孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

北極海  ウクライナの緊張と共に高まるロシア・NATO間の緊張

2023-02-07 22:49:47 | 国際情勢

(【2022年11月24日 ロイター】 北極海をはさんで対峙するロシア軍基地とNATO基地)

【温暖化による氷の融解で高まる利用価値】
世間では中国の飛ばした気球で大騒ぎ、米中関係にも大きな影響を及ぼしていますが、思いがけない出来事から国家間の緊張が・・・という展開は往々にして現実でも起きることです。

先月末、『メーデー 極北のクライシス』(グレーテ・ビョ― 著 / 久賀美緒 訳 二見書房)というフィクションが発売されたとのことですが、その内容はいかにも現実に起きそうな話です。

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*****ロシア対NATO?!極北の国境近くにNATO軍の女性パイロットが墜落。一触即発の戦争危機が・・・・****
北大西洋条約機構(NATO)が大規模な軍事演習をロシアとノルウェーの国境近くで実施、ロシアとの間に緊張が高まる。

そのさなか、ノルウェー空軍の女性パイロット、イルヴァとアメリカ空軍の伝説的パイロット、ジョンは民間ヘリの護衛のため国境近くを飛ぶが、ロシア軍の戦闘機から威嚇を受けて機体が接触、ロシア領内に墜落してしまう。

ロシアはNATOによる核基地への攻撃があったと主張、第三次世界大戦勃発への危機感が漂い始めるなか、墜落直前に脱出していたイルヴァとジョンは徒歩で国境を目指す……【2月2日 PR TIMES】
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地球温暖化の影響は多岐にわたりますが、そのひとつが氷に閉ざされていた北極海の氷がとけて航路として利用可能となること、そして北極圏の地下資源開発も可能となることでしょう。

****北極海の夏の氷、温暖化進行で2050年までに消失確実=報告書****
国際雪氷圏気候イニシアチブ(ICCI)は7日公表した報告書で、急速な温暖化の進行が地球の雪氷圏に影響を及ぼしており、北極海の夏場の氷が2050年までに消失するのは確実だと警告した。

報告書によると、今年だけ見ても、3月に異常な温度上昇を記録した南極東部で雨が降り、夏にはアルプス地域の5%の氷が消えたほか、9月のグリーンランドはこの時期として記録的な規模で氷床の融解が発生したという。

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの海氷研究者で、報告書の共著者となったロビー・マレット氏は「世界の気温上昇を摂氏1.5度未満に抑え続けるための信頼に足る道筋がなくなっている以上、夏に氷がなくなるのを避けられると信じられる道筋も存在しない」と指摘した。

マレット氏は、現在開催されている国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)についても、海氷の融解を阻止する上で有効な手は打てないだろうと悲観的な見方を示した。

現在のままでは、世界の気温は2100年までに産業革命前より2.8度上昇すると見込まれている。昨年、国連の気候変動に関する政府間パネルは、世界の気温上昇のピークが1.6度にとどまった場合でさえ、夏場の海氷は消えてなくなると想定した。【2022年11月8日 ロイター】
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北極海の氷が消失し北極航路が利用可能になれば、そのこと自体はプラスではありますが、その利用をめぐって周辺国のせめぎあいが始まる・・・というのは、当然の帰結でもあります。

そういう揉め事を未然に防ごうとの提案もなされてはいますが、現実の利益を目の前にしたときどこまで各国が制御できるか・・・

****北極圏の石油開発、禁止を提唱 EU、地球温暖化対策で****
欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表は13日、北極圏を巡るEUの新戦略を発表、地球温暖化対策のため北極圏での石油や天然ガスなど化石燃料の開発を行わない方針を打ち出した。北極圏での開発や産出された化石燃料の購入をやめるための多国間の法的枠組みも提唱する。

北極圏では、天然資源や新航路の開発などを巡り米ロや中国の間で主導権争いが激化し、脱炭素化社会の実現をアピールするEUとしても関与を強めたい考え。欧州での天然ガス価格が高騰する中、議論を呼びそうだ。
 
