(「奇襲白虎団」の中朝両軍団結勝利のシーン【4月13日 Foresight】 「四人組」筆頭の江青が手がけた文革時代を代表する作品のひとつですが、習近平政権下で「重点推奨作品」に)
【紅い史跡」巡り人気 文革を煽った革命現代京劇が「重点推奨作品」に】
今年7月で中国共産党は結党100周年の節目を迎えます。
そういう時期にありがちな流れですが、結党当時の精神に立ち帰るという発想が、毛沢東とも並ぶ「一元的支配」を確立した習近平国家主席のもとで、政治だけでなく文化面でも色濃く出ています。
****中国で「紅い史跡」巡り人気、結党100周年控え****
中国の習近平国家主席は、共産党の歴史を「再発見」するよう求めている。そして聖地であるここ江西省・井岡山市では、「巡礼者」がその呼びかけに応じている。
丘の上に位置する人口約20万人のこの町は「紅軍」誕生の地であり、「 中国革命発祥の地」として知られる。共産党結党100周年の節目を7月に控え、信奉者にとってはほぼ宗教的な重要性を持つ史跡の1つだ。
「中国全土から人々が井岡山を訪れ、ここを人生における神聖な地であり、精神的な安らぎの場だと考えている」。中国政府が手配した外国人記者団向けの現地訪問ツアーで隼学軍市長はこう説明した。
共産党はここ数十年、資本主義への傾倒を強める中国の姿勢とますますかい離しているかに思われた。だが、習氏は実権を握った2012年以降、党を再び人々の生活の中心に据えるとともに、「中国人の復興」や「社会主義の核心的価値観」といったスローガンを全土に定着させることを狙っている。
1921年7月の結党から100年に当たる今年は、習氏にとってこうした価値観を国民に再確認させるまたとない好機だ。そして井岡山や貴州省・遵義といった共産党ゆかりの地は、こうした目的に利用されている。
井岡山にとっても、新型コロナウイルス禍による観光業への打撃で、昨年は非常に厳しい年となった。当局者によると、同市の革命博物館の年間入場者数は89万人と、前年から半減した。
国内でウイルス封じ込めに成功し、100周年の節目が近づく中、中国全土で共産主義ゆかりの史跡を訪ねる「紅色旅遊(レッドツーリズム)」が再び盛り上がりをみせている。習氏は米中両大国の「新型大国関係」を提唱しており、国民に愛国心を鼓舞する。(後略)【4月26日 WSJ】
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*****習近平の「未来理想像」を映す建党100周年祝賀「京劇」が選出*****
家族を捨て武漢に向かう医師を描いた新作も。文革時代に洗脳・教育の柱となった京劇が、いままた浮かび上がらせる「正しい党史観」としての毛沢東思想。
毛沢東以来の歴代中国共産党政権は、国慶節など国を挙げての祝賀行事や記念行事、さらには国際会議などに際し、それに相応しい内容の京劇を公演し、内外に政治的メッセージを発信してきた。
この宣伝手法をより積極的に踏襲する習近平政権は、今年7月の共産党建党100周年に向けて、5000本を優に超える京劇演目の中から推奨作品を選び出した。
『中國京劇』(2020年12月号)によれば、中国政府(文化和旅游部)は2020年10月30日に新作、古典、小品のうちから各々100本を選び、「重点推奨作品」として発表した。
その理由は、「習近平総書記の文芸工作に関する一連の重要講話の精神を確実に貫徹し、中国共産党成立100周年祝賀舞台芸術創作工作をより高いレベルで推し進めるため」だという。
ということは、「重点推奨作品」は「習近平総書記の文芸工作に関する一連の重要講話の精神」に沿った内容を十分に持ち、共産党成立100周年を祝うに適切な作品ということになる。
そこから、習近平国家主席が思い描いている「成立101年以降」の理想の共産党像が浮かび上がってくるに違いない。
一貫するテーマは「為人民服務」
選ばれた主な作品を見ると、『七個月零四天』は、チベット高原を横断する「青蔵公路」(1954年開通)の建設に当たった慕生忠将軍と旗下の2000余名の工兵部隊による7カ月と4日間の悪戦苦闘がテーマであり、共産党員の新中国建設への献身的で英雄的な姿を描き出す。(中略)
一貫するテーマは、毛沢東の演説から生まれたスローガン「為人民服務」(人民に奉仕する)であり、もちろんストーリーの背景には、毛沢東に収斂する共産党の絶対無謬性がある。以上が新作部門の代表作品である。
共産党のために死力を尽くす主人公
(中略)このように演目を挙げてみると、「愛国」、「救国」、「民族統一」もさることながら、やはり共産党の正統性と「為人民服務」が一貫したテーマとして浮かび上がってくる。「習近平総書記の文芸工作に関する一連の重要講話の精神」もまた、それを求めているということだろう。
