孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  中絶禁止を容認した最高裁判断後の動き 中絶の権利法制化、州を移動しての処置、中絶薬

2022-07-04 23:09:08 | アメリカ
(【6月25日 BBC】)

【州を舞台に法廷闘争】
6月25日ブログ“アメリカ最高裁、判断変更で州ごとの中絶規制を容認 ブラジル大統領、11歳少女のレイプ妊娠中絶を非難”でも取り上げた、アメリカにおける中絶問題のその後の動きをいくつか。

WHOテドロス事務局長は「全ての女性は、自分の体と健康に関して、選択する権利を持つべきだ」と、今回の米最高裁判断を批判しています。

****WHO事務局長「女性は自分の体に関して選択する権利を持つべき」米連邦最高裁の中絶権利覆す判断に****
アメリカの連邦最高裁判所が人工妊娠中絶の権利を認めた過去の判決を覆す判断を示したことについて、WHO=世界保健機関のテドロス事務局長は29日、判断に反対の立場を示しました。

WHO テドロス事務局長 「全ての女性は、自分の体と健康に関して、選択する権利を持つべきだ」

アメリカの連邦最高裁は24日、人工妊娠中絶の権利を認めた1973年の判決を覆す判断を示し、賛否の声があがっています。

WHOのテドロス事務局長は29日の会見で、「WHOの立場を再確認したい」としたうえで、「安全な中絶は命を救う」、「規制は女性や少女に安全でない中絶へと駆り立て、結果として、合併症や死にもつながる」と述べました。

そして、裁判所の判断を「後退」だと批判し、「女性の権利を守るために、一体となることがより重要だ」と強調しました。【6月30日 TBS NEWS DIG】
***********************

米連邦最高裁判断を受けて州レベルで中絶制限・禁止の合法化や、これを差し止めようとする法的措置が相次いでいます。状況は州によって異なります。

****米各地で中絶禁止の州法巡り法廷闘争、最高裁の判断転換受け****
米連邦最高裁が人工妊娠中絶を憲法上の権利と認める1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆す判断を下したことを受け、中絶を巡る法廷闘争の舞台は州裁判所に移った。

ルイジアナ、ユタ両州の裁判所は中絶を禁止・制限する州法を差し止める判決を27日に下し、アイダホ、ケンタッキー、ミシシッピ、テキサスでも同様の差し止め命令を求めて医療機関が訴訟を起こした。

この6州を含む13州では、連邦最高裁がロー対ウェイド判決を覆せば自動的に中絶を禁止あるいは制限する、いわゆるトリガー法が成立している。(後略)【6月28日 ロイター】
********************

****米テキサスとオハイオの州最高裁、中絶制限・禁止を支持 各州で法廷闘争****
中絶の憲法上の権利を否定した6月24日の米連邦最高裁判断を受けて州レベルで中絶制限・禁止の合法化や、これを差し止めようとする法的措置が相次ぐ中、テキサス州とオハイオ州の州最高裁が1日、それぞれ中絶制限と禁止の実施を認める判断を出した。

テキサス州では、州に中絶判断の権限を認めた6月の連邦最高裁の最新判断を受けて、1925年にさかのぼる中絶禁止の古い州法を無効とし新たに中絶再開の州判断を求める訴訟が起こされていた。28日の裁判所判断は中絶再開を容認。共和党の同州司法長官がこの差し止めを求め州最高裁に訴えていた。

オハイオ州でも1日、中絶を事実上禁止する2019年成立の州法を合法とし執行することが州最高裁に支持された。

テキサス州の1925年州法の差し止めを求める中絶クリニック弁護代理人は、さらなる法廷闘争を表明。7月12日に再び州の下級審で弁論が予定され、そこで差し止めを勝ち取れる可能性があるとしている。

中絶の権利擁護団体は連邦最高裁の判断以降、全米11州で反中絶の州法に訴訟を起こし、フロリダ州やルイジアナ州、ケンタッキー州、ユタ州の各裁判所は中絶制限・禁止の差し止めに動いている。【7月4日 ロイター】
*********************