EUは2050年までに域内の温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標を掲げている。【2021年10月13日 共同】
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北極圏に最大の関与を有しているのがロシア。ほとんど“北極海は自分のもの”という意識でしょう。
ウクライナで忙しい中でも、北極海への権利主張は忘れないようです。

****プーチン大統領、北極海の大陸棚延長巡り高官らと協議****
ロシアのプーチン大統領は27日、北極海における大陸棚の外側の境界を合法的に延長する取り組みの現状について安全保障当局者らと協議した。

ロシアは2021年、未開発の石油・ガス資源が豊富に存在するとされる北極海における自国の大陸棚の延長を国連に申請した。この地域で独自の権利を主張するカナダやデンマークにも影響を与えることになる。

ロシア大統領府によると、会議にはショイグ国防相やナルイシキン対外情報局長官ら複数の高官が出席した。それ以上の詳細は公表されていない。

ロシアによる昨年2月のウクライナ侵攻を受け、隣国は戦略的に重要な北極圏でのロシアの野心に警戒を強めている。【1月30日 ロイター】
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【ウクライナに伴う緊張の高まりで、北極圏の戦略的地政学的重要性も高まり、関係国間の緊張も】
“ウクライナで忙しい中でも”とは書きましたが、実際にはウクライナをめぐるロシアの欧米の緊張の高まりによって、ロシア・欧州・北米に囲まれた北極圏の戦略的重要性が高まっており、それに伴って関係国の緊張も高まっているようです。

****暗転する北極圏 軍事的優位に立つロシア、追うNATO****
人工衛星と交信する地上局のうち、世界最大のものはノルウェーのスバールバル諸島に置かれている。利用しているのは西側諸国の宇宙機関で、極軌道を周回する衛星から重要な信号を受信している。

そのスバールバルで今年(2022年)1月、ノルウェー本土との間を結ぶ北極海底の2本の光ファイバーのうち1本が切断された。ノルウェーはバックアップ回線に頼らざるを得なくなった。

2021年4月には、ノルウェーの研究所が北極海海底での活動を監視するために使っている別のケーブルが損傷を受けた。
この2件はノルウェー国外のメディアではほとんど報道されなかった。しかし、ノルウェー軍のエイリーク・クリストファーセン司令官はロイターの取材にこう述べた。
「偶然の事故という可能性もある。だが、ロシアにはケーブルを切断する能力がある」

クリストファーセン司令官は一般論として発言しており、意図的な損傷を示唆する証拠は何も示さなかった。だが数カ月後、ロシアからバルト海海底を経由して欧州へと至るガスパイプラインで、破壊工作により大規模なガス漏れが突如として発生した。ロシア国防省にコメントを求めたが、回答はなかった。(中略)

北大西洋条約機構(NATO)加盟国とロシアは近年、この水域での軍事演習を拡大している。中国とロシアの艦船は9月にベーリング海での合同演習を実施した。ノルウェーは10月、軍事警戒レベルを引き上げた。

だが、軍事プレゼンスという点で、西側諸国はロシアに後れを取っている。
ロシアは2005年以降、北極海に面したソ連時代の軍事基地数十カ所の運用を再開。海軍を近代化し、米軍の探知・防衛システムを回避することを狙った新たな極超音速ミサイルを開発した。

北極圏の専門家4人は、西側諸国がこの水域におけるロシア軍の能力に追いつくことを目指したとしても、少なくとも10年はかかるだろうと指摘する。(中略)

NATOのストルテンベルグ事務総長はロイターの取材にこう述べた。
「NATOは現代的な軍事能力の増強によって北極圏でのプレゼンスを高めている。これはもちろん、ロシアがやっていることへの対応だ。ロシアはプレゼンスを相当に高めている。したがって、こちらもプレゼンスを高める必要がある」

<高まる緊張>
極冠の氷が縮小して新たな航路や資源開発の可能性が出てくるにつれて、北極圏の戦略的重要性は増しつつある。海氷が溶ける夏季の2-3カ月だけアクセスが可能になるエリアもあり、新たなチャンスが生まれている。

