(キリスト教会襲撃の事件現場を訪れたオンド州のアラクンリン・アケレドル知事ら=6月6日【6月7日 CHRISTIAN TODAY】)
【ナイジェリア 相次ぐキリスト教会襲撃事件】
西アフリカのナイジェリアはアフリカ最大の人口、経済規模を誇る地域大国で、急速な経済成長を実現している国ですが、一方で大規模なテロ・武力衝突が絶えない国でもあり、アフリカのポジティブな面とネガティブな面の両面を併せ持つ国でもあります。
今年6月にも大規模な事件が2件報じられています。
****ナイジェリアで教会襲撃、ペンテコステのミサ中に 子ども含む50人以上死亡****
ナイジェリア南西部オンド州オウォのカトリック教会「聖フランシスコ・ザビエル教会」が5日、武装集団に襲撃された。当時、教会では聖霊降臨祭(ペンテコステ)のミサが行われていた。警察はまだ死者数を発表していないが、病院関係者は子どもを含む50人以上の遺体が医療機関に運び込まれたと話している。
衛生放送局「アルジャジーラ」(英語)によると、事件は現地時間午前11時半(日本時間午後7時半)ごろに発生。ミサが行われていた教会に対し、数人が外から銃撃を加え、4人が教会内に対し直接銃を撃ち込んだ。武装集団は教会に爆発物も仕掛けたという。
これまでのところ、犯行声明は出されておらず、誰による犯行なのかは分かっていない。(中略)
ロイター通信によると、ナイジェリアでは、主に北東部でイスラム過激派が勢力を持ち、北西部で武装したギャングが身代金目的で誘拐事件を起こしているが、南西部でこのような事件が起こるのは珍しいという。(後略)【6月7日 CHRISTIAN TODAY】
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****武装集団が30人以上拉致 村や教会襲う―ナイジェリア****
ナイジェリア北部カドゥナ州で19日、武装した集団が村やキリスト教の教会を襲撃し、3人が死亡、36人が拉致された。地元の治安当局者が20日、明らかにした。36人のうち「地域の指導者ら2人は解放された」と語った。
南西部オンド州でも5日、教会が襲われ、数十人が殺害されている。犯行声明は出ていないが、政府内には武装勢力「イスラム国西アフリカ州(ISWAP)」の関与を疑う声もある。ただ、ISWAPの主な活動領域は遠く離れた北東部だ。【6月21日 時事】
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【日本メディアの無関心さへの指摘も】
“2件報じられています”と書きましたが、死傷者数の多さに比べて日本メディアの扱いは小さく、6月5日の事件は前出の教会系メディアの他はCNN報道を見たぐらいでしょうか。
これが欧米で起きた事件であれば、おそらく大ニュースとなったことでしょう。
そのあたりの“無関心さ”を指摘する声も。
****日本メディアがほとんど報じなかった黒人キリスト教徒大虐殺テロ ナイジェリアで起きている「極度の迫害」****
ナイジェリアで相次ぐキリスト教会襲撃
アフリカ西部のナイジェリアで、キリスト教徒が大量に虐殺されるテロ事件が頻発している。6月19日には北部カドゥナ州でキリスト教の教会が襲撃され、3人が殺害され36人が拉致された。6月5日には南西部オンド州で教会が襲われ、40人以上が殺害された。ナイジェリア当局は10日、「あらゆる状況から鑑みて」テロ組織「イスラム国西アフリカ州(ISWAP)」の犯行だと非難した。
2週間のあいだにナイジェリアでキリスト教会が立て続けに襲撃され、50人近くのキリスト教徒が殺害されているというのに、日本のメディアはこのテロについてほとんど報道していない。
2019年にニュージーランドで白人の男がイスラム教のモスクを襲撃し、51人のイスラム教徒を殺害した際の報道と比較すると、その差は歴然としている。2020年には日本のメディアも「黒人の命は大切だ!(Black Lives Matter)」と大合唱した。
しかし日本のメディアは、西側諸国で白人がイスラム教徒や黒人を殺害したりする事件は執拗に報道する一方で、アフリカで黒人イスラム教徒が黒人キリスト教徒を殺害する事件についてはほとんど無関心と言っていい。