【バイデン大統領 中絶の権利の法制化支持も、実現は困難】
一方、バイデン大統領は全国レベルの対応として、中絶の権利の法制化を支持しています。

****「中絶の権利」法制化約束=上院の規則改定支持―バイデン米大統領****
バイデン米大統領は30日、マドリードで行った記者会見で、連邦最高裁が人工妊娠中絶の憲法上の権利を否定する判断を下したことを受け「(中絶の権利を)法制化してこの判断を変えなければならない」と述べた。さらに、野党の議事妨害(フィリバスター)を打ち切って抵抗を封じる上院規則の改定を支持する考えも明らかにした。【6月30日 時事】 
*****************

現実問題としては、法案を成立させるためには野党の議事妨害(フィリバスター)を打ち切って抵抗を封じる上院規則の改定が必要になります。
ただ、これについては民主党内にも異論があり、実現は難しそうです。

****中絶権保障法案は「議事妨害の対象外に」 バイデン氏が考え示す****
バイデン米大統領は6月30日、訪問先のスペイン・マドリードでの記者会見で、人工妊娠中絶や同性婚など「プライバシーの権利」を保障する法案について、連邦上院での議事妨害(フィリバスター)の対象外にすべきだとの考えを示した。連邦最高裁が、女性が中絶を選ぶ権利を認める判例を覆したことを受けて、中絶の権利を保障する立法措置のハードルを下げる狙いがある。

しかし、フィリバスターの例外規定を増やすことには、与党・民主党内でも反対論があり、実現の見通しは立っていない。(中略)

連邦上院(定数100)には、予算関連法案や人事案などの例外を除き、法案の討論を打ち切って採決に進むために議席の5分の3(60票)の賛成が必要だという規則がある。そのため、野党でも41議席以上あれば、法案の審議を阻むこと(フィリバスター)が可能だ。現有議席は民主系、共和が50ずつのため、民主党のバイデン政権が進める法案の成立を共和党が阻む事態が再三起きている。

バイデン氏は36年間上院議員を務めた経験があり、討論の徹底や少数意見の尊重など上院の伝統に根ざすフィリバスターの制度変更には消極的だった。

しかし、共和党によるフィリバスターで政策を思うように進められず、民主党内からも「無策だ」との批判が高まる中、今年1月には投票機会を拡充する法案に関してフィリバスターの例外にすべきだと発言。中絶を巡っても「具体的対策が乏しい」と党内から批判されていることが、今回の発言につながったとみられる。

しかし、民主党の中でも中道寄りのマンチン、シネマ両上院議員は、フィリバスターに例外規定を増やすことには反対している。例外規定を設けるには過半数の賛成が必要で、共和党の反対を踏まえると、民主系50人全員の賛成と上院議長を兼ねるハリス副大統領の決裁票が欠かせない。

マンチン氏は中絶の権利を法律化すること自体にも消極的で、今年5月に中絶権擁護の法案の審議を進めるための投票が行われた際も民主党から唯一反対し、法案審議が頓挫した。

フィリバスターを巡っては近年、与党側が討論打ち切りに必要な票数を例外的に過半数に引き下げ、法案や人事案の採決を容易にする動きが徐々に拡大している。民主党はオバマ政権時代の2013年、最高裁判事を除く連邦機関の人事案を例外扱いにすると決定。共和党もトランプ政権時代の17年、最高裁判事の人事案を例外に追加した。【7月1日 毎日】
*********************

【グーグル 中絶関連施設訪問履歴を削除】
“保守的な州では、中絶処置を施した医師や、中絶をほう助した人を告訴する権利を市民に認める法案が相次いで可決されている”状況を受けて、グーグルは中絶をめぐる捜査や訴追でユーザー情報が利用されないための対策を講じ始めています。

****グーグル、中絶クリニック訪れた履歴を削除へ 米****
米グーグルは1日、プライバシーの保護が求められる中絶クリニックやドメスティックバイオレンス被害者の保護施設などをユーザーが訪れた場合、ロケーション(位置情報)履歴を削除する方針を発表した。(中略)

履歴から削除される場所は他に、不妊治療センター、依存症の治療施設、痩身(そうしん)専門のクリニックなど。

米連邦最高裁判所がこのほど、女性の人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆す判断を下したことを受け、中絶の権利を訴える活動家や政治家はグーグルをはじめとするIT大手に対し、中絶をめぐる捜査や訴追でユーザー情報が利用されないよう対策を求めている。
 