ロシアにとっては、ヤマル半島の液化天然ガスプラントも含め、北極圏地域には膨大な石油・天然ガス資源が眠っている。

ロシアの北方を拠点とする船舶が大西洋に到達するには、「GIUKギャップ」と呼ばれるグリーンランド、アイスランド、英国のあいだの水域を抜けるしかない。ロシアのミサイルや爆撃機が北米に到達する最短の空路は、北極点の上を通過する。(後略)【2022年11月24日 ロイター】
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****ロシア、北極圏でNATO活発化と懸念 「意図せぬ事態」を警告****
ロシアのコルチュノフ北極国際協力特任大使は、北極圏で北大西洋条約機構(NATO)の軍事活動が活発化していることに懸念を示し、「意図しない事態」が発生するリスクが高まっていると警告した。ロシアのタス通信が17日、報じた。

NATO加盟を検討しているフィンランドとスウェーデンは3月、NATOの軍事演習に参加した。以前から計画されていたものだったが、2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻によって軍事演習は激しさを増した。

コルチュノフ氏は「北極圏でNATOの活動が活発化しているのを懸念している。最近、ノルウェー北部で大規模な軍事演習が行われた。地域の安全保障に資するものではないと考える」と指摘した。

その上でコルチュノフ氏は、そうした活動は「意図しない事態」が発生するリスクを高め、安全保障上のリスクとともに北極圏の生態系に深刻な打撃を与えかねないとの見解を示した。

具体的にどのような出来事を指しているのかについては言及しなかった。【2022年4月18日 ロイター】
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上記は“北極海は自分のもの”という意識のロシアの主張ですが、欧米からすればロシアこそが北極圏での軍事活動を活発化させている元凶であり、欧米はそれに対抗しているだけということにもなるのでしょう。

****次の決戦の場は北極圏か?──ロシアが狙うカナダと北欧諸国への牽制と全面対決への備え****
<天然ガスの宝庫である北極圏。そこで軍事的プレゼンスを強めるロシアに対し、アメリカも負けじと積極姿勢を見せている。もはや2022年以前の北極圏には戻れない理由とは?>

この1月、日中でも氷点下のいてつく演習場でアメリカ各地の州兵(連邦軍の予備役)が大規模な砲撃訓練を行った。

初めてのことではないが、今年はヨーロッパからラトビア軍の兵士も参加した。ロシアのウクライナ侵攻が始まって1年、北方でもロシアとの緊張が高まり、武力衝突に発展する恐れがあるからだ。

演習はミシガン州北部のグレイリングで1月20日から29日まで実施され、予備役を統括する陸軍大将ダン・ホカンソンが指揮を執った。

今のアメリカは北極圏の防衛態勢を一段と強化している、と語るのは米シンクタンク北極研究所のモルティ・ハンパートだ。

「第3次世界大戦への備えではないが」とハンパートは言う。「アメリカはロシアが基本的に敵性国家であり、北極圏でも牙をむく可能性があることを理解している」

NATOの一員であるノルウェーだけでなく、スウェーデンやフィンランドも、いざロシアとの対決という事態になればアメリカが支援してくれるものと期待している。そして米軍は、もちろんその期待に応えるつもりでいる。

今のロシアはウクライナ戦で手いっぱいに見えるかもしれないが、実は北極圏の軍備強化にも励んでいる。昨年末のCNNの報道によれば、新たなレーダー基地や滑走路の建設も確認されている。

米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)によれば、ロシアは北極圏でもハイブリッド戦術を駆使しており、ドイツ向けの天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」の破壊工作にも関与した疑いがある(ロシア側は否定している)。

アメリカ政府も昨年10月に、ロシアのウクライナ侵攻によって「北極圏の地政学的緊張」が高まり、「意図せぬ紛争の生じるリスク」が高まったと発表した。

北極圏は天然ガスの宝庫
それでもCSISは、北極圏におけるロシアの軍事的活動はもっぱら防衛的なものだとみている。
フィンランドとの国境に近いコラ半島のムルマンスクには原子力潜水艦の基地があるし、液化天然ガス(LNG)や石油精製の大規模工場もある。地球温暖化によって通年の航行が可能になりそうな北極海航路の防衛という目的もありそうだ。

だが、それだけではなく、北極圏におけるロシアの軍事力強化には攻撃的な側面もあるとCSISは指摘する。北極圏に接するカナダや北欧諸国などを牽制し、「可能性は低いが、あり得ないとは言えない」NATOとの全面対決に備えるためだ。