共同通信が7日に配信した「教会襲撃、22人死亡 ナイジェリア南部、ミサの最中」という記事は、ロイター通信を引用した極めて短い記事である上に、犯人がイスラム過激派であることに全く言及していない。
時事通信が21日に配信した「武装集団が30人以上拉致 村や教会襲う―ナイジェリア」という記事は、5日のテロについて「『イスラム国西アフリカ州』の関与を疑う声もある」としつつも、「ただ、ISWAPの主な活動領域は遠く離れた北東部だ」とその可能性を否定している。
ナイジェリア当局がISWAPの犯行だと非難してから既に10日以上が経過しているにもかかわらず、時事通信が勝手にその可能性を否定するというのは極めて奇妙だ。
狙われるキリスト教徒 迫害状況「過去30年間で最悪」
5日のテロは、日曜日にキリスト教徒たちが五旬節を祝うために教会に集まっているところを狙ったものであり、死者の中には多くの子供も含まれていた。犯人らはキリスト教徒になりすまし、彼らに紛れて教会の中に潜入、突如キリスト教徒に対して銃口を向け、爆弾を爆発させた。犯行後、キリスト教徒たちが血の海の中に倒れ、周囲の人々が泣き叫ぶ映像が出回った。明らかにキリスト教徒を標的とした卑劣なテロである。
紛争や人道危機の情報収集・分析プロジェクトを行う米国NGOのArmed Conflict Location and Event Data Project(ACLED)によると、ナイジェリアでは2022年に入ってから6月までの間に、教会やキリスト教徒に対する襲撃がすでに23件発生している。
2021年は1年間に31件、2020年には18件だった。同NGOは、2019年以降ナイジェリアでキリスト教徒を標的とした攻撃は明らかに増えていると指摘する。
2022年5月には教会指導者の拉致・誘拐が相次いだだけでなく、ISWAPがキリスト教徒20人を処刑する映像を公開、これは「世界中のキリスト教徒」に対する警告であり「ジハード戦士たちはこの世の終わりまで彼らと戦い続けるだろう」と述べた。
NGOクリスチャン連帯インターナショナル(CSI)は既に2020年6月の段階で、ナイジェリアのキリスト教徒は2015年以降、イスラム過激派によって6000人殺害されているとして、国連安保理に対しジェノサイドを防ぐため適切な行動を取るべきだと呼びかけた。しかし国連は特に策を講じていない。
迫害を受けるキリスト教徒たちを支援する国際NGO「オープン・ドアーズ」は2022年1月、「76カ国で3億6000万人を超すキリスト教徒が、信仰を理由にした過酷な迫害や差別に苦しんでおり、その数は昨年と比べて2000万人増えている」と報告し、世界中のキリスト教徒の迫害状況は過去30年間で最悪だと述べた。
ナイジェリアに関してはキリスト教徒が「極度の迫害」にさらされている国の一つであり、ISWAPとボコ・ハラムはキリスト教徒を殲滅することを目的に、無差別かつ残忍な攻撃を続けていると報告されている。
差別反対を強く打ち出すメディア自体が、人種差別、宗教差別と判断されうる報道をしているのは皮肉な矛盾である。【7月1日 イスラム思想研究者 飯山陽氏 FNNプライムオンライン】
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「日本のメディアは、西側諸国で白人がイスラム教徒や黒人を殺害したりする事件は執拗に報道する一方で、アフリカで黒人イスラム教徒が黒人キリスト教徒を殺害する事件についてはほとんど無関心と言っていい」という飯山陽氏の指摘は事実でしょう。
“日本のメディア”というより欧米メディア全般にも言えることでしょう。
【「遠い世界」で日常的に起きる暴力への「慣れ」、感性の麻痺】
ただ、それは白人・黒人という人種的観点とか、あるいはイスラム過激派に対するどこか宥和的な反応というよりは、「遠い世界」アフリカでの事件であり、その「遠い世界」ではテロ・紛争が日常茶飯事に起きているということから生じる「無関心さ」「慣れ」「感性の麻痺」のように思えます。
