孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  不法移民対応に揺れる 強制送還措置は? バスでNY市に送られた移民のその後は?

2023-02-02 23:27:23 | 難民・移民

(メキシコとの国境を視察するバイデン米大統領(左から3人目)=テキサス州エルパソで8日、AP【1月10日 毎日】)

【当面存続することになった強制送還措置「タイトル42」】
アメリカにおいて中絶や銃規制と並んで政治を左右する大きな問題となっているのがメキシコ国境に押し寄せる不法移民への対応。

トランプ前政権は、コロナ対策を名目に、通常の法的審査なしで移民希望者を即座に送還できる「タイトル42」を適用して強制送還していました。

バイデン大統領は選挙ではこの「タイトル42」廃止を掲げていましたが、実質的には就任後もこれを運用継続して移民を強制送還してきました。

しかし、移民の権利を重視する勢力からの批判もあって、バイデン政権は昨年末の「失効期限」に併せて、タイトル42を失効させることとしました。

これに対し、不法移民規制を求める州からはタイトル42の存続を求める訴えがだされ、昨年末段階ではその扱いに関する司法判断が注目されていました。

****国境に殺到する不法移民…「タイトル42」まもなく失効 「送還」と「受け入れ」で揺れるアメリカ国内****
アメリカ南部のメキシコとの国境沿いに、不法に国境を越える移民が殺到している。国境の川沿いにはテントがひしめき合い、すでに入国した移民希望者のなかには、滞在するはずの避難シェルターが満員状態となり、空港で生活する人まで出ている。

なぜこのような事態に陥っているのか。それはトランプ政権時代の2020年に導入した「タイトル42」と呼ばれる移民制限措置を連邦地裁が無効とし、21日に失効する予定となっていたからだ。

“国境が開放される”と希望を持った移民希望者が大挙して押し寄せ、メキシコとの国境の街、テキサス州エルパソ市では行政機能が破綻直前となり、非常事態も宣言された。

バイデン政権は「国境を開放するものではない」と事態の混乱を抑えるメッセージを出す一方で、予定通りにこの「タイトル42」を廃止する方向で進めていた。

しかし連邦最高裁は19日、19州からの緊急請願を受け、この失効を一時停止し、20日までに19州からの要望に対する政府の回答を求めた。

バイデン政権は20日に、この法律の失効の一時停止を少なくとも27日まで延長した上で、「タイトル42」を予定通り失効させるべきとの回答を最高裁に示した。

「タイトル42」実際の運用は…
不法移民が押し寄せている、テキサス州のグレッグ・アボット知事は18日、米ABCテレビのインタビューで「タイトル42の終了は完全な混乱をもたらす」と強調し、法律の失効に大きな懸念を示した。

この「タイトル42」とはアメリカの公衆衛生法の一部で、伝染病などを持ち込む危険があると判断した場合に、入国を禁止できる措置だ。

トランプ政権時代の2020年に新型コロナウイルスの感染が拡大し発動された。表向きは、感染拡大を防ぐためとしているが、実際の法律の運用は、不法移民を入れないために適用されている面があり、2年間での送還者は250万件以上に及んでいる。

移民制限措置は他にもあるが、もう1つの主な法律である「タイトル8」と呼ばれるものは、罰則も含めて適用が厳格な分、送還するプロセスに何年もかかることがある。一方で、タイトル42は、伝染病の蔓延を防ぐ立て付けのため、通常の法的審査なしで移民希望者を即座に送還できるメリットがあり、運用する側は非常に使い勝手がよいのだ。

アメリカメディアによれば、ほとんどの場合、2時間以内に不法とされた移民を追い出すことができるとしている。ただ、移民希望者に対して、国内で亡命を求めることを認めず、迫害や人権侵害の恐れがある人までも簡単な手続きで追放できることから、人権無視だとの批判も起きていた。

さらに、送還されてもそれがほとんど記録に残ることはないため、繰り返し何度も挑戦することができ、事態の解決にはつながっていないとの声もある。

アメリカとしては、処理に時間がかかる従来の法律と、簡単に送還できる「タイトル42」との併用を続けてきたわけだが、この片翼の「タイトル42」が失効することで、不法移民は期待を持って国境を渡ろうとし始めたのだ。

押し寄せる不法移民に街は大混乱
国境の自治体関係者や非営利団体などは、すでに入国した移民希望者への住居、食料、衣料を提供しているが、行政機能は限界を迎えているといっていい状況だ。

テキサス州エルパソ市では、国境警備隊の不法移民との遭遇件数が12月に1日あたり2500件に達し、すでに5万人以上の不法移民が市や非営利の避難所、街中に解放された。避難所は収容人数の限界を超え、公立学校の建物を使う可能性なども検討されている。

