぐる議論が増えている。だが、停戦――特に「即時」停戦――の主張は、たとえ意図せずともウクライナへの領土割譲圧力になり、ロシアの利益に合致する事実は変わらない。

ウクライナ人の命を守るというのが停戦論の「表」の目的だとすれば、ロシアが獲得した領土を固定化したり、「ウクライナはどうせ勝てない」といった認識を広めたりという「裏」の目的を持つ議論も少なくない。

侵略戦争による目的達成を認めず、ウクライナの持続的な平和と繁栄を実現するための論点を改めて確認する必要がある。

ロシアによるウクライナ全面侵攻の開始から2年を迎えるなかで、即時の停戦を模索するべきだとの声がさまざまに上がっている。日々ウクライナの人々が犠牲になり、国土が破壊されている以上、1日でも早い戦闘の終結を望むことは当然である。

加えて、ほとんどの戦争が、停戦交渉を経た何らかの合意によって終結することを考えれば、停戦交渉に関する議論がなされること自体は特別なことではない。犠牲や破壊を終わらせるべきだというのが停戦論の「表」の目的である。(中略)

その際に気をつけるべきは、ロシアが獲得した領土を固定化して侵攻の戦果を確保したり、ウクライナに領土割譲の圧力をかけたり、「ウクライナはどうせ勝てない」といった認識を広めることでウクライナ支援の気運を削ごうとしたりという、「裏」の目的が存在する可能性である。そのために、ウクライナ停戦論はまさに取り扱い注意なのである。(後略)【2月16日 鶴岡路人氏 新潮社フォーサイト】
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さらに言えば、ウクライナ側にはロシアへ強い不信感が存在し、「仮に今何らかの条件で停戦しても、結局ロシア側の時間稼ぎに過ぎず、やがてロシアは再びウクライナ侵略を再開する。クリミアやウクライナ東部でもそうであったように・・・」という考えから、停戦の意義を否定し、勝利するまで戦うしかない・・・という考えもウクライナ国民には根強く存在します。

【ウクライナにとって厳しい兵員の調達 兵士の早期帰還を求める声 兵役逃れ 暴力的な徴兵】
そうした背景で、「どんなに苦しくても今は戦うしかない」という発想にもなる訳ですが、そうであったとしてもウクライナの戦争遂行能力は極めて厳しい状況に置かれています。

欧米支援の遅れによる武器不足は絶えず言われることですが、何より兵員を維持することが難しくなっています。

先述のように、勝利が見通せず、厳しい戦地の様子が誰の目にも明らかな状況では戦争参加に消極的な国民も増加し、徴兵逃れも多く見られます。

****ロシアの攻勢許すウクライナ、増兵要する状況も招集拡大に異論噴出****
再びロシア軍によるミサイル攻撃の脅威に直面するウクライナの首都キーウで、少人数の女性グループが抗議活動を行っている。

その中の1人、アントニーナさんは、3歳の息子のサーシャちゃんを連れている。 「お父さんが家に帰ってこない。戻ってくるのを待っている」と、サーシャちゃんは話す。 

「動員に公平な期限を」と書いた紙を掲げたアントニーナさんは、現在従軍中の夫について、ウクライナ東部バフムート近郊で戦う迫撃砲部隊に加わっていると明かした。(中略)

ウクライナ軍による動員は現在無期限で行われており、中断を命じる法令はない。アントニーナさんの夫は、ロシアによる全面侵攻が始まった直後の2年前に軍に志願した。現在の年齢は43歳で、もう十分従軍したとアントニーナさんはCNNの取材に語った。

 抗議の女性たちが立つすぐ近くでは、議員たちがウクライナ軍の動員規則の改正について議論している。彼らは厳重に守られた議事堂の中にいる。数週間以内に成立する可能性のある新たな法律は、徴集される兵士数の大幅な増加に道を開くとみられている。 

2022年の前半、新兵を募集するウクライナ国内の事務所には長蛇の列ができていたが、それも過去の話だ。政府はかねて志願兵に補足する招集システムが機能していないと不満を漏らしていた。各州当局も動員規則を執行できずにいる。 

戦闘に参加できる年齢は18歳から60歳まで。ウクライナでは女性の従軍も認められているが、当該の招集の対象は27歳以上の男性のみだ。議会で審議されている法改正には、対象年齢の下限を25歳に引き下げる案が盛り込まれている。