ナイジェリアだけでも今年に入って100人を超える犠牲者の事件が頻発しています。
****ナイジェリア北西部で武装集団の襲撃相次ぐ、死者200人以上****
ナイジェリア政府は9日、北西部ザムファラ州で武装集団が村を相次いで襲撃し、少なくとも200人が殺害されたと発表した。1万人以上が家を追われ、避難民となっているという。
アフリカ最大の人口を擁するナイジェリアでは長年、北西部と中部で農耕民と牧畜民が土地をめぐって衝突してきた。その中で、一部が「盗賊団」と化し、殺人や略奪、身代金目当ての誘拐を繰り返している。
今回の襲撃の被害が最初に明らかになったのは8日早朝だった。
サーディヤ・ウマル・ファルーク人道・災害対応・社会開発相は9日、初めて公式に犠牲者数を発表し、「恐ろしく悲劇的」な襲撃を受けて「200人以上が埋葬された」と述べた。また、1万人以上が「盗賊に家を破壊され」て避難を余儀なくされたほか、大勢が行方不明になっているとした。
7日にAFPの取材に応じた現地住民4人は、武装集団が2日間にわたって2地区を襲い、少なくとも140人を殺害したと語っている。また、被害に遭った村の住民は、武装集団は「目に入った人全員」に向けて発砲していたと証言した。
ただ、ザムファラ州知事は、死者は58人だと主張している。州当局は昨年、盗賊団の弱体化を図るとして約3か月間にわたり通信の遮断や燃料の販売制限、家畜市場の閉鎖など厳しい制限措置を導入したが、襲撃は続いている。
ナイジェリア北西部では昨年、学校や大学が襲われ、生徒や学生が何百人も誘拐される事件も多発し、世界で大きく報じられた。
軍は、昨年5月以降に「武装盗賊団などの犯罪集団」537人を殺害、374人を逮捕し、「誘拐された民間人」452人を救出したと発表している。
首都アブジャに拠点を置くビーコン・コンサルティング・ナイジェリアの治安アナリスト、カビル・アダム氏は今回の襲撃について、軍が最近展開している作戦への報復の可能性があるとAFPに指摘した。 【1月10日 AFP】
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****襲撃後168人連絡付かず ナイジェリア、鉄道乗客ら****
ナイジェリアの首都アブジャから北部の都市カドゥナへ向かう鉄道が3月28日夜、武装集団に襲撃される事件があり、鉄道公社によると、乗員ら8人が死亡、乗客ら168人が連絡の付かない状態となった。ロイター通信が4日伝えた。
ナイジェリア北方では近年、身代金目的で武装集団が学校から生徒や教職員を拉致する事件が頻発しており、今回も営利目的での拉致との見方が出ている。ロイターによると、行方不明者の複数の親族が、実行犯の一味とおぼしき人物から接触があったと話している。【4月5日 共同】
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イスラム過激派のキリスト教徒襲撃だけでなく、農耕民と牧畜民の土地をめぐる衝突、武装集団による営利目的での拉致・・・何でもありの状態。
その中心に位置するのは、やはり「ボコ・ハラム」に代表されるイスラム武装勢力でしょう。
「ボコ・ハラム」は2014年4月、ボルノ州の学生寮を襲撃し女子生徒240人が拉致し、「奴隷として売り飛ばす」との犯行声明が出したことで世界中の注目を集めましたが、そのテロ活動はそれ以前からのものです。
もともとナイジェリアは北部はイスラム教徒が多く、南部はキリスト教徒が多いという地域性もあって、両者の衝突は頻発しており、その中核に「ボコ・ハラム」が存在しています。
このブログの2011年、2012年あたりの記事でも以下のようにも。
こうした過去の経緯、いっこうに収まらない現状を見ると、教会襲撃で50人前後が死亡といった話を聞いても「またか・・・相変わらずだね・・・」と聞き流してしまいがちです。
しかし、言うまでもなく、こういう暴力・残虐行為は許されざる異常なことであり、ナイジェリア政府は暴力を減らすためにどのような対応をすべきか、世界はどのような協力ができるかを真摯に考える必要があります。