文革を煽った革命現代京劇模範劇も
それにしても複雑な思いに駆られるのは、革命現代京劇の代表作である『紅灯記』や『奇襲白虎団』も選ばれていることだ。
前者の舞台は抗日戦争で、敵役は日本軍。血は繋がらないが革命精神で結ばれた祖父・息子・孫娘の3代の抗日奮闘記である。一方、後者の舞台は朝鮮戦争。「白虎団」と名付けられた韓国軍最強部隊と米軍に挑む中国の義勇軍と朝鮮人民の連帯を讃える。
中国共産党は一貫して京劇を教育・洗脳の手段の柱に捉えて来た。その典型が文化大革命期における革命現代京劇である。国共内戦、抗日戦争、大躍進などをテーマにした様板戯(模範劇)によって、毛沢東思想の絶対無謬性を国民の頭の中に叩き込もうとしたわけだ。
文革は中国で「10年の大後退」と批判され、日本でも「中国の政治、経済、社会、文化のすべてにわたって重大な打撃を与えた」(『岩波現代中国事典』岩波書店 1999年)と見なされる。
その文革を大いに煽った「毛沢東式勧善懲悪劇」とでも呼ぶべき革命現代京劇模範劇も「習近平総書記の文芸工作に関する一連の重要講話の精神」に合致するなら、習近平国家主席にとって現代革命模範劇は過ぎ去った激動の時代のホロ苦い思い出などではなく、文革は「大後退の10年」ではなかったということになる。
1953年生まれの習近平国家主席にとって「大後退の10年」は、13歳から23歳の少年期から青春期という多感な時期に重なる。毛沢東が絶対権力を掌握する時代に生まれ、毛沢東を神と崇めながら成長した、いわば「純粋・毛沢東世代」である。
今年の2月20日に開催された「党史学習教育動員大会」で、「まさに今こそ、全党を挙げて党史学習教育を進めるべき時である」と訴えた習近平国家主席。
建党以来の一切の革命活動の功績が自らに収斂する党史を描いた毛沢東に倣い、毛沢東と自らに価値基準を置く「正しい党史観の樹立」を目指すのであれば、京劇は格好の教育・洗脳の手段となろう。
中国共産党成立100周年は、共産党の正統性と「為人民服務」を讃え、愛国、救国、民族統一を内外に強く訴える機会になりそうだ。【4月13日 樋泉克夫氏 Foresight】
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“習氏は実権を握った2012年以降、党を再び人々の生活の中心に据えるとともに、「中国人の復興」や「社会主義の核心的価値観」といったスローガンを全土に定着させることを狙っている。”
“習近平国家主席にとって現代革命模範劇は過ぎ去った激動の時代のホロ苦い思い出などではなく、文革は「大後退の10年」ではなかった”“毛沢東と自らに価値基準を置く「正しい党史観の樹立」を目指すのであれば、京劇は格好の教育・洗脳の手段となろう”
習近平国家主席が、絶対的権威を有した毛沢東に、また、その毛沢東が権力闘争として劉少奇一派打倒のために発動して絶対的権威を確立した文化大革命(習近平氏は少年期から青春期という多感な時期をそのなかで過ごした訳ですが)に、強い共感を持っているのではないか・・・ということは常々言われていることですが、結党100周年を機に原点に立ち帰るという流れのなかで、更にその色合いを鮮明にしているようにも思われます。
【文革批判の温家宝前首相のエッセイが発禁扱い】
その毛沢東・文革の時代に回帰するような流れに棹さす者は許されません。たとえ前首相でも。と言うか、前首相だからこそ許されないと言うべきか。
****温家宝の「発禁」寄稿、習近平の逆鱗に触れたあの言葉****
最近、習近平政権にタブーとみなされている刊行物を国外や香港、マカオなどから中国内に持ち込んだとして、きびしい懲罰にあったり、党籍はく奪や刑事罰に遭うケースが増えているらしい。
そのタブー視されている刊行物の中には、温家宝が、自分の母親を偲ぶエッセイを寄稿した週刊紙「マカオ導報」も含まれているという。
すでに一部では報じられているが、温家宝が自分の亡き母親の思い出を清明節(中国のお盆に相当。墓参りをして故人を偲ぶ日。2021年は4月4日)に合わせて4回にわたって連載した内容が、どうやら習近平の逆鱗に触れて、ネット上では閲覧制限され、ちょっとした騒ぎになっていた。
温家宝の「我が母親」というタイトルのエッセイは、「マカオ導報」に3月25日から4月15日にかけて4回に分けて掲載された。微信の媒体公式アカウントにも転載されたが、すぐに閲覧制限され、事実上の発禁扱いになった。理由は不明だが、文章が習近平の逆鱗に触れたのだ、と噂された。
