孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク  シーア派南部から「反イラン」の抗議 親イラン勢力のデモ隊攻撃などで事態は混迷

2019-12-09 23:16:47 | 中東情勢

(イラク首都バグダッドにあるタハリール広場で、死亡した反政府デモ参加者の写真を掲げる人々(2019126日撮影)【127日 AFP】)

 

【「反イラン」色を強める抗議デモ 苛立ちが募るイラン】

世界で同時多発的に発生している政府への抗議行動の主要舞台が中東であり、そのひとつがイラクです。

 

イラクでは10月から、一向に改善しない経済状況、腐敗・汚職にまみれた既成政治への抗議デモが拡散、治安東京の厳しい鎮圧行動で“死者数は7日時点で450人を超え、負傷者は2万人近くに上っている”【128日 AFP】とも。

 

イラクの今回の抗議行動で特徴的なのは、シーア派が政治の中心に位置するイラクに対する大きな影響力を有するシーア派“総本山”のイランに対する不満が表面化していることです。

 

****イラン「中東支配」の野望が頓挫****

・・・・・バグダッドではグリーンゾーンへとつながる橋が市街戦の主要戦場になった。デモ隊は当初、座り込みで橋を占拠したが、治安部隊が簡単に排除したため、次からは各種の障害物を持ち込んでバリケードを築いた。

 

抗議主力はアラブ人の若者で、「イランは出て行け」「イランの傀儡は去れ」「ここはイラクだ」など、反イランのスローガンを唱和する。バスラでは、主要港につながる輸送道路をめぐる攻防が続く。

 

イラクでの騒乱は今回、クルド人自治区やアラブ人スンニ派地区では目立っていない。これまでは政府の支持基盤だった、イスラム教シーア派が多い南部が、抗議の舞台である。

 

シーア派のアラブ人が、「反政府」「反イラン」に回って、抗議の声を上げる。

 

二〇〇三年のサダムーフセイン政権崩壊以降、いっこうになくならない腐敗と汚職、近年のイラン政府の影響力増大に怒っている。

 

デモ隊は「政府はイランの掌中にある」として、アディルーアブドルマフディ首相の現政府退陣とイランの影響力排除を求めている。(後略)【「選択」12月号】

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事態は、南部ナジャフでデモ隊がイラン領事館を襲撃・放火するまでに悪化。

 

イラン、特に対外戦略の中枢にある革命防衛隊の最精鋭組織「コッズ部隊」のソレイマニ司令官は、こうしたイラクの状況に苛立ちを募らせています。

 

“「コスス部隊」のカセム・ソレイマニ司令官がたびたびバグダッド入りし、腰の定まらないイラク政府を叱咤激励している。”【同上】

 

****イラン、イラクに「断固とした」対応要求 デモ隊の領事館襲撃受け****

 イラク南部ナジャフでデモ隊がイラン領事館を襲撃したことを受け、イラン外務省は28日、声明を発表し、イラク当局に「断固とした実効的な」対応を要求したと明らかにした。

 

イラクでは政府内部の汚職に抗議するデモが続き、イランによる内政介入を拒否する声も出ている。

 

領事館への襲撃と放火は27日に発生。イラン外務省の報道官は暴徒を非難し、イラク政府に「実行犯への責任ある断固とした実効的な」対応を取るよう要求した。

 

(中略)イラクでは約1カ月前にもイスラム教シーア派の聖地カルバラでイランの在外公館が襲撃を受けた。(後略)

1129日 CNN】

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しかし、親イラン勢力が抗議デモに発砲するなどの容赦ない暴力をふるっていること、上記のようにソレイマニ司令官がイラク政治に干渉を厭わないことなどは、逆に抗議デモ側のイランへの反発を強めているようにも見られます。

 

****イラク抗議デモでひびが入るイランとの関係****

10月初めからイラクで始まった反政府デモは、同月中旬にいったん鎮静化の兆しを見せたが、アブドルマハディ首相の就任1年にあたる1025日に再び激化、政府の暴力的な鎮圧などにより、これまでに300人を超える死者と15000人以上の負傷者を出す事態となっている。

 

イラクの抗議デモの当初の主要な標的は、イラク政府の腐敗、電気、水といった公共サービスを提供できない政府の無能さであったが、同時に反イランの要素もあった。

 

デモの発端の一つは国民的英雄であったサアディ将軍の左遷に対する抗議で、左遷の背景にイラン系の国民動員軍がいたということで、イランの干渉に対する憤りが高まった。

 

ここにきて抗議はイラン批判の色彩を強めている。一つには、イランを支援するシーア派民兵組織がデモ隊に暴力を振るったのがイラン批判を強めたと指摘されている。またイラン政府やイランのクッズ部隊の司令官がイラク政府に抗議を厳しく弾圧するよう要請し、イラク人が強く反発したこともあった。