しかしエルパソ市では、入国希望者を保護する施設やアメリカ国内で移動する手段を提供することができず、街中に人があふれかえり、さらに押し寄せる不法移民の波に、非常事態を宣言する状況に追い込まれてしまった。

テキサスの地元紙「テキサスマンスリー」はこの事態に、バイデン大統領とアボット知事の両方に対して厳しい論調を示している。ニカラグアのような権威主義と機能不全に陥っている国や、ベネズエラのような国から逃れてきた人たちを受け入れることもできず、難民と地元住民の双方を危険にさらしていると批判。

「深刻な問題に直面しているが、解決可能な問題だ」と強調して、政治的な対立を優先せずに、大統領と知事がともにこの問題の対処に当たるよう呼びかけた。(中略)

政治的な対立を超えて対策は?
この状況にかみついたのは、トランプ前大統領だ。
19日の声明では、「過去2年間、バイデンは何百万人もの不法移民を招き入れ、巨大な不法越境を行わせてきた」と政権を批判。(中略)

バイデン政権は2022年の早々に、このタイトル42を解除しようと動いたこともあったが、準備不足という面も否めず、不法移民に悩む州からの訴えもあり、この解除を延長した経緯もある。

実際に、トランプ政権からバイデン政権に移行して以降は、移民希望者や不法移民は増加傾向にあり、アメリカ国内でも大きな社会問題となっている。移民政策に寛容なバイデン政権としては不法移民の対策をしつつ、移民を受け入れようという意欲は見えるものの具体的な対策は乏しく、後手に回っている印象だ。

ただ、野党・共和党側にも果たして責任がないのかとも言える状況でもある。アボット知事側はこれまで、増加する不法移民をバスに押し込め、民主党・バイデン政権の支持基盤である、ニューヨークやワシントンDCと言った都市に送りつける強硬手段をとって物議を醸したこともある。

11月に行われた中間選挙を前に、「政治的パフォーマンス」とも批判されたが、連邦政府、州政府ともに具体的な対応策を協調して行う動きは見られず、現状の解決にはほど遠い状況にあると言える。

国民からは、「何でもかんでもバイデン政権のせいにする」と批判の声も強まり、党派を超えてこの問題を解決していこうという姿勢が感じられないというものだ。(後略)【2022年12月27日 FNNプライムオンライン】
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「12月27日以降」どうなるのか注目されていた「タイトル42」でしたが、アメリカ最高裁は12月27日、法廷闘争が決着するまで継続を認める判断を示しました。

【バイデン大統領 新たな移民対策】
“具体的な対策は乏しく、後手に回っている印象”との批判があるバイデン大統領は年明け早々に、新たな対策を発表しました。

不法入国者への取り締まり強化策として、中南米の4カ国(ベネズエラ、キューバ、ハイチ、ニカラグア)から許可なく入国しようとした移民は、強制退去の対象とすることに。

一方で、合法的な入国の道を広げ、この4カ国から特別な入国枠で毎月最大3万人を米国に受け入れる。ただし、不法入国を試みた人は対象外にする・・・という内容。

しかし、強制退去対象を拡大するという国境管理強化の側面があるため民主党内には批判もあります。

バイデン大統領は1月8日には就任後初めて国境を訪問して、上記対策をアピールしています。

****バイデン米大統領、メキシコ国境を初訪問 不法移民対策をアピール****
バイデン米大統領は8日、中南米からの移民希望者が殺到している南部テキサス州エルパソを訪問し、国境管理の現場を視察した。バイデン氏がメキシコとの国境地帯を訪れるのは大統領就任後初めて。5日に公表した不法移民対策の新たな措置をアピールする狙いがある。

バイデン氏はエルパソで税関・国境警備局の担当者らから取り締まり状況の説明を受けた。国境沿いに設置されている巨大なフェンスも視察。支援団体などと対策の在り方についても意見交換した。

新たな措置は、昨年10月からベネズエラ出身者に適用している制度をキューバ、ハイチ、ニカラグアの出身者にも拡大するのが柱。米国に身元引受人がいるなどの条件を満たせば2年間の滞在と就労が可能になる。不法越境した場合は原則としてメキシコに強制送還される。(後略)【1月9日 毎日】
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共和党からは国境訪問が「遅すぎた」「写真撮影のため」(マッカーシー下院議長)といった批判も。

【NYにバス移送された不法移民は今どうなっているのか?】
一方、共和党アボット・テキサス州知事など南部州知事がバスに押し込め、民主党・バイデン政権の支持基盤である、ニューヨークやワシントンDCといった「移民に寛容」とされる都市に送りつけた不法移民はその後どうなったのか?