「文革は再び起こり得る」と警告
中身は苦労した母への愛情があふれたものだが、その含むところは多層的で、温家宝自身と母親の名誉、紅二代(革命世代の子弟、共産党貴族)との矛盾・確執、中国が進む道と温家宝自身の理想が乖離していくことについての現政権への不満・・・などが読み取れる。
温家宝は胡錦涛政権時代、「親民宰相」と呼ばれた庶民派の総理だった。胡錦涛とともに胡耀邦を信望する党内開明派とみなされ、また共青団派(共産主義青年団出身派閥)の特徴である官僚気質が強い。
華字ネットメディア「多維ニュース」に掲載されたこのエッセイに対する論評では、温家宝と文革との関係を取り上げている。この論評記事のタイトルは「母を偲ぶ文章が発禁に 温家宝はなぜ文革を忘れられないのか?」だ。
温家宝は「我が母親」の中で、文革が今日に至るまでの政治運動に影響を与えているとし、温家宝一家自身、文革期間に災難に遭ったことを書いている。
たとえば温家宝の父親は1959年に歴史問題で教師の職を追われ、文革期には吊し上げを食らい、学校で軟禁され、給料も出なくなり、大字報と呼ばれる政治的壁新聞が家の門に貼られ、野蛮な“尋問”に遭い、造反派に殴られていつも顔が腫れていたという。
多維ニュースの論評記事はこう語る。「温家宝はおそらく文革に何度も言及した唯一の中共指導者だ」。温家宝はかつて公開の場で、「文革の錯誤がまだ完全に消えていない。政治体制改革は成功しておらず、文革は再び起こり得る」と警告していた。
具体的に思い出すのは、2011年、薄熙来が重慶モデルをぶち上げて絶好調だったとき、温家宝は中南海で香港の政治元老、呉康民と単独で会見し、「中国の改革が困難である主な理由は、封建制度の残滓(=残りかす)と文革の遺毒(=今も残る毒)である」と語っていたことだ。
温家宝のこの発言は呉康民を通じてメディアに暴露され、大きな反響を引き起こした。薄熙来が文革期に紅衛兵の一員だったこともあり、「文革の遺毒」とはおそらく薄熙来のことだと誰もが思った。(中略)
多維ニュースの論評によれば、温家宝がこれほど何度も政治改革を呼びかけ、文革に言及した大きな理由は、文革の遺毒がすでに中国の改革を阻害し、政治改革が進まなくなり、文革の再来の可能性がまだあると、温家宝自身が見ているからだろう、という。
「文革2.0」が発動されるのか?
2012年の温家宝最後の総理記者会見からしばらくたってから、私は党内事情に詳しい知人から、「温家宝の言う『文革の遺毒』とは、みんな薄熙来のことを指していると思っているようだが、本当は習近平に対する批判なのだ。温家宝は習近平が文革を再発させることを恐れている」と耳打ちされた。
このころはまだ、習近平がここまで毛沢東的な独裁者だと気づいている人は少なかったが、今思い返せば、温家宝たちは習近平の「文革脳」の危うさをすでに認識していたにちがいない。
もし温家宝の寄稿が、文革を批判したことで習近平の逆鱗に触れて削除対象になったというならば、習近平は第20回党大会で長期独裁政権を確立する手段として「文革」を発動するつもりなのではないか、という疑念が生じてくる。
文革は、毛沢東が政治的ライバルの劉少奇を打倒するために、若者を洗脳し動員して起こした政治闘争だ。なぜあのような異常事態が10年も継続したのか、今もってきちんと説明できる人はいない。あえていえば、その当時の中国人は無知蒙昧で、貧しく、情報も少なく、洗脳されやすかったのかもしれない。
ならば、世界第2位の経済体となりIT技術が発達し、グローバル経済の主役級の中国で、いかに習近平が「文革脳」であっても、その呼びかけに今時の若者たちが簡単に洗脳されて、階級闘争を発動させるようなことがあるだろうか? と誰もが思う。
だが昨年来、「文革2.0」という言葉が中国党内人士たちの間でささやかれているのは事実である。つまりバージョンアップされた文革だ。
文革時代のような相互監視、相互密告、相互批判による人民の分断と疑心暗鬼による混乱、その混乱に乗じて世論を誘導し、攻撃の矛先を政敵に向かわせて打倒する権力闘争。60年代の文革のような、街路で相手が肉の塊になる程の集団リンチを行う野蛮さは今の中国の若者にはないかもしれない。
だが、インターネットや最新のハイテク、システムを使って若い“ネチズン”を操り、同じような効果を得ることはできるかもしれない。いや、すでに始まっている、という見方もある。実際、ネット上で徒党を組み、ターゲットを定めて、他者に売国奴やスパイというレッテルを張って徹底的に攻撃する若者が、「ネット紅衛兵」として存在感を示すようになっている。
大学の思想教育を強化