 

さらにシーア派の最高指導者の一人アリ・シスタニ師がイランによるイラク介入に反対の意を表明した。穏健派として知られるアリ・シスタニ師がイランを批判したことは、イラク国民の間での反イラン感情が如何に根深いかを示している。

 

イラクにおけるイラン批判の高まりは、両国関係に大きな影響を与えうる。これまでイラクとイランは友好的な関係にあった。イラクにとってイランは経済的にイラクを支える重要なパートナーであった。

 

イランにとってイラクは、地中海に至るシーア派の三日月地帯の重要な拠点であるとともに、米国のイラン制裁に参加しない国として貴重な存在であった。

 

3月にはイランのロウハニ大統領が大統領就任後初めてイラクを訪問し、エネルギー、鉄道建設、金融関係などの分野での協力関係を強める姿勢を明らかにした。この背景に照らして考えると、抗議デモを契機としてイラクとイランの関係悪化は急速に進んでいるように見える。

 

イラクのイラン批判は、イラクの愛国主義の表われと見ることが出来よう。そして、この愛国主義は、単にイランに反対するものであるのみならず、イランがシーア派を通してイラクへの影響力を強めていることへの反発であり、シーア派対スンニ派という宗派対立の構図への異議申し立てでもあり得る。

 

これまでイラクとイランを結び付けてきた重要な要素の一つはシーア派であった。シーア派が多数を占めるイラク国民がシーア派とスンニ派の対立を批判するとなると、今後、宗派の重要性に影響が出かねない。

 

シーア派とスンニ派の対立がイランとサウジの覇権争いの枢要な要素であることを考えても見逃せない動きである。抗議活動の結果いかんによっては、イラク情勢、イラクとイランとの関係は大きく変わる可能性がある。(後略)【126日 WEDGE

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イランが誇る“シーア派の三日月地帯”において、イラクと並んで重要拠点である、ヒズボラが国政の実質的決定権を持つレバノンでも、イラク同様に親イランのヒズボラを批判する抗議行動が起きています。

 

イラク・レバノンで親イラン路線が頓挫すれば、イランの対外戦略は基本的な見直しを迫られます。

 

こうしたイランをめぐる状況、一方のスンニ派盟主サウジアラビアもイエメンでの強硬路線を修正して和平を模索する動きがあることなど考えると、ここ数年の中東情勢の基本構図であった「シーア派・イラン対スンニ派・サウジ」という対立関係が今後変容する可能性も感じられます。

 

【首相辞任でも混迷の度を深める情勢】

話をイラクに戻すと、首相は辞任に追い込まれていますが、事態収拾の目途は立っていません。

 

****イラク国会、首相の辞任承認 デモ収拾は不明****

イラク国会は1日、辞意を表明していたアブドルマハディ首相の辞任を承認した。10月から抗議活動を繰り広げてきたデモ隊は歓迎の意を示しているが、デモが収拾に向かうとはみられていない。

アブドルマハディ氏は、イラクのシーア派最高権威であるシスタニ師が政治指導者交代を呼び掛けたことを受け、前週末に辞意を表明していた。(後略)【122日 ロイター】

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また、前出の南部ナジャフでは、121日、再びイラン領事館が襲撃・放火されています。

 

****イラン領事館にまた放火=シーア派聖地、デモ暴徒化―イラク****

反政府デモが続くイラクで1日夜(日本時間2日未明)、イスラム教シーア派聖地、中部ナジャフにあるイラン領事館がデモ隊に放火された。

 

ナジャフのイラン領事館は11月27日にも暴徒化したデモ隊に襲われたばかり。外交施設を警備する責任はイラク政府にあり、無策に対するイランの反発は必至だ。

 

イランは11月の事件後「イラク政府による襲撃者への断固とした対応」を求めていた。イラクでは11月初めにも別のシーア派聖地、中部カルバラでイラン領事館が襲撃を受けている。

 

政情不安定なイラクに対し、隣国イランは介入を強めてきた。これに対するイラクの民衆の不満が爆発していることが、一連のイラン領事館襲撃の背景に存在する。1日の領事館放火で緊張がさらに高まる事態が懸念される。【122日 時事】

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こうしたイラン・親イラン勢力と抗議デモ側の対立は悪化の様相を強めています。

そうした状態に火に油を注ぐような事態も。

 

****イラク反政府デモの拠点襲撃、12人死亡 米は新たな制裁発表****

反政府デモが続くイラクの首都バグダッドで6日、デモの拠点を複数の男が襲撃し、デモ参加者12人が銃撃により死亡した。

 

イラクをめぐっては米国が同日、イランによる「干渉」を非難し、イランが支援するイラクの武装勢力の幹部3人に制裁を科したと発表した。

 