****南部州からNYにバス移送された不法移民は今どうなった?****
<南部州から大量に移送されてきた不法移民は、リベラルなニューヨークでどんな暮らしをしているのか。思ったより悪くないとも思えるが、「俺たちは犬じゃない」と怒っている>

ベネズエラ人のアイザック・カスティリャーノ(21)は2022年8月に米南部の国境を越えてアメリカに入国。10月からニューヨーク市に滞在し、12月からはマンハッタンにあるワトソンホテルで暮らしてきた――今週までは。

1月29日、外出先から戻ってみると、カスティリャーノは1カ月半滞在したホテルから突然、締め出された。ニューヨーク市が、不法移民のうち独身男性をブルックリンにあるクルーズ・ターミナルに設置したテント村に移し、ワトソンホテルには子連れの家族を滞在させることにしたためだ。

カスティリャーノはその日のうちにバスでテント村に向かったが、施設を一度ぐるりと見た後、マンハッタンに戻ることにした。市が用意した「新しい家」の状況について、仲間の移民たちに警告しなければと思ったためだ。

彼をはじめ、ほかにも「引っ越し」を求められた不法移民たちは、ホテルの部屋にはもう入れないため野宿をすることにした。1月31日午後の時点で、彼らはまだ57丁目の路上に設置したテントの中で、ホテルに戻る許可が下りるのを待っていた。

「ワトソンホテルのような、もっと安定した場所に滞在できるという約束だった」と彼は本誌に述べ、さらにこう続けた。「騙された気分だ」

国の問題なのに都市に負担が
ニューヨーク市当局によれば、過去1年で推定4万3000人を超える不法移民が、南部の州からバスでニューヨークに移送されてきている。

ジョー・バイデン米政権に、南部国境地帯の問題に対処するよう圧力をかけるために始められたこの「移送」が、ニューヨークの資源を圧迫し、多くの不法移民を混乱に陥れている。

ニューヨークのエリック・アダムズ市長は、バイデンに連邦政府の助けを求めてきた。バイデンは31日に、看板政策のインフラ投資法をアピールする遊説のために、ニューヨークを訪れる予定だ。アダムズは、「国家の問題」についてニューヨークのような都市が負担を強いられているのは不公平だと主張する。

テキサス州など南部の複数の州の知事は、大量の移民が不法に越境してくる問題に注目を集めるため、バイデンが大統領に就任した2年前から、移民をバスに乗せて北部の州に移送してきた。

政府は不法移民の問題に対処するための長期計画を模索しているが、アダムズは「必要なのは短期計画だ」と言う。

1月25日にMSNBCの人気番組「モーニング・ジョー」に出演したアダムズは、次のように語った。「自分の家が燃えている時に、防火対策についての議論なんて聞きたくはない。私は火を消して欲しいのだ。いま起きている火事は、国内の複数の都市に不法移民や難民希望者が集中しすぎているという問題だ」

アダムズの事務所は本誌と共有した声明の中で、ブルックリンのクルーズ・ターミナルはワトソンホテルと同様のサービスを提供すると主張している。

だが1月29日にバスで移送された不法移民たちは、テント村から出て、自分たちが目にした状況について抗議の声を上げている。

インターネット上に投稿されたテント村の写真や動画には、狭いスペースに折り畳みベッドが並んでいる様子が映っている。カスティリャーノは本誌に対して、新たな施設にはプライバシーがほとんどなく、400人以上の収容者に対してトイレが4つだけで、持ち込みを許されたスーツケース1個の保管場所もないし、携帯電話を充電するためのコンセントもないと語った。

ほかの複数の男性は、ニューヨークのウェブメディア「Gothamist」に対して、新たな施設はとても寒く、暖房もなければお湯も出ないと語った。

「あそこで犬みたいに寝るのはごめんだ」とカスティリャーノは言い、さらにこう続けた。「僕らが望んでいるのは、もっとましな生活だ」(中略)

アダムズの報道官は、ブルックリンに出来た新たな施設は暖房があって適切な温度管理が行われており、トイレも85~90あると説明。収容者一人ひとりに、荷物を収納するスペースが割り当てられていると述べた。

カスティリャーノをはじめとする不法移民たちがブルックリンのテント村に移るのを拒んでいる理由のひとつは、同施設が公共交通機関では訪れにくいレッドフックに設置されていることだ。ワトソンホテルの近くで仕事を見つけたり、英語のクラスに通ったりしている者にとってブルックリンへの引っ越しは、新たな職場や学校から約13キロも離れた場所に移ることを意味する。