(中略)招集命令に応じない場合の罰則は、運転免許の停止や銀行口座の取引停止を含んだ一段と厳しいものになる可能性がある。 

ただ警察は、招集逃れを取り締まっても、当該の案件が司法制度で裁かれるまでには非常に時間がかかることを認めている。過去2年間で違反が認められた2600件のうち、評決に至ったのはわずか550件だという。ある警察幹部は「この犯罪で罰則を逃れるのは不可能だと人々に悟らせるため、裁判所にはまだやるべきことがある」との見解を示した。【2月22日 CNN】
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****侵攻2年…揺れるウクライナ 兵士の妻ら「早期帰還」求めデモ 横行する“兵役逃れ”命がけの逃亡***
ロシアの軍事侵攻から2年をむかえようとしているウクライナ。国民が一致団結していた当初からは想定できなかった動きも出ています。
    ◇
(中略)ロシアによる侵攻開始からまもなく2年になります。前線でも激しい戦闘が続き、ウクライナ軍は弾薬と兵力の不足に直面。長引く戦争は、ウクライナ国内でもきしみを生んでいます。

キーウの独立広場では11日、兵士の妻や母親たちが「軍人は奴隷ではない!」と声をあげていました。前線で戦う兵士の早期帰還を求めてデモを行っていたのです。

兵士が除隊できるようになるまでの期間が定められていないため、兵士の妻たちは期間を明確にするよう訴えているのです。(中略)
    ◇
戦争が長期化するなか、国内で高まる兵役制度への不満。さらに、後を絶たないのが、兵役を逃れるため国外に脱出しようとする動きです。(中略)

BBCによると侵攻開始後、去年11月時点で2万人近くのウクライナ人が兵役を逃れるため国外に“脱出”したといいます。

私たちは、ウクライナと国境を接するルーマニア北部に向かいました。ウクライナ人の男性は、川を渡ってルーマニアへと不法入国するということです。冬には山は雪に覆われ、川の水温は氷点下近くになる過酷な国境越え。私たちは、国外に脱出した人たちに話を聞いてみました。(中略)

一様に口をつぐむなか、ルーマニアに住むデニスさんが取材に応じました。子どもが3人以上いれば国外に出られる特例を使い、家族ともにウクライナから出国しました。

ウクライナ国防相は国外の男性に対しても入隊を要請しています。今後、動員される可能性があることについて、デニスさんは…「子どもが3人もいて 、母親1人で育てるのは現実的ではありません。早く戦争が終わってウクライナの家に帰りたいです。願いはそれだけです」

出口の見えない戦い。24日、3年目に入ります。【2月22日 日テレNEWS】
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徴兵に非協力的な者も増加し、徴兵が思うように進まない状況に対し、当局が暴力的手法で徴兵を強行するといった事態も出ています。

“ウクライナでは動員対象者を軍に送り込む「軍事委員会」の不正が問題になり、ゼレンスキー大統領は8月に全軍事委員会のトップ入れ替えを指示したが「暴力的な手法による動員者の拉致」は相変わらずで、ウクライナメディアは10日「リヴィウ軍事委員会の職員が路上で男性を拉致、これに気づいた市民が止めに入ったものの職員は男性を車輌に押し込み走り去った」と報じている。”【2023年11月12日 航空万能論GF】

昨日(21日)のNHKクローズアップ現代でも、軍事委員会の職員が徴兵を拒む者に対し殴る蹴るの暴力をふるう様子も報じられていました。

そうした事態に軍事委員会の女性職員は、担当者は戦地からの帰還兵が多く、生きるか死ぬかの状況で戦っている友人らの状況を思うと・・・といったコメントをしていましたが、暴行に対する謝罪はありませんでした。

【「例え尊厳が損なわれても平和に生きたい」と言う権利はないのか?】
“戦争が終結してもロシアの占領下であれば、国だけでなくウクライナ人としての尊厳は失われる。「私たちにとっての平和は、私たちの言語を話して自由に生きることなんです」”(キーウ大日本語学科を卒業後、慶応大に留学。令和元(2019)年、NHKに入局し、NHK国際放送局に所属するウクライナ人テレビディレクター、ノヴィツカ・カテリーナさん(28))【2月22日 産経】

それはわかりますし、ほとんどのウクライナ国民が同じ気持ちでしょう。
ただ、そこに自分や家族の命がかけられ、戦争のために死ぬ危険も求められる、手足を失う可能性もある・・・というとき、「それだったら自分は戦いたくない 例え尊厳が損なわれても平和に生きたい」と思う者がいても当然でしょう。

そうした国策に賛同しない者を強制的に連行して戦わせる、殴る蹴るの暴力をふるう・・・そういう権利が国家にあるのか?
そういう対応は、戦っているロシアと同じレベルではないのか。そこまで堕して何のために戦うのか?

兵役逃れや強制的・暴力的徴兵の横行・・・長引く戦争のなかでウクライナ社会が限界にさしかかっているように思えます。

最後に極めて現実的な話を付け加えれば、今回は欧米の支援状況の話はふれませんでしたが、11月にプーチン大統領に共感するトランプ大統領復権ということになれば、ウクライナの命運も尽きます。それを考えれば、まだウクライナに同情的なバイデン政権のうちに停戦交渉をまとめるというのも、極めて現実的な発想かも。
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