「死活的に重要なコラ半島の核戦力を守るためなら、ロシアはノルウェーやフィンランドへの限定的な侵攻に踏み切る可能性もある」。CSISは今年1月の報告書で、そう警告している。

それに、北極圏は今でも全世界のLNG生産量の約8%を占めている。だから経済的にも戦略的にも、ロシアの未来は北極圏における権益の維持に懸かっている。

北極圏の資源争奪で戦争が始まる可能性は低いとしても、よそで起きた紛争の火の粉が北極圏まで飛んでくるシナリオは十分あり得る。北極研究所のハンパートは言う。

「今となっては、もう2022年以前の北極圏には戻れない」【2月7日 Newsweek】
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上記のように「北極圏の地政学的緊張」が高まるなかにあって、冒頭で紹介したフィクション『メーデー 極北のクライシス』のような「意図せぬ紛争の生じるリスク」も現実味を増しています。

【ロシア 南極でも資源開発に乗り出す動き】
北極圏のように「地政学的重要性」はありませんが、地下に膨大な資源が眠っているということでは北極圏に劣らないのが南極。

南極をめぐる資源開発に関してはいろいろの議論・交渉が行われていますが、ロシアは遠路はるばる南極にも出かけているようです。北極海で培った極地開発技術を南極でも活用・・・ということでしょう。

****ロシア極地調査船に抗議デモ 南ア・ケープタウン港****
南アフリカ・ケープタウン港に寄港しているロシアの極地調査船に対し、南極で禁止されている鉱物資源の開発に乗り出すことを懸念する環境保護活動家が抗議の声を上げている。

ロシアのメディアによると、ケープタウンに寄港したのはアカデミック・アレクサンドル・カルピンスキー号。昨年末、南極での科学調査に向けロシアの港を出港していた。気候変動危機を訴える団体「絶滅への反逆」のメンバーは、ケープタウンへの入港は28日午前としている。

これを受けて活動家らは29日、港に集まり、「化石燃料はもういらない、南極から手を引け、戦争反対」などと連呼した。

調査船は、ロシア国営の探鉱会社ロスゲオの子会社が所有している。

「絶滅への反逆」の広報は、「次は鉱物資源開発を狙っているとみている」と述べた。ロスゲオの広報は28日付のロシア主要経済紙コメルサントに「南極大陸および周辺海域における活動は専ら科学的なものだ」と説明している。 【1月30日 AFP】
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【氷河や永久凍土の中から新たなパンデミックの危険性も】
個人的に「極地の氷がとけて・・・」ということに関して不安なのは、シベリアなどの永久凍土に眠っていた未知のウイルス・細菌が活性化する可能性ですが、これもあながち絵空事ではないように思います。新型コロナ以上のパンデミックを引き起こすかも・・・。

****「次なるパンデミック」は溶ける氷河から始まるかもしれない?****
気候変動によりノルウェーでもフィヨルドが溶けている

次なるパンデミックが、コウモリや鳥類からではなく、溶け出す氷から始まるかもしれないことが新しいデータから見えてきた。

カナダの北西準州にあり、北極圏北部で最大の体積を誇るヘイゼン湖の土壌と湖沼堆積物を遺伝子解析したところ、ウイルスのスピルオーバー(異種間伝播)のリスクは溶ける氷河に近いほど高いかもしれないことが示された。

この研究結果から示唆されるのは、気候変動のせいで地球の気温が上昇するにつれ、氷河や永久凍土に閉じ込められていたウイルスやバクテリアが目覚め、近くの野生生物に感染する可能性がより高くなるということだ。しかも、野生生物の生息地が北極・南極の近くに寄ってきているとなればなおさらだ。

過去の一例として、2016年にシベリア北部で炭疽菌が流行し、児童が1人死亡し、感染者が少なくとも7人出たが、これは熱波で永久凍土が溶けて、炭疽菌に感染したトナカイの死体がむき出しになったことが原因とされている。それ以前にこの地域で炭疽菌が流行したのは1941年のことだった。(後略)【2022年10月19日 クーリエ ジャポン】
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