また、習近平政権は最近、中共建党100周年記念出版物として『中国共産党簡史(1921〜2021)』を出版したが、この新版党史で文革10年の歴史を大幅に省略した。
(中略)これは、習近平が文革に対する大衆の悪い記憶を薄めようとしているのだと受け取られている。それは習近平自身が文革2.0を起こそうと考えている、あるいはすでに文革を仕掛けているからかもしれない。
ちなみに新版党史では、習近平の執政期間のわずか9年に全体の4分の1の紙幅が割かれている。自分こそが党史の主役であるといわんばかりだ。
また、建党100周年祝賀行事の出し物に「白毛女」「紅色娘子軍」など文革時代の紅色革命劇が準備されているし、清明節の間、北京の福田公墓にある、文革の旗手であった毛沢東の妻、江青の墓地が対外的に開放され、なぜか再評価のムードが盛り上がっている。
さらに最近打ち出されている「中国共産党普通大学基層組織工作条例」などをみると、大学の思想教育強化、監督管理統制の強化が進められている。(中略)
大学生、院生たちを洗脳し、管理監督統制を強化し、習近平に忠実な紅衛兵を育て上げるつもりなのかもしれない。実際、中国のSNSへの書き込みで世論誘導工作にあたっている2000万人前後のボランティアは、大学の党機関が募集する学生だという。彼らは就職斡旋などの見返りを求めて応募しているらしいが、ネット紅衛兵予備軍ともいえる。
習近平が恐れているのは誰か?
(中略)ほとんどの中央の政治家、官僚たちはおそらく習近平のやり方に不満を持っているが、習近平を権力の座から引きずり下ろすほどの気概はないように見える。なのに、なぜ習近平は文革を起こそうとしているのか。
それは、習近平が恐れているのは人民だからではないか。
新型コロナ肺炎が昨年武漢で発生したとき、庶民がいかに習近平政権に不満を抱えているかが垣間見えた。今後経済の減速がはっきりし、食糧問題やエネルギー問題が目に見える形でひっ迫していけば、いつ庶民の不満が爆発してその矛先が習近平に向かうかわからない。
その矛先を自分に向かわせないためには、誰でもいいから文革手法で大衆にとっての敵を作りあげ、世論を誘導して攻撃させなければならない、と考えているのではないだろうか。国内を混乱させ人民同士を分断させれば、すくなくとも世論が団結して自分に向かってくることはない。(後略)【4月29日 福島 香織氏 JBpress】
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【白昼夢と化した毛沢東の「中国の夢」 その再現を目指す習近平版「中国の夢」の結末は?】
しかしながら、文革を発動して絶対的権威を手にした毛沢東の中国がどうなったか?習近平主席はその轍を踏むことになるのか?
****中国共産党建党100年、「中国の夢」は実現するか?****
(中略)
建党50周年に上げた「偉大なる領袖毛主席万歳、万歳、万々歳」
建党50周年から100周年へ。この間の半世紀の中国の変化を振り返りながら毛沢東が掲げた「中国の夢」を考えると、それが潰えてしまった大きな要因に1972年のニクソン訪中をキッカケとする米中接近があったように思える。
ニクソン訪中によって、毛沢東政治を支えた「竹のカーテン」の綻びが内外に明らかとなってしまった。「自力更生」は技術的立ち遅れを助長し、「為人民服務」の行き着いた先は貧乏の超大国――さながら巨大な北朝鮮――でしかなかった。毛沢東が目指した「中国の夢」は、結果として白日夢に終わってしまったのではなかったか。
毛沢東に代って登場した鄧小平は、毛沢東政治に疲れ果てた国民に向かって、「社会主義市場経済」という新たな「中国の夢」を提示した。対外開放初期に唱えられた「先富論」を受けて、誰もが「ネズミを捕る好いネコ」を目指した。
鄧小平路線を受け継いだ江沢民が指し示した「中国の夢」は「走出去」、つまり海外に打って出ることだった。
次いで登場した胡錦濤は「和諧社会の実現」の建設に「中国の夢」を託した。好意的に考えるなら、「足るを知ること」を国民に秘かに求めたのではなかったか。
いま習近平政権が掲げる「中国の夢」は、毛沢東版「中国の夢」の新バージョンのように思えてしかたがない。毛沢東版の結末を振り返るなら、「中国の夢」を再考する時期に立ち至っているように思える。
建党50周年に上げた「偉大なる領袖毛主席万歳、万歳、万々歳」の行き着いた先を、建党100周年に際して改めて思い起こしてみるべきではなかろうか。【3月31日 樋泉克夫氏 WEDGE】
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