スマートフォンのデータと中絶の権利をめぐる懸念が取りざたされるようになったのは連邦最高裁の判決以前からで、この数か月、保守的な州では、中絶処置を施した医師や、中絶をほう助した人を告訴する権利を市民に認める法案が相次いで可決されている。

そのため、民主党議員は今年5月、グーグルのスンダー・ピチャイ最高経営責任者に書簡を送り、「リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)関連の医療を求める人々を弾圧しようとする極右の過激派勢力の道具」として利用されないよう、スマートフォンの位置情報の取得停止を要請していた。 【7月2日 AFP】AFPBB News
*****************

【緊急避妊薬(アフターピル)需要急増】
最高裁の中絶規制容認判断、各州の禁止措置法制化を受けて、緊急避妊薬(アフターピル)への重要が急増しています。

****米アマゾン、緊急避妊薬に購入制限 最高裁判決で需要急増****
米インターネット通販大手アマゾン・ドット・コムは28日、緊急避妊薬(アフターピル)の購入を一時的に週3箱までに制限すると発表した。

米連邦最高裁は先週、人工妊娠中絶を憲法上の権利と認める1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆す判断を下した。これを受けて「プランB」として知られる市販の「緊急避妊薬(アフターピル)」の需要が一時的に急増した。

薬局チェーン大手CVSヘルスは28日、判決後に導入した購入制限を24時間以内に解除すると明らかにした。(後略)【6月29日 ロイター】
*******************

【経口中絶薬、州を移動しての中絶処置をめぐる議論も】
州によって中絶が事実上禁止されることになるため、別の州に移動して処置を受けるとか、経口中絶薬を利用するといった方法も今以上に広がると思われますが、それらに規制をかけようとする動きもあって、論議が激しくなっています。

****アメリカの一部で中絶クリニックの閉鎖始まる 中絶権の合憲性覆す最高裁判断受け****
(中略)
バイデン大統領は最高裁判決について、女性の健康と命を危険にさらすもので、「極端な思想が具体化した、最高裁による悲劇的な過ち」だとも述べた。

バイデン大統領は報道陣を前に、中絶が制限されている州の女性が、中絶を認める他の州へ移動する「その基本的な権利を、私の政権は守る」と述べ、女性が移動する権利に州政府が介入することは認めないと話した。

さらに、女性が今後も確実に避妊具や、妊娠10週までの妊娠を終了させる経口中絶薬(流産治療に使われる)を入手し続けられるように対策を講じるとも述べた。

今回の判決は、約半世紀前に連邦最高裁が定めた判例を、同じ最高裁が自ら覆したことになり、きわめて異例。今後、アメリカ国内で激しい論争と政治対立を引き起こすとみられている。

中絶をただちに禁止しようとする各州とは逆に、カリフォルニア、ニューメキシコ、ミシガン各州などでは与党・民主党所属の州知事が、「ロー対ウェイド」判決が覆された場合に備えて、人工中絶権を州の憲法で保障する方針を発表している。さらに、カリフォルニア、ワシントン、オレゴン各州の知事は、中絶手術のため他州から移動してくる患者の保護を約束した。

中絶に関する世論が割れている、ペンシルヴェニア、ミシガン、ウィスコンシンなどの州では、中絶の合法性が選挙ごとに争われる可能性が出ている。他の州では、中絶を認める州に個人が移動して中絶手術を受けたり、郵便で中絶薬を取り寄せたりすることの合法性などが、個別に争われる可能性がある。(後略)【6月25日 BBC】
***********************

アメリカの食品医薬品局(FDA)は中絶薬を2000年に承認しています。手術と比べ、体への負担が少ないとされ、米国では中絶の半数以上で用いられています。

特に新型コロナウイルスの感染が拡大してからは、中絶薬の使用が増え、FDAもオンラインや電話の診察で処方を認めています。このため、中絶が禁じられた州に住む女性でも、州外の医師から処方を受け、薬を郵送してもらうことができます。

バイデン大統領は最高裁判決直後に、中絶薬へのアクセスを保護するよう、保健福祉省などに指示していますが、サウスダコタ州のノーム知事は6月26日、テレビで「これは非常に危険な医療行為だ。医師がいない状況では危険なので、提供可能にすべきではない」と発言し、中絶薬の郵送を禁じる意向を表明しています。