バグダッドの主要デモ拠点となっているタハリール広場には5日、民兵組織「人民動員隊」を支持する数千人が集結しており、デモ参加者らは混乱を警戒していた。

 

反政府デモは6日、比較的落ち着きを見せていた。しかし、複数の目撃者がAFPに語ったところによると、夜に武装した男らがピックアップトラックに乗って現れ、デモ隊がこの数週間拠点にしていた大きな建物を襲撃した。

 

医療関係筋がAFPに語ったところによると、少なくとも12人が銃撃で死亡し、数十人が負傷。犠牲者の数は増える恐れがあるとしている。現場付近の野外診療所で活動する医師は、軽い刺し傷を負った少なくとも5人の手当てをしたと話した。

 

国営テレビは、「身元が特定されていない男ら」がこの建物に火を放ったと伝えた。

 

反政府デモは101日、バグダッドとイスラム教シーア派が過半数を占める南部で発生。今回の事件により、デモ発生以降の死者数は440人、負傷者は約2万人に達した。

 

米国は6日、反政府デモの参加者に対して死傷者を出す弾圧を行ったとして、イランの支援を受けたイラクの武装勢力の幹部3人に制裁を科したと発表。イランに対し、イラク内政への関与を避けるよう警告した。

 

イランはイラクの政界と軍関係者に対して多大な影響力を持ち、とりわけ人民動員隊における影響力は大きい。 【127日 AFP】AFPBB News

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アメリカによる制裁の対象となった3人は、“財務省は、3人はイラン革命防衛隊の精鋭部隊であるコッズ部隊と関係があり、首都バグダッドでのデモ隊への抑圧などに責任があるとしている。” 【127日 産経】とのこと。

 

また、国務省のシェンカー次官補(中東担当)は6日の記者会見で、「3人はイラン指導部から指示を受けていた」と指摘するとともに、コッズ部隊を率いるソレイマニ司令官が首相の後任選びに関与しているとの見方を示した。【同上】とも。

 

この事態に、デモ隊側はイランへの反発を更に強めています。

 

また、イラク政治が混乱すると必ずと言っていいほど関係が取りざたされるシーア派指導者サドル師も、今回は批判される立場にあるようです。

 

“バグダッドのシーア派指導者、ムクタダ・サドル師は難しい立場にいる。デモ隊の主力は、サドル師の名を冠しか「サドル・シティー」に住む貧しい若者たちだ。同師は「今の政府は去れ」と、デモ隊に同調するものの、「もっと反イランの旗幟を鮮明にして」と若者だちから突き上げられている。”【「選択」 12月号】

 

****イラク混迷、首都ではデモ拠点襲撃に抗議 サドル師宅にはドローン攻撃****

10月上旬から反政府デモが続くイラクで7日、前日に首都バグダッドで起きた武装グループによるデモ拠点襲撃に抗議する大規模デモがバグダッドや南部各地で行われ、参加者たちは襲撃は「殺りくだ」などと怒りの声を上げた。(中略)

 

同じ日、中南部ナジャフでは、イスラム教シーア派の指導者ムクタダ・サドル師の自宅を狙ったドローン攻撃があった。

 

サドル師の側近によれば、攻撃で外壁が損傷した。サドル師本人はイラン訪問中で不在だったが、この側近はこのような攻撃は「内戦」につながりかねないと述べており、10月以降の反政府デモをめぐる混乱は不穏な展開を見せ始めている。

 

イラクでの市民デモとしては参加者数も死者数もここ数十年で最大規模となる反政府デモが、不穏な展開によって政府への不満を示すという目的から大きく外れる恐れが出てきた。

 

AFPが医療関係者や警察、人権委員会の情報を基に集計したところでは、一連の反政府デモに絡んだ死者数は7日時点で450人を超え、負傷者は2万人近くに上っている。 【128日 AFP】AFPBB News

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“サドル師の自宅を狙ったドローン攻撃”に関して、“サドル師が最近では反イランの立場をとるようになったからだ、と説明されている。しかし、それは嘘であろう。”【129日 佐々木 良昭氏 中東TODAY】とも。

 

では、誰がどういう目的でサドル師自宅を攻撃したのか? 知りません。

サドル師側の言う「内戦」というのは、親イラン勢力と反イラン勢力の内戦ということでしょうか?

 

「反イランの旗幟を鮮明にして」と突き上げを受けているサドル師は、イランに出かけて何を相談していたのか?

 

イランを巡る対立を煽るスンニ派バース党残党の暗躍、裏で糸を引くアメリカ・イスラエル・サウジの存在・・・といった見方もあるようですが、実際どうなのか知りません。

 

わからないことばかりのイラク情勢ですが、混迷の度を深めています。

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