ニューヨーク・ポスト誌は1月に入って、アダムズがニューヨーク市ホテル協会と2億7500万ドルの契約を結び、今後6カ月にわたって少なくとも5000人の移民を同協会に登録する300のホテルで受け入れる取り決めを交わしたと報じた。ただしニューヨーク市は、これらのホテルには家族連れの移民を優先的に滞在させたいとしている。

カスティリャーノは、今の一番の悩みは、少なくとも3カ月は確実に滞在できる場所を見つけることだと言う。ワトソンホテルに移る前には、ランドールズ島にある広さ約7800平方メートルの仮設の人道支援施設に滞在していたが、ここは開設から1カ月を待たずして閉鎖されてしまった。ニューヨークに来てからは何度も滞在場所が変わったため、地理には詳しくなったという。

「保護を求めている訳ではない。何も求めてはいない。ただベッドと、安心して眠れる場所が欲しい」とカスティリャーノは言った。(後略)【1月31日 Newsweek】
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ニューヨーク市のアダムズ市長によれば、受け入れ費用は最終的に20億ドル(約2560億円)に達する見通しとのことで、バイデン民主党政権に対策を求めています。

一方で、移民のための支出に市民からは不満も。

****宿泊1泊5万円…NY移送の〝不法移民〟への不満募る****
米ニューヨーク市のアダムズ市長(民主党)が米南部の国境地域から移送された4万人超の〝不法移民〟への対応に苦慮している。受け入れ費用は最終的に20億ドル(約2560億円)に達する見通しで、バイデン民主党政権に対策を求めた。

アダムズ氏は受け入れを歓迎するが、膨大な費用がかかるのに加え、一時滞在先のホテルでの移民の振る舞いが問題化し、市民の不満は募っている。

「ホテルの部屋に調理器具を持ち込んで自炊し、カーペットが焦げた」「感染症対策を守らない」「飲酒禁止なのに大量のビールの空き缶が廃棄される」。一時滞在先ホテルの従業員は1月、米ABCテレビにこう証言し、火災発生や伝染病拡大への懸念を訴えた。

ホテルはマンハッタン中心部に位置し、宿泊費用は通常1泊400ドル(約5万2千円)以上という。「米国人でも手が届かないサービスを移民に提供するのは間違っている」(マッコーイ元ニューヨーク副知事)との不満も出ている。

移民はもともと、メキシコからビザ(査証)を持たずに米南部テキサス州などに侵入し、拘束された不法移民。米国が制裁を科す反米左派政権のベネズエラから来る例が増えている。亡命を申請し、一定の条件を満たすと判断されれば、申請に対する決定が出るまで、合法的な一時滞在が認められる。

不法移民に寛容なバイデン政権の発足後、一時滞在が認められやすくなると期待が高まり、不法入国を試みる人が急増した。負担の増えたテキサス州などで批判が強まり、アボット同州知事(共和党)が昨春から、政権への抗議の意思を込めて首都ワシントンにバスでの移送を始めた。

ニューヨーク市への移送は昨年8月に開始。アダムズ氏は昨秋の中間選挙を前に、「ニューヨークは移民の街だ。常に新たな移民を歓迎する」と述べる一方、アボット氏を「思いやりの心がない」と批判するなど、移民政策は党派対立を色濃く反映した課題となっていった。

米公共ラジオなどの8月時点の全米調査では、「南部国境が侵食されている」と答える成人が半数を超えた。ニューヨーク在住の20代女性も「本音を言えば心地よいわけではない」と話す。

ニューヨーク市の負担は移民用の食事確保や教育支援などで増加の一途をたどり、アダムズ氏は非常事態を宣言。今年1月にはバイデン大統領に続き、テキサス州国境付近の街エルパソを視察した。2人の視察は「現場に来て実態を知るべきだ」とアボット氏が訴えていたものだ。

対策に窮するアダムズ氏は視察後、「移民を全米各地に分散する計画を立ててほしい」とバイデン政権に要望。移民支援の活動家は、政権の対応に期待を寄せる。

ただ、たらい回しにされることに嫌気がさす人もいるようだ。子供2人を連れてベネズエラからニューヨークにたどり着いたダビッド・ガストロさん(34)は1日、取材に対し「カナダの(最大都市)トロントに行きたい。米国よりも移民に寛容なイメージがあるからだ」と話した。【2月2日 産経】
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“1泊5万円”云々は、全てのホテルの話ではなく、中にはそういう事例もあるということではないでしょうか。

いずれにしても不法移民への対応は難しい。寛容に扱っても、厳しく扱っても、批判はあるでしょう。バイデン大統領の対応が後手に回っているのも、ニューヨーク市などへの支援が十分でないのも、そういった問題の性格によるものでしょう。
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