最高裁判決を受けて、性暴力で妊娠した10歳の少女が地元では中絶を拒否され、州外で中絶する事例も。

****性暴力で妊娠した10歳の少女 地元で中絶拒否され手術求めて州外へ アメリカ****
10歳の少女が、自身が暮らすオハイオ州で中絶手術を拒否され、インディアナ州までの渡航を余儀なくされた。 
インディアナ州の地元メディア・Indiana Star Tribune紙によると、少女は妊娠6週間と3日目だったという。(中略)

オハイオ州では、いわゆる胎児の心拍活動が始まる6週目前後以降の中絶を禁止している。複数の団体が州法の発行を阻止するため訴訟を起こしたが、中絶禁止の緊急停止はオハイオ州最高裁判所によって却下され、訴訟審査中は中絶禁止が支持される、とオハイオ州地元メディア・Cincinatti Enquirer紙は報じている。

この10歳の少女のような性的暴行の被害者が、中絶手術のためにインディアナ州に渡航するという選択肢さえも、近い将来失われる可能性が高い。

インディアナ州の議員たちは、中絶をさらに制限もしくは禁止することが予想されている。同州議会は7月25日に特別会議を開き、法改正を議論する予定だ。

インディアナ州の医師たちは現在、中絶が禁止された他の州から手術を求めてやってくる患者の数が急増していると報告している。(後略)【7月4日 HUFFPOST】
*****************

【アメリカの中絶希望女性を支援するメキシコ】
一方、国境を超えて中絶を支援する取り組みも。

****妊娠中絶、メキシコが支えに 米国女性に救済の手****
(中略)高額の医療費と、中絶を考え直すよう求める圧力に直面した米カリフォルニア在住のシングルマザーは、中絶手術を受けるため隣国メキシコの支援団体を頼った。(中略)

最高裁の判断以前から、米国内で安全な中絶手段にたどり着くのは「お金がなければ難しかった」と、サンディエゴのレストランで働くこの母親は、AFPの電話取材に語った。3人の子どもがいる。避妊していたが失敗したという。

米国内のクリニック2か所に相談したところ、いずれも手術費用が約1000ドル(約13万5000円)かかると言われた。とても払えなかった。一方のクリニックは宗教系で、「産んだ子どもを養子に出すという選択肢もある」と説明され、中絶を思いとどまるよう説得された。

女性は友人から、サンディエゴの南、メキシコ・ティフアナを拠点に活動しているNGO「コレクティバ・ブラディス」のことを教えてもらった。米国で中絶を受けられない女性に無料で支援を提供する、国境を超えたネットワークに参加している団体だ。

「メキシコから支援が差し伸べられたことに驚いた。ここ(米国)のほうがずっとリベラルだと思っていたから」
NGOの対応はとても速かった。相談してから1日もたたずに回答があり、世界保健機関が安全だとして推奨する経口中絶薬が送られてきた。質問にもすぐに返事をくれ、「常に寄り添ってくれた」という。

■対照的なメキシコ
コレクティバ・ブラディスが参加する支援ネットワークは、約30団体が参加して今年1月に発足した。メキシコの支援活動家は、安全な中絶手段を利用できない米国女性からの関心の高さに驚いている。

同じくネットワークに参加する団体「ラス・リブレス」の創設者ベロニカ・クルス氏によれば、5月時点で女性200人に国境を超えた支援を提供し、医薬品1000セットを送った。

当初想定していた支援提供対象は主に中南米系の女性だったが、実際にはスペイン語を話さない人からも要請が届いている。

「ほとんどの人が経済的な理由で助けを求めてくる。国境の向こうでは薬代が600ドル(約8万円)もかかり、処方されるのに何週間も待たなくてはならない。私たちは無料で提供している」と、クルス氏は説明する。

米国とは対照的に、メキシコ最高裁は昨年、人工妊娠中絶を犯罪とみなす法律を違憲と判断した。全土で、中絶は事実上認められている。
 
2007年に中絶を合法化した首都メキシコ市は、米最高裁判決を受け、米国女性への支援提供を表明した。
市保健当局のオリバ・ロペス・アレジャノ局長は、「国が権利を認めていたのにそれが後退していくのは全く時代に逆行している。悲しく、言語道断だ。われわれはいつでも支援する」とAFPに語った。 【6月27日 AFP】
********************

アメリカとメキシコ、立場が逆